Severi–Brauer多様体(Severi–Brauer variety)とは、体 $k$ 上の有限型スキーム $P$ で、ある拡大体 $K$ の上で射影空間 $\mathbb{P}^n_K$ に同型になるもの($\mathbb{P}^n$ の捻れた形)のことである。分裂体は有限次 Galois 拡大に取れ、$n$ 次元のものの同型類は $H^1(k, \mathrm{PGL}_{n+1})$ を通して次数 $n+1$ の中心単純環の同型類と一対一に対応する。$P$ が有理点をもつことと $P \cong \mathbb{P}^n_k$ であること、対応する中心単純環が分裂することは同値である(Châtelet の定理)。1 次元の場合は円錐曲線であり、四元数代数に対応する。スキーム上の類似は Azumaya 代数と対応する。
前提知識: 射影空間, 中心単純環, Galoisコホモロジー, Galois降下
レベル: 大学院
以下、$k$ を体、$k^{\mathrm{s}}$ をその分離閉包、$\bar k$ を代数閉包とし、$n \ge 0$ を整数とする。$k$ スキーム $P$ と体の拡大 $K/k$ について、$P_K := P \times_{\operatorname{Spec} k} \operatorname{Spec} K$ と書く。
$k$ 上有限型のスキーム $P$ が、ある体の拡大 $K/k$ について $P_K \cong \mathbb{P}^n_K$($K$ スキームとしての同型)をみたすとき、$P$ を $k$ 上の $n$ 次元 Severi–Brauer 多様体(Severi–Brauer variety)という。このような $K$ を $P$ の分裂体という。$P \cong \mathbb{P}^n_k$ のとき、$P$ は分裂するという。
$1$ 次元の Severi–Brauer 多様体を Severi–Brauer 曲線という。下の系
分離的な分裂体
により、分裂体は $k$ の有限次 Galois 拡大に取れる。したがって Severi–Brauer 多様体は、$\mathbb{P}^n_k$ の Galois 降下による捻れた形にほかならない。
スキームの上でも同じ概念を考える。
$X$ をスキーム、$r \ge 1$ とする。$X$ スキーム $P$ が、$X$ のエタール被覆 $\{U_i \to X\}$ と $U_i$ スキームの同型 $P \times_X U_i \cong \mathbb{P}^{r-1}_{U_i}$ をもつとき、$P$ を $X$ 上の相対次元 $r-1$ の Severi–Brauer スキームという。
$X = \operatorname{Spec} k$ のとき、エタール被覆は有限次分離拡大体のスペクトルの有限個の和で細分できるので、Severi–Brauer スキームは(分離的な分裂体をもつ)Severi–Brauer 多様体と同じものである。
$\mathbb{P}^n$ の自己同型群は $\mathrm{PGL}_{n+1}$ であり、これは行列代数 $M_{n+1}$ の自己同型群でもある。したがって「$\mathbb{P}^n$ の捻れた形」と「$M_{n+1}$ の捻れた形」、すなわち Severi–Brauer 多様体と次数 $n+1$ の中心単純環は、同じ Galois コホモロジー集合 $H^1(k, \mathrm{PGL}_{n+1})$ で分類される。
Severi–Brauer 多様体は、Brauer群 の元を幾何的な対象として見せる。中心単純環が分裂することは、対応する Severi–Brauer 多様体が有理点をもつことと同値になる。実数体上の円錐曲線 $x^2 + y^2 + z^2 = 0$ は、実点をもたないことで Hamilton の四元数の非自明さを表している。
$\mathbb{P}^n_K$ の $K$ スキームとしての自己同型群は $\mathrm{PGL}_{n+1}(K)$ である(GS06 第 5 章。本記事では証明しない)。これと Galois 降下から、次の分類が得られる。
次の 3 つの集合の間に、自然な全単射がある。
この定理は標準的である(GS06 第 5 章、Art82。本記事では証明しない)。
$A = \operatorname{End}_k(V)$($\dim V = n+1$)のとき、$V$ の直線 $L$ に対して $\{\, f \in A \mid f(V) \subset L \,\}$ は次元 $n+1$ の右イデアルであり、次元 $n+1$ の右イデアルはすべてこの形である。こうして $\mathrm{SB}(\operatorname{End}(V))$ は $V$ の直線のなす射影空間になる。左イデアルを使うと超平面のなす射影空間(双対射影空間)が得られ、対応する中心単純環は $A$ から $A^{\mathrm{op}}$ に入れ替わる。どちらの規約を取るかは文献によって異なる。
中心拡大 $1 \to \mathbb{G}_m \to \mathrm{GL}_{n+1} \to \mathrm{PGL}_{n+1} \to 1$ の余境界により、Severi–Brauer 多様体 $P$ は Brauer 類 $\delta(P) \in \mathrm{Br}(k)$ を定める。これは対応する中心単純環の類(規約によってはその逆元)である。
スキームの上でも同じ形の分類が成り立つ。相対次元 $r-1$ の Severi–Brauer スキームの同型類は $H^1(X_{\mathrm{\acute{e}t}}, \mathrm{PGL}_r)$ と一対一に対応し、したがって次数 $r$ の Azumaya代数 の同型類と一対一に対応する(Gro68a §8。本記事では証明しない)。
$P$ を $k$ 上の $n$ 次元 Severi–Brauer 多様体、$A$ を対応する中心単純環とする。次は同値である。
これは Châtelet の定理と呼ばれる(GS06 第 5 章。本記事では証明しない)。1⇔3 は定理 中心単純環との対応 から直ちに従い、1⇒2 は明らかである。要点は 2⇒1 である。
$k$ 上有限型のスキーム $P$ について、$P_{\bar k} \cong \mathbb{P}^n_{\bar k}$ なら $P_{k^{\mathrm{s}}} \cong \mathbb{P}^n_{k^{\mathrm{s}}}$ であり、ある有限次 Galois 拡大 $L/k$ について $P_L \cong \mathbb{P}^n_L$ である。
この系は GS06 第 5 章にある。本記事では完全な証明を与えず、筋道だけを示す。次の 3 つの標準的な事実を使う(いずれも本記事では証明しない)。
$P$ を $k$ 上の Severi–Brauer 多様体、$A$ を対応する中心単純環、$k(P)$ を $P$ の関数体とする。制限写像 $\mathrm{Br}(k) \to \mathrm{Br}(k(P))$ の核は、$[A]$ で生成される巡回群である。
これは Amitsur の定理と呼ばれる(GS06 第 5 章。本記事では証明しない)。$[A]$ が核に入ることは、$k(P)$ 上で $P$ が有理点(生成点)をもち、定理 有理点による分裂の判定 により $A \otimes_k k(P)$ が分裂することから分かる。
$P$ を $k$ 上の $n$ 次元 Severi–Brauer 多様体($n \ge 1$)、$A$ を対応する中心単純環とする。$\mathrm{Pic}(P_{k^{\mathrm{s}}}) \cong \mathbb{Z}$($\mathcal{O}(1)$ が生成元)であり、完全列
$$
0 \to \mathrm{Pic}(P) \to \mathbb{Z} \to \mathrm{Br}(k)
$$
がある。ここで右の写像は $1$ を $\pm[A]$ に送る(符号は規約による)。とくに $\mathrm{Pic}(P) \to \mathbb{Z}$ の像は $e\mathbb{Z}$ である。ただし $e$ は $[A]$ の $\mathrm{Br}(k)$ における位数(周期)である。
この完全列は、$P_{k^{\mathrm{s}}}$ 上の大域的な可逆関数が定数だけであることから、Hochschild–Serre のスペクトル系列の低次の項として得られる(GS06 第 5 章、CTS21。本記事では証明しない)。とくに、$P$ が次数 $1$ の可逆層(幾何的に $\mathcal{O}(1)$ になる可逆層)をもつことと、$P$ が分裂することは同値である。
$1$ 次元の Severi–Brauer 多様体は、反標準層 $\omega_P^{-1}$(幾何的には $\mathcal{O}(2)$)によって $\mathbb{P}^2_k$ の中の滑らかな円錐曲線として埋め込まれる。逆に滑らかな円錐曲線は、$\bar k$ 上で $\mathbb{P}^1$ に同型なので Severi–Brauer 曲線である(GS06 第 1 章。本記事では証明しない)。
標数が $2$ でなければ、滑らかな円錐曲線は座標変換で $a x^2 + b y^2 = z^2$($a, b \in k^\times$)の形にでき、対応する中心単純環は四元数代数 $(a, b)_k$($i^2 = a$、$j^2 = b$、$ij = -ji$)である(GS06 第 1 章。本記事では証明しない)。
$k$ の標数を $2$ でないとし、$a, b \in k^\times$、$C \subset \mathbb{P}^2_k$ を $a x^2 + b y^2 = z^2$ で定まる円錐曲線とする。$L := k[T]/(T^2 - a)$ とおき、$N \colon L \to k$ をノルム写像($N(u + vT) = u^2 - a v^2$)とする。このとき、$C$ が $k$ 有理点をもつことと、$b \in N(L^\times)$ であることは同値である。
$b = N(u + vT) = u^2 - a v^2$ なら、$(x : y : z) = (v : 1 : u)$ は $a v^2 + b = u^2$ をみたすので $C$ の有理点である。
逆に $(x : y : z)$ を $C$ の有理点とする。$y \ne 0$ なら $y = 1$ としてよく、$b = z^2 - a x^2 = N(z + xT)$ であり、$b \ne 0$ なので $z + xT \in L^\times$ である。$y = 0$ なら $a x^2 = z^2$ で、$x = 0$ とすると $z = 0$ となり点にならないので $x \ne 0$ であり、$a = (z/x)^2$ は $k$ の平方である。このとき $a = c^2$($c \in k^\times$)として $L \cong k \times k$($T \mapsto (c, -c)$)であり、ノルムは $(s, t) \mapsto st$ となる。よって $b = N\bigl((b, 1)\bigr)$ はノルムである。$\square$
定理 有理点による分裂の判定 と合わせると、$(a, b)_k$ が分裂すること、$C$ が有理点をもつこと、$b$ が $k(\sqrt a)/k$ のノルムであることは同値である。
$f \colon P \to X$ を固有・平坦・有限表示の射とし、$X$ のすべての点 $x$ について幾何的ファイバー $P_{\bar x}$ が $\mathbb{P}^{r-1}_{\kappa(\bar x)}$ に同型であるとする。このとき $P$ は $X$ 上の相対次元 $r-1$ の Severi–Brauer スキームであり、さらに各点の開近傍 $U$ と有限エタール全射 $U' \to U$ で $P \times_X U' \cong \mathbb{P}^{r-1}_{U'}$ となるものが取れる。
これは Grothendieck が述べ(Gro68a §8)、Artin Art82 がスキームの言葉で整理した結果である。本記事では証明しない。
$\mathbb{P}^n_k$ は分裂する Severi–Brauer 多様体であり、対応する中心単純環は $M_{n+1}(k)$ である。スキームの上では、階数 $r$ の局所自由加群 $E$ の射影化 $\mathbb{P}(E)$ は Zariski 局所的に $\mathbb{P}^{r-1}$ なので Severi–Brauer スキームであり、対応する Azumaya 代数は $\mathcal{E}nd(E)$(規約によってはその反対代数)である。その Brauer 類は $0$ である。
$C \subset \mathbb{P}^2_{\mathbb{R}}$ を $x^2 + y^2 + z^2 = 0$ で定まる円錐曲線とする。これは $-x^2 - y^2 = z^2$ と同じなので、命題
円錐曲線の有理点とノルム
の $a = b = -1$ の場合であり、対応する中心単純環は Hamilton の四元数 $\mathbb{H} = (-1, -1)_{\mathbb{R}}$ である。
$C$ は実点をもたない(実数の平方和が $0$ なら全部 $0$)。したがって定理
有理点による分裂の判定
により $C \not\cong \mathbb{P}^1_{\mathbb{R}}$ であり、$\mathbb{H}$ は分裂しない。一方 $C_{\mathbb{C}} \cong \mathbb{P}^1_{\mathbb{C}}$ である。$[\mathbb{H}]$ の周期は $2$ なので、定理
Picard群の完全列
により、$C$ 上の可逆層の(幾何的な)次数はすべて偶数である。実際、反標準層は次数 $2$ である。
$k = \mathbb{Q}$、$a = -1$、$b = 3$ とし、$C$ を $-x^2 + 3y^2 = z^2$ とする。命題 円錐曲線の有理点とノルム により、$C$ が有理点をもつことは $3$ が $\mathbb{Q}(\sqrt{-1})/\mathbb{Q}$ のノルム、すなわち有理数の平方の和 $3 = u^2 + v^2$ であることと同値である。$3$ は有理数の 2 つの平方の和でない($u = p/q$、$v = r/q$ と通分して $3q^2 = p^2 + r^2$ とし、$3$ を法として平方剰余を見ると、$p, r$ がともに $3$ で割り切れることになり、無限降下に至る)。したがって $C$ は有理点をもたず、$(-1, 3)_{\mathbb{Q}}$ は $\mathbb{Q}$ 上の斜体である。
$Q \subset \mathbb{P}^3_{\mathbb{R}}$ を $x^2 + y^2 = z^2 + w^2$ で定まる 2 次曲面とする。$Q$ は実点 $(1 : 0 : 1 : 0)$ をもち、$\mathbb{R}$ 上有理的である。しかし $Q_{\mathbb{C}}$ は $\mathbb{P}^1 \times \mathbb{P}^1$ に同型であり、その Picard 群は $\mathbb{Z}^2$ で、$\mathbb{P}^2$ の Picard 群 $\mathbb{Z}$ と異なるので、$Q_{\mathbb{C}} \not\cong \mathbb{P}^2_{\mathbb{C}}$ である。どの拡大体 $K$ の上でも $Q_K \cong \mathbb{P}^2_K$ とはならない(なれば $\bar K$ 上でもそうなり、上と同じ理由で矛盾する)。
したがって $Q$ は定義の条件(ある拡大体の上で射影空間に同型)を満たさず、Severi–Brauer 多様体でない。実際、$Q$ は有理点をもつが $\mathbb{P}^2_{\mathbb{R}}$ に同型でない。定理
有理点による分裂の判定
の 2⇒1 は、「幾何的に射影空間」を「幾何的に有理的」に弱めると成り立たない。
$X = \operatorname{Spec} \mathbb{R}[t]$ とし、$P \subset \mathbb{P}^2_X$ を $x^2 + y^2 = t z^2$ で定まる円錐曲線の族とする。$P \to X$ は超曲面の族なので、固有・平坦・有限表示である。
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