靴ひも公式(shoelace formula)とは、多角形の頂点 $P_i(x_i,y_i)$ を周に沿って順に並べたとき、面積が $\frac12\left|\sum_{i=1}^n(x_iy_{i+1}-x_{i+1}y_i)\right|$($P_{n+1}=P_1$)に等しいという公式である。辺どうしが交わらない単純多角形なら凸でなくても成り立ち、頂点を反時計回りに並べれば絶対値のない和がそのまま面積になり、時計回りでは符号が負になる。和の各項の半分は原点と辺でできる三角形の符号付き面積であり、対角線で切っても和が変わらないことから公式が証明できる。辺が交差する折れ線や、周に沿わない順に並べた頂点では、和は面積を与えない。大学数学では、面積を周に沿った線積分 $\frac12\oint(x\,dy-y\,dx)$ で表す Green の定理を、多角形に当てはめたものにあたる。
頂点の座標が分かっている三角形の面積は、座標だけで計算できる。原点 $O$ と 2 点 $A(a_1,a_2)$、$B(b_1,b_2)$ を頂点とする三角形の面積は
$$
\triangle OAB=\frac12\,|a_1b_2-a_2b_1|
$$
である(三角形の面積の公式。この式の由来は 1次変換と行列式:面積の拡大率 でも扱う)。原点を頂点にもたない三角形は、頂点の 1 つが原点に来るように平行移動してから、この式を使えばよい。
$A(1,1)$、$B(5,2)$、$C(2,4)$ を頂点とする三角形の面積を求める。
(1) 長方形から引く。3 点を囲む長方形 $1\le x\le5$、$1\le y\le4$ の面積は $4\cdot3=12$ である。長方形から三角形を除くと、直角三角形が 3 つ残る。
四角形や五角形のような多角形では、対角線で三角形に分けて、三角形の面積を足せばよい。
$P_1(0,0)$、$P_2(4,0)$、$P_3(5,3)$、$P_4(1,4)$ を順に結んだ四角形の面積を求める。対角線 $P_1P_3$ で 2 つの三角形に分ける。どちらの三角形も $P_1$ が原点なので、そのまま公式が使える。
$$
\triangle P_1P_2P_3=\frac12|4\cdot3-0\cdot5|=6,\qquad \triangle P_1P_3P_4=\frac12|5\cdot4-3\cdot1|=\frac{17}2
$$
よって四角形の面積は $6+\dfrac{17}2=\dfrac{29}2$ である。
多角形の頂点が増えると、三角形に分けて絶対値を外す計算は面倒になる。ところが、実は 頂点の座標を順に並べて、斜めに掛けて引くだけ で、一気に面積が求まる。この計算の形が靴ひもの掛け方に似ているので、靴ひも公式 と呼ばれる。この記事で答える問いは次の 4 つである。
以下、平面上の点 $P_1,P_2,\dots,P_n$($n\ge3$)の座標を $P_i(x_i,y_i)$ と書く。添え字は $n$ を法として考え、$P_{n+1}=P_1$、つまり $x_{n+1}=x_1$、$y_{n+1}=y_1$ とする。$P_1\to P_2\to\cdots\to P_n\to P_1$ と順に結んでできる折れ線を、点の列 $P_1,\dots,P_n$ の 閉じた折れ線 という。
点の列 $P_1,\dots,P_n$ に対して
$$
S(P_1,\dots,P_n):=\frac12\sum_{i=1}^{n}(x_iy_{i+1}-x_{i+1}y_i)
$$
と定め、これを点の列の 靴ひもの和 と呼ぶ。書き下すと
$$
S=\frac12\bigl\{(x_1y_2-x_2y_1)+(x_2y_3-x_3y_2)+\cdots+(x_{n-1}y_n-x_ny_{n-1})+(x_ny_1-x_1y_n)\bigr\}
$$
である。最後の項は $P_n$ から $P_1$ に戻る辺の項で、忘れやすい。
点の列が多角形の頂点を周に沿って順に並べたものであるとき、「多角形の面積は $|S(P_1,\dots,P_n)|$ に等しい」という事実(thm-shl-convex、thm-shl-simple)を 靴ひも公式 という。頂点を反時計回りに並べたときは $S$ そのものが面積になる。
計算は、座標を縦に並べた表で行うと間違えにくい。1 行目の点を最後にもう一度書き、隣り合う 2 行について「左上 × 右下」から「右上 × 左下」を引く。この斜めの掛け算が靴ひもに見える(図 1)。
四角形 (0,0), (4,0), (5,3), (1,4) の靴ひもの和。実線の矢印の積から破線の矢印の積を引き、隣り合う 2 行ごとに 1 つの項ができる
ex-shl-quad の四角形 $P_1(0,0)$、$P_2(4,0)$、$P_3(5,3)$、$P_4(1,4)$ で計算する。各項は次のとおりである(図 1)。
$$
\begin{aligned}
x_1y_2-x_2y_1&=0\cdot0-4\cdot0=0,\\
x_2y_3-x_3y_2&=4\cdot3-5\cdot0=12,\\
x_3y_4-x_4y_3&=5\cdot4-1\cdot3=17,\\
x_4y_1-x_1y_4&=1\cdot0-0\cdot4=0.
\end{aligned}
$$
和は $29$ なので $S=\dfrac{29}2$ で、ex-shl-quad の面積と一致する。三角形に分ける必要も、絶対値を外す場合分けも要らない。
$P_1(1,0)$、$P_2(4,1)$、$P_3(5,4)$、$P_4(2,5)$、$P_5(0,2)$ を順に結んだ五角形(図 2)で計算する。
$$
\begin{aligned}
x_1y_2-x_2y_1&=1\cdot1-4\cdot0=1,\\
x_2y_3-x_3y_2&=4\cdot4-5\cdot1=11,\\
x_3y_4-x_4y_3&=5\cdot5-2\cdot4=17,\\
x_4y_5-x_5y_4&=2\cdot2-0\cdot5=4,\\
x_5y_1-x_1y_5&=0\cdot0-1\cdot2=-2.
\end{aligned}
$$
和は $1+11+17+4-2=31$ なので $S=\dfrac{31}2$ である。この値が五角形の面積であることは、ex-shl-convex-check で三角形に分けて確かめる。最後の項が負になっていることに注意する。項の 1 つ 1 つは面積ではなく、足し合わせて初めて面積になる(意味は ex-shl-origin で見る)。
まず $n=3$ の場合を調べる。三角形 $ABC$ について、$A\to B\to C$ の順に回る向きが 反時計回り であるとは、点 $C$ が、$A$ から $B$ へ向かう直線の左側にあることをいう。右側にあるときは 時計回り という。
$A(x_1,y_1)$、$B(x_2,y_2)$、$C(x_3,y_3)$ とする。
方針:1 は展開して比べる。2 と 3 は、$A$ を始点とするベクトル $\vec u=\overrightarrow{AB}$、$\vec v=\overrightarrow{AC}$ で考える。
段 1(展開)。1 の右辺の中かっこの中を展開すると
$$
\begin{aligned}
&(x_2y_3-x_2y_1-x_1y_3+x_1y_1)-(x_3y_2-x_3y_1-x_1y_2+x_1y_1)\\
&=(x_1y_2-x_2y_1)+(x_2y_3-x_3y_2)+(x_3y_1-x_1y_3)
\end{aligned}
$$
である($x_1y_1$ が打ち消し合い、残る 6 つの項を 2 つずつ組にした)。最後の式は def-shl-sum の $n=3$ の中かっこそのものなので、1 が成り立つ。
段 2(面積)。$\vec u=(u_1,u_2)=(x_2-x_1,\ y_2-y_1)$、$\vec v=(v_1,v_2)=(x_3-x_1,\ y_3-y_1)$ とおく。$\vec u,\vec v$ のなす角を $\theta$($0\le\theta\le\pi$)とすると、三角形の面積は $\dfrac12|\vec u||\vec v|\sin\theta$ である。$\sin\theta\ge0$ なので $\sin\theta=\sqrt{1-\cos^2\theta}$ であり、内積 $\vec u\cdot\vec v=|\vec u||\vec v|\cos\theta$ を使うと
$$
\frac12|\vec u||\vec v|\sin\theta=\frac12\sqrt{|\vec u|^2|\vec v|^2-(\vec u\cdot\vec v)^2}
$$
となる。根号の中を成分で書いて展開すると
$$
\begin{aligned}
(u_1^2+u_2^2)(v_1^2+v_2^2)-(u_1v_1+u_2v_2)^2&=u_1^2v_2^2+u_2^2v_1^2-2u_1v_1u_2v_2\\
&=(u_1v_2-u_2v_1)^2
\end{aligned}
$$
である(左辺の展開で $u_1^2v_1^2$ と $u_2^2v_2^2$ が打ち消し合う)。よって面積は $\dfrac12|u_1v_2-u_2v_1|$ で、段 1 により $u_1v_2-u_2v_1=2S(A,B,C)$ だから、面積は $|S(A,B,C)|$ である。$A,B,C$ が一直線上にあるときは $\theta=0$ か $\pi$、または $\vec u,\vec v$ の一方が零ベクトルなので、面積 $0$、つまり $S=0$ である。
段 3(符号)。$\vec u,\vec v$ は零ベクトルでないので、$x$ 軸の正の向きから反時計回りに測った角 $\alpha,\beta$ を使って $\vec u=|\vec u|(\cos\alpha,\sin\alpha)$、$\vec v=|\vec v|(\cos\beta,\sin\beta)$ と書ける。正弦の加法定理により
$$
u_1v_2-u_2v_1=|\vec u||\vec v|(\cos\alpha\sin\beta-\sin\alpha\cos\beta)=|\vec u||\vec v|\sin(\beta-\alpha)
$$
である。$C$ が直線 $AB$ の左側にあることは、$\vec u$ の向きから反時計回りに $0$ より大きく $\pi$ より小さい角だけ回すと $\vec v$ の向きになること、つまり $\beta-\alpha$ が $0<\beta-\alpha<\pi$ を満たす角と $2\pi$ の整数倍の差しかないことである。これは $\sin(\beta-\alpha)>0$ と同値である。よって $S>0$ と反時計回りは同値である。
段 4(並べ替え)。$S(B,C,A)$ の中かっこは $(x_2y_3-x_3y_2)+(x_3y_1-x_1y_3)+(x_1y_2-x_2y_1)$ で、$S(A,B,C)$ と同じ 3 項を順番を変えて足したものである。$S(C,A,B)$ も同じである。$S(A,C,B)$ の中かっこは
$$
(x_1y_3-x_3y_1)+(x_3y_2-x_2y_3)+(x_2y_1-x_1y_2)
$$
で、各項が $S(A,B,C)$ の項の符号を変えたものになっている。よって $S(A,C,B)=-S(A,B,C)$ である。$\square$
2 の証明で使った恒等式 $(u_1^2+u_2^2)(v_1^2+v_2^2)-(u_1v_1+u_2v_2)^2=(u_1v_2-u_2v_1)^2$ は、Cauchy–Schwarzの不等式(高校数学) の 2 次元の場合の等式版でもある。3 の $u_1v_2-u_2v_1$ は 2 次の 行列式 で、1次変換と行列式:面積の拡大率 ではこれを「符号付き面積」と呼んで詳しく調べる。
多角形の場合に進む前に、靴ひもの和が座標の原点の位置によらないことを確かめておく。面積は平行移動で変わらないのだから、面積を表す式もそうでなければならない。
点の列 $P_1,\dots,P_n$ のすべての点を同じベクトル $(a,b)$ だけ平行移動した点の列を $P_1',\dots,P_n'$ とする。このとき $S(P_1',\dots,P_n')=S(P_1,\dots,P_n)$ である。
方針:1 つの項を展開し、増えた部分を $i$ について足すと $0$ になることを示す。
段 1(1 つの項)。$P_i'=(x_i+a,\ y_i+b)$ なので
$$
\begin{aligned}
&(x_i+a)(y_{i+1}+b)-(x_{i+1}+a)(y_i+b)\\
&=x_iy_{i+1}+bx_i+ay_{i+1}+ab-x_{i+1}y_i-bx_{i+1}-ay_i-ab\\
&=(x_iy_{i+1}-x_{i+1}y_i)+b(x_i-x_{i+1})+a(y_{i+1}-y_i)
\end{aligned}
$$
である。
段 2(足す)。$i=1,\dots,n$ について足すと、増えた部分は $b\sum_{i=1}^n(x_i-x_{i+1})+a\sum_{i=1}^n(y_{i+1}-y_i)$ である。$\sum_{i=1}^n(x_i-x_{i+1})=(x_1-x_2)+(x_2-x_3)+\cdots+(x_n-x_1)$ は、隣り合う項で $x_2,x_3,\dots,x_n$ が打ち消し合い、最後に $x_1-x_1=0$ が残る。$y$ の和も同じく $0$ である。よって増えた部分は $0$ で、$S(P_1',\dots,P_n')=S(P_1,\dots,P_n)$ である。$\square$
多角形のうち、へこみのないものを考える。
点の列 $P_1,\dots,P_n$($n\ge3$)が 反時計回りに並んだ凸多角形の頂点 であるとは、どの $i$ についても、$P_i,P_{i+1}$ 以外のすべての頂点 $P_k$ が $S(P_i,P_{i+1},P_k)>0$ を満たすことをいう。prop-shl-triangle の 3 により、これは「どの辺についても、ほかの頂点がすべて、辺 $P_iP_{i+1}$ を向きに沿って延ばした直線の左側にある」ということである。
このとき、各辺 $P_iP_{i+1}$ を向きに沿って延ばした直線の左側(直線上を含む)の半平面をすべてとった共通部分を、この 凸多角形 と呼ぶ。面積を測る対象はこの図形である。
たとえば、正方形 $(0,0)$、$(2,0)$、$(2,2)$、$(0,2)$ はこの順で反時計回りに並んだ凸多角形の頂点である。辺 $(0,0)\to(2,0)$ に対して、残りの 2 点はどちらも $x$ 軸より上、つまり左側にある。ほかの辺も同じである。
凸多角形は、1 つの頂点 $P_1$ から引いた対角線で、重なりのない $n-2$ 個の三角形 $P_1P_kP_{k+1}$($k=2,\dots,n-1$)に分けられる(図 2)。これは、凸多角形の内角の和が $(n-2)\times180^\circ$ であることを示すときと同じ分け方である。ただし、この分け方で本当に凸多角形がすき間も重なりもなく三角形に分かれることは、図形としては見やすいが、この記事では証明しない(thm-shl-convex の証明の段 4 で使うのはこの事実だけである)。この分け方に合わせて、靴ひもの和も分けられる。これは座標だけの恒等式で、点の列が多角形でなくても成り立つ。
任意の点の列 $P_1,\dots,P_n$($n\ge3$)について
$$
S(P_1,\dots,P_n)=\sum_{k=2}^{n-1}S(P_1,P_k,P_{k+1})
$$
である。
方針:$T_{ij}:=x_iy_j-x_jy_i$ と書く。$T_{ji}=-T_{ij}$ である。点を 1 つ増やしたときに増える量が、三角形 1 つ分の和であることを示す。
段 1($n=3$)。右辺は $k=2$ の 1 項 $S(P_1,P_2,P_3)$ だけなので、両辺は等しい。
段 2(1 つ増やす)。$n\ge4$ とする。定義により
$$
\begin{aligned}
2S(P_1,\dots,P_n)&=T_{12}+T_{23}+\cdots+T_{n-2,n-1}+T_{n-1,n}+T_{n,1},\\
2S(P_1,\dots,P_{n-1})&=T_{12}+T_{23}+\cdots+T_{n-2,n-1}+T_{n-1,1}
\end{aligned}
$$
である。上から下を引くと、$T_{12}$ から $T_{n-2,n-1}$ までが打ち消し合い
$$
2S(P_1,\dots,P_n)-2S(P_1,\dots,P_{n-1})=T_{n-1,n}+T_{n,1}-T_{n-1,1}
$$
が残る。一方、三角形 $P_1,P_{n-1},P_n$ については
$$
2S(P_1,P_{n-1},P_n)=T_{1,n-1}+T_{n-1,n}+T_{n,1}
$$
であり、$T_{1,n-1}=-T_{n-1,1}$ なので、これは上の差に等しい。よって
$$
S(P_1,\dots,P_n)=S(P_1,\dots,P_{n-1})+S(P_1,P_{n-1},P_n)
$$
である。
段 3(帰納法)。段 2 の式を $n$ から $n-1$、$n-1$ から $n-2$、… と $n=3$ まで繰り返し使うと、
$$
S(P_1,\dots,P_n)=S(P_1,P_2,P_3)+S(P_1,P_3,P_4)+\cdots+S(P_1,P_{n-1},P_n)
$$
となる。これが示す式である。$\square$
点の列 $P_1,\dots,P_n$ が反時計回りに並んだ凸多角形の頂点であるとき、その凸多角形の面積は $S(P_1,\dots,P_n)$ に等しい。
方針:lem-shl-fan で和を三角形ごとに分け、各三角形の和が正でその面積に等しいことを示す。
段 1(和を分ける)。lem-shl-fan により $S(P_1,\dots,P_n)=\sum_{k=2}^{n-1}S(P_1,P_k,P_{k+1})$ である。
段 2(各三角形の和は正)。$2\le k\le n-1$ とする。$P_1$ は $P_k$ とも $P_{k+1}$ とも異なる頂点なので($k\ge2$ かつ $k+1\le n$)、def-shl-convex を辺 $P_kP_{k+1}$ に使うと $S(P_k,P_{k+1},P_1)>0$ である。prop-shl-triangle の 4 により $S(P_1,P_k,P_{k+1})=S(P_k,P_{k+1},P_1)>0$ である。
段 3(各三角形の面積)。段 2 と prop-shl-triangle の 2 により、$S(P_1,P_k,P_{k+1})=|S(P_1,P_k,P_{k+1})|$ は三角形 $P_1P_kP_{k+1}$ の面積に等しい。
段 4(面積を足す)。凸多角形は $n-2$ 個の三角形 $P_1P_kP_{k+1}$ に重なりなく分けられる(lem-shl-fan の前で述べたとおり、この事実は証明しない)ので、その面積は三角形の面積の和である。段 1・段 3 により、それは $S(P_1,\dots,P_n)$ に等しい。$\square$
五角形 P₁(1,0), P₂(4,1), P₃(5,4), P₄(2,5), P₅(0,2) を頂点 P₁ からの対角線で 3 つの三角形に分ける。面積は 4, 8, 3.5 で、和は靴ひもの和 31/2 に等しい
ex-shl-pentagon の五角形 $P_1(1,0)$、$P_2(4,1)$、$P_3(5,4)$、$P_4(2,5)$、$P_5(0,2)$ を、lem-shl-fan のとおり 3 つの三角形に分ける(図 2)。$T_{ij}=x_iy_j-x_jy_i$ で書くと
$$
\begin{aligned}
2S(P_1,P_2,P_3)&=T_{12}+T_{23}+T_{31}=1+11+(5\cdot0-1\cdot4)=8,\\
2S(P_1,P_3,P_4)&=T_{13}+T_{34}+T_{41}=(1\cdot4-5\cdot0)+17+(2\cdot0-1\cdot5)=16,\\
2S(P_1,P_4,P_5)&=T_{14}+T_{45}+T_{51}=(1\cdot5-2\cdot0)+4+(-2)=7
\end{aligned}
$$
である。3 つの三角形の面積は $4$、$8$、$\dfrac72$ で、和は $\dfrac{31}2$ である。ex-shl-pentagon で一度に計算した値と一致する。対角線 $P_1P_3$ の項 $T_{13}$ と、逆向きの $T_{31}=-T_{13}$ が、別々の三角形に現れて打ち消し合っていることに注意する。
prop-shl-triangle で $A$ を原点 $O$ にすると、$S(O,P_i,P_{i+1})=\dfrac12(0+T_{i,i+1}+0)=\dfrac12T_{i,i+1}$ となる。つまり、def-shl-sum の 1 つ 1 つの項の半分は、原点と辺 $P_iP_{i+1}$ でできる三角形の符号付きの面積 である。したがって
$$
S(P_1,\dots,P_n)=\sum_{i=1}^nS(O,P_i,P_{i+1})
$$
である。辺が原点から見て反時計回りに進むときは正、時計回りに進むときは負の面積が数えられる。
五角形の各辺と原点 O でできる三角形。青は正、赤は負の符号付き面積で、多角形の外にはみ出した部分は正と負で打ち消し合う
ex-shl-pentagon の五角形で、$\dfrac12T_{i,i+1}$ は順に $\dfrac12$、$\dfrac{11}2$、$\dfrac{17}2$、$2$、$-1$ である(図 3)。
lem-shl-translate により、原点の代わりにどの点 $Q$ を使っても同じ値になる。$Q$ を凸多角形の内部にとれば、三角形 $QP_iP_{i+1}$ はすべて正で、多角形をすき間なく分ける(この分割の事実も証明しない)ので、thm-shl-convex の別の証明にもなる。
凸でない多角形でも、靴ひも公式は成り立つ。証明には、多角形を対角線で 2 つに切る操作を使う。
異なる点の列 $P_1,\dots,P_n$($n\ge3$)について、$n$ 本の辺 $P_1P_2,\dots,P_{n-1}P_n,P_nP_1$ のうち、隣り合う 2 辺は共通の端点だけを共有し、隣り合わない 2 辺は共有点をもたないとき、閉じた折れ線は 単純多角形 の周であるという。このとき周は平面を有界な内部と外部に分ける(この事実は証明しない)。内部と周を合わせた図形を単純多角形という。
凸多角形の頂点を def-shl-convex の意味で反時計回りに並べたものは、この意味でも反時計回りに並んでいる(この記事では証明しない。thm-shl-convex の証明は def-shl-convex の意味だけを使うので、影響はない)。
三角形では、2 つの意味の「反時計回り」は一致する。理由を述べる。三角形 $ABC$ の内部は、各辺を延ばした直線について、残りの頂点と同じ側にある点の集まり(3 つの半平面の共通部分)である。$S(A,B,C)>0$ なら、prop-shl-triangle の 4 により $S(B,C,A)>0$、$S(C,A,B)>0$ でもあるので、同じ命題の 3 により、$C$ は $A$ から $B$ へ向かう直線の左側、$A$ は $B$ から $C$ へ向かう直線の左側、$B$ は $C$ から $A$ へ向かう直線の左側にある。よって内部はどの辺についても辺の向きの左側にあり、この意味でも反時計回りである。$S(A,B,C)<0$ なら、同じ理由で内部はどの辺についても右側にあるので、この意味でも反時計回りではない。
$P_1(0,0)$、$P_2(6,0)$、$P_3(6,4)$、$P_4(3,1)$、$P_5(0,4)$ を順に結ぶと、上側が V 字にへこんだ単純多角形になる。頂点は反時計回りに並んでいる。
(1) 面積を図形で求める。長方形 $0\le x\le6$、$0\le y\le4$(面積 $24$)から、へこみの三角形 $(6,4)$、$(3,1)$、$(0,4)$ を除いた図形である。へこみの三角形は底辺 $6$、高さ $3$ なので面積 $9$ で、五角形の面積は $24-9=15$ である。
(2) 靴ひもの和で求める。項は
$$
0\cdot0-6\cdot0=0,\quad 6\cdot4-6\cdot0=24,\quad 6\cdot1-3\cdot4=-6,\quad 3\cdot4-0\cdot1=12,\quad 0\cdot0-0\cdot4=0
$$
で、和は $30$ なので $S=15$ である。(1) と一致する。
この例のように凸でない多角形でも公式が成り立つ理由は、次の 2 つの補題にある。1 つ目は座標だけの恒等式である。
任意の点の列 $P_1,\dots,P_n$($n\ge4$)と $3\le j\le n-1$ について
$$
S(P_1,\dots,P_n)=S(P_1,P_2,\dots,P_j)+S(P_j,P_{j+1},\dots,P_n,P_1)
$$
である。
方針:prf-shl-fan と同じく $T_{ij}=x_iy_j-x_jy_i$ で書き、右辺の 2 つの和を足す。
段 1(左の部分)。$P_1,\dots,P_j$ の和は、辺 $P_1P_2,\dots,P_{j-1}P_j$ の項と、$P_j$ から $P_1$ に戻る項からなる。
$$
2S(P_1,\dots,P_j)=T_{12}+T_{23}+\cdots+T_{j-1,j}+T_{j,1}
$$
段 2(右の部分)。$P_j,\dots,P_n,P_1$ の和は、辺 $P_jP_{j+1},\dots,P_{n-1}P_n,P_nP_1$ の項と、$P_1$ から $P_j$ に戻る項からなる。
$$
2S(P_j,\dots,P_n,P_1)=T_{j,j+1}+\cdots+T_{n-1,n}+T_{n,1}+T_{1,j}
$$
段 3(足す)。段 1 と段 2 を足すと、もとの $n$ 本の辺の項 $T_{12},\dots,T_{n,1}$ がちょうど 1 回ずつ現れ、ほかに切り口の項 $T_{j,1}+T_{1,j}$ が残る。$T_{1,j}=-T_{j,1}$ なので切り口の項は $0$ であり、和は $2S(P_1,\dots,P_n)$ に等しい。$\square$
切り口の辺 $P_1P_j$ は、左の部分では $P_j\to P_1$、右の部分では $P_1\to P_j$ と逆向きにたどられるので、項が打ち消し合う。lem-shl-fan は、この切り方を対角線 $P_1P_{n-1}$、$P_1P_{n-2}$、… と繰り返したものである。
2 つ目の補題は、どんな単純多角形にも対角線があることである。
$n\ge4$ のとき、単純多角形には対角線がある。
方針:いちばん左にある頂点 $V$ をとり、その両隣を結ぶ線分か、$V$ から出る線分のどちらかが対角線になることを示す。
段 1(いちばん左の頂点)。$x$ 座標が最小の頂点のうち、$y$ 座標が最小のものを $V$ とし、その両隣の頂点を $U$、$W$ とする。多角形全体が直線 $x=x_V$ の右側(直線上を含む)にあるので、$V$ での内角は $180^\circ$ 以下である。$180^\circ$ になるのは $U,V,W$ が直線 $x=x_V$ 上で $V$ をはさむときだけだが、そのとき $U,W$ の一方は $V$ より下にあり、$V$ の選び方に反する。よって内角は $180^\circ$ より小さく、$U,V,W$ は一直線上にない三角形をなす。$V$ の近くでは、この三角形の内側が多角形の内部である。
段 2(三角形 $UVW$ に他の頂点がないとき)。三角形 $UVW$(周を含む)に $U,V,W$ 以外の頂点がないとする。このとき、辺 $UV$、$VW$ 以外の辺は三角形 $UVW$ の中に入れない。実際、そのような辺が三角形に入るなら、両端は三角形の外にあるので、三角形の周を 2 回横切る。辺 $UV$、$VW$ とは交わらない(単純多角形だから)ので、2 回とも線分 $UW$ を横切ることになるが、2 本の線分が同じ直線上にないとき共有点は高々 1 つなので、これは起こらない。$U$ や $W$ を端点とする辺($UV$、$VW$ 以外)も、三角形の中に入るなら $UV$ か $VW$ か $UW$ を横切って出ていく必要があり、$UW$ を横切るには $U$ または $W$ 以外の点で直線 $UW$ と交わらなければならないので、同じく起こらない。
ここまでの議論では、辺が直線 $UW$ と同じ直線上にない場合を扱った。辺が直線 $UW$ 上にある場合も、次のとおり起こらない。
段 3 の議論は図を描いて確かめるとよい。ここで使った「辺を横切らずに進む点は内部にとどまる」ことは、周が平面を内部と外部に分けるという事実から従う。
単純多角形の頂点 $P_1,\dots,P_n$ が反時計回りに並んでいるとき、その面積は $S(P_1,\dots,P_n)$ に等しい。時計回りに並んでいるときは $-S(P_1,\dots,P_n)$ に等しい。どちらの場合も面積は $|S(P_1,\dots,P_n)|$ である。
方針:対角線で 2 つの単純多角形に切り、lem-shl-cut と帰納法の仮定を使う。
段 1(始点をずらしてよい)。点の列を $P_2,\dots,P_n,P_1$ と始点をずらしても、和に現れる $n$ 個の項は同じで、足す順番が変わるだけなので $S$ は変わらない。
段 2($n=3$)。三角形では、反時計回りの 2 つの意味が一致するので、prop-shl-triangle の 2 と 3 により面積は $S$ である。
段 3($n\ge4$)。$n$ より少ない頂点の単純多角形について定理が正しいと仮定する。lem-shl-diagonal により対角線がある。段 1 により、対角線を $P_1P_j$($3\le j\le n-1$)としてよい。対角線で切ると、多角形は 2 つの単純多角形 $A=P_1P_2\cdots P_j$ と $B=P_jP_{j+1}\cdots P_nP_1$ に分かれ、重なりはない。頂点の数は $j$ と $n-j+2$ で、どちらも $n$ より少ない。
段 4(向き)。$A$ の辺のうちもとの多角形の辺であるものは、辺のすぐ近くで $A$ の内部が左側にある(もとの内部が左側にあり、そのうち辺に近い部分は $A$ に属するから)。切り口 $P_j\to P_1$ についても、$A$ は対角線の片側にあり、$A$ を反時計回りに回るとその側が左になる。同じことが $B$ についても成り立つので、$A$、$B$ の頂点はこの並びで反時計回りである。
段 5(足す)。帰納法の仮定により、$A$ の面積は $S(P_1,\dots,P_j)$、$B$ の面積は $S(P_j,\dots,P_n,P_1)$ である。重なりなく分かれているので、もとの多角形の面積はこの 2 つの和で、lem-shl-cut によりそれは $S(P_1,\dots,P_n)$ である。
段 6(時計回り)。頂点を逆順 $P_n,\dots,P_1$ に並べると反時計回りになる。逆順の和は、各項 $T_{i,i+1}$ が $T_{i+1,i}=-T_{i,i+1}$ に変わるので $-S(P_1,\dots,P_n)$ であり、これが面積である。$\square$
この証明で計算として示したのは、段 1・段 5・段 6 の靴ひもの和についての等式(段 5 は lem-shl-cut)である。段 3 の「対角線で切ると 2 つの単純多角形に分かれ、重なりはない」ことと、段 4 の「切った 2 つの頂点の並びも反時計回りである」ことは、周が平面を内部と外部に分けるという事実(def-shl-simple で証明しないとした事実)から従うが、ここでは図形の直観に頼っており、細部は証明しない。
ex-shl-concave の五角形は、線分 $P_1P_4$($(0,0)$ と $(3,1)$ を結ぶ線分)で 2 つに切れる。この線分上の点 $(x,\tfrac x3)$($0< x<3$)は、へこみの辺 $P_4P_5$(直線 $y=4-x$)より下にある($\tfrac x3<4-x$ は $x<3$ と同値)ので、線分は内部を通る対角線である。
$$
\begin{aligned}
2S(P_1,P_2,P_3,P_4)&=0+24+(6\cdot1-3\cdot4)+(3\cdot0-0\cdot1)=18,\\
2S(P_4,P_5,P_1)&=(3\cdot4-0\cdot1)+(0\cdot0-0\cdot4)+(0\cdot1-3\cdot0)=12
\end{aligned}
$$
なので、2 つの部分の面積は $9$ と $6$ で、和は $15$ である。四角形 $P_1P_2P_3P_4$ は $P_4$ でへこんでいるが、三角形 $P_1P_2P_3$(面積 $12$)から三角形 $P_1P_4P_3$(面積 $\frac12|3\cdot4-1\cdot6|=3$)を除いた図形なので、確かに面積は $9$ である。
$P_1(0,0)$、$P_2(4,0)$、$P_3(4,1)$、$P_4(1,1)$、$P_5(1,3)$、$P_6(0,3)$ を順に結んだ L 字形の項は
$$
0,\quad 4\cdot1-4\cdot0=4,\quad 4\cdot1-1\cdot1=3,\quad 1\cdot3-1\cdot1=2,\quad 1\cdot3-0\cdot3=3,\quad 0\cdot0-0\cdot3=0
$$
で、和は $12$、$S=6$ である。L 字形は横長の長方形 $4\times1$ と縦長の長方形 $1\times2$ に分けられるので、面積は $4+2=6$ で一致する。
靴ひもの和は、辺ごとに「辺と $x$ 軸の間の台形」の符号付きの面積を足したものとしても書ける。この形が、後で積分とつながる。
任意の点の列 $P_1,\dots,P_n$ について
$$
S(P_1,\dots,P_n)=\sum_{i=1}^n\frac12(x_i-x_{i+1})(y_i+y_{i+1})
$$
である。
方針:右辺の各項を展開し、余分な項が $i$ について足すと消えることを示す。
段 1(展開)。
$$
(x_i-x_{i+1})(y_i+y_{i+1})=x_iy_i+x_iy_{i+1}-x_{i+1}y_i-x_{i+1}y_{i+1}=(x_iy_{i+1}-x_{i+1}y_i)+(x_iy_i-x_{i+1}y_{i+1})
$$
である。
段 2(足す)。$\sum_{i=1}^n(x_iy_i-x_{i+1}y_{i+1})=(x_1y_1-x_2y_2)+(x_2y_2-x_3y_3)+\cdots+(x_ny_n-x_1y_1)$ は、隣り合う項が打ち消し合って $0$ になる(prf-shl-translate の段 2 と同じ形)。よって右辺は $\dfrac12\sum_{i=1}^n(x_iy_{i+1}-x_{i+1}y_i)=S(P_1,\dots,P_n)$ である。$\square$
$y_i,y_{i+1}\ge0$ のとき、$\dfrac12|x_i-x_{i+1}|(y_i+y_{i+1})$ は、辺 $P_iP_{i+1}$ と $x$ 軸の間の台形(上底 $y_i$、下底 $y_{i+1}$、高さ $|x_i-x_{i+1}|$)の面積である。$x$ 軸より上にある多角形の頂点を反時計回りに並べると、上側の辺は右から左へ進む($x_i>x_{i+1}$)ので台形は正で数えられ、下側の辺は左から右へ進むので負で数えられる。つまり prop-shl-trapezoid は、「上側の辺の下の台形の面積の和から、下側の辺の下の台形の面積の和を引く」という計算である。これは、2 つのグラフの間の面積を $\displaystyle\int(\text{上の関数}-\text{下の関数})\,dx$ で求める計算の、折れ線の場合にあたる(積分の定義は 区分求積と積分の定義)。
ex-shl-quad の四角形 $P_1(0,0)$、$P_2(4,0)$、$P_3(5,3)$、$P_4(1,4)$ で、prop-shl-trapezoid の各項を計算する。
$$
\begin{aligned}
P_1P_2&:\ \tfrac12(0-4)(0+0)=0,\\
P_2P_3&:\ \tfrac12(4-5)(0+3)=-\tfrac32,\\
P_3P_4&:\ \tfrac12(5-1)(3+4)=14,\\
P_4P_1&:\ \tfrac12(1-0)(4+0)=2.
\end{aligned}
$$
和は $0-\dfrac32+14+2=\dfrac{29}2$ で、ex-shl-lace と一致する。上側の辺 $P_3P_4$、$P_4P_1$ の下の台形の面積は $14+2=16$、下側の辺 $P_1P_2$、$P_2P_3$ の下の台形の面積は $0+\dfrac32$ で、差が四角形の面積である。
大学の微分積分では、閉曲線に沿った積分(線積分)と、閉曲線で囲まれた図形の上の積分(重積分)の関係として、靴ひも公式を一般の図形に広げる。
平面の曲線 $C$ が媒介変数 $t$($a\le t\le b$)で $(x(t),y(t))$ と表され、$(x(a),y(a))=(x(b),y(b))$ のとき、$C$ を閉曲線という。関数 $P(x,y)$、$Q(x,y)$ について、$C$ に沿った 線積分 を
$$
\oint_C(P\,dx+Q\,dy):=\int_a^b\Bigl\{P\bigl(x(t),y(t)\bigr)x'(t)+Q\bigl(x(t),y(t)\bigr)y'(t)\Bigr\}dt
$$
で定める。$\dfrac{\partial Q}{\partial x}$ は、$Q(x,y)$ の $y$ を定数とみて $x$ で微分したもの(偏微分)である。
平面の有界な図形 $D$(穴はないとする)の周が、区分的に滑らかな 単純 閉曲線 $C$(自分自身と交わらない閉曲線)で、$C$ は $D$ を左に見る向きにたどるとする。$P,Q$ が $D$ とその周を含む開集合で連続微分可能な関数ならば、
$$
\oint_C(P\,dx+Q\,dy)=\iint_D\left(\frac{\partial Q}{\partial x}-\frac{\partial P}{\partial y}\right)dx\,dy
$$
である。特に $P=-\dfrac y2$、$Q=\dfrac x2$ とすると右辺のかっこの中は $\dfrac12+\dfrac12=1$ なので、
$$
D\text{ の面積}=\frac12\oint_C(x\,dy-y\,dx)
$$
である。
この定理は証明しない。Leb26b の Theorem 10.6.4 に、周が有限個の区分的に滑らかな単純閉曲線からなる有界な領域について述べられており、同書は縦にも横にも「2 つのグラフの間」の形をした領域の場合に証明し、一般の場合は領域を小さく切り分けてその場合に帰着させると述べている。同書の Exercise 10.6.5 は、この定理で三角形の面積の公式を導く演習である。穴のある図形では周が有限個の単純閉曲線になり、外側の周は反時計回り、穴の周は時計回り(どちらも図形を左に見る向き)にたどれば、同じ等式が成り立つ。自分自身と交わる閉曲線では、$\dfrac12\oint(x\,dy-y\,dx)$ は囲まれた部分の面積の和ではなく、巻き数を掛けた和になる(ex-shl-bowtie、rem-shl-winding)。
$C$ が多角形の周 $P_1\to P_2\to\cdots\to P_n\to P_1$ のとき、辺 $P_iP_{i+1}$ を $x=x_i+t(x_{i+1}-x_i)$、$y=y_i+t(y_{i+1}-y_i)$($0\le t\le1$)と表す。$\Delta x=x_{i+1}-x_i$、$\Delta y=y_{i+1}-y_i$ とおくと $x'=\Delta x$、$y'=\Delta y$ で
$$
xy'-yx'=(x_i+t\Delta x)\Delta y-(y_i+t\Delta y)\Delta x=x_i\Delta y-y_i\Delta x=x_iy_{i+1}-x_{i+1}y_i
$$
となる($t\Delta x\Delta y$ が打ち消し合い、最後に $x_iy_i$ が打ち消し合う)。これは $t$ によらないので、辺 $P_iP_{i+1}$ に沿った $\dfrac12\int(x\,dy-y\,dx)$ は $\dfrac12(x_iy_{i+1}-x_{i+1}y_i)$ である。辺について足すと $S(P_1,\dots,P_n)$ になる。つまり、靴ひも公式は、多角形に対する Green の定理そのもの である。逆に thm-shl-simple は、この特別な $P,Q$ と多角形の場合の Green の定理の、初等的な証明になっている。
同じ計算で、辺に沿った $-\int y\,dx$ は $-\dfrac12(x_{i+1}-x_i)(y_i+y_{i+1})$ となり、prop-shl-trapezoid の項に一致する。台形の形は、面積 $=-\oint_Cy\,dx$($P=-y$、$Q=0$ の場合)にあたる。
Green の定理の面積の式は、多角形でない図形にも使える。高校の積分による計算と並べてみる。
$a,b>0$ とする。楕円 $\dfrac{x^2}{a^2}+\dfrac{y^2}{b^2}\le1$ の面積を求めよ。
方針:$x$ 軸に関して対称なので、上半分の面積を積分で求めて 2 倍する。
段 1(上半分の関数)。楕円の上半分は $y=b\sqrt{1-\dfrac{x^2}{a^2}}=\dfrac ba\sqrt{a^2-x^2}$($-a\le x\le a$)のグラフと $x$ 軸で囲まれる。
段 2(積分)。面積は
$$
2\int_{-a}^a\frac ba\sqrt{a^2-x^2}\,dx=\frac{2b}a\int_{-a}^a\sqrt{a^2-x^2}\,dx
$$
である。$\displaystyle\int_{-a}^a\sqrt{a^2-x^2}\,dx$ は半径 $a$ の半円の面積なので $\dfrac{\pi a^2}2$ である。
段 3(まとめ)。面積は $\dfrac{2b}a\cdot\dfrac{\pi a^2}2=\pi ab$ である。$\square$
楕円の周を $x=a\cos t$、$y=b\sin t$($0\le t\le2\pi$)と表すと、反時計回りにたどる。$x'=-a\sin t$、$y'=b\cos t$ なので
$$
xy'-yx'=a\cos t\cdot b\cos t-b\sin t\cdot(-a\sin t)=ab(\cos^2t+\sin^2t)=ab
$$
であり、thm-shl-green の面積の式から、面積は $\dfrac12\int_0^{2\pi}ab\,dt=\pi ab$ である。上半分と下半分に分ける必要がない。曲線を媒介変数で表して微分する計算は、媒介変数表示と曲線の長さ で曲線の長さを求めるときと同じ形である。
多角形で近づけても同じ値が見える。$t_k=\dfrac{2\pi k}n$($k=0,\dots,n-1$)での周上の点 $(a\cos t_k,\ b\sin t_k)$ を頂点とする $n$ 角形の靴ひもの和は、各項が
$$
a\cos t_k\cdot b\sin t_{k+1}-a\cos t_{k+1}\cdot b\sin t_k=ab\sin(t_{k+1}-t_k)=ab\sin\frac{2\pi}n
$$
(正弦の加法定理)なので、$S=\dfrac n2ab\sin\dfrac{2\pi}n$ である。$n\to\infty$ で $\dfrac n2\sin\dfrac{2\pi}n=\pi\cdot\dfrac{\sin(2\pi/n)}{2\pi/n}\to\pi$ なので、$S\to\pi ab$ となる。$a=b=1$ の場合(単位円に内接する正 $n$ 角形の面積 $\dfrac n2\sin\dfrac{2\pi}n$)は、正多角形で円周率を挟む で円周率を下から評価するのに使う。たとえば $n=6$ で $\dfrac{3\sqrt3}2$、$n=12$ で $3$ である。曲線が囲む面積一般の計算は 媒介変数表示の曲線が囲む面積 で扱う。
thm-shl-simple の仮定のどれを外すと何が崩れるかを、表にまとめる。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 頂点が反時計回りに並ぶ | $S$ が面積に等しい(符号が負になる) | ex-shl-clockwise |
| 頂点を周に沿った順に並べる | $\lvert S\rvert$ が面積に等しい | ex-shl-order |
| 辺どうしが交わらない(単純多角形) | $\lvert S\rvert$ が面積に等しい | ex-shl-bowtie |
ex-shl-lace の四角形の頂点を逆順に $(1,4)$、$(5,3)$、$(4,0)$、$(0,0)$ と並べると、項は
$$
1\cdot3-5\cdot4=-17,\quad 5\cdot0-4\cdot3=-12,\quad 4\cdot0-0\cdot0=0,\quad 0\cdot4-1\cdot0=0
$$
で、$S=-\dfrac{29}2$ である。値は面積の $-1$ 倍で、絶対値をとれば面積になる(thm-shl-simple の後半)。
正方形の 4 頂点 $(0,0)$、$(2,0)$、$(2,2)$、$(0,2)$ をこの順に並べると、項は $0$、$4$、$4$、$0$ で $S=4$ となり、面積に一致する。ところが同じ 4 点を $(0,0)$、$(2,2)$、$(2,0)$、$(0,2)$ の順に並べると、項は
$$
0\cdot2-2\cdot0=0,\quad 2\cdot0-2\cdot2=-4,\quad 2\cdot2-0\cdot0=4,\quad 0\cdot0-0\cdot2=0
$$
で $S=0$ になる。この順に結んだ折れ線は対角線どうしが交差する「蝶ネクタイ」の形で、単純多角形の周ではない。頂点の集合が同じでも、並べる順番が周に沿っていなければ公式は使えない。
自己交差する四角形 P₁(0,0), P₂(4,4), P₃(4,0), P₄(0,2)。左の輪は反時計回りで +4/3、右の輪は時計回りで −16/3 と数えられる
$P_1(0,0)$、$P_2(4,4)$、$P_3(4,0)$、$P_4(0,2)$ を順に結ぶ(図 4)。項は $0$、$4\cdot0-4\cdot4=-16$、$4\cdot2-0\cdot0=8$、$0\cdot0-0\cdot2=0$ で、$S=-4$ である。
辺 $P_1P_2$(直線 $y=x$)と辺 $P_3P_4$(直線 $y=2-\frac x2$)は点 $X\left(\frac43,\frac43\right)$ で交わり、折れ線は 2 つの輪に分かれる。
一般に、閉じた折れ線が平面をいくつかの部分に分けるとき、靴ひもの和は「各部分の面積 × その部分のまわりを折れ線が反時計回りに回る回数」の合計になる。時計回りの 1 回は $-1$ 回と数える。ex-shl-bowtie では、左の部分が $+1$ 回、右の部分が $-1$ 回である。この回数を、その部分での折れ線の 巻き数(巻き数)という。この一般の事実は証明しない。
頂点の座標がすべて整数である多角形を 格子多角形 という。靴ひもの和の各項 $x_iy_{i+1}-x_{i+1}y_i$ は整数なので、格子多角形の面積は $\dfrac12$ の整数倍である。面積を格子点の個数で表すのが Pick の定理で、高校数学の範囲の証明は Pickの定理 で扱う(大学向けの記事は Pickの定理)。ここでは結果を確かめるだけにする。
Pick の定理:単純な格子多角形の内部の格子点の個数を $I$、周上の格子点の個数を $B$ とすると、面積は $I+\dfrac B2-1$ である(この記事では証明しない)。
(1) ex-shl-pentagon の五角形。内部の格子点は、$y=1$ の段に $x=1,2,3$、$y=2$ の段に $x=1,2,3,4$、$y=3$ の段に $x=1,2,3,4$、$y=4$ の段に $x=2,3,4$ の $14$ 個である。周上の格子点は 5 つの頂点だけで $B=5$ である(どの辺も、$x$ と $y$ の増え方 $(3,1)$、$(1,3)$、$(3,1)$、$(2,3)$、$(1,2)$ の最大公約数が $1$ なので、途中に格子点がない)。$14+\dfrac52-1=\dfrac{31}2$ は靴ひもの和と一致する。
(2) ex-shl-concave の五角形。内部の格子点は $(1,1)$、$(2,1)$、$(4,1)$、$(5,1)$、$(1,2)$、$(5,2)$ の $6$ 個、周上の格子点は $B=20$ 個である(各辺の格子点の間隔の数 $6$、$4$、$3$、$3$、$4$ の和)。$6+10-1=15$ で一致する。
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