Mohr–Mascheroniの定理(Mohr–Mascheroni theorem)とは、相異なる 2 つ以上の点が与えられたとき、それらから定規とコンパスで作図できる点は、すべてコンパスだけで(直線を 1 本も引かずに)作図できるという定理である。直線は通る 2 点で表し、直線について対称な点、長さの整数倍、円に関する反転がコンパスだけでできることを使う。反転で直線を円に移すと、直線と円の交点や 2 直線の交点が 2 円の交点として求まる。一方、半径を 1 つに固定したコンパスだけでは線分の中点さえ作図できない場合があり、半径を自由に選べることが本質的である。
前提知識: 定規とコンパスによる作図, 円に関する反転, 円と直線の位置関係
定規とコンパスによる作図 では、2 点を通る直線を引く定規と、円を描くコンパスを使った。では、定規を使わずにコンパスだけで作図すると、何が作れるだろうか。コンパスだけでは直線は 1 本も引けない。それでも、定規とコンパスで作図できる点は、実はすべてコンパスだけで作図できる。これが Mohr–Mascheroni の定理 である。
まず、コンパスだけで作れる点をいくつか見る。
原点 $O(0,0)$ と $E(1,0)$ から出発する。半径はいつも $OE=1$ とする。
(1) $O$ を中心とする円 $x^2+y^2=1$ と、$E$ を中心とする円 $(x-1)^2+y^2=1$ の交点は、2 式を引いて $2x-1=0$、$x=\dfrac12$、$y=\pm\dfrac{\sqrt3}2$ である。点 $W=\left(\dfrac12,\dfrac{\sqrt3}2\right)$ は $O$、$E$ とともに正三角形をつくる。
(2) $E$ を中心とする円と、$W$ を中心とする円の交点は、$O$ と $\left(\dfrac32,\dfrac{\sqrt3}2\right)$ である($\left(\dfrac32-1\right)^2+\dfrac34=1$、$\left(\dfrac32-\dfrac12\right)^2+0=1$)。
(3) $E$ を中心とする円と、$\left(\dfrac32,\dfrac{\sqrt3}2\right)$ を中心とする円の交点は、$W$ と $(2,0)$ である。$O$、$E$、$(2,0)$ は一直線上に並び、$E$ は $O$ と $(2,0)$ の中点である。
直線を 1 本も引かずに、$x$ 軸の上の点 $(2,0)$ が得られた。
平面の上に、相異なる 2 つ以上の点が有限個与えられているとする。これらを「作図済みの点」とし、次の操作を有限回くり返して得られる点を コンパスだけで作図できる点 という。
定規とコンパスによる作図 の約束(コンパスは中心と半径を別々の場所で決めてよい)と同じ使い方である。直線は描かないので、この記事で「直線 $AB$」と書くときは、作図済みの相異なる 2 点 $A$、$B$ で決まる直線のことで、線そのものは紙の上にない。また、半径が作図済みの点 $A$ までの距離のときは、$(C;\,CA)$ を「$C$ を中心に $A$ を通る円」ともいう。
コンパスだけの作図は、定規とコンパスの作図の一部である。したがって、コンパスだけで作図できる点は、定規とコンパスでも作図できる。問題は逆向きである。
以下、2 つの相異なる円は高々 2 点で交わることを何度も使う。2 円の式を引くと、中心が違えば 1 次式(直線の式)になり、2 円の交点はこの直線と一方の円の交点に一致し、直線と円の交点は高々 2 つだからである(円と直線の位置関係。定規とコンパスによる作図 の補題「交点の座標は平方根 1 つで書ける」の証明の段 4 と同じ計算)。中心が同じ相異なる 2 円は交わらない。
$A\ne B$ とし、$P$ を作図済みの点とする。直線 $AB$ について $P$ と対称な点 $P^*$ は、コンパスだけで作図できる。
方針:直線 $AB$ の上の点は $P$ と $P^*$ から等距離にあることを使う。
段 1($P$ が直線 $AB$ の上にあるとき)。$P^*=P$ なので、作図済みである。
段 2($P$ が直線 $AB$ の上にないとき)。直線 $AB$ は線分 $PP^*$ の垂直二等分線なので、その上の点 $A$、$B$ はどちらも $P$ と $P^*$ から等距離にある。よって $AP^*=AP$、$BP^*=BP$ で、$P^*$ は円 $(A;\,AP)$ と円 $(B;\,BP)$ の両方の上にある。$P$ も両方の上にある。$A\ne B$ なので 2 円は相異なり、交点は高々 2 つだから、交点はちょうど $P$ と $P^*$ である($P\ne P^*$)。よって $P^*$ はこの 2 円の交点として作図できる。なお $P$ は直線上にないので $A\ne P$、$B\ne P$ で、2 円の半径は正である。$\square$
$A\ne B$ を作図済みの点とする。
方針:ex-mm-first の (1)〜(3) の手順を、一般の $A$、$B$ で行う。
段 1(1 の手順)。$s=AB$ とおく。円 $(B;\,s)$ と円 $(A;\,s)$ の交点の一方を $U_1$、円 $(B;\,s)$ と円 $(U_1;\,s)$ の交点のうち $A$ でないほうを $U_2$、円 $(B;\,s)$ と円 $(U_2;\,s)$ の交点のうち $U_1$ でないほうを $C$ とする。
段 2(1 の正しさ)。座標を $B=(0,0)$、$A=(-s,0)$、$U_1$ が上側にくるようにとる。円 $(B;\,s)$ は $x^2+y^2=s^2$ である。$U_1$ は $x^2+y^2=s^2$ と $(x+s)^2+y^2=s^2$ を満たし、引くと $2sx+s^2=0$、$x=-\dfrac s2$ なので $U_1=\left(-\dfrac s2,\dfrac{\sqrt3}2s\right)$ である。同じ計算で、$U_1$ から距離 $s$ の円 $x^2+y^2=s^2$ の上の点は $A$ と $U_2=\left(\dfrac s2,\dfrac{\sqrt3}2s\right)$、$U_2$ から距離 $s$ の点は $U_1$ と $C=(s,0)$ である(たとえば $\left(s-\dfrac s2\right)^2+\left(0-\dfrac{\sqrt3}2s\right)^2=\dfrac{s^2}4+\dfrac{3s^2}4=s^2$)。$C=(s,0)$ は半直線 $AB$ の上にあり、$AC=2s$ である。
段 3(2 の証明)。$k=1$ では $Q_1=B$、$k=2$ では $Q_2$ は 1 の $C$ である。$Q_{k-1}$、$Q_k$($k\ge2$)が作図できたとすると、$Q_{k-1}Q_k=s$ で、1 を $A$、$B$ の代わりに $Q_{k-1}$、$Q_k$ として使うと、半直線 $Q_{k-1}Q_k$ の上で $Q_{k-1}$ から距離 $2s$ の点、つまり $Q_{k+1}$ が得られる。帰納法により、すべての $k$ について $Q_k$ が作図できる。$\square$
左は長さを 2 倍する作図。B を中心とする半径 AB の円を、同じ半径の円で A → U₁ → U₂ → C と 3 回区切ると、C は A の反対側の点になる。右は中点の作図。C を円 (A; AB) に関して反転すると AB の中点 M になる
$A=(0,0)$、$B=(1,0)$ とすると、$U_1=\left(\dfrac12,\dfrac{\sqrt3}2\right)$、$U_2=\left(\dfrac32,\dfrac{\sqrt3}2\right)$、$C=(2,0)$ である(ex-mm-first と同じ点)。次に $B=(1,0)$、$C=(2,0)$ に同じ手順を使うと、円 $(C;\,1)$ の上で $(3,0)$ が得られ、$AQ_3=3$ である。
次の補題が、この記事の中心の道具である。円 $(O;\,r)$ に関する反転は、$O$ 以外の点 $P$ を、半直線 $OP$ の上で $OP\cdot OP'=r^2$ となる点 $P'$ に移す写像である(円に関する反転)。
作図済みの点 $O$ を中心とし、作図済みの 2 点の距離 $r$ を半径とする円 $(O;\,r)$ と、作図済みの点 $P\ne O$ について、$P$ の反転 $P'$ はコンパスだけで作図できる。
方針:$OP>\dfrac r2$ のときは、円 $(P;\,PO)$ と円 $(O;\,r)$ の 2 つの交点 $A$、$B$ で決まる直線について $O$ と対称な点が $P'$ になることを示す。$OP\le\dfrac r2$ のときは、lem-mm-multiple で $P$ を遠くへ移してから同じことをする。
段 1($OP>\dfrac r2$ のときの手順)。$d=OP$ とし、座標を $O=(0,0)$、$P=(d,0)$ にとる。円 $(O;\,r)$ は $x^2+y^2=r^2$、円 $(P;\,d)$ は $(x-d)^2+y^2=d^2$ である。2 式を引くと $2dx-d^2=r^2-d^2$ なので
$$
x=\frac{r^2}{2d}
$$
である。$d>\dfrac r2$ より $0<\dfrac{r^2}{2d}< r$ なので、$y^2=r^2-\left(\dfrac{r^2}{2d}\right)^2>0$ となり、2 円は 2 点 $A=\left(\dfrac{r^2}{2d},\ y_0\right)$、$B=\left(\dfrac{r^2}{2d},\ -y_0\right)$($y_0>0$)で交わる。
段 2(対称な点)。直線 $AB$ は $x=\dfrac{r^2}{2d}$ で、これについて $O=(0,0)$ と対称な点は $\left(\dfrac{r^2}d,0\right)$ である。これは半直線 $OP$ の上にあって $O$ からの距離が $\dfrac{r^2}d$ なので、$OP\cdot\dfrac{r^2}{d}=r^2$ を満たし、$P'$ に一致する。lem-mm-reflect により、$P'$ は円 $(A;\,AO)$ と円 $(B;\,BO)$ の交点のうち $O$ でないほうとして作図できる。
段 3($OP\le\dfrac r2$ のとき)。$k\cdot OP>\dfrac r2$ となる正の整数 $k$ をとる。lem-mm-multiple の 2 により、半直線 $OP$ の上で $OQ=k\cdot OP$ となる点 $Q$ が作図できる。段 1・2 により $Q$ の反転 $Q'$ が作図でき、$OQ'=\dfrac{r^2}{k\cdot OP}$ である。$P'$ は同じ半直線の上で
$$
OP'=\frac{r^2}{OP}=k\cdot\frac{r^2}{k\cdot OP}=k\cdot OQ'
$$
を満たすので、lem-mm-multiple の 2 を $O$、$Q'$ に使って作図できる。$\square$
単位円に関する P(0.8, 0) の反転。P を中心に O を通る円(緑)と単位円(青)の交点を A, B とし、A, B を中心に O を通る 2 円(破線)の交点が P′(1.25, 0) になる
コンパスだけでは直線が引けないので、直線どうしや直線と円の交点は、そのままでは求められない。そこで反転を使う。円に関する反転 の主定理 2 によれば、反転の中心 $O$ を通らない直線は $O$ を通る円に、$O$ を通らない円は $O$ を通らない円に移る。移った先の円の中心がコンパスだけで作図できれば、その円を描ける。
以下、反転の中心 $O$ を原点にとり、同じ記事の主定理 2 の「方程式に代入する証明」の式を使う。そこでは、図形 $a(x^2+y^2)+Dx+Ey+F=0$ の反転(半径 $r$)が
$$
F(X^2+Y^2)+r^2DX+r^2EY+ar^4=0\qquad(\ast\ast)
$$
になることが示されている。
円 $(O;\,r)$ に関する反転で、$O$ を通らない直線 $\ell$ の像は、$O$ を通る円であり、その中心 $K$ は、$\ell$ について $O$ と対称な点 $O^*$ の反転である。したがって $\ell$ が作図済みの 2 点で決まるとき、この円はコンパスだけで描ける(中心 $K$、半径 $KO$)。
要点:$(\ast\ast)$ から像の円の中心を求め、$O^*$ の反転の座標と比べると一致する。
段 1(像の中心)。$\ell$ を $Dx+Ey+F=0$($(D,E)\ne(0,0)$)とする。$O$ を通らないので $F\ne0$ である。$(\ast\ast)$ で $a=0$ とすると、像は $F(X^2+Y^2)+r^2DX+r^2EY=0$ で、$F$ で割って平方完成すると、中心 $\left(-\dfrac{r^2D}{2F},-\dfrac{r^2E}{2F}\right)$ の円で、定数項が $0$ なので $O$ を通る。
段 2($O^*$)。$O$ から $\ell$ に下ろした垂線の足は $H=-\dfrac{F}{D^2+E^2}(D,E)$ である($H$ は法線ベクトル $(D,E)$ の向きにあり、$DH_x+EH_y+F=-F+F=0$ で $\ell$ の上にある)。$O^*=2H=-\dfrac{2F}{D^2+E^2}(D,E)$ である。
段 3($O^*$ の反転)。$OO^{*2}=\dfrac{4F^2}{D^2+E^2}$ なので、反転は$$\frac{r^2}{OO^{*2}}\,O^*=\frac{r^2(D^2+E^2)}{4F^2}\cdot\left(-\frac{2F}{D^2+E^2}\right)(D,E)=-\frac{r^2}{2F}(D,E)$$で、段 1 の中心と一致する。
段 4(作図)。$O^*$ は lem-mm-reflect、その反転 $K$ は lem-mm-invert で作図でき、円 $(K;\,KO)$ が描ける。$\square$
単位円で直線 $x=2$ を反転する。$O$ と対称な点は $O^*=(4,0)$、その反転は $\left(\dfrac14,0\right)$ である。像は中心 $\left(\dfrac14,0\right)$、半径 $\dfrac14$ の円 $\left(X-\dfrac14\right)^2+Y^2=\dfrac1{16}$ で、円に関する反転 の例「4 つの場合を計算する」の (2) と一致する。
円 $(O;\,r)$ に関する反転で、円 $\Gamma=(C;\,\rho)$ を考え、$O\ne C$ で、$O$ は $\Gamma$ の上にないとする。$O$ の $\Gamma$ に関する反転を $O^\Gamma$ とすると、$\Gamma$ の像は円で、その中心 $K$ は $O^\Gamma$ の(円 $(O;\,r)$ に関する)反転である。
方針:lem-mm-line-image と同じく、$(\ast\ast)$ の中心と、2 回反転した点の座標を比べる。
段 1(像の中心)。$C=(p,q)$、$d^2=p^2+q^2>0$ とする。$\Gamma$ は $x^2+y^2-2px-2qy+(d^2-\rho^2)=0$ で、$F=d^2-\rho^2$ は $O$ が $\Gamma$ の上にないので $0$ でない。$(\ast\ast)$ で $a=1$、$D=-2p$、$E=-2q$ とすると、像は $F(X^2+Y^2)-2r^2pX-2r^2qY+r^4=0$ で、中心は $\dfrac{r^2}{F}(p,q)$ である(定数項 $r^4\ne0$ なので $O$ を通らない円)。
段 2($O^\Gamma$)。$O^\Gamma$ は、$C$ から $O$ へ向かう半直線の上で $C$ からの距離が $\dfrac{\rho^2}d$ の点なので
$$
O^\Gamma=(p,q)+\frac{\rho^2}{d}\cdot\frac{-(p,q)}{d}=\left(1-\frac{\rho^2}{d^2}\right)(p,q)=\frac{F}{d^2}(p,q)
$$
である。
段 3($O^\Gamma$ の反転)。$OO^{\Gamma\,2}=\dfrac{F^2}{d^4}\cdot d^2=\dfrac{F^2}{d^2}$ なので、反転は
$$
\frac{r^2}{OO^{\Gamma\,2}}\,O^\Gamma=\frac{r^2d^2}{F^2}\cdot\frac{F}{d^2}(p,q)=\frac{r^2}{F}(p,q)
$$
で、段 1 の中心と一致する。$\square$
単位円で、中心 $C=(3,0)$、半径 $\rho=2$ の円を反転する。$O^\Gamma$ は $C$ から $O$ の向きに $\dfrac{\rho^2}{d}=\dfrac43$ 進んだ点 $\left(\dfrac53,0\right)$ で、その反転は $\left(\dfrac35,0\right)$ である。像の円の中心は $\dfrac{r^2}{F}(p,q)=\dfrac15(3,0)=\left(\dfrac35,0\right)$ で一致し、円に関する反転 の例「4 つの場合を計算する」の (4) の円 $\left(X-\dfrac35\right)^2+Y^2=\dfrac4{25}$ と合う。
像の円を描くには、中心のほかに、円の上の作図済みの点が 1 つ要る(その点までの距離を半径にする)。$\Gamma$ の上に作図済みの点 $T$ があれば、その反転 $T'$ を lem-mm-invert で作り、円 $(K;\,KT')$ を描けばよい。$\Gamma$ の上の点は次のように作れる。
円 $\Gamma=(C;\,\rho)$ を描いてよい円とし、作図済みの点 $W\ne C$ があるとする。$\Gamma$ の上の点で、コンパスだけで作図できるものがある。
段 1。$2k\cdot CW\ge\rho$ となる正の整数 $k$ をとり、lem-mm-multiple の 2 で、半直線 $CW$ の上に $CQ=k\cdot CW$ となる点 $Q$ を作る。$D=CQ$ とおくと $2D\ge\rho$ である。
段 2。円 $(Q;\,QC)$ と $\Gamma$ が交わることを示す。$C=(0,0)$、$Q=(D,0)$ とすると、2 円は $x^2+y^2=\rho^2$、$(x-D)^2+y^2=D^2$ で、引くと $x=\dfrac{\rho^2}{2D}$ となる。$2D\ge\rho$ より $0< x\le\rho$ なので、$y^2=\rho^2-x^2\ge0$ となる $y$ があり、交点がある。この交点は $\Gamma$ の上にあり、作図できる。$\square$
最後に、反転の中心として、与えられた直線や円の上にない点を選べることを確かめる。
作図済みの相異なる 2 点 $A$、$B$ と、2 つの図形(どちらも直線か円)が与えられているとき、どちらの図形の上にもない点で、コンパスだけで作図できるものがある。
方針:3 つの円に内接する正六角形の頂点を候補にし、図形の上にある候補の数を数える。
段 1(3 つの円)。lem-mm-multiple の 1 により、半直線 $AB$ の上に $AQ=2AB$ となる点 $Q$ が作図できる。3 つの円 $Z_1=(A;\,AB)$、$Z_2=(B;\,BA)$、$Z_3=(A;\,AQ)$ を考える。$Z_1$ と $Z_3$ は中心が同じで半径が違い、$Z_2$ は中心が違うので、3 つは相異なる円である。与えられた図形は 2 つなので、3 つのうち少なくとも 1 つ、たとえば $Z$ は、どちらの図形とも一致しない。
段 2(6 つの候補)。$Z$ の中心を $M$、$Z$ の上の作図済みの点を $N$($Z_1$ では $B$、$Z_2$ では $A$、$Z_3$ では $Q$)とする。円 $(N;\,MN)$ と $Z$ の交点をとり、そこから同じ半径の円で区切っていくと(lem-mm-multiple の段 1 と同じ手順)、$Z$ に内接する正六角形の 6 頂点がコンパスだけで作図できる。
段 3(除かれる点は高々 4 つ)。各図形は $Z$ と一致しないので、$Z$ と高々 2 点で交わる(直線と円、または相異なる 2 円)。よって 6 頂点のうち図形の上にあるのは高々 $2+2=4$ つで、少なくとも 2 つの頂点はどちらの図形の上にもない。$\square$
相異なる 2 つ以上の点が有限個与えられているとき、それらから定規とコンパスで作図できる点は、すべてコンパスだけで作図できる。したがって、定規とコンパスで作図できる点の全体と、コンパスだけで作図できる点の全体は一致する。
要点:定規とコンパスの作図で新しい点が生まれるのは、円と円、直線と円、直線と直線の交点としてである。作図の手順にそって、これまでの点がすべてコンパスだけで作図できているとき、次の点もコンパスだけで作図できることを示す(手順の長さについての帰納法)。直線は、作図済みの 2 点で決まるものとして扱う。
段 1(円と円)。定規とコンパスで描く円は $(C;\,UV)$ の形で、$C$、$U$、$V$ はコンパスだけで作図できているので、同じ円をコンパスだけで描ける。その交点はそのまま得られる。
段 2(直線と円、中心が直線の上にないとき)。直線 $\ell=AB$ と円 $\Gamma=(C;\,\rho)$ で、$C$ は $\ell$ の上にないとする。lem-mm-reflect で $\ell$ について $C$ と対称な点 $C^*$ を作り、円 $(C^*;\,\rho)$ を描く(半径は $\Gamma$ と同じ 2 点の距離)。$\ell$ の上の点 $X$ は $C$ と $C^*$ から等距離なので、$X\in\ell\cap\Gamma$ なら $C^*X=CX=\rho$ で、$X$ は 2 円の交点である。逆に 2 円の交点 $X$ は $CX=C^*X$ を満たし、線分 $CC^*$ の垂直二等分線 $\ell$ の上にあるので、$\ell\cap\Gamma$ の点である。よって $\ell\cap\Gamma$ は、相異なる 2 円 $\Gamma$、$(C^*;\,\rho)$ の交点として得られる。
段 3(直線と円、中心が直線の上にあるとき)。lem-mm-avoid で、$\ell$ の上にも $\Gamma$ の上にもない作図済みの点 $O$ をとり、作図済みの点 $A$ までの距離 $r=OA$ を半径とする円 $(O;\,r)$ に関して反転する。$C$ は $\ell$ の上にあるので $O\ne C$ である。
段 3 の手順を、具体的な数で追ってみる。
$C=(0,0)$、$B=(1,0)$ とし、直線 $\ell=CB$($x$ 軸)と、半径 $\sqrt2$ の円 $\Gamma=(C;\,\sqrt2)$(半径は作図済みの 2 点 $(0,0)$、$(1,1)$ の距離)の交点 $X=(\sqrt2,0)$、$Y=(-\sqrt2,0)$ を、コンパスだけで求める。$C$ は $\ell$ の上にあるので段 3 を使う。
(1) 反転の中心:$O=\left(\dfrac12,\dfrac{\sqrt3}2\right)$ は $x$ 軸の上になく、$CO=1\ne\sqrt2$ なので $\Gamma$ の上にもない。半径は $r=OC=1$ とする。
(2) $\ell$ の像:$O$ の $x$ 軸についての対称な点は $O^*=\left(\dfrac12,-\dfrac{\sqrt3}2\right)$ で、$OO^*=\sqrt3$ なので、その反転は $O$ から $O^*$ の向きに距離 $\dfrac{r^2}{OO^*}=\dfrac{\sqrt3}3$($OO^*$ の $\dfrac13$)だけ進んだ点 $K_1=\left(\dfrac12,\dfrac{\sqrt3}6\right)$ である。$\omega$ は中心 $K_1$、半径 $K_1O=\dfrac{\sqrt3}3$ の円である。
(3) $\Gamma$ の像:$O$ の $\Gamma$ に関する反転は $O^\Gamma=\dfrac{\rho^2}{CO^2}\,O=2O=(1,\sqrt3)$ で、$OO^\Gamma=1=r$ なので、$(O;\,1)$ に関する反転では動かない。よって $\Gamma'$ の中心は $K_2=(1,\sqrt3)$ である。$\Gamma$ の上の点 $(0,\sqrt2)$ の反転との距離を計算すると、半径は $\sqrt2$ になる。
(4) 交点:$\omega$ と $\Gamma'$ の交点は $(1.0765\ldots,\ 0.3199\ldots)$ と $(0.0663\ldots,\ 0.6698\ldots)$ である。これらを $(O;\,1)$ で反転すると、$(1.4142\ldots,0)$ と $(-1.4142\ldots,0)$、つまり $X$ と $Y$ に戻る(図 3)。
x 軸(青の点線、実際には引かない)と円 (C; √2)(青)の交点 X, Y を、O を中心とする半径 1 の円(灰色の破線)で反転して求める。直線の像は O を通る円(緑)、円の像は別の円(橙)で、その交点 X′, Y′ を反転し直すと X, Y になる
この定理は Mascheroni が 1797 年に発表して知られるようになったが、のちに Mohr が 1672 年にすでに証明していたことが分かった。Mohr と Mascheroni の証明はどちらも複雑で、その後、反転を使う簡単な証明(この記事の証明はこの型である)が知られるようになった。Hungerbühler は、反転を使わず、相似な三角形と方べきの定理だけで済む短い証明を与えている(Hun94)。
作図済みの 2 点 $A$、$B$ について、線分 $AB$ の中点をコンパスだけで作図せよ。定規があれば垂直二等分線を引けばよいが、コンパスだけではその直線が引けない。
方針:$AB$ を 2 倍に延ばした点 $C$ を作り、$C$ を円 $(A;\,AB)$ に関して反転する。
段 1(手順)。lem-mm-multiple の 1 で、半直線 $AB$ の上に $AC=2AB$ となる点 $C$ を作る。次に円 $(C;\,CA)$ と円 $(A;\,AB)$ の交点を $F$、$G$ とし、円 $(F;\,FA)$ と円 $(G;\,GA)$ の交点のうち $A$ でないほうを $M$ とする。
段 2(正しさ)。$s=AB$ とおく。$AC=2s>\dfrac s2$ なので、段 1 の後半は lem-mm-invert の段 1・2 の手順そのもので、$M$ は $C$ の円 $(A;\,s)$ に関する反転である。よって $M$ は半直線 $AC$($=$ 半直線 $AB$)の上にあり
$$
AM=\frac{s^2}{AC}=\frac{s^2}{2s}=\frac s2
$$
である。つまり $M$ は $AB$ の中点である。
段 3(数で確かめる)。$A=(0,0)$、$B=(1,0)$ なら $C=(2,0)$ で、円 $(x-2)^2+y^2=4$ と $x^2+y^2=1$ の交点は $x=\dfrac14$、$y=\pm\dfrac{\sqrt{15}}4$ である。直線 $x=\dfrac14$ について $A$ と対称な点は $\left(\dfrac12,0\right)$ で、確かに中点である(図 1 の右)。$\square$
平面を複素数平面とみる。点 $a$ を中心とする半径 $r$ の円に関する反転は
$$
z\ \longmapsto\ a+\frac{r^2}{\overline{z-a}}
$$
と書ける($z-a$ と同じ向きで、長さが $\dfrac{r^2}{|z-a|}$ の複素数を $a$ に足している)。これは四則と複素共役だけでできた式である。$O$ と $E$ から定規とコンパスで作図できる点を複素数とみた全体は、四則・複素共役・平方根で閉じている(作図可能数 の命題「平方根で閉じた体」)。この記事の証明は、四則のうち「割り算」を反転で、線対称を 2 つの円の交点で実現し、直線を 1 本も使わずに同じ集まりが得られることを示したものである。大学では、反転と線対称を合成して得られる写像を 1 次分数変換(Möbius 変換)とその共役の仲間として扱い、直線を「無限遠点を通る円」とみなす(円に関する反転 の「大学数学で見る」)。
この中点の作図のうち、2 倍の点を作った後の手順($F$、$G$、$M$ を求める部分)は Hun94 の Construction 2 と同じで、そこでは相似な三角形で正しさが示されている(2 倍の点の作り方は、この記事の lem-mm-multiple と違う)。
thm-mm-main のどの仮定を外すと、どの主張が崩れるかを表にする。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| コンパスの半径は作図済みの 2 点の距離から自由に選べる | 定規とコンパスで作図できる点はコンパスだけで作図できる | ex-mm-rusty |
| 道具はコンパス(定規だけにする) | 定規とコンパスで作図できる点は、その道具だけで作図できる | ex-mm-ruler-only |
| 作図の結果を「点」で比べる(直線そのものも比べる) | 定規とコンパスで得られるものは、コンパスだけで得られる | ex-mm-line |
$O(0,0)$、$E(1,0)$ から出発し、半径がいつも $1$ の円しか描けない(作図済みの点を中心に半径 $1$ の円を描き、交点をとる)とする。このとき、得られる点はすべて、$\omega=\dfrac12+\dfrac{\sqrt3}2i$ を使って $a+b\omega$($a,b$ は整数)と書ける複素数(図 4 の格子点)であり、$OE$ の中点 $\dfrac12$ は得られない。
$L=\{a+b\omega\mid a,b\in\mathbb{Z}\}$ とおく。$\omega^2=\omega-1$ なので $L$ は掛け算で閉じ、$\bar\omega=1-\omega$ も $L$ に入る。$\delta=a+b\omega$ について $|\delta|^2=a^2+ab+b^2=\dfrac{(2a+b)^2+3b^2}4$ は整数である。
$P,Q\in L$($P\ne Q$)を中心とする半径 $1$ の 2 円の交点 $Z$ を $Z=P+\delta w$($\delta=Q-P$)と書くと、$|\delta w|=|\delta w-\delta|=1$ から $|w|=|w-1|=\dfrac1{|\delta|}$ なので、$w=\dfrac12\pm i\sqrt{\dfrac1{|\delta|^2}-\dfrac14}$ で、交わるには $|\delta|^2\le4$ が要る。$(2a+b)^2+3b^2=8$ となる整数はないので $|\delta|^2\ne2$ で、$|\delta|^2$ は $1,3,4$ のどれかである。
$O=0$、$E=1$ は $L$ に入るので、得られる点はすべて $L$ に入る。$\dfrac12=a+b\omega$ とすると虚部から $b=0$、実部から $a=\dfrac12$ となり整数でないので、$\dfrac12\notin L$ である。
半径 1 の円だけを描くと、交点はいつも格子点 a + bω(灰色の点)になる。O と E の中点 (1/2, 0)(赤の ×)は格子点でないので得られない
$O(0,0)$、$E(1,0)$ の 2 点から出発し、定規だけを使う。引ける直線は $O$ と $E$ を通る $x$ 軸だけで、交点をとるには相異なる 2 直線が要るので、新しい点は 1 つも得られない。一方、コンパスだけなら ex-mm-first のとおり $\left(\dfrac12,\dfrac{\sqrt3}2\right)$ などが得られる。
満たす性質:定規とコンパスの一部の道具だけを使う。満たさない性質:その道具がコンパスである。破る含意:「定規とコンパスで作図できる点は、定規だけで作図できる」。定規だけで何が作図できるかは 定規だけの作図 で扱う。
コンパスで描けるのは円だけなので、直線 $x=0$ の上の点を何個作っても、直線そのもの(無限に多くの点の集まり)は紙の上に描かれない。thm-mm-main が述べているのは、定規とコンパスで作図できる「点」がコンパスだけで作図できることであり、直線は「作図済みの 2 点」で代わりに表している。
満たす性質:直線の上の点はいくらでも作図できる。満たさない性質:直線を線として描く。破る含意:「定規とコンパスで描けるものはすべてコンパスだけで描ける」という強すぎる読み方。
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