初等埋め込み

同義語:elementary embedding

概要

初等埋め込み(elementary embedding)とは、同じ一階言語の二つの構造の間の写像で、元を代入したすべての一階の論理式の真偽を保つものである。演算と関係を保つだけの埋め込みより強く、体の包含 $\mathbb Q\hookrightarrow\mathbb R$ は埋め込みだが初等的でない。一方、大小関係だけを見た $(\mathbb Q,<)\hookrightarrow(\mathbb R,<)$ は初等的である。超冪への対角写像は Łoś の定理により初等埋め込みになる。集合論では宇宙 $V$ から推移的なクラスへの非自明な初等埋め込みが最初に動かす順序数(臨界点)が可測基数になり、逆に可測基数の超冪からそのような埋め込みが得られる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 一階述語論理, 同型, 超フィルター, 順序数

初等埋め込みとは

初等埋め込み(elementary embedding)とは、同じ一階言語の二つの構造の間の写像であって、元を代入した一階の論理式の真偽をすべて保つものである。演算と関係を保つだけの埋め込みは、量化記号 $\forall,\exists$ を含む性質を保つとは限らない。初等埋め込みは「写した先から見ても、元の構造で一階の言葉で言えることがすべて同じに言える」ことを要求する。
この概念は二つの場面で中心的な役割を持つ。モデル理論では、構造を大きくしたり小さくしたりしても一階の性質が変わらないことを表す。集合論では、集合の宇宙 $V$ から推移的なクラス $M$ への初等埋め込み $j\colon V\to M$ を考え、$j$ が最初に動かす順序数(臨界点)によって可測基数などの巨大基数を表す。この記事では、定義と基本性質を述べたあと、初等埋め込みを作る基本的な方法である超冪(Łoś の定理)と、臨界点と可測基数の対応を証明する。

定義

$\mathcal L$ を一階言語とし、$\mathcal M,\mathcal N$ を $\mathcal L$ 構造、それぞれの台集合を $M,N$ とする。論理式 $\varphi(x_1,\ldots,x_n)$ と $a_1,\ldots,a_n\in M$ について、$\mathcal M\models\varphi(a_1,\ldots,a_n)$ は、変数 $x_i$ に $a_i$ を代入したとき $\varphi$ が $\mathcal M$ で真であることを表す。$\bar a=(a_1,\ldots,a_n)$ に対して $j(\bar a)=(j(a_1),\ldots,j(a_n))$ と書く。

埋め込みと初等埋め込み

写像 $j\colon M\to N$ について次のように定める。
(i) すべての原子式(関係記号・等号に項を代入した式)$\varphi(\bar x)$ とすべての $\bar a\in M^n$ について $\mathcal M\models\varphi(\bar a)\Leftrightarrow\mathcal N\models\varphi(j(\bar a))$ が成り立つとき、$j$ を埋め込みという。
(ii) すべての一階の論理式 $\varphi(\bar x)$ とすべての $\bar a\in M^n$ について
$$ \mathcal M\models\varphi(\bar a)\quad\Longleftrightarrow\quad\mathcal N\models\varphi(j(\bar a)) $$
が成り立つとき、$j$ を初等埋め込みという。
包含写像 $M\hookrightarrow N$ が初等埋め込みであるとき、$\mathcal M$ を $\mathcal N$ の初等部分構造、$\mathcal N$ を $\mathcal M$ の初等拡大といい、$\mathcal M\preccurlyeq\mathcal N$ と書く。

原子式 $x_1=x_2$ に (i) を当てると $a_1=a_2\Leftrightarrow j(a_1)=j(a_2)$ であり、埋め込みは単射である。定数記号・関数記号についても、原子式 $f(x_1,\ldots,x_n)=x_0$ を使えば $j(f^{\mathcal M}(\bar a))=f^{\mathcal N}(j(\bar a))$ が従う。したがって埋め込みの像 $j[M]$ は $\mathcal N$ の部分構造であり、$j$ は $\mathcal M$ から $j[M]$ への同型を与える。初等埋め込みはこれに加えて、$j[M]$ が $\mathcal N$ の初等部分構造になることを要求する。
文(自由変数のない式)だけを比べて「$\mathcal M$ で真な文と $\mathcal N$ で真な文が一致する」とき、$\mathcal M$ と $\mathcal N$ は初等同値であるという。初等埋め込み $j\colon M\to N$ があれば、$n=0$ の場合として $\mathcal M$ と $\mathcal N$ は初等同値である。逆は成り立たない。例えば $(\mathbb R,<)$ と $(\mathbb Q,<)$ は初等同値だが(初等部分モデルの「有理数は実数の初等部分モデル(順序の言語)」)、濃度の理由で $\mathbb R$ から $\mathbb Q$ への単射はなく、初等埋め込み $\mathbb R\to\mathbb Q$ もない。初等埋め込みでは、元を代入した式まで一致させる写像を具体的に指定する。

基本性質

埋め込みが保つ式

$j\colon M\to N$ を $\mathcal L$ 構造の間の写像とする。
(i) $j$ が埋め込みなら、量化記号を含まない式の真偽を保つ。さらに $\exists y_1\cdots\exists y_k\,\psi$($\psi$ は量化記号を含まない)の形の式について、$\mathcal M\models\varphi(\bar a)$ なら $\mathcal N\models\varphi(j(\bar a))$ である。
(ii) $j$ が全単射な埋め込み(すなわち同型)なら、$j$ は初等埋め込みである。
(iii) 初等埋め込みの合成は初等埋め込みである。

(i) 量化記号を含まない式は、原子式から $\neg$ と $\wedge$(ほかの結合子はこの二つで書ける)で作られる。原子式では定義から真偽が一致し、$\neg\varphi$ と $\varphi\wedge\psi$ の真偽は $\varphi,\psi$ の真偽だけで決まるので、式の作り方に沿った帰納法で一致が続く。存在の形の式については、$\mathcal M$ での証人 $\bar b$ を取ると $\mathcal M\models\psi(\bar a,\bar b)$ であり、前半から $\mathcal N\models\psi(j(\bar a),j(\bar b))$ となるので、$j(\bar b)$ が $\mathcal N$ での証人になる。
(ii) 式の作り方に関する帰納法で示す。原子式・$\neg$・$\wedge$ は (i) と同じである。$\varphi=\exists y\,\psi(\bar x,y)$ とし、$\psi$ については真偽の一致を仮定する。$\mathcal M\models\varphi(\bar a)$ なら証人 $b\in M$ について $\mathcal N\models\psi(j(\bar a),j(b))$ となる。逆に $\mathcal N\models\varphi(j(\bar a))$ の証人を $c\in N$ とすると、$j$ は全射なので $c=j(b)$ となる $b\in M$ があり、帰納法の仮定から $\mathcal M\models\psi(\bar a,b)$ である。よって $\varphi$ でも一致する。
(iii) $j\colon M\to N$ と $k\colon N\to P$ が初等埋め込みなら、$\mathcal M\models\varphi(\bar a)\Leftrightarrow\mathcal N\models\varphi(j(\bar a))\Leftrightarrow\mathcal P\models\varphi(k(j(\bar a)))$ である。$\square$

(ii) の証明で全射性を使ったのは、存在量化の後ろ向きの向き($\mathcal N$ の証人を $\mathcal M$ へ引き戻す)だけである。一般の埋め込みではここが壊れる。初等部分構造であるかどうかを証人の引き戻しだけで判定するのが Tarski–Vaught の判定法であり、初等部分モデルで扱う(TV57 Theorem 1.10, p. 87)。

例と反例

稠密な順序の包含

大小関係だけの言語 $\{<\}$ で、包含 $(\mathbb Q,<)\hookrightarrow(\mathbb R,<)$ は初等埋め込みである。
証明は初等部分モデルの「有理数は実数の初等部分モデル(順序の言語)」にある。「Tarski–Vaught の判定法」により、有理数のパラメータを固定したまま実数の証人を有理数へ動かす $(\mathbb R,<)$ の自己同型(区間ごとの一次関数をつないだ折れ線写像)を作ればよい。

全射でない自己埋め込み

恒等写像と自己同型は、prop-emb-basic の (ii) により初等埋め込みである。全射でない初等埋め込み $(\mathbb Q,<)\to(\mathbb Q,<)$ もある。$D=\mathbb Q\cap(-1,1)$ とし、$h(x)=x/(1+|x|)$ とおく。$h$ は狭義単調増加で、逆写像 $y\mapsto y/(1-|y|)$ も有理数を有理数へ写すので、$h\colon\mathbb Q\to D$ は順序同型である。この $h$ と包含 $D\hookrightarrow\mathbb Q$ の合成を $j$ とする。包含 $D\hookrightarrow\mathbb Q$ は、初等部分モデルの「有理数は実数の初等部分モデル(順序の言語)」の証明で $\mathbb R$ を $\mathbb Q$ に、$\mathbb Q$ を $D$ に置き換え、証人を $D$ から選べば初等的である($D$ は $\mathbb Q$ の各開区間と交わり、区間の端点を動かさない折れ線写像は有理数の傾きで作れる)。prop-emb-basic の (iii) により $j$ は初等埋め込みで、像は $D\ne\mathbb Q$ である。

次の表の 1〜3 行目は、埋め込みだが初等埋め込みではない例であり、真偽が変わる式を右の列に挙げる。4 行目は、初等埋め込みが同型とは限らないことを示す。

外す条件反例成り立たなくなること
量化記号を含む式の保存体の包含 $\mathbb Q\hookrightarrow\mathbb R$文 $\exists x\,(x\cdot x=1+1)$ が $\mathbb R$ で真、$\mathbb Q$ で偽
量化記号を含む式の保存$(\mathbb N,<)\to(\mathbb N,<)$、$n\mapsto n+1$$\forall y\,\neg(y< x)$(最小元)が $x=0$ で真、像 $1$ で偽
量化記号を含む式の保存包含 $(\mathbb Z,<)\hookrightarrow(\mathbb Q,<)$$\exists z\,(x< z\wedge z< y)$ が $(0,1)$ で $\mathbb Z$ では偽、$\mathbb Q$ では真
全射性(同型との差)$(\mathbb Q,<)\hookrightarrow(\mathbb R,<)$初等埋め込みだが同型ではない(初等性は全射を要求しない)

2 行目の $(\mathbb N,<)$ と $(\{1,2,\ldots\},<)$ は同型なので初等同値でもある。それでも包含 $\{1,2,\ldots\}\hookrightarrow\mathbb N$ は初等的でない。$1$ は小さい方の構造で最小元だが、$\mathbb N$ では最小元でない(TV57 §1, p. 91 に同じ例がある)。初等同値と初等埋め込みの違いを示す典型例である。1 行目・3 行目では、存在量化の証人が大きい方の構造にしかない。これは prop-emb-basic の (i) で見たとおり、埋め込みが存在の形の式を前向きにしか保たないことの表れである。

超冪による初等埋め込み

初等埋め込みを作る基本的な方法が超冪である。$I$ を空でない集合、$U$ を $I$ 上の超フィルターとする。$\mathcal L$ 構造 $\mathcal A$(台集合 $A\ne\emptyset$)に対し、関数 $f,g\colon I\to A$ を
$$ f\sim_U g\quad:\Longleftrightarrow\quad\{i\in I\mid f(i)=g(i)\}\in U $$
で同一視する。フィルターは有限個の交わりと上への包含で閉じるので $\sim_U$ は同値関係である。同値類を $[f]$ と書き、同値類全体を $A^I/U$ とする。関係記号 $R$ と関数記号 $F$ を
$$ R^{A^I/U}([f_1],\ldots,[f_n]):\Longleftrightarrow\{i\mid R^{\mathcal A}(f_1(i),\ldots,f_n(i))\}\in U,\qquad F^{A^I/U}([f_1],\ldots,[f_n]):=[\,i\mapsto F^{\mathcal A}(f_1(i),\ldots,f_n(i))\,] $$
で定める。代表を取り替えても、変わる添字の集合は $U$ に属さない集合の和に含まれるので、定義は代表の取り方によらない。こうして得た構造を超冪といい、$\mathcal A^I/U$ と書く。$a\in A$ に定数関数 $c_a\colon i\mapsto a$ の同値類を対応させる写像 $d(a)=[c_a]$ を対角写像という。

Łoś の定理

すべての論理式 $\varphi(x_1,\ldots,x_n)$ と $f_1,\ldots,f_n\colon I\to A$ について
$$ \mathcal A^I/U\models\varphi([f_1],\ldots,[f_n])\quad\Longleftrightarrow\quad\{i\in I\mid\mathcal A\models\varphi(f_1(i),\ldots,f_n(i))\}\in U. $$
とくに対角写像 $d\colon\mathcal A\to\mathcal A^I/U$ は初等埋め込みである。

右辺の集合を $\|\varphi(\bar f)\|$ と書く。式の作り方に関する帰納法で示す(結合子は $\neg,\wedge$、量化記号は $\exists$ だけとしてよい)。
原子式:まず項 $t(\bar x)$ について、$t^{A^I/U}([\bar f])=[\,i\mapsto t^{\mathcal A}(\bar f(i))\,]$ が項の作り方に関する帰納法と $F^{A^I/U}$ の定義から従う。これを関係記号の定義(等号については $\sim_U$ の定義)に代入すれば、原子式について主張が成り立つ。
$\neg\varphi$:$U$ は超フィルターなので、$X\subseteq I$ について $X\notin U\Leftrightarrow I\setminus X\in U$ である。$\|\neg\varphi(\bar f)\|=I\setminus\|\varphi(\bar f)\|$ だから、帰納法の仮定と合わせて $\mathcal A^I/U\models\neg\varphi([\bar f])\Leftrightarrow\|\varphi(\bar f)\|\notin U\Leftrightarrow\|\neg\varphi(\bar f)\|\in U$ である。
$\varphi\wedge\psi$:$\|\varphi\wedge\psi\|=\|\varphi\|\cap\|\psi\|$ であり、フィルターでは $X\cap Y\in U\Leftrightarrow(X\in U\text{ かつ }Y\in U)$ である(右から左は交わりで閉じること、左から右は上への包含で閉じること)。
$\exists y\,\varphi(\bar x,y)$:超冪で真なら証人 $[g]$ があり、帰納法の仮定から $\|\varphi(\bar f,g)\|\in U$ である。この集合は $\|\exists y\,\varphi(\bar f,y)\|$ に含まれるので、後者も $U$ に属する。逆に $X:=\|\exists y\,\varphi(\bar f,y)\|\in U$ とする。選択公理により、各 $i\in X$ に対して $\mathcal A\models\varphi(\bar f(i),g(i))$ となる $g(i)\in A$ を選び、$i\notin X$ では $g(i)$ を $A$ の任意の元とする。すると $\|\varphi(\bar f,g)\|\supseteq X$ なので $U$ に属し、帰納法の仮定から $\mathcal A^I/U\models\varphi([\bar f],[g])$ である。
最後に $f_k=c_{a_k}$ とすると、$\|\varphi(\bar c_a)\|$ は $\mathcal A\models\varphi(\bar a)$ なら $I$、そうでなければ $\emptyset$ である。$I\in U$、$\emptyset\notin U$ なので $d$ は初等埋め込みである。$\square$

存在量化の後ろ向きの向きで、添字ごとに証人を選ぶために選択公理を使っている。Łoś の定理と対角写像の初等性の所在は BingOst19 §5.1, p. 18 にある。

自然数上の超冪は整礎でない

$U$ を $\omega=\{0,1,2,\ldots\}$ 上の非主超フィルター(有限集合を含まない超フィルター)とし、集合論の構造 $(V_{\omega+1},\in)$ の超冪を考える($V_{\omega+1}$ は累積階層の段で、$\omega$ を元に持つ)。$f_n(k):=\max(k-n,0)$ とおくと、各 $f_n$ は $\omega$ に値を取る関数で、
$$ \{k\in\omega\mid f_{n+1}(k)\in f_n(k)\}=\{k\mid k\ge n+1\} $$
は補集合が有限なので $U$ に属する。Łoś の定理から、超冪の所属関係について $[f_0]\ni[f_1]\ni[f_2]\ni\cdots$ という無限下降列ができる。したがってこの超冪は整礎でなく、推移的な集合と同型にはならない。原因は $U$ が可算個の交わりで閉じないこと($\bigcap_n\{k\mid k\ge n\}=\emptyset$)にある。

集合論の宇宙からの初等埋め込み

以下では ZFC を基礎とし、言語は所属関係 $\in$ だけを持つ集合論の言語とする。$V$ をすべての集合のクラス、$M$ を推移的なクラス($x\in M$ なら $x\subseteq M$)とし、写像 $j\colon V\to M$ が初等埋め込みであるとは、各論理式 $\varphi$ について「すべての $\bar a$ で $\varphi(\bar a)\Leftrightarrow\varphi^M(j(\bar a))$」が成り立つことをいう。ここで $\varphi^M$ は $\varphi$ の量化記号の範囲を $M$ に制限した式である。$V$ と $M$ はクラスなので、この条件は式ごとの主張の列(図式)であり、$j$ はパラメータ付きの式で定義されるか、クラスを扱う理論の中で与えられるとする。この形式化の選択肢は HKP12 §1, pp. 3–8 に詳しい。$j$ が恒等写像でないとき非自明という。
量化記号がすべて $\exists z\in y$、$\forall z\in y$ の形に制限された式を $\Delta_0$ 式という。推移的なクラス $M$ と $\bar a\in M$ について、$\Delta_0$ 式 $\varphi$ は $\varphi^M(\bar a)\Leftrightarrow\varphi(\bar a)$ を満たす。実際、式の作り方に関する帰納法で、$\exists z\in y$ の段では $y\in M$ と推移性から $y$ の元がすべて $M$ に入り、$M$ で探しても $V$ で探しても同じ証人の範囲になる。「$x$ は順序数」(推移的で $\in$ が全順序)、「$z=x\cap y$」、「$z=x\setminus y$」、「$f$ は $x$ から $y$ への全単射」などは $\Delta_0$ 式で書けるので、$M$ の中と外で同じ意味を持つ。

順序数の像と臨界点

$j\colon V\to M$ を推移的なクラスへの初等埋め込みとする。
(i) $j$ は順序数を順序数へ写し、狭義単調増加であり、すべての順序数 $\alpha$ で $j(\alpha)\ge\alpha$ となる。さらに各自然数 $n$ で $j(n)=n$、また $j(\omega)=\omega$ である。
(ii) $j$ がすべての順序数を固定するなら、$j$ は恒等写像である。したがって $j$ が非自明なら、$j(\alpha)\ne\alpha$ となる最小の順序数 $\kappa$ が存在し、$\kappa>\omega$、$j(\kappa)>\kappa$ である。

(i) 「$x$ は順序数」は $\Delta_0$ なので、$\alpha$ が順序数なら $M$ で $j(\alpha)$ は順序数であり、実際に順序数である。$\alpha<\beta$ は $\alpha\in\beta$ のことなので $j(\alpha)\in j(\beta)$ である。狭義単調増加な順序数の関数 $j$ で $j(\alpha)<\alpha$ となる $\alpha$ があれば、その最小のものについて $\beta:=j(\alpha)<\alpha$ から $j(\beta)< j(\alpha)=\beta$ となり、最小性に反する。$j(\emptyset)=\emptyset$(「元を持たない」は $\Delta_0$)と $j(n\cup\{n\})=j(n)\cup\{j(n)\}$ から帰納的に $j(n)=n$ である。$\omega$ は「$0$ でない極限順序数で、元はすべて $0$ か後続順序数」という $\Delta_0$ の性質を持つ唯一の順序数なので $j(\omega)=\omega$ である。
(ii) 集合 $x$ について $\in$ に関する帰納法で $j(x)=x$ を示す。$x$ のすべての元 $y$ で $j(y)=y$ と仮定する。選択公理により全単射 $f\colon\mu\to x$($\mu$ は順序数)を取る。初等性と $\Delta_0$ 性から、$j(f)$ は $j(\mu)=\mu$ から $j(x)$ への全単射である。$\xi<\mu$ について $f(\xi)=y$ に初等性を当てると $j(f)(j(\xi))=j(y)$ なので、$j(f)(\xi)=j(f(\xi))=f(\xi)$ となる。よって $j(x)=j(f)[\mu]=f[\mu]=x$ である。後半は (i) による:固定されない順序数があるので最小の $\kappa$ が取れ、$j(n)=n$ と $j(\omega)=\omega$ から $\kappa>\omega$、また $j(\kappa)\ge\kappa$ かつ $j(\kappa)\ne\kappa$ である。$\square$

この $\kappa$ を $j$ の臨界点(critical point)といい、$\operatorname{crit}(j)$ と書く。$\alpha<\kappa$ なら $j(\alpha)=\alpha$ であり、$\kappa$ は $j$ が「持ち上げる」最初の順序数である。

臨界点は可測基数

$j\colon V\to M$ を推移的なクラスへの非自明な初等埋め込みとし、$\kappa=\operatorname{crit}(j)$ とする。このとき
$$ U_j:=\{A\subseteq\kappa\mid\kappa\in j(A)\} $$
は $\kappa$ 上の非主で $\kappa$-完備な超フィルターであり、$\kappa$ は非可算基数である。したがって $\kappa$ は可測基数である。

$j$ はクラスとして与えられているので、分出公理により $U_j$ は集合である。
超フィルターであること:$j(\kappa)>\kappa$ より $\kappa\in j(\kappa)$、すなわち $\kappa\in U_j$ である。$j(\emptyset)=\emptyset$ より $\emptyset\notin U_j$ である。$j(A\cap B)=j(A)\cap j(B)$ と $j(\kappa\setminus A)=j(\kappa)\setminus j(A)$ は $\Delta_0$ の関係を初等性で移したものである。前者から $U_j$ は交わりで閉じ、$A\subseteq B$ なら $j(A)\subseteq j(B)$ なので上への包含でも閉じる。後者と $\kappa\in j(\kappa)$ から、$A$ と $\kappa\setminus A$ のちょうど一方が $U_j$ に入る。
非主であること:$\alpha<\kappa$ について $j(\{\alpha\})=\{j(\alpha)\}=\{\alpha\}$ は $\kappa$ を含まないので、$\{\alpha\}\notin U_j$ である。
$\kappa$-完備であること:$0<\mu<\kappa$ と $A_i\in U_j$($i<\mu$)を取り、列 $s=\langle A_i\mid i<\mu\rangle$ と $B:=\bigcap_{i<\mu}A_i$ を考える。初等性から $j(s)$ は定義域 $j(\mu)=\mu$ の関数で、$i<\mu$ について $j(s)(i)=j(s)(j(i))=j(s(i))=j(A_i)$ である。「$B$ は $s$ の値全体の交わり」も $\Delta_0$ なので $j(B)=\bigcap_{i<\mu}j(A_i)$ となる。各 $j(A_i)$ が $\kappa$ を含むので $\kappa\in j(B)$、すなわち $B\in U_j$ である。
$\kappa$ が非可算基数であること:prop-emb-ordinals より $\kappa>\omega$ である。$\kappa$ が基数でなければ、$\mu<\kappa$ と全単射 $f\colon\mu\to\kappa$ がある。$j(f)$ は $\mu$ から $j(\kappa)$ への全単射で、$\xi<\mu$ について $j(f)(\xi)=j(f(\xi))=f(\xi)$($f(\xi)<\kappa$ は固定される)である。よって $j(f)$ の像は $\kappa$ だが、それは $j(\kappa)\ne\kappa$ に等しいはずで矛盾する。$\square$

この証明では、$\kappa$ 未満の長さの列が $j$ で「添字ごとに」写ることが完備性の源になっている。長さが $\kappa$ の列では $j(s)$ の定義域が $j(\kappa)>\kappa$ に伸びるので、同じ議論は使えない。$U_j$ の構成は BingOst19 §4.3, p. 16 にある。

可測基数から初等埋め込みへ

$\kappa$ 上に非主で $\kappa$-完備な超フィルター $U$ があれば、推移的なクラス $M$ と初等埋め込み $j\colon V\to M$ で $\operatorname{crit}(j)=\kappa$ となるものが存在する。したがって、非可算基数 $\kappa$ が可測であることと、$\kappa$ がある初等埋め込み $j\colon V\to M$($M$ は推移的)の臨界点であることは同値である。

関数 $f\colon\kappa\to V$ を $\sim_U$ で同一視した超冪 $V^\kappa/U$ を作り、所属関係を $[f]\mathrel{E}[g]:\Leftrightarrow\{\xi\mid f(\xi)\in g(\xi)\}\in U$ で定める(同値類は真のクラスになるので、同値類の中で階数が最小のものだけを集めて集合で代用する)。Łoś の定理の証明は、式ごとにそのまま $V^\kappa/U$ で通用し(存在量化の段では、各 $\xi$ の証人を階数最小のものの中から選ぶ)、対角写像 $x\mapsto[c_x]$ は初等的である。$U$ は可算完備なので $E$ は整礎である(可測基数の「可算完備性と整礎性」)。$E$ は外延的でもあるので、Mostowski の崩壊写像 $\pi$ で推移的なクラス $M$ と同型になる(BingOst19 §5.1, p. 19)。$j(x):=\pi([c_x])$ とおけば $j\colon V\to M$ は初等埋め込みである。

臨界点が $\kappa$ であることの証明を開く

$\alpha<\kappa$ で $j(\alpha)=\alpha$ を $\alpha$ についての帰納法で示す。$[f]\mathrel{E}[c_\alpha]$ なら $X=\{\xi\mid f(\xi)<\alpha\}\in U$ であり、$X$ は $\alpha$ 個の集合 $X_\beta=\{\xi\mid f(\xi)=\beta\}$($\beta<\alpha$)の和である。どの $X_\beta$ も $U$ に入らなければ、$\kappa$-完備性から $X\cap\bigcap_{\beta<\alpha}(\kappa\setminus X_\beta)=\emptyset$ が $U$ に入り矛盾する。よってある $\beta$ で $[f]=[c_\beta]$、$\pi([f])=j(\beta)=\beta$ となる。逆に $\beta<\alpha$ なら $j(\beta)=\beta\in j(\alpha)$ である。ゆえに $j(\alpha)=\alpha$。

次に恒等関数 $\mathrm{id}(\xi)=\xi$ を考える。すべての $\xi<\kappa$ で $\xi\in\kappa$ だから $[\mathrm{id}]\mathrel{E}[c_\kappa]$。また $\beta<\kappa$ について $\{\xi\mid\beta<\xi\}$ は補集合の濃度が $\kappa$ 未満なので $U$ に属し(可測基数の「小さい集合は測度0」)、$[c_\beta]\mathrel{E}[\mathrm{id}]$ である。Łoś の定理から $\pi([\mathrm{id}])$ は順序数で、すべての $\beta<\kappa$ を元に持つので $\pi([\mathrm{id}])\ge\kappa$。ゆえに $j(\kappa)>\pi([\mathrm{id}])\ge\kappa$ である。


同値性の残りの向きは thm-emb-critical-measurable である。$\square$

この証明で使う結果は二つある。超冪の整礎性は可測基数の命題「可算完備性と整礎性」で証明されており、Mostowski の崩壊定理(整礎で外延的な関係は推移的なクラスの $\in$ と同型)はこの記事では証明しない(BingOst19 §5.1, p. 19)。

より強い埋め込みと限界

推移的なクラスへの非自明な初等埋め込みが存在するという仮定のうち、最も弱いものが可測基数に対応する。これに加えて $M$ が $V$ に「近い」ことを要求すると、より強い巨大基数になる。$j(\kappa)\ge\lambda$ と $V_\lambda\subseteq M$ を要求すると $\lambda$-強基数、長さ $\lambda$ の列について $M$ が閉じていること(${}^\lambda M\subseteq M$)を要求すると $\lambda$-超コンパクト基数になる(BingOst19 §4.3, p. 17)。Woodin基数は前者の条件を集合ごとに相対化したものである。
この方向には限界がある。選択公理のもとでは、非自明な初等埋め込み $j\colon V\to V$ は存在しない(Kunen の不整合性、HKP12 Theorem 1, p. 2)。この記事ではこの定理を証明しない。$M$ を $V$ に近づける要求は、$M=V$ の手前で止まる。

注意

$j\colon V\to M$ の初等性は式ごとの図式であり、「すべての式について」を一つの ZFC の文として書くことはできない。$j$ が式で定義される場合も、クラスを扱う理論で扱う場合も、この記事の証明は有限個の式への初等性しか使わない。thm-emb-critical-measurable で使ったのは、$\Delta_0$ 式と「$f$ は全単射」「$s$ の値の交わり」など決まった式への初等性である。
臨界点の存在(prop-emb-ordinals の (ii))には選択公理を使った。選択公理を満たさない推移的なモデルの間では、非自明なのにすべての順序数を固定する初等埋め込みもある(HKP12 §1, p. 9)。

関連項目

参考文献

[1]
Alfred Tarski and Robert L. Vaught, Arithmetical extensions of relational systems, Compositio Mathematica, 1957, 81–102(Definition 1.6, p. 85:初等拡大、Theorem 1.10, p. 87:Tarski–Vaught の判定法、p. 91:同型だが初等拡大でない例)

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