Muirheadの不等式(高校数学)

同義語:ミューアヘッドの不等式(高校数学)Muirhead's inequality (high school)

概要

Muirheadの不等式(Muirhead's inequality)とは、ここでは 3 つの正の数 $a,b,c$ について、指数の組 $\alpha$ を 6 通りに割り当てた単項式の平均 $[\alpha]$ を比べる不等式をいう。成分を大きい順に並べた組 $\alpha,\beta$ の和が等しく、$\alpha_1\ge\beta_1$、$\alpha_1+\alpha_2\ge\beta_1+\beta_2$($\alpha$ が $\beta$ を優越する)なら $[\alpha]\ge[\beta]$ で、等号は $\alpha=\beta$ か $a=b=c$ のときに限る。2 つの成分の間で指数を移す操作を 2 回以内行って示せる。逆に、すべての正の数で $[\alpha]\ge[\beta]$ なら $\alpha$ は $\beta$ を優越する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 基本対称式の平均の不等式, 不等式の証明の技法, 相加平均と相乗平均

高校での出発点:同じ次数の対称な式を比べる

正の数 $a,b,c$ について、次の 3 つの式はどれも 3 次の対称式である(不等式の証明の技法 の定義「対称式・巡回式・同次式」)。
$$ a^3+b^3+c^3,\qquad a^2b+a^2c+b^2a+b^2c+c^2a+c^2b,\qquad abc $$
項の数がそれぞれ $3$、$6$、$1$ なので、項の数で割って平均にしてから比べる。

3 つの平均を比べる

$(a,b,c)=(1,2,3)$ では
$$ \frac{a^3+b^3+c^3}3=\frac{1+8+27}3=12,\qquad\frac{a^2b+a^2c+b^2a+b^2c+c^2a+c^2b}6=\frac{2+3+4+12+9+18}6=8,\qquad abc=6 $$
で、$12\ge8\ge6$ である。$(a,b,c)=(1,1,2)$ では $\dfrac{1+1+8}3=\dfrac{10}3$、$\dfrac{1+2+1+2+4+4}6=\dfrac73$、$abc=2$ で、やはり $\dfrac{10}3\ge\dfrac73\ge2$ である。

3 つの式の指数を見ると、$a^3$ は $(3,0,0)$、$a^2b$ は $(2,1,0)$、$abc$ は $(1,1,1)$ である。指数の和はどれも $3$ で、$(3,0,0)$ は 1 か所に集まり、$(1,1,1)$ は均等にならされている。指数がばらついている式の平均ほど大きい、と言えそうである。

2 つの式の差を因数分解する

$a^3+b^3$(指数 $(3,0)$)と $a^2b+ab^2$(指数 $(2,1)$)の差は
$$ a^3+b^3-a^2b-ab^2=a^2(a-b)-b^2(a-b)=(a-b)(a^2-b^2)=(a-b)^2(a+b)\ge0 $$
である。2 つの変数では、指数 $(3,0)$ を $(2,1)$ にならすと値は大きくならない。

この記事では、3 つの正の数について、指数の組のばらつきと平均の大小がちょうど対応することを示す。答える問いは次の 2 つである。

  1. 指数の組 $\alpha$ が $\beta$ よりばらついていれば、$\alpha$ の平均は $\beta$ の平均以上か。→ thm-mui-main
  2. 逆に、平均がいつも大きければ、指数の組はばらついているか。→ thm-mui-converse

指数の組の平均とばらつき

対称な平均

$0$ 以上の実数 3 つの組 $\alpha=(\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3)$ と正の数 $a,b,c$ について、$\alpha$ の 3 つの成分を $a,b,c$ の指数に割り当てる 6 通りの並べ方すべての平均
$$ [\alpha]=\frac16\Bigl(a^{\alpha_1}b^{\alpha_2}c^{\alpha_3}+a^{\alpha_1}b^{\alpha_3}c^{\alpha_2}+a^{\alpha_2}b^{\alpha_1}c^{\alpha_3}+a^{\alpha_2}b^{\alpha_3}c^{\alpha_1}+a^{\alpha_3}b^{\alpha_1}c^{\alpha_2}+a^{\alpha_3}b^{\alpha_2}c^{\alpha_1}\Bigr) $$
を、$\alpha$ の 対称な平均 という。成分が等しい組でも 6 通りすべてを数える。$[\alpha]$ は $a,b,c$ の対称な式で、$\alpha$ の成分を並べかえても変わらない。

対称な平均の例
  1. $[3,0,0]=\dfrac16\cdot2(a^3+b^3+c^3)=\dfrac{a^3+b^3+c^3}3$(同じ項が 2 回ずつ出る)。
  2. $[2,1,0]=\dfrac{a^2b+a^2c+b^2a+b^2c+c^2a+c^2b}6$、$[1,1,1]=abc$。
  3. $[2,1,1]=\dfrac16\cdot2(a^2bc+ab^2c+abc^2)=\dfrac{abc(a+b+c)}3$、$[2,2,0]=\dfrac{a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2}3$。
  4. 実数の指数:$[1,0,0]=\dfrac{a+b+c}3$(相加平均)、$\Bigl[\dfrac13,\dfrac13,\dfrac13\Bigr]=\sqrt[3]{abc}$(相乗平均)。

$a=b=c=t$ なら、どの項も $t^{\alpha_1+\alpha_2+\alpha_3}$ なので $[\alpha]=t^{\alpha_1+\alpha_2+\alpha_3}$ である。$[\alpha]$ は $\alpha_1+\alpha_2+\alpha_3$ 次の同次式である。

ばらつきの順序

成分を大きい順に並べた 2 つの組 $\alpha=(\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3)$、$\beta=(\beta_1,\beta_2,\beta_3)$($\alpha_1\ge\alpha_2\ge\alpha_3\ge0$、$\beta_1\ge\beta_2\ge\beta_3\ge0$)が
$$ \alpha_1+\alpha_2+\alpha_3=\beta_1+\beta_2+\beta_3,\qquad\alpha_1\ge\beta_1,\qquad\alpha_1+\alpha_2\ge\beta_1+\beta_2 $$
を満たすとき、$\alpha$ は $\beta$ を優越する($\alpha$ は $\beta$ よりばらついている)といい、$\alpha\succ\beta$ と書く。

和が等しいので、$\alpha_1+\alpha_2\ge\beta_1+\beta_2$ は $\alpha_3\le\beta_3$ と同じである。大きい方から $1$ 個、$2$ 個とった和が $\alpha$ のほうが大きく、全体の和は等しい、というのが優越の意味である。

和が 3 と 6 の組
  1. 和が $3$ の組は $(3,0,0)$、$(2,1,0)$、$(1,1,1)$ で、$(3,0,0)\succ(2,1,0)\succ(1,1,1)$ である。
  2. 和が $6$ の組のうち、$(4,1,1)$ と $(3,3,0)$ を比べる。$4\ge3$ だが $4+1=5<6=3+3$ なので $(4,1,1)\succ(3,3,0)$ ではない。$3<4$ なので $(3,3,0)\succ(4,1,1)$ でもない。この 2 つは比べられない。

和が 6 の指数の組 7 つを、優越の関係で上から下へ並べた図で、矢印は間に他の組をはさまない優越の関係を表し、破線で結んだ (4,1,1) と (3,3,0) は比べられない 和が 6 の指数の組 7 つを、優越の関係で上から下へ並べた図で、矢印は間に他の組をはさまない優越の関係を表し、破線で結んだ (4,1,1) と (3,3,0) は比べられない

1 段のならし

主定理の証明の部品として、2 つの成分の間で指数を移すと平均が大きくならないことを示す。

2 つの変数のならし

$x,y>0$、$p\ge q\ge0$、$0\le t\le p-q$ とする。
$$ x^py^q+x^qy^p-x^{p-t}y^{q+t}-x^{q+t}y^{p-t}=x^qy^q\bigl(x^t-y^t\bigr)\bigl(x^{p-q-t}-y^{p-q-t}\bigr)\ge0 $$
である。$0< t< p-q$ かつ $x\ne y$ なら、左辺は正である。

$s=p-q$ とおく。右辺の 2 つの括弧を展開すると
$$ \bigl(x^t-y^t\bigr)\bigl(x^{s-t}-y^{s-t}\bigr)=x^s-x^ty^{s-t}-x^{s-t}y^t+y^s $$
で、これに $x^qy^q$ を掛けると $x^{q+s}y^q-x^{q+t}y^{q+s-t}-x^{q+s-t}y^{q+t}+x^qy^{q+s}$、つまり $x^py^q-x^{q+t}y^{p-t}-x^{p-t}y^{q+t}+x^qy^p$ になり、左辺と一致する。
符号:$u>0$ のとき、$x\mapsto x^u$ は正の数の範囲で増加なので、$x^u-y^u$ は $x-y$ と同じ符号である($u=0$ なら $0$)。$t\ge0$、$s-t\ge0$ なので、2 つの括弧はどちらも $x-y$ と同じ符号か $0$ で、積は $0$ 以上である。$x^qy^q>0$ なので左辺は $0$ 以上である。$0< t< s$ かつ $x\ne y$ なら、2 つの括弧はどちらも $0$ でなく同じ符号なので、左辺は正である。$\square$

ex-mui-two は、$p=3$、$q=0$、$t=1$ の場合で、右辺は $(a-b)(a^2-b^2)$ である。

対称な平均のならし

$\gamma$ の 2 つの成分 $p\ge q$ を $p-t$、$q+t$($0\le t\le p-q$)に取りかえ、残りの成分 $r$ はそのままにした組を $\gamma'$ とする。正の数 $a,b,c$ について $[\gamma]\ge[\gamma']$ である。さらに $0< t< p-q$ で、$a,b,c$ がすべて等しくはないなら、$[\gamma]>[\gamma']$ である。

$[\gamma]$ は成分の並べかえで変わらないので、$\gamma=(p,q,r)$、$\gamma'=(p-t,q+t,r)$ としてよい。def-mui-mean の 6 項を、指数 $r$ が $c$、$b$、$a$ のどれに付くかで 2 項ずつに分けると
$$ 6[p,q,r]=c^r\bigl(a^pb^q+a^qb^p\bigr)+b^r\bigl(a^pc^q+a^qc^p\bigr)+a^r\bigl(b^pc^q+b^qc^p\bigr) $$
である。$[\gamma']$ も同じ形で、$p,q$ を $p-t,q+t$ に替えたものである。よって $6([\gamma]-[\gamma'])$ は、lem-mui-two の左辺の形の 3 つの式($(x,y)=(a,b),(a,c),(b,c)$)に正の数 $c^r$、$b^r$、$a^r$ を掛けて足したもので、$0$ 以上である。$a,b,c$ がすべて等しくはないなら、3 つの組 $(a,b),(a,c),(b,c)$ の中に $x\ne y$ のものがあり、$0< t< p-q$ ならその式は正なので、$[\gamma]>[\gamma']$ である。$\square$

主定理 1:Muirhead の不等式(3 変数)

Muirhead の不等式(3 変数)

成分を大きい順に並べた $0$ 以上の実数の組 $\alpha$、$\beta$ が $\alpha\succ\beta$ を満たすなら、すべての正の数 $a,b,c$ について
$$ [\alpha]\ge[\beta] $$
である。等号が成り立つのは、$\alpha=\beta$ のときか、$a=b=c$ のときに限る。

方針:$\alpha$ から出発し、lem-mui-step の取りかえ(1 段のならし)を 2 回以内行って $\beta$ に着けることを示す。各段で平均は大きくならないので $[\alpha]\ge[\beta]$ である。
準備。和が等しく $\alpha_1+\alpha_2\ge\beta_1+\beta_2$ なので $\alpha_3\le\beta_3$ である。よって
$$ \alpha_3\le\beta_3\le\beta_2\le\beta_1\le\alpha_1 $$
である。$\alpha_2$ と $\beta_2$ の大小で場合を分ける。
場合 A($\alpha_2\ge\beta_2$)。
段 A1。第 1 成分 $\alpha_1$ から第 3 成分 $\alpha_3$ へ $t=\alpha_1-\beta_1$ を移し、$\gamma=(\beta_1,\ \alpha_2,\ \alpha_3+\alpha_1-\beta_1)$ とする。lem-mui-step の条件 $0\le t\le\alpha_1-\alpha_3$ は、$\alpha_1\ge\beta_1$ と $\beta_1\ge\alpha_3$ から成り立つ。
段 A2。$\gamma$ の第 2 成分 $\alpha_2$ から第 3 成分 $\gamma_3=\alpha_3+\alpha_1-\beta_1$ へ $t'=\alpha_2-\beta_2$ を移す。和が等しいので $\gamma_3=\beta_2+\beta_3-\alpha_2$ である。条件 $0\le t'\le\alpha_2-\gamma_3$ は、$t'\ge0$(場合 A)と、$\alpha_2-\gamma_3-t'=\beta_2-\gamma_3=\alpha_2-\beta_3\ge0$($\alpha_2\ge\beta_2\ge\beta_3$)から成り立つ。移したあとの組は $(\beta_1,\ \beta_2,\ \gamma_3+t')=(\beta_1,\beta_2,\beta_3)=\beta$ である。
場合 B($\alpha_2<\beta_2$)。
段 B1。第 1 成分 $\alpha_1$ から第 2 成分 $\alpha_2$ へ $t=\beta_2-\alpha_2>0$ を移し、$\gamma=(\alpha_1+\alpha_2-\beta_2,\ \beta_2,\ \alpha_3)$ とする。条件 $t\le\alpha_1-\alpha_2$ は $\beta_2\le\alpha_1$ と同じで、$\beta_2\le\beta_1\le\alpha_1$ から成り立つ。
段 B2。$\gamma$ の第 1 成分 $\gamma_1=\alpha_1+\alpha_2-\beta_2$ から第 3 成分 $\alpha_3$ へ $t'=\gamma_1-\beta_1$ を移す。$t'=(\alpha_1+\alpha_2)-(\beta_1+\beta_2)\ge0$ で、条件 $t'\le\gamma_1-\alpha_3$ は $\beta_1\ge\alpha_3$ と同じで成り立つ。移したあとの第 3 成分は $\alpha_3+t'=\alpha_1+\alpha_2+\alpha_3-\beta_1-\beta_2=\beta_3$ なので、組は $\beta$ である。
不等式。どちらの場合も、lem-mui-step を 2 回使って $[\alpha]\ge[\gamma]\ge[\beta]$ である。
等号。$a=b=c$ なら $[\alpha]$、$[\beta]$ はどちらも $a$ の(同じ和の)冪なので等しい。$\alpha=\beta$ でも等しい。逆に $\alpha\ne\beta$ で $a,b,c$ がすべて等しくはないとする。2 つの段の移す量がどちらも $0$ なら $\beta=\alpha$ になるので、移す量が正の段がある。その段で、移す量は lem-mui-step の上限 $p-q$ より真に小さいことを確かめる。

  • 段 A1 で $t=\alpha_1-\alpha_3$ なら $\beta_1=\alpha_3$ で、準備の不等式から $\beta_1=\beta_2=\beta_3=\alpha_3$ である。和が等しいので $\alpha_1+\alpha_2=2\alpha_3$ となり、$\alpha_1\ge\alpha_2\ge\alpha_3$ と合わせて $\alpha_1=\alpha_2=\alpha_3$、つまり $\alpha=\beta$ になって仮定に反する。段 B2 で $t'=\gamma_1-\alpha_3$ のときも、同じく $\beta_1=\alpha_3$ から $\alpha=\beta$ になる。
  • 段 A2 で $t'=\alpha_2-\gamma_3$ なら、上の計算から $\alpha_2=\beta_3$ で、$\alpha_2\ge\beta_2\ge\beta_3$ より $\beta_2=\alpha_2$、つまり $t'=0$ である。
  • 段 B1 で $t=\alpha_1-\alpha_2$ なら $\beta_2=\alpha_1$ で、$\beta_1=\beta_2=\alpha_1$ となり、$\alpha_1+\alpha_2\ge\beta_1+\beta_2=2\alpha_1$ から $\alpha_2\ge\alpha_1$、つまり $\alpha_2=\alpha_1=\beta_2$ で、場合 B の $\alpha_2<\beta_2$ に反する。
    よって移す量が正の段では $0<(\text{移す量})< p-q$ であり、lem-mui-step の後半によりその段で平均は真に小さくなる。したがって $[\alpha]>[\beta]$ である。$\square$
ならしの道筋をたどる
  1. $\alpha=(3,0,0)$、$\beta=(1,1,1)$:$\alpha_2=0<1=\beta_2$ なので場合 B。段 B1 で第 1 成分から第 2 成分へ $1$ を移して $(2,1,0)$、段 B2 で第 1 成分から第 3 成分へ $1$ を移して $(1,1,1)$。途中の組は $(2,1,0)$ で、ex-mui-start の $12\ge8\ge6$ はこの道筋の値である。
  2. $\alpha=(4,2,0)$、$\beta=(3,2,1)$:$\alpha_2=2=\beta_2$ なので場合 A。段 A1 で第 1 成分から第 3 成分へ $1$ を移すと $(3,2,1)$ になり、段 A2 の移す量は $0$ である。
いろいろな不等式
  1. $(1,0,0)\succ\Bigl(\dfrac13,\dfrac13,\dfrac13\Bigr)$ から $\dfrac{a+b+c}3\ge\sqrt[3]{abc}$(3 数の相加平均と相乗平均)。
  2. $(2,2,0)\succ(2,1,1)$ から $a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2\ge abc(a+b+c)$。これは 基本対称式の平均の不等式 の主定理 1 の 2 つ目と同じである。$(1,2,3)$ では $49\ge36$。
  3. $(4,0,0)\succ(2,2,0)$ から $a^4+b^4+c^4\ge a^2b^2+b^2c^2+c^2a^2$。$(1,2,3)$ では $98\ge49$。
  4. $(3,0,0)\succ(2,1,0)$ は、Nesbittの不等式 の証明で通分した分子 $2(a^3+b^3+c^3)-(a^2b+a^2c+b^2a+b^2c+c^2a+c^2b)\ge0$ そのものである($6([3,0,0]-[2,1,0])$ に等しい)。

主定理 2:逆も成り立つ

比べられるための条件

成分を大きい順に並べた $0$ 以上の実数の組 $\alpha$、$\beta$ について、すべての正の数 $a,b,c$ で $[\alpha]\ge[\beta]$ が成り立つなら、$\alpha\succ\beta$ である。

方針:$a,b,c$ に特別な値を入れ、$t$ を大きくしたり小さくしたりして指数を比べる。
段 1(和が等しい)。$a=b=c=t$($t>0$)を入れると $t^{\lvert\alpha\rvert}\ge t^{\lvert\beta\rvert}$ である($\lvert\alpha\rvert=\alpha_1+\alpha_2+\alpha_3$)。$t=2$ では $2^{\lvert\alpha\rvert}\ge2^{\lvert\beta\rvert}$ から $\lvert\alpha\rvert\ge\lvert\beta\rvert$、$t=\frac12$ では $\bigl(\frac12\bigr)^{\lvert\alpha\rvert}\ge\bigl(\frac12\bigr)^{\lvert\beta\rvert}$ から $\lvert\alpha\rvert\le\lvert\beta\rvert$ である。よって和は等しい。
段 2($\alpha_1\ge\beta_1$)。$a=t\ge1$、$b=c=1$ を入れると、$[\alpha]=\dfrac13\bigl(t^{\alpha_1}+t^{\alpha_2}+t^{\alpha_3}\bigr)$ である(6 項のうち、$a$ の指数が $\alpha_i$ の項が 2 つずつ)。$t\ge1$ なので $t^{\alpha_2},t^{\alpha_3}\le t^{\alpha_1}$ で、$[\alpha]\le t^{\alpha_1}$ である。一方 $[\beta]\ge\dfrac13t^{\beta_1}$ である。仮定 $[\alpha]\ge[\beta]$ から $t^{\alpha_1}\ge\dfrac13t^{\beta_1}$、つまり $t^{\beta_1-\alpha_1}\le3$ がすべての $t\ge1$ で成り立つ。もし $\beta_1>\alpha_1$ なら、$t$ を大きくすると $t^{\beta_1-\alpha_1}$ はいくらでも大きくなり($t=3^{\frac2{\beta_1-\alpha_1}}$ で $9$)、矛盾する。よって $\alpha_1\ge\beta_1$ である。
段 3($\alpha_1+\alpha_2\ge\beta_1+\beta_2$)。$a=b=t\ge1$、$c=1$ を入れると、各項は $t^{(\text{2 つの成分の和})}$ で、$[\alpha]=\dfrac13\bigl(t^{\alpha_1+\alpha_2}+t^{\alpha_1+\alpha_3}+t^{\alpha_2+\alpha_3}\bigr)$ である。指数の最大は $\alpha_1+\alpha_2$ なので、段 2 と同じ議論で $\alpha_1+\alpha_2\ge\beta_1+\beta_2$ である。
段 1〜3 により $\alpha\succ\beta$ である。$\square$

主定理 1 と 2 を合わせると、「すべての正の数で $[\alpha]\ge[\beta]$」と「$\alpha\succ\beta$」は同じことである。比べられない組では、どちら向きの不等式も成り立たない(ex-mui-counter (2))。

例と反例

外す条件反例成り立たなくなること
和が等しい$(2,0,0)$ と $(1,1,1)$どちらか向きの $[\alpha]\ge[\beta]$ が、すべての正の数で成り立つ
優越の不等式$(4,1,1)$ と $(3,3,0)$どちらか向きの $[\alpha]\ge[\beta]$ が、すべての正の数で成り立つ
$a,b,c$ が正の数(負の数や $0$ を許す)$(a,b,c)=(-1,-1,0)$$[3,0,0]\ge[1,1,1]$($-\frac23\ge0$ でない)
反例の確認
  1. $[2,0,0]=\dfrac{a^2+b^2+c^2}3$、$[1,1,1]=abc$。$a=b=c=t$ では $t^2$ と $t^3$ で、$t=2$ なら $4<8$、$t=\dfrac12$ なら $\dfrac14>\dfrac18$ である。次数が違うので、大きさをそろえる倍率で向きが変わる。
  2. $(4,1,1)$ と $(3,3,0)$:$(a,b,c)=(1,1,2)$ では $[4,1,1]=\dfrac{20}3$、$[3,3,0]=\dfrac{17}3$ で前者が大きく、$(a,b,c)=(1,2,2)$ では $[4,1,1]=\dfrac{68}3$、$[3,3,0]=\dfrac{80}3$ で後者が大きい。
  3. $(-1,-1,0)$ では $\dfrac{a^3+b^3+c^3}3=-\dfrac23$、$abc=0$ で、$-\dfrac23\ge0$ は成り立たない。負の数があると、lem-mui-two の「$x^u-y^u$ は $x-y$ と同じ符号」が使えない。
Schur の不等式は優越から出ない

不等式の証明の技法 の定理「Schur の不等式」の $t=1$ の場合、$x(x-y)(x-z)+y(y-z)(y-x)+z(z-x)(z-y)\ge0$ は、展開すると $3\bigl([3,0,0]-2[2,1,0]+[1,1,1]\bigr)\ge0$ である($x,y,z$ を $a,b,c$ と読む)。これは、指数が $0$ 以上の整数の組についての主定理 1 の不等式を、$0$ 以上の係数で足し合わせては作れない。
理由:次数の違う単項式は打ち消し合わないので、3 次の部分だけを比べればよい。成分が $0$ 以上の整数で和が $3$ の組は $(3,0,0)$、$(2,1,0)$、$(1,1,1)$ だけで、優越する組の差は $D_1=[3,0,0]-[2,1,0]$、$D_2=[2,1,0]-[1,1,1]$、$D_1+D_2=[3,0,0]-[1,1,1]$ の 3 つである。これらに $0$ 以上の係数を掛けて足すと $pD_1+qD_2$($p,q\ge0$)の形になる。一方 Schur の式は $3(D_1-D_2)$ である。$[3,0,0]$、$[2,1,0]$、$[1,1,1]$ は単項式の集まりが互いに重ならない多項式なので、$pD_1+qD_2=3(D_1-D_2)$ なら各単項式の係数を比べて $p=3$、$q=-3$ となり、$q\ge0$ に反する。Schur の不等式は、Muirhead の不等式の範囲の外にある正しい不等式である。

大学数学で見る

$n$ 個の正の数 $x_1,\ldots,x_n$ と、成分を大きい順に並べた $n$ 個の組 $\alpha$、$\beta$ についても、$n!$ 通りの並べ方の平均 $[\alpha]$ と、「大きい方から $k$ 個の和が $\alpha$ のほうが大きく($k=1,\ldots,n-1$)、全体の和は等しい」という優越の順序を同じように定められる。Wei26 は、すべての正の変数で $[\alpha]$ と $[\beta]$ が比べられるための必要十分条件が一方が他方を優越することで、等号は組が同じかすべての変数が等しいときに限る、と述べている。この記事では 3 変数の場合だけを示し、$n$ 変数の場合は証明しない。証明の考え方は同じで、2 つの成分の間で指数を移すならしを有限回くり返して $\alpha$ から $\beta$ へ行く。

さらに先へ

  • 三角形の辺の長さについての不等式は、正の数 $x,y,z$ を使って辺を $y+z$、$z+x$、$x+y$ と書くと、$x,y,z$ の対称式の不等式になることが多い。三角形の等周不等式 では、周を決めた三角形の面積の最大と、その系の Weitzenböck の不等式を扱う。
  • 2 つの数列の並べ方で積の和を比べる 並べ替え不等式 も、「そろっているほど大きい」という同じ種類の主張である。

関連項目

参考文献

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