Severi–Brauer多様体

同義語:セヴェリ・ブラウアー多様体Brauer–Severi多様体Severi–Brauer varietyBrauer–Severi variety

概要

Severi–Brauer多様体(Severi–Brauer variety)とは、体 $k$ 上の有限型スキーム $P$ で、ある拡大体 $K$ の上で射影空間 $\mathbb{P}^n_K$ に同型になるもの($\mathbb{P}^n$ の捻れた形)のことである。分裂体は有限次 Galois 拡大に取れ、$n$ 次元のものの同型類は $H^1(k, \mathrm{PGL}_{n+1})$ を通して次数 $n+1$ の中心単純環の同型類と一対一に対応する。$P$ が有理点をもつことと $P \cong \mathbb{P}^n_k$ であること、対応する中心単純環が分裂することは同値である(Châtelet の定理)。1 次元の場合は円錐曲線であり、四元数代数に対応する。スキーム上の類似は Azumaya 代数と対応する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 射影空間, 中心単純環, Galoisコホモロジー, Galois降下

定義

以下、$k$ を体、$k^{\mathrm{s}}$ をその分離閉包、$\bar k$ を代数閉包とし、$n \ge 0$ を整数とする。$k$ スキーム $P$ と体の拡大 $K/k$ について、$P_K := P \times_{\operatorname{Spec} k} \operatorname{Spec} K$ と書く。

体上のSeveri–Brauer多様体の定義

$k$ 上有限型のスキーム $P$ が、ある体の拡大 $K/k$ について $P_K \cong \mathbb{P}^n_K$($K$ スキームとしての同型)をみたすとき、$P$ を $k$ 上の $n$ 次元 Severi–Brauer 多様体(Severi–Brauer variety)という。このような $K$ を $P$ の分裂体という。$P \cong \mathbb{P}^n_k$ のとき、$P$ は分裂するという。

$1$ 次元の Severi–Brauer 多様体を Severi–Brauer 曲線という。下のcor-sb-separable により、分裂体は $k$ の有限次 Galois 拡大に取れる。したがって Severi–Brauer 多様体は、$\mathbb{P}^n_k$ の Galois 降下による捻れた形にほかならない。
スキームの上でも同じ概念を考える。

Severi–Brauerスキームの定義

$X$ をスキーム、$r \ge 1$ とする。$X$ スキーム $P$ が、$X$ のエタール被覆 $\{U_i \to X\}$ と $U_i$ スキームの同型 $P \times_X U_i \cong \mathbb{P}^{r-1}_{U_i}$ をもつとき、$P$ を $X$ 上の相対次元 $r-1$ の Severi–Brauer スキームという。

$X = \operatorname{Spec} k$ のとき、エタール被覆は有限次分離拡大体のスペクトルの有限個の和で細分できるので、Severi–Brauer スキームは(分離的な分裂体をもつ)Severi–Brauer 多様体と同じものである。

直感

$\mathbb{P}^n$ の自己同型群は $\mathrm{PGL}_{n+1}$ であり、これは行列代数 $M_{n+1}$ の自己同型群でもある。したがって「$\mathbb{P}^n$ の捻れた形」と「$M_{n+1}$ の捻れた形」、すなわち Severi–Brauer 多様体と次数 $n+1$ の中心単純環は、同じ Galois コホモロジー集合 $H^1(k, \mathrm{PGL}_{n+1})$ で分類される。
Severi–Brauer 多様体は、Brauer群 の元を幾何的な対象として見せる。中心単純環が分裂することは、対応する Severi–Brauer 多様体が有理点をもつことと同値になる。実数体上の円錐曲線 $x^2 + y^2 + z^2 = 0$ は、実点をもたないことで Hamilton の四元数の非自明さを表している。

分類

$\mathbb{P}^n_K$ の $K$ スキームとしての自己同型群は $\mathrm{PGL}_{n+1}(K)$ である(NSW20 第 VI 章 §2、p. 347。この記事では証明しない)。これと Galois 降下から、次の分類が得られる。

中心単純環との対応

次の 3 つの集合の間に、自然な全単射がある。

  1. $k$ 上の $n$ 次元 Severi–Brauer 多様体の同型類(分離的な分裂体をもつもの)。
  2. 非可換 Galois コホモロジー集合 $H^1(k, \mathrm{PGL}_{n+1})$。
  3. $k$ 上の次数 $n+1$ の中心単純環の同型類。
    中心単純環 $A$ に対応する Severi–Brauer 多様体 $\mathrm{SB}(A)$ は、$A$ の $k$ 上次元 $n+1$ の右イデアルのなす(Grassmann 多様体の閉部分多様体としての)多様体として具体的に構成できる。
分類の所在

この記事では証明しない。1 と 2 の対応は Galois 降下による(NSW20 定理 (6.2.6)、p. 348。Ser79 第 X 章 §6、p. 160。Poo17 §4.5.1)。2 と 3 の対応は Stacks Tag 03R6 にあり、Brauer 群への写像と両立することは NSW20 定理 (6.3.9)(pp. 354–355)にある。右イデアルによる $\mathrm{SB}(A)$ の構成は Ser79 第 X 章 §6(p. 160)に述べられている。

右イデアルと直線

$A = \operatorname{End}_k(V)$($\dim V = n+1$)のとき、$V$ の直線 $L$ に対して $\{\, f \in A \mid f(V) \subset L \,\}$ は次元 $n+1$ の右イデアルであり、次元 $n+1$ の右イデアルはすべてこの形である。こうして $\mathrm{SB}(\operatorname{End}(V))$ は $V$ の直線のなす射影空間になる。左イデアルを使うと超平面のなす射影空間(双対射影空間)が得られ、対応する中心単純環は $A$ から $A^{\mathrm{op}}$ に入れ替わる。どちらの規約を取るかは文献によって異なる。

中心拡大 $1 \to \mathbb{G}_m \to \mathrm{GL}_{n+1} \to \mathrm{PGL}_{n+1} \to 1$ の余境界により、Severi–Brauer 多様体 $P$ は Brauer 類 $\delta(P) \in \mathrm{Br}(k)$ を定める。これは対応する中心単純環の類(規約によってはその逆元)である。
スキームの上でも同じ形の分類が成り立つ。相対次元 $r-1$ の Severi–Brauer スキームの同型類は $H^1(X_{\mathrm{\acute{e}t}}, \mathrm{PGL}_r)$ と一対一に対応し、したがって次数 $r$ の Azumaya代数 の同型類と一対一に対応する(Gro65 8.1・8.4。この記事では証明しない)。

性質

有理点と分裂

有理点による分裂の判定

$P$ を $k$ 上の $n$ 次元 Severi–Brauer 多様体、$A$ を対応する中心単純環とする。次は同値である。

  1. $P \cong \mathbb{P}^n_k$。
  2. $P$ は $k$ 有理点をもつ。
  3. $A$ は分裂する($A \cong M_{n+1}(k)$)。
Châtelet の定理の所在

これは Châtelet の定理と呼ばれる(Poo17 命題 4.5.10)。1⇔3 はthm-sb-classification から直ちに従い、1⇒2 は明らかである。要点は 2⇒1 である。一般の $n$ の証明はこの記事では扱わないが、$n=1$ の場合は下のprop-sb-conic-point で示す。

$1$ 次元の場合には、2⇒1 を射影によって直接示せる。以下、$\mathbb{P}^2_k$ の円錐曲線とは、$0$ でない 2 次形式 $Q(x,y,z)$ の零点で定まる閉部分スキーム $C=V(Q)$ のことであり、$C$ が滑らかとは $C_{\bar k}$ に特異点($Q$ と 3 つの偏微分がすべて $0$ になる点)がないことをいう。

有理点をもつ滑らかな円錐曲線

体 $k$(標数は任意)上の滑らかな円錐曲線 $C\subset\mathbb{P}^2_k$ が $k$ 有理点 $P$ をもてば、$C\cong\mathbb{P}^1_k$ である。より詳しく、$P$ を通る直線の族 $\mathbb{P}^1_k$ から $C$ への同型で、直線 $\ell$ を「$\ell\cap C$ のうち $P$ でない方の点($\ell$ が $P$ で接するなら $P$)」に送るものがある。

座標を取り替えて $P=(0:0:1)$ とする。$Q(0,0,1)=0$ なので $Q$ に $z^2$ の項はなく、$Q(x,y,z)=z\,L(x,y)+q(x,y)$($L$ は 1 次形式、$q$ は 2 次形式)と書ける。$P$ での偏微分は $(\partial_xQ,\partial_yQ,\partial_zQ)(P)=(L_x,L_y,0)$($L=L_xx+L_yy$)なので、$C$ が $P$ で滑らかであることから $L\ne0$ である。
直線を含まないこと。$(s,t)\ne(0,0)$($\bar k$ の元でよい)について $L(s,t)=q(s,t)=0$ なら、すべての $z$ で $Q(s,t,z)=0$ となり、$P$ と $(s:t:0)$ を結ぶ直線が $C_{\bar k}$ に含まれる。すると $Q$ はその直線の方程式 $m$ で割り切れて $Q=m\,m'$ となり、2 直線 $m=0$、$m'=0$ の交点($m'$ が $m$ の定数倍なら直線上のすべての点)で $Q$ と偏微分がすべて $0$ になるので、$C$ は滑らかでない。よって $L$ と $q$ は $\bar k$ 上で共通の零点 $(s:t)$ をもたない。
写像 $\varphi\colon\mathbb{P}^1_k\to C$。$\varphi(s:t):=\bigl(s\,L(s,t):t\,L(s,t):-q(s,t)\bigr)$ とおく。3 つの成分は同時に $0$ にならない($L(s,t)=0$ なら $q(s,t)\ne0$)ので、$\varphi$ は $\mathbb{P}^1_k$ から $\mathbb{P}^2_k$ への射である。$L$ が 1 次、$q$ が 2 次であることから
$$ Q\bigl(sL,tL,-q\bigr)=-q\cdot L(sL,tL)+q(sL,tL)=-q\,L^2+L^2q=0 $$
なので、$\varphi$ は $C$ に入る。$L(s,t)=0$ となる $(s:t)$ はただ 1 つ($L$ の零点。$P$ での接線の方向)で、そこでは $\varphi(s:t)=(0:0:-q(s,t))=P$ である。
逆写像 $\psi\colon C\to\mathbb{P}^1_k$。$C\setminus\{P\}$ の点 $(x:y:z)$ では $(x,y)\ne(0,0)$ であり、上の段落により $L(x,y)\ne0$($L(x,y)=0$ なら方程式から $q(x,y)=0$ となり矛盾)なので $z=-q(x,y)/L(x,y)$ である。$\psi(x:y:z):=(x:y)$ とおくと、$\varphi(\psi(x:y:z))=(xL:yL:-q)=(x:y:z)$、$\psi(\varphi(s:t))=(s:t)$($L(s,t)\ne0$ のとき)である。$\psi$ は $P$ でも射として延びて $P$ を $L$ の零点に送る。

詳細

$L$ と 1 次独立な 1 次形式 $M$ をとり、$(x:y)$ を $(L(x,y):M(x,y))$ で表す($\mathbb P^1$ の座標変換)。$q=aL^2+bLM+cM^2$ と書くと、$L$ の零点で $M\ne0$ なので $c\ne0$ である($c=0$ なら $L$ と $q$ が共通の零点をもつ)。$P$ の近くでは $z=1$ として $C$ の方程式は $L(1+aL+bM)=-cM^2$ であり、$L$・$M$ は $P$ で $0$、$1+aL+bM$ は $P$ で $1$ である。よって $M\ne0$ となる点で $(L:M)=(-cM:1+aL+bM)$ が成り立ち、右辺は $P$ の近くで定義されて $P$ で $(0:1)$、すなわち $L$ の零点をとる。こうして $\psi$ は $P$ の近傍でも射として定義され、$\varphi\circ\psi$ と $\psi\circ\varphi$ はそれぞれ稠密な開集合の上で恒等写像に一致する被約で分離的なスキームの射なので、恒等射である。


したがって $\varphi$ は同型 $\mathbb{P}^1_k\cong C$ である。$\square$

この証明は thm-sb-chatelet の 2⇒1 の $n=1$ の場合を、分類定理を使わずに与えている。逆に有理点をもたない円錐曲線は、ex-sb-real-conic のように $\mathbb{P}^1_k$ と同型でない。

分離的な分裂体

$k$ 上有限型のスキーム $P$ について、$P_{\bar k} \cong \mathbb{P}^n_{\bar k}$ なら $P_{k^{\mathrm{s}}} \cong \mathbb{P}^n_{k^{\mathrm{s}}}$ であり、ある有限次 Galois 拡大 $L/k$ について $P_L \cong \mathbb{P}^n_L$ である。

系の証明の筋道

この系は Poo17 注意 4.5.9 にある。この記事では完全な証明を与えず、筋道だけを示す。次の 3 つの標準的な事実を使う(いずれも本記事では証明しない)。

  • (a) 分離閉体上の、空でない滑らかな多様体は有理点をもつ。
  • (b) 任意の体の拡大を分裂体として許した形で、Châtelet の定理(有理点をもつ Severi–Brauer 多様体は射影空間に同型である)が成り立つ。
  • (c) 有限型のスキームの間の同型は、帰納極限 $k^{\mathrm{s}} = \varinjlim L$($L$ は有限次分離拡大)のある段階 $L$ で既に定義される。
    $P_{\bar k} \cong \mathbb{P}^n_{\bar k}$ なので、$P$ は $k$ 上滑らかで幾何的に整である(滑らかさは体の拡大で下降する)。(a) により $P_{k^{\mathrm{s}}}$ は $k^{\mathrm{s}}$ 有理点をもつ。$P_{k^{\mathrm{s}}}$ は $\bar k$ を分裂体とする $k^{\mathrm{s}}$ 上の Severi–Brauer 多様体なので、(b) により $P_{k^{\mathrm{s}}} \cong \mathbb{P}^n_{k^{\mathrm{s}}}$ である。(c) により、この同型は $k$ のある有限次分離拡大 $L$ の上で既に定義されており、$L$ をその Galois 閉包に取り替えてよい。

Brauer 群と Picard 群

関数体への制限の核

$P$ を $k$ 上の Severi–Brauer 多様体、$A$ を対応する中心単純環、$k(P)$ を $P$ の関数体とする。制限写像 $\mathrm{Br}(k) \to \mathrm{Br}(k(P))$ の核は、$[A]$ で生成される巡回群である。

Amitsur の定理の所在

これは Amitsur の定理と呼ばれる(GS06 第 5 章。この記事では証明しない)。$[A]$ が核に入ることは、$k(P)$ 上で $P$ が有理点(生成点)をもち、thm-sb-chatelet により $A \otimes_k k(P)$ が分裂することから分かる。

Picard群の完全列

$P$ を $k$ 上の $n$ 次元 Severi–Brauer 多様体($n \ge 1$)、$A$ を対応する中心単純環とする。$\mathrm{Pic}(P_{k^{\mathrm{s}}}) \cong \mathbb{Z}$($\mathcal{O}(1)$ が生成元)であり、完全列
$$ 0 \to \mathrm{Pic}(P) \to \mathbb{Z} \to \mathrm{Br}(k) $$
がある。ここで右の写像は $1$ を $\pm[A]$ に送る(符号は規約による)。とくに $\mathrm{Pic}(P) \to \mathbb{Z}$ の像は $e\mathbb{Z}$ である。ただし $e$ は $[A]$ の $\mathrm{Br}(k)$ における位数(周期)である。

Picard 群の完全列の所在

この完全列は、$P_{k^{\mathrm{s}}}$ 上の大域的な可逆関数が定数だけであることから、Hochschild–Serre のスペクトル系列の低次の項として得られる(Poo17 命題 4.5.12 の証明の概略。$1$ の像が $[A]$ であることは GS06 第 5 章。この記事では証明しない)。とくに、$P$ が次数 $1$ の可逆層(幾何的に $\mathcal{O}(1)$ になる可逆層)をもつことと、$P$ が分裂することは同値である。

曲線の場合

$1$ 次元の Severi–Brauer 多様体は、反標準層 $\omega_P^{-1}$(幾何的には $\mathcal{O}(2)$)によって $\mathbb{P}^2_k$ の中の滑らかな円錐曲線として埋め込まれる。逆に滑らかな円錐曲線は、$\bar k$ 上で $\mathbb{P}^1$ に同型なので Severi–Brauer 曲線である(Ser79 第 X 章 §6 の例 1、p. 160。$1$ 次元の Severi–Brauer 多様体が種数 $0$ の滑らかな射影曲線と同じものであることは Poo17 例 4.5.8。この記事では証明しない)。$\bar k$ 上で $\mathbb{P}^1$ に同型になることは、$\bar k$ 有理点をとってprop-sb-conic-point を $\bar k$ 上で使えば分かる。
標数が $2$ でなければ、滑らかな円錐曲線は座標変換で $a x^2 + b y^2 = z^2$($a, b \in k^\times$)の形にでき、対応する中心単純環は四元数代数 $(a, b)_k$($i^2 = a$、$j^2 = b$、$ij = -ji$)である(Voi21 系 5.5.2・定理 5.5.3、p. 77。Ser79 第 XIV 章 §2 の注意 3、p. 207。この記事では証明しない)。

円錐曲線の有理点とノルム

$k$ の標数を $2$ でないとし、$a, b \in k^\times$、$C \subset \mathbb{P}^2_k$ を $a x^2 + b y^2 = z^2$ で定まる円錐曲線とする。$L := k[T]/(T^2 - a)$ とおき、$N \colon L \to k$ をノルム写像($N(u + vT) = u^2 - a v^2$)とする。このとき、$C$ が $k$ 有理点をもつことと、$b \in N(L^\times)$ であることは同値である。

座標の場合分け

$b = N(u + vT) = u^2 - a v^2$ なら、$(x : y : z) = (v : 1 : u)$ は $a v^2 + b = u^2$ をみたすので $C$ の有理点である。
逆に $(x : y : z)$ を $C$ の有理点とする。$y \ne 0$ なら $y = 1$ としてよく、$b = z^2 - a x^2 = N(z + xT)$ であり、$b \ne 0$ なので $z + xT \in L^\times$ である。$y = 0$ なら $a x^2 = z^2$ で、$x = 0$ とすると $z = 0$ となり点にならないので $x \ne 0$ であり、$a = (z/x)^2$ は $k$ の平方である。このとき $a = c^2$($c \in k^\times$)として $L \cong k \times k$($T \mapsto (c, -c)$)であり、ノルムは $(s, t) \mapsto st$ となる。よって $b = N\bigl((b, 1)\bigr)$ はノルムである。$\square$

thm-sb-chatelet と合わせると、$(a, b)_k$ が分裂すること、$C$ が有理点をもつこと、$b$ が $k(\sqrt a)/k$ のノルムであることは同値である。

スキーム上のファイバーによる判定

幾何的ファイバーによる判定

$f \colon P \to X$ を固有・平坦・有限表示の射とし、$X$ のすべての点 $x$ について幾何的ファイバー $P_{\bar x}$ が $\mathbb{P}^{r-1}_{\kappa(\bar x)}$ に同型であるとする。このとき $P$ は $X$ 上の相対次元 $r-1$ の Severi–Brauer スキームであり、さらに各点の開近傍 $U$ と有限エタール全射 $U' \to U$ で $P \times_X U' \cong \mathbb{P}^{r-1}_{U'}$ となるものが取れる。

判定の所在

これは Gro65 定理 8.2・系 8.3 にある(そこでは、形式幾何の手法で示せると述べて主張を掲げている)。この記事では証明しない。

例

射影空間と射影束

$\mathbb{P}^n_k$ は分裂する Severi–Brauer 多様体であり、対応する中心単純環は $M_{n+1}(k)$ である。スキームの上では、階数 $r$ の局所自由加群 $E$ の射影化 $\mathbb{P}(E)$ は Zariski 局所的に $\mathbb{P}^{r-1}$ なので Severi–Brauer スキームであり、対応する Azumaya 代数は $\mathcal{E}nd(E)$(規約によってはその反対代数)である。その Brauer 類は $0$ である。

実点をもたない円錐曲線

$C \subset \mathbb{P}^2_{\mathbb{R}}$ を $x^2 + y^2 + z^2 = 0$ で定まる円錐曲線とする。これは $-x^2 - y^2 = z^2$ と同じなので、prop-sb-conic-norm の $a = b = -1$ の場合であり、対応する中心単純環は Hamilton の四元数 $\mathbb{H} = (-1, -1)_{\mathbb{R}}$ である。
$C$ は実点をもたない(実数の平方和が $0$ なら全部 $0$)。したがってthm-sb-chatelet により $C \not\cong \mathbb{P}^1_{\mathbb{R}}$ であり、$\mathbb{H}$ は分裂しない。一方 $C_{\mathbb{C}} \cong \mathbb{P}^1_{\mathbb{C}}$ である。$[\mathbb{H}]$ の周期は $2$ なので、thm-sb-picard により、$C$ 上の可逆層の(幾何的な)次数はすべて偶数である。実際、反標準層は次数 $2$ である。

有理数体上の円錐曲線

$k = \mathbb{Q}$、$a = -1$、$b = 3$ とし、$C$ を $-x^2 + 3y^2 = z^2$ とする。prop-sb-conic-norm により、$C$ が有理点をもつことは $3$ が $\mathbb{Q}(\sqrt{-1})/\mathbb{Q}$ のノルム、すなわち有理数の平方の和 $3 = u^2 + v^2$ であることと同値である。$3$ は有理数の 2 つの平方の和でない($u = p/q$、$v = r/q$ と通分して $3q^2 = p^2 + r^2$ とし、$3$ を法として平方剰余を見ると、$p, r$ がともに $3$ で割り切れることになり、無限降下に至る)。したがって $C$ は有理点をもたず、$(-1, 3)_{\mathbb{Q}}$ は $\mathbb{Q}$ 上の斜体である。

反例

反例:幾何的に射影空間でない有理多様体

$Q \subset \mathbb{P}^3_{\mathbb{R}}$ を $x^2 + y^2 = z^2 + w^2$ で定まる 2 次曲面とする。$Q$ は実点 $(1 : 0 : 1 : 0)$ をもち、$\mathbb{R}$ 上有理的である。しかし $Q_{\mathbb{C}}$ は $\mathbb{P}^1 \times \mathbb{P}^1$ に同型であり、その Picard 群は $\mathbb{Z}^2$ で、$\mathbb{P}^2$ の Picard 群 $\mathbb{Z}$ と異なるので、$Q_{\mathbb{C}} \not\cong \mathbb{P}^2_{\mathbb{C}}$ である。どの拡大体 $K$ の上でも $Q_K \cong \mathbb{P}^2_K$ とはならない(なれば $\bar K$ 上でもそうなり、上と同じ理由で矛盾する)。
したがって $Q$ は定義の条件(ある拡大体の上で射影空間に同型)を満たさず、Severi–Brauer 多様体でない。実際、$Q$ は有理点をもつが $\mathbb{P}^2_{\mathbb{R}}$ に同型でない。**thm-sb-chatelet の 2⇒1 は、「幾何的に射影空間」を「幾何的に有理的」に弱めると成り立たない。**

反例:退化したファイバーをもつ円錐曲線の族

$X = \operatorname{Spec} \mathbb{R}[t]$ とし、$P \subset \mathbb{P}^2_X$ を $x^2 + y^2 = t z^2$ で定まる円錐曲線の族とする。$P \to X$ は超曲面の族なので、固有・平坦・有限表示である。

  • $t = 0$ のファイバー。幾何的ファイバーは $x^2 + y^2 = 0$、すなわち $\mathbb{C}$ 上で交わる 2 本の直線 $x = \pm \sqrt{-1}\, y$ であり、$\mathbb{P}^1$ に同型でない。thm-sb-fiber-criterion の仮定(すべての幾何的ファイバーが射影空間)をこの点で満たさない。実際 $P$ は $X$ 上の Severi–Brauer スキームでない(Severi–Brauer スキームの幾何的ファイバーはすべて射影空間だから)。
  • $t \ne 0$ の部分。幾何的ファイバーは滑らかな円錐曲線で $\mathbb{P}^1$ に同型なので、同じ定理により $P$ は $X \smallsetminus \{0\}$ 上の Severi–Brauer スキームである。
  • Zariski 局所的に自明でないこと。$P$ の生成ファイバーは $\mathbb{R}(t)$ 上の円錐曲線 $x^2 + y^2 = t z^2$ である。$\mathbb{R}(t)$ で $t$ は 2 つの平方の和でない(平方の和である有理関数は、定義されている実数の点で $0$ 以上の値をとるが、$t$ は $t < 0$ で負になる)。$z = 0$ の点は $x = y = 0$ を強いるので存在せず、したがって生成ファイバーは有理点をもたない。よって $X \smallsetminus \{0\}$ のどの空でない開集合の上にも $P$ の切断はなく、$P$ は $X \smallsetminus \{0\}$ のどの点の近くでも Zariski 局所的に自明ではない。判定定理の「有限エタール全射」を Zariski 開近傍に置き換えることはできない。

関連項目

参考文献

[2]
Alexander Grothendieck, Le groupe de Brauer : I. Algèbres d'Azumaya et interprétations diverses, Séminaire Bourbaki, 17e année, 1964/65, exposé no 290, §8(8.1–8.4、定理 8.2・系 8.3)
[5]
Jean-Pierre Serre, Local Fields (Graduate Texts in Mathematics 67), Springer, Chapter X §6(p. 160)、Chapter XIV §2(p. 207)

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