完全性定理(命題論理)

同義語:命題論理の完全性定理completeness theorem for propositional logicpropositional completeness theorem

概要

完全性定理(命題論理)(completeness theorem for propositional logic)とは、論理式の集合 $\Gamma$ と論理式 $\varphi$ について、$\Gamma$ を真にするどの付値でも $\varphi$ が真であること($\Gamma\models\varphi$)と、$\varphi$ が $\Gamma$ から導出できること($\Gamma\vdash\varphi$)が同値であるという定理である。3 つの公理図式と前件肯定からなる Hilbert 流の体系では、導出できない式の否定を加えた無矛盾な集合を極大無矛盾集合に広げ、所属から付値を読み取って証明できる。恒真式については、真理値表の各行から導出を組み立てる Kalmár の方法もある。またコンパクト性定理が従い、有限個の前提から導出できるかは真理値表の有限の計算で判定できる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 命題論理, Hilbert流の証明体系, 無矛盾性

命題論理の式が正しいかどうかは、2 つのまったく違うやり方で確かめられる。1 つは真理値表で、命題変数の真偽のすべての組み合わせについて式の値を計算する。もう 1 つは形式的な証明で、決まった公理から推論規則だけを使って式を導く。完全性定理(命題論理)は、この 2 つが一致すること、すなわち前提の集合 $\Gamma$ から $\varphi$ が論理的に帰結するなら、$\varphi$ は $\Gamma$ から実際に導出できることを主張する。逆向き(導出できれば帰結する)は健全性とよばれ、両者を合わせると「真理値で正しい」と「証明できる」が同じ意味になる。
この記事では、3 つの公理図式と前件肯定だけからなる Hilbert 流の体系 $\mathbf H_0$ について、前提の集合が無限でもよい形の完全性定理を証明する。証明は 2 通り与える。1 つは極大無矛盾集合から付値を直接読み取る方法、もう 1 つは真理値表の各行に対応する導出を組み立てる Kalmár の方法である。帰結としてコンパクト性と、導出可能性が有限の計算で判定できることを導く。

設定

論理式は、命題変数 $p_0,p_1,p_2,\dots$ から $\lnot$ と $\to$ だけで作ったものとし、$\land,\lor$ は略記とする(Hilbert流の証明体系 の記事の節「論理式」)。付値、恒真式、論理的帰結 $\Gamma\models\varphi$ は 命題論理 の記事の定義「付値と真理値」「恒真式・充足可能性・論理的帰結」による。$\Gamma$ のすべての元を真にする付値があるとき、$\Gamma$ は 充足可能 である。
証明体系 $\mathbf H_0$ は、次の公理図式のすべての実例を公理とし、前件肯定(MP:$\psi$ と $\psi\to\chi$ から $\chi$ を導く)だけを推論規則とする(Hilbert流の証明体系 の記事の定義「体系 H₀ と H₀′」)。

  • (A1) $\varphi\to(\psi\to\varphi)$
  • (A2) $(\varphi\to(\psi\to\chi))\to((\varphi\to\psi)\to(\varphi\to\chi))$
  • (A3) $(\lnot\psi\to\lnot\varphi)\to((\lnot\psi\to\varphi)\to\psi)$
    $\Gamma\vdash\varphi$ は、論理式の集合 $\Gamma$ から $\varphi$ への $\mathbf H_0$ の導出(各行が公理か $\Gamma$ の元か、前の 2 行から MP で得られる有限列)があることを表す。
健全性と完全性

命題論理の証明体系が

  1. 健全 であるとは、すべての $\Gamma,\varphi$ について $\Gamma\vdash\varphi$ ならば $\Gamma\models\varphi$ であることをいう。
  2. 完全(強い意味で完全)であるとは、すべての $\Gamma,\varphi$ について $\Gamma\models\varphi$ ならば $\Gamma\vdash\varphi$ であることをいう。
  3. 弱い意味で完全 であるとは、すべての恒真式 $\varphi$ について $\vdash\varphi$ であることをいう。

弱い意味の完全性は、2 で $\Gamma=\emptyset$ とした場合である。2 は無限集合 $\Gamma$ を前提とする場合も含むので、3 から 2 を導くには別の議論が要る(後の rem-pc-weak-to-strong で、3 にコンパクト性を合わせると 2 が出ることを見る)。

完全性定理(命題論理)

論理式の集合 $\Gamma$ と論理式 $\varphi$ について
$$ \Gamma\vdash\varphi\iff\Gamma\models\varphi. $$
とくに、$\vdash\varphi$ であることと $\varphi$ が恒真式であることは同値である。

定理の 2 つの向き

$\Rightarrow$ が健全性、$\Leftarrow$ が完全性である。健全性は prop-pc-soundness、完全性は節「完全性の証明」で証明する。この定理は Bil03 Theorem 4.1・4.12(pp. 15–16)にある。

直感

導出は有限の記号操作なので、「真理値表で正しい式をすべて導ける」ことは自明ではない。完全性の証明の考え方は、対偶をとって「導出できないなら、前提を真にして結論を偽にする付値がある」ことを示すことである。導出できない $\varphi$ について $\Gamma\cup\{\lnot\varphi\}$ は矛盾しないので、これを「どの式についても、それ自身か否定のどちらかを含む」ところまで広げる。広げた集合は、属する式を真、属さない式を偽と読むと、ちょうど 1 つの付値の真理値表になっている。

健全性

健全性

$\Gamma\vdash\varphi$ ならば $\Gamma\models\varphi$ である。

まず (A1)〜(A3) の実例はどれも恒真式である。付値 $v$ を任意にとる。

  • (A1):$v(\varphi)=\mathrm{T}$ なら $v(\psi\to\varphi)=\mathrm{T}$ なので、全体は真である。
  • (A2):$v(\varphi\to(\psi\to\chi))=v(\varphi\to\psi)=\mathrm{T}$ とし、$v(\varphi\to\chi)=\mathrm{T}$ を示せばよい。$v(\varphi)=\mathrm{T}$ なら $v(\psi)=\mathrm{T}$ と $v(\psi\to\chi)=\mathrm{T}$ から $v(\chi)=\mathrm{T}$ である。
  • (A3):$v(\lnot\psi\to\lnot\varphi)=v(\lnot\psi\to\varphi)=\mathrm{T}$ で $v(\psi)=\mathrm{F}$ とすると、$v(\lnot\psi)=\mathrm{T}$ から $v(\lnot\varphi)=v(\varphi)=\mathrm{T}$ となって矛盾する。よって $v(\psi)=\mathrm{T}$ である。
    $v$ が $\Gamma$ のすべての元を真にするとき、導出 $\varphi_1,\dots,\varphi_n$ の各行が $v$ で真であることを $i$ に関する帰納法で示す。公理は恒真式、$\Gamma$ の元は仮定により真であり、$\varphi_i$ が $\varphi_j$ と $\varphi_j\to\varphi_i$ から MP で得られるなら、両者が真なので $\varphi_i$ も真である。最後の行 $\varphi$ も真であり、$\Gamma\models\varphi$ である。$\square$

健全性により、導出できないことは付値を 1 つ示せば証明できる。たとえば $\{p\to q,\ q\}\vdash p$ ではない。$p$ を偽、$q$ を真にする付値が前提をすべて真にし、$p$ を偽にするからである。

無矛盾性の道具

論理式の集合 $\Gamma$ が 矛盾する とは、ある $\varphi$ について $\Gamma\vdash\varphi$ かつ $\Gamma\vdash\lnot\varphi$ であることをいい、矛盾しないとき 無矛盾 という。無矛盾な $\Gamma$ で、$\Gamma$ を真に含む論理式の集合がどれも矛盾するものを 極大無矛盾 という(無矛盾性 の記事の定義「無矛盾性」を $\mathbf H_0$ に当てはめたもの)。
$\mathbf H_0$ では 演繹定理「$\Gamma\cup\{\psi\}\vdash\chi\iff\Gamma\vdash\psi\to\chi$」が成り立つ(Bil03 Theorem 3.8、p. 13)。証明は 一階論理の証明体系 の記事の定理「一階論理の演繹定理」と同じで、(A1)・(A2) と MP しか使わない(Hilbert流の証明体系 の記事の例「二重否定の除去」の直前の段落)。

無矛盾性についての基本事項

論理式 $\varphi,\psi,\chi$ と論理式の集合 $\Gamma$ について次が成り立つ。

  1. (爆発律)$\{\varphi,\lnot\varphi\}\vdash\chi$。
  2. $\Gamma\vdash\varphi$ であることと $\Gamma\cup\{\lnot\varphi\}$ が矛盾することは同値である。$\Gamma\vdash\lnot\varphi$ であることと $\Gamma\cup\{\varphi\}$ が矛盾することは同値である。
  3. $\Gamma$ が矛盾するなら、$\Gamma$ のある有限部分集合が矛盾する。
  4. (Lindenbaum の補題)無矛盾な $\Gamma$ は、ある極大無矛盾集合 $\Delta\supset\Gamma$ に含まれる。
  5. 極大無矛盾集合 $\Delta$ について、(a) $\Delta\vdash\varphi$ ならば $\varphi\in\Delta$、(b) $\varphi$ と $\lnot\varphi$ のちょうど一方が $\Delta$ に属する、(c) $(\varphi\to\psi)\in\Delta$ は「$\varphi\notin\Delta$ または $\psi\in\Delta$」と同値。

1〜5 は、一階論理の Hilbert 流の体系 $\mathbf H$ について 無矛盾性 の記事が証明している。1 は補題「矛盾からの導出」、2 は命題「証明可能性と無矛盾性」の 1・2、3 は命題「矛盾の言い換え」の 3、4 は定理「Lindenbaum の補題」、5 は命題「極大無矛盾集合の性質」である。
それらの証明で使われているのは、(A1)・(A3) の実例、MP、演繹定理、$\{\lnot\lnot\varphi\}\vdash\varphi$、導出の基本性質(反射性・単調性・有限性・推移性)、Zorn の補題だけである。$\mathbf H_0$ の (A1)〜(A3) は $\mathbf H$ の (A1)〜(A3) と同じ形であり、$\mathbf H_0$ の導出も前の行だけを参照する有限列なので導出の基本性質が成り立つ。演繹定理は上で述べたとおり成り立ち、$\{\lnot\lnot\varphi\}\vdash\varphi$ は Hilbert流の証明体系 の記事の例「二重否定の除去」が $\mathbf H_0$ で導出している。したがって同じ証明が、一階の論理式を命題論理の論理式に読み替えて $\mathbf H_0$ でそのまま通る。$\square$

ここでは命題変数が可算個なので、論理式も可算個であり、4 は Zorn の補題を使わずに示せる。論理式を $\varphi_0,\varphi_1,\dots$ と並べ、$\Gamma_0:=\Gamma$ から始めて、$\Gamma_n\cup\{\varphi_n\}$ が無矛盾ならそれを、そうでなければ $\Gamma_n\cup\{\lnot\varphi_n\}$ を $\Gamma_{n+1}$ とし、和集合をとればよい(2 から一方は無矛盾であり、3 から和集合も無矛盾である)。

完全性の証明

極大無矛盾集合 $\Delta$ に対し、命題変数 $p$ について
$$ v_\Delta(p):=\begin{cases}\mathrm{T}&(p\in\Delta),\\ \mathrm{F}&(p\notin\Delta)\end{cases} $$
と定めた付値を $v_\Delta$ とする。

真理補題

$\Delta$ を極大無矛盾集合とする。すべての論理式 $\varphi$ について
$$ v_\Delta(\varphi)=\mathrm{T}\iff\varphi\in\Delta. $$

$\varphi$ の組み立てに関する帰納法で示す。
命題変数 $p$ のときは $v_\Delta$ の定義そのものである。
$\varphi=\lnot\psi$ のとき:
$$ v_\Delta(\lnot\psi)=\mathrm{T}\iff v_\Delta(\psi)=\mathrm{F}\iff\psi\notin\Delta\iff\lnot\psi\in\Delta. $$
2 つ目の同値は帰納法の仮定、3 つ目は lem-pc-tools の 5 (b) による。
$\varphi=\psi\to\chi$ のとき:
$$ v_\Delta(\psi\to\chi)=\mathrm{T}\iff\bigl(v_\Delta(\psi)=\mathrm{F}\text{ または }v_\Delta(\chi)=\mathrm{T}\bigr)\iff\bigl(\psi\notin\Delta\text{ または }\chi\in\Delta\bigr)\iff(\psi\to\chi)\in\Delta. $$
2 つ目の同値は $\psi,\chi$ についての帰納法の仮定、3 つ目は lem-pc-tools の 5 (c) による。$\square$

無矛盾性と充足可能性

論理式の集合 $\Gamma$ について、$\Gamma$ が無矛盾であることと、$\Gamma$ が充足可能であることは同値である。

$\Gamma$ を付値 $v$ が充足するとする。$\Gamma\vdash\varphi$ かつ $\Gamma\vdash\lnot\varphi$ なら、健全性(prop-pc-soundness)により $v(\varphi)=v(\lnot\varphi)=\mathrm{T}$ となり、これは起こらない。よって $\Gamma$ は無矛盾である。
逆に $\Gamma$ が無矛盾なら、lem-pc-tools の 4 により極大無矛盾集合 $\Delta\supset\Gamma$ がある。lem-pc-truth により $v_\Delta$ は $\Delta$ のすべての元を真にするので、とくに $\Gamma$ を充足する。$\square$

対偶をとって付値を作る

$\Rightarrow$ は prop-pc-soundness である。
$\Leftarrow$ を対偶で示す。$\Gamma\vdash\varphi$ でないとする。lem-pc-tools の 2 により $\Gamma\cup\{\lnot\varphi\}$ は無矛盾である。prop-pc-model-existence により、$\Gamma\cup\{\lnot\varphi\}$ を充足する付値 $v$ がある。$v$ は $\Gamma$ のすべての元を真にし、$v(\lnot\varphi)=\mathrm{T}$ なので $v(\varphi)=\mathrm{F}$ である。よって $\Gamma\models\varphi$ ではない。$\square$

証明の中心は真理補題である。極大無矛盾集合は、どの式についてもそれ自身か否定のどちらかを含み(5 (b))、含意について真理値表どおりに振る舞う(5 (c))。そのため命題変数の所属だけで決めた付値が、すべての式の所属と一致する。一階述語論理では、存在命題 $\exists x\,\psi$ を含んでも証人となる元が用意されているとは限らないので、この読み取りがそのままでは働かず、新しい定数記号を加える工夫が要る(Gödelの完全性定理 の記事の補題「モデル存在定理(可算言語)」)。
極大無矛盾集合と付値は、ちょうど 1 対 1 に対応する。

極大無矛盾集合と付値の対応

付値 $v$ に対し $\Delta_v:=\{\varphi\mid v(\varphi)=\mathrm{T}\}$ とおく。$v\mapsto\Delta_v$ と $\Delta\mapsto v_\Delta$ は、付値の全体と極大無矛盾集合の全体の間の互いに逆な全単射である。

$\Delta_v$ は $v$ で充足されるので、prop-pc-model-existence により無矛盾である。$\psi\notin\Delta_v$ なら $v(\lnot\psi)=\mathrm{T}$ で $\lnot\psi\in\Delta_v$ なので、$\Delta_v\cup\{\psi\}$ は $\psi$ と $\lnot\psi$ を含んで矛盾する。よって $\Delta_v$ は極大無矛盾である。
$v_{\Delta_v}(p)=\mathrm{T}\iff p\in\Delta_v\iff v(p)=\mathrm{T}$ なので $v_{\Delta_v}=v$ である。また lem-pc-truth により $\varphi\in\Delta\iff v_\Delta(\varphi)=\mathrm{T}\iff\varphi\in\Delta_{v_\Delta}$ なので $\Delta_{v_\Delta}=\Delta$ である。$\square$

この対応は Bil03 Problem 4.6(p. 16)の内容を含む。命題論理では、「付値」という意味の側の対象と、「極大無矛盾集合」という証明の側の対象が同じものの 2 つの見え方になっている。

Kalmár による構成的な証明

上の証明は、導出できない場合に付値を作るもので、導出できる場合に導出そのものは示さない。恒真式については、真理値表の各行から導出を組み立てる方法がある。付値 $v$ と論理式 $\varphi$ について
$$ \varphi^v:=\begin{cases}\varphi&(v(\varphi)=\mathrm{T}),\\ \lnot\varphi&(v(\varphi)=\mathrm{F})\end{cases} $$
とおく。$\varphi^v$ はいつも $v$ で真である。

Kalmár の補題

論理式 $\varphi$ に現れる命題変数が相異なる $q_1,\dots,q_n$ の中にあるとし、$v$ を付値とする。このとき
$$ \{q_1^v,\dots,q_n^v\}\vdash\varphi^v. $$

$\Gamma_v:=\{q_1^v,\dots,q_n^v\}$ とおき、$\varphi$ の組み立てに関する帰納法で示す。導出をつなぐときは推移性を断らずに使う。
命題変数. $\varphi=q_i$ なら $\varphi^v=q_i^v\in\Gamma_v$ である。
否定. $\varphi=\lnot\psi$ とする。$v(\psi)=\mathrm{F}$ なら $v(\varphi)=\mathrm{T}$ で、$\varphi^v=\lnot\psi=\psi^v$ である。帰納法の仮定 $\Gamma_v\vdash\psi^v$ がそのまま求める式である。$v(\psi)=\mathrm{T}$ なら $\varphi^v=\lnot\lnot\psi$ で、帰納法の仮定は $\Gamma_v\vdash\psi$ である。$\{\psi\}\cup\{\lnot\psi\}$ は矛盾するので、lem-pc-tools の 2 の後半(論理式 $\lnot\psi$ に当てはめる)により $\{\psi\}\vdash\lnot\lnot\psi$ であり、$\Gamma_v\vdash\lnot\lnot\psi$ を得る。
含意. $\varphi=\psi\to\chi$ とし、3 つの場合に分ける。

  • $v(\psi)=\mathrm{F}$ のとき:$\varphi^v=\varphi$ で、帰納法の仮定は $\Gamma_v\vdash\lnot\psi$ である。爆発律(lem-pc-tools の 1)により $\{\lnot\psi,\psi\}\vdash\chi$ なので、演繹定理により $\{\lnot\psi\}\vdash\psi\to\chi$ である。
  • $v(\chi)=\mathrm{T}$ のとき:$\varphi^v=\varphi$ で、帰納法の仮定は $\Gamma_v\vdash\chi$ である。(A1) の実例 $\chi\to(\psi\to\chi)$ と MP で $\Gamma_v\vdash\psi\to\chi$ を得る。
  • $v(\psi)=\mathrm{T}$、$v(\chi)=\mathrm{F}$ のとき:$\varphi^v=\lnot(\psi\to\chi)$ で、帰納法の仮定は $\Gamma_v\vdash\psi$、$\Gamma_v\vdash\lnot\chi$ である。$\{\psi,\lnot\chi,\psi\to\chi\}$ からは MP で $\chi$ が導出でき、$\lnot\chi$ も前提なので、この集合は矛盾する。lem-pc-tools の 2 の後半により $\{\psi,\lnot\chi\}\vdash\lnot(\psi\to\chi)$ であり、$\Gamma_v\vdash\lnot(\psi\to\chi)$ を得る。$\square$

場合分けの規則を 1 つ用意する。

場合分け

$\Gamma\cup\{\psi\}\vdash\varphi$ かつ $\Gamma\cup\{\lnot\psi\}\vdash\varphi$ ならば、$\Gamma\vdash\varphi$ である。

lem-pc-tools の 2 により、$\Gamma\cup\{\lnot\varphi\}$ が矛盾することを示せばよい。$\Gamma\cup\{\lnot\varphi\}\cup\{\psi\}$ からは $\varphi$ と $\lnot\varphi$ が導出できるので矛盾し、2 の後半により $\Gamma\cup\{\lnot\varphi\}\vdash\lnot\psi$ である。同様に $\Gamma\cup\{\lnot\varphi\}\cup\{\lnot\psi\}$ は矛盾し、2 の前半により $\Gamma\cup\{\lnot\varphi\}\vdash\psi$ である。よって $\Gamma\cup\{\lnot\varphi\}$ は矛盾する。$\square$

恒真式の導出の構成

恒真式 $\varphi$ について $\vdash\varphi$ である。

$\varphi$ に現れる命題変数を $q_1,\dots,q_n$ とする。$m=n,n-1,\dots,0$ の順に、次の主張を示す。
$(\ast)_m$:すべての付値 $v$ について $\{q_1^v,\dots,q_m^v\}\vdash\varphi$。
$m=n$ のとき:$\varphi$ は恒真式なので $\varphi^v=\varphi$ であり、lem-pc-kalmar そのものである。
$(\ast)_m$ から $(\ast)_{m-1}$($m\ge1$):付値 $v$ をとり、$q_m$ だけを真に変えた付値を $v^+$、偽に変えた付値を $v^-$ とする。$i< m$ では $q_i^{v^\pm}=q_i^v$ なので、$\Gamma:=\{q_1^v,\dots,q_{m-1}^v\}$ とおくと、$(\ast)_m$ を $v^+,v^-$ に当てはめて
$$ \Gamma\cup\{q_m\}\vdash\varphi,\qquad\Gamma\cup\{\lnot q_m\}\vdash\varphi $$
を得る。lem-pc-cases により $\Gamma\vdash\varphi$ である。
$(\ast)_0$ は $\vdash\varphi$ である。$\square$

この証明の各段は、演繹定理や lem-pc-tools の 1・2 の証明が与える具体的な導出の変形でできている。したがって、真理値表の $2^n$ 行それぞれについて Kalmár の補題の導出を作り、場合分けで $n$ 回まとめれば、$\varphi$ の導出が実際に書き下せる。導出の長さは $n$ について指数的に増える。

弱い完全性から強い完全性へ

thm-pc-kalmar-completeness は $\Gamma=\emptyset$ の場合だけを述べている。これに コンパクト性定理(命題論理) の記事の系「帰結の有限性」($\Gamma\models\varphi$ なら有限部分集合 $\{\gamma_1,\dots,\gamma_k\}\subset\Gamma$ で $\{\gamma_1,\dots,\gamma_k\}\models\varphi$)を合わせると、thm-pc-main の $\Leftarrow$ がもう一度得られる。実際、付値の計算から $\gamma_1\to(\gamma_2\to\cdots(\gamma_k\to\varphi)\cdots)$ は恒真式なので、thm-pc-kalmar-completeness によりこれが導出でき、前提 $\gamma_1,\dots,\gamma_k$ と MP を $k$ 回使えば $\Gamma\vdash\varphi$ となる。コンパクト性は付値だけを使って証明されているので(同記事の節「証明」)、この議論は循環しない。

帰結

コンパクト性

論理式の集合 $\Gamma$ が充足可能であることと、$\Gamma$ のすべての有限部分集合が充足可能であることは同値である。

充足可能なら有限部分集合も同じ付値で充足される。逆に $\Gamma$ が充足可能でないとすると、prop-pc-model-existence により $\Gamma$ は矛盾し、lem-pc-tools の 3 によりある有限部分集合 $\Gamma_0$ が矛盾する。再び prop-pc-model-existence により $\Gamma_0$ は充足可能でない。$\square$

付値だけを使った別の証明が コンパクト性定理(命題論理) の記事の節「証明」にある。こちらの証明では、「導出は有限個の前提しか使わない」という構文の側の有限性が、完全性を通して意味の側の有限性に移されている。

導出できるかどうかの判定

有限集合 $\Gamma$ と論理式 $\varphi$ について、$\Gamma\vdash\varphi$ かどうかは、$\Gamma\cup\{\varphi\}$ に現れる命題変数への真偽の割り振り($k$ 個なら $2^k$ 通り)を調べ尽くすことで判定できる。

thm-pc-main により $\Gamma\vdash\varphi\iff\Gamma\models\varphi$ である。論理式の真理値は現れる命題変数の値だけで決まる(命題論理 の記事の補題「現れる変数だけで値が決まる」)。したがって $\Gamma\models\varphi$ は、$\Gamma\cup\{\varphi\}$ に現れる $k$ 個の命題変数の $2^k$ 通りの値それぞれで、$\Gamma$ の元がすべて真なのに $\varphi$ が偽になる場合がないかを調べれば判定できる。$\square$

導出を探すだけでは、見つからないときに「まだ見つかっていない」のか「存在しない」のかが分からない。完全性定理は、導出の存在という無限の探索を要する問いを、有限の表の計算に置き換える。理論についてのこの種の問いは 決定可能な理論 の記事で扱う。
また、健全かつ完全な証明体系はどれも、導出できる式の全体が恒真式の全体に一致する。命題論理 の記事の定理「健全性と完全性」が扱うシーケント計算と $\mathbf H_0$ は、規則の形がまったく違うが、同じ式を証明する。

例

Peirce の法則

$\vdash((p\to q)\to p)\to p$ である。付値 $v$ で $v(p)=\mathrm{T}$ なら全体は真である。$v(p)=\mathrm{F}$ なら $v(p\to q)=\mathrm{T}$ なので $v((p\to q)\to p)=\mathrm{F}$ となり、全体はやはり真である。よってこの式は恒真式で、thm-pc-main により $\mathbf H_0$ で導出できる。導出を書き下さなくても、真理値表の 2 行を調べるだけで導出の存在が分かる。導出そのものが必要なら、thm-pc-kalmar-completeness の証明に従って $p,q$ の 4 通りの値から組み立てられる。

無限個の前提

$\Gamma:=\{p_0\}\cup\{p_{2i}\to p_{2i+2}\mid i\ge0\}$ とする。各 $n$ について $\Gamma\vdash p_{2n}$ であり、実際 $p_0$ から MP を $n$ 回使えばよい。一方、$\Gamma\vdash p_1$ ではない。偶数番の $p_{2i}$ をすべて真、それ以外を偽にする付値が $\Gamma$ を充足し、$p_1$ を偽にするからである。
thm-pc-main は、無限集合 $\Gamma$ についても、$\Gamma$ から導出できる式の全体が $\Gamma$ を充足する付値の全体で決まることを述べている。$\Gamma$ を充足する付値は $p_0,p_2,p_4,\dots$ をすべて真にするものに限られ、奇数番の変数は自由に動ける。したがって $\Gamma\vdash\varphi$ であることは、「偶数番の変数をすべて真にするどの付値でも $\varphi$ が真」であることと同値である。たとえば $p_1\to p_4$ は導出でき、$p_4\to p_1$ は導出できない。

反例:条件を外すと成り立たない

外す条件反例成り立たなくなること
公理 (A3)(thm-pc-main)(A1)・(A2) と MP だけの体系恒真式 $\lnot\lnot p\to p$ の導出(完全性)
推論規則 MP(thm-pc-main)(A1)〜(A3) の実例だけを定理とし、規則をもたない体系恒真式 $p\to p$ の導出(完全性)
論理式が有限の長さ(thm-pc-main の $\Gamma$ が無限の場合)可算個の論理式の連言 $\bigwedge_{i}p_i$ を許した言語と、有限個の前提しか使わない健全な体系$\{p_0,p_1,\dots\}\models\bigwedge_i p_i$ の導出(強い完全性)
反例の確かめ

1 行目:(A1)・(A2) と MP だけでは $\lnot\lnot p\to p$ が導出できないことは、Hilbert流の証明体系 の記事の例「反例:表の各行の確認」の 2 で示されている。否定をつねに真と解釈する 2 値の表で、(A1)・(A2) は恒に真で MP は真を保つが、$p$ を偽にすると $\lnot\lnot p\to p$ は偽になる。
2 行目:規則がないので、導出できる式は公理だけである。$p\to p$ は (A1) の実例ではない。(A1) の実例 $\varphi\to(\psi\to\varphi)$ の後件は $\to$ を含むが、$p\to p$ の後件 $p$ は命題変数だからである。(A2) の実例の前件は $\varphi\to(\psi\to\chi)$、(A3) の実例の前件は $\lnot\psi\to\lnot\varphi$ の形で、どちらも含意だが、$p\to p$ の前件 $p$ は含意でない。よって $p\to p$ は公理でなく、導出できない。
3 行目:付値 $v$ について $v(\bigwedge_ip_i)=\mathrm{T}$ を「すべての $i$ で $v(p_i)=\mathrm{T}$」と定める。$\{p_0,p_1,\dots\}$ を充足する付値は $\bigwedge_ip_i$ を真にするので、帰結は成り立つ。一方、有限部分集合 $\Gamma_0$ からの導出があれば、健全性により $\Gamma_0\models\bigwedge_ip_i$ となるが、$\Gamma_0$ に現れない $p_m$ を偽、残りを真にする付値は $\Gamma_0$ を充足して $\bigwedge_ip_i$ を偽にする。よってどの有限部分集合からも導出できず、有限個の前提しか使わない健全な体系はこの帰結を導出できない。この反例が崩しているのは無限集合 $\Gamma$ を前提とする強い形であり、その原因はコンパクト性が成り立たないことにある(コンパクト性定理(命題論理) の記事の例「反例:無限の長さの論理式を許す」)。

補足

ほかの証明体系

完全性定理は特定の公理系に依存しない形で述べられるが、証明は体系ごとに必要である。命題論理 の記事の定理「健全性と完全性」は、どの規則も可逆なシーケント計算について、妥当なシーケントの導出を下から組み立てて完全性を示している。そこでは前提は有限集合で、無限集合の場合はコンパクト性と合わせて得られる。自然演繹 の記事の定理「Hilbert 流の導出は自然演繹に移せる」は、$\lnot,\to$ だけで作った論理式について $\mathbf H_0$ の導出を自然演繹の導出に移している。これを thm-pc-main と合わせると、$\lnot,\to$ だけで作った論理式について、$\Gamma\models\varphi$ なら自然演繹でも $\varphi$ が $\Gamma$ から導ける。

「完全」という語

「完全」には、この記事の 証明体系の完全性(帰結がすべて導出できる)のほかに、理論の完全性(どの文についても、文かその否定が導出できる)という別の意味がある(完全な理論)。命題論理の完全性定理は前者である。一階述語論理での前者が Gödelの完全性定理 であり、後者が成り立たないことを述べるのが Gödelの不完全性定理 である。

関連項目

参考文献

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