非有界作用素

同義語:unbounded operator無界作用素非有界線形作用素

概要

非有界作用素(unbounded operator)とは、Banach 空間の部分空間 $D(T)$ を定義域とする線形写像 $T\colon D(T)\to Y$ で、$\|Tx\|\le C\|x\|$ を満たす定数 $C$ がないもの、より広く有界とは限らないもののことである。微分作用素や量子力学の位置・運動量が典型で、定義域が作用素の一部になり、境界条件を変えると随伴もスペクトルも変わる。Hilbert 空間では随伴のグラフは元のグラフを回した直交補空間であり、閉包をもつことと随伴の定義域が稠密であることは同値で、そのとき $T^{**}=\overline T$ となる。稠密に定義された閉作用素 $T$ について $T^*T$ は非負の自己共役作用素である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Banach空間, Hilbert空間, 閉グラフ定理, 随伴作用素

微分 $u\mapsto u'$ は、関数の大きさ $\|u\|$ が小さくても $\|u'\|$ がいくらでも大きくなりうるので、$L^2$ ノルムや上限ノルムのように関数の値の大きさを測るノルムを定義域と値の両方に入れると、有界な作用素にはならない。量子力学の位置や運動量、Laplace 作用素など、解析に現れる重要な作用素の多くがこの種類である。このような作用素は空間全体では定義できず、部分空間 $D(T)$ の上でだけ定義される。定義域 $D(T)$ をもつ線形写像のうち、有界とは限らないものを 非有界作用素(unbounded operator)という。
有界作用素では定義域を気にする必要がなかったが、非有界作用素では定義域が作用素の一部になる。同じ式 $u\mapsto u'$ でも、境界条件で定義域を変えると随伴もスペクトルも変わる。この記事では、非有界作用素の定義域と演算、有界作用素との境目を述べ、Hilbert 空間での随伴をグラフの直交補空間として捉える定理を証明する。そこから、閉包をもつことと随伴の定義域が稠密であることの同値性、$T^{**}=\overline T$、和と積の随伴の公式、閉作用素 $T$ について $T^*T$ が自己共役であるという von Neumann の定理を導く。区間の上の微分作用素を例として、境界条件と随伴の関係を具体的に計算する。

定義

以下、係数体 $\mathbb K$ は $\mathbb R$ または $\mathbb C$、$X,Y$ は $\mathbb K$ 上の Banach 空間とする。

作用素と定義域
  1. 部分空間 $D(T)\subset X$ から $Y$ への線形写像 $T\colon D(T)\to Y$ を、$X$ から $Y$ への 作用素 といい、$D(T)$ を 定義域 という。$D(T)$ が $X$ で稠密なとき、$T$ は 稠密に定義される という。
  2. 定数 $C$ があってすべての $x\in D(T)$ で $\|Tx\|\le C\|x\|$ となるとき、$T$ は 有界 であるという。有界でない作用素を 非有界作用素 という。
  3. 2 つの作用素 $S,T$ が等しい($S=T$)とは、$D(S)=D(T)$ かつ $D(T)$ の上で $Sx=Tx$ となることをいう。$D(T)\subset D(S)$ かつ $D(T)$ の上で $Sx=Tx$ のとき、$S$ を $T$ の 拡張 といい $T\subset S$ と書く。
  4. 演算は、式が意味をもつ点の全体を定義域とする。$X$ から $Y$ への作用素 $S,T$ と $c\in\mathbb K$ について $D(S+T):=D(S)\cap D(T)$、$D(cT):=D(T)$($c=0$ でも同じ)とする。$X$ から $Y$ への作用素 $T$ と $Y$ から $Z$ への作用素 $S$ について $D(ST):=\{x\in D(T)\mid Tx\in D(S)\}$ とする。$T$ が単射なら、逆 $T^{-1}\colon\operatorname{ran}T\to X$ も作用素である。

文献では「非有界作用素」を「有界とは限らない作用素」の意味で使うことが多く、有界な作用素も非有界作用素の特別な場合として扱う(Bre11 §2.6 の定義と Remark 10、p. 43)。この記事の定理も、その広い意味で述べる。
作用素 $T$ の グラフ を $\Gamma(T)=\{(x,Tx)\mid x\in D(T)\}\subset X\times Y$ とする。$\Gamma(T)$ が閉集合のとき $T$ は 閉作用素 であり、$\Gamma(T)$ の閉包がある作用素 $\overline T$ のグラフになるとき、$T$ は 閉包をもつ(可閉である)といい、$\overline T$ を $T$ の閉包という(閉グラフ定理 の定義「閉作用素」と命題「閉包をもつための条件」)。閉作用素は、定義域に グラフノルム $\|x\|+\|Tx\|$ を入れると Banach 空間からの有界作用素になる(グラフノルム の定理「閉作用素の特徴づけ」)。非有界作用素のうち実際に扱うのは、ほとんどが稠密に定義された閉作用素である。

有界な作用素との境目

有界になる条件

$T\colon D(T)\to Y$ を作用素とする。

  1. $T$ が有界なら、$T$ は $D(T)$ の閉包 $\overline{D(T)}$ の上の有界作用素にただ 1 通りに拡張され、拡張のノルムは $T$ のノルムに等しい。とくに稠密に定義された有界作用素は、$X$ 全体で定義された有界作用素にただ 1 通りに拡張される。
  2. $T$ が閉作用素で $D(T)=X$ なら、$T$ は有界である。
  3. $T$ が閉作用素で有界なら、$D(T)$ は $X$ の閉部分空間である。

1:$x\in\overline{D(T)}$ に収束する $x_n\in D(T)$ をとると、$\|Tx_n-Tx_m\|\le C\|x_n-x_m\|$ から $(Tx_n)$ は Cauchy 列で、$Y$ は完備なので極限をもつ。極限は列のとり方によらない(2 つの列を交互に並べた列も収束する)。これを $\tilde Tx$ とおくと $\tilde T$ は線形で、$\|\tilde Tx\|=\lim\|Tx_n\|\le C\lim\|x_n\|=C\|x\|$ である。有界な拡張は連続なので、$D(T)$ の上の値で決まり、一意である。2 は 閉グラフ定理 の定理「閉グラフ定理」である。3:$x_n\in D(T)$、$x_n\to x$ とすると、1 と同じく $(Tx_n)$ は収束し、その極限を $y$ とすると $T$ が閉なので $x\in D(T)$、$Tx=y$ である。$\square$

したがって、閉で有界でない作用素の定義域は閉部分空間ではなく、とくに空間全体ではない。Hilbert 空間では、全空間で定義された対称な作用素は自動的に有界である(開写像定理 の定理「対称な作用素の有界性」。Hellinger–Toeplitz の定理)。量子力学の観測量のように有界でない対称な作用素は、必ず真の部分空間の上で定義され、その定義域の選び方が問題になる(自己共役作用素)。

例

数列空間の掛け算

$H=\ell^2=\ell^2(\{1,2,\dots\})$(複素数列)と複素数列 $a=(a_n)$ について
$$ (M_ax)_n:=a_nx_n,\qquad D(M_a):=\Bigl\{x\in\ell^2\Bigm|\sum_n\lvert a_nx_n\rvert^2<\infty\Bigr\} $$
とおく。$D(M_a)$ は有限個を除いて $0$ の数列の空間 $c_{00}$ を含むので稠密である。

  1. $M_a$ は閉作用素である。$x^{(k)}\to x$、$M_ax^{(k)}\to y$ なら、各成分で $a_nx^{(k)}_n\to a_nx_n$ かつ $\to y_n$ なので $y=(a_nx_n)$ であり、$y\in\ell^2$ から $x\in D(M_a)$、$M_ax=y$ である。
  2. $M_a$ が有界であることと、$\sup_n\lvert a_n\rvert<\infty$ は同値である($\|M_ae_n\|=\lvert a_n\rvert$)。たとえば $a_n=n$ なら $M_a$ は非有界である。
  3. $\overline a:=(\overline{a_n})$ について $M_a^*=M_{\overline a}$ である(随伴は次の節で定義する)。実際 $y\in D(M_a^*)$、$z:=M_a^*y$ とすると、$x=e_n$ について $a_n\overline{y_n}=\langle M_ae_n,y\rangle=\langle e_n,z\rangle=\overline{z_n}$ なので $z_n=\overline{a_n}y_n$ で、$z\in\ell^2$ から $y\in D(M_{\overline a})$ である。逆に $y\in D(M_{\overline a})$ なら $\langle M_ax,y\rangle=\sum a_nx_n\overline{y_n}=\langle x,M_{\overline a}y\rangle$ である。
  4. $\sigma(M_a)$ は集合 $\{a_n\}$ の閉包である。$a_n$ は固有値(固有ベクトル $e_n$)であり、スペクトルは閉集合である(レゾルベント の定理「レゾルベントの展開と正則性」の 2)。$z$ が $\{a_n\}$ の閉包の外にあれば $\delta:=\inf_n\lvert a_n-z\rvert>0$ で、$M_{(a_n-z)^{-1}}$ は $\ell^2$ 全体で定義されノルム $1/\delta$ 以下の有界作用素であり、$M_a-z$ の逆になる。$a_n=n$ なら $\sigma(M_a)=\{1,2,3,\dots\}$ は有界でない。有界作用素のスペクトルはつねに有界なので、これは非有界作用素に特有の現象である。

区間の上の微分では、定義域の端点の条件が随伴を決める。以下 $H^1(0,1)$ と $H^1_0(0,1)$ は、実部と虚部が 1次元Sobolev空間 の定義「1次元Sobolev空間」と定義「零境界の空間」($p=2$)の空間に属する複素数値関数の全体とし、弱導関数 $u'$ も実部と虚部ごとに定める。$u\in H^1(0,1)$ は $[0,1]$ 上の連続な代表をもち、$u\in H^1_0(0,1)$ であることと $u(0)=u(1)=0$ は同値である(同記事の定理「連続な代表」と定理「零境界の空間の特徴づけ」)。

区間の上の微分

$H=L^2(0,1)$ で、作用素 $T_0,T_1$ を
$$ T_0u:=u'\quad(D(T_0):=H^1_0(0,1)),\qquad T_1u:=u'\quad(D(T_1):=H^1(0,1)) $$
と定める。$T_0\subset T_1$ である。どちらの定義域も $C^1_c(0,1)$ を含むので稠密である。グラフノルムは $H^1$ のノルムと同値であり、$H^1(0,1)$ は完備で、$H^1_0(0,1)$ はその閉部分空間なので、グラフノルム の定理「閉作用素の特徴づけ」により $T_0,T_1$ は閉作用素である。$u_k(x):=\sin(k\pi x)\in H^1_0(0,1)$ について $\|u_k\|=1/\sqrt2$、$\|u_k'\|=k\pi/\sqrt2$ なので、どちらも非有界である。

Hilbert 空間での随伴とグラフ

以下、$H,K$ は複素 Hilbert 空間とし、内積 $\langle\cdot,\cdot\rangle$ は第 1 変数について線形とする。$H\times K$ には内積 $\langle(x,y),(x',y')\rangle:=\langle x,x'\rangle+\langle y,y'\rangle$ を入れて Hilbert 空間とみる。
稠密に定義された作用素 $T\colon D(T)\to K$ の 随伴 $T^*$ を、随伴作用素 の節「有界性と定義域について」のとおり
$$ D(T^*):=\{y\in K\mid x\mapsto\langle Tx,y\rangle\ \text{が}\ D(T)\ \text{の上で有界}\} $$
とし、$y\in D(T^*)$ について、すべての $x\in D(T)$ で $\langle Tx,y\rangle=\langle x,T^*y\rangle$ となるただ 1 つの元を $T^*y\in H$ とする。存在は有界な汎関数を $H$ 全体へ拡張して(prop-ub-bounded の 1)Rieszの表現定理 を使えばよく、一意性は $D(T)$ の稠密性による。$T^*$ は $K$ から $H$ への作用素である。随伴のグラフは、$T$ のグラフを回して直交補空間をとったものになる。そこで、ユニタリ作用素
$$ V\colon H\times K\to K\times H,\qquad V(x,y):=(y,-x) $$
を使う。

随伴のグラフと二重随伴

$T\colon D(T)\to K$ を稠密に定義された作用素とする。

  1. $\Gamma(T^*)=\bigl(V\Gamma(T)\bigr)^\perp$ である。とくに $T^*$ は閉作用素である。
  2. $T$ が閉包をもつことと、$D(T^*)$ が $K$ で稠密であることは同値である。このとき $T^{**}=\overline T$ かつ $(\overline T)^*=T^*$ である。とくに稠密に定義された閉作用素 $T$ について $T^{**}=T$ である。
  3. $\ker T^*=(\operatorname{ran}T)^\perp$ である。$T$ が閉作用素なら $\ker T=(\operatorname{ran}T^*)^\perp$ である。
グラフの直交補空間を 2 回とる

1:$(u,v)\in K\times H$ が $V\Gamma(T)=\{(Tx,-x)\mid x\in D(T)\}$ に直交することは、すべての $x\in D(T)$ で $\langle Tx,u\rangle-\langle x,v\rangle=0$ となることであり、これは $u\in D(T^*)$ かつ $T^*u=v$ ということにほかならない($\Leftarrow$ は定義、$\Rightarrow$ は $x\mapsto\langle Tx,u\rangle=\langle x,v\rangle$ が有界なことによる)。直交補空間は閉部分空間なので、$\Gamma(T^*)$ は閉である。
2:$V$ はユニタリなので直交性を保ち、1 から $\Gamma(T)^\perp=V^{-1}\Gamma(T^*)=\{(-T^*u,u)\mid u\in D(T^*)\}$ である。閉部分空間 $G:=\overline{\Gamma(T)}=\Gamma(T)^{\perp\perp}$ について、$(0,w)\in G$ は、すべての $u\in D(T^*)$ で $\langle0,-T^*u\rangle+\langle w,u\rangle=0$、すなわち $w\perp D(T^*)$ と同値である。閉グラフ定理 の命題「閉包をもつための条件」の証明のとおり、$G$ がグラフであることは「$(0,w)\in G$ なら $w=0$」と同値なので、$T$ が閉包をもつことは $D(T^*)^\perp=\{0\}$、すなわち $D(T^*)$ の稠密性と同値である。このとき 1 を $T^*$ に使う。$K\times H\to H\times K$ のユニタリ作用素 $V'(u,v):=(v,-u)$ について $V'\Gamma(T^*)=\{(T^*u,-u)\}=\Gamma(T)^\perp$ なので、$\Gamma(T^{**})=\Gamma(T)^{\perp\perp}=\overline{\Gamma(T)}=\Gamma(\overline T)$、すなわち $T^{**}=\overline T$ である。また $V\Gamma(\overline T)=V\overline{\Gamma(T)}$ は $V\Gamma(T)$ の閉包で、集合とその閉包の直交補空間は等しいので、1 から $\Gamma((\overline T)^*)=\Gamma(T^*)$ である。
3:$y\in\ker T^*$ は、すべての $x\in D(T)$ で $\langle Tx,y\rangle=0$ となること(このとき汎関数は $0$ で有界)と同値であり、これは $y\perp\operatorname{ran}T$ である。$T$ が閉なら 2 から $D(T^*)$ は稠密で $T^{**}=T$ なので、前半を $T^*$ に使って $\ker T=\ker T^{**}=(\operatorname{ran}T^*)^\perp$ を得る。$\square$

3 から、稠密に定義された閉作用素 $T$ について、$\operatorname{ran}T$ が稠密であることと $T^*$ が単射であることは同値であり、$T$ が単射であることと $\operatorname{ran}T^*$ が稠密であることは同値である。随伴作用素 の例「無界作用素の随伴は全空間で定義されない」の作用素 $Tx=\bigl(\sum_nnx_n\bigr)e_1$($D(T)=c_{00}$)では $D(T^*)=\{y\mid y_1=0\}$ が稠密でないので、2 により $T$ は閉包をもたない。
Banach 空間 $X,Y$ の間の稠密に定義された作用素 $A$ にも、双対空間の間の随伴 $A^*\colon D(A^*)\subset Y^*\to X^*$ が同じ式 $\psi(Ax)=(A^*\psi)(x)$ で定まり、$A^*$ は閉である(Bre11 Proposition 2.17、p. 45)。$\ker A^*=(\operatorname{ran}A)^\perp$(零化空間)は定義からすぐ従い、$A$ が閉のときは Bre11 Corollary 2.18(p. 45)にある。しかし Banach 空間では、$A$ が閉でも $D(A^*)$ は稠密とは限らない(Bre11 Remark 15、p. 44。下の節「条件を外した反例」の表)。2 は Hilbert 空間に特有の性質である。

微分の随伴と境界条件

ex-ub-derivative の $T_0,T_1$ について
$$ T_0^*=-T_1,\qquad T_1^*=-T_0 $$
である。境界条件を課した側の随伴は境界条件のない作用素になり、逆も成り立つ。

部分積分と二重随伴

$u,v\in H^1(0,1)$ について部分積分の公式
$$ \int_0^1u'\,\overline v\,dx=u(1)\overline{v(1)}-u(0)\overline{v(0)}-\int_0^1u\,\overline{v'}\,dx $$
が成り立つ(Bre11 Corollary 8.10、p. 215 を実部と虚部に当てる)。
$-T_1\subset T_0^*$:$u\in H^1_0(0,1)$ なら $u(0)=u(1)=0$ なので、$v\in H^1(0,1)$ について $\langle T_0u,v\rangle=\langle u,-v'\rangle$ であり、$v\in D(T_0^*)$、$T_0^*v=-v'$ である。
$T_0^*\subset-T_1$:$v\in D(T_0^*)$、$w:=T_0^*v$ とする。実数値の $\varphi\in C^1_c(0,1)\subset H^1_0(0,1)$ について $\int_0^1\varphi'\,\overline v\,dx=\langle T_0\varphi,v\rangle=\langle\varphi,w\rangle=\int_0^1\varphi\,\overline w\,dx$ であり、複素共役をとると $\int_0^1v\,\varphi'\,dx=-\int_0^1(-w)\,\varphi\,dx$ となる。実部と虚部に分けると、これは $v\in H^1(0,1)$ かつ $v'=-w$ ということである(弱導関数の定義)。よって $T_0^*=-T_1$ である。
$T_0$ は閉なので thm-ub-adjoint-graph の 2 により $T_0^{**}=T_0$ であり、$T_1=-T_0^*$ から $T_1^*=-T_0^{**}=-T_0$ を得る(定数倍の随伴は $(cS)^*=\overline cS^*$)。$\square$

したがって $P_0:=-iT_0$ について $P_0^*=iT_0^*=-iT_1=:P_1$ であり、$P_0\subset P_1=P_0^*$ なので、$P_0$ は閉な対称作用素だが自己共役ではない(自己共役作用素 の定義「対称作用素と自己共役作用素」)。これは 量子力学の関数解析的構造 の例「反例:対称だが自己共役でない運動量作用素」と同じ現象を $H^1_0$ の定義域で見たものである。この 2 つではスペクトルはどちらも $\mathbb C$ 全体になるが、その中身は違う($T_1$ ではすべての点が固有値で、$T_0$ には固有値がない)。すべての $z\in\mathbb C$ について $e^{zx}$ は $T_1$ の固有値 $z$ の固有ベクトルなので $\sigma(T_1)=\mathbb C$ である。$T_0-z$ は単射だが、$(T_0-z)^*=T_0^*-\overline z$(次の節の prop-ub-sum-product)と thm-ub-adjoint-graph の 3 により $\operatorname{ran}(T_0-z)^\perp=\ker(T_0^*-\overline z)=\ker(T_1+\overline z)\ni e^{-\overline zx}$ なので全射でなく、$\sigma(T_0)=\mathbb C$ でもある。

演算と閉性・随伴

非有界作用素の和や積は、定義域が小さくなるため、閉性や随伴の公式が有界の場合のようには成り立たない。有界作用素を相手にするときだけ、次のように扱いやすい。

有界作用素との演算と閉性

$T\colon D(T)\to Y$ を閉作用素、$B\colon X\to Y$ と $C\colon W\to X$($W$ は Banach 空間)を全域で定義された有界作用素とする。

  1. $T+B$(定義域 $D(T)$)は閉作用素である。
  2. $TC$(定義域 $\{w\in W\mid Cw\in D(T)\}$)は閉作用素である。
  3. $T$ が単射なら、$T^{-1}\colon\operatorname{ran}T\to X$ は閉作用素である。

要点:有界作用素の側の列は自動的に収束するので、$T$ の閉性に帰着する。

詳細

1:$x_n\to x$、$(T+B)x_n\to y$ なら、$Bx_n\to Bx$ なので $Tx_n\to y-Bx$ で、$T$ が閉なので $x\in D(T)$、$Tx=y-Bx$ である。2:$w_n\to w$、$TCw_n\to y$ なら $Cw_n\to Cw$ なので、$T$ が閉であることから $Cw\in D(T)$、$TCw=y$ である。3:$\Gamma(T^{-1})$ は $\Gamma(T)$ の成分を入れ替えたもので、入れ替えは $X\times Y\to Y\times X$ の同相写像なので閉である。$\square$

有界作用素を左から掛けた $BT$ は閉とは限らず、閉包をもつとも限らない(下の表)。

和と積の随伴

$S,T$ を Hilbert 空間の間の稠密に定義された作用素とする。

  1. $S,T\colon H\to K$ で $S+T$ が稠密に定義されているなら、$S^*+T^*\subset(S+T)^*$ である。$S$ が $H$ 全体で定義された有界作用素なら $(S+T)^*=S^*+T^*$ である。
  2. $T\colon H\to K$、$S\colon K\to L$ で $ST$ が稠密に定義されているなら、$T^*S^*\subset(ST)^*$ である。$S$ が $K$ 全体で定義された有界作用素なら $(ST)^*=T^*S^*$ である。

要点:包含は定義式を書き並べるだけで、等号は有界な側の項を移項して随伴の定義域の条件を確かめる。

詳細

1:$y\in D(S^*)\cap D(T^*)$ なら、$x\in D(S+T)$ について $\langle(S+T)x,y\rangle=\langle x,(S^*+T^*)y\rangle$ なので、$y\in D((S+T)^*)$ で値も一致する。$S$ が全域で有界なら $D(S^*)=K$ で、$y\in D((S+T)^*)$ について $\langle Tx,y\rangle=\langle(S+T)x,y\rangle-\langle x,S^*y\rangle$ は $D(T)$ の上で有界なので $y\in D(T^*)$ である。2:$y\in D(T^*S^*)$、すなわち $y\in D(S^*)$ かつ $S^*y\in D(T^*)$ なら、$x\in D(ST)$ について $\langle STx,y\rangle=\langle Tx,S^*y\rangle=\langle x,T^*S^*y\rangle$ である。$S$ が全域で有界なら $D(ST)=D(T)$ で、$y\in D((ST)^*)$ について $x\mapsto\langle Tx,S^*y\rangle=\langle STx,y\rangle$ は $D(T)$ の上で有界なので、$S^*y\in D(T^*)$ である。$\square$

これらの言明は Tes09 Problem 2.2・2.3(p. 67)に演習として述べられている。包含が真になる例は $S=-T$ である。$T$ が非有界で稠密に定義された閉作用素なら $D(T^*)\ne K$ である。実際 $D(T^*)=K$ なら、閉作用素 $T^*$ は prop-ub-bounded の 2 により有界で、thm-ub-adjoint-graph の 2 から $T=T^{**}$ も有界になってしまう(全域で定義された有界作用素の随伴は有界。随伴作用素 の命題「ノルムと二重随伴」)。$S+T$ は $D(T)$ の上の零写像なので $(S+T)^*$ は $K$ 全体の上の零写像だが、$S^*+T^*$ は $D(T^*)$ の上の零写像である。

T*T の自己共役性

閉作用素 $T$ から作った $T^*T$ は、定義域の扱いが難しそうに見えるが、つねに自己共役になる。これは非負の自己共役作用素を作る基本的な方法であり、境界条件つきの Laplace 作用素もこの形で得られる。

閉作用素から作る自己共役作用素

$T\colon D(T)\to K$ を稠密に定義された閉作用素とし、$T^*T$ を定義域 $D(T^*T)=\{x\in D(T)\mid Tx\in D(T^*)\}$ で考える。

  1. $I+T^*T\colon D(T^*T)\to H$ は全単射で、逆 $R:=(I+T^*T)^{-1}$ は $H$ 全体で定義された有界作用素で $\|R\|\le1$ である。
  2. $T^*T$ は自己共役で、すべての $x\in D(T^*T)$ で $\langle T^*Tx,x\rangle=\|Tx\|^2\ge0$ である。
  3. $D(T^*T)$ は $T$ の芯である($\overline{T|_{D(T^*T)}}=T$)。
  4. $TT^*$ も自己共役である。
グラフの直交分解

要点:$H\times K=\Gamma(T)\oplus\Gamma(T)^\perp$ に $(h,0)$ を分解すると $I+T^*T$ の逆が得られる。

詳細

1:thm-ub-adjoint-graph の証明の 2 により $\Gamma(T)^\perp=\{(-T^*u,u)\mid u\in D(T^*)\}$ であり、$\Gamma(T)$ は閉なので $H\times K=\Gamma(T)\oplus\Gamma(T)^\perp$ である。$h\in H$ について $(h,0)=(x,Tx)+(-T^*u,u)$ と分解すると、第 2 成分から $Tx=-u\in D(T^*)$ で、第 1 成分から $h=x-T^*u=x+T^*Tx$ となる。よって $I+T^*T$ は全射である。$x\in D(T^*T)$ について $\langle(I+T^*T)x,x\rangle=\|x\|^2+\langle Tx,Tx\rangle\ge\|x\|^2$ なので、Cauchy–Schwarz の不等式から $\|(I+T^*T)x\|\ge\|x\|$ であり、単射で逆のノルムは $1$ 以下である。

2:$S:=T^*T$ とおく。$x,y\in D(S)$ について $\langle Sx,y\rangle=\langle Tx,Ty\rangle=\langle x,Sy\rangle$ である。$R$ は全域で定義された有界作用素で、$h,k\in H$ について $\langle Rh,k\rangle=\langle Rh,(I+S)Rk\rangle=\langle(I+S)Rh,Rk\rangle=\langle h,Rk\rangle$ なので自己共役である。$z\perp D(S)=\operatorname{ran}R$ なら、すべての $h$ で $0=\langle Rh,z\rangle=\langle h,Rz\rangle$ なので $Rz=0$、$R$ は単射だから $z=0$ である。よって $S$ は稠密に定義された対称作用素で、$S\subset S^*$ である。$y\in D(S^*)$ をとり、1 により $(I+S)x=(I+S^*)y$ となる $x\in D(S)$ を選ぶ。$S^*x=Sx$ なので $(I+S^*)(y-x)=0$ である。prop-ub-sum-product の 1 から $I+S^*=(I+S)^*$ であり、thm-ub-adjoint-graph の 3 から $\ker(I+S)^*=\operatorname{ran}(I+S)^\perp=H^\perp=\{0\}$ なので $y=x\in D(S)$ である。よって $S=S^*$ である。

3:グラフノルム の命題「芯の判定」により、$D(S)$ が Hilbert 版のグラフノルムの内積 $\langle x,y\rangle_T=\langle x,y\rangle+\langle Tx,Ty\rangle$ について $D(T)$ で稠密であることを示せばよい。$x\in D(T)$ が $D(S)$ のすべての $z$ と直交すれば、$0=\langle x,z\rangle+\langle Tx,Tz\rangle=\langle x,(I+S)z\rangle$ で、$(I+S)z$ は $H$ 全体を動くので $x=0$ である。

4:$T$ は閉なので thm-ub-adjoint-graph の 2 により $T^*$ は稠密に定義された閉作用素で $T^{**}=T$ である。1〜2 を $T^*$ に使えば $T^{**}T^*=TT^*$ は自己共役である。$\square$

この定理は von Neumann による。2 の自己共役性は Tes09 Problem 2.12(p. 73)にも演習として述べられている。$T$ が閉でないと結論は成り立たない(下の表)。

Dirichlet 条件と Neumann 条件の Laplace 作用素

ex-ub-derivative-adjoint により、thm-ub-von-neumann を $T_0$ と $T_1$ に当てると、次の 2 つの非負の自己共役作用素が得られる。
$$ \begin{aligned} T_0^*T_0u&=-u'',&D(T_0^*T_0)&=\{u\in H^1_0(0,1)\mid u'\in H^1(0,1)\},\\ T_1^*T_1u&=-u'',&D(T_1^*T_1)&=\{u\in H^1(0,1)\mid u'\in H^1_0(0,1)\}. \end{aligned} $$
前者は Dirichlet 境界条件 $u(0)=u(1)=0$、後者は Neumann 境界条件 $u'(0)=u'(1)=0$ の $-d^2/dx^2$ である。$\sin(k\pi x)$($k\ge1$)は前者の、$\cos(k\pi x)$($k\ge0$)は後者の固有値 $k^2\pi^2$ の固有関数である。同じ微分式でも、定義域が違えば別の自己共役作用素であり、たとえば $0$ は後者の固有値だが前者の固有値ではない($\langle T_0^*T_0u,u\rangle=\|u'\|^2=0$ なら $u$ は定数で、$u(0)=0$ から $u=0$)。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
$T$ が閉(prop-ub-bounded の 2)$\ell^2$ 全体で定義された不連続な線形汎関数 $f$(値は $\mathbb C$)全域で定義された作用素は有界
$T$ が閉包をもつ(thm-ub-adjoint-graph の 2)随伴作用素 の例「無界作用素の随伴は全空間で定義されない」の $T$$D(T^*)$ が稠密で $T^{**}$ が定義される
空間が Hilbert 空間(thm-ub-adjoint-graph の 2)$X=\ell^1$ 上の $(Au)_n=nu_n$、$D(A)=\{u\mid(nu_n)\in\ell^1\}$閉作用素なら $D(A^*)$ が稠密
有界作用素が右側(prop-ub-closed-operations の 2)$T=M_a$($a_n=n$)と $Bx:=\langle x,b\rangle e_1$($b_n=1/n$)の積 $BT$$BT$ が閉(閉包をもつことも成り立たない)
$S$ が全域で有界(prop-ub-sum-product の 1)$S=-T$($T=M_a$、$a_n=n$)$(S+T)^*=S^*+T^*$
$T$ が閉(thm-ub-von-neumann)$M_a$($a_n=n$)の $c_{00}$ への制限 $T$$T^*T$ が自己共役
表の各行の確かめ

1 行目:$\ell^2$ 上の不連続な線形汎関数は選択公理を使って作れる(不連続な線形汎関数)。prop-ub-bounded の 2 により、そのグラフは閉でない。

2 行目:上の節で見たとおり $D(T^*)=\{y\mid y_1=0\}$ は稠密でない。$T^*$ は $D(T^*)$ の上の零写像で、$T^{**}$ は随伴の定義に必要な稠密性がなく定義されない。

3 行目:$A$ は ex-ub-multiplication の 1 と同じ議論で閉で、$c_{00}\subset D(A)$ なので稠密に定義される。$(\ell^1)^*=\ell^\infty$ と同一視すると、$\psi\in\ell^\infty$ が $D(A^*)$ に入るのは $u\mapsto\sum_nnu_n\psi_n$ が $D(A)$ の上で $\ell^1$ ノルムについて有界なときで、$u=e_n$ を入れると $(n\psi_n)$ が有界であることが必要であり、逆にそれで十分である。このとき $\psi_n\to0$ なので $D(A^*)\subset c_0$ であり、$c_0$ は $\ell^\infty$ の閉部分空間で $\ell^\infty$ と異なるので、$D(A^*)$ は稠密でない(Bre11 Exercise 2.22、p. 53 の例)。

4 行目:$x\in D(T)$ について $BTx=\bigl(\sum_nnx_n\cdot\frac1n\bigr)e_1=\bigl(\sum_nx_n\bigr)e_1$ である。$x^{(N)}:=\frac1N(e_1+\cdots+e_N)\in D(T)$ は $\|x^{(N)}\|=N^{-1/2}\to0$ だが $BTx^{(N)}=e_1$ なので、閉グラフ定理 の命題「閉包をもつための条件」により $BT$ は閉包をもたない。一方 $TB$ は prop-ub-closed-operations の 2 により閉である。

5 行目:上の節の最後の段落で確かめた。

6 行目:$A:=M_a$ は自己共役である(ex-ub-multiplication の 3 で $\overline a=a$)。$T$ の閉包は $A$ であり($x\in D(A)$ の切り捨て $x^{(N)}:=(x_1,\dots,x_N,0,\dots)$ は $x^{(N)}\to x$、$Tx^{(N)}\to Ax$ を満たす)、thm-ub-adjoint-graph の 2 により $T^*=A^*=A$ である。よって $T^*T$ は $c_{00}$ の上の $(T^*Tx)_n=n^2x_n$ である。これは対称だが閉でなく($\sum_kk^{-3}e_k$ の切り捨ては $D(T^*T)$ の中の列で、グラフノルムの Cauchy 列になるが極限は $c_{00}$ にない)、閉でない作用素は自己共役でない(自己共役作用素 の補題「随伴の閉性と対称作用素の閉包」)。

補足

  • スペクトル。 閉作用素 $A\colon D(A)\to X$ のレゾルベント集合とスペクトルは、有界作用素と同じく $\lambda-A$ が有界な逆をもつかどうかで定める(レゾルベント)。有界作用素のスペクトルは空でないコンパクト集合だが、非有界作用素のスペクトルは空集合にも $\mathbb C$ 全体にもなりうる(レゾルベント の例「微分作用素:スペクトルが空の場合と全体の場合」、上の $T_1$)。自己共役作用素ではスペクトルは $\mathbb R$ に含まれ(自己共役作用素 の定理「自己共役作用素のスペクトル」)、$H\ne\{0\}$ なら空でない(摂動論(作用素) の定理「自己共役作用素のスペクトルの摂動」の 1)。
  • 自己共役性と摂動。 非有界な対称作用素が自己共役かどうかは、定義域の選び方で決まる(自己共役作用素、Cayley変換)。自己共役作用素に小さい作用素を足しても自己共役性やスペクトルがどこまで保たれるかを扱うのが 摂動論(作用素) である。
  • 発展方程式。 非有界作用素 $A$ について $u'=Au$ を解く理論は、$A$ が生成する強連続半群の理論であり、生成作用素の特徴づけが Hille–吉田の定理 である。

関連項目

参考文献

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