Coxeter系(Coxeter system)とは、群 $W$ と位数 $2$ の元からなる生成系 $S$ の組 $(W,S)$ であって、$W$ の関係式がすべて $(st)^{m(s,t)}=1$($m(s,t)$ は $st$ の位数)の形の関係式から導かれるもののことである。二面体群、無限二面体群、対称群(隣接互換を生成系とする)、ルート系の Weyl 群がその例であり、生成系の取り方によって同じ群が Coxeter 系になったりならなかったりする。幾何学的表現により任意の Coxeter 系は実ベクトル空間上の鏡映で生成される群として忠実に実現され、元 $w$ の長さは $w$ が負に写す正ルートの個数に等しい。Coxeter 系であることは、簡約表示についての交換条件・消去条件と同値であり、放物型部分群・剰余類の最小長代表元・Bruhat 順序の理論の基礎となる。
以下、$W$ は 群、$S$ は $W$ の 部分集合 であって、$S$ の各元の 位数 が $2$ であり、$S$ が $W$ を生成する(生成元)ものとする。$s,t\in S$ に対し、$st$ の位数を $m(s,t)\in\{1,2,3,\dots\}\cup\{\infty\}$ と書く。$m(s,s)=1$ であり、$ts=(st)^{-1}$ なので $m(s,t)=m(t,s)$ である。$s\neq t$ ならば $st\neq1$($st=1$ なら $s=t^{-1}=t$)なので $m(s,t)\ge2$ である。
上の $(W,S)$ に対し、$w\in W$ を $S$ の元の積として書くときの最短の長さ
$$\ell(w)=\ell_{S}(w):=\min\{h\ge0\mid w=s_{1}\cdots s_{h},\ s_{1},\dots,s_{h}\in S\}$$
を $w$ の長さといい、$\ell\colon W\to\mathbb{Z}_{\ge0}$ を $S$ に関する長さ関数(length function)という。$\ell(w)=h$ を満たす表示 $w=s_{1}\cdots s_{h}$ を $w$ の簡約表示(reduced expression)という。$\ell(1)=0$ であり、$S$ の元は逆元が自分自身なので $\ell(w^{-1})=\ell(w)$、$\ell(ww')\le\ell(w)+\ell(w')$、$s\in S$ に対し $\ell(ws)\le\ell(w)+1$ かつ $\ell(w)\le\ell(ws)+1$ が成り立つ。
$W$ を群、$S$ を位数 $2$ の元からなる $W$ の生成系とし、$m(s,t)$ を $st$ の位数とする。生成元の集合 $S$ と関係式
$$(st)^{m(s,t)}=1\qquad(s,t\in S,\ m(s,t)<\infty)$$
による群の表示(群の表示)で定まる群を $\widetilde{W}$ と書く。$W$ においてこれらの関係式が成り立つので、$\widetilde{W}$ から $W$ への 全射 な 群準同型 $\pi\colon\widetilde{W}\to W$($S$ の各元をそれ自身に写すもの)がただ一つ存在する(群の表示 の記事の命題(表示からの準同型))。$\pi$ が 同型 であるとき、すなわち $W$ の関係式がすべて $(st)^{m(s,t)}=1$ の形の関係式から導かれるとき、組 $(W,S)$ を Coxeter 系(Coxeter system)といい、$W$ を Coxeter 群(Coxeter group)、$S$ の元の個数を $(W,S)$ の階数(rank)、$S\times S$ 上の関数 $m$ を Coxeter 行列という。
$m(s,s)=1$ に対応する関係式は $s^{2}=1$ である。$m(s,t)=2$ は $stst=1$、すなわち $st=ts$ を意味するので、$m(s,t)=2$ は $s$ と $t$ が交換することと同値である。Coxeter 系の条件は「$S$ の元の位数が $2$ で、$S$ の二元の積の位数だけで $W$ が決まる」ことを述べており、生成系 $S$ の取り方に依存する。同じ群 $W$ に対し、$(W,S)$ が Coxeter 系で $(W,S')$ がそうでないことも、$(W,S)$、$(W,S')$ がともに Coxeter 系で Coxeter 行列が異なることもある(ex-coxeter-system-reducible、rem-coxeter-system-counterexample)。
Coxeter 系 $(W,S)$ が可約(reducible)であるとは、$S$ が空でない二つの部分集合 $S_{1},S_{2}$ の互いに交わらない合併 $S=S_{1}\sqcup S_{2}$ に分けられ、任意の $s_{1}\in S_{1}$、$s_{2}\in S_{2}$ に対し $m(s_{1},s_{2})=2$ が成り立つことをいう。可約でないとき既約(irreducible)という。
可約なとき、$S_{1}$ の元と $S_{2}$ の元は交換するので、$W$ は部分群 $\langle S_{1}\rangle$ と $\langle S_{2}\rangle$ の積であり、実際には 直積 $\langle S_{1}\rangle\times\langle S_{2}\rangle$ と同型になる(Bou02)。本記事ではこの直積分解は使わない。
正多角形や正多面体の対称変換群、ルート系 の Weyl 群、対称群 は、いずれも「鏡映」と呼ばれる位数 $2$ の元で生成され、二つの鏡映の積は 回転 である。二つの鏡映面のなす角が $\pi/m$ なら積の回転の位数は $m$ である。Coxeter 系は、鏡映の集合 $S$ とそれらのなす角 $\pi/m(s,t)$ というデータだけから群を代数的に定義したものである。幾何学的表現(thm-coxeter-system-geometric)は、この直感を逆にたどり、任意の Coxeter 系を実 ベクトル空間 上の「鏡映」で生成される群として 忠実 に実現する。ただし 双線型形式 は 正定値 とは限らず、$W$ は無限群であってもよい。ルート系の Weyl 群は双線型形式が正定値になる場合(有限 Coxeter 群)の典型例である。
Coxeter 系の理論の中心は、長さ関数の組合せ論である。元 $w$ の長さは、幾何学的表現において $w$ が「負に写す正ルート」の個数として読め(prop-coxeter-system-length-roots)、簡約表示は交換条件・消去条件(thm-coxeter-system-strong-exchange)によって制御される。これらの条件は Coxeter 系を特徴づけ、Bruhat 順序や放物型部分群の理論の基礎になる。
$n\ge2$ とし、二面体群 $W=\operatorname{Dih}_{n}=\langle r,s\mid r^{n}=s^{2}=1,\ srs=r^{-1}\rangle$(二面体群。位数 $2n$)を考える。$t:=sr$ とおくと $t^{2}=srsr=r^{-1}r=1$ なので $t$ は位数 $2$ の元であり、$r=st$ なので $S:=\{s,t\}$ は $W$ を生成する。$st=r$ の位数は $n$ だから $m(s,t)=n$ である。$(W,S)$ は Coxeter 系である。実際、$\widetilde{W}=\langle s,t\mid s^{2}=t^{2}=(st)^{n}=1\rangle$ において、任意の元は $s$ と $t$ が交互に並ぶ語(交代語)で表され、$(st)^{n}=1$ より長さ $2n$ の交代語は $1$ に等しいので、長さ $n$ を超える交代語は長さ $2n$ 未満の短い交代語に等しく、長さ $n$ の二つの交代語 $sts\cdots$ と $tst\cdots$ は互いに等しい。よって $\widetilde{W}$ の元は、長さ $0$ の語、長さ $1$ から $n-1$ の交代語(各長さにつき $2$ 個)、長さ $n$ の交代語($1$ 個)で尽くされ、$|\widetilde{W}|\le1+2(n-1)+1=2n$ である。$\pi\colon\widetilde{W}\to W$ は全射で $|W|=2n$(二面体群 の記事の命題(正規形と位数))なので $\pi$ は全単射であり、同型である。$n\ge3$ なら $(W,S)$ は既約であり、$n=2$ のときは $s$ と $t$ が交換して $W\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$(Kleinの四元群)は可約な Coxeter 系である。
$\widetilde{W}:=\langle s,t\mid s^{2}=t^{2}=1\rangle$ とおく。整数の集合 $\mathbb{Z}$ 上の写像 $\sigma(x):=-x$、$\tau(x):=1-x$ はともに位数 $2$ の全単射であり、$s\mapsto\sigma$、$t\mapsto\tau$ は $\widetilde{W}$ から $\mathbb{Z}$ の全単射のなす群への準同型を定める。$\sigma\tau(x)=x-1$ は位数無限なので、$st$ は $\widetilde{W}$ において位数無限であり $m(s,t)=\infty$ である。よって $\widetilde{W}$ の Coxeter 表示は $\langle s,t\mid s^{2},t^{2}\rangle$ 自身であり、$(\widetilde{W},\{s,t\})$ は Coxeter 系である。この群を無限二面体群 $D_{\infty}$ という。$\widetilde{W}$ の元は交代語で表され、$(st)^{k}$($k\in\mathbb{Z}$)と $(st)^{k}s$ の形の元で尽くされる。これらの像 $x\mapsto x-k$、$x\mapsto -x-k$ は相異なるので、上の準同型は単射であり、$D_{\infty}$ は $\mathbb{Z}$ の 等長変換 $x\mapsto\pm x+k$ 全体のなす群と同型である。
$n\ge2$ とし、$W=S_{n}$(対称群)、$S=\{s_{i}:=(i\ i+1)\mid1\le i\le n-1\}$(隣接 互換 の集合)とする。$s_{i}s_{i+1}=(i\ i+1)(i+1\ i+2)=(i\ i+1\ i+2)$ は位数 $3$、$|i-j|\ge2$ なら $s_{i}$ と $s_{j}$ は交換するので、$m(s_{i},s_{i+1})=3$、$m(s_{i},s_{j})=2$($|i-j|\ge2$)である。$(S_{n},S)$ は Coxeter 系である。これは、$S_{n}$ が $A_{n-1}$ 型ルート系の Weyl 群であり、$s_{i}$ が基 $\{e_{i}-e_{i+1}\}$ の単純鏡映に対応すること(ルート系 の記事の例($A_{n-1}$ 型))と、ルート系の Weyl 群と単純鏡映の組が Coxeter 系であること(thm-coxeter-system-weyl)から従う。したがって $S_{n}$ は生成元 $s_{1},\dots,s_{n-1}$ と関係式 $s_{i}^{2}=1$、$(s_{i}s_{i+1})^{3}=1$、$(s_{i}s_{j})^{2}=1$($|i-j|\ge2$)で表示される(Moore の表示、Hum90)。
$R$ をルート系、$\Delta$ をその基、$W(R)$ を Weyl 群、$S=\{s_{\alpha}\mid\alpha\in\Delta\}$ を単純鏡映の集合とする。$W(R)$ は $S$ で生成され(ルート系 の記事の命題(Weyl群は単純鏡映で生成される))、thm-coxeter-system-weyl により $(W(R),S)$ は Coxeter 系である。$m(s_{\alpha},s_{\beta})$ は $\alpha,\beta$ のなす角が $\pi/2$、$2\pi/3$、$3\pi/4$、$5\pi/6$ のときそれぞれ $2$、$3$、$4$、$6$ である。たとえば $B_{n}$ 型の Weyl 群(符号付き置換群)は $m(s_{i},s_{i+1})=3$($1\le i\le n-2$)、$m(s_{n-1},s_{n})=4$、その他は $2$ の Coxeter 系である。
$W=\operatorname{Dih}_{6}=\langle r,s\mid r^{6}=s^{2}=1,\ srs=r^{-1}\rangle$(位数 $12$)を考える。ex-coxeter-system-dihedral により $S_{1}=\{s,sr\}$ に対し $(W,S_{1})$ は $m(s,sr)=6$ の既約な Coxeter 系である。一方 $S_{2}:=\{s,\ sr^{2},\ r^{3}\}$ とおく。$s$、$sr^{2}$ は位数 $2$ であり($(sr^{2})^{2}=sr^{2}sr^{2}=r^{-2}r^{2}=1$)、$r^{3}$ は位数 $2$ で $W$ の中心(群の中心)に属する($sr^{3}s=r^{-3}=r^{3}$)。$s\cdot sr^{2}=r^{2}$ は位数 $3$、$s\cdot r^{3}$ と $sr^{2}\cdot r^{3}=sr^{5}$ は位数 $2$ なので、$m(s,sr^{2})=3$、$m(s,r^{3})=m(sr^{2},r^{3})=2$ である。$S_{2}$ は $W$ を生成する($r^{2}=s\cdot sr^{2}$ と $r^{3}$ から $r=r^{3}r^{-2}$ が得られる)。$\widetilde{W}=\langle a,b,c\mid a^{2},b^{2},c^{2},(ab)^{3},(ac)^{2},(bc)^{2}\rangle$ において $c$ は中心に属し、$\langle a,b\rangle$ は ex-coxeter-system-dihedral と同じ議論で位数 $6$ 以下、よって $|\widetilde{W}|\le12=|W|$ であり、$\pi$ は同型である。したがって $(W,S_{2})$ は Coxeter 系であり、$S_{2}=\{s,sr^{2}\}\sqcup\{r^{3}\}$ により可約である。同じ群 $W$ が既約な Coxeter 系 $(W,S_{1})$ と可約な Coxeter 系 $(W,S_{2})$ の両方の構造を持ち、既約性が生成系の取り方に依存することがわかる。これは $\operatorname{Dih}_{6}\cong\operatorname{Dih}_{3}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ という分解に対応する。
$S$ を集合、$m\colon S\times S\to\{1,2,\dots\}\cup\{\infty\}$ を $m(s,s)=1$、$s\neq t$ なら $m(s,t)=m(t,s)\ge2$ を満たす関数とする(Coxeter 行列)。$S$ で添字づけられた基底 $(e_{s})_{s\in S}$ を持つ実ベクトル空間を $V_{S}$ とし、$V_{S}$ 上の対称双線型形式 $B$ を
$$B(e_{s},e_{t}):=-\cos\frac{\pi}{m(s,t)}\qquad\Bigl(m(s,t)=\infty\text{ のときは }B(e_{s},e_{t}):=-1\Bigr)$$
で定める。$B(e_{s},e_{s})=-\cos\pi=1$ であり、$s\neq t$ なら $B(e_{s},e_{t})\le0$ である。各 $s\in S$ に対し線形写像 $\sigma_{s}\colon V_{S}\to V_{S}$ を
$$\sigma_{s}(v):=v-2B(v,e_{s})\,e_{s}$$
で定める。
以下、$(W,S)$ を Coxeter 系とし、$\widetilde{W}=W$ と同一視する。準同型 $\sigma\colon W\to GL(V_{S})$ を $(W,S)$ の幾何学的表現(geometric representation)といい、$w\in W$、$v\in V_{S}$ に対し $\sigma(w)(v)$ を $w(v)$ と書く。$W$ は $B$ を保つ。
$(W,S)$ を Coxeter 系とする。$V_{S}$ の部分集合
$$R:=\{w(e_{s})\mid w\in W,\ s\in S\}$$
を $(W,S)$ のルート系、$R$ の元をルートという。$\beta=\sum_{s\in S}a_{s}e_{s}\in V_{S}$ に対し、$\beta\neq0$ ですべての $a_{s}$ が $0$ 以上のとき $\beta>0$、$\beta\neq0$ ですべての $a_{s}$ が $0$ 以下のとき $\beta<0$ と書く。$R^{+}:=\{\beta\in R\mid\beta>0\}$、$R^{-}:=\{\beta\in R\mid\beta<0\}$ とおき、それぞれ正ルート、負ルートの集合という。
$W$ は $B$ を保つので、任意のルート $\beta=w(e_{s})$ に対し $B(\beta,\beta)=B(e_{s},e_{s})=1$ である。また $-\beta=ws(e_{s})\in R$ なので $R=-R$ である。$W$ が有限で $B$ が正定値のとき(ルート系の Weyl 群の場合)、$R$ は ルート系 の記事の意味のルート系の「単位ベクトルへの正規化」にあたり、$R=W\Delta$($\Delta$ は基)という性質をここでは定義として採用している。$R$ は一般には無限集合である(ex-coxeter-system-infinite-dihedral では $(st)^{k}(e_{s})=(2k+1)e_{s}+2ke_{t}$ がすべてルートである)。
$(W,S)$ を Coxeter 系、$\ell$ を $S$ に関する長さ関数とする。任意の $w\in W$、$s\in S$ に対し
$$\ell(ws)>\ell(w)\iff w(e_{s})>0,\qquad\ell(ws)<\ell(w)\iff w(e_{s})<0$$
が成り立つ。とくに任意のルートは正ルートか負ルートであり、$R=R^{+}\sqcup R^{-}$ である。
まず $\ell(ws)\neq\ell(w)$ を示す。$\varepsilon\colon W\to\{\pm1\}$ を $\varepsilon(s)=-1$($s\in S$)で定める。$\{\pm1\}$ において $(-1)^{2}=1$ なので関係式 $(st)^{m(s,t)}=1$ はすべて満たされ、$\varepsilon$ は準同型として矛盾なく定まる。$w=s_{1}\cdots s_{h}$ ならば $\varepsilon(w)=(-1)^{h}$ なので、$w$ のどの表示についても長さの偶奇は $\varepsilon(w)$ で決まり、$\varepsilon(ws)=-\varepsilon(w)$ より $\ell(ws)\neq\ell(w)$ である。$\ell(ws)\le\ell(w)+1$、$\ell(w)\le\ell(ws)+1$ と合わせて $\ell(ws)=\ell(w)\pm1$ である。
「$\ell(ws)>\ell(w)$ ならば $w(e_{s})>0$」を $\ell(w)$ についての帰納法で示す。これが示されれば、$\ell(ws)<\ell(w)$ のとき $\ell((ws)s)=\ell(w)>\ell(ws)$ なので $ws(e_{s})>0$、すなわち $w(e_{s})=-ws(e_{s})<0$ となり、$\ell(ws)=\ell(w)\pm1$ と「$>0$ と $<0$ は同時に成り立たない」ことから四つの同値がすべて従う。また任意のルート $w(e_{s})$ について、$\ell(ws)>\ell(w)$ か $\ell(ws)<\ell(w)$ のいずれかが成り立つので、$R=R^{+}\sqcup R^{-}$ である。
$\ell(w)=0$ なら $w=1$、$w(e_{s})=e_{s}>0$ である。$\ell(w)\ge1$ とし、$\ell(ws)>\ell(w)$ を仮定する。$w$ の簡約表示の最後の文字を $t$ とすると $\ell(wt)=\ell(w)-1<\ell(w)$ であり、仮定より $t\neq s$ である。$I:=\{s,t\}$、$W_{I}:=\langle s,t\rangle\subset W$ とし、$W_{I}$ の $I$ に関する長さ関数を $\ell_{I}$ とする。$W_{I}$ の元は $S$ の元の積でもあるので $\ell(x)\le\ell_{I}(x)$($x\in W_{I}$)である。
$$A:=\{v\in W\mid v^{-1}w\in W_{I},\ \ell(v)+\ell_{I}(v^{-1}w)=\ell(w)\}$$
とおく。$w\in A$ なので $A\neq\emptyset$ であり、$A$ の中で長さ最小の元 $v$ を取り、$v_{I}:=v^{-1}w\in W_{I}$ とおく。$wt\in A$ である($(wt)^{-1}w=t\in W_{I}$、$\ell(wt)+\ell_{I}(t)=(\ell(w)-1)+1$)。よって $\ell(v)\le\ell(wt)<\ell(w)$ である。
$\ell(vs)>\ell(v)$ かつ $\ell(vt)>\ell(v)$ を示す。$\ell(vs)<\ell(v)$ と仮定すると、$(vs)^{-1}w=sv_{I}\in W_{I}$ であり、
$$\ell(w)\le\ell(vs)+\ell(sv_{I})\le\ell(vs)+\ell_{I}(sv_{I})\le(\ell(v)-1)+(\ell_{I}(v_{I})+1)=\ell(w)$$
なので等号が成り立ち $vs\in A$ となるが、$\ell(vs)<\ell(v)$ は $v$ の最小性に反する。$t$ についても同様である。$\ell(v)<\ell(w)$ なので帰納法の仮定により $v(e_{s})>0$ かつ $v(e_{t})>0$ である。
次に $\ell_{I}(v_{I}s)>\ell_{I}(v_{I})$ を示す。$\varepsilon$ の議論を $W_{I}$ と $I$ に対して行うと $\ell_{I}(v_{I}s)=\ell_{I}(v_{I})\pm1$ である。$\ell_{I}(v_{I}s)<\ell_{I}(v_{I})$ と仮定すると
$$\ell(ws)=\ell(vv_{I}s)\le\ell(v)+\ell(v_{I}s)\le\ell(v)+\ell_{I}(v_{I}s)\le\ell(v)+\ell_{I}(v_{I})-1=\ell(w)-1$$
となり、$\ell(ws)>\ell(w)$ に反する。
$W_{I}$ の元は、$s^{2}=t^{2}=1$ により、$s$ と $t$ が交互に並ぶ語(交代語)で表される。$v_{I}$ の $I$ に関する簡約表示は長さ $\ell_{I}(v_{I})$ の交代語であり、それが $s$ で終わるなら $v_{I}s$ はより短い表示を持ち $\ell_{I}(v_{I}s)<\ell_{I}(v_{I})$ となるので、$v_{I}$ の簡約表示は $t$ で終わる($v_{I}=1$ の場合を含めて、$v_{I}=(st)^{k}$ または $v_{I}=t(st)^{k}$、$k\ge0$)。さらに $m:=m(s,t)<\infty$ のとき $\ell_{I}(v_{I})< m$ である。実際、$(st)^{m}=1$ より長さ $m$ の二つの交代語 $sts\cdots$ と $tst\cdots$ は $W_{I}$ において等しいので、長さ $m$ の交代語は $s$ で終わる表示も持ち、長さ $m$ を超える交代語は簡約でない。よって $\ell_{I}(v_{I})\le m$ であり、$\ell_{I}(v_{I})=m$ なら $v_{I}$ は $s$ で終わる簡約表示を持って $\ell_{I}(v_{I}s)<\ell_{I}(v_{I})$ となり矛盾する。
$v_{I}(e_{s})$ を計算する。$\theta:=\pi/m$($m<\infty$)とおくと、thm-coxeter-system-geometric の証明の記号で $t(e_{s})=e_{s}+2\cos\theta\,e_{t}$、$t(e_{t})=-e_{t}$、$s(e_{s})=-e_{s}$、$s(e_{t})=e_{t}+2\cos\theta\,e_{s}$ である。$k$ についての帰納法で
$$(st)^{k}(e_{s})=\frac{\sin(2k+1)\theta}{\sin\theta}e_{s}+\frac{\sin2k\theta}{\sin\theta}e_{t},\qquad t(st)^{k}(e_{s})=\frac{\sin(2k+1)\theta}{\sin\theta}e_{s}+\frac{\sin(2k+2)\theta}{\sin\theta}e_{t}$$
が成り立つ。$k=0$ の第 1 式は明らかであり、第 1 式から第 2 式は $t$ を作用させて $2\cos\theta\sin(2k+1)\theta-\sin2k\theta=\sin(2k+2)\theta$(積和公式)により、第 2 式から $k+1$ の第 1 式は $s$ を作用させて $-\sin(2k+1)\theta+2\cos\theta\sin(2k+2)\theta=\sin(2k+3)\theta$ により従う。$v_{I}=(st)^{k}$ なら $\ell_{I}(v_{I})=2k< m$ より $0<(2k+1)\theta\le\pi$、$0\le2k\theta<\pi$ であり、$v_{I}=t(st)^{k}$ なら $2k+1< m$ より $0<(2k+1)\theta<\pi$、$0<(2k+2)\theta\le\pi$ である。いずれの場合も $v_{I}(e_{s})=ae_{s}+be_{t}$ と書くと $a,b\ge0$ かつ $(a,b)\neq(0,0)$ である。$m=\infty$ のときは thm-coxeter-system-geometric の証明の計算により $(st)^{k}(e_{s})=(2k+1)e_{s}+2ke_{t}$、$t(st)^{k}(e_{s})=(2k+1)e_{s}+(2k+2)e_{t}$ であり、やはり $a,b\ge0$、$(a,b)\neq(0,0)$ である。
以上より $w(e_{s})=v(v_{I}(e_{s}))=a\,v(e_{s})+b\,v(e_{t})$ であり、$v(e_{s})>0$、$v(e_{t})>0$、$a,b\ge0$、$(a,b)\neq(0,0)$ なので、$w(e_{s})$ の $e_{u}$($u\in S$)に関する係数はすべて $0$ 以上である。$w(e_{s})\neq0$($w$ は可逆)なので $w(e_{s})>0$ である。$\square$
幾何学的表現 $\sigma\colon W\to GL(V_{S})$ は 単射 である。
$\sigma(w)=\mathrm{id}$ かつ $w\neq1$ と仮定する。$w$ の簡約表示の最後の文字を $s$ とすると $\ell(ws)<\ell(w)$ なので thm-coxeter-system-length-sign により $w(e_{s})<0$ であるが、$\sigma(w)=\mathrm{id}$ より $w(e_{s})=e_{s}>0$ となり矛盾する。$\square$
任意の $s\in S$ に対し $s(R^{+}\setminus\{e_{s}\})=R^{+}\setminus\{e_{s}\}$ であり、$s(R^{+})=(R^{+}\setminus\{e_{s}\})\sqcup\{-e_{s}\}$ である。
$\beta=\sum_{u\in S}c_{u}e_{u}\in R^{+}$、$\beta\neq e_{s}$ とする。$\beta=ce_{s}$($c>0$)ならば $B(\beta,\beta)=c^{2}=1$ より $\beta=e_{s}$ となるので、$s$ と異なる $t\in S$ で $c_{t}>0$ となるものがある。$s(\beta)=\beta-2B(\beta,e_{s})e_{s}$ は $\beta$ と $e_{s}$ の係数だけが異なるので、$s(\beta)$ の $e_{t}$ の係数は $c_{t}>0$ である。$s(\beta)\in R$ は正ルートか負ルートなので(thm-coxeter-system-length-sign)、正ルートである。$s(\beta)=e_{s}$ なら $\beta=s(e_{s})=-e_{s}<0$ となるので $s(\beta)\neq e_{s}$ である。$s^{2}=\mathrm{id}$ なので $s$ は $R^{+}\setminus\{e_{s}\}$ の全単射であり、$s(e_{s})=-e_{s}$ と合わせて後半が従う。$\square$
$w\in W$ に対し $R(w):=R^{+}\cap w^{-1}(R^{-})=\{\beta\in R^{+}\mid w(\beta)<0\}$ とおく。このとき $R(w)$ は有限集合で $\ell(w)=|R(w)|$ である。また $s\in S$ に対し、$w(e_{s})>0$ なら $R(ws)=s(R(w))\sqcup\{e_{s}\}$、$w(e_{s})<0$ なら $R(ws)=s(R(w)\setminus\{e_{s}\})$ である。
後半を示す。$\beta\in R^{+}$、$\beta\neq e_{s}$ に対し、lem-coxeter-system-simple-reflection により $s(\beta)\in R^{+}\setminus\{e_{s}\}$ なので、$\beta\in R(ws)$ は $ws(\beta)<0$、すなわち $s(\beta)\in R(w)$、すなわち $\beta\in s(R(w))$ と同値である。$e_{s}\in R(ws)$ は $ws(e_{s})=-w(e_{s})<0$、すなわち $w(e_{s})>0$ と同値であり、このとき $e_{s}\notin R(w)$ なので $s(R(w))\subset R^{+}\setminus\{e_{s}\}$ である。$w(e_{s})<0$ のときは $e_{s}\in R(w)$、$e_{s}\notin R(ws)$ である。よって後半の二式が従う。
前半を $\ell(w)$ についての帰納法で示す。$w=1$ なら $R(w)=\emptyset$ である。$\ell(w)\ge1$ とし、$w=w's$($s\in S$、$\ell(w')=\ell(w)-1$)と書く。thm-coxeter-system-length-sign により $w'(e_{s})>0$ なので、後半により $R(w)=s(R(w'))\sqcup\{e_{s}\}$ であり、帰納法の仮定により $R(w')$ は有限で $|R(w')|=\ell(w')$ だから $|R(w)|=\ell(w')+1=\ell(w)$ である。$\square$
ルート $\beta\in R$ に対し、線形写像 $s_{\beta}\colon V_{S}\to V_{S}$ を $s_{\beta}(v):=v-2B(v,\beta)\beta$ で定める。$s_{e_{s}}=\sigma_{s}$ である。また $T:=\bigcup_{w\in W}wSw^{-1}=\{wsw^{-1}\mid w\in W,\ s\in S\}$ を $(W,S)$ の鏡映の集合という。
任意の $w\in W$、$\beta\in R$ に対し $w\,s_{\beta}\,w^{-1}=s_{w(\beta)}$ である(左辺は $\sigma(w)s_{\beta}\sigma(w)^{-1}$ の意味)。とくに $\beta=w(e_{s})$ に対し $s_{\beta}=wsw^{-1}$ であり、$s_{-\beta}=s_{\beta}$ である。したがって $T=\{s_{\beta}\mid\beta\in R\}=\{s_{\beta}\mid\beta\in R^{+}\}$ であり(幾何学的表現が忠実なので $W$ の元と $GL(V_{S})$ の元を同一視する)、任意の $t\in T$ は $t=s_{\beta}$($\beta\in R^{+}$)と書ける。
$w$ は $B$ を保つので、$v\in V_{S}$ に対し
$$ws_{\beta}w^{-1}(v)=w\bigl(w^{-1}(v)-2B(w^{-1}(v),\beta)\beta\bigr)=v-2B(v,w(\beta))\,w(\beta)=s_{w(\beta)}(v)$$
である。$s_{-\beta}(v)=v-2B(v,-\beta)(-\beta)=s_{\beta}(v)$ である。$\beta=w(e_{s})$ に対し $s_{\beta}=ws_{e_{s}}w^{-1}=wsw^{-1}\in T$ であり、逆に $wsw^{-1}=s_{w(e_{s})}$ なので $T=\{s_{\beta}\mid\beta\in R\}$ である。$R=R^{+}\sqcup R^{-}$ かつ $s_{-\beta}=s_{\beta}$ から最後の主張が従う。$\square$
任意の $w\in W$ と $\alpha\in R^{+}$ に対し、$\ell(ws_{\alpha})>\ell(w)$ となるのは $w(\alpha)>0$ のときであり、$\ell(ws_{\alpha})<\ell(w)$ となるのは $w(\alpha)<0$ のときである。
$\varepsilon(s_{\alpha})=\varepsilon(usu^{-1})=-1$($s_{\alpha}=usu^{-1}$ と書ける)なので $\ell(ws_{\alpha})\neq\ell(w)$ である。「$\ell(ws_{\alpha})>\ell(w)$ ならば $w(\alpha)>0$」を $\ell(w)$ についての帰納法で示せば、$w$ を $ws_{\alpha}$ で置き換えて逆の主張も得られる($ws_{\alpha}(\alpha)=-w(\alpha)$)。
$w=1$ なら $w(\alpha)=\alpha>0$ である。$\ell(w)\ge1$ とし、$w$ の簡約表示の最初の文字を $s$ とすると $\ell(sw)=\ell(w)-1$ である。$\ell(sws_{\alpha})\ge\ell(ws_{\alpha})-1>\ell(w)-1=\ell(sw)$ なので、帰納法の仮定により $sw(\alpha)>0$ である。$w(\alpha)<0$ と仮定すると、$s$ は $R^{-}\setminus\{-e_{s}\}$ を $R^{-}\setminus\{-e_{s}\}$ に写す(lem-coxeter-system-simple-reflection に $-1$ を掛ける)ので、$sw(\alpha)>0$ より $w(\alpha)=-e_{s}$ である。すると lem-coxeter-system-reflection-conjugate により $ws_{\alpha}w^{-1}=s_{w(\alpha)}=s_{-e_{s}}=s$、すなわち $ws_{\alpha}=sw$ であり、$\ell(ws_{\alpha})=\ell(sw)<\ell(w)$ となって仮定に反する。よって $w(\alpha)>0$ である。$\square$
$(W,S)$ を Coxeter 系、$w=s_{1}\cdots s_{h}$($s_{i}\in S$)を $w\in W$ の任意の表示(簡約でなくてよい)とし、$t\in T$ が $\ell(wt)<\ell(w)$ を満たすとする。このとき
$$wt=s_{1}\cdots\hat{s_{i}}\cdots s_{h}$$
($\hat{s_{i}}$ は $s_{i}$ を除くことを表す)を満たす $i$($1\le i\le h$)が存在する。さらに $w=s_{1}\cdots s_{h}$ が簡約表示ならば、このような $i$ はただ一つである。
lem-coxeter-system-reflection-conjugate により $t=s_{\alpha}$($\alpha\in R^{+}$)と書け、lem-coxeter-system-reflection-length により $w(\alpha)<0$ である。$j=h,h-1,\dots,0$ に対し $\beta_{j}:=s_{j+1}\cdots s_{h}(\alpha)$ とおく($\beta_{h}=\alpha>0$、$\beta_{0}=w(\alpha)<0$)。各 $\beta_{j}$ はルートなので正か負であり、$\beta_{i}>0$ かつ $\beta_{i-1}=s_{i}(\beta_{i})<0$ となる $i$($1\le i\le h$)が存在する。lem-coxeter-system-simple-reflection により $s_{i}$ は $R^{+}\setminus\{e_{s_{i}}\}$ を保つので $\beta_{i}=e_{s_{i}}$ である。$u:=s_{i+1}\cdots s_{h}$ とおくと $u(\alpha)=e_{s_{i}}$ なので、lem-coxeter-system-reflection-conjugate により $us_{\alpha}u^{-1}=s_{e_{s_{i}}}=s_{i}$、すなわち $s_{\alpha}=u^{-1}s_{i}u$ である。よって
$$wt=ws_{\alpha}=(s_{1}\cdots s_{h})(s_{h}\cdots s_{i+1})\,s_{i}\,(s_{i+1}\cdots s_{h})=s_{1}\cdots s_{i}\,s_{i}\,s_{i+1}\cdots s_{h}=s_{1}\cdots\hat{s_{i}}\cdots s_{h}$$
である。
一意性:$w=s_{1}\cdots s_{h}$ が簡約表示で、$i< j$ がともに条件を満たすとすると $s_{1}\cdots\hat{s_{i}}\cdots s_{h}=s_{1}\cdots\hat{s_{j}}\cdots s_{h}$ であり、左から $(s_{1}\cdots s_{i-1})^{-1}$、右から $(s_{j+1}\cdots s_{h})^{-1}$ を掛けて $s_{i+1}\cdots s_{j}=s_{i}\cdots s_{j-1}$ を得る。すると
$$w=s_{1}\cdots s_{i-1}(s_{i}\cdots s_{j-1})s_{j}\cdots s_{h}=s_{1}\cdots s_{i-1}(s_{i+1}\cdots s_{j})s_{j}\cdots s_{h}=s_{1}\cdots\hat{s_{i}}\cdots\hat{s_{j}}\cdots s_{h}$$
となり、$w$ が長さ $h-2$ の表示を持つので $\ell(w)=h$ に反する。$\square$
ここでは、群 $W$ と位数 $2$ の元からなる生成系 $S$ の組 $(W,S)$(Coxeter 系とは限らない)に対し、Coxeter 系であるための必要十分条件を述べる。
組 $(W,S)$ が交換条件(exchange condition)を満たすとは、任意の $w\in W$ の任意の簡約表示 $w=s_{1}\cdots s_{h}$ と任意の $s\in S$ に対し、$\ell(ws)<\ell(w)$ ならば $ws=s_{1}\cdots\hat{s_{i}}\cdots s_{h}$ を満たす $i$ が存在することをいう。
組 $(W,S)$ が消去条件(deletion condition)を満たすとは、任意の $w\in W$ の任意の表示 $w=s_{1}\cdots s_{h}$ に対し、それが簡約表示でない($h>\ell(w)$)ならば $w=s_{1}\cdots\hat{s_{i}}\cdots\hat{s_{j}}\cdots s_{h}$ を満たす $i< j$ が存在することをいう。
$(W,S)$ が Coxeter 系ならば交換条件を満たす。
$S\subset T$ なので、thm-coxeter-system-strong-exchange の $t=s\in S$ の場合である。$\square$
組 $(W,S)$ について、交換条件と消去条件は同値である。
交換条件を仮定し、$w=s_{1}\cdots s_{h}$ を簡約でない表示とする。$\ell(s_{1}\cdots s_{k})\le k$ であり、$k$ を $1$ ずつ増やすと長さは高々 $1$ ずつしか変わらないので、$\ell(s_{1}\cdots s_{j})<\ell(s_{1}\cdots s_{j-1})$ となる最小の $j$ が存在し、$j$ の最小性から $s_{1}\cdots s_{j-1}$ は簡約表示(長さ $j-1$)である。$w':=s_{1}\cdots s_{j-1}$ に交換条件を適用すると $w's_{j}=s_{1}\cdots\hat{s_{i}}\cdots s_{j-1}$ を満たす $i< j$ があり、$w=w's_{j}s_{j+1}\cdots s_{h}=s_{1}\cdots\hat{s_{i}}\cdots\hat{s_{j}}\cdots s_{h}$ である。
消去条件を仮定し、$w=s_{1}\cdots s_{h}$ を簡約表示、$s\in S$、$\ell(ws)<\ell(w)$ とする。$ws=s_{1}\cdots s_{h}s$ は長さ $h+1$ の表示で $\ell(ws)=h-1$ なので簡約でなく、消去条件により二つの文字を消して $ws$ に等しい語が得られる。消される文字の一方が最後の $s$ ならば $ws=s_{1}\cdots\hat{s_{i}}\cdots s_{h}$ であり、交換条件の結論を得る。そうでなければ $ws=s_{1}\cdots\hat{s_{i}}\cdots\hat{s_{j}}\cdots s_{h}s$、よって $w=s_{1}\cdots\hat{s_{i}}\cdots\hat{s_{j}}\cdots s_{h}$ となり、$w=s_{1}\cdots s_{h}$ が簡約表示であることに反する。$\square$
組 $(W,S)$ が消去条件(同値に、交換条件)を満たすならば、$(W,S)$ は Coxeter 系である。
群 $W$ と位数 $2$ の元からなる生成系 $S$ の組 $(W,S)$ について、次は同値である。
1 から 2 は cor-coxeter-system-exchange、2 と 3 の同値は lem-coxeter-system-exchange-deletion、3 から 1 は thm-coxeter-system-deletion-implies-coxeter である。$\square$
$R$ を ルート系 の記事の意味のルート系、$\Delta$ をその基、$W(R)$ を Weyl 群、$S:=\{s_{\alpha}\mid\alpha\in\Delta\}$ とする。このとき $(W(R),S)$ は Coxeter 系である。
$S$ の元は位数 $2$ であり(ルート系 の記事の補題(鏡映の基本性質))、$W(R)$ を生成する(同記事の命題(Weyl群は単純鏡映で生成される))。$S$ に関する長さ関数は同記事の $\Delta$ に関する長さ関数と同じものである。同記事の系(指定した単純鏡映で終わる簡約表示)は、任意の簡約表示 $w=s_{1}\cdots s_{h}$ と $\alpha\in\Delta$ に対し、$w(\alpha)<0$ ならば $ws_{\alpha}=s_{1}\cdots\hat{s_{i}}\cdots s_{h}$ となる $i$ が存在することを述べており、$w(\alpha)<0$ は同記事の系(長さの増減の判定)により $\ell(ws_{\alpha})<\ell(w)$ と同値である。よって $(W(R),S)$ は交換条件を満たし、cor-coxeter-system-characterization により Coxeter 系である。$\square$
Coxeter 系 $(W,S)$ と部分集合 $I\subset S$ に対し、$I$ が生成する $W$ の部分群を $W_{I}:=\langle I\rangle$ と書き、$(W,S)$ の(標準)放物型部分群(parabolic subgroup)という。$W_{\emptyset}=\{1\}$、$W_{S}=W$ である。$W_{I}$ の $I$ に関する長さ関数を $\ell_{I}$ と書く。
$(W,S)$ を Coxeter 系、$I,J\subset S$ とする。
$(W,S)$ を Coxeter 系、$I,J\subset S$ とする。各両側剰余類 $W_{I}wW_{J}$ には長さ最小の元 $w_{0}$ がただ一つ存在し、$W_{I}wW_{J}$ の任意の元は $\ell(xw_{0}y)=\ell(x)+\ell(w_{0})+\ell(y)$ を満たす $x\in W_{I}$、$y\in W_{J}$ を用いて $xw_{0}y$ と書ける。とくに($I=\emptyset$ として)各左剰余類 $wW_{J}$ には長さ最小の元 $w_{0}$ がただ一つ存在し、任意の $y\in W_{J}$ に対し $\ell(w_{0}y)=\ell(w_{0})+\ell(y)$ が成り立つ。右剰余類 $W_{I}w$ についても同様である。
長さは $0$ 以上の整数なので $W_{I}wW_{J}$ の中に長さ最小の元 $w_{0}$ が存在する。$W_{I}wW_{J}$ の任意の元 $z$ を $z=xw_{0}y$($x\in W_{I}$、$y\in W_{J}$)と書き、$x$、$w_{0}$、$y$ の簡約表示(prop-coxeter-system-parabolic により $x$ のそれは $I$ の元、$y$ のそれは $J$ の元からなる)を並べた語を $\mathbf{u}$ とする。$\mathbf{u}$ の長さは $\ell(x)+\ell(w_{0})+\ell(y)$ である。$\mathbf{u}$ が簡約でなければ、消去条件(cor-coxeter-system-characterization)により $\mathbf{u}$ から二文字を消して $z$ に等しい語が得られる。消される文字が $w_{0}$ の部分に含まれると、$z=x'w'y'$($x'\in W_{I}$、$y'\in W_{J}$、$\ell(w')<\ell(w_{0})$)となり、$w'=x'^{-1}zy'^{-1}\in W_{I}wW_{J}$ が $w_{0}$ の最小性に反する。消される二文字がともに $x$ の部分に含まれると、$x$ がより短い表示を持つことになり $x$ の簡約性に反する。$y$ についても同様である。よって消される文字は $x$ の部分と $y$ の部分から一つずつであり、$z=x_{1}w_{0}y_{1}$、$x_{1}\in W_{I}$、$y_{1}\in W_{J}$、$\ell(x_{1})\le\ell(x)-1$、$\ell(y_{1})\le\ell(y)-1$ と書ける。この操作を繰り返すと有限回で簡約な語に達し、$z=x'w_{0}y'$、$\ell(z)=\ell(x')+\ell(w_{0})+\ell(y')$ を得る。
一意性:$w_{1}$ も長さ最小なら $w_{1}=x'w_{0}y'$、$\ell(w_{1})=\ell(x')+\ell(w_{0})+\ell(y')$ と書け、$\ell(w_{1})=\ell(w_{0})$ より $x'=y'=1$、$w_{1}=w_{0}$ である。左剰余類・右剰余類の主張は $I=\emptyset$、$J=\emptyset$ の場合である。$\square$
$(W,S)$ を Coxeter 系、$T$ をその鏡映の集合とする。$w_{1},w_{2}\in W$ に対し、$w_{2}=w_{1}t$ を満たす $t\in T$ が存在して $\ell(w_{1})<\ell(w_{2})$ であるとき $w_{1}\to w_{2}$ と書く。$v,w\in W$ に対し、$v=w_{0}\to w_{1}\to\cdots\to w_{n}=w$($n\ge0$)となる列が存在するとき $v\le w$ と書く。この関係 $\le$ を $(W,S)$ の Bruhat 順序(Bruhat order)という。
Bruhat 順序は $W$ 上の 半順序 であり、$1$ を最小元とする。$v\le w$ かつ $v\neq w$ ならば $\ell(v)<\ell(w)$ である。
$n=0$ の列により $v\le v$ である。列を連結すれば推移律が従う。$v\le w$ なら列に沿って長さが狭義に増加するので、$v\neq w$ ならば $\ell(v)<\ell(w)$ であり、とくに $v\le w$ かつ $w\le v$ なら $v=w$ である。$w\neq1$ に対し、簡約表示 $w=s_{1}\cdots s_{h}$ を取ると $1\to s_{1}\to s_{1}s_{2}\to\cdots\to w$ である($s_{1}\cdots s_{k}$ は簡約表示なので長さは $k$ であり、$s_{k+1}\in S\subset T$)。よって $1\le w$ である。$\square$
$w=s_{1}\cdots s_{h}$ を $w\in W$ の簡約表示とする。$v\in W$ に対し、$v\le w$ であることと、$v$ がこの表示の部分語 $v=s_{i_{1}}s_{i_{2}}\cdots s_{i_{k}}$($1\le i_{1}< i_{2}<\cdots< i_{k}\le h$)として書けることは同値である。
これは Bruhat 順序の部分語性質(subword property)であり、証明は Hum90 §5.10 および BB05 第2章に譲る。証明には thm-coxeter-system-strong-exchange を用いる。この特徴づけにより、Bruhat 順序は簡約表示の取り方によらずに部分語の関係として計算できる。$W$ が有限のとき、Bruhat 順序は最大元(最長元 $w_{0}$)を持つ。$W=S_{n}$ のとき Bruhat 順序は置換の組合せ論における Bruhat 順序(BB05)に一致する。
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