円の伸開線(involute of a circle)とは、半径 $a$ の円に巻いた糸を、ぴんと張ったまま点 $(a,0)$ からほどくとき、糸の端が描く曲線 $P(t)=\bigl(a(\cos t+t\sin t),\ a(\sin t-t\cos t)\bigr)$($t\ge0$ はほどいた角)である。$t>0$ で速さは $at$、糸は伸開線に垂直(糸は法線)で、曲率は $\frac{1}{at}$、曲率中心は糸と円の接点なので、伸開線の縮閉線はもとの円である。$t=0$ から $T$ までの長さは $\frac{aT^2}2$ で、$0<T\le2\pi$ のとき糸が掃いた部分の面積は $\frac{a^2T^3}6$ である。隣り合う巻きは糸の方向に測っていつも $2\pi a$ 離れ、遠くでは Archimedes の螺旋に近づく。
前提知識: 縮閉線, 曲率(高校数学), 媒介変数表示と曲線の長さ, 極座標で表された図形の面積, 逆関数の微分
円柱の糸巻きに糸を巻き、糸の端をつまんで、糸をぴんと張ったままほどいていく。ほどけた部分の糸は、糸巻きから離れる点で円に接し、その長さは、ほどいた分の円弧の長さに等しい。糸の端はどんな曲線を描くだろうか。
原点を中心とする半径 $1$ の円に、点 $A(1,0)$ から反時計回りに糸を巻いておく。糸の端は最初 $A$ にある。糸を、円から離れる点が反時計回りに進むようにほどく。
(1) 離れる点が $Q=(0,1)$ まで進んだとき(中心角 $\dfrac\pi2$)、ほどけた糸の長さは円弧 $AQ$ の長さ $\dfrac\pi2$ である。糸は $Q$ での円の接線に沿って、ほどいてきた側($A$ の側)へ伸びている。$Q$ での接線は $x$ 軸に平行で、$A$ の側は右なので、糸の端は $\left(0+\dfrac\pi2,\ 1\right)=\left(\dfrac\pi2,\ 1\right)$ にある。
(2) 離れる点が $Q=(-1,0)$ まで進んだとき(中心角 $\pi$)、糸の長さは $\pi$ で、$Q$ での接線は $y$ 軸に平行、ほどいてきた側は上なので、糸の端は $(-1,\ \pi)$ にある。
どちらでも、糸の端と中心の距離は $\sqrt{1+(\text{糸の長さ})^2}$ で、糸をほどくほど糸の端は中心から遠ざかる。
半径 1 の円(黒)と、点 A から糸をほどくときの糸の端の軌跡(赤)。青い線分は、4 つの時点の糸(円に接する)
この曲線を 円の伸開線 という。縮閉線 では、縮閉線から糸をほどくともとの曲線が得られることを見た。この記事では円から糸をほどき、次の問いに答える。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | ボックス |
|---|---|---|
| 接線の向きのベクトル、弧の長さ $at$ | 伸開線 $P=Q-at\,\vec T$ | def-inv、def-inv-circle |
| 内積が $0$ | 糸は伸開線に垂直(法線) | thm-inv-normal |
| 曲率の式 | 曲率中心は糸の接点、縮閉線は円 | thm-inv-normal |
| 曲線の長さの公式、極座標の面積 | 長さ $\frac{at^2}2$、面積 $\frac{a^2t^3}6$ | thm-inv-length-area |
縮閉線 と同じく、曲線 $C(u)$ の速さを $v=\lvert C'\rvert$、単位接ベクトルを $\vec T=\dfrac1vC'$ と書く。
区間 $[u_0,u_1)$ で定義された曲線 $C(u)=\bigl(x(u),y(u)\bigr)$ が 2 回微分可能で、2 階導関数が連続、速さ $v(u)\ne0$ であるとする。$C(u_0)$ から測った弧長を $s(u)=\displaystyle\int_{u_0}^uv(w)\,dw$ とし、
$$
I(u)=C(u)-s(u)\,\vec T(u)\qquad(u_0\le u< u_1)
$$
の描く曲線を、$C$ の $C(u_0)$ から始まる 伸開線 という。
$I(u)$ は、$C(u)$ から接線に沿って、進む向きと逆向きに長さ $s(u)$ だけもどった点である。$C$ に $C(u_0)$ から $C(u)$ まで巻きつけた糸を、$C(u)$ で離して接線に沿ってぴんと張ったときの糸の端にあたる。糸をほどき始める点を変えると別の伸開線が得られるので、1 つの曲線の伸開線は 1 つではない(Wei26a)。
$a>0$ とする。半径 $a$ の円 $Q(t)=(a\cos t,\ a\sin t)$ の、点 $A(a,0)$($t=0$)から始まる伸開線
$$
P(t)=\bigl(a(\cos t+t\sin t),\ \ a(\sin t-t\cos t)\bigr)\qquad(t\ge0)
$$
を 円の伸開線 という。$t$ を ほどいた角 と呼ぶ。
def-inv に当てはめて式を確かめる。円 $Q(t)$ の速さは $a$ なので弧長は $s(t)=at$、単位接ベクトルは $\vec T=(-\sin t,\ \cos t)$ である。よって
$$
Q(t)-at\,\vec T(t)=(a\cos t,\ a\sin t)-at(-\sin t,\ \cos t)=\bigl(a(\cos t+t\sin t),\ a(\sin t-t\cos t)\bigr)
$$
で、def-inv-circle の式になる。糸は、接点 $Q(t)$ から向き $(\sin t,\ -\cos t)$ に長さ $at$ だけ伸びている。
$a=1$ とする。
(1) $t=\dfrac\pi2$ では $P=\left(0+\dfrac\pi2\cdot1,\ 1-0\right)=\left(\dfrac\pi2,\ 1\right)$、$t=\pi$ では $P=(-1+0,\ 0+\pi)=(-1,\ \pi)$ で、ex-inv-start の点と一致する。
(2) $t=2\pi$(1 巻き)では $P=(1,\ -2\pi)$ である。糸の長さは円周 $2\pi$ で、糸は $A(1,0)$ から真下に伸びている。
(3) 中心から $P(t)$ までの距離の 2 乗は
$$
a^2(\cos t+t\sin t)^2+a^2(\sin t-t\cos t)^2=a^2\bigl(1+t^2\bigr)
$$
である(展開すると $2t\cos t\sin t$ の項が打ち消し合う)。$OQ\perp QP$ なので、これは三平方の定理 $OP^2=OQ^2+QP^2=a^2+(at)^2$ と同じである。
$a>0$ とし、$P(t)$ を def-inv-circle の円の伸開線、$Q(t)=(a\cos t,\ a\sin t)$ を糸の接点とする。$t>0$ のとき、次が成り立つ。
段 1(速度)。積の微分により
$$
\bigl(a(\cos t+t\sin t)\bigr)'=a(-\sin t+\sin t+t\cos t)=at\cos t,\qquad \bigl(a(\sin t-t\cos t)\bigr)'=a(\cos t-\cos t+t\sin t)=at\sin t
$$
なので $P'(t)=at(\cos t,\ \sin t)$、速さは $\sqrt{a^2t^2(\cos^2t+\sin^2t)}=at$ である($t>0$)。
段 2(糸は垂直)。$\overrightarrow{QP}=P(t)-Q(t)=at(\sin t,\ -\cos t)$ なので、内積は
$$
\overrightarrow{QP}\cdot P'(t)=at\cdot at\,(\sin t\cos t-\cos t\sin t)=0
$$
である。$P(t)$ での法線は、$P(t)$ を通り $P'(t)$ に垂直な直線なので、$Q(t)$ を通る。つまり糸を含む直線である。
段 3(曲率)。2 階導関数は $x''=a(\cos t-t\sin t)$、$y''=a(\sin t+t\cos t)$ なので
$$
x'y''-x''y'=a^2t\bigl(\cos t(\sin t+t\cos t)-\sin t(\cos t-t\sin t)\bigr)=a^2t\cdot t\bigl(\cos^2t+\sin^2t\bigr)=a^2t^2
$$
である。曲率(高校数学) の定義「符号つきの曲率」により $\kappa=\dfrac{a^2t^2}{(at)^3}=\dfrac1{at}$ である。単位接ベクトルは $\vec T_P=(\cos t,\ \sin t)$、単位法ベクトルは $\vec N_P=(-\sin t,\ \cos t)$ なので、曲率(高校数学) の命題「曲率中心の位置」により曲率中心は
$$
P(t)+at\,\vec N_P=\bigl(a(\cos t+t\sin t)-at\sin t,\ \ a(\sin t-t\cos t)+at\cos t\bigr)=(a\cos t,\ a\sin t)=Q(t)
$$
である。$t$ が $0$ より大きい範囲を動くと、曲率中心 $Q(t)$ は円を描く。$\square$
曲率 $\dfrac1{at}$ は Wei26b の式と一致する。$\kappa>0$ なので、伸開線は進む向きに対していつも左へ曲がる。糸をほどくほど曲率半径 $at$ は大きくなり、伸開線はゆるやかに曲がる。縮閉線 の定理「縮閉線の長さ」を伸開線に当てはめると、縮閉線(円)の $t_1$ から $t_2$ までの長さは $a(t_2-t_1)$ で、曲率半径の差 $at_2-at_1$ と一致する。
$a=1$、$t=1$ とする。$P(1)=(\cos1+\sin1,\ \sin1-\cos1)=(1.3817\ldots,\ 0.3011\ldots)$、$Q(1)=(0.5403\ldots,\ 0.8414\ldots)$ で、
$$
\overrightarrow{QP}=(0.8414\ldots,\ -0.5403\ldots)=(\sin1,\ -\cos1),\qquad P'(1)=(\cos1,\ \sin1)=(0.5403\ldots,\ 0.8414\ldots)
$$
である。内積は $0.8414\ldots\times0.5403\ldots-0.5403\ldots\times0.8414\ldots=0$、糸の長さは $1$ で、曲率半径 $\dfrac1\kappa=1$ と一致する。
糸と伸開線がいつも垂直なので、隣り合う巻きの間隔を糸の方向に測ることができる。
$t\ge0$ とする。$P(t)$ と $P(t+2\pi)$ は、接点 $Q(t)$ での円の接線の上にあり、$Q(t)$ から同じ向きにそれぞれ $at$、$a(t+2\pi)$ の距離にある。したがって $P(t)$ と $P(t+2\pi)$ の距離は $2\pi a$ で、$t$ によらない。この接線は、$t>0$ なら 2 点のどちらでも伸開線の法線である。
$Q(t+2\pi)=Q(t)$ で、$(\sin(t+2\pi),\ -\cos(t+2\pi))=(\sin t,\ -\cos t)$ なので
$$
P(t)=Q(t)+at\,(\sin t,\ -\cos t),\qquad P(t+2\pi)=Q(t)+a(t+2\pi)(\sin t,\ -\cos t)
$$
である。2 点は $Q(t)$ から同じ単位ベクトル $(\sin t,\ -\cos t)$ の向きに進んだ点で、その向きは $Q(t)$ での円の接線の向きである。距離は $a(t+2\pi)-at=2\pi a$ である。法線であることは thm-inv-normal の 2 による。$\square$
$a>0$、$T>0$ とする。
1 は速さ $at$ の積分で、2 は伸開線を原点中心の極座標で表して扇形状の部分の面積を求め、直角三角形と扇形を足し引きして $R(T)$ の面積に直す。2 の証明は、偏角を調べる補題(lem-inv-polar)のあとにまとめて書く。長さの式 $\dfrac{aT^2}2$ は $T$ の 2 乗に比例し、同じ $T$ で糸の長さ $aT$ の半分の $T$ 倍にあたる。
面積の証明では、伸開線を極方程式の曲線とみて、極座標で表された図形の面積 の定理「極座標で表された図形の面積の公式」を使う。そのために、$P(t)$ の偏角を求めておく。
$t\ge0$ に対し、$0\le\alpha(t)<\dfrac\pi2$ で $\tan\alpha(t)=t$ となる角を $\alpha(t)=\arctan t$ とし、$\varphi(t)=t-\alpha(t)$ とおく。このとき
$$
P(t)=a\sqrt{1+t^2}\,\bigl(\cos\varphi(t),\ \sin\varphi(t)\bigr),\qquad \varphi'(t)=\frac{t^2}{1+t^2}
$$
である。$\varphi$ は $t\ge0$ で増加し、$\varphi(0)=0$、$\varphi(t)\le t$ である。
$\cos\alpha=\dfrac1{\sqrt{1+t^2}}$、$\sin\alpha=\dfrac t{\sqrt{1+t^2}}$ である($\tan\alpha=t$、$\cos\alpha>0$)。加法定理により
$$
a\sqrt{1+t^2}\cos(t-\alpha)=a\sqrt{1+t^2}\bigl(\cos t\cos\alpha+\sin t\sin\alpha\bigr)=a(\cos t+t\sin t)
$$
で、同じように $a\sqrt{1+t^2}\sin(t-\alpha)=a\sqrt{1+t^2}(\sin t\cos\alpha-\cos t\sin\alpha)=a(\sin t-t\cos t)$ である。逆関数の微分 により $\alpha'(t)=\dfrac1{1+t^2}$ なので、$\varphi'(t)=1-\dfrac1{1+t^2}=\dfrac{t^2}{1+t^2}\ge0$ で、$\varphi'$ は $t=0$ でしか $0$ にならないから $\varphi$ は増加する。$\alpha\ge0$ から $\varphi(t)\le t$ である。$\square$
thm-inv-length-area の証明。
段 1(長さ)。thm-inv-normal の 1 により速さは $at$ なので、媒介変数表示と曲線の長さ の定理「曲線の長さの公式」により、長さは $\displaystyle\int_0^Tat\,dt=\frac{aT^2}2$ である。
段 2(原点から見た扇形の部分)。lem-inv-polar により、$0\le t\le T$ の伸開線は偏角 $\varphi$ が $0$ から $\varphi(T)$ まで増える曲線で、偏角 $\varphi(t)$ の方向の点の原点からの距離は $a\sqrt{1+t^2}$ である。$\varphi(T)\le T\le2\pi$ なので、伸開線と半直線 $\varphi=0$、$\varphi=\varphi(T)$ で囲まれた部分 $F$ の面積は、極座標で表された図形の面積 の公式により
$$
\frac12\int_0^{\varphi(T)}r^2\,d\varphi=\frac12\int_0^T a^2(1+t^2)\,\varphi'(t)\,dt=\frac12\int_0^T a^2(1+t^2)\cdot\frac{t^2}{1+t^2}\,dt=\frac{a^2}2\int_0^Tt^2\,dt=\frac{a^2T^3}6
$$
である(真ん中の等号は置換 $\varphi=\varphi(t)$ による)。
段 3(図形を組み替える)。三角形 $OQ(T)P(T)$ は $Q(T)$ で直角($OQ\perp QP$)なので、面積は $\dfrac12\cdot a\cdot aT=\dfrac{a^2T}2$ である。この三角形は偏角 $\varphi(T)$ から $T$ までの範囲にあり、$F$ とは線分 $OP(T)$ で接する。$F$ と三角形を合わせた図形 $W$ は、線分 $OA$、伸開線、糸 $P(T)Q(T)$、線分 $Q(T)O$ で囲まれ、面積は $\dfrac{a^2T^3}6+\dfrac{a^2T}2$ である。一方、$W$ は $R(T)$ と、中心角 $T$ の扇形 $OAQ(T)$(面積 $\dfrac12a^2T$)に、円弧 $AQ(T)$ で分かれる(図 3)。よって
$$
R(T)\text{ の面積}=\frac{a^2T^3}6+\frac{a^2T}2-\frac{a^2T}2=\frac{a^2T^3}6
$$
である。$\square$
段 3 で、扇形 $OAQ(T)$ が $W$ に含まれるのは、伸開線の点の原点からの距離 $a\sqrt{1+t^2}$ が $a$ 以上で、三角形の辺 $QP$ も円の外側(接線の上)にあるからである。面積の性質(分けた図形の面積の和)は 極座標で表された図形の面積 の注意「この記事で認める面積の性質」と同じものを使った。
a=1、T=2 のとき糸が掃いた部分 R(T)(橙)。円弧 AQ(T)、糸 Q(T)P(T)、伸開線で囲まれる
面積の求め方。極座標の部分 F(青)と直角三角形 OQ(T)P(T)(緑)を合わせた図形から、斜線の扇形 OAQ(T) を除くと、左の図の部分になる
cor-inv-spacing により、円の伸開線の巻きの間隔は、糸の方向(法線の方向)に測っていつも $2\pi a$ である。Archimedesの螺旋 $r=b\theta$ も、原点を通る半直線の方向に測って間隔がいつも $2\pi b$ の渦巻きである。2 つを比べる。
lem-inv-polar により、伸開線の点 $P(t)$ の極座標は $r=a\sqrt{1+t^2}$、$\varphi=t-\arctan t$ である。$t$ が大きいと $\arctan t$ は $\dfrac\pi2$ に近く、$\sqrt{1+t^2}$ は $t$ に近いので、$r$ はおよそ $a\left(\varphi+\dfrac\pi2\right)$ になる。遠くでは、伸開線は Archimedes の螺旋 $r=a\left(\varphi+\dfrac\pi2\right)$ に近づく(図 4)。
$a=1$ とし、伸開線の点の原点からの距離 $r=\sqrt{1+t^2}$ と、同じ偏角 $\varphi=t-\arctan t$ での螺旋の距離 $\varphi+\dfrac\pi2$ を比べる。
| $t$ | $2$ | $5$ | $10$ | $20$ |
|---|---|---|---|---|
| 伸開線の $r$ | $2.2361$ | $5.0990$ | $10.0499$ | $20.0250$ |
| 螺旋の $\varphi+\frac\pi2$ | $2.4636$ | $5.1974$ | $10.0997$ | $20.0500$ |
| 差 | $-0.2276$ | $-0.0984$ | $-0.0498$ | $-0.0250$ |
(小数第 5 位を四捨五入。差は丸める前の値の差を丸めたもの)差は $t$ が $2$ 倍になるとほぼ半分になり、$0$ に近づく。
差は $\sqrt{1+t^2}-t-\left(\dfrac\pi2-\arctan t\right)$ である。$\sqrt{1+t^2}-t=\dfrac{1}{\sqrt{1+t^2}+t}$ は $t\to\infty$ で $0$ に近づき、$\arctan t\to\dfrac\pi2$ なので、差は $0$ に近づく。$t>0$ で $\dfrac\pi2-\arctan t=\arctan\dfrac1t$ なので、差は $\dfrac1{\sqrt{1+t^2}+t}-\arctan\dfrac1t$ で、どちらの項もおよそ $\dfrac1{2t}$ と $\dfrac1t$ だから、差はおよそ $-\dfrac1{2t}$ である(表の値と合う)。
円の伸開線(赤)と Archimedes の螺旋 r=φ+π/2(紫の破線)。巻くにつれて 2 つの曲線は近づく
| 円の伸開線 | Archimedes の螺旋 $r=b\theta$ | |
|---|---|---|
| 作り方 | 円から糸をほどく | 半直線の上を一定の速さで進みながら半直線が回る |
| 式 | $\bigl(a(\cos t+t\sin t),\ a(\sin t-t\cos t)\bigr)$ | $(b\theta\cos\theta,\ b\theta\sin\theta)$ |
| 巻きの間隔 | 法線の方向に $2\pi a$ | 半直線の方向に $2\pi b$ |
| 中心の近く | 円の点 $A$ から始まる | 原点から始まる |
| 長さ | $\dfrac{at^2}2$(簡単な式) | 対数を含む式(Archimedesの螺旋) |
伸開線の長さが簡単な式になるのは、速さ $at$ が $t$ の 1 次式だからである。螺旋の速さは $b\sqrt{1+\theta^2}$ で、積分に対数が現れる。
def-inv-circle と thm-inv-length-area の仮定を外すと何が崩れるかを並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 糸を巻く曲線が滑らか(円) | 1 辺 $1$ の正方形に巻く | 曲率が連続に変わる、縮閉線が曲線 |
| $t\ge0$ | $t<0$ も含める | $A$ は曲線の端点で、曲線は $A$ から 1 本の枝として出る($A$ で尖る 2 本の枝になる) |
| $T\le2\pi$ | $T=4\pi$ | 糸が掃く部分の面積が $\frac{a^2T^3}6$ |
頂点 $V_0(0,0)$、$V_1(1,0)$、$V_2(1,1)$、$V_3(0,1)$ の正方形に、$V_0$ から反時計回りに糸を巻き、端を $V_0$ に置く。糸をほどくと、糸の端は次の 4 つの四分円をつないだ曲線を描く(図 5)。
(1) $V_1$ を中心に半径 $1$ で、$V_0$ から $(1,-1)$ まで。(2) $V_2$ を中心に半径 $2$ で、$(3,1)$ まで。(3) $V_3$ を中心に半径 $3$ で、$(0,4)$ まで。(4) $V_0$ を中心に半径 $4$ で、$(-4,0)$ まで。
曲率は $1$、$\dfrac12$、$\dfrac13$、$\dfrac14$ と、四分円の継ぎ目でとびとびに変わる。曲率中心は正方形の 4 つの頂点で、縮閉線は曲線にならない。1 巻きの長さは $\dfrac\pi2(1+2+3+4)=5\pi=15.70\ldots$ で、同じ周の長さ $4$ の円($a=\dfrac2\pi$)の伸開線の 1 巻きの長さ $2\pi^2a=4\pi=12.56\ldots$ より長い。
def-inv-circle の式に $t<0$ も入れると、$P(-t)=\bigl(a(\cos t+t\sin t),\ -a(\sin t-t\cos t)\bigr)$ なので、$t<0$ の部分は $t>0$ の部分を $x$ 軸に関して折り返した曲線である(図 6)。速さ $a\lvert t\rvert$ は $t=0$ で $0$ である(これは $t\ge0$ だけでも同じで、thm-inv-normal が $t>0$ に限るのはこのためである)。$t<0$ を含めると、$A$ は端点ではなく 2 本の枝が出会う点になる。$t=0$ の近くでは $P(t)$ はおよそ $\left(a\left(1+\dfrac{t^2}2\right),\ \dfrac{at^3}3\right)$ で、点 $A(a,0)$ で尖り、2 つの枝はどちらも $A$ から右へ伸びる。曲率(高校数学) の反例で見た曲線 $(t^2,\ t^3)$ の原点と同じ形の尖り方である。
1 辺 1 の正方形(黒)に巻いた糸をほどくときの糸の端の軌跡。半径 1, 2, 3, 4 の四分円がつながる。点は各四分円の中心
t≥0 の伸開線(赤)と、t<0 の部分(紫の破線)。2 つは x 軸に関して対称で、点 A で尖る
cor-inv-spacing により、ほどいた角 $t$ と $t+2\pi$ の糸は同じ接線の上にあり、$t$ の糸(長さ $at$)は $t+2\pi$ の糸(長さ $a(t+2\pi)$)に含まれる。したがって $T>2\pi$ では、2 巻き目の糸が 1 巻き目に掃いた場所をもう一度掃く。$T=4\pi$ まで糸をほどいたとき、糸が通った部分の面積を数値で計算すると $\dfrac{28\pi^3a^2}3=289.39\ldots a^2$ で、$\dfrac{a^2(4\pi)^3}6=\dfrac{32\pi^3a^2}3=330.73\ldots a^2$ より小さい。この値 $\dfrac{28\pi^3a^2}3$ は、外側の巻きで囲まれた部分の面積を多角形で近似した計算と、点を多数とって数える計算で確かめたもので、この記事では式としては証明しない。thm-inv-length-area の 2 の仮定 $T\le2\pi$ は、糸が同じ場所を 2 度掃かないための条件である。
thm-inv-normal では、円の伸開線の縮閉線がもとの円であることを示した。これは円に限らない。曲率が $0$ にならない曲線 $C$ の伸開線 $I$ について、$I$ の縮閉線は $C$ である(Wei26a)。
$C$ が 3 回微分可能で 3 階導関数が連続、速さ $v\ne0$、曲率 $\kappa>0$ とし、def-inv の $I=C-s\vec T$ を $s>0$ の範囲で考える。縮閉線 の補題「単位接ベクトルと単位法ベクトルの微分」の $\vec T\,'=\kappa v\vec N$ と $s'=v$ を使うと
$$I'=v\vec T-v\vec T-s\kappa v\,\vec N=-s\kappa v\,\vec N$$
である。$I$ の速さは $s\kappa v$、単位接ベクトルは $\vec T_I=-\vec N$ で、糸の向き $\vec T$ に垂直である。$\vec T_I$ を反時計回りに $90^\circ$ 回すと $\vec N_I=\vec T$ である。$\vec T_I\,'=-\vec N\,'=\kappa v\vec T$ で、これは $I$ の曲率を $\kappa_I$ として $\kappa_I\cdot(s\kappa v)\cdot\vec N_I$ に等しいから(縮閉線 の補題を $I$ に使った)、$\kappa_I=\dfrac1s$ である。よって $I$ の曲率中心は $I+s\vec N_I=C-s\vec T+s\vec T=C$ で、$I$ の縮閉線は $C$ である。
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