円の伸開線

同義語:円のインボリュート伸開線involute of a circle

概要

円の伸開線(involute of a circle)とは、半径 $a$ の円に巻いた糸を、ぴんと張ったまま点 $(a,0)$ からほどくとき、糸の端が描く曲線 $P(t)=\bigl(a(\cos t+t\sin t),\ a(\sin t-t\cos t)\bigr)$($t\ge0$ はほどいた角)である。$t>0$ で速さは $at$、糸は伸開線に垂直(糸は法線)で、曲率は $\frac{1}{at}$、曲率中心は糸と円の接点なので、伸開線の縮閉線はもとの円である。$t=0$ から $T$ までの長さは $\frac{aT^2}2$ で、$0<T\le2\pi$ のとき糸が掃いた部分の面積は $\frac{a^2T^3}6$ である。隣り合う巻きは糸の方向に測っていつも $2\pi a$ 離れ、遠くでは Archimedes の螺旋に近づく。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 縮閉線, 曲率(高校数学), 媒介変数表示と曲線の長さ, 極座標で表された図形の面積, 逆関数の微分

高校での出発点:糸巻きから糸をほどく

円柱の糸巻きに糸を巻き、糸の端をつまんで、糸をぴんと張ったままほどいていく。ほどけた部分の糸は、糸巻きから離れる点で円に接し、その長さは、ほどいた分の円弧の長さに等しい。糸の端はどんな曲線を描くだろうか。

半径 1 の糸巻き

原点を中心とする半径 $1$ の円に、点 $A(1,0)$ から反時計回りに糸を巻いておく。糸の端は最初 $A$ にある。糸を、円から離れる点が反時計回りに進むようにほどく。
(1) 離れる点が $Q=(0,1)$ まで進んだとき(中心角 $\dfrac\pi2$)、ほどけた糸の長さは円弧 $AQ$ の長さ $\dfrac\pi2$ である。糸は $Q$ での円の接線に沿って、ほどいてきた側($A$ の側)へ伸びている。$Q$ での接線は $x$ 軸に平行で、$A$ の側は右なので、糸の端は $\left(0+\dfrac\pi2,\ 1\right)=\left(\dfrac\pi2,\ 1\right)$ にある。
(2) 離れる点が $Q=(-1,0)$ まで進んだとき(中心角 $\pi$)、糸の長さは $\pi$ で、$Q$ での接線は $y$ 軸に平行、ほどいてきた側は上なので、糸の端は $(-1,\ \pi)$ にある。
どちらでも、糸の端と中心の距離は $\sqrt{1+(\text{糸の長さ})^2}$ で、糸をほどくほど糸の端は中心から遠ざかる。

半径 1 の円(黒)と、点 A から糸をほどくときの糸の端の軌跡(赤)。青い線分は、4 つの時点の糸(円に接する) 半径 1 の円(黒)と、点 A から糸をほどくときの糸の端の軌跡(赤)。青い線分は、4 つの時点の糸(円に接する)
この曲線を 円の伸開線 という。縮閉線 では、縮閉線から糸をほどくともとの曲線が得られることを見た。この記事では円から糸をほどき、次の問いに答える。

  1. 糸の端の位置は、式でどう書けるか。→ def-inv-circle
  2. 伸開線の法線と曲率は、糸とどう関係するか。→ thm-inv-normal
  3. 伸開線の長さと、糸が掃く部分の面積はいくらか。→ thm-inv-length-area
  4. 同じように一定の間隔で巻く Archimedesの螺旋 と、どう違うか。→ cor-inv-spacing、比較表
    高校の計算この記事の言葉ボックス
    接線の向きのベクトル、弧の長さ $at$伸開線 $P=Q-at\,\vec T$def-inv、def-inv-circle
    内積が $0$糸は伸開線に垂直(法線)thm-inv-normal
    曲率の式曲率中心は糸の接点、縮閉線は円thm-inv-normal
    曲線の長さの公式、極座標の面積長さ $\frac{at^2}2$、面積 $\frac{a^2t^3}6$thm-inv-length-area

伸開線の定義

縮閉線 と同じく、曲線 $C(u)$ の速さを $v=\lvert C'\rvert$、単位接ベクトルを $\vec T=\dfrac1vC'$ と書く。

伸開線

区間 $[u_0,u_1)$ で定義された曲線 $C(u)=\bigl(x(u),y(u)\bigr)$ が 2 回微分可能で、2 階導関数が連続、速さ $v(u)\ne0$ であるとする。$C(u_0)$ から測った弧長を $s(u)=\displaystyle\int_{u_0}^uv(w)\,dw$ とし、
$$ I(u)=C(u)-s(u)\,\vec T(u)\qquad(u_0\le u< u_1) $$
の描く曲線を、$C$ の $C(u_0)$ から始まる 伸開線 という。

$I(u)$ は、$C(u)$ から接線に沿って、進む向きと逆向きに長さ $s(u)$ だけもどった点である。$C$ に $C(u_0)$ から $C(u)$ まで巻きつけた糸を、$C(u)$ で離して接線に沿ってぴんと張ったときの糸の端にあたる。糸をほどき始める点を変えると別の伸開線が得られるので、1 つの曲線の伸開線は 1 つではない(Wei26a)。

円の伸開線

$a>0$ とする。半径 $a$ の円 $Q(t)=(a\cos t,\ a\sin t)$ の、点 $A(a,0)$($t=0$)から始まる伸開線
$$ P(t)=\bigl(a(\cos t+t\sin t),\ \ a(\sin t-t\cos t)\bigr)\qquad(t\ge0) $$
を 円の伸開線 という。$t$ を ほどいた角 と呼ぶ。

def-inv に当てはめて式を確かめる。円 $Q(t)$ の速さは $a$ なので弧長は $s(t)=at$、単位接ベクトルは $\vec T=(-\sin t,\ \cos t)$ である。よって
$$ Q(t)-at\,\vec T(t)=(a\cos t,\ a\sin t)-at(-\sin t,\ \cos t)=\bigl(a(\cos t+t\sin t),\ a(\sin t-t\cos t)\bigr) $$
で、def-inv-circle の式になる。糸は、接点 $Q(t)$ から向き $(\sin t,\ -\cos t)$ に長さ $at$ だけ伸びている。

伸開線の点

$a=1$ とする。
(1) $t=\dfrac\pi2$ では $P=\left(0+\dfrac\pi2\cdot1,\ 1-0\right)=\left(\dfrac\pi2,\ 1\right)$、$t=\pi$ では $P=(-1+0,\ 0+\pi)=(-1,\ \pi)$ で、ex-inv-start の点と一致する。
(2) $t=2\pi$(1 巻き)では $P=(1,\ -2\pi)$ である。糸の長さは円周 $2\pi$ で、糸は $A(1,0)$ から真下に伸びている。
(3) 中心から $P(t)$ までの距離の 2 乗は
$$ a^2(\cos t+t\sin t)^2+a^2(\sin t-t\cos t)^2=a^2\bigl(1+t^2\bigr) $$
である(展開すると $2t\cos t\sin t$ の項が打ち消し合う)。$OQ\perp QP$ なので、これは三平方の定理 $OP^2=OQ^2+QP^2=a^2+(at)^2$ と同じである。

主定理 1:糸は法線、糸の接点は曲率中心

円の伸開線の法線と曲率

$a>0$ とし、$P(t)$ を def-inv-circle の円の伸開線、$Q(t)=(a\cos t,\ a\sin t)$ を糸の接点とする。$t>0$ のとき、次が成り立つ。

  1. $P'(t)=at\,(\cos t,\ \sin t)$ で、速さは $at$ である。
  2. 糸 $Q(t)P(t)$ は $P'(t)$ に垂直である。したがって、点 $P(t)$ での伸開線の法線は、糸を含む直線である。
  3. 点 $P(t)$ での伸開線の曲率は $\kappa=\dfrac1{at}$、曲率半径は糸の長さ $at$ に等しく、曲率中心は接点 $Q(t)$ である。
    とくに、円の伸開線($t>0$ の部分)の縮閉線は、もとの円である。

段 1(速度)。積の微分により
$$ \bigl(a(\cos t+t\sin t)\bigr)'=a(-\sin t+\sin t+t\cos t)=at\cos t,\qquad \bigl(a(\sin t-t\cos t)\bigr)'=a(\cos t-\cos t+t\sin t)=at\sin t $$
なので $P'(t)=at(\cos t,\ \sin t)$、速さは $\sqrt{a^2t^2(\cos^2t+\sin^2t)}=at$ である($t>0$)。
段 2(糸は垂直)。$\overrightarrow{QP}=P(t)-Q(t)=at(\sin t,\ -\cos t)$ なので、内積は
$$ \overrightarrow{QP}\cdot P'(t)=at\cdot at\,(\sin t\cos t-\cos t\sin t)=0 $$
である。$P(t)$ での法線は、$P(t)$ を通り $P'(t)$ に垂直な直線なので、$Q(t)$ を通る。つまり糸を含む直線である。
段 3(曲率)。2 階導関数は $x''=a(\cos t-t\sin t)$、$y''=a(\sin t+t\cos t)$ なので
$$ x'y''-x''y'=a^2t\bigl(\cos t(\sin t+t\cos t)-\sin t(\cos t-t\sin t)\bigr)=a^2t\cdot t\bigl(\cos^2t+\sin^2t\bigr)=a^2t^2 $$
である。曲率(高校数学) の定義「符号つきの曲率」により $\kappa=\dfrac{a^2t^2}{(at)^3}=\dfrac1{at}$ である。単位接ベクトルは $\vec T_P=(\cos t,\ \sin t)$、単位法ベクトルは $\vec N_P=(-\sin t,\ \cos t)$ なので、曲率(高校数学) の命題「曲率中心の位置」により曲率中心は
$$ P(t)+at\,\vec N_P=\bigl(a(\cos t+t\sin t)-at\sin t,\ \ a(\sin t-t\cos t)+at\cos t\bigr)=(a\cos t,\ a\sin t)=Q(t) $$
である。$t$ が $0$ より大きい範囲を動くと、曲率中心 $Q(t)$ は円を描く。$\square$

曲率 $\dfrac1{at}$ は Wei26b の式と一致する。$\kappa>0$ なので、伸開線は進む向きに対していつも左へ曲がる。糸をほどくほど曲率半径 $at$ は大きくなり、伸開線はゆるやかに曲がる。縮閉線 の定理「縮閉線の長さ」を伸開線に当てはめると、縮閉線(円)の $t_1$ から $t_2$ までの長さは $a(t_2-t_1)$ で、曲率半径の差 $at_2-at_1$ と一致する。

$t=1$ の点で確かめる

$a=1$、$t=1$ とする。$P(1)=(\cos1+\sin1,\ \sin1-\cos1)=(1.3817\ldots,\ 0.3011\ldots)$、$Q(1)=(0.5403\ldots,\ 0.8414\ldots)$ で、
$$ \overrightarrow{QP}=(0.8414\ldots,\ -0.5403\ldots)=(\sin1,\ -\cos1),\qquad P'(1)=(\cos1,\ \sin1)=(0.5403\ldots,\ 0.8414\ldots) $$
である。内積は $0.8414\ldots\times0.5403\ldots-0.5403\ldots\times0.8414\ldots=0$、糸の長さは $1$ で、曲率半径 $\dfrac1\kappa=1$ と一致する。

糸と伸開線がいつも垂直なので、隣り合う巻きの間隔を糸の方向に測ることができる。

隣り合う巻きの間隔

$t\ge0$ とする。$P(t)$ と $P(t+2\pi)$ は、接点 $Q(t)$ での円の接線の上にあり、$Q(t)$ から同じ向きにそれぞれ $at$、$a(t+2\pi)$ の距離にある。したがって $P(t)$ と $P(t+2\pi)$ の距離は $2\pi a$ で、$t$ によらない。この接線は、$t>0$ なら 2 点のどちらでも伸開線の法線である。

$Q(t+2\pi)=Q(t)$ で、$(\sin(t+2\pi),\ -\cos(t+2\pi))=(\sin t,\ -\cos t)$ なので
$$ P(t)=Q(t)+at\,(\sin t,\ -\cos t),\qquad P(t+2\pi)=Q(t)+a(t+2\pi)(\sin t,\ -\cos t) $$
である。2 点は $Q(t)$ から同じ単位ベクトル $(\sin t,\ -\cos t)$ の向きに進んだ点で、その向きは $Q(t)$ での円の接線の向きである。距離は $a(t+2\pi)-at=2\pi a$ である。法線であることは thm-inv-normal の 2 による。$\square$

主定理 2:伸開線の長さと糸が掃く面積

円の伸開線の長さと糸が掃く面積

$a>0$、$T>0$ とする。

  1. 円の伸開線の $t=0$ から $t=T$ までの長さは $\dfrac{aT^2}2$ である。
  2. $T\le2\pi$ のとき、円弧 $AQ(T)$(反時計回り)、糸 $Q(T)P(T)$、伸開線の $P(T)$ から $A$ までの部分で囲まれた部分(糸が掃いた部分)$R(T)$ の面積は $\dfrac{a^2T^3}6$ である。
証明の方針

1 は速さ $at$ の積分で、2 は伸開線を原点中心の極座標で表して扇形状の部分の面積を求め、直角三角形と扇形を足し引きして $R(T)$ の面積に直す。2 の証明は、偏角を調べる補題(lem-inv-polar)のあとにまとめて書く。長さの式 $\dfrac{aT^2}2$ は $T$ の 2 乗に比例し、同じ $T$ で糸の長さ $aT$ の半分の $T$ 倍にあたる。

面積の証明では、伸開線を極方程式の曲線とみて、極座標で表された図形の面積 の定理「極座標で表された図形の面積の公式」を使う。そのために、$P(t)$ の偏角を求めておく。

伸開線の極座標

$t\ge0$ に対し、$0\le\alpha(t)<\dfrac\pi2$ で $\tan\alpha(t)=t$ となる角を $\alpha(t)=\arctan t$ とし、$\varphi(t)=t-\alpha(t)$ とおく。このとき
$$ P(t)=a\sqrt{1+t^2}\,\bigl(\cos\varphi(t),\ \sin\varphi(t)\bigr),\qquad \varphi'(t)=\frac{t^2}{1+t^2} $$
である。$\varphi$ は $t\ge0$ で増加し、$\varphi(0)=0$、$\varphi(t)\le t$ である。

$\cos\alpha=\dfrac1{\sqrt{1+t^2}}$、$\sin\alpha=\dfrac t{\sqrt{1+t^2}}$ である($\tan\alpha=t$、$\cos\alpha>0$)。加法定理により
$$ a\sqrt{1+t^2}\cos(t-\alpha)=a\sqrt{1+t^2}\bigl(\cos t\cos\alpha+\sin t\sin\alpha\bigr)=a(\cos t+t\sin t) $$
で、同じように $a\sqrt{1+t^2}\sin(t-\alpha)=a\sqrt{1+t^2}(\sin t\cos\alpha-\cos t\sin\alpha)=a(\sin t-t\cos t)$ である。逆関数の微分 により $\alpha'(t)=\dfrac1{1+t^2}$ なので、$\varphi'(t)=1-\dfrac1{1+t^2}=\dfrac{t^2}{1+t^2}\ge0$ で、$\varphi'$ は $t=0$ でしか $0$ にならないから $\varphi$ は増加する。$\alpha\ge0$ から $\varphi(t)\le t$ である。$\square$

thm-inv-length-area の証明。
段 1(長さ)。thm-inv-normal の 1 により速さは $at$ なので、媒介変数表示と曲線の長さ の定理「曲線の長さの公式」により、長さは $\displaystyle\int_0^Tat\,dt=\frac{aT^2}2$ である。
段 2(原点から見た扇形の部分)。lem-inv-polar により、$0\le t\le T$ の伸開線は偏角 $\varphi$ が $0$ から $\varphi(T)$ まで増える曲線で、偏角 $\varphi(t)$ の方向の点の原点からの距離は $a\sqrt{1+t^2}$ である。$\varphi(T)\le T\le2\pi$ なので、伸開線と半直線 $\varphi=0$、$\varphi=\varphi(T)$ で囲まれた部分 $F$ の面積は、極座標で表された図形の面積 の公式により
$$ \frac12\int_0^{\varphi(T)}r^2\,d\varphi=\frac12\int_0^T a^2(1+t^2)\,\varphi'(t)\,dt=\frac12\int_0^T a^2(1+t^2)\cdot\frac{t^2}{1+t^2}\,dt=\frac{a^2}2\int_0^Tt^2\,dt=\frac{a^2T^3}6 $$
である(真ん中の等号は置換 $\varphi=\varphi(t)$ による)。
段 3(図形を組み替える)。三角形 $OQ(T)P(T)$ は $Q(T)$ で直角($OQ\perp QP$)なので、面積は $\dfrac12\cdot a\cdot aT=\dfrac{a^2T}2$ である。この三角形は偏角 $\varphi(T)$ から $T$ までの範囲にあり、$F$ とは線分 $OP(T)$ で接する。$F$ と三角形を合わせた図形 $W$ は、線分 $OA$、伸開線、糸 $P(T)Q(T)$、線分 $Q(T)O$ で囲まれ、面積は $\dfrac{a^2T^3}6+\dfrac{a^2T}2$ である。一方、$W$ は $R(T)$ と、中心角 $T$ の扇形 $OAQ(T)$(面積 $\dfrac12a^2T$)に、円弧 $AQ(T)$ で分かれる(図 3)。よって
$$ R(T)\text{ の面積}=\frac{a^2T^3}6+\frac{a^2T}2-\frac{a^2T}2=\frac{a^2T^3}6 $$
である。$\square$

段 3 で、扇形 $OAQ(T)$ が $W$ に含まれるのは、伸開線の点の原点からの距離 $a\sqrt{1+t^2}$ が $a$ 以上で、三角形の辺 $QP$ も円の外側(接線の上)にあるからである。面積の性質(分けた図形の面積の和)は 極座標で表された図形の面積 の注意「この記事で認める面積の性質」と同じものを使った。

a=1、T=2 のとき糸が掃いた部分 R(T)(橙)。円弧 AQ(T)、糸 Q(T)P(T)、伸開線で囲まれる a=1、T=2 のとき糸が掃いた部分 R(T)(橙)。円弧 AQ(T)、糸 Q(T)P(T)、伸開線で囲まれる
面積の求め方。極座標の部分 F(青)と直角三角形 OQ(T)P(T)(緑)を合わせた図形から、斜線の扇形 OAQ(T) を除くと、左の図の部分になる 面積の求め方。極座標の部分 F(青)と直角三角形 OQ(T)P(T)(緑)を合わせた図形から、斜線の扇形 OAQ(T) を除くと、左の図の部分になる

長さと面積の値
  1. $a=1$、$T=2$ では、長さは $\dfrac{1\cdot4}2=2$、糸が掃いた部分の面積は $\dfrac{8}6=\dfrac43=1.333\ldots$ である。境界の点を細かくとって多角形の面積として数値で計算しても $1.33333\ldots$ になる。糸の長さも $aT=2$ で、伸開線の長さと等しい。
  2. $T=2\pi$(1 巻き)では、長さは $2\pi^2a=19.739\ldots a$、面積は $\dfrac{(2\pi)^3a^2}6=\dfrac{4\pi^3a^2}3=41.34\ldots a^2$ である。糸の長さは円周 $2\pi a$ で、伸開線の長さはその $\pi$ 倍である。

Archimedes の螺旋との比較

cor-inv-spacing により、円の伸開線の巻きの間隔は、糸の方向(法線の方向)に測っていつも $2\pi a$ である。Archimedesの螺旋 $r=b\theta$ も、原点を通る半直線の方向に測って間隔がいつも $2\pi b$ の渦巻きである。2 つを比べる。
lem-inv-polar により、伸開線の点 $P(t)$ の極座標は $r=a\sqrt{1+t^2}$、$\varphi=t-\arctan t$ である。$t$ が大きいと $\arctan t$ は $\dfrac\pi2$ に近く、$\sqrt{1+t^2}$ は $t$ に近いので、$r$ はおよそ $a\left(\varphi+\dfrac\pi2\right)$ になる。遠くでは、伸開線は Archimedes の螺旋 $r=a\left(\varphi+\dfrac\pi2\right)$ に近づく(図 4)。

伸開線と螺旋の差

$a=1$ とし、伸開線の点の原点からの距離 $r=\sqrt{1+t^2}$ と、同じ偏角 $\varphi=t-\arctan t$ での螺旋の距離 $\varphi+\dfrac\pi2$ を比べる。

$t$$2$$5$$10$$20$
伸開線の $r$$2.2361$$5.0990$$10.0499$$20.0250$
螺旋の $\varphi+\frac\pi2$$2.4636$$5.1974$$10.0997$$20.0500$
差$-0.2276$$-0.0984$$-0.0498$$-0.0250$

(小数第 5 位を四捨五入。差は丸める前の値の差を丸めたもの)差は $t$ が $2$ 倍になるとほぼ半分になり、$0$ に近づく。

差が $0$ に近づくことの確かめ方を開く

差は $\sqrt{1+t^2}-t-\left(\dfrac\pi2-\arctan t\right)$ である。$\sqrt{1+t^2}-t=\dfrac{1}{\sqrt{1+t^2}+t}$ は $t\to\infty$ で $0$ に近づき、$\arctan t\to\dfrac\pi2$ なので、差は $0$ に近づく。$t>0$ で $\dfrac\pi2-\arctan t=\arctan\dfrac1t$ なので、差は $\dfrac1{\sqrt{1+t^2}+t}-\arctan\dfrac1t$ で、どちらの項もおよそ $\dfrac1{2t}$ と $\dfrac1t$ だから、差はおよそ $-\dfrac1{2t}$ である(表の値と合う)。

円の伸開線(赤)と Archimedes の螺旋 r=φ+π/2(紫の破線)。巻くにつれて 2 つの曲線は近づく 円の伸開線(赤)と Archimedes の螺旋 r=φ+π/2(紫の破線)。巻くにつれて 2 つの曲線は近づく

円の伸開線Archimedes の螺旋 $r=b\theta$
作り方円から糸をほどく半直線の上を一定の速さで進みながら半直線が回る
式$\bigl(a(\cos t+t\sin t),\ a(\sin t-t\cos t)\bigr)$$(b\theta\cos\theta,\ b\theta\sin\theta)$
巻きの間隔法線の方向に $2\pi a$半直線の方向に $2\pi b$
中心の近く円の点 $A$ から始まる原点から始まる
長さ$\dfrac{at^2}2$(簡単な式)対数を含む式(Archimedesの螺旋)

伸開線の長さが簡単な式になるのは、速さ $at$ が $t$ の 1 次式だからである。螺旋の速さは $b\sqrt{1+\theta^2}$ で、積分に対数が現れる。

例と反例

def-inv-circle と thm-inv-length-area の仮定を外すと何が崩れるかを並べる。

外す条件反例成り立たなくなること
糸を巻く曲線が滑らか(円)1 辺 $1$ の正方形に巻く曲率が連続に変わる、縮閉線が曲線
$t\ge0$$t<0$ も含める$A$ は曲線の端点で、曲線は $A$ から 1 本の枝として出る($A$ で尖る 2 本の枝になる)
$T\le2\pi$$T=4\pi$糸が掃く部分の面積が $\frac{a^2T^3}6$
反例:正方形に巻いた糸をほどく

頂点 $V_0(0,0)$、$V_1(1,0)$、$V_2(1,1)$、$V_3(0,1)$ の正方形に、$V_0$ から反時計回りに糸を巻き、端を $V_0$ に置く。糸をほどくと、糸の端は次の 4 つの四分円をつないだ曲線を描く(図 5)。
(1) $V_1$ を中心に半径 $1$ で、$V_0$ から $(1,-1)$ まで。(2) $V_2$ を中心に半径 $2$ で、$(3,1)$ まで。(3) $V_3$ を中心に半径 $3$ で、$(0,4)$ まで。(4) $V_0$ を中心に半径 $4$ で、$(-4,0)$ まで。
曲率は $1$、$\dfrac12$、$\dfrac13$、$\dfrac14$ と、四分円の継ぎ目でとびとびに変わる。曲率中心は正方形の 4 つの頂点で、縮閉線は曲線にならない。1 巻きの長さは $\dfrac\pi2(1+2+3+4)=5\pi=15.70\ldots$ で、同じ周の長さ $4$ の円($a=\dfrac2\pi$)の伸開線の 1 巻きの長さ $2\pi^2a=4\pi=12.56\ldots$ より長い。

反例:$t<0$ も含めると尖る

def-inv-circle の式に $t<0$ も入れると、$P(-t)=\bigl(a(\cos t+t\sin t),\ -a(\sin t-t\cos t)\bigr)$ なので、$t<0$ の部分は $t>0$ の部分を $x$ 軸に関して折り返した曲線である(図 6)。速さ $a\lvert t\rvert$ は $t=0$ で $0$ である(これは $t\ge0$ だけでも同じで、thm-inv-normal が $t>0$ に限るのはこのためである)。$t<0$ を含めると、$A$ は端点ではなく 2 本の枝が出会う点になる。$t=0$ の近くでは $P(t)$ はおよそ $\left(a\left(1+\dfrac{t^2}2\right),\ \dfrac{at^3}3\right)$ で、点 $A(a,0)$ で尖り、2 つの枝はどちらも $A$ から右へ伸びる。曲率(高校数学) の反例で見た曲線 $(t^2,\ t^3)$ の原点と同じ形の尖り方である。

1 辺 1 の正方形(黒)に巻いた糸をほどくときの糸の端の軌跡。半径 1, 2, 3, 4 の四分円がつながる。点は各四分円の中心 1 辺 1 の正方形(黒)に巻いた糸をほどくときの糸の端の軌跡。半径 1, 2, 3, 4 の四分円がつながる。点は各四分円の中心
t≥0 の伸開線(赤)と、t<0 の部分(紫の破線)。2 つは x 軸に関して対称で、点 A で尖る t≥0 の伸開線(赤)と、t<0 の部分(紫の破線)。2 つは x 軸に関して対称で、点 A で尖る
反例:2 巻き目では糸が同じ場所を掃く

cor-inv-spacing により、ほどいた角 $t$ と $t+2\pi$ の糸は同じ接線の上にあり、$t$ の糸(長さ $at$)は $t+2\pi$ の糸(長さ $a(t+2\pi)$)に含まれる。したがって $T>2\pi$ では、2 巻き目の糸が 1 巻き目に掃いた場所をもう一度掃く。$T=4\pi$ まで糸をほどいたとき、糸が通った部分の面積を数値で計算すると $\dfrac{28\pi^3a^2}3=289.39\ldots a^2$ で、$\dfrac{a^2(4\pi)^3}6=\dfrac{32\pi^3a^2}3=330.73\ldots a^2$ より小さい。この値 $\dfrac{28\pi^3a^2}3$ は、外側の巻きで囲まれた部分の面積を多角形で近似した計算と、点を多数とって数える計算で確かめたもので、この記事では式としては証明しない。thm-inv-length-area の 2 の仮定 $T\le2\pi$ は、糸が同じ場所を 2 度掃かないための条件である。

大学数学で見る:伸開線と縮閉線は逆の操作

thm-inv-normal では、円の伸開線の縮閉線がもとの円であることを示した。これは円に限らない。曲率が $0$ にならない曲線 $C$ の伸開線 $I$ について、$I$ の縮閉線は $C$ である(Wei26a)。

一般の曲線での計算を開く

$C$ が 3 回微分可能で 3 階導関数が連続、速さ $v\ne0$、曲率 $\kappa>0$ とし、def-inv の $I=C-s\vec T$ を $s>0$ の範囲で考える。縮閉線 の補題「単位接ベクトルと単位法ベクトルの微分」の $\vec T\,'=\kappa v\vec N$ と $s'=v$ を使うと

$$I'=v\vec T-v\vec T-s\kappa v\,\vec N=-s\kappa v\,\vec N$$

である。$I$ の速さは $s\kappa v$、単位接ベクトルは $\vec T_I=-\vec N$ で、糸の向き $\vec T$ に垂直である。$\vec T_I$ を反時計回りに $90^\circ$ 回すと $\vec N_I=\vec T$ である。$\vec T_I\,'=-\vec N\,'=\kappa v\vec T$ で、これは $I$ の曲率を $\kappa_I$ として $\kappa_I\cdot(s\kappa v)\cdot\vec N_I$ に等しいから(縮閉線 の補題を $I$ に使った)、$\kappa_I=\dfrac1s$ である。よって $I$ の曲率中心は $I+s\vec N_I=C-s\vec T+s\vec T=C$ で、$I$ の縮閉線は $C$ である。


逆に、曲線 $P$ の縮閉線 $C$ から糸をほどくと $P$ にもどることは、縮閉線 の定理「縮閉線の長さ」の読み方で見た。伸開線をとる操作と縮閉線をとる操作は、互いに逆の操作になっている。
Wei26b によれば、円の伸開線は、Huygens が船の上で使う、振り子を使わない時計を考えていたときに初めて調べられた。

さらに先へ

  • thm-inv-length-area の 2 では、糸が掃く面積 $\dfrac{a^2T^3}6$ が $\displaystyle\int_0^T\frac12(at)^2\,dt$、つまり「長さ $at$ の糸を中心角 $dt$ だけ回した細い扇形」を足し合わせた値になっている。接線の線分が掃く面積を一般の曲線で考えると Mamikonの定理 になる。
  • トラクトリクス では、懸垂線に巻いた糸をほどいてトラクトリクスが得られることを示している。縮閉線 の例のとおり、トラクトリクスの縮閉線は懸垂線である。
  • サイクロイド の縮閉線は合同なサイクロイドで、サイクロイドの伸開線もまた合同なサイクロイドである(Wei26a の表)。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する