ノルム剰余記号

同義語:Hilbert記号ヒルベルト記号Hilbertの積公式norm residue symbolHilbert symbol

概要

ノルム剰余記号(norm residue symbol)とは、局所体 $K$ の有限次アーベル拡大 $L$ と $a\in K^\times$ に対し、局所相互写像による $a$ の像を $\operatorname{Gal}(L/K)$ の元 $(a,L/K)$ として書いたもので、これが恒等写像であることは $a$ が $L$ からのノルムであることと同値である。$K$ が $1$ の原始 $n$ 乗根を含むとき、$K(\sqrt[n]{b})$ で $\sqrt[n]{b}$ の動きを読むと、$1$ の $n$ 乗根に値をもつ Hilbert 記号 $(a,b)$ が得られる。これは $K^\times/(K^\times)^n$ 上の非退化な双乗法的写像で、$n=2$ では $z^2=ax^2+by^2$ の可解性を表す。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 局所類体論, Kummer理論, 局所体, Legendre記号

局所体 $K$ の有限次アーベル拡大 $L$ について、局所相互写像による $a\in K^\times$ の像を Galois 群の元として書いたものを ノルム剰余記号 $(a,L/K)$ という。名前は、$(a,L/K)$ が恒等写像になることと $a$ が $L$ からのノルムであることが同値であることを反映している(NSW20 Chapter III, §1, p. 153)。$K$ が $1$ の原始 $n$ 乗根を含むとき、ノルム剰余記号を Kummer 拡大 $K(\sqrt[n]{b})$ に適用し、$\sqrt[n]{b}$ がどの $1$ の $n$ 乗根倍に動くかを読むと、$1$ の $n$ 乗根に値をもつ Hilbert 記号 $(a,b)$ が得られる。Hilbert 記号は $K^\times/(K^\times)^n$ の上の非退化な双乗法的写像で、$n=2$ では「方程式 $z^2=ax^2+by^2$ が自明でない解をもつか」を表す。
この記事では、ノルム剰余記号と Hilbert 記号を定義し、Hilbert 記号の基本性質(双乗法性、ノルムとの関係、Steinberg の関係式、交代性、非退化性)を証明する。さらに、剰余標数が $n$ を割らない場合の明示公式と、$\mathbb{Q}_2$ での $n=2$ の公式を証明し、それらから有理数体についての Hilbert の積公式を平方剰余の相互法則から導く。

定義

ノルム剰余記号

この記事で 局所体 とは、離散付値について完備で剰余体が有限体である体をいう(局所体 の記事の定義「局所体」)。$K$ を局所体とし、$v_K$ を正規化された離散付値、$\pi$ を素元、$U_K$ を単数群、$q$ を剰余体の元の個数、$p$ を剰余体の標数とする。分離閉包 $K^{\mathrm{sep}}$ と、その中の $K$ の最大アーベル拡大 $K^{\mathrm{ab}}$ を固定する。局所相互写像 $\operatorname{rec}_K\colon K^\times\to\operatorname{Gal}(K^{\mathrm{ab}}/K)$ は 局所類体論 の記事の定理「局所相互法則」のもので、素元を不分岐拡大の算術的 Frobenius 元(剰余体で $x\mapsto x^q$ を引き起こす元)に写す正規化をとる。

ノルム剰余記号

$L\subseteq K^{\mathrm{sep}}$ を $K$ の有限次アーベル拡大、$a\in K^\times$ とする。
$$ (a,L/K):=\operatorname{rec}_K(a)|_L\in\operatorname{Gal}(L/K) $$
を $a$ の $L/K$ に関する ノルム剰余記号 という。

局所相互法則そのものは、この記事でも 局所類体論 の記事でも証明しない(所在は同記事の注意「局所相互法則の所在と正規化」)。この記事で使うのは次の性質である。

ノルム剰余記号の基本性質

$L/K$ を有限次アーベル拡大とする。
(i) $a\mapsto(a,L/K)$ は $K^\times$ から $\operatorname{Gal}(L/K)$ への全射準同型で、その核は $N_{L/K}(L^\times)$ である。とくに $(a,L/K)=\mathrm{id}_L$ であることと、$a$ が $L$ からのノルムであることは同値である。
(ii) $L\subseteq L'$ が有限次アーベル拡大なら $(a,L'/K)|_L=(a,L/K)$ である。
(iii) $L/K$ が不分岐なら、$(a,L/K)=\varphi_{L/K}^{\,v_K(a)}$ である($\varphi_{L/K}$ は Frobenius 元)。

(i) と (iii) は 局所類体論 の記事の定理「局所相互法則」の (ii) と (i)、(ii) は定義から従う。局所類体論 の記事の命題「不分岐拡大のノルム」は、(i) と (iii) が不分岐拡大では両立することを相互写像の存在を使わずに確かめている。記号の正規化には流儀があり、素元を幾何的 Frobenius 元に送る流儀では $(a,L/K)$ が $(a^{-1},L/K)$ に置き換わる。

Hilbert 記号

以下、$n\ge1$ を $K$ の標数で割り切れない整数とし、$K$ は $1$ の原始 $n$ 乗根を含む($\mu_n\subseteq K$)とする。このとき $b\in K^\times$ の $n$ 乗根 $\beta\in K^{\mathrm{sep}}$ について、$K(\beta)/K$ はアーベル拡大で、$\sigma\mapsto\sigma(\beta)/\beta$ は $\operatorname{Gal}(K(\beta)/K)$ から $\mu_n$ への単射準同型である(Kummer理論 の記事の補題「1 つの冪根の添加」)。$b$ の $n$ 乗根はすべて $\zeta\beta$($\zeta\in\mu_n$)の形なので、$K(\beta)$ は $\beta$ の選び方によらない。

Hilbert記号

$a,b\in K^\times$ とし、$\beta^n=b$ となる $\beta\in K^{\mathrm{sep}}$ をとる。
$$ (a,b)=(a,b)_{K,n}:=\frac{(a,K(\beta)/K)(\beta)}{\beta}\in\mu_n $$
を $a,b$ の($n$ 次の)Hilbert 記号 という。

$\sigma:=(a,K(\beta)/K)$ は $K$ を固定するので、$\beta$ を $\zeta\beta$($\zeta\in\mu_n\subseteq K$)に取り替えても $\sigma(\zeta\beta)/(\zeta\beta)=\sigma(\beta)/\beta$ であり、$(a,b)$ は $\beta$ の選び方によらない。Kummer 理論の言葉では、$(a,b)$ は Galois 群の元 $(a,K(\beta)/K)$ と $b$ の Kummer 対 $\langle(a,K(\beta)/K),b\rangle$ である(Kummer理論 の記事の定義「Kummer対」)。この定義は Neu99 Chapter V, §3 の Proposition (3.1)(p. 333)の形である。
$n=2$ なら $\mu_2=\{\pm1\}\subseteq K$ で、条件は $K$ の標数が $2$ でないことだけである。このとき prop-nrs-hilbert の (iii) により、$(a,b)=1$ であることと $a$ が $K(\sqrt b)$ からのノルムであること、すなわち $z^2=bx^2+ay^2$ が自明でない解をもつことが同値になる(四元数環 の記事の定理「分裂の判定」の 4 と 5)。したがって $n=2$ の Hilbert 記号は、四元数環 の記事の定義「Hilbert 記号の定義」のものと一致する。

Hilbert 記号の性質

Hilbert記号の基本性質

$a,a',b,b'\in K^\times$ とする。
(i) $(aa',b)=(a,b)(a',b)$、$(a,bb')=(a,b)(a,b')$ である。
(ii) $(a,b)$ は $a$ と $b$ の $K^\times/(K^\times)^n$ での類だけで決まる。
(iii) $(a,b)=1$ であることと、$a$ が $K(\sqrt[n]{b})$ からのノルムであることは同値である。
(iv) (Steinberg の関係式)$a\ne1$ なら $(a,1-a)=1$ であり、つねに $(a,-a)=1$ である。
(v) (交代性)$(a,b)(b,a)=1$ である。とくに $(a,a)=(a,-1)$ である。
(vi) (非退化性)すべての $b$ について $(a,b)=1$ なら $a\in(K^\times)^n$ であり、すべての $a$ について $(a,b)=1$ なら $b\in(K^\times)^n$ である。

(i)。 第 1 の等式は、prop-nrs-basic の (i) により $a\mapsto(a,K(\beta)/K)$ が準同型であることから従う。第 2 の等式:$\beta^n=b$、$\beta'^n=b'$ とし、$L:=K(\beta,\beta')$(アーベル拡大の合成なのでアーベル)、$\sigma:=(a,L/K)$ とおく。$\beta\beta'$ は $bb'$ の $n$ 乗根で、prop-nrs-basic の (ii) により $K(\beta)$、$K(\beta')$、$K(\beta\beta')$ への $\sigma$ の制限がそれぞれのノルム剰余記号である。よって
$$ (a,bb')=\frac{\sigma(\beta\beta')}{\beta\beta'}=\frac{\sigma(\beta)}{\beta}\cdot\frac{\sigma(\beta')}{\beta'}=(a,b)(a,b') $$
である。
(ii)。 (i) と、$(a,c^n)=(a,c)^n=1$、$(c^n,b)=(c,b)^n=1$($\mu_n$ の元の $n$ 乗は $1$)による。
(iii)。 $\sigma:=(a,K(\beta)/K)$ について、$(a,b)=1$ は $\sigma(\beta)=\beta$、すなわち $\sigma$ が $K(\beta)$ の上で恒等写像であることと同値で($K(\beta)$ は $\beta$ で生成される)、prop-nrs-basic の (i) によりこれは $a\in N_{K(\beta)/K}(K(\beta)^\times)$ と同値である。
(iv)。 まず、$b\in K^\times$、$\beta^n=b$、$L:=K(\beta)$、$x\in K$、$x^n\ne b$ について、$x^n-b\in N_{L/K}(L^\times)$ であることを示す。$\zeta$ を $1$ の原始 $n$ 乗根とすると $X^n-b=\prod_{i=0}^{n-1}(X-\zeta^i\beta)$ であり、各根 $\zeta^i\beta$ は $L$ を生成する($\zeta\in K$)ので、$K$ 上の最小多項式はどれも $d:=[L:K]$ 次である。$X^n-b$ を $K$ 上のモニック既約因子に $X^n-b=\prod_jf_j$ と分解し、$\gamma_j$ を $f_j$ の根とすると、$L=K(\gamma_j)$ の $K$ 上の埋め込みは $\gamma_j$ を $f_j$ の根に 1 対 1 に写すので、$N_{L/K}(x-\gamma_j)=f_j(x)$ である。$x^n\ne b$ なので $x-\gamma_j\ne0$ で、
$$ x^n-b=\prod_jf_j(x)=\prod_jN_{L/K}(x-\gamma_j)\in N_{L/K}(L^\times) $$
である。$x=1$、$b=1-a$ とすると $a=1-(1-a)$ は $K(\sqrt[n]{1-a})$ からのノルムなので、(iii) により $(a,1-a)=1$ である。$x=0$、$b=-a$ とすると $a=0-(-a)$ は $K(\sqrt[n]{-a})$ からのノルムなので $(a,-a)=1$ である。
(v)。 (iv) と (i) により
$$ 1=(ab,-ab)=(a,-ab)(b,-ab)=(a,-a)(a,b)(b,a)(b,-b)=(a,b)(b,a) $$
である。最後の主張は、(i)(iv) から $(a,a)=(a,-1)(a,-a)=(a,-1)$ となることである。
(vi)。 前半:局所類体論の存在定理 の記事の系「冪の群は開で指数有限」により $K^\times/(K^\times)^n$ は有限群なので、代表 $b_1,\dots,b_r$ をとる。すべての $b$ で $(a,b)=1$ なら、(iii) により $a$ は各 $K(\sqrt[n]{b_i})$ からのノルムである。これらの合成は $K$ にすべての元の $n$ 乗根を添加した体 $L$ であり、局所類体論 の記事の命題「ノルム群と拡大の対応」の (i) により $a\in\bigcap_iN_{K(\sqrt[n]{b_i})}=N_{L/K}(L^\times)$ である。局所類体論の存在定理 の記事の命題「最大のKummer拡大のノルム群」により $N_{L/K}(L^\times)=(K^\times)^n$ である。後半:$\beta^n=b$ とする。prop-nrs-basic の (i) により $a\mapsto(a,K(\beta)/K)$ は $\operatorname{Gal}(K(\beta)/K)$ の上への写像なので、すべての $a$ で $(a,b)=1$ なら $\operatorname{Gal}(K(\beta)/K)$ のすべての元が $\beta$ を固定し、$\beta\in K$、すなわち $b\in(K^\times)^n$ である。$\square$

(ii) と (vi) により、Hilbert 記号は有限群 $K^\times/(K^\times)^n$ の上の非退化な双乗法的写像
$$ K^\times/(K^\times)^n\times K^\times/(K^\times)^n\longrightarrow\mu_n $$
を与える。これらの性質は Neu99 Chapter V, Proposition (3.2)(p. 334)にまとめられている。(iv) の Steinberg の関係式は、Hilbert 記号が Milnor K群 $K_2(K)/n$ を経由することを意味する(NSW20 Chapter VI, §4, p. 356)。

直感

ノルム剰余記号は「$a$ がノルムであるかどうか」を 0 か 1 かではなく Galois 群の元として測る。$a$ がノルムに近いほど、$(a,L/K)$ は恒等写像に近い。Hilbert 記号はこれを Kummer 拡大に限って数値化したもので、$\sqrt[n]{b}$ を $a$ に対応する Galois 群の元で動かしたときの回転角を $1$ の $n$ 乗根として読む。相互写像は乗法的で、Kummer 対は Galois 群の側で乗法的なので、2 つの変数それぞれについて乗法的になる。

明示公式

剰余標数が $n$ を割らない場合

剰余体の標数 $p$ が $n$ を割らないとき($n$ は $q-1$ の約数になる。$\mu_n\subseteq K$ の元は剰余体の $1$ の $n$ 乗根に単射に写るので)、Hilbert 記号は剰余体の中の計算で決まる。単数 $u\in U_K$ について、$\omega(u)$ を $u$ の Teichmüller 代表元、すなわち $\omega(u)^{q-1}=1$、$\omega(u)\equiv u\pmod{\pi}$ となる $K$ のただ 1 つの元とする(局所体 の記事の命題「Teichmüller代表元」)。$\omega(u)\omega(u')$ は $\mu_{q-1}(K)$ の元で $uu'$ に合同なので、一意性から $\omega(uu')=\omega(u)\omega(u')$ であり、$\omega$ は $U_K$ から $\mu_{q-1}(K)$ への準同型である。

剰余標数が $n$ を割らない場合のHilbert記号

$p\nmid n$ とし、$a,b\in K^\times$、$\alpha:=v_K(a)$、$\beta:=v_K(b)$ とする。このとき
$$ (a,b)=\omega\!\left((-1)^{\alpha\beta}\,\frac{b^{\alpha}}{a^{\beta}}\right)^{(q-1)/n} $$
である(右辺の括弧の中は付値が $\alpha\beta-\beta\alpha=0$ の単数である)。

右辺を $h(a,b)$ と書く。$c(a,b):=(-1)^{v_K(a)v_K(b)}b^{v_K(a)}a^{-v_K(b)}$ は各変数について乗法的なので(たとえば $c(aa',b)=(-1)^{(\alpha+\alpha')\beta}b^{\alpha+\alpha'}(aa')^{-\beta}=c(a,b)c(a',b)$)、$h$ も各変数について乗法的である。prop-nrs-hilbert の (i) により $(a,b)$ も同様なので、$K^\times=\pi^{\mathbb{Z}}\times U_K$ から、$a,b$ が素元 $\pi$ か単数の場合に一致を示せばよい。$u,u'\in U_K$ とする。
単数の $n$ 乗根は不分岐拡大に入る。 $\beta_0^n=u'$ とする。$q$ と $n(q-1)$ は互いに素なので $q^m\equiv1\pmod{n(q-1)}$ となる $m\ge1$ があり、$K_m$ を $m$ 次の不分岐拡大とすると、剰余体 $k_m$ の乗法群は位数 $q^m-1$ の巡回群で、$u'$ の剰余類 $\bar u'$($\bar u'^{\,q-1}=1$)は $\bar u'^{\,(q^m-1)/n}=1$ を満たすので $k_m$ の $n$ 乗である。$\bar u'=\bar w^n$ となる $w\in U_{K_m}$ をとると $u'/\omega(w)^n\in U_{K_m}^{(1)}$ であり、局所類体論の存在定理 の記事の補題「1に近い単数の冪」($p\nmid n$ なので $d=0$、$s=1$)によりこれは $U_{K_m}^{(1)}$ の元の $n$ 乗である。よって $u'$ は $K_m$ で $n$ 乗根をもち、$\mu_n\subseteq K$ なので $\beta_0\in K_m$、すなわち $K(\beta_0)/K$ は不分岐である。
$(u,u')=1=h(u,u')$。 $K(\beta_0)/K$ は不分岐なので単数はすべてノルムであり(局所類体論 の記事の命題「不分岐拡大のノルム」の (a))、prop-nrs-hilbert の (iii) により $(u,u')=1$ である。$c(u,u')=1$ なので $h(u,u')=1$ である。
$(\pi,u)=\omega(u)^{(q-1)/n}=h(\pi,u)$。 $\beta_0^n=u$ とし、$F:=K(\beta_0)$(不分岐)とする。prop-nrs-basic の (iii) により $\sigma:=(\pi,F/K)$ は Frobenius 元で、$\mathcal{O}_F$ の元 $x$ について $\sigma(x)\equiv x^q$($F$ の極大イデアルを法として)を満たす(不分岐拡大と完全分岐拡大 の記事の定理「不分岐拡大の存在と一意性」の 3)。$\beta_0$ は単数なので $(\pi,u)=\sigma(\beta_0)/\beta_0\equiv\beta_0^{q-1}=u^{(q-1)/n}$ である。$(\pi,u)$ と $\omega(u)^{(q-1)/n}$ はどちらも $\mu_{q-1}(K)$ の元で、法 $\pi$ で $u^{(q-1)/n}$ に合同であり、還元は $\mu_{q-1}(K)$ の上で単射なので(同じ Teichmüller の命題の 2)、両者は等しい。$c(\pi,u)=u$ なので $h(\pi,u)=\omega(u)^{(q-1)/n}$ である。
$(u,\pi)$ と $(\pi,\pi)$。 prop-nrs-hilbert の (v) により $(u,\pi)=(\pi,u)^{-1}=\omega(u)^{-(q-1)/n}$ で、$c(u,\pi)=u^{-1}$ から $h(u,\pi)$ に等しい。また $(\pi,\pi)=(\pi,-1)=\omega(-1)^{(q-1)/n}$ で、$c(\pi,\pi)=-1$ から $h(\pi,\pi)$ に等しい。$\square$

この公式は Neu99 Chapter V, Proposition (3.4)(p. 335)である。$b=u$ が単数、$a=\pi$ のとき $(\pi,u)=1$ は、$u$ の剰余類が剰余体の $n$ 乗であることと同値である($\bar u^{(q-1)/n}=1$ と同値なので)。

$p$ 進数体の 2 次のHilbert記号($p$ は奇素数)

$p$ を奇素数、$a=p^{\alpha}u$、$b=p^{\beta}v$($u,v\in\mathbb{Z}_p^\times$)とすると、$\mathbb{Q}_p$ の 2 次の Hilbert 記号は
$$ (a,b)_p=(-1)^{\alpha\beta\frac{p-1}2}\left(\frac up\right)^{\beta}\left(\frac vp\right)^{\alpha} $$
である。ここで単数 $u$ の $\left(\frac up\right)$ は $u$ の法 $p$ の剰余類の Legendre記号 である。

thm-nrs-tame で $K=\mathbb{Q}_p$、$\pi=p$、$q=p$、$n=2$ とすると、$c(a,b)=(-1)^{\alpha\beta}v^{\alpha}u^{-\beta}$ である。$\omega(w)^{(p-1)/2}$ は $\pm1$ で、法 $p$ で $w^{(p-1)/2}$ に合同なので、Euler の規準(Legendre記号 の記事の公式「Legendre 記号の計算規則」の (iii))により $\left(\frac wp\right)$ に等しい。Legendre 記号は乗法的で $\left(\frac{u^{-1}}p\right)=\left(\frac up\right)$、$\left(\frac{-1}p\right)=(-1)^{(p-1)/2}$ なので、主張を得る。$\square$

$\mathbb{Q}_2$ の 2 次の Hilbert 記号

$u\in\mathbb{Z}_2^\times$ について、$\varepsilon(u)\in\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ を $u\equiv1\pmod4$ なら $0$、$u\equiv3\pmod4$ なら $1$ とし、$\omega_2(u)\in\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ を $u\equiv\pm1\pmod8$ なら $0$、$u\equiv\pm3\pmod8$ なら $1$ とする(有理整数 $u$ ではそれぞれ $\frac{u-1}2$、$\frac{u^2-1}8$ の偶奇である)。$\varepsilon$ は $(\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})^\times\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ を、$\omega_2$ は $(\mathbb{Z}/8\mathbb{Z})^\times/\{\pm1\}\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ を経由するので、どちらも準同型 $\mathbb{Z}_2^\times\to\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ である。

$\mathbb{Q}_2$ の 2 次のHilbert記号

$a=2^{\alpha}u$、$b=2^{\beta}v$($u,v\in\mathbb{Z}_2^\times$)とすると、
$$ (a,b)_2=(-1)^{\varepsilon(u)\varepsilon(v)+\alpha\,\omega_2(v)+\beta\,\omega_2(u)} $$
である。

右辺を $h(a,b)$ と書く。$\varepsilon$、$\omega_2$ が準同型なので $h$ は各変数について乗法的で、$a$ を平方倍しても $\alpha$ の偶奇と $\varepsilon(u)$、$\omega_2(u)$ は変わらない(単数の平方は法 $8$ で $1$)。左辺も prop-nrs-hilbert の (i)(ii) により同じ性質をもつ。$\mathbb{Q}_2^\times/(\mathbb{Q}_2^\times)^2$ は $-1,5,2$ で生成される(p進数体 の記事の系「平方数の判定と平方類」の 2:代表元は $\pm1,\pm5,\pm2,\pm10$)。$n=2$ では値が $\pm1$ なので prop-nrs-hilbert の (v) から $(a,b)=(b,a)$ であり、$h$ も対称なので、次の 6 組で一致を確かめればよい。左辺は、$(a,b)=1$ と「$z^2=ax^2+by^2$ が $(0,0,0)$ でない解をもつこと」の同値(def-nrs-hilbert の後の段落)で求める。

  • $(-1,2)$:$(x,y,z)=(1,1,1)$ で $-1+2=1$。値 $1$。右辺:$\varepsilon(-1)\varepsilon(1)=0$、$\alpha=0$、$\beta\,\omega_2(-1)=0$ で $1$。
  • $(-1,5)$:$(1,1,2)$ で $-1+5=4$。値 $1$。右辺:$\varepsilon(5)=0$ で $1$。
  • $(2,2)$:$(1,1,2)$ で $2+2=4$。値 $1$。右辺:$u=v=1$ で $1$。
  • $(5,5)$:$(1,2,5)$ で $5+20=25$。値 $1$。右辺:$\varepsilon(5)=0$、$\alpha=\beta=0$ で $1$。
  • $(-1,-1)$:$x^2+y^2+z^2=0$ の解を、$x,y,z\in\mathbb{Z}_2$ のどれかが奇数となるようにとる。奇数の平方は法 $8$ で $1$、偶数の平方は $0$ か $4$ なので、奇数の個数を $k\in\{1,2,3\}$ とすると和は法 $4$ で $k\not\equiv0$ となり矛盾する。値 $-1$。右辺:$\varepsilon(-1)^2=1$ で $-1$。
  • $(2,5)$:$2x^2+5y^2=z^2$ の解を、$x,y,z\in\mathbb{Z}_2$ のどれかが奇数となるようにとる。$z$ が偶数なら、法 $4$ で $5y^2\equiv0$ から $y$ は偶数、さらに $2x^2\equiv0$ から $x$ も偶数で矛盾する。よって $z^2\equiv1\pmod8$ である。$y$ が偶数なら左辺は偶数で矛盾するので $y$ は奇数で $5y^2\equiv5$、$2x^2\equiv0$ または $2\pmod 8$ なので、左辺は法 $8$ で $5$ か $7$ となり矛盾する。値 $-1$。右辺:$\alpha=1$、$\omega_2(5)=1$ で $-1$。$\square$

この公式は Neu99 Chapter V, Theorem (3.6)(p. 337)である。

例

2 次拡大のノルム剰余記号

$d\in K^\times$ が平方でなく、$K$ の標数が $2$ でないとき、$L=K(\sqrt d)$ について、定義から
$$ (a,L/K)(\sqrt d)=(a,d)\sqrt d $$
である。$K=\mathbb{Q}_p$($p$ は奇素数)、$u$ を法 $p$ で平方でない単数とすると、cor-nrs-qp により、不分岐拡大 $\mathbb{Q}_p(\sqrt u)$ では $(a,u)_p=(-1)^{v_p(a)}$ で、$(a,\mathbb{Q}_p(\sqrt u)/\mathbb{Q}_p)$ は Frobenius 元の $v_p(a)$ 乗である。分岐する $\mathbb{Q}_p(\sqrt p)$ では $(a,p)_p=(-1)^{\alpha\frac{p-1}2}\left(\frac{u_a}p\right)$($a=p^{\alpha}u_a$)で、たとえば $\mathbb{Q}_3(\sqrt3)$ について $(-1,3)_3=\left(\frac{-1}3\right)=-1$、$(3,3)_3=(3,-1)_3=-1$、$(-3,3)_3=1$ である。したがって $\mathbb{Q}_3(\sqrt3)/\mathbb{Q}_3$ のノルム群は $-3$ と平方で生成される指数 $2$ の部分群であり、局所類体論 の記事の例「$\mathbb{Q}_p$ の 2 次拡大」の計算と一致する。

3 次の Hilbert 記号

$K=\mathbb{Q}_7$、$n=3$ とする。$7\equiv1\pmod3$ なので $\mu_3\subseteq\mathbb{Q}_7$ である($\mathbb{Q}_7$ は $1$ の $6$ 乗根をすべて含む。局所体 の記事の命題「Teichmüller代表元」)。thm-nrs-tame により $(7,2)=\omega(2)^{2}$ であり、これは法 $7$ で $2^2=4$ に合同な $1$ の $3$ 乗根である。$4\not\equiv1\pmod7$ なので $(7,2)\ne1$ であり、prop-nrs-hilbert の (iii) により $7$ は $\mathbb{Q}_7(\sqrt[3]{2})$ からのノルムでない。これは $2$ が法 $7$ で立方剰余でない(法 $7$ の立方は $\pm1$ だけ)ことに対応している。

Hilbert の積公式

有理数体の各素点での Hilbert 記号を掛け合わせると $1$ になる。これが Hilbert の積公式で、有理数体の場合は平方剰余の相互法則と補充法則の言い換えである。実数体では、$a,b\in\mathbb{R}^\times$ について $(a,b)_\infty:=-1$($a<0$ かつ $b<0$ のとき)、$(a,b)_\infty:=1$(それ以外)とおく。これは $z^2=ax^2+by^2$ が $\mathbb{R}$ で自明でない解をもつかどうかを表し、各変数について乗法的である。

Hilbertの積公式(有理数体)

$a,b\in\mathbb{Q}^\times$ とし、$v$ がすべての素数と $\infty$ を動くとする。$(a,b)_v$($v=p$ では $\mathbb{Q}_p$ の 2 次の Hilbert 記号)は有限個の $v$ を除いて $1$ であり、
$$ \prod_v(a,b)_v=1 $$
である。

$a,b$ の分子と分母を割らない奇素数 $p$ では、$a,b$ は $p$ 進単数なので cor-nrs-qp により $(a,b)_p=1$ である。よって積は有限積である。各 $(\cdot,\cdot)_v$ は各変数について乗法的で対称なので(prop-nrs-hilbert の (i)(v))、両辺は $a,b$ について乗法的であり、$a,b$ が $-1$ または素数の場合に示せばよい。$q\ne r$ を奇素数とする。値が $1$ でない可能性のある $v$ だけを書く(それ以外の $v$ では両方が単数で、$v=\infty$ では一方が正である)。

  • $(-1,-1)$:$(-1,-1)_\infty=-1$、thm-nrs-q2 により $(-1,-1)_2=-1$。積は $1$。
  • $(-1,2)$:$(-1,2)_2=(-1)^{\beta\,\omega_2(-1)}=1$。積は $1$。
  • $(2,2)$:$(2,2)_2=1$($u=v=1$)。積は $1$。
  • $(-1,q)$:$(-1,q)_2=(-1)^{\varepsilon(-1)\varepsilon(q)}=(-1)^{(q-1)/2}$、cor-nrs-qp により $(-1,q)_q=\left(\frac{-1}q\right)$。積は第 1 補充法則により $1$ である。
  • $(2,q)$:$(2,q)_2=(-1)^{\omega_2(q)}=(-1)^{(q^2-1)/8}$、$(2,q)_q=\left(\frac2q\right)$。積は第 2 補充法則により $1$ である。
  • $(q,q)$:各 $v$ で $(q,q)_v=(q,-1)_v=(-1,q)_v$ なので、$(-1,q)$ の場合に帰着する。
  • $(q,r)$:$(q,r)_2=(-1)^{\varepsilon(q)\varepsilon(r)}=(-1)^{\frac{q-1}2\cdot\frac{r-1}2}$、$(q,r)_q=\left(\frac rq\right)$、$(q,r)_r=\left(\frac qr\right)$。積は平方剰余の相互法則により $1$ である。
    補充法則と相互法則は 平方剰余の相互法則 の記事の定理「補充法則」と定理「平方剰余の相互法則」である。$\square$

逆に、積公式を $a,b\in\{-1,2,q,r\}$ に適用すれば、上の計算を逆にたどって相互法則と補充法則が得られる。一般の代数体 $K\supseteq\mu_n$ の $n$ 次の Hilbert 記号についても、すべての素点にわたる積が $1$ になる(Neu99 Chapter VI, Theorem (8.1), p. 414。この記事では証明しない)。これは大域類体論の相互法則の帰結で、$n$ 乗剰余の相互法則の一般形である(大域類体論)。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
$\mu_n\subseteq K$$K=\mathbb{Q}_5$、$n=3$、$a=5$、$b=2$$(a,b)$ が $n$ 乗根 $\beta$ の選び方によらないこと
剰余標数が $n$ を割らない(thm-nrs-tame)$K=\mathbb{Q}_2$、$n=2$、$a=b=-1$単数どうしの Hilbert 記号が $1$ であること
$K$ が局所体$\mathbb{Q}$ 上で $z^2=ax^2+by^2$ の可解性で定めた記号双乗法性 $(a,bb')=(a,b)(a,b')$
$K$ の標数が $n$ を割らない$K=\mathbb{F}_p(\!(t)\!)$、$n=p$、$b=t$$K(\sqrt[n]{b})/K$ が Galois 拡大であること
反例の確認

2 行目は thm-nrs-q2 の $(-1,-1)_2=-1$ で、$-1$ はどちらも単数だが、$\mathbb{Q}_2(\sqrt{-1})/\mathbb{Q}_2$ は分岐しているので単数がすべてノルムになるとは限らない。4 行目では $X^p-t=(X-t^{1/p})^p$ は重根をもち、$K(t^{1/p})/K$ は分離的でない(Kummer理論 の記事の例「反例の確認」の 4 と同じ)。1 行目と 3 行目は次のとおりである。

1 行目と 3 行目の確認を開く

1 行目:$\mathbb{Q}_5$ に含まれる $1$ の冪根は $1$ の $4$ 乗根だけなので(p進数体 の記事の系「$\mathbb Q_p^\times$ の構造」の後の段落)、$\mu_3\not\subseteq\mathbb{Q}_5$ である。$X^3-2$ は法 $5$ で単純根 $3$ をもつ($3^3=27\equiv2$、$3\cdot3^2=27\not\equiv0$)ので、Henselの補題 の記事の定理「Hensel の補題:単純根の持ち上げ」により $c^3=2$ となる $c\in\mathbb{Z}_5$ がある。$\beta=c$ を選ぶと $K(\beta)=K$ で、定義の式の値は $1$ である。$\beta=c\zeta_3$($\zeta_3$ は $1$ の原始 $3$ 乗根)を選ぶと、$K(\beta)=\mathbb{Q}_5(\zeta_3)$ は $2$ 次の不分岐拡大($\mu_3\subseteq\mu_{5^2-1}$)で、$(5,K(\beta)/K)$ は Frobenius 元であり、$\zeta_3\mapsto\zeta_3^5=\zeta_3^2$ と働く。よって値は $\zeta_3^2\cdot c/(\zeta_3c)=\zeta_3\ne1$ で、$\beta$ の選び方によって値が変わる。

3 行目:$\mathbb{Q}$ 上で $z^2=ax^2+by^2$ が自明でない解をもつとき $[a,b]:=1$、もたないとき $[a,b]:=-1$ とおく。$\mathbb{Q}$ で解があれば $\mathbb{Q}_p$ でも解があるので、$(a,b)_p=-1$ となる $p$ があれば $[a,b]=-1$ である。cor-nrs-qp により $(-1,3)_3=\left(\frac{-1}3\right)=-1$、$(-1,7)_7=\left(\frac{-1}7\right)=-1$、$(-1,21)_3=\left(\frac{-1}3\right)=-1$($21=3\cdot7$、$\beta=1$、$v=7$)なので、$[-1,3]=[-1,7]=[-1,21]=-1$ である。よって $[-1,21]\ne[-1,3][-1,7]$ であり、$\mathbb{Q}$ 上では双乗法性が成り立たない。

補足

記号の順序と正規化

この記事の Hilbert 記号は Neu99 の定義に合わせ、第 1 変数をノルム剰余記号に、第 2 変数を $n$ 乗根に入れた。第 1 変数と第 2 変数を入れ替えて定義する文献もあるが、prop-nrs-hilbert の (v) により、入れ替えると値は逆数になるだけである。$n=2$ では値が $\pm1$ なので違いはない。相互写像を幾何的 Frobenius 元の正規化で定めた場合も、値は逆数になる。コホモロジーの言葉では、Hilbert 記号は Kummer 写像 $K^\times/(K^\times)^n\cong H^1(K,\mu_n)$ による 2 つの類のカップ積を $H^2(K,\mu_n^{\otimes2})$ に置き、不変量で読んだものと符号を除いて一致する(符号を含めた正確な形は NSW20 Corollary (7.2.13), p. 386。この記事では証明しない)。

$n=2$ の Hilbert 記号は、四元数環 $(a,b)_K$ の Brauer 群の類の不変量を表す。四元数環 の記事の系「四元数環と Hilbert 記号」により $(a,b)=1$ は $(a,b)_K$ が分裂することと同値であり、局所体のBrauer群 の記事の系「周期と指数の一致」により、$(a,b)=-1$ なら $(a,b)_K$ はただ 1 つの四元数斜体で、不変量は $1/2$ である。
局所相互写像の具体的な値として、$\mathbb{Q}_p(\zeta_{p^r})/\mathbb{Q}_p$ では $a=p^ku$($u\in\mathbb{Z}_p^\times$)について $(a,\mathbb{Q}_p(\zeta_{p^r})/\mathbb{Q}_p)(\zeta_{p^r})=\zeta_{p^r}^{\,u^{-1}}$ となることが知られている(Neu99 Chapter V, Theorem (2.4), p. 331。この記事では証明しない)。その核が $p^{\mathbb{Z}}\times(1+p^r\mathbb{Z}_p)$ であることは、局所類体論の存在定理 の記事の例「$\mathbb{Q}_p(\zeta_{p^r})$ のノルム群」と整合する。一般の局所体での同じ形の公式は Lubin–Tate理論 が与える。

関連項目

参考文献

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