Baire空間(記述集合論)

同義語:Baire space (set theory)Baire space (descriptive set theory)ℕ^ℕBaire 空間 ℕ^ℕ

概要

Baire空間(記述集合論)(Baire space (set theory))とは、自然数の無限列全体 $\mathbb{N}^{\mathbb{N}}$ に、離散空間 $\mathbb{N}$ の可算直積としての直積位相を入れた空間であり、最初に異なる項の番号 $n$ から距離 $1/(n+1)$ を定める完備な超距離をもつ。有限列で始まる列全体が開かつ閉な可算開基をなし、閉集合は刈り込まれた木の枝全体と一対一に対応し、空でない Polish 空間はすべてその連続像になる。コンパクト集合は内部をもたないので局所コンパクトでも σ コンパクトでもなく、無理数全体と同相であり、記述集合論で実数の部分集合を調べる基本の空間として使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 直積位相, 離散空間, 完備距離空間, Baireのカテゴリー定理

Baire 空間(Baire space)とは、記述集合論では、自然数の無限列全体の集合 $\mathbb{N}^{\mathbb{N}}$ に、各成分の $\mathbb{N}$ を離散空間とみたときの直積位相を入れた空間のことをいう。点 $\alpha=(\alpha(0),\alpha(1),\alpha(2),\dots)$ は自然数の無限列であり、2 つの点は「最初の何項が一致するか」で近さを測る。
同じ「Baire 空間」という名前は、一般位相で「空でない開集合が第1類でない空間」という性質を指すのにも使われる(Baireのカテゴリー定理)。この記事が扱うのは特定の空間 $\mathbb{N}^{\mathbb{N}}$ のほうである。$\mathbb{N}^{\mathbb{N}}$ はカテゴリーの意味でも Baire 空間だが、二つの用法は別物である。
$\mathbb{N}^{\mathbb{N}}$ が記述集合論の基本の空間になるのは、それが「無限に枝分かれする木の枝全体」として組合せ的に扱いやすいうえに、任意の完備可分距離空間をその連続像として捉えられるからである。実数の集合についての問いも、$\mathbb{N}^{\mathbb{N}}$ の集合についての問いに移して調べられる。実際、$\mathbb{N}^{\mathbb{N}}$ は無理数全体と同相である。この記事では、$\mathbb{N}^{\mathbb{N}}$ の距離と位相を確かめ、閉集合と木の対応、すべての完備可分距離空間がその連続像であること、コンパクト集合の小ささを証明する。

定義

有限列の記法を先に定める。$\mathbb{N}=\{0,1,2,\dots\}$ とする。長さ $n$ の有限列 $s=(s_0,\dots,s_{n-1})\in\mathbb{N}^n$ の全体を $\mathbb{N}^{< \mathbb{N}}=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}\mathbb{N}^n$ と書き、$s$ の長さを $\lvert s\rvert$ と書く(長さ $0$ の空列 $\emptyset$ も含む)。$\alpha\in\mathbb{N}^{\mathbb{N}}$ の最初の $n$ 項を $\alpha|n=(\alpha(0),\dots,\alpha(n-1))$ と書く。有限列 $s$ の後ろに $k$ を付け足した列を $s^\frown k$ と書く。$t|n=s$($n=\lvert s\rvert\le\lvert t\rvert$)のとき、$t$ は $s$ の 延長 であるという。

Baire 空間 $\mathbb{N}^{\mathbb{N}}$

$\mathbb{N}$ に離散位相を入れ、その可算個の直積
$$ \mathcal{N}:=\mathbb{N}^{\mathbb{N}}=\prod_{n\in\mathbb{N}}\mathbb{N} $$
に直積位相を入れた位相空間を Baire 空間(記述集合論の意味)という。有限列 $s\in\mathbb{N}^{< \mathbb{N}}$ に対し
$$ N_s:=\{\alpha\in\mathcal{N}\mid \alpha|\lvert s\rvert=s\} $$
を $s$ が定める 基本開集合 という。$\mathcal{N}$ 上の関数 $d$ を、$\alpha=\beta$ なら $d(\alpha,\beta)=0$、$\alpha\neq\beta$ なら
$$ d(\alpha,\beta)=\frac{1}{n+1}\qquad(n=\min\{i\mid\alpha(i)\neq\beta(i)\}) $$
で定める。

可算な開基をもつ完備距離化可能空間(同じことだが、可分空間である完備距離空間と同相な空間)を Polish 空間 という。$\mathbb{R}$、$[0,1]$、$\mathbb{R}^n$、Cantor集合はどれも Polish 空間である。

名前と記号

$\mathcal{N}$ を $\omega^\omega$ や ${}^\omega\omega$ と書く文献も多い($\omega$ は自然数全体の順序数)。Mos09 は $\mathcal{N}$ と書いて、その元を「無理数」とよぶ(p. 9)。Eng89 は濃度 $\mathfrak{m}$ の離散空間の可算直積を $B(\mathfrak{m})$ と書き(Example 4.2.12、p. 261)、$\mathcal{N}$ は $B(\aleph_0)$ にあたる。カテゴリーの意味の Baire 空間は Baireのカテゴリー定理 の定義「空間の Baire 性」にあり、そこでの注意「名称についての注意」も二つの用法の違いを述べている。

距離と基本的な性質

基本開集合と距離
  1. $\{N_s\mid s\in\mathbb{N}^{< \mathbb{N}}\}$ は $\mathcal{N}$ の可算な開基であり、各 $N_s$ は開かつ閉集合である。
  2. $d$ は超距離($d(\alpha,\gamma)\le\max\{d(\alpha,\beta),d(\beta,\gamma)\}$ を満たす距離)であり、$\mathcal{N}$ の位相を定める。正の整数 $n$ と $1/(n+1)< r\le 1/n$ について、開球は $B(\alpha,r)=N_{\alpha|n}$ である。
  3. $(\mathcal{N},d)$ は完備であり、ある項から先がすべて $0$ である列の全体は可算な稠密部分集合である。とくに $\mathcal{N}$ は Polish 空間である。
  4. $\mathcal{N}$ は孤立点をもたず、完全不連結空間である。

要点:直積位相の開基は有限個の成分を指定した集合で、それは $N_s$ の和である。$d(\alpha,\beta)$ は最初に異なる番号だけで決まるので超距離であり、開球は $N_{\alpha|n}$ に一致する。Cauchy 列は各成分がいずれ一定になるので収束する。

詳しい証明を開く

1:直積位相の開基は、有限個の $i_1,\dots,i_k$ について $\{\alpha\mid\alpha(i_1)=a_1,\dots,\alpha(i_k)=a_k\}$ の形の集合である(直積位相 の命題「直積位相の開基」。$\mathbb{N}$ の開基として 1 点集合をとる)。$N_s$ はこの形なので開集合である。逆にこの形の集合が $\alpha$ を含めば、$n>\max\{i_1,\dots,i_k\}$ について $N_{\alpha|n}$ に含まれる。よって $\{N_s\}$ は開基である。$\mathbb{N}^{< \mathbb{N}}$ は可算集合の可算和なので可算である。$\lvert s\rvert=n$ のとき、$N_s$ の補集合は $\lvert t\rvert=n$、$t\neq s$ である $N_t$ の和であり開集合なので、$N_s$ は閉集合でもある。

2:$d(\alpha,\beta)=d(\beta,\alpha)$ と、$d(\alpha,\beta)=0\iff\alpha=\beta$ は定義から明らかである。超距離の不等式を示す。$\alpha,\beta,\gamma$ が相異なるとし、$\alpha$ と $\beta$、$\beta$ と $\gamma$ が初めて異なる番号をそれぞれ $m,m'$ とする。$i< \min\{m,m'\}$ なら $\alpha(i)=\beta(i)=\gamma(i)$ なので、$\alpha$ と $\gamma$ が初めて異なる番号は $\min\{m,m'\}$ 以上であり、$d(\alpha,\gamma)\le1/(\min\{m,m'\}+1)=\max\{d(\alpha,\beta),d(\beta,\gamma)\}$ である。どれか 2 つが等しい場合も明らかに成り立つ。超距離は三角不等式を満たすので距離である。

$1/(n+1)< r\le1/n$ とする。$\beta\neq\alpha$ について、初めて異なる番号を $m$ とすると、$d(\alpha,\beta)< r$ は $1/(m+1)< r$ と同値であり、$r\le1/n$ よりこれは $m\ge n$、すなわち $\beta\in N_{\alpha|n}$ と同値である($1/(n+1)< r$ なので $m=n$ も含まれる)。よって $B(\alpha,r)=N_{\alpha|n}$ であり、開球全体と $\{N_s\}$ は同じ位相を生成する。

3:$(\alpha_k)$ を Cauchy 列とする。各 $n$ について、ある $K_n$ があって $k,l\ge K_n$ なら $d(\alpha_k,\alpha_l)< 1/(n+1)$、すなわち $\alpha_k|(n+1)=\alpha_l|(n+1)$ である。$\alpha(n):=\alpha_{K_n}(n)$ と定めると、$k\ge\max\{K_0,\dots,K_n\}$ のとき $\alpha_k|(n+1)=\alpha|(n+1)$ なので、$d(\alpha_k,\alpha)\le1/(n+2)$ である。よって $\alpha_k\to\alpha$ である。各 $N_s$ は列 $s^\frown0^\frown0^\frown\cdots$ を含むので、項がいずれ $0$ になる列の全体は稠密であり、それは $\bigcup_n\mathbb{N}^n$ と一対一に対応するので可算である。

4:$N_s$ は無限個の点 $s^\frown k^\frown0^\frown0^\frown\cdots$($k\in\mathbb{N}$)を含むので、1 点集合は開でない。$\alpha\neq\beta$ が $n$ 番目で初めて異なれば、$N_{\alpha|(n+1)}$ とその補集合が $\alpha,\beta$ を分ける開かつ閉集合なので、2 点以上を含む連結な部分集合はない。$\square$

2 から、$\mathcal{N}$ の 2 つの開球は交わらないか一方が他方を含む(超距離空間 の命題「交わる二球の包含関係」)。基本開集合 $N_s$ は、$s$ の延長 $s^\frown0,s^\frown1,s^\frown2,\dots$ が定める可算個の基本開集合に、互いに交わらないように分かれる:
$$ N_s=\bigsqcup_{k\in\mathbb{N}}N_{s^\frown k}. $$
有限列 $\mathbb{N}^{< \mathbb{N}}$ を、空列を根として各頂点から可算本の枝が出る木とみると、$\mathcal{N}$ の点はこの木を根から無限にたどる道であり、$N_s$ は頂点 $s$ を通る道の全体である。

例と同相な空間

Cantor 空間

$0,1$ だけを項とする列の全体 $\mathcal{C}:=\{0,1\}^{\mathbb{N}}\subset\mathcal{N}$ を Cantor 空間 という。$\mathcal{C}$ の補集合は「どこかの項が $2$ 以上である列」の全体で、$\alpha(i)\ge2$ となる $i$ について $N_{\alpha|(i+1)}$ に含まれるから開集合であり、$\mathcal{C}$ は $\mathcal{N}$ の閉集合である。部分空間 $\mathcal{C}$ の位相は $\{0,1\}$ の可算直積の直積位相に一致し、$\mathcal{C}$ はCantor集合と同相でコンパクトである(Cantor集合 の命題「直積空間との同相」)。

直積との同相

全単射 $\pi\colon\mathbb{N}\times\mathbb{N}\to\mathbb{N}$ を 1 つ固める(たとえば $\pi(i,j)=2^i(2j+1)-1$)。$(\alpha_i)_{i\in\mathbb{N}}\in\mathcal{N}^{\mathbb{N}}$ に $\gamma(\pi(i,j))=\alpha_i(j)$ で定まる $\gamma\in\mathcal{N}$ を対応させる写像は、$\mathcal{N}^{\mathbb{N}}$ から $\mathcal{N}$ への同相写像である。両辺はどちらも離散空間 $\mathbb{N}$ を $\mathbb{N}\times\mathbb{N}$ で添字づけた直積であり、この写像は添字を $\pi$ で付け替えるだけなので、直積位相の開基(有限個の成分を指定した集合)を開基へ写す。同様に $\mathcal{N}\times\mathcal{N}\cong\mathcal{N}$ である。

Cantor 空間の中の $\mathcal{N}$

$\alpha\in\mathcal{N}$ に、$0$ を $\alpha(0)$ 個、$1$ を 1 個、$0$ を $\alpha(1)$ 個、$1$ を 1 個、…と並べた列
$$ h(\alpha)=0^{\alpha(0)}\,1\,0^{\alpha(1)}\,1\,0^{\alpha(2)}\,1\cdots\in\mathcal{C} $$
を対応させる。$h$ は $\mathcal{N}$ から、$1$ を無限個含む列全体 $Y\subset\mathcal{C}$ への同相写像である。$\mathcal{C}\setminus Y$ は可算集合であり、$Y$ は $\mathcal{C}$ の稠密な G_δ-集合 である。

要点:$h(\alpha)$ の最初の何項かは $\alpha$ の最初の何項かで決まり、逆に $\beta\in Y$ の最初の $n$ 個の $1$ の位置までを見れば $h^{-1}(\beta)$ の最初の $n$ 項が決まる。

詳しい証明を開く

$h(\alpha)$ は $1$ を無限個含むので $h(\mathcal{N})\subset Y$ である。$\beta\in Y$ の $k$ 番目と $k+1$ 番目の $1$ の間にある $0$ の個数を $\alpha(k)$($k=0$ では最初の $1$ の前の $0$ の個数)とすれば $h(\alpha)=\beta$ であり、$\alpha$ は $\beta$ から一意に決まるので、$h\colon\mathcal{N}\to Y$ は全単射である。

$h$ の連続性:$h(\alpha)$ の最初の $\alpha(0)+\dots+\alpha(n-1)+n$ 項($n$ 項以上)は $\alpha|n$ だけで決まる。よって $\alpha'|n=\alpha|n$ なら $h(\alpha')|n=h(\alpha)|n$ であり、prop-baire-space-metric の 2 により $h$ は連続である($\mathcal{C}$ にも同じ式の距離を入れる)。逆写像の連続性:$\beta\in Y$ の $n$ 番目の $1$ が位置 $p$ にあるとき、$\beta'\in Y$ が $\beta'|(p+1)=\beta|(p+1)$ を満たせば、最初の $n$ 個の $1$ の位置が一致するので $h^{-1}(\beta')|n=h^{-1}(\beta)|n$ である。

$\mathcal{C}\setminus Y$ は、ある項から先がすべて $0$ である列の全体なので、有限列全体と一対一に対応し可算である。$Y=\bigcap_{m}\{\beta\mid\text{位置 }m\text{ 以降に }1\text{ がある}\}$ であり、各集合は基本開集合の和なので開集合である。$s\in\{0,1\}^{< \mathbb{N}}$ について $N_s\cap\mathcal{C}$ は列 $s^\frown1^\frown1^\frown\cdots\in Y$ を含み、$\mathcal{C}$ の空でない開集合はこの形の集合を含むので $Y$ は稠密である。$\square$

この命題の議論は、Cantor 空間の中で「$1$ を無限個含む」という $G_\delta$ な条件を課すとコンパクト性が失われ、$\mathcal{N}$ が現れることを示している。同じ種類の議論で、$\mathcal{N}$ は通常の位相の無理数全体 $\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}$ とも同相である(Eng89 Exercise 4.3.G、p. 279。証明は連分数展開か、無理数全体を開かつ閉集合へ細かく分けていく構成による。この記事では証明しない)。この同相によって、$\mathcal{N}$ の点を「無理数」とよぶ流儀がある。

零次元空間の埋め込み

$X$ を $T_0$ な位相空間とし、開かつ閉集合からなる可算な開基 $\{B_n\}_{n\in\mathbb{N}}$ をもつとする。$e(x)(n)=1\ (x\in B_n)$、$e(x)(n)=0\ (x\notin B_n)$ で定まる写像 $e\colon X\to\mathcal{C}\subset\mathcal{N}$ は位相的埋め込みである。

要点:各成分は開かつ閉集合 $B_n$ の指示関数なので連続であり、$T_0$ 性から単射、$e(B_n)=e(X)\cap\{\beta\mid\beta(n)=1\}$ から像への開写像である。

詳しい証明を開く

各成分 $x\mapsto e(x)(n)$ は $B_n$ の指示関数で、$B_n$ が開かつ閉なので $\{0,1\}$ への連続写像である。直積位相の普遍性(直積位相 の定理「直積位相の普遍性」)により $e$ は連続である。$x\neq y$ なら、$T_0$ 性により一方だけを含む開集合があり、それは一方だけを含むある $B_n$ を含むので $e(x)(n)\neq e(y)(n)$ である。よって $e$ は単射である。$e(B_n)=e(X)\cap\{\beta\mid\beta(n)=1\}$ は $e(X)$ の開集合であり、$e$ は単射なので開集合 $\bigcup B_{n_k}$ の像は $\bigcup e(B_{n_k})$ である。よって $e\colon X\to e(X)$ は開写像であり、同相写像である。$\square$

たとえば有理数全体 $\mathbb{Q}$ では、両端が $\sqrt2+r$($r\in\mathbb{Q}$)の形の開区間 $(a,b)$ について $(a,b)\cap\mathbb{Q}=[a,b]\cap\mathbb{Q}$ が開かつ閉であり、これらの全体は可算な開基をなすので、$\mathbb{Q}$ は $\mathcal{C}$ に埋め込める。より一般に、可分距離化可能で大きな帰納的次元 $\operatorname{Ind}X$ が $0$ の空間はすべて $\mathcal{N}$ の部分空間と同相である(Eng89 Theorem 7.3.15、p. 406 の $\mathfrak{m}=\aleph_0$ の場合)。

木と閉集合

木とその枝

$T\subset\mathbb{N}^{< \mathbb{N}}$ が 木 であるとは、$s\in T$ かつ $n\le\lvert s\rvert$ ならば $s|n\in T$ となること(始切片で閉じていること)をいう。$T$ の 枝全体(body)を
$$ [T]:=\{\alpha\in\mathcal{N}\mid\text{すべての }n\text{ について }\alpha|n\in T\} $$
と書く。木 $T$ が 刈り込まれている(pruned)とは、任意の $s\in T$ が $T$ の中に真の延長 $s^\frown k\in T$ をもつことをいう。

閉集合と木
  1. 任意の木 $T$ について $[T]$ は $\mathcal{N}$ の閉集合である。
  2. $F\subset\mathcal{N}$ が閉集合ならば、$T_F:=\{\alpha|n\mid\alpha\in F,\ n\in\mathbb{N}\}$ は刈り込まれた木であり、$F=[T_F]$ である。
  3. 空でない閉集合 $F\subset\mathcal{N}$ は $\mathcal{N}$ のレトラクトである。すなわち、$F$ の上で恒等写像になる連続写像 $r\colon\mathcal{N}\to F$ が存在する。

1:$\alpha\notin[T]$ なら、ある $n$ で $\alpha|n\notin T$ である。$\beta\in N_{\alpha|n}$ は $\beta|n=\alpha|n\notin T$ を満たすので $\beta\notin[T]$ である。よって補集合は開集合である。
2:$T_F$ が始切片で閉じていることは定義から明らかである。$s=\alpha|n\in T_F$($\alpha\in F$)なら $\alpha|(n+1)\in T_F$ は $s$ の真の延長なので、$T_F$ は刈り込まれている。$F\subset[T_F]$ は明らかである。逆に $\alpha\in[T_F]$ とすると、各 $n$ について $\alpha|n=\beta_n|n$ となる $\beta_n\in F$ があり、$d(\alpha,\beta_n)\le1/(n+1)$ なので $\beta_n\to\alpha$ である。$F$ は閉なので $\alpha\in F$ である。
3:$T=T_F$ とおく。$F\neq\emptyset$ なので空列は $T$ に属する。$s\in T$ に対し、$t_0=s$、$t_{k+1}=t_k{}^\frown j_k$($j_k$ は $t_k{}^\frown j\in T$ となる最小の $j$。$T$ が刈り込まれているので存在する)と定め、$\lambda(s)\in\mathcal{N}$ を、すべての $k$ で $\lambda(s)|\lvert t_k\rvert=t_k$ となる列とする。各 $t_k$ が $T$ に属するので $\lambda(s)\in[T]=F$ である。これを $s$ を通る 最左の枝 という。
$\alpha\in\mathcal{N}$ について、$\alpha\in F$ なら $r(\alpha)=\alpha$ とする。$\alpha\notin F$ なら $\{n\mid\alpha|n\in T\}$ は $0$ を含む有限な始切片 $\{0,\dots,n_\alpha\}$ であり($T$ は木なので)、$r(\alpha)=\lambda(\alpha|n_\alpha)$ とする。$r(\mathcal{N})\subset F$ で、$F$ の上で $r$ は恒等写像である。
連続性を示す。$\alpha\in F$ と $m\in\mathbb{N}$ をとり、$\beta\in N_{\alpha|m}$ とする。$\beta|m=\alpha|m\in T$ である。$\beta\in F$ なら $r(\beta)|m=\beta|m=\alpha|m$ である。$\beta\notin F$ なら $n_\beta\ge m$ であり、$r(\beta)$ は $\beta|n_\beta$ の延長なので $r(\beta)|m=\beta|m=\alpha|m$ である。よって $r(N_{\alpha|m})\subset N_{r(\alpha)|m}$ であり、$r$ は $\alpha$ で連続である。$\alpha\notin F$ なら、$n=n_\alpha$ として $\beta\in N_{\alpha|(n+1)}$ をとると、$\beta|n=\alpha|n\in T$ かつ $\beta|(n+1)=\alpha|(n+1)\notin T$ なので $\beta\notin F$、$n_\beta=n$ であり、$r(\beta)=\lambda(\alpha|n)=r(\alpha)$ である。$r$ は $\alpha$ の近傍で一定なので $\alpha$ で連続である。$\square$

2 によって、$\mathcal{N}$ の閉集合は刈り込まれた木と一対一に対応する($F\mapsto T_F$ と $T\mapsto[T]$ が互いに逆。刈り込まれた木 $T$ について $T_{[T]}=T$ となるのは、$T$ の各元が $[T]$ の枝の始切片になることから従う)。閉集合についての問いを、可算な組合せ的対象である木についての問いに置き換えられる。木の言葉では、Cantor 空間 $\mathcal{C}$ は「各頂点で $0,1$ の 2 本だけ枝を残した木」の枝全体である。

Polish 空間の連続像

閉集合の細かい分割

$(X,d)$ を可分な距離空間、$F\subset X$ を空でない閉集合、$\varepsilon>0$ とする。このとき空でない閉集合の列 $(F_k)_{k\in\mathbb{N}}$ で、各 $k$ について $F_k\subset F$、$\operatorname{diam}F_k\le\varepsilon$ であり、$F=\bigcup_kF_k$ となるものが存在する。

要点:$F$ の可算な稠密部分集合の各点を中心とする半径 $\varepsilon/2$ の閉球と $F$ の共通部分をとればよい。

詳しい証明を開く

可分な距離空間は第2可算公理を満たし、第2可算性は部分空間に遺伝し、第2可算空間は可分である(第2可算公理 の定理「距離空間における同値性」と命題「部分空間への遺伝」)。よって $F$ は可算な稠密部分集合をもつ。$F\neq\emptyset$ なので、それを(重複を許して)$d_0,d_1,d_2,\dots$ と並べられる。$F_k:=F\cap\{x\mid d(x,d_k)\le\varepsilon/2\}$ とおくと、$F_k$ は $d_k$ を含む閉集合で、直径は $\varepsilon$ 以下である。$x\in F$ に対し、稠密性から $d(x,d_k)< \varepsilon/2$ となる $k$ があり、$x\in F_k$ である。$\square$

Polish 空間は $\mathcal{N}$ の連続像

空でない Polish 空間 $X$ に対し、連続な全射 $f\colon\mathcal{N}\to X$ が存在する。

$X$ に完備な距離 $d$ を 1 つ固定する。有限列 $s$ ごとに空でない閉集合 $F_s\subset X$ を、$\lvert s\rvert$ についての帰納法で次のように定める。$F_\emptyset:=X$ とする。$F_s$ が定まったら、lem-baire-space-fine-cover を $F=F_s$、$\varepsilon=2^{-\lvert s\rvert}$ に当てはめて得た列を $(F_{s^\frown k})_{k\in\mathbb{N}}$ とする。すると次が成り立つ。
$$ F_s=\bigcup_{k\in\mathbb{N}}F_{s^\frown k},\qquad F_{s^\frown k}\subset F_s,\qquad \operatorname{diam}F_{s^\frown k}\le2^{-\lvert s\rvert}. $$
$\alpha\in\mathcal{N}$ について、$F_{\alpha|0}\supset F_{\alpha|1}\supset F_{\alpha|2}\supset\cdots$ は空でない閉集合の減少列で、$n\ge1$ のとき $\operatorname{diam}F_{\alpha|n}\le2^{-(n-1)}\to0$ である。$X$ は完備なので、共通部分はちょうど 1 点からなる(完備距離空間 の命題「閉集合の減少列による特徴づけ」)。その点を $f(\alpha)$ とする。
連続性:$\beta\in N_{\alpha|n}$($n\ge1$)なら $f(\alpha),f(\beta)\in F_{\alpha|n}$ なので $d(f(\alpha),f(\beta))\le2^{-(n-1)}$ である。
全射性:$x\in X$ とする。$x\in F_\emptyset$ であり、$x\in F_s$ ならば $F_s=\bigcup_kF_{s^\frown k}$ から $x\in F_{s^\frown k}$ となる $k$ がある。そのような $k$ の最小のものを $\alpha(\lvert s\rvert)$ として順に $\alpha(0),\alpha(1),\dots$ を定めれば、すべての $n$ で $x\in F_{\alpha|n}$ となり、$f(\alpha)=x$ である。$\square$

$\mathcal{N}$ の閉集合 $F$ も(空でなければ)Polish 空間なので、thm-baire-space-trees の 3 と合わせると、空でない閉集合 $F\subset\mathcal{N}$ について、$\mathcal{N}$ から $F$ への連続全射が 2 通りに得られる。
thm-baire-space-surjection は、Polish 空間の点を「自然数の列による番地」で指定できることを表している。番地 $\alpha$ の最初の $n$ 項が、$x$ を直径 $2^{-(n-1)}$ 以下の閉集合 $F_{\alpha|n}$ に閉じ込める。記述集合論では、Polish 空間の部分集合で $\mathcal{N}$ の連続像として書けるもの(と空集合)を 解析集合($\boldsymbol{\Sigma}^1_1$ 集合)とよぶ。定義の流儀は文献によって違い、Mos09 は $X\times\mathcal{N}$ の閉集合の $X$ への射影として定義し、それを $\mathcal{N}$ の連続像として特徴づけることを演習 1E.6(p. 33)としている。thm-baire-space-surjection そのものは Mos09 1A.1(p. 10)にあり、そこでは稠密な点列を使った別の構成で証明されている。

コンパクト集合の小ささ

コンパクト集合は内部をもたない
  1. $K\subset\mathcal{N}$ がコンパクトならば、ある $m\in\mathcal{N}$ について、すべての $\alpha\in K$ と $n$ で $\alpha(n)\le m(n)$ が成り立つ。
  2. $\mathcal{N}$ のコンパクト集合は疎集合(閉包の内部が空な集合)である。
  3. $\mathcal{N}$ は局所コンパクト空間でなく、可算個のコンパクト集合の和として書けない。

1:第 $n$ 成分への射影 $p_n\colon\mathcal{N}\to\mathbb{N}$ は連続なので $p_n(K)$ は離散空間 $\mathbb{N}$ のコンパクト集合、すなわち有限集合である。$m(n):=\max p_n(K)$($K=\emptyset$ なら $0$)とおけばよい。
2:$K$ は Hausdorff 空間のコンパクト集合なので閉集合であり、内部が空であることを示せばよい。基本開集合 $N_s$ は、$n=\lvert s\rvert$ として列 $\beta=s^\frown(m(n)+1)^\frown0^\frown0^\frown\cdots$ を含むが、$\beta(n)>m(n)$ なので 1 により $\beta\notin K$ である。よってどの $N_s$ も $K$ に含まれず、$K$ の内部は空である。
3:$\mathcal{N}$ が局所コンパクトなら、ある点がコンパクト近傍をもち、そのコンパクト集合の内部は空でないので 2 に反する。$\mathcal{N}=\bigcup_kK_k$($K_k$ はコンパクト)と書けたとすると、各 $K_k$ は閉集合で、$\mathcal{N}$ は空でない完備距離空間なので Baireのカテゴリー定理 の系「閉集合による可算被覆」によりある $K_k$ が内部をもつ。これは 2 に反する。$\square$

カテゴリーの意味での Baire 性

$\mathcal{N}$ はカテゴリーの意味でも Baire 空間である。すなわち $\mathcal{N}$ の稠密な開集合の可算個の共通部分は稠密である。

prop-baire-space-metric の 3 により $\mathcal{N}$ は空でない完備距離空間なので、Baireのカテゴリー定理 の定理「Baire のカテゴリー定理」の 1 による。$\square$

3 つの代表的な Polish 空間を比べると、次のようになる。

性質$\mathcal{N}=\mathbb{N}^{\mathbb{N}}$$\mathcal{C}=\{0,1\}^{\mathbb{N}}$$\mathbb{R}$
コンパクトいいえはいいいえ
局所コンパクトいいえはいはい
可算個のコンパクト集合の和いいえはいはい
連結いいえ(完全不連結)いいえ(完全不連結)はい
開かつ閉集合からなる開基ありありなし
孤立点なしなしなし

$\mathcal{N}$ と $\mathcal{C}$ を分けるのはコンパクト性であり、$\mathcal{N}$ と $\mathbb{R}$ を分けるのは連結性と局所コンパクト性である。空でない Polish 空間で、開かつ閉集合からなる開基をもち、空でないコンパクトな開集合をもたないものは、すべて $\mathcal{N}$ と同相である(Alexandroff と Urysohn の定理。Eng89 Exercise 6.2.A(b)、p. 370 は「無理数全体と同相」の形で述べる。この記事では証明しない)。prop-baire-space-compact の 2 は、$\mathcal{N}$ がこの条件を満たすことを示している。

条件を外したときの反例

外す条件反例成り立たなくなること
成分の集合が無限であること(prop-baire-space-compact)$\mathcal{C}=\{0,1\}^{\mathbb{N}}$(成分が有限集合 $\{0,1\}$)コンパクト集合の内部が空であること($\mathcal{C}$ 自身がコンパクトな開集合)
完備性(prop-baire-space-compact の 3 で使う Baire のカテゴリー定理)有理数全体 $\mathbb{Q}$(可分距離化可能で、コンパクト集合はどれも内部が空)可算個のコンパクト集合の和として書けないこと($\mathbb{Q}$ は可算個の 1 点集合の和)
可分性(thm-baire-space-surjection)非可算集合に離散距離を入れた完備距離空間 $D$$\mathcal{N}$ の連続像であること(可分空間の連続像は可分だが、$D$ は可分でない)
閉集合であること(thm-baire-space-trees の 3)$\mathcal{N}\setminus\{\bar0\}$($\bar0$ はすべての項が $0$ の列)レトラクトであること(Hausdorff 空間のレトラクトは閉集合)

最後の行について:$r\colon\mathcal{N}\to A$ がレトラクションなら、$A=\{\alpha\mid r(\alpha)=\alpha\}$ は 2 つの連続写像 $r$ と $\mathrm{id}$ の一致集合なので、Hausdorff 空間 $\mathcal{N}$ の閉集合である(Hausdorff空間 の命題「連続写像の一致集合とグラフの閉性」)。$\bar0$ は $\mathcal{N}\setminus\{\bar0\}$ の閉包に入るので、この集合は閉でなくレトラクトでない。3 行目の「可分空間の連続像は可分」は 可分空間 の命題「連続写像による像」による。

補足

  • 記述集合論での役割:記述集合論は Polish 空間の「定義可能な」部分集合(Borel集合、解析集合、射影集合など)を調べる。thm-baire-space-surjection と thm-baire-space-trees により、多くの問いは $\mathcal{N}$ と木についての組合せ的な問いに帰着する。閉集合と木の対応は Mos09 2C.1(p. 58)にある。G_δ-集合 や F_σ-集合 の記事で述べる Borel 階層も、$\mathcal{N}$ の上で典型的に調べられる。
  • 無理数との同一視:Mos09 p. 9 は $\mathcal{N}$ が無理数全体と同相であることに触れ、$\mathcal{N}$ の点を無理数とよんでいる。
  • ゲームとの関係:$\mathcal{N}$ の点は、2 人が交互に自然数を出し合う無限ゲームの手順の記録とみなせる。$\mathcal{N}$ の部分集合を勝ちの条件とするゲームの決定性は記述集合論の中心的な主題である(Banach-Mazurゲーム)。

関連項目

参考文献

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