Hasse–Minkowskiの定理(Hasse–Minkowski theorem)とは、有理数係数の非退化な2次形式 $q$ が $(0,\dots,0)$ でない有理数の零をもつための必要十分条件は、実数体 $\mathbb{R}$ とすべての素数 $p$ についての $p$ 進数体 $\mathbb{Q}_p$ で零をもつことである、という定理である。各 $\mathbb{Q}_p$ での可解性は Hilbert 記号で計算でき、3 変数以上なら有限個の素数を除いて自動的に成り立つので、零の有無は有限回の計算で判定できる。証明は変数が 3 個なら降下法、4 個以上なら Hilbert 記号の積公式と算術級数の素数を使って少ない変数の場合に帰着させる。
前提知識: 2次形式, p進数体, ノルム剰余記号, Dirichletの算術級数定理
有理数係数の 2 次形式 $q$ について、$q=0$ が $(0,\dots,0)$ でない有理数解をもつかどうかは、無限に多くの候補を調べないと分からないように見える。Hasse–Minkowski の定理 は、これが実数体 $\mathbb R$ とすべての $p$ 進数体 $\mathbb Q_p$ での可解性だけで決まることを述べる。局所的な条件から大域的な解が出るという Hasse原理 のもっとも基本的な例であり、各 $\mathbb Q_p$ での可解性は Hilbert 記号の計算で判定できるので、2 次形式が有理数の零をもつかどうかは有限回の計算で決まる。
以下、$K$ は標数が $2$ でない体とする。$K^n$ 上の 2 次形式は、変数の可逆な 1 次変換で $a_1x_1^2+\dots+a_nx_n^2$ の形にできる(2次形式 の記事の定理「平方完成による対角化」)。この形を $\langle a_1,\dots,a_n\rangle$ と書き、すべての $a_i$ が $0$ でないとき 非退化 という。非退化であることは、対称行列の行列式が $0$ でないことと同じで、対角化の仕方によらない。2 つの形式 $q_1,q_2$ を別々の変数に並べたものを $q_1\oplus q_2$ と書く(たとえば $\langle a,b\rangle\oplus\langle c\rangle=\langle a,b,c\rangle$)。
$q$ を $K^n$ 上の非退化な 2 次形式とする。
可逆な 1 次変換や、変数を 0 でない定数倍することでは、表す元の集合も等方性も変わらない。$q$ の係数が $\mathbb Q$ にあれば、$\mathbb R$ や $\mathbb Q_p$ の上でも $q$ を考えられる。$\mathbb Q$ の 素点 とは素数 $p$ と記号 $\infty$ のことで、$\mathbb Q_\infty:=\mathbb R$ とおく(p進数体 の記事の系「$\mathbb Q$ の完備化」)。
$q$ を $\mathbb Q$ 係数の非退化な 2 次形式とする。$q$ が $\mathbb Q$ 上で等方的であるための必要十分条件は、すべての素点 $v$ について $q$ が $\mathbb Q_v$ 上で等方的であることである。
必要性は $\mathbb Q\subset\mathbb Q_v$ から明らかで、内容は十分性にある。3 変数の場合は Legendre の定理(2 次曲線の有理点の判定)にあたる(Mil21 Theorem 2.8、p. 22)。
$q$ を $\mathbb Q$ 係数の非退化な 2 次形式、$c\in\mathbb Q^\times$ とする。$q$ が $\mathbb Q$ 上で $c$ を表すための必要十分条件は、すべての素点 $v$ について $q$ が $\mathbb Q_v$ 上で $c$ を表すことである。
lem-hm-basic の 2 により、どの体 $K\supseteq\mathbb Q$ の上でも「$q$ が $c$ を表す」ことと「$q\oplus\langle-c\rangle$ が等方的」であることは同値である。$q\oplus\langle-c\rangle$ も非退化なので、thm-hm-main を当てればよい。$\square$
$\mathbb Q_p$ での可解性は「$p$ の冪を法とする合同式が、どの冪でも原始的な解をもつ」ことと同値である(rem-hm-congruence)。したがって定理は、「実数の解があり、どの法でも合同式の障害がないなら、有理数の解がある」と読める。証明は変数の個数で分かれる。2 変数は平方数の判定、3 変数は係数を小さくしていく降下法である。4 変数以上では、2 つの小さな形式が共通に表す有理数 $c$ を見つけて、変数の少ない場合へ帰着させる。4 変数の場合に $c$ を見つける段階で、すべての素点の Hilbert 記号を同時に指定できるという大域的な事実が要り、ここで Hilbert 記号の積公式と算術級数の素数の存在が使われる。
$K$ を標数 $2$ でない体、$q,q_1,q_2$ を $K$ 上の非退化な 2 次形式とする。
要点:$q(tv+w)=t^2q(v)+2tB(v,w)+q(w)$ で $q(v)=0$、$B(v,w)\ne0$ とすれば $t$ の 1 次式になり、すべての値をとる。2・3 はこれと、零の成分の場合分けから従う。
$q=\langle a_1,\dots,a_n\rangle$ とし、$B(x,y):=\sum_ia_ix_iy_i$ とおくと $q(tx+y)=t^2q(x)+2tB(x,y)+q(y)$ である。
1。$q(v)=0$、$v\ne0$ とし、$v_i\ne0$ となる $i$ をとる。$w:=e_i$(第 $i$ 単位ベクトル)とすると $B(v,w)=a_iv_i\ne0$ で、$q(tv+w)=2tB(v,w)+q(w)$ は $t\in K$ の 1 次式なので、$t$ を選べば任意の $c\in K$ に等しくできる。そのとき $tv+w\ne0$ である($w$ と $v$ が比例すれば $q(w)=0$ となるが $q(w)=a_i\ne0$)。
2。$q(x)=c$ なら $(x,1)$ は $q\oplus\langle-c\rangle$ の零である。逆に $q(x)-cy^2=0$、$(x,y)\ne0$ とする。$y\ne0$ なら $q(x/y)=c$ である。$y=0$ なら $q(x)=0$、$x\ne0$ なので $q$ は等方的で、1 により $c$ を表す。
3。$q_1(x)=c=q_2(y)$、$c\ne0$ なら $x\ne0$ で、$(x,y)$ は $q_1\oplus(-q_2)$ の零である。逆に $q_1(x)=q_2(y)$、$(x,y)\ne0$ とし、$c:=q_1(x)$ とおく。$c\ne0$ なら $x\ne0$、$y\ne0$ なのでよい。$c=0$ なら、$x\ne0$ のとき $q_1$ が等方的で、1 によりすべての元を表すので、$q_2$ が表す $0$ でない元(たとえば $q_2$ の対角係数)を $c$ にとればよい。$y\ne0$ のときも同様である。$\square$
素点 $v$ と $a,b\in\mathbb Q_v^\times$ について、$z^2=ax^2+by^2$ が $\mathbb Q_v$ に $(0,0,0)$ でない解をもつとき $(a,b)_v:=1$、もたないとき $(a,b)_v:=-1$ とおく。$v=p$ では ノルム剰余記号 の記事の 2 次の Hilbert 記号であり、$v=\infty$ では $a<0$ かつ $b<0$ のときだけ $-1$ である。次の性質を使う(同記事の命題「Hilbert記号の基本性質」の (i)(ii)(iv)(v)、系「$p$ 進数体の 2 次のHilbert記号($p$ は奇素数)」、定理「Hilbertの積公式(有理数体)」。$v=\infty$ では定義から直接確かめられる)。
$v$ を素点、$\alpha,\beta,\gamma,a,b,c\in\mathbb Q_v^\times$ とする。
要点:1 は係数を $-\gamma$ で割って $z^2=ax^2+by^2$ の形にするだけである。2 は 1 を $\langle a,b,-c\rangle$ に当て、(H1) で $(ac,bc)_v=(a,b)_v(c,-ab)_v$ と展開する。
1。$\alpha x^2+\beta y^2+\gamma z^2=0$ は $z^2=(-\alpha/\gamma)x^2+(-\beta/\gamma)y^2$ と同値で、$-\alpha/\gamma=(-\alpha\gamma)/\gamma^2$ は $-\alpha\gamma$ と同じ平方類にある($-\beta/\gamma$ も同様)。(H1) と記号の定義から主張を得る。
2。lem-hm-basic の 2 により、条件は $\langle a,b,-c\rangle$ の等方性と同値で、1 により $(ac,bc)_v=1$ と同値である。(H1) を使って展開すると $(ac,bc)_v=(a,b)_v(a,c)_v(c,b)_v(c,c)_v=(a,b)_v(c,a)_v(c,b)_v(c,-1)_v=(a,b)_v(c,-ab)_v$ である。値は $\pm1$ なので、これが $1$ であることは $(c,-ab)_v=(a,b)_v$ と同値である。$\square$
$p$ を奇素数とし、$q=\langle u_1,\dots,u_n\rangle$($n\ge3$)の係数のうち $u_1,u_2,u_3$ が $\mathbb Z_p^\times$ の元であるとする。このとき $q$ は $\mathbb Q_p$ 上で等方的である。
要点:鳩の巣原理で法 $p$ の零 $(x_0,y_0,1)$ を作り、第 3 変数について Hensel の補題で持ち上げる。
$\mathbb F_p$ の中で、$\{u_1x^2\}$ と $\{-u_3-u_2y^2\}$($x,y$ は $\mathbb F_p$ を動く)はどちらも $(p+1)/2$ 個の元からなる($p$ が奇数なので平方は $0$ と $(p-1)/2$ 個の元)。$(p+1)/2+(p+1)/2>p$ なので共通の元があり、$u_1x_0^2+u_2y_0^2+u_3\equiv0\pmod p$ となる $x_0,y_0\in\mathbb Z_p$ がある。$f(Z):=u_1x_0^2+u_2y_0^2+u_3Z^2$ は $Z=1$ を法 $p$ の根にもち、$f'(1)=2u_3\not\equiv0\pmod p$ なので単純根である。Henselの補題 の記事の定理「Hensel の補題:単純根の持ち上げ」により $f(z)=0$ となる $z\in\mathbb Z_p$ があり、$(x_0,y_0,z,0,\dots,0)$ が $q$ の零である。$\square$
$S$ を $\mathbb Q$ の素点の有限集合とする。
要点:$p$ 進の近さは中国剰余定理で、実数の近さは「$p$ と素な数の冪を分母とする有理数」の稠密性で同時にそろえる。2 は平方数の判定から従う。
1。$\infty\in S$ としてよく、$S=\{\infty,p_1,\dots,p_m\}$ とする。$k$ を大きくとり $D:=(p_1\cdots p_m)^k$ とすると $D\xi_{p_i}\in\mathbb Z_{p_i}$ である。$M$ を大きくとり、中国剰余定理 により $y_0\equiv D\xi_{p_i}\pmod{p_i^M}$($i=1,\dots,m$)となる整数 $y_0$ をとる。$x_0:=y_0/D$ は $|x_0-\xi_{p_i}|_{p_i}\le p_i^{k-M}$ を満たす。次に $p_1,\dots,p_m$ と異なる素数 $\ell$ をとる。$a/\ell^r$($a\in\mathbb Z$、$r\ge0$)の形の有理数は $\mathbb R$ で稠密なので、$N$ を大きな整数として、$|x_0+(p_1\cdots p_m)^Nu-\xi_\infty|< \varepsilon$ となるこの形の $u$ がとれる。$\xi:=x_0+(p_1\cdots p_m)^Nu$ とおく。$u$ は各 $p_i$ で整なので $|\xi-x_0|_{p_i}\le p_i^{-N}$ であり、$M,N$ を大きくとれば $\xi$ が求めるものである。
2。$v=\infty$ では、$c$ と同符号の $c'$ について $c'/c>0$ は平方数である。$v=p$ では、$|c'-c|_p\le p^{-3}|c|_p$ なら $c'/c\in1+p^3\mathbb Z_p$ であり、p進数体 の記事の系「平方数の判定と平方類」により($p$ が奇素数なら法 $p$ で $1$、$p=2$ なら法 $8$ で $1$ の単数なので)$c'/c$ は平方数である。$\square$
$a_1,\dots,a_m\in\mathbb Q^\times$ とし、$i=1,\dots,m$ と素点 $v$ ごとに $\varepsilon_{i,v}\in\{\pm1\}$ を与える。次の 3 条件を仮定する。
(i) $\varepsilon_{i,v}=1$ は有限個の組 $(i,v)$ を除いて成り立つ。
(ii) 各 $i$ について $\prod_v\varepsilon_{i,v}=1$ である。
(iii) 各素点 $v$ について、すべての $i$ で $(a_i,x_v)_v=\varepsilon_{i,v}$ となる $x_v\in\mathbb Q_v^\times$ がある。
このとき、すべての $i$ と $v$ で $(a_i,x)_v=\varepsilon_{i,v}$ となる $x\in\mathbb Q^\times$ がある。
(ii) は積公式 (H3) から必要であり、(i)(iii) も明らかに必要である。
要点:まず $S$ の上の記号を平方類の近似で自明にし、残りの素点の $-1$ を、それらの素数の積 $a$ と、$p\equiv a$(法 $8\prod\ell$)となる素数 $p$ の積 $ap$ で実現する。$p$ での記号は積公式で自動的に合う。
$a_i$ を平方数倍しても記号は変わらないので、$a_i$ は整数としてよい。$S:=\{\infty,2\}\cup\{p:p\mid a_1\cdots a_m\}$、$T:=\{v:\text{ある }i\text{ で }\varepsilon_{i,v}=-1\}$ とおく((i) により有限集合)。
段 1:$S$ の上ですべて $\varepsilon_{i,v}=1$ の場合。 このとき $T\cap S=\emptyset$ なので $T$ は $a_1\cdots a_m$ を割らない奇素数からなる。$a:=\prod_{\ell\in T}\ell$、$M:=8\prod_{\ell\in S,\ \ell\ne2,\infty}\ell$ とおくと $\gcd(a,M)=1$ であり、Dirichletの算術級数定理 により、$p\equiv a\pmod M$ を満たす素数 $p$ で $T$ に属さないものがある。$p\nmid M$ なので $p\notin S$ である。$x:=ap$ とおき、各 $v$ で $(a_i,x)_v=\varepsilon_{i,v}$ を確かめる。
$v=\infty$:$x>0$ なので $(a_i,x)_\infty=1=\varepsilon_{i,\infty}$。
$v=\ell\in S$ が奇素数:$x\equiv a^2\not\equiv0\pmod\ell$ なので $x$ は $\ell$ 進単数で、法 $\ell$ の平方数だから $\mathbb Q_\ell$ の平方数である(p進数体 の記事の系「平方数の判定と平方類」)。よって $(a_i,x)_\ell=1=\varepsilon_{i,\ell}$。$v=2$ でも $x\equiv a^2\equiv1\pmod8$ から同じである。
$v=\ell\notin S$、$\ell\ne p$:$a_i$ は $\ell$ 進単数で、$v_\ell(x)$ は $\ell\in T$ なら $1$、そうでなければ $0$ である。ノルム剰余記号 の記事の系「$p$ 進数体の 2 次のHilbert記号($p$ は奇素数)」により $(a_i,x)_\ell=\bigl(\frac{a_i}{\ell}\bigr)^{v_\ell(x)}$ である。$\ell\notin T$ なら値は $1=\varepsilon_{i,\ell}$。$\ell\in T$ なら、(iii) の $x_\ell$ についても同じ式 $\varepsilon_{i,\ell}=(a_i,x_\ell)_\ell=\bigl(\frac{a_i}{\ell}\bigr)^{v_\ell(x_\ell)}$ が成り立ち、ある $i$ で値が $-1$ なので $v_\ell(x_\ell)$ は奇数である。よって $\varepsilon_{i,\ell}=\bigl(\frac{a_i}{\ell}\bigr)=(a_i,x)_\ell$。
$v=p$:$p$ 以外のすべての素点で $(a_i,x)_v=\varepsilon_{i,v}$ が示せたので、(H3) と (ii) から $(a_i,x)_p=\varepsilon_{i,p}$ も従う。
段 2:一般の場合。 lem-hm-approx により、すべての $v\in S$ で $x'/x_v\in(\mathbb Q_v^\times)^2$ となる $x'\in\mathbb Q^\times$ がある($\xi_v:=x_v$ に十分近い有理数をとる)。$\eta_{i,v}:=\varepsilon_{i,v}(a_i,x')_v$ とおく。(H3) により $\eta$ も (i)(ii) を満たし、$y_v:=x_vx'$ とおくと (H1) により $(a_i,y_v)_v=\varepsilon_{i,v}(a_i,x')_v=\eta_{i,v}$ なので (iii) も満たす。$v\in S$ では $x_vx'=x'^2\cdot(x_v/x')$ は平方数なので $\eta_{i,v}=1$ である。段 1 により $(a_i,y)_v=\eta_{i,v}$ となる $y\in\mathbb Q^\times$ があり、$x:=x'y$ について $(a_i,x)_v=(a_i,x')_v\eta_{i,v}=\varepsilon_{i,v}$ である。$\square$
thm-hm-main の十分性を変数の個数 $n$ で示す。$q$ はすべての $\mathbb Q_v$ 上で等方的であるとする。係数を平方数倍しても等方性は変わらないので、必要なら係数は 0 でない整数とする。$n=1$ では $\langle a\rangle$ はどの体の上でも非等方的なので、仮定は満たされない。
$n=2$。 $q=\langle a_1,a_2\rangle$ が体 $K$ 上で等方的であることは、$d:=-a_2/a_1$ が $K$ の平方数であることと同値である。$d$ が $\mathbb R$ の平方数なら $d>0$、すべての $\mathbb Q_p$ の平方数なら各 $v_p(d)$ は偶数なので、$d=\prod_pp^{v_p(d)}$ は有理数の平方である。
$n=3$。 $q=\langle a_1,a_2,a_3\rangle$ を $a_3^{-1}$ 倍し、$x_1,x_2$ を定数倍すると、$q$ の等方性は
$$
f_{a,b}:=z^2-ax^2-by^2\qquad(a,b\text{ は平方因子をもたない }0\text{ でない整数})
$$
の等方性に帰着する。体 $K\supseteq\mathbb Q$ について次が成り立つ。$a$ が $K$ の平方数なら $f_{a,b}$ は等方的である($z=\sqrt a$、$x=1$、$y=0$)。そうでないとき、$f_{a,b}$ が等方的であることは $b\in N_K(a):=\{z^2-ax^2:z,x\in K\}\setminus\{0\}$ と同値であり($y\ne0$ なら $b=((z/y)^2-a(x/y)^2)$、$y=0$ なら $z^2=ax^2$ から $x=z=0$)、$N_K(a)$ は $K(\sqrt a)^\times$ の元のノルム全体として乗法群である。したがって
(★) $b,b'\in K^\times$ で $bb'\in N_K(a)$ なら、$f_{a,b}$ と $f_{a,b'}$ は $K$ 上で同時に等方的か同時に非等方的である($a$ が $K$ の平方数ならどちらも等方的である)。
$|a|+|b|$ についての帰納法で示す。$f_{a,b}$ と $f_{b,a}$ は変数の入れ替えで移り合うので $|a|\le|b|$ としてよい。
$|b|=1$ のとき、$a,b\in\{\pm1\}$ で、$f_{a,b}$ は $\mathbb R$ 上で等方的なので $a=b=-1$ ではない。$a=1$ なら $(z,x,y)=(1,1,0)$、$b=1$ なら $(1,0,1)$ が $\mathbb Q$ 上の零である。
$|b|\ge2$ のとき、まず $a$ が法 $|b|$ の平方剰余であることを示す。$b$ は平方因子をもたないので、中国剰余定理 により $b$ の各素因数 $p$ を法として示せばよい。$p\mid a$ なら $a\equiv0^2$ である。$p\nmid a$ のとき、$\mathbb Q_p$ 上の零を定数倍して $z,x,y\in\mathbb Z_p$ のどれかが単数であるようにとる。$p\mid b$ から $z^2\equiv ax^2\pmod p$ である。$p\mid x$ なら $p\mid z$ となり、$p^2\mid z^2-ax^2=by^2$ と $v_p(b)=1$ から $p\mid y$ となって矛盾する。よって $x$ は単数で、$a\equiv(z/x)^2\pmod p$ である。
そこで $t^2\equiv a\pmod b$、$|t|\le|b|/2$ となる整数 $t$ をとり、$t^2-a=bb'$($b'\in\mathbb Z$)とおく。$b'=0$ なら $a=t^2$ は平方数で、$f_{a,b}$ は $\mathbb Q$ 上で等方的である。$b'\ne0$ なら
$$
|b'|=\frac{|t^2-a|}{|b|}\le\frac{b^2/4+|b|}{|b|}=\frac{|b|}4+1< |b|
$$
である。$b'=b''s^2$($b''$ は平方因子をもたない整数、$s\in\mathbb Z$)と書くと $|b''|\le|b'|< |b|$ である。$bb'=t^2-a\in N_K(a)$ がどの $K\supseteq\mathbb Q$ でも成り立つので、(★) と $f_{a,b'}\simeq f_{a,b''}$($y$ を $s$ 倍する)により、$f_{a,b''}$ もすべての $\mathbb Q_v$ 上で等方的であり、また $f_{a,b''}$ が $\mathbb Q$ 上で等方的なら $f_{a,b}$ もそうである。$|a|+|b''|< |a|+|b|$ なので帰納法の仮定が使える。$\square$
$q=\langle a_1,a_2,a_3,a_4\rangle$ とし、$h_1:=\langle a_1,a_2\rangle$、$h_2:=\langle-a_3,-a_4\rangle$ とおくと $q=h_1\oplus(-h_2)$ である。各素点 $v$ で $q$ は等方的なので、lem-hm-basic の 3 により $h_1,h_2$ がともに表す $c_v\in\mathbb Q_v^\times$ があり、lem-hm-hilbert の 2 により
$$
(c_v,-a_1a_2)_v=(a_1,a_2)_v,\qquad (c_v,-a_3a_4)_v=(-a_3,-a_4)_v
$$
である。thm-hm-symbols を $m=2$、$a_1':=-a_1a_2$、$a_2':=-a_3a_4$、$\varepsilon_{1,v}:=(a_1,a_2)_v$、$\varepsilon_{2,v}:=(-a_3,-a_4)_v$ に当てる。(i)(ii) は (H3)、(iii) は $x_v:=c_v$ で満たされる。よって
$$
(c,-a_1a_2)_v=(a_1,a_2)_v,\qquad(c,-a_3a_4)_v=(-a_3,-a_4)_v\qquad(\text{すべての }v)
$$
となる $c\in\mathbb Q^\times$ がある。lem-hm-hilbert の 2 により $h_1$ と $h_2$ はすべての $\mathbb Q_v$ 上で $c$ を表し、lem-hm-basic の 2 により 3 変数の形式 $h_1\oplus\langle-c\rangle$、$h_2\oplus\langle-c\rangle$ はすべての $\mathbb Q_v$ 上で等方的である。prf-hm-low の $n=3$ の場合によりこれらは $\mathbb Q$ 上で等方的で、再び lem-hm-basic の 2 により $h_1,h_2$ は $\mathbb Q$ 上で $c$ を表す。lem-hm-basic の 3 により $q$ は $\mathbb Q$ 上で等方的である。$\square$
$n\ge5$ とし、$n-1$ 変数では定理が成り立つとする。$q=\langle a_1,\dots,a_n\rangle$($a_i\in\mathbb Z$)を $h:=\langle a_1,a_2\rangle$ と $g:=\langle-a_3,\dots,-a_n\rangle$($n-2\ge3$ 変数)で $q=h\oplus(-g)$ と書く。$S:=\{\infty,2\}\cup\{p:p\mid a_1\cdots a_n\}$ とおく。
$v\in S$ ごとに、lem-hm-basic の 3 により $h$ と $g$ がともに表す $c_v\in\mathbb Q_v^\times$ があり、$h(\xi_v)=c_v$ となる $\xi_v\in\mathbb Q_v^2$ がある。$h$ は連続なので、lem-hm-approx の 1(成分ごと)と 2 により、$\xi\in\mathbb Q^2$ を $\xi_v$ に十分近くとれば、$c:=h(\xi)$ はすべての $v\in S$ で $c\in c_v(\mathbb Q_v^\times)^2$ を満たす。とくに $c\ne0$ である。
$g\oplus\langle-c\rangle$ がすべての $\mathbb Q_v$ 上で等方的であることを示す。$v\in S$ では、$g$ は $c_v$ を表すので、変数を定数倍して平方類の等しい $c$ も表し、lem-hm-basic の 2 による。$v=p\notin S$ では、$p$ は奇素数で $-a_3,-a_4,-a_5$ は $p$ 進単数なので、lem-hm-unit により $g$ は等方的であり、lem-hm-basic の 1 により $c$ を表す。
$g\oplus\langle-c\rangle$ は $n-1$ 変数なので、帰納法の仮定により $\mathbb Q$ 上で等方的であり、lem-hm-basic の 2 により $g$ は $\mathbb Q$ 上で $c$ を表す。$h$ も $c=h(\xi)$ を表す($\xi\ne0$)ので、lem-hm-basic の 3 により $q$ は $\mathbb Q$ 上で等方的である。$\square$
これで thm-hm-main が示された。定理の主張は Voi21 Theorem 14.3.3(p. 223)にもある。この定理は任意の代数体の上でも成り立つ(Neu99 Chapter VI, §4 の Exercise 5 の後の注意、p. 385)。代数体の場合はこの記事では証明しない。
$3x^2+5y^2=7z^2$ は $(0,0,0)$ 以外の有理数解をもたない。lem-hm-hilbert の 1 により、$\langle3,5,-7\rangle$ が $\mathbb Q_v$ 上で等方的であることは $(21,35)_v=1$ と同値で、$v=3$ では $35$ が単数なので $(21,35)_3=\bigl(\frac{35}{3}\bigr)=\bigl(\frac23\bigr)=-1$ である。直接にも確かめられる:$\mathbb Z_3$ の解で成分のどれかが単数のものをとると、法 $3$ で $2y^2\equiv z^2$ となり、$2$ は法 $3$ の平方剰余でないので $y\equiv z\equiv0$、すると $9\mid3x^2$ から $3\mid x$ となって矛盾する。同じ計算で $v=7$ でも記号は $-1$ になり、それ以外の素点では $1$ である。
$5x^2+7y^2=13z^2$ を考える。$\langle5,7,-13\rangle$ の等方性は $(65,91)_v=1$ と同値である。$v\notin\{2,5,7,13\}$ では両方が単数なので (H2) により $1$、$v=\infty$ では両方が正なので $1$ である。$v=5$ では ノルム剰余記号 の記事の奇素数の公式により $(65,91)_5=\bigl(\frac{91}{5}\bigr)=\bigl(\frac15\bigr)=1$、同様に $(65,91)_7=\bigl(\frac{65}{7}\bigr)=\bigl(\frac27\bigr)=1$、$(65,91)_{13}=(-1)^{\frac{13-1}2}\bigl(\frac{5}{13}\bigr)\bigl(\frac{7}{13}\bigr)=1\cdot(-1)\cdot(-1)=1$ である($65=13\cdot5$、$91=13\cdot7$)。残る $v=2$ でも積公式 (H3) により $1$ になる。したがって thm-hm-main により有理数解があり、実際 $(x,y,z)=(3,1,2)$ は $45+7=52$ を満たす。
$x^2+y^2+z^2=7w^2$ は $\mathbb Q_2$ 上で $(0,0,0,0)$ 以外の解をもたない。成分のどれかが単数の $\mathbb Z_2$ の解をとる。$w$ が単数なら右辺は法 $8$ で $7$ だが、平方は法 $8$ で $0,1,4$ なので 3 つの平方の和は法 $8$ で $7$ にならない。$w$ が偶数なら $x^2+y^2+z^2\equiv0\pmod4$ から $x,y,z$ はすべて偶数となり矛盾する。よって $7$ は 3 つの有理数の平方の和でない(cor-hm-represent を使うまでもなく、$\mathbb Q_2$ で表せないことから従う)。これは Legendreの三平方定理 の除外される整数 $4^a(8b+7)$ の典型例である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 2 次の形式である | Selmer の 3 次曲線 $3x^3+4y^3+5z^3=0$ | すべての $\mathbb Q_v$ で零をもつのに $\mathbb Q$ で零をもたない |
| $\mathbb R$ でも零をもつ | $x^2+y^2+z^2+7w^2$ | すべての $\mathbb Q_p$ で等方的なのに $\mathbb Q$ 上で等方的でない |
| 有理数の範囲で解く | $x^2+11y^2=3$ の整数解 | $\mathbb R$ とすべての $\mathbb Z_p$ に解があるのに整数解がない |
1 行目は Tate–Shafarevich群 の記事の例「Selmer の 3 次曲線」による。2 行目:奇素数 $p$ では係数 $1,1,1$ が単数なので lem-hm-unit により等方的、$p=2$ では $-7\equiv1\pmod8$ が $\mathbb Q_2$ の平方数なので $(\sqrt{-7},0,0,1)$ が零である。$\mathbb R$ 上では正定値なので等方的でなく、したがって $\mathbb Q$ 上でも等方的でない(ここで外れるのは $\mathbb R$ の条件だけである)。3 行目は次のとおりである。
整数解がないこと:$y=0$ なら $x^2=3$、$|y|\ge1$ なら $11y^2>3$ となる。局所解:$\mathbb R$ では $(\sqrt3,0)$。$p\ne2,3,11$ では、$\{x^2\}$ と $\{3-11y^2\}$ が法 $p$ でそれぞれ $(p+1)/2$ 個なので $x_0^2\equiv3-11y_0^2$ となる $x_0,y_0$ があり、$x_0\not\equiv0$ なら $x$ について、$x_0\equiv0$ なら $11y_0^2\equiv3\not\equiv0$ なので $y$ について単純根になり、Henselの補題 で持ち上がる。$p=11$ では $3\equiv5^2\pmod{11}$ なので $y=0$、$x=\sqrt3\in\mathbb Z_{11}$。$p=3$ では $y=1$、$x^2=-8$ で、$-8\equiv1\pmod3$ は $\mathbb Z_3$ の平方数である。$p=2$ では $x=4$ とすると $11y^2=-13$、$y^2=-13/11$ で、$-13/11\equiv1\pmod8$ は $\mathbb Z_2$ の単数の平方数である。有理数解は $(1/2,1/2)$ のように存在し、cor-hm-represent と矛盾しない。
$q$ を整数係数の 2 次形式、$p$ を素数とする。$q$ が $\mathbb Q_p$ 上で等方的であることは、すべての $k\ge1$ について、$q(x)\equiv0\pmod{p^k}$ が成分のどれかが $p$ で割れない整数解 $x$ をもつことと同値である。
$\mathbb Q_p$ の零は定数倍して $\mathbb Z_p^n$ の原始的な(成分のどれかが単数の)ベクトルにでき、各成分を法 $p^k$ で整数に置き換えればよい。逆に、$A_k$ を $q(x)\equiv0\pmod{p^k}$ を満たす原始的な $x\in\mathbb Z_p^n$ の集合とすると、仮定から $A_k\ne\emptyset$ で、$A_k$ は $\mathbb Z_p^n$ のコンパクトな閉集合で減少する。よって $\bigcap_kA_k\ne\emptyset$ で、その元は $q$ の原始的な零である。
2 つの非退化な $\mathbb Q$ 係数の 2 次形式が $\mathbb Q$ 上で同値(可逆な 1 次変換で移り合う)であることは、すべての $\mathbb Q_v$ 上で同値であることと同値である(Voi21 Corollary 14.3.7、p. 225。cor-hm-represent と Witt の消去定理から変数の個数の帰納法で従う)。この記事ではこれを証明しない。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する