一般の基底変換定理(generic base change theorem)とは、Noether スキーム $S$ の上の有限型の射 $f\colon X\to Y$ と、係数の位数が $S$ 上可逆な構成可能層 $F$ について、$S$ の稠密な開集合 $U$ があって、$U$ の上では $R^if_*F$ が構成可能で有限個を除いて $0$ になり、その作り方が $U$ への任意の基底変換と交換するという Deligne の定理である。射に固有性を求めない代わりに基底を稠密な開集合に制限するもので、開埋め込み $\mathbb{G}_m\to\mathbb{A}^1$ では原点で基底変換が成り立たず、$U$ を基底全体にとれない。標数 $p$ のアフィン直線と $\mathbb{Z}/p$ 係数では、体の上でも代数閉体の拡大で $H^1$ が大きくなる。
前提知識: エタールコホモロジー, 固有基底変換定理, 高次順像, 底変換, 局所定数層
一般の基底変換定理(generic base change theorem)は、Deligne による次の定理である:Noether スキーム $S$ の上の有限型の射 $f\colon X\to Y$ と、$X$ 上の構成可能層 $F$(係数の位数は $S$ 上可逆)について、$S$ の稠密な開集合 $U$ があって、$U$ の上では高次順像 $R^if_*F$ が構成可能であり、その作り方が $U$ への任意の基底変換 $S'\to U$ と交換する。「一般の」は、基底 $S$ の一般の点(生成点の近く)では、という意味である。
固有基底変換定理は $f$ が固有なら基底全体で基底変換が成り立つと述べ、滑らかな基底変換定理は基底変換の射が滑らかなら成り立つと述べる。一般の基底変換定理は、射にも基底変換にも条件を付けない代わりに、基底の稠密な開集合に制限し、係数を構成可能層に限る。$S$ が体のスペクトルなら $U=S$ にとれるので、体の上の有限型スキームのコホモロジーは、係数の位数が標数と素なら、分離閉体を取り替えても変わらない。この定理は、Deligne の有限性定理($S$ が $0$ 次元または $1$ 次元の正則スキームなら $R^if_*$ は構成可能層を構成可能層に送る)とともに証明され、局所非輪状性が一般的に成り立つという定理と対をなす。
この記事では、定理を引用で述べ、ほかの基底変換定理と比べる。完全な証明として、開埋め込み $\mathbb G_m\to\mathbb A^1$ で $U$ を基底全体にとれないこと、標数 $p$ のアフィン直線と $\mathbb Z/p$ 係数では体の上でも基底変換が成り立たないこと、有限型でない射では稠密な開集合がとれないことを示し、定理の帰結として幾何的ファイバーのコホモロジーが稠密な開集合の上で局所的に一定であることを導く。
$S$ を Noether スキーム、$A$ を Noether 環で、$S$ 上可逆なある整数 $n$ について $nA=0$ となるものとする。層は $A$ 加群のエタール層とする。
スキーム $X$ 上の $A$ 加群のエタール層 $F$ が構成可能であるとは、$X$ の任意のアフィン開集合 $V$ が、有限個の構成可能な局所閉部分スキーム $V_1,\dots,V_m$ の交わらない和に分解され、各 $F|_{V_j}$ が有限型の局所定数層になることをいう。
これは Stacks Tag 03RW の定義である。位相空間を層別して各層の上で局所定数とする類似の概念は 構成可能層で扱う。
$f\colon X\to Y$ を $S$ スキームの射とし、$S$ スキームの射 $S'\to S$ について
$$
X':=X\times_SS',\qquad Y':=Y\times_SS',\qquad f'=f\times_SS'\colon X'\to Y'
$$
とおく。$X'=X\times_YY'$ なので、$g\colon Y'\to Y$、$g'\colon X'\to X$ を射影とすると、デカルト図式
$$
\begin{CD}
X' @>{g'}>> X\\
@V{f'}VV @VV{f}V\\
Y' @>{g}>> Y
\end{CD}
$$
が得られ、基底変換射 $g^{-1}R^if_*F\to R^if'_*g'^{-1}F$ が定まる(固有基底変換定理の定義「基底変換射」)。これがすべての $i$ で同型であるとき、$R^if_*F$ の作り方は基底変換 $S'\to S$ と交換するという。$S$ の開集合 $U$ について「$U$ の上で交換する」とは、$U$ を経由するすべての $S'\to S$ について交換することをいう。
$f\colon X\to Y$ を有限型の $S$ スキームの間の射、$F$ を $X$ 上の $A$ 加群の構成可能層とする。$S$ の稠密な開集合 $U$ があって、次が成り立つ。
これは Del77 Th. finitude Théorème 1.9(p. 236)である。設定の仮定($S$ は Noether、$A$ は Noether で $S$ 上可逆な整数で消される)は同章の冒頭(p. 233)で置かれる。この記事では証明しない。同所は、$S$ が体のスペクトルなら、極限への移行によって、任意の準コンパクト準分離な射と任意の層 $F$ について $R^if_*$ の作り方が $S$ の基底変換と交換することも述べる(p. 236)。同書の付録(Illusie)は、$R f_*E$ の作り方が任意の基底変換と交換することを「コホモロジー的に固有」と呼び、その例として固有射(SGA4 XII 5.1)と、$S$ が有限な場合のこの定理を挙げている(Del77 付録 1.3・1.3.1・1.3.2、p. 254)。
証明の流れ。証明は同章 §2(pp. 238–241)にある。$S$ を整に帰着させ、まず $X$ が $S$ 上滑らかで $F$ が局所定数、$Y=S$ の場合を、Poincaré 双対性と Hochschild–Serre のスペクトル系列で扱う(2.1・2.2、pp. 238–239)。次に、像が稠密な開埋め込みについて、生成ファイバーの次元 $\dim X_\eta$ の帰納法で結論を示す(2.3〜2.7、pp. 239–241)。最後に、$Y$ と $X$ をアフィンにして $f$ を開埋め込み $j$ と固有射 $g$ の合成 $f=g\circ j$ に分解し、$Rf_*=Rg_*Rj_*$ の $Rj_*$ に帰納法の結果を、$Rg_*$ に固有射の有限性定理を使う(2.8、p. 241)。固有射の部分では固有基底変換定理によって基底全体で基底変換が成り立つので、稠密な開集合に縮める必要が生じるのは開埋め込みの部分である。
導来圏での形。構成可能複体 $K$ について、$S$ の空でない開集合 $U$ があって、その上で $Rf_*K$、$Rf_!K$、$f^*K$、$Rf^!K$ が構成可能で、作り方が $U$ への任意の基底変換と交換する(Del77 Th. finitude Corollaire 2.9、pp. 241–242)。
| 固有基底変換 | 滑らかな基底変換 | 一般の基底変換 | |
|---|---|---|---|
| 射 $f$ の条件 | 固有 | 準コンパクト・準分離 | $S$ 上有限型 |
| 基底変換の条件 | なし | 滑らかな射 | $S$ の稠密な開集合 $U$ を経由 |
| 係数の条件 | 捩れ | 位数が剰余標数と素 | 構成可能、位数が $S$ 上可逆 |
| 典拠 | SGA 4 XII 5.1 | SGA 4 XVI 1.2 | SGA 4½ Th. finitude 1.9 |
固有基底変換は $p$ 捩れ係数でも成り立つが、ほかの 2 つは係数の位数を剰余標数と素に限る。この違いは下の prop-gbc-p-torsion に現れる。滑らかな基底変換は SGA4 XVI Corollaire 1.2(pp. 207–208)、Stacks Tag 0EYU にある。
$k$ を体、$n$ を $k$ の標数と素な正の整数、$\Lambda=\mathbb Z/n$ とする。$S=Y=\mathbb A^1_k=\operatorname{Spec}k[t]$、$X=\mathbb G_m=\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$、$f=j\colon X\to Y$ を包含とし、$F=\Lambda$ を定数層とする。
この例では $U$ は原点だけを除けばよい。$j$ は固有でないので、固有基底変換定理は使えない。$j$ はエタールなので局所非輪状でもあるが、局所非輪状性だけでは基底変換は保証されない(固有性と組み合わせてはじめて特殊化が同型になる)。
$S$ が体のスペクトルなら $U=S$ である。これは係数の位数が可逆である場合の話であり、標数と同じ素数の係数では成り立たない。
$p$ を素数、$k\subset K$ を標数 $p$ の代数閉体の拡大で $k\neq K$ とする。$f\colon\mathbb A^1_k\to\operatorname{Spec}k$ を構造射、$g\colon\operatorname{Spec}K\to\operatorname{Spec}k$ とする。引き戻しの写像
$$
H^1(\mathbb A^1_k,\mathbb Z/p)\longrightarrow H^1(\mathbb A^1_K,\mathbb Z/p)
$$
は全射でない。したがって $R^1f_*\mathbb Z/p$ の作り方は基底変換 $g$ と交換しない。
$H^1$ の計算。体 $L\in\{k,K\}$ について、$\mathbb A^1_L$ の上の Artin–Schreier 列 $0\to\mathbb Z/p\to\mathbb G_a\xrightarrow{\ \wp\ }\mathbb G_a\to0$、$\wp(g)=g^p-g$ は完全である(エタールコホモロジーの命題「Kummer列とArtin–Schreier列」)。$H^0(\mathbb A^1_L,\mathbb G_a)=L[x]$ であり、$\mathbb A^1_L$ はアフィンなので $H^1(\mathbb A^1_L,\mathbb G_a)=0$ である(同記事の定理「基礎的な比較と計算」の 2)。コホモロジーの長完全列から
$$
H^1(\mathbb A^1_L,\mathbb Z/p)\cong L[x]/\wp(L[x])
$$
であり、この同型は体の拡大 $k\subset K$ と両立する(引き戻しの写像は $k[x]\to K[x]$ から誘導される)。
標準形。$L$ を標数 $p$ の代数閉体とする。$x$ の次数が $p$ と素な単項式だけからなり定数項が $0$ である多項式を、標準形と呼ぶ。
(a) すべての $h\in L[x]$ は、$\wp(L[x])$ を法として標準形の多項式と合同である。実際、$a\in L$、$m\ge0$ について、$L$ は完全体なので $b:=a^{1/p}$ があり、$\wp(bx^m)=ax^{pm}-bx^m$ より $ax^{pm}\equiv bx^m$ である。$m\ge1$ なら次数が $pm$ から $m$ に下がり、$m=0$ なら定数 $a$ は、$L$ が代数閉なので $c^p-c=a$ となる $c$ があって $a=\wp(c)\equiv0$ である。次数が $p$ で割り切れる単項式にこれを繰り返すと、有限回で標準形になる。この手順は係数を $L$ の外に出さない。
(b) 標準形の多項式 $h$ が $\wp(L[x])$ に入るなら $h=0$ である。実際 $h=\wp(g)=g^p-g$ とし、$g$ の次数 $d$ が $1$ 以上なら、$g$ の最高次の係数を $a$ として $g^p-g$ の最高次の項は $a^px^{pd}$ で、その次数 $pd$ は $p$ で割り切れるので、$h$ が標準形であることに反する。よって $g$ は定数で、$h=g^p-g$ も定数であり、定数項が $0$ なので $h=0$ である。(a)(b) から、$L[x]/\wp(L[x])$ の各元はちょうど 1 つの標準形で代表される。
全射でないこと。$c\in K\setminus k$ をとり、$cx\in K[x]$ の類が $k[x]$ の像に入ると仮定する。$cx\equiv h\pmod{\wp(K[x])}$ となる $h\in k[x]$ があり、(a) を $L=k$ で使うと $h\equiv h'\pmod{\wp(k[x])}$ となる標準形 $h'\in k[x]$ がある。$\wp(k[x])\subset\wp(K[x])$ なので、$cx$ と $h'$ はどちらも $K[x]$ の標準形で、$\wp(K[x])$ を法として合同である。(b) により $cx=h'$ であり、$c\in k$ となって矛盾する。
基底変換との関係。$k$、$K$ は分離閉なので、$\operatorname{Spec}k$・$\operatorname{Spec}K$ のエタール層はアーベル群と同じであり、$R^1f_*\mathbb Z/p$ は $H^1(\mathbb A^1_k,\mathbb Z/p)$、基底変換した射の $R^1$ は $H^1(\mathbb A^1_K,\mathbb Z/p)$ に対応する。基底変換射は引き戻しの写像なので同型でない。$\square$
標準形による代表系は Stacks Tag 0A47 に述べられている。SGA 4 も、剰余標数と素な係数については任意のスキームのコホモロジーが分離閉体の拡大で変わらないことを示したうえで(SGA4 XVI Corollaire 1.6、p. 211)、アフィン曲線の $H^1(X,\mathbb Z/p)$ ではそれが成り立たないと注意している(同 Remarque 1.7、pp. 212–213)。$\mathbb A^1_k$ は固有でないので、固有基底変換定理の系「分離閉体の拡大に対する不変性」とは矛盾しない。$\mathbb P^1_k$ では $H^1(\mathbb P^1,\mathbb Z/p)$ は $k$ によらない(固有なので)。
$f\colon X\to S$ を有限型の射、$F$ を $X$ 上の $A$ 加群の構成可能層とする。$S$ の稠密な開集合 $U$ があって、$U$ の各連結成分の上で、幾何的ファイバーのコホモロジー $H^i(X_{\bar s},F)$ は幾何的点 $\bar s$ によらず互いに同型な有限型の $A$ 加群である。また、有限個の $i$ を除いて $0$ である。
thm-gbc-main を $Y=S$ に使い、稠密な開集合 $U_0$ をとる。$\bar s\to U_0$ を幾何的点とすると、基底変換 $\bar s\to U_0$ で $R^if_*F$ の作り方が交換するので、$(R^if_*F)_{\bar s}\cong H^i(X_{\bar s},F)$ である。$R^if_*F|_{U_0}$ は構成可能で、有限個の $i$ を除いて $0$ である。
Noether スキーム $U_0$ の上の構成可能層 $G$ は、稠密な開集合の上で局所定数である。実際、$U_0$ を有限個のアフィン開集合 $V$ で覆い、定義の分解 $V=V_1\sqcup\dots\sqcup V_m$ をとる。$V$ の既約成分 $Z$ の生成点 $\eta$ はある $V_j$ に入る。$V_j=W\cap C$($W$ は開、$C$ は閉)と書くと、$C$ は $\eta$ を含むので $Z\subset C$ であり、$Z\cap W\subset V_j$ である。$W$ から $Z$ 以外の既約成分(有限個の閉集合)を除いた開集合 $W_Z$ は $\eta$ を含み、$W_Z\subset Z\cap W\subset V_j$ なので、$G|_{W_Z}$ は局所定数である。これらの $W_Z$ の和は $U_0$ の稠密な開集合で、その上で $G$ は局所定数である。
有限個の $i$ について $R^if_*F$ にこれを使い、得られた開集合の共通部分を $U$ とする(有限個の稠密な開集合の共通部分は稠密)。$U$ の上で $R^if_*F$ は有限型の局所定数層なので、$U$ の連結成分の上で茎は互いに同型である。茎は $H^i(X_{\bar s},F)$ なので主張が従う。$\square$
$f$ が固有で滑らかで、$F$ が有限な局所定数層なら $U=S$ にとれる(局所非輪状の系「固有で滑らかな射の高次順像は局所定数」)。一般の $f$ では、特異なファイバーや、ファイバーの「無限遠」での退化がある点を除く必要がある。prop-gbc-open-immersion では、原点でファイバーが空になる。
$k$ を代数閉体、$S=Y=\mathbb A^1_k$、$\Lambda=\mathbb Z/n$($n$ は標数と素)とし、$k$ の各元 $a$ について $X_a:=\mathbb A^1_k\setminus\{a\}$、$X:=\bigsqcup_{a\in k}X_a$、$f\colon X\to Y$ を各 $X_a$ の包含から定まる射とする。$f$ は有限型でない($X$ は準コンパクトでない)。$k$ の各元 $a$ に対応する閉点の上の幾何的点 $\bar a$ による基底変換で、$f_*\Lambda$ の作り方は交換しない。したがって、どんな稠密な開集合 $U$ の上でも thm-gbc-main の 2 は成り立たない。
$\bar a$ での幾何的ファイバーは $X_{\bar a}=\bigsqcup_{b\neq a}\{\bar a\}$ であり($X_a$ は $a$ の上に点をもたない)、$\Gamma(X_{\bar a},\Lambda)=\prod_{b\neq a}\Lambda$ である。$Y$ の開集合 $V$(またはエタールな $V\to Y$)について $f_*\Lambda(V)=\prod_{b\in k}\Gamma(X_b\times_YV,\Lambda)$ なので、$b=a$ の成分が $1$ で、ほかの成分が $0$ である $Y$ 上の切断 $\sigma$ がある。$\bar a$ のエタール近傍 $(V,v)$ について、$X_a\times_YV$ は $V$ から $a$ の上の点(有限個)を除いたもので、$V$ の各既約成分は $1$ 次元なので空でない。よって $\sigma$ のどのエタール近傍への制限も $0$ でなく、茎 $(f_*\Lambda)_{\bar a}$ での $\sigma$ の像は $0$ でない。一方、基底変換射で $\sigma$ はファイバーの $\prod_{b\neq a}\Lambda$ の $0$ に写る($b\neq a$ の成分がすべて $0$)。よって基底変換射 $(f_*\Lambda)_{\bar a}\to\Gamma(X_{\bar a},\Lambda)$ は単射でない。$\mathbb A^1_k$ の空でない開集合は、有限個を除くすべての $a\in k$ に対応する閉点を含むので、どんな稠密な開集合 $U$ もこのような点 $a$ を含み、$\bar a\to U$ による基底変換で交換しない。$\square$
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 開集合 $U$ に制限すること | 開埋め込み $\mathbb G_m\to\mathbb A^1$(prop-gbc-open-immersion) | 原点での基底変換($U=S$ にとれない) |
| 係数の位数が $S$ 上可逆であること | $\mathbb A^1_k$ と $\mathbb Z/p$、$k\subset K$(prop-gbc-p-torsion) | 体の上でも $U=S$ で交換すること |
| $f$ が有限型であること | 無限個の穴あき直線の和(ex-gbc-infinite-union) | 稠密な開集合 $U$ の存在 |
| 固有性(基底全体で成り立つための条件) | 同じ開埋め込み | 固有基底変換定理の結論 |
2 行目の反例は固有でない射であり、固有射なら $p$ 捩れ係数でも基底全体で交換する(固有基底変換定理)。
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