上限と下限

同義語:上限下限最小上界最大下界supremum and infimumsupremuminfimum

概要

上限と下限(supremum and infimum)とは、順序集合の部分集合 $A$ に対し、$A$ の上界全体の最小元を上限 $\sup A$(最小上界)、下界全体の最大元を下限 $\inf A$(最大下界)と呼ぶものである。最大元と違って $A$ に属する必要はなく、$(0,1)$ は最大元をもたないが上限 $1$ をもつ。存在すれば一意だが、$\mathbb{Q}$ の $\{q>0\mid q^2<2\}$ のように存在しないこともある。空でない上に有界な部分集合がつねに上限をもつという $\mathbb{R}$ の性質が連続性公理であり、上限性質と下限性質は同値である。実数では $s=\sup A$ が「上界で、任意の $\varepsilon>0$ に $a>s-\varepsilon$ なる $a\in A$ がある」と特徴づけられ、単調有界数列の収束や上極限の基礎になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 集合, 部分集合, 順序集合, 全順序, 実数
上限と下限は、順序集合の部分集合を「上から押さえる最も小さい元」と「下から支える最も大きい元」として捉える概念である。最大元・最小元と違って集合の外にあってもよく、空でない上に有界な実数の集合に対して上限がつねに存在するという性質(連続性公理)が、極限・連続性・微積分を支える実数の基本性質である。

定義

以下、$(P,\leq)$ を順序集合(半順序集合)とし、$A\subset P$ をその部分集合とする。$A$ が空集合 $\emptyset$ である場合も除外しない。

部分集合の上界と下界

$u\in P$ が $A$ の上界(upper bound)であるとは、任意の $a\in A$ に対して $a\leq u$ が成り立つことをいう。$A$ の上界が少なくとも一つ存在するとき、$A$ は上に有界(bounded above)であるという。
双対に、$l\in P$ が $A$ の下界(lower bound)であるとは、任意の $a\in A$ に対して $l\leq a$ が成り立つことをいい、$A$ の下界が少なくとも一つ存在するとき $A$ は下に有界(bounded below)であるという。上にも下にも有界な部分集合を有界(bounded)という。
$A$ の上界全体の集合を $U(A)$、下界全体の集合を $L(A)$ と書く。

上界・下界は $A$ の元である必要はなく、また一つに定まるものでもない。たとえば $\mathbb{R}$ の部分集合 $A=(0,1)$ の上界は $1$ 以上の実数すべてであり、$U(A)=[1,\infty)$ である。空集合については、条件「任意の $a\in\emptyset$ に対して $a\leq u$」が空虚に成り立つので、$P$ のすべての元が $\emptyset$ の上界であり、同時に下界でもある。
上界・下界と対比すべき概念が最大元・最小元である。$g\in A$ が $A$ の最大元(greatest element)であるとは、任意の $a\in A$ に対して $a\leq g$ が成り立つこと、すなわち $g$ が $A$ に属する上界であることをいい、$m\in A$ が $A$ の最小元(least element)であるとは、$m$ が $A$ に属する下界であることをいう。最大元・最小元は存在すれば一意であり、$\max A$、$\min A$ と書く(一意性の証明は 順序集合 の記事の命題(最大元の一意性と極大元)にある)。

上限と下限

$A$ の上界全体の集合 $U(A)$ が最小元をもつとき、その最小元を $A$ の上限(supremum)または最小上界(least upper bound)といい、$\sup A$ と書く。すなわち $s\in P$ が $A$ の上限であるとは、次の二条件が成り立つことをいう。

  1. $s$ は $A$ の上界である:任意の $a\in A$ に対して $a\leq s$。
  2. $s$ は $A$ の上界のうち最小である:$u\in P$ が $A$ の上界ならば $s\leq u$。
    双対に、$A$ の下界全体の集合 $L(A)$ が最大元をもつとき、その最大元を $A$ の下限(infimum)または最大下界(greatest lower bound)といい、$\inf A$ と書く。すなわち $t\in P$ が $A$ の下限であるとは、次の二条件が成り立つことをいう。
  3. $t$ は $A$ の下界である:任意の $a\in A$ に対して $t\leq a$。
  4. $t$ は $A$ の下界のうち最大である:$l\in P$ が $A$ の下界ならば $l\leq t$。

定義の条件 2 は、対偶をとれば「$s\leq u$ でない元 $u$ は上界でない」と言い換えられる。全順序集合では $s\leq u$ でないことと $u< s$ とが同じなので、これは「$s$ より小さい元は上界でない」と同じことである(prop-sup-inf-epsilon)が、一般の順序集合では $s$ と比較不能な上界がないことまで要求している(順序集合 の記事の例(上界はあるが上限がない例))。上限・下限は存在するとは限らない(rem-sup-inf-counterexample-no-sup、prop-sup-inf-rational-gap)。存在するときには一意であることを最初に確かめる。

上限と下限の一意性

順序集合 $P$ の部分集合 $A$ に対し、$A$ の上限は存在すれば一意であり、$A$ の下限も存在すれば一意である。

$s,s'\in P$ がともに $A$ の上限であるとする。$s'$ は上限の条件 1 により $A$ の上界であるから、$s$ に対する条件 2 を $u=s'$ に適用して $s\leq s'$ を得る。$s$ と $s'$ の役割を入れ替えて同じ議論を行えば $s'\leq s$ である。順序の反対称律により $s=s'$ となる。
下限についても同様である。$t,t'$ がともに $A$ の下限なら、$t'$ は下界なので $t$ に対する条件 2 から $t'\leq t$ であり、役割を入れ替えて $t\leq t'$ であるから、反対称律により $t=t'$ である。この証明では順序が全順序であることを使っていない。$\square$

一意性があるので、$\sup A$、$\inf A$ という記号は(存在するときに)一つの元を指す。添字付きの族 $(a_i)_{i\in I}$ に対しては $\sup_{i\in I}a_i:=\sup\{a_i\mid i\in I\}$ と書き、数列 $(a_n)_{n\geq1}$ に対する $\sup_{n\geq1}a_n$、写像 $f\colon X\to P$ に対する $\sup_{x\in X}f(x):=\sup f(X)$ も同じ約束である。順序論では $\bigvee A$、$\bigwedge A$ とも書き、それぞれ結び(join)、交わり(meet)と呼ぶ。
上限・下限がつねに存在するかどうかは、順序集合 $P$ の性質として重要である。

順序集合の上限性質と下限性質

順序集合 $P$ が上限性質(least-upper-bound property)をもつとは、$P$ の空でない上に有界な任意の部分集合が $P$ の中に上限をもつことをいう。双対に、$P$ が下限性質(greatest-lower-bound property)をもつとは、$P$ の空でない下に有界な任意の部分集合が $P$ の中に下限をもつことをいう。

実数全体 $\mathbb{R}$ は上限性質をもつ。この事実を実数の連続性公理(Dedekind の公理、完備性公理ともいう)と呼ぶ。実数を公理的に導入する立場では、これは実数体の定義の一部であり、$\mathbb{R}$ とは「上限性質をもつ順序体」のことである(実数、Rud76 Definition 1.10・Theorem 1.19)。有理数全体 $\mathbb{Q}$ は順序体だが上限性質をもたない(prop-sup-inf-rational-gap)。実数と有理数を分けるのは代数演算ではなくこの性質である。上限性質と下限性質が一般の順序集合で同値であることは thm-sup-inf-property-equivalence で示す。

直感

上限は「$A$ のどの元にも負けない値のうちで最も切り詰めたもの」である。$A$ に最大元があればそれが上限だが、$A$ が最大元をもたずに際限なく上へ近づいていくとき、その「到達しない目標値」を集合の外に見つけるのが上限である。開区間 $(0,1)$ に最大元はないが、上限 $1$ はある。実数の連続性公理は、実数直線にはこのような目標値が必ず用意されている、すなわち「隙間がない」ことを主張する。有理数直線では $\{q\in\mathbb{Q}\mid q^2<2\}$ が $\sqrt2$ の位置にある隙間に向かって近づくが、目標値が有理数の中にない。下限はこれをすべて上下逆にしたものである。

例と反例

開区間と閉区間

$\mathbb{R}$ に通常の順序を入れ、開区間(区間)$A=(0,1)=\{x\in\mathbb{R}\mid 0< x<1\}$ を考える。$\sup A=1$、$\inf A=0$ であり、$A$ は最大元も最小元ももたない。
$1$ が上界であることは定義から明らかである。$u<1$ が $A$ の上界だとすると矛盾が出る。$u\leq0$ なら $1/2\in A$ かつ $1/2>u$ であり、$0< u<1$ なら $(u+1)/2\in A$ かつ $(u+1)/2>u$ だからである。よって $1$ 以上の実数だけが上界であり、$U(A)=[1,\infty)$ の最小元 $1$ が上限である。$\inf A=0$ も同様である($l>0$ が下界だとすると、$l\geq1$ なら $1/2< l$、$0< l<1$ なら $l/2\in A$ かつ $l/2< l$ で矛盾)。
$A$ に最大元がないことは、任意の $a\in A$ に対して $(a+1)/2$ が $A$ の元で $a$ より大きいことから従う。同じ理由で最小元もない。一方、閉区間 $B=[0,1]$ では $\sup B=1=\max B$、$\inf B=0=\min B$ である。$A$ と $B$ は同じ上限・下限をもつが、それが集合に属するかどうかが異なる。

数列の値の集合

$A=\{1-1/n\mid n\in\mathbb{Z}_{>0}\}=\{0,\,1/2,\,2/3,\,3/4,\dots\}\subset\mathbb{R}$ とする。$\sup A=1$、$\inf A=0=\min A$ であり、$A$ は最大元をもたない。
各 $n$ について $1-1/n<1$ なので $1$ は上界である。$u<1$ を任意にとり $\varepsilon:=1-u>0$ とおく。実数 の記事の系(小さい正数の存在)により $1/n<\varepsilon$ となる自然数 $n\geq1$ が存在し、このとき $1-1/n>1-\varepsilon=u$ であるから $u$ は上界でない。よって $\sup A=1$ である。$1\notin A$ なので $A$ に最大元はない(prop-sup-inf-greatest-element)。下限については、$n=1$ で $0\in A$ であり、すべての元が $0$ 以上なので $0=\min A=\inf A$ である。
ここで使った「$u<1$ ならば $A$ の元で $u$ を超えるものがある」という論法は、実数における上限の $\varepsilon$ 特徴づけ(prop-sup-inf-epsilon)そのものである。

有限集合

全順序集合 $P$ の空でない有限部分集合 $A=\{a_1,\dots,a_n\}$ は最大元と最小元をもち(元の個数に関する数学的帰納法:$\max\{a_1,\dots,a_{n}\}$ は $\max\{a_1,\dots,a_{n-1}\}$ と $a_n$ の大きい方である)、したがって $\sup A=\max A$、$\inf A=\min A$ である(prop-sup-inf-greatest-element)。全順序でない場合は有限集合でも上限が存在するとは限らない(順序集合 の記事の例(上界はあるが上限がない例))。

冪集合の包含関係

集合 $X$ の冪集合 $\mathcal{P}(X)$ を包含関係 $\subset$ で順序集合とみる。任意の部分集合族 $\mathcal{A}\subset\mathcal{P}(X)$ に対し、
$$ \sup\mathcal{A}=\bigcup\mathcal{A},\qquad \inf\mathcal{A}=\bigcap\mathcal{A} $$
である(ただし $\mathcal{A}=\emptyset$ のとき $\bigcap\emptyset:=X$ とする)。実際、和集合 $\bigcup\mathcal{A}$ は各 $A\in\mathcal{A}$ を含むので上界であり、$U\subset X$ が上界(各 $A\in\mathcal{A}$ を含む集合)ならば $\bigcup\mathcal{A}\subset U$ である。共通部分についても同様である。とくに $\sup\emptyset=\emptyset=\min\mathcal{P}(X)$、$\inf\emptyset=X=\max\mathcal{P}(X)$ であり、空集合の上限は最大元でなく最小元の側に現れる。$\mathcal{P}(X)$ では上に有界・下に有界という条件なしにあらゆる部分集合が上限と下限をもつ。この性質をもつ順序集合を完備束という(補足で触れる)。

反例:上界はあるが上限がない部分集合

$P=\mathbb{R}\setminus\{0\}$ に $\mathbb{R}$ の通常の順序を制限したものを考え、$A=\{x\in\mathbb{R}\mid x<0\}\subset P$ とする。$A$ は空でなく、$1\in P$ を上界にもつので上に有界である。しかし $A$ は $P$ の中に上限をもたない。実際、$u\in P$ が $A$ の上界なら $u>0$ である($u<0$ なら $u/2\in A$ かつ $u/2>u$)。逆に $u>0$ は明らかに上界なので $U(A)=\{u\in\mathbb{R}\mid u>0\}$ であり、この集合には最小元がない($u>0$ に対して $u/2$ はより小さい正の元)。
この $A$ は「空でなく上に有界である」という性質を満たすが「上限をもつ」という性質を満たさず、「上に有界ならば上限が存在する」という含意を一般の順序集合(全順序集合でさえ)に対して破る。$P$ は上限性質をもたない。同じ $A$ を $\mathbb{R}$ の部分集合とみれば $\sup A=0$ であり、上限の存在も値も、どの順序集合の中で考えるかに依存する。

反例:空集合の上限

$\mathbb{R}$ の部分集合としての空集合 $\emptyset$ は、すべての実数を上界にもつので上に有界だが、$U(\emptyset)=\mathbb{R}$ には最小元がないので上限をもたない。同様に下限ももたない。つまり $\emptyset$ は「上に有界である」を満たすが「上限をもつ」を満たさず、上限性質の定義で「空でない」という条件を外せば $\mathbb{R}$ でさえ上限性質をもたなくなる。一般に、順序集合 $P$ で $\sup\emptyset$ が存在することは $P$ が最小元をもつことと同値であり、そのとき $\sup\emptyset=\min P$ である($U(\emptyset)=P$ だから)。

有理数体における上限の不存在

$\mathbb{Q}$ に通常の順序を入れ、
$$ A=\{p\in\mathbb{Q}\mid p>0,\ p^2<2\} $$
とおく。$A$ は空でなく上に有界だが、$\mathbb{Q}$ の中に上限をもたない。したがって $\mathbb{Q}$ は上限性質をもたない。

$1\in A$ なので $A$ は空でない。$p\in A$ なら $p^2<2<4$ であり、$p\geq2$ とすると $p^2\geq2p\geq4$ となって矛盾するので $p<2$ である。よって $2$ は上界であり、$A$ は上に有界である。
補助として $B=\{p\in\mathbb{Q}\mid p>0,\ p^2>2\}$ とおく。証明は三段階に分かれる。
第 1 段:$p^2=2$ となる有理数 $p$ は存在しない。存在したとして $p=m/n$($m,n$ は互いに素な正の整数)と既約分数で書くと $m^2=2n^2$ である。$m^2$ が偶数なので $m$ は偶数であり、$m=2k$ とおくと $4k^2=2n^2$、すなわち $n^2=2k^2$ となって $n$ も偶数である。これは $m,n$ が互いに素であることに反する。
第 2 段:$A$ には最大元がなく、$B$ には最小元がない。有理数 $p>0$ に対して
$$ q:=p-\frac{p^2-2}{p+2}=\frac{2p+2}{p+2} $$
とおく。$q$ は正の有理数であり、直接計算により
$$ q^2-2=\frac{(2p+2)^2-2(p+2)^2}{(p+2)^2}=\frac{2(p^2-2)}{(p+2)^2} $$
である。$p\in A$ なら $p^2-2<0$ なので $q-p=-(p^2-2)/(p+2)>0$ かつ $q^2-2<0$、すなわち $q\in A$ かつ $q>p$ である。よって $A$ のどの元に対してもそれより大きい $A$ の元があり、$A$ に最大元はない。$p\in B$ なら $p^2-2>0$ なので $q< p$ かつ $q^2>2$、すなわち $q\in B$ かつ $q< p$ であり、$B$ に最小元はない。
第 3 段:$B$ の元はすべて $A$ の上界である。$a\in A$、$b\in B$ とする。$a\geq b$ とすると、$a\geq b>0$ から $a^2\geq ab\geq b^2>2$ となり $a\in A$ に反する。よって $a< b$ である。
以上をもとに、$s\in\mathbb{Q}$ が $A$ の上限であると仮定して矛盾を導く(背理法)。$1\in A$ より $s\geq1>0$ である。第 1 段により $s^2\neq2$ なので、$s^2<2$ または $s^2>2$ である。$s^2<2$ なら $s\in A$ であり、$s$ は $A$ に属する上界、すなわち最大元となって第 2 段に反する。$s^2>2$ なら $s\in B$ であり、第 2 段により $q\in B$ で $q< s$ となるものがある。第 3 段により $q$ は $A$ の上界だから、$s$ が最小の上界であることに反する。いずれの場合も矛盾するので、$A$ は $\mathbb{Q}$ の中に上限をもたない。$\square$

この証明のうち第 2 段・第 3 段は $\mathbb{Q}$ が順序体であることしか使っておらず、$\mathbb{Q}$ に固有なのは第 1 段の整数の偶奇の議論だけである($\mathbb{R}$ も順序体だが $\sqrt2$ をもつので、順序体の公理だけから第 1 段は出ない)。$\mathbb{R}$ の中では同じ集合 $A$ が上限 $\sqrt2$ をもつ(連続性公理)。$\mathbb{Q}$ の中に上限が見つからないのは、この $\sqrt2$ が無理数であること(第 1 段)の現れである。$A\cup\{q\in\mathbb{Q}\mid q\leq0\}$ と $B$ は有理数直線を $\sqrt2$ の位置で二つに切ったものであり、Dedekind 切断(Dedekind切断)による実数の構成はこの切れ目そのものを新しい数とみなす。

性質

最大元と上限の関係

順序集合 $P$ の部分集合 $A$ について次が成り立つ。

  1. $A$ が最大元 $g$ をもてば $A$ は上限をもち、$\sup A=g$ である。
  2. $A$ が上限 $s$ をもち、かつ $s\in A$ ならば、$s$ は $A$ の最大元である。
    したがって、上限が存在するとき「$\sup A\in A$」と「$A$ が最大元をもつ」は同値であり、そのとき $\sup A=\max A$ である。下限と最小元についても同様に、$\inf A$ が存在するとき「$\inf A\in A$」と「$A$ が最小元をもつ」は同値で、そのとき $\inf A=\min A$ である。

1:$g$ は最大元の定義により $A$ の上界である。$u$ を $A$ の任意の上界とすると、$g\in A$ なので上界の定義から $g\leq u$ である。よって $g$ は上界のうち最小、すなわち $g=\sup A$ である。
2:$s$ は上界なので任意の $a\in A$ に対して $a\leq s$ であり、仮定 $s\in A$ とあわせて $s$ は $A$ の最大元である。
下限については、1 で「上界」を「下界」、$\leq$ の向きを逆にして同じ議論を行えばよい。すなわち、最小元 $m$ は $A$ に属する下界であり、任意の下界 $l$ に対して $m\in A$ から $l\leq m$ となるので $m=\inf A$ である。逆に $\inf A=t\in A$ なら $t$ は $A$ に属する下界、すなわち最小元である。$\square$

ex-sup-inf-open-interval の $(0,1)$ は、上限 $1$ が存在するが最大元は存在しない例である。上限は最大元の「集合の外にはみ出すことを許した版」であり、最大元が存在する場合には両者が一致する。

包含と大小に関する基本性質

順序集合 $P$ の部分集合 $A,B$ について次が成り立つ。

  1. $A\subset B$ で $\sup A$、$\sup B$ がともに存在すれば $\sup A\leq\sup B$ である。同様に $\inf A$、$\inf B$ がともに存在すれば $\inf B\leq\inf A$ である。
  2. $A$ が空でなく、$\inf A$ と $\sup A$ がともに存在すれば $\inf A\leq\sup A$ である。

1:$\sup B$ は $B$ の上界なので、任意の $a\in A\subset B$ に対して $a\leq\sup B$ が成り立ち、$\sup B$ は $A$ の上界でもある。$\sup A$ は $A$ の上界のうち最小なので $\sup A\leq\sup B$ である。下限についても、$\inf B$ は $A$ の下界でもあるから、$A$ の下界のうち最大である $\inf A$ に対して $\inf B\leq\inf A$ である。
2:$A$ は空でないので元 $a\in A$ を一つとれる。$\inf A$ は下界、$\sup A$ は上界なので $\inf A\leq a\leq\sup A$ であり、推移律により $\inf A\leq\sup A$ である。$\square$

条件 2 の「空でない」は外せない。ex-sup-inf-power-set で見たように $\mathcal{P}(X)$ では $\sup\emptyset=\emptyset$、$\inf\emptyset=X$ であり、$X\neq\emptyset$ なら $\inf\emptyset\leq\sup\emptyset$ は成り立たない。
次の定理は、実数の連続性公理を「上限」で述べても「下限」で述べても同じことを保証する。証明は順序の性質だけを使い、引き算などの代数演算を必要としない。

上限性質と下限性質の同値性

順序集合 $P$ について、次の二条件は同値である。

  1. $P$ は上限性質をもつ:空でない上に有界な任意の部分集合が上限をもつ。
  2. $P$ は下限性質をもつ:空でない下に有界な任意の部分集合が下限をもつ。
    さらに 1 が成り立つとき、空でない下に有界な部分集合 $B$ の下限は、$B$ の下界全体の集合 $L(B)$ の上限として得られる:$\inf B=\sup L(B)$。

1 ⇒ 2:$B\subset P$ を空でない下に有界な部分集合とし、$L:=L(B)$ を $B$ の下界全体の集合とする。$B$ が下に有界なので $L$ は空でない。また $B$ の任意の元 $b$ は $L$ の上界である。実際、$l\in L$ は $B$ の下界なので $l\leq b$ が成り立つ。$B$ は空でないので $L$ は上に有界である。よって 1 により $\alpha:=\sup L$ が存在する。
$\alpha$ が $B$ の下界であることを示す。$b\in B$ とすると、上で見たように $b$ は $L$ の上界であり、$\alpha$ は $L$ の上界のうち最小なので $\alpha\leq b$ である。$b$ は任意だったから $\alpha$ は $B$ の下界、すなわち $\alpha\in L$ である。
$\alpha$ が $B$ の下界のうち最大であることを示す。$l\in L$ とすると、$\alpha$ は $L$ の上界なので $l\leq\alpha$ である。以上により $\alpha$ は $L(B)$ の最大元、すなわち $\alpha=\inf B$ であり、同時に $\inf B=\sup L(B)$ が示された。
2 ⇒ 1:上の議論で上下を入れ替える。$A\subset P$ を空でない上に有界な部分集合とし、$U:=U(A)$ を上界全体の集合とする。$A$ が上に有界なので $U$ は空でなく、$A$ の任意の元 $a$ は $U$ の下界である($u\in U$ なら $a\leq u$)。$A$ は空でないので $U$ は下に有界であり、2 により $\beta:=\inf U$ が存在する。任意の $a\in A$ は $U$ の下界なので、下界のうち最大である $\beta$ に対して $a\leq\beta$ が成り立ち、$\beta$ は $A$ の上界、すなわち $\beta\in U$ である。また $\beta$ は $U$ の下界なので任意の $u\in U$ に対して $\beta\leq u$ である。よって $\beta$ は $U(A)$ の最小元、すなわち $\beta=\sup A$ である。$\square$

$\mathbb{R}$ のような順序体では、$-A:=\{-a\mid a\in A\}$ を用いて $\inf A=-\sup(-A)$ と書けるので、下限の存在を上限の存在から直接導ける(実数 の記事の命題(上限性質と下限性質))。上の定理はその順序集合版であり、$\mathbb{Q}$ のように上限性質をもたない順序集合に対しても「上限性質をもたないなら下限性質ももたない」ことを教える。
実数では、上限を「上界であって、いくらでも近くに $A$ の元がある値」として特徴づけられる。これが解析で上限を扱うときの実用的な形である。

実数における上限と下限の ε 特徴づけ

$A\subset\mathbb{R}$ を空でない部分集合とし、$s\in\mathbb{R}$ とする。次は同値である。

  1. $s=\sup A$。
  2. $s$ は $A$ の上界であり、任意の $\varepsilon>0$ に対して $s-\varepsilon< a$ を満たす $a\in A$ が存在する。
  3. $s$ は $A$ の上界であり、$t< s$ なる任意の $t\in\mathbb{R}$ に対して $t< a$ を満たす $a\in A$ が存在する。
    双対に、$t\in\mathbb{R}$ について、$t=\inf A$ であることと、「$t$ は $A$ の下界であり、任意の $\varepsilon>0$ に対して $a< t+\varepsilon$ を満たす $a\in A$ が存在する」こととは同値である。

2 ⇔ 3:$t< s$ なる実数 $t$ と正の実数 $\varepsilon$ とは $t=s-\varepsilon$、$\varepsilon=s-t$ により一対一に対応するので、2 と 3 は同じ主張である。
1 ⇒ 3:$s=\sup A$ なら $s$ は上界である。$t< s$ とする。もし $t$ が $A$ の上界なら、上限の条件 2 により $s\leq t$ となって $t< s$ に反する。よって $t$ は上界でない。すなわち「任意の $a\in A$ に対して $a\leq t$」が成り立たないので、ある $a\in A$ で $a\leq t$ でないもの、$\mathbb{R}$ の順序が全順序であることにより $t< a$ を満たすものが存在する。
3 ⇒ 1:$s$ は上界なので、上限の条件 2 を確かめればよい。$u$ を $A$ の任意の上界とし、$s\leq u$ を示す。全順序性により $s\leq u$ でなければ $u< s$ である。このとき 3 を $t=u$ に適用すると $u< a$ となる $a\in A$ が存在し、$u$ が上界であることに反する。よって $s\leq u$ であり、$s=\sup A$ である。
下限については、$t$ が $A$ の下界のとき、「$t=\inf A$」は「$t< l$ なる任意の $l$ は下界でない」と同値であり、$l$ が下界でないことは $a< l$ なる $a\in A$ の存在と同値である(全順序性)。$l=t+\varepsilon$ とおけば主張の形になる。$\square$

この命題の証明では、$\mathbb{R}$ の性質のうち全順序であることと、$s-\varepsilon$ という差がとれること(順序群の構造)しか使っていない。連続性公理は上限の存在のためのものであり、存在する上限の特徴づけには不要である。条件 2 は「$s$ より真に小さいどの値も上界ではない」を、実数の言葉で「$s$ の左側どんな近くにも $A$ の元がある」と言い直したものである。
$\varepsilon$ 特徴づけの典型的な使い方として、和の上限を計算する。

二つの部分集合の和の上限

$A,B\subset\mathbb{R}$ を空でない上に有界な部分集合とし、$A+B:=\{a+b\mid a\in A,\ b\in B\}$ とおく。このとき $A+B$ も空でなく上に有界であり、
$$ \sup(A+B)=\sup A+\sup B $$
である。下限についても同様に $\inf(A+B)=\inf A+\inf B$ が成り立つ。

$s:=\sup A$、$t:=\sup B$ とおく(連続性公理により存在する)。任意の $a\in A$、$b\in B$ に対して $a\leq s$、$b\leq t$ なので $a+b\leq s+t$ であり、$s+t$ は $A+B$ の上界である。$A,B$ が空でないので $A+B$ も空でない。
任意の $\varepsilon>0$ をとる。prop-sup-inf-epsilon を $A$ と $\varepsilon/2$ に適用して $a\in A$ で $s-\varepsilon/2< a$ を満たすものをとり、同じく $B$ に適用して $b\in B$ で $t-\varepsilon/2< b$ を満たすものをとる。すると $a+b\in A+B$ であり、
$$ (s+t)-\varepsilon< a+b $$
である。$s+t$ は上界であったから、再び prop-sup-inf-epsilon により $s+t=\sup(A+B)$ である。
下限については、$A,B$ が空でなく下に有界なら $\inf A$、$\inf B$ が存在し(thm-sup-inf-property-equivalence)、$\inf A+\inf B$ が $A+B$ の下界であること、および任意の $\varepsilon>0$ に対して $a<\inf A+\varepsilon/2$、$b<\inf B+\varepsilon/2$ をとれば $a+b<\inf A+\inf B+\varepsilon$ となることから、同じ命題の下限版により $\inf(A+B)=\inf A+\inf B$ である。$\square$

同様の議論で、$c>0$ に対して $\sup(cA)=c\sup A$ が、また $A$ が空でなく下に有界なら $\sup(-A)=-\inf A$ が示される(後者は 実数 の記事の命題(上限性質と下限性質)で上限性質をもつ順序体について証明されている)。ただし積 $AB=\{ab\}$ については、$A,B$ の元が正であるという仮定なしには $\sup(AB)=\sup A\cdot\sup B$ は成り立たない($A=B=\{-1,0\}$ なら $AB=\{0,1\}$、$\sup(AB)=1\neq0=\sup A\cdot\sup B$)。
上限が解析で最初に活躍するのは、単調な数列(単調数列)の収束である。

単調有界数列の収束

実数の数列 $(a_n)_{n\geq1}$ が単調増加($a_n\leq a_{n+1}$ がすべての $n$ で成り立つ)かつ上に有界ならば、$(a_n)$ は収束し、
$$ \lim_{n\to\infty}a_n=\sup_{n\geq1}a_n $$
である。単調減少かつ下に有界な数列は $\inf_{n\geq1}a_n$ に収束する。

単調収束定理の所在

この定理は単調収束定理と呼ばれ、証明は Rud76 Theorem 3.14、Tak83 第 1 章にある。Mathpedia では単調収束定理と数列の極限が扱う。証明の要点は、$s:=\sup_n a_n$ に prop-sup-inf-epsilon を適用して $s-\varepsilon< a_N$ なる $N$ をとると、単調性により $n\geq N$ のとき $s-\varepsilon< a_N\leq a_n\leq s$ となることである。この定理は連続性公理(上限の存在)に本質的に依存しており、$\mathbb{Q}$ の中では $\sqrt2$ の十進近似 $1,\,1.4,\,1.41,\,1.414,\dots$ が単調増加かつ上に有界でありながら有理数に収束しない。

補足

拡張実数における約束

$\mathbb{R}$ に $+\infty$、$-\infty$ を付け加え、すべての実数 $x$ に対して $-\infty< x<+\infty$ と定めた全順序集合を拡張実数 $\overline{\mathbb{R}}$ という。$\overline{\mathbb{R}}$ ではあらゆる部分集合が上限と下限をもつ。実際、$A\subset\overline{\mathbb{R}}$ について、$A$ が空なら $\sup A=-\infty$、$\inf A=+\infty$(rem-sup-inf-counterexample-empty の一般論により、最小元 $-\infty$ と最大元 $+\infty$ がそれぞれ空集合の上限・下限になる)、$A$ が $+\infty$ を含むか、$A\cap\mathbb{R}$ が $\mathbb{R}$ の中で上に有界でないなら $\sup A=+\infty$(実数は上界になれない)、$A=\{-\infty\}$ なら $\sup A=-\infty$、残る場合は $A\cap\mathbb{R}$ が $\mathbb{R}$ の空でない上に有界な部分集合であり、連続性公理による $\mathbb{R}$ での上限 $s$ が $\overline{\mathbb{R}}$ での $A$ の上限にもなる($s$ は $A$ の上界であり、$A$ の上界 $u\in\overline{\mathbb{R}}$ は $+\infty$ であるか実数で $s\leq u$ を満たす)。下限についても同様である。解析学で「$\sup A=+\infty$」と書くのは、この約束のもとで $A$ が上に有界でないことを表す。上極限と下極限は、数列の尾部 $\{a_n\mid n\geq N\}$ の上限・下限をこの意味でとり、$N$ を動かした下限・上限として定義される。

完備束との関係

ex-sup-inf-power-set の $\mathcal{P}(X)$ のように、有界性の仮定なしにあらゆる部分集合(空集合を含む)が上限をもつ順序集合を完備束(complete lattice)という。この場合あらゆる部分集合が下限ももつ。証明は thm-sup-inf-property-equivalence と同じで、$B\subset P$ に対し $L(B)$ の上限が $B$ の下限になる(有界性や空でないことの仮定は、$\sup L(B)$ の存在を保証するためだけに使われていた)。任意の二元 $\{x,y\}$ が上限 $x\vee y$ と下限 $x\wedge y$ をもつ順序集合が束であり、完備束は束である。$\overline{\mathbb{R}}$ は完備束だが $\mathbb{R}$ は束であって完備束ではない($\mathbb{R}$ 自身が上限をもたない)。これらは DP02 Chapter 2 が扱う。

実数の連続性の諸形式

実数の連続性公理は上限性質の形で述べるのが標準的だが、Dedekind 切断の言葉、単調有界数列の収束、区間縮小法と Archimedes 性(Archimedes性)、Cauchy 列(Cauchy列)の収束と Archimedes 性など、同値な言い換えがいくつも知られている(Tak83 第 1 章、Rud76 Chapter 1・3、実数)。どの形を出発点にしても、他の形は定理として導かれる。本記事では上限性質を出発点とし、単調有界数列の収束(thm-sup-inf-monotone-sequence)がそこから従うことを述べた。

用語と流儀

上限を lub(least upper bound)、下限を glb(greatest lower bound)と略記する文献もある。束論・順序論では $\sup A=\bigvee A$、$\inf A=\bigwedge A$ と書き、二元の場合 $x\vee y$、$x\wedge y$ を結び・交わりという(DP02 Chapter 2)。解析の教科書の多くは、上限を $\mathbb{R}$ の空でない上に有界な部分集合に対してだけ定義し、それ以外の場合を $\pm\infty$ の約束で補う。日常語の「上限」は「超えてはならない値」の意味で使われ、数学の上界に近い。数学では上界(上から押さえる値、たくさんある)と上限(そのうち最小のもの、一つだけ)を厳密に区別する。順序集合における上界・上限の定義と最大元との関係は Mat68 第 3 章、実数の上限性質は Rud76 1.7–1.11 に従った。

関連項目

参考文献

[1]
Walter Rudin, Principles of Mathematical Analysis, McGraw-Hill, 1976, 1.7–1.11(上界・上限・上限性質・下限の存在)、Example 1.1($\mathbb{Q}$ の切れ目)、Theorem 1.19(実数体の存在)、Theorem 3.14(単調数列)
[2]
松坂和夫, 集合・位相入門, 岩波書店, 1968, 第3章(順序集合:上界・上限・最大元)
[3]
高木貞治, 解析概論 改訂第3版 軽装版, 岩波書店, 1983, 第1章(数の連続性・上限と下限・単調数列の極限)
[4]
B. A. Davey, H. A. Priestley, Introduction to Lattices and Order, Cambridge University Press, 2002, Chapter 2(Lattices and complete lattices:結び・交わり・完備束)

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