Erdős–Rényiのランダムグラフ

同義語:Erdős-RényiのランダムグラフErdős–Rényi random graphErdős–RényiモデルErdős–Rényi model二項ランダムグラフbinomial random graph

概要

Erdős–Rényiのランダムグラフ(Erdős–Rényi random graph)とは、$n$ 個の頂点の各対を独立に確率 $p$ で辺で結んだ無作為なグラフ $G(n,p)$、または $m$ 本の辺をもつグラフから等確率に 1 つ選んだ $G(n,m)$ のことである。$G(n,p)$ を辺の本数が $m$ という条件で見ると $G(n,m)$ になる。$p$ を $n$ の関数として動かすと性質が急に現れる閾値の現象があり、辺を加えて保たれる自明でない性質はかならず閾値をもつ(Bollobás–Thomason の定理)。連結性と孤立点がないことは $\frac{\ln n}n$ を鋭い閾値とし、$p=\frac cn$ では $c>1$ のときに頂点の一定の割合を含む巨大な連結成分がただ 1 つ現れる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: グラフ, 有限確率空間, 二項分布, Chebyshevの不等式, 連結グラフ

$n$ 個の頂点の各対を、硬貨を投げて独立に確率 $p$ で辺で結ぶ。こうして得られる無作為なグラフを Erdős–Rényi のランダムグラフ(Erdős–Rényi random graph)といい、$G(n,p)$ と書く。辺の本数を $m$ に固定して、$m$ 本の辺をもつグラフから等確率に 1 つ選ぶ模型 $G(n,m)$ もあり、どちらも同じ名でよばれる。ランダムグラフの理論は Erdős と Rényi の論文に始まり、$G(n,p)$ の形は Gilbert が導入した(FK26 pp. 3–4)。
$n$ を大きくしながら $p$ を $n$ の関数として動かすと、$G(n,p)$ の姿は $p$ のある大きさを境に急に変わる。たとえば $p$ が $\frac{\ln n}n$ より少し小さければほとんど確実に孤立した頂点が残り、少し大きければほとんど確実に連結になる。$p=\frac cn$ では、$c<1$ なら連結成分はどれも小さいが、$c>1$ になると頂点の一定の割合を含む巨大な成分が現れる。この記事では 2 つの模型を定義して関係を示し、単調な性質がかならず「閾値」をもつこと(Bollobás–Thomason の定理)と、連結性の閾値が $\frac{\ln n}n$ であることを証明する。巨大な成分の出現は主張と所在を述べ、条件を外すと結論が崩れる例を表にまとめる。

2 つの模型

以下、頂点集合を $[n]:=\{1,\dots,n\}$ とし、グラフは グラフ の記事の定義「グラフの定義」の単純無向グラフとする。$N:=\binom n2$ と書き、$[n]$ の 2 元部分集合(頂点の対)を単に「対」とよぶ。$[n]$ 上のグラフは辺集合で決まり、ちょうど $2^N$ 個ある(グラフ の記事の命題「ラベル付きグラフの個数」)。グラフ $G$ の辺の本数を $e(G)$ と書く。

二項ランダムグラフと一様ランダムグラフ
  1. $0\le p\le1$ とする。$[n]$ 上のグラフ全体を根元事象とし、グラフ $G$ に確率 $p^{e(G)}(1-p)^{N-e(G)}$ を与えた 有限確率空間 を $G(n,p)$ と書き、これに従う無作為なグラフを 二項ランダムグラフ(binomial random graph)という。
  2. $0\le m\le N$ を整数とする。$[n]$ 上の $m$ 本の辺をもつグラフ全体を根元事象とし、各グラフに確率 $\binom Nm^{-1}$ を与えた有限確率空間を $G(n,m)$ と書き、これに従う無作為なグラフを 一様ランダムグラフ(uniform random graph)という。
    文脈で区別がつくときは、どちらも Erdős–Rényi のランダムグラフ という。$G(n,p)$ に従う無作為なグラフを $G\sim G(n,p)$ と書く。

$G(n,p)$ では、対 $e$ が辺になる事象を $A_e$ とすると、$N$ 個の事象 $A_e$ は独立で、どれも確率 $p$ をもつ。実際、相異なる対 $e_1,\dots,e_r$ を指定すると、それらがすべて辺になるグラフの確率の和は、残りの $N-r$ 個の対を辺にするかどうかで二項展開して $p^r(p+(1-p))^{N-r}=p^r$ になる。したがって辺の本数 $e(G)$ は試行回数 $N$、成功確率 $p$ の 二項分布 に従い、平均は $Np$、分散は $Np(1-p)$ である(二項分布 の命題「二項分布の期待値と分散」)。各頂点の次数は試行回数 $n-1$ の二項分布に従う。$p=\frac cn$($c>0$ は定数)なら、次数の分布は $n\to\infty$ で平均 $c$ の Poisson 分布に近づく(Poisson分布 の系「少数の法則」)。
$p=\frac12$ のとき、どのグラフの確率も $2^{-N}$ なので、$G(n,\frac12)$ は $[n]$ 上のグラフ全体からの一様な選び方である。$G(n,\frac12)$ で性質が成り立つ確率は、その性質をもつグラフの割合にほかならない。
2 つの模型は、辺の本数で条件を付けると一致する。

辺の本数による条件付け

$0< p< 1$、$0\le m\le N$ とし、$G\sim G(n,p)$ とする。$e(G)=m$ という条件のもとで、$G$ は $m$ 本の辺をもつ各グラフをどれも確率 $\binom Nm^{-1}$ でとる。すなわち、条件付きの分布は $G(n,m)$ である。

$e(G_0)=m$ を満たすグラフ $G_0$ について、事象 $\{G=G_0\}$ は $\{e(G)=m\}$ に含まれ、$P(e(G)=m)=\binom Nmp^m(1-p)^{N-m}>0$ なので、
$$ P(G=G_0\mid e(G)=m)=\frac{P(G=G_0)}{P(e(G)=m)}=\frac{p^m(1-p)^{N-m}}{\binom Nmp^m(1-p)^{N-m}}=\binom Nm^{-1} $$
である。$\square$

$Np\to\infty$ なら、Chebyshevの不等式 の定理「Chebyshev の不等式」により、任意の $\varepsilon>0$ について $P(\lvert e(G)-Np\rvert\ge\varepsilon Np)\le\frac{Np(1-p)}{(\varepsilon Np)^2}\to0$ である。つまり $G(n,p)$ の辺の本数はほとんど確実に $Np$ に近く、上の命題と合わせて、$m$ が $Np$ に近いとき $G(n,m)$ と $G(n,p)$ は似た振る舞いをする。この近さを正確にした比較定理は FK26 Theorem 1.4(p. 9)にある(この記事では証明しない)。$G(n,p)$ は辺が独立なので計算しやすく、以下では主に $G(n,p)$ を扱う。

単調な性質と重ね合わせ

$[n]$ 上のグラフの集合 $\mathcal A$ を グラフの性質 といい、$G\in\mathcal A$ を「$G$ は性質 $\mathcal A$ をもつ」と読む。実際には「連結である」「三角形を含む」のように各 $n$ ごとに定まる性質の列を考え、$n$ を省いて書く。$P_p(\mathcal A):=P(G\in\mathcal A)$($G\sim G(n,p)$)と書く。

単調な性質

グラフの性質 $\mathcal A$ が 単調増加 であるとは、$G\in\mathcal A$ で $G$ に辺を加えたグラフ $G'$ がつねに $G'\in\mathcal A$ を満たすことをいう。辺を除いても保たれるとき 単調減少 という。単調増加な $\mathcal A$ が、辺のないグラフを含まず、完全グラフ $K_n$ を含むとき、自明でない という。

「連結である」「三角形を含む」「Hamilton 閉路をもつ」は単調増加であり、「孤立点(次数 $0$ の頂点)をもつ」「平面グラフである」は単調減少である。$\mathcal A$ が単調増加であることと、その補集合が単調減少であることは同値である。
独立な 2 つのランダムグラフを重ねると、またランダムグラフになる。

独立な重ね合わせと単調性
  1. $G_1\sim G(n,p_1)$ と $G_2\sim G(n,p_2)$ が独立なら、辺集合の合併をもつグラフ $G_1\cup G_2$ は $G(n,1-(1-p_1)(1-p_2))$ に従う。
  2. $\mathcal A$ が単調増加な性質で $0\le p\le p'\le1$ なら、$P_p(\mathcal A)\le P_{p'}(\mathcal A)$ である。とくに $P_p(\mathcal A)$ は $p$ の単調非減少な多項式である。

1:対 $e$ が $G_1\cup G_2$ の辺でないのは、$G_1$ と $G_2$ のどちらでも辺でないときであり、その確率は独立性から $(1-p_1)(1-p_2)$ である。また、$e$ が $G_1\cup G_2$ の辺かどうかは $e$ についての $G_1$・$G_2$ の結果だけで決まり、相異なる対についてのこれらの結果は全体として独立なので、$N$ 個の事象「$e$ が $G_1\cup G_2$ の辺である」は独立である。辺の事象が独立で同じ確率をもつグラフの分布は、各グラフの確率が $q^{e(G)}(1-q)^{N-e(G)}$ となるので $G(n,q)$ である($q:=1-(1-p_1)(1-p_2)$)。
2:$p'=1$ なら $G(n,1)$ は確率 1 で $K_n$ であり、$P_p(\mathcal A)>0$ なら $\mathcal A$ はあるグラフを含み、単調増加なので $K_n\in\mathcal A$ となって右辺は $1$ である($P_p(\mathcal A)=0$ なら明らか)。$p'< 1$ なら $q:=\frac{p'-p}{1-p}\in[0,1]$ とおくと $1-(1-p)(1-q)=p'$ なので、1 により、独立な $G_1\sim G(n,p)$、$G_2\sim G(n,q)$ をとれば $G_1\cup G_2\sim G(n,p')$ である。$G_1\in\mathcal A$ なら $G_1\cup G_2$ は $G_1$ に辺を加えたものなので $\mathcal A$ に属する。よって $P_p(\mathcal A)=P(G_1\in\mathcal A)\le P(G_1\cup G_2\in\mathcal A)=P_{p'}(\mathcal A)$ である。$P_p(\mathcal A)=\sum_{G\in\mathcal A}p^{e(G)}(1-p)^{N-e(G)}$ は $p$ の多項式である。$\square$

2 は「辺を増やしやすくすれば、単調増加な性質は成り立ちやすくなる」という直観どおりのことだが、式 $\sum_{G\in\mathcal A}p^{e(G)}(1-p)^{N-e(G)}$ の形からは直接は見えない。1 のように 1 つの確率空間の上で 2 つのランダムグラフを同時に作って比べる方法を 結合(coupling)という。

閾値

以下、各 $n\ge2$ について $p=p(n)\in[0,1]$ を与え、$n\to\infty$ での振る舞いを考える。事象の列 $E_n$ が $P(E_n)\to1$ を満たすとき、$E_n$ は 漸近的にほとんど確実に(asymptotically almost surely)起こるという。

閾値と鋭い閾値

$\mathcal A$ を単調増加な性質とし、$p^*=p^*(n)\in(0,1]$ とする。

  1. $p/p^*\to0$ となるどの列 $p=p(n)$ についても $P_p(\mathcal A)\to0$ であり、$p/p^*\to\infty$ となるどの列についても $P_p(\mathcal A)\to1$ であるとき、$p^*$ を $\mathcal A$ の 閾値(threshold)という。
  2. 任意の $\varepsilon>0$ について、十分大きいすべての $n$ で $p\le(1-\varepsilon)p^*$ を満たすどの列でも $P_p(\mathcal A)\to0$ であり、十分大きいすべての $n$ で $p\ge(1+\varepsilon)p^*$ を満たすどの列でも $P_p(\mathcal A)\to1$ であるとき、$p^*$ を 鋭い閾値(sharp threshold)という。

閾値は定数倍の違いを除いてしか決まらない($p^*$ が閾値なら $\frac12p^*$ も閾値である)。鋭い閾値は閾値である。定義は FK26 Definition 1.6・1.9(pp. 10–11)と同じであり、単調減少な性質には補集合の閾値を使う。

辺の出現

「辺を少なくとも 1 本もつ」という性質の閾値は $n^{-2}$ である。$P_p(\text{辺がある})=1-(1-p)^N$ であり、$N\le n^2$ なので $p/n^{-2}\to0$ なら $1-(1-p)^N\le Np\le n^2p\to0$ である。$N\ge n^2/4$($n\ge2$)なので、$p/n^{-2}\to\infty$ なら $(1-p)^N\le e^{-Np}\le e^{-n^2p/4}\to0$ である。

三角形を含む性質の閾値は $\frac1n$ である(確率論的方法 の命題「ランダムグラフの三角形」)。一般に、辺をもつ固定したグラフ $H$ を部分グラフとして含む性質の閾値は $n^{-1/m(H)}$ である。ここで $m(H)$ は $H$ の部分グラフ $H'$ にわたる $\frac{e(H')}{\lvert V(H')\rvert}$ の最大値である(FK26 Theorem 5.3、p. 77。この記事では証明しない)。
閾値の存在そのものは、単調性だけから従う。

Bollobás–Thomason の定理

各 $n$ について自明でない単調増加な性質 $\mathcal A$ は閾値をもつ。具体的には、$P_{p^*}(\mathcal A)=\frac12$ となる $p^*\in(0,1)$ が閾値である。

要点:独立な $k$ 個の写しを重ねると、確率 $kp$ 以下のランダムグラフになる。

詳細

$f(p):=P_p(\mathcal A)$ とおく。prop-er-coupling の 2 により $f$ は連続な単調非減少関数で、$\mathcal A$ が自明でないので $f(0)=0$、$f(1)=1$ である。中間値の定理により $f(p^*)=\frac12$ となる $p^*$ があり、$p^*\ne0,1$ である。

段 1。 整数 $k\ge1$ と $kp\le1$ を満たす $p$ について $1-f(kp)\le(1-f(p))^k$ を示す。独立な $G_1,\dots,G_k\sim G(n,p)$ をとると、prop-er-coupling の 1 を繰り返し使って $H:=G_1\cup\cdots\cup G_k\sim G(n,1-(1-p)^k)$ である。Bernoulli の不等式 $(1-p)^k\ge1-kp$ により $1-(1-p)^k\le kp$ なので、prop-er-coupling の 2 から $f(kp)\ge P(H\in\mathcal A)$ である。どれかの $G_i$ が $\mathcal A$ に属せば、$H$ は $G_i$ に辺を加えたものなので $H\in\mathcal A$ である。よって $1-f(kp)\le P(\text{どの }G_i\text{ も }\mathcal A\text{ に属さない})=(1-f(p))^k$ である。

段 2。 $p/p^*\to\infty$ とし、$k:=\lfloor p/p^*\rfloor$ とおく。十分大きい $n$ で $k\ge1$ であり、$kp^*\le p\le1$ なので、段 1 と単調性により $1-f(p)\le1-f(kp^*)\le2^{-k}\to0$ である。

段 3。 $p/p^*\to0$ とする。$p=0$ なら $f(p)=0$ である。$p>0$ のとき $k:=\lfloor p^*/p\rfloor$ とおくと、十分大きい $n$ で $k\ge1$、$kp\le p^*\le1$ なので、段 1 と単調性により $\frac12=1-f(p^*)\le1-f(kp)\le(1-f(p))^k$ である。よって $1-f(p)\ge2^{-1/k}\to1$、すなわち $f(p)\to0$ である。$\square$

この定理は FK26 Theorem 1.7(p. 10)にある。定理は閾値の存在を保証するが、閾値がいくらかは性質ごとに調べなければならず、鋭い閾値をもつとも限らない(反例の表の 2 行目)。

連結性の閾値

連結性は、孤立点がなくなるのと同じ時期に起こる。以下 $\ln$ は自然対数とし、$\omega=\omega(n):=np-\ln n$ と書く。すなわち $p=\frac{\ln n+\omega}n$ である。

連結性の閾値

$G\sim G(n,p)$ とする。

  1. $\omega\to-\infty$ なら、$G$ は漸近的にほとんど確実に孤立点をもち、したがって連結でない。
  2. $\omega\to+\infty$ なら、$G$ は漸近的にほとんど確実に連結である。
    とくに $\frac{\ln n}n$ は、連結である性質と孤立点をもたない性質の鋭い閾値である。

最後の主張は、$p\ge(1+\varepsilon)\frac{\ln n}n$ なら $\omega\ge\varepsilon\ln n\to\infty$、$p\le(1-\varepsilon)\frac{\ln n}n$ なら $\omega\le-\varepsilon\ln n\to-\infty$ であることから従う(孤立点のある連結なグラフは頂点 $1$ 個のものだけである)。

要点:1 は孤立点の個数に第 2 モーメント法を使う。2 は、非連結なら辺の出ない頂点集合があることを使い、その大きさごとに確率を足す。

詳細

1。 孤立点をもつ性質は単調減少である。$\omega':=\max(\omega,-\frac12\ln n)$、$p':=\frac{\ln n+\omega'}n$ とおくと $\omega'\to-\infty$、$p\le p'$ であり、prop-er-coupling の 2 を補集合に使うと $G(n,p)$ で孤立点をもつ確率は $G(n,p')$ でのそれ以上である。そこで $p'$ で示す。$\frac{\ln n}{2n}\le p'\le\frac{\ln n}n\le\frac12$ である。

$G'\sim G(n,p')$ の孤立点の個数を $X$ とする。頂点 $v$ が孤立点であるのは $v$ を含む $n-1$ 個の対がどれも辺でないときなので、期待値の線形性と数え上げ の定理「期待値の線形性」により $E[X]=n(1-p')^{n-1}$ である。$0\le x\le\frac12$ で $\ln(1-x)\ge-x-x^2$ なので

$$E[X]\ge n\exp\bigl(-(n-1)(p'+p'^2)\bigr)\ge n\,e^{-np'}e^{-np'^2}=e^{-\omega'}e^{-np'^2}$$

であり、$np'^2\le\frac{(\ln n)^2}n\to0$ なので $E[X]\to\infty$ である。相異なる 2 頂点 $u,v$ がともに孤立点であるのは、$u$ か $v$ を含む $2n-3$ 個の対がどれも辺でないときなので、$E[X(X-1)]=n(n-1)(1-p')^{2n-3}$ である。$E[X]^2=n^2(1-p')^{2n-2}$ と合わせて

$$\mathrm{Var}(X)=E[X]+E[X(X-1)]-E[X]^2\le E[X]+E[X]^2\Bigl(\frac1{1-p'}-1\Bigr)=E[X]+E[X]^2\frac{p'}{1-p'}$$

である。確率論的方法 の命題「存在の原理」の 3 により $P(X=0)\le\frac{\mathrm{Var}(X)}{E[X]^2}\le\frac1{E[X]}+2p'\to0$ である。

2。 連結である性質は単調増加である。$\omega'':=\min(\omega,\ln n)$、$p'':=\frac{\ln n+\omega''}n\le p$ とおくと $\omega''\to\infty$ であり、1 と同様に $p''$ で示せばよい。改めて $p:=p''$、$\omega:=\omega''$ と書くと、十分大きい $n$ で $0\le\omega\le\ln n$、$p\le\frac{2\ln n}n$ である。

$n\ge2$ とする。連結グラフ の命題「切断による判定」により、$G$ が連結でないのは、$\emptyset\ne S\subsetneq[n]$ で $S$ と $[n]\setminus S$ を結ぶ辺がないものがあるときである。$S$ と補集合の小さい方を選べば $\lvert S\rvert=k\le\frac n2$ としてよい。大きさ $k$ の $S$ は $\binom nk$ 個あり、それぞれ $k(n-k)$ 個の対がどれも辺でない確率は $(1-p)^{k(n-k)}\le e^{-pk(n-k)}$ である。$k!\ge(k/e)^k$($e^k\ge k^k/k!$ による)から $\binom nk\le\frac{n^k}{k!}\le\bigl(\frac{en}k\bigr)^k$ なので、$a_k:=\frac{en}k\,e^{-p(n-k)}$ とおくと

$$P(G\text{ が連結でない})\le\sum_{k=1}^{\lfloor n/2\rfloor}a_k^{\,k}$$

である。

$1\le k\le\frac n{2\ln n}$ なら $pk\le1$ なので $e^{-p(n-k)}=\frac{e^{-\omega}}ne^{pk}\le\frac{e^{1-\omega}}n$、よって $a_k\le\frac{e^{2-\omega}}k\le e^{2-\omega}$ である。$\frac n{2\ln n}< k\le\frac n2$ なら $n-k\ge\frac n2$ なので $e^{-p(n-k)}\le e^{-pn/2}=n^{-1/2}e^{-\omega/2}\le n^{-1/2}$、よって $a_k< 2e\ln n\cdot n^{-1/2}$ である。$b:=\max(e^{2-\omega},\,2e\ln n\cdot n^{-1/2})$ は $0$ に近づき、$b\le\frac12$ となる $n$ では $\sum_ka_k^{\,k}\le\sum_{k\ge1}b^k\le2b\to0$ である。$\square$

$\omega$ が定数 $c$ に近づくときは、孤立点の個数の分布は平均 $e^{-c}$ の Poisson 分布に近づき(FK26 Theorem 3.1、p. 52)、$G$ が連結である確率は $e^{-e^{-c}}$ に近づく(FK26 Theorem 4.1 の証明、p. 67。そこでは $\omega=c$ の場合を示しており、$\omega\to c$ の一般の列へは prop-er-coupling の 2 の単調性で移る)。どちらもこの記事では証明しない。さらに、$G(n,m)$ で辺を 1 本ずつ無作為に加えていく過程では、漸近的にほとんど確実に、最後の孤立点が消えた瞬間にグラフは連結になる(FK26 Theorem 4.2、p. 69)。

巨大成分の出現

辺の本数が頂点数の半分を超えるころ、連結成分の大きさが急に変わる。これは Erdős と Rényi が見いだした、ランダムグラフの相転移の代表例である。$c>1$ について、方程式
$$ \beta=1-e^{-c\beta} $$
は $0< \beta<1$ の解をただ 1 つもつ。実際 $g(\beta):=1-e^{-c\beta}-\beta$ は狭義に凹で、$g(0)=0$、$g'(0)=c-1>0$、$g(1)=-e^{-c}<0$ である。$c\le1$ なら $g'(\beta)=ce^{-c\beta}-1< 0$($\beta>0$)なので正の解はない。

巨大成分の出現

$c>0$ を定数とし、$m=\lfloor cn/2\rfloor$、$G\sim G(n,m)$ とする。

  1. $c< 1$ なら、漸近的にほとんど確実に、$G$ の連結成分はどれも $O(\ln n)$ 個以下の頂点をもつ。
  2. $c>1$ なら、漸近的にほとんど確実に、$G$ は $(\beta+o(1))n$ 個の頂点をもつ連結成分をただ 1 つもち、ほかの連結成分はどれも $O(\ln n)$ 個以下の頂点をもつ。ここで $\beta$ は上の方程式の $0< \beta<1$ の解である。
巨大成分の定理の所在

1 は FK26 Theorem 2.9(p. 29)、2 は Theorem 2.14(p. 34)にあり、この記事では証明しない。

同書は 2 の大きさを $1-\frac xc$、$xe^{-x}=ce^{-c}$、$0< x<1$ の形で書く。$x=c(1-\beta)$ とおけば上の方程式と同じである。平均次数 $\frac{2m}n$ は $c$ に近く、$G(n,p)$ では $p=\frac cn$ にあたる。境目の $p=\frac1n$ では、最大の連結成分の大きさは $n^{2/3}$ の程度である(FK26 Theorem 2.21、p. 42)。
$\beta$ の方程式の意味は次のように理解できる。頂点 $v$ から出発して連結成分を探ると、各頂点から新しく見つかる隣の頂点の個数は、成分がまだ小さいうちは近似的に平均 $c$ の Poisson 分布に従う(Poisson分布 の系「少数の法則」)。この探索が終わらない確率を $\beta$ とすると、$v$ の隣の頂点のどれからも探索が続かない確率 $1-\beta$ は、隣の個数 $K$ について $E[(1-\beta)^K]=e^{-c\beta}$ に等しいはずである。これが上の方程式であり、$\beta$ は頂点が巨大成分に入る確率を表す。この説明は直観であって証明ではない。
辺の本数を増やしていくと、$G(n,m)$ の典型的な姿は次のように移り変わる($m$ と $p$ は $p\approx\frac{2m}{n^2}$ で対応する)。

辺の本数 $m$漸近的にほとんど確実に成り立つこと所在
$m/\sqrt n\to0$孤立点と、互いに交わらない辺だけからなるFK26 Theorem 2.2(p. 22)
$m/\sqrt n\to\infty$長さ $2$ の道を含むFK26 Theorem 2.3(p. 23)
$m/n\to0$森である(閉路がない)FK26 Theorem 2.1(p. 22)
$m=\lfloor cn/2\rfloor$、$c< 1$連結成分はどれも $O(\ln n)$ 頂点thm-er-giant の 1
$m=\lfloor cn/2\rfloor$、$c>1$ただ 1 つの巨大成分(約 $\beta n$ 頂点)thm-er-giant の 2
$m=\frac n2(\ln n+\omega)$、$\omega\to\infty$連結であるFK26 Theorem 4.1(p. 67)、$G(n,p)$ では thm-er-connectivity

辺の確率が定数のとき

$p$ を $n$ によらない定数 $0< p<1$ にすると、$G(n,p)$ は非常に密で均質になる。たとえば、相異なる頂点 $a_1,\dots,a_k,b_1,\dots,b_l$ を任意に指定したとき、すべての $a_i$ と隣接しどの $b_j$ とも隣接しない頂点 $z$ がある、という性質は漸近的にほとんど確実に成り立つ。証明は、$z$ の候補 $n-k-l$ 個について条件が独立に確率 $p^k(1-p)^l$ で成り立つことから、条件を満たす $z$ のない指定の確率の和が $n^{k+l}(1-p^k(1-p)^l)^{n-k-l}\to0$ となることによる。$p=\frac12$ の場合、有限モデル理論 の補題「拡大公理はほとんど確実に成り立つ」はこれを示し、そこから定理「グラフの 0-1 法則」を導いている。すなわち、一階の文で書けるグラフの性質が $G(n,\frac12)$ で成り立つ確率は $0$ か $1$ に近づき、極限が $1$ になるのは可算ランダムグラフ(Rado グラフ)でその文が成り立つときちょうどである。

条件を外した反例

外す条件反例成り立たなくなること
性質の単調性(thm-er-threshold-exists)「辺を少なくとも 1 本もち、完全グラフではない」という性質どの $p^*$ も def-er-threshold の 1 の 2 つの条件を満たさない
閾値の鋭さ(def-er-threshold の 2)三角形を含む性質(閾値は $\frac1n$)$p=\frac cn$ で確率が $1-e^{-c^3/6}\in(0,1)$ に近づき、鋭い閾値をもたない
辺の独立性(def-er-models の 1 から 2 へ)$G(n,m)$、$0< m< N$ の相異なる 2 つの対 $e,f$$P(e,f\text{ がともに辺})=\frac{m(m-1)}{N(N-1)}< \bigl(\frac mN\bigr)^2$ で独立でない
$\omega\to\pm\infty$(thm-er-connectivity)$\omega\to c$(定数)連結である確率が $e^{-e^{-c}}\in(0,1)$ に近づく(FK26 Theorem 4.1 の証明と prop-er-coupling の 2 の単調性)
「漸近的にほとんど確実に」(thm-er-connectivity の最後の主張)互いに交わらない 2 本の辺からなる 4 頂点のグラフ孤立点がないが連結でない。2 つの性質の一致は個々のグラフでは成り立たない
1・2・3 行目の確認

1 行目。 この性質を $\mathcal B$ とすると $P_p(\mathcal B)=1-(1-p)^N-p^N$($n\ge3$)で、$p=1$ では $0$ である。$p^*$ が def-er-threshold の 1 の 2 つの条件を満たしたとする。$p^*\to0$ なら、定数の列 $p=1$ は $p/p^*\to\infty$ を満たすが $P_1(\mathcal B)=0$ なので矛盾する。$p^*\to0$ でなければ、$\delta>0$ と $n$ の無限個の値で $p^*\ge\delta$ となる。$p:=p^*/n$ は $p/p^*\to0$ を満たすが、それらの $n$ で $p\ge\frac\delta n$ なので $(1-p)^N\le e^{-pN}\le e^{-\delta(n-1)/2}$ であり、$p\le\frac1n$ なので $p^N\le n^{-N}$ である。よってそれらの $n$ について $P_p(\mathcal B)\to1$ となり、$P_p(\mathcal B)\to0$ に反する。

2 行目。 三角形は自分の真の部分グラフより辺の密度が高いので、$p=\frac cn$ での三角形の個数は平均 $\frac{c^3}6$ の Poisson 分布に近づき(FK26 Theorem 5.6、p. 80。この記事では証明しない)、三角形を含む確率は $1-e^{-c^3/6}$ に近づく。$p^*$ が鋭い閾値だったとし、$\varepsilon=\frac12$ とする。$p_1:=\min(\frac12p^*,\frac1n)$ はすべての $n$ で $p_1\le\frac12p^*$ を満たすので、三角形を含む確率は $0$ に近づくはずである。$np^*\ge2$ となる $n$ が無限にあれば、それらの $n$ で $p_1=\frac1n$ であり、確率は $1-e^{-1/6}>0$ に近づくので矛盾する。よって十分大きい $n$ で $np^*< 2$ であり、$p_2:=\min(\frac3n,1)$ は十分大きいすべての $n$ で $p_2\ge\frac32p^*$ を満たすので確率は $1$ に近づくはずだが、実際には $1-e^{-9/2}< 1$ に近づく。これは定義に反する。

3 行目。 $e,f$ をともに含む $m$ 本の辺のグラフは $\binom{N-2}{m-2}$ 個なので、確率は $\binom{N-2}{m-2}/\binom Nm=\frac{m(m-1)}{N(N-1)}$ であり、$P(e\text{ が辺})=\frac mN$ である。$\frac{m-1}{N-1}< \frac mN$ は $m< N$ と同値である。

補足

  • ランダムグラフ過程。 $N$ 個の対を一様に無作為な順に並べ、空グラフから始めて 1 本ずつ辺を加えると、グラフの列 $G_0\subset G_1\subset\cdots\subset G_N$ が得られる。各 $G_m$ は $G(n,m)$ に従う(順列の最初の $m$ 個の集合は、$m$ 元部分集合のどれも等しい確率でとる)。この列は、性質がいつ現れるかを 1 本の過程の中で追う道具であり、thm-er-connectivity の後で述べた「最後の孤立点が消えた瞬間に連結になる」はこの過程についての主張である。
  • 存在証明への応用。 内周と彩色数がともに大きいグラフの存在(確率論的方法 の定理「内周と彩色数がともに大きいグラフ」)は $G(n,p)$ を $p=n^{\theta-1}$ でとって示され、Ramsey 数の下界(Ramseyの定理 の定理「Erdős の下界」)は、辺を確率 $\frac12$ で 2 色に塗ること、すなわち $G(n,\frac12)$ とその補グラフを考えることと同じである。ランダムグラフの性質の多くは、こうした存在証明の中で調べられてきた。
  • ほかの模型。 次数がすべて $r$ のグラフから一様に選ぶランダム正則グラフや、平面の無作為な点を距離で結ぶランダム幾何グラフなど、辺の独立性をもたない模型も研究されている(FK26 第 9 章・第 10 章)。$G(n,p)$ の計算の多くは辺の独立性に頼るので、これらの模型では別の道具が要る。

関連項目

参考文献

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