一様有界性原理

同義語:一様有界性の原理Banach–Steinhausの定理uniform boundedness principleprinciple of uniform boundedness

概要

一様有界性原理(uniform boundedness principle)とは、Banach 空間からノルム空間への有界線形写像の族が各点で有界、すなわち各 $x$ で $\sup_T\|Tx\|<\infty$ ならば、作用素ノルムも一様に有界、すなわち $\sup_T\|T\|<\infty$ であるという定理である。証明は Baire のカテゴリー定理による。系として、各点で収束する有界線形写像の列の極限は有界線形写像になる。定義域の完備性と線形性は外せない。応用として、Fourier 級数がある点で発散する連続関数の存在が、関数を具体的に作らずに示される。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Banach空間, Baireのカテゴリー定理, Lp空間

何を主張する定理か

有界線形写像の族 $\{T\}$ について、「各点 $x$ ごとに値 $Tx$ の大きさが有界」という条件と、「作用素ノルム $\|T\|$ が一様に有界」という条件を比べる。後者なら $\|Tx\|\le(\sup_T\|T\|)\|x\|$ なので前者が従う。前者は点ごとの条件で、有界になる度合いは点によって違ってよいので、一般には後者よりずっと弱く見える。一様有界性原理は、定義域が完備なノルム空間(Banach 空間)なら、この 2 つが同値であることを主張する。
有限次元ではこれはほぼ明らかである(ex-uniform-boundedness-principle-finite)。無限次元では、点ごとの有界性から一様な評価を引き出す手段がなく、完備性を使って Baire のカテゴリー定理を当てることが本質的になる。応用として、作用素の列が各点で収束すれば極限も有界線形であること、そして「連続関数の Fourier 級数はある点で発散しうる」ことが、具体的な関数を作らずに示せる。後者は、ある量が有界でないことを示せば、それを実現する対象の存在が従うという、存在証明の典型である。

定理の主張と証明

以下、$F$ は $\mathbb{R}$ または $\mathbb{C}$ を表す。ノルム空間 $V,W$ の間の有界線形写像の全体を $B(V,W)$、作用素ノルムを $\|T\|:=\sup_{\|x\|\le1}\|Tx\|$ と書く(ノルム空間 の記事の定義「有界線形写像と作用素ノルム」)。$B_V(x_0,r):=\{x\in V\mid\|x-x_0\|< r\}$ を開球とする。

一様有界性原理

$V$ を Banach 空間、$W$ をノルム空間とし、$\mathcal{A}\subset B(V,W)$ を有界線形写像の族とする。すべての $x\in V$ について
$$ \sup_{T\in\mathcal{A}}\|Tx\|<\infty $$
であるならば、
$$ \sup_{T\in\mathcal{A}}\|T\|<\infty $$
である。

$n\ge1$ について
$$ F_n:=\{x\in V\mid\text{すべての }T\in\mathcal{A}\text{ について }\|Tx\|\le n\}=\bigcap_{T\in\mathcal{A}}\{x\in V\mid\|Tx\|\le n\} $$
とおく。各 $T$ は連続なので $\{x\mid\|Tx\|\le n\}$ は閉集合であり、その共通部分 $F_n$ も閉集合である。仮定から、各 $x$ は $\sup_T\|Tx\|\le n$ となる $n$ をもつので $V=\bigcup_{n\ge1}F_n$ である。
$V$ は空でない完備距離空間なので、Baire のカテゴリー定理(Baireのカテゴリー定理 の記事の系「閉集合による可算被覆」)により、ある $F_n$ の内部は空でなく、開球 $B_V(x_0,r)\subset F_n$ がとれる。
$\|x\|<1$ とすると $x_0+rx$ と $x_0$ はともに $B_V(x_0,r)$ に属するので、すべての $T\in\mathcal{A}$ について
$$ \|Tx\|=\frac1r\bigl\|T(x_0+rx)-Tx_0\bigr\|\le\frac1r\bigl(\|T(x_0+rx)\|+\|Tx_0\|\bigr)\le\frac{2n}{r} $$
である。$\|x\|\le1$ のときは、$0< s<1$ について $\|sx\|<1$ なので $\|Tx\|\le\frac{2n}{rs}$ であり、$s\to1$ として $\|Tx\|\le\frac{2n}r$ を得る。よってすべての $T\in\mathcal{A}$ で $\|T\|\le2n/r$ である。$\square$

この証明は Banach空間 の記事の定理「一様有界性原理」の証明と同じ筋である。証明は 2 段に分かれている。

  • Baire のカテゴリー定理が与えるのは、ある小さな開球 $B_V(x_0,r)$ の上での一様な評価 $\|Tx\|\le n$ だけである。完備性はここで使われる。
  • 線形性が、この局所的な評価を全体へ運ぶ。$x\mapsto x_0+rx$ という平行移動と拡大で、単位球を $B_V(x_0,r)$ に移し、差 $T(x_0+rx)-Tx_0$ をとって $x_0$ の寄与を消している。
    2 段目は線形性がなければ成り立たない(ex-uniform-boundedness-principle-nonlinear)。値域 $W$ の完備性は使っていない。

系

各点収束する作用素の列

Banach–Steinhausの定理

$V$ を Banach 空間、$W$ をノルム空間とし、$T_n\in B(V,W)$ とする。すべての $x\in V$ について極限 $Tx:=\lim_{n\to\infty}T_nx$ が $W$ の中に存在するなら、$\sup_n\|T_n\|<\infty$ であり、$T$ は有界線形写像で
$$ \|T\|\le\liminf_{n\to\infty}\|T_n\| $$
を満たす。

収束する点列は有界なので、各 $x$ で $\sup_n\|T_nx\|<\infty$ であり、thm-uniform-boundedness-principle により $M:=\sup_n\|T_n\|<\infty$ である。和とスカラー倍の連続性から $T(ax+by)=\lim_n(aT_nx+bT_ny)=aTx+bTy$ なので $T$ は線形である。各 $x$ について $\|T_nx\|\le\|T_n\|\,\|x\|$ で $n\to\infty$ の下極限をとると、ノルムの連続性から $\|Tx\|=\lim_n\|T_nx\|\le(\liminf_n\|T_n\|)\|x\|$ であり、$\liminf_n\|T_n\|\le M<\infty$ なので $T$ は有界で、作用素ノルムについての不等式が成り立つ。$\square$

「作用素の列が各点で収束する」ことは、作用素ノルムで収束すること($\|T_n-T\|\to0$)よりも弱い。たとえば $\ell^2$ で最初の $n$ 成分だけを残す射影 $P_n$ は各点で恒等写像に収束するが、$e_{n+1}$(第 $n+1$ 成分だけが $1$ の数列)について $\|(I-P_n)e_{n+1}\|=1$ なので $\|P_n-I\|=1$ である。この系は、そのような弱い収束でも極限が有界になり、ノルムが途中で爆発しないことを保証する。

弱い意味で有界な集合

Hilbert空間の弱有界な集合

$H$ を Hilbert 空間、$A\subset H$ を部分集合とする。すべての $h\in H$ について $\sup_{a\in A}|\langle a,h\rangle|<\infty$ ならば、$\sup_{a\in A}\|a\|<\infty$ である。

各 $a\in A$ について $\varphi_a(h):=\langle h,a\rangle$ は $H$ 上の線形汎関数で、Cauchy–Schwarz の不等式 $|\langle h,a\rangle|\le\|h\|\,\|a\|$ と $\varphi_a(a)=\|a\|^2$ から、有界で $\|\varphi_a\|=\|a\|$ である(Rieszの表現定理 の記事の補題「内積で与えられる汎関数のノルム」と同じ計算)。仮定は $\sup_{a\in A}|\varphi_a(h)|=\sup_{a\in A}|\langle a,h\rangle|<\infty$(各 $h$)ということなので、Hilbert 空間は Banach 空間であることから thm-uniform-boundedness-principle を族 $\{\varphi_a\}_{a\in A}\subset B(H,F)$ に使えて、$\sup_a\|a\|=\sup_a\|\varphi_a\|<\infty$ である。$\square$

一般のノルム空間 $V$ でも、部分集合 $A$ が「すべての有界線形汎関数 $\varphi$ について $\sup_{a\in A}|\varphi(a)|<\infty$」を満たせば $A$ はノルムで有界である(Axl20 Exercises 6E の 18、p. 192)。証明の筋は上と同じで、$a\in A$ を双対空間 $V'$ 上の汎関数 $\varphi\mapsto\varphi(a)$ とみなして一様有界性原理を $V'$ に当てる。$V'$ は $V$ が完備でなくてもつねに Banach 空間なので(Banach空間 の記事の定理「有界線形写像の空間の完備性」)、$V$ 自身は完備でなくてよい。ただし、この汎関数のノルムが $\|a\|$ に等しいこと、すなわち $\|a\|=\max_{\varphi\in V',\ \|\varphi\|=1}|\varphi(a)|$($a\ne0$)には Hahn–Banach の定理が要る(Axl20 6.72、p. 181)ので、この記事では Hilbert 空間の場合だけを証明した。Hilbert 空間では、この等式が内積で直接確かめられる。

有界でない族の「共鳴点」

一様有界性原理の対偶は、「作用素ノルムが有界でないなら、値が有界でない点 $x$ がある」ことである。証明を見直すと、そのような点はたくさんある。

値が有界でない点の多さ

$V$ を Banach 空間、$W$ をノルム空間、$\mathcal{A}\subset B(V,W)$ とし、$\sup_{T\in\mathcal{A}}\|T\|=\infty$ とする。このとき
$$ R:=\Bigl\{x\in V\ \Big|\ \sup_{T\in\mathcal{A}}\|Tx\|=\infty\Bigr\} $$
は $V$ で稠密であり、稠密な開集合の可算個の共通部分として書ける。

prf-uniform-boundedness-principle の閉集合 $F_n$ を使うと $V\setminus R=\bigcup_nF_n$ である。もしある $F_n$ が開球 $B_V(x_0,r)$ を含めば、同じ証明の後半により $\sup_T\|T\|\le2n/r<\infty$ となって仮定に反する。よって各 $F_n$ は内部が空の閉集合であり、$U_n:=V\setminus F_n$ は稠密な開集合である(どの空でない開集合も $F_n$ に含まれないので $U_n$ と交わる)。$R=\bigcap_nU_n$ であり、Baire のカテゴリー定理(Baireのカテゴリー定理 の記事の定理「Baire のカテゴリー定理」の 1)により $R$ は稠密である。$\square$

例

有限次元では自明に近い

$V$ が有限次元なら、定理は Baire のカテゴリー定理を使わずに示せる。$V$ の基底 $e_1,\dots,e_d$ をとり、$x=\sum_ix_ie_i$ に $\|x\|_*:=\sum_i|x_i|$ を対応させると、$\|\cdot\|_*$ は $V$ 上のノルムで、元のノルムと同値である(ノルム空間 の記事の定理「有限次元ではすべてのノルムが同値」)。$\|x\|_*\le C\|x\|$ となる $C$ をとり、$M_i:=\sup_{T\in\mathcal{A}}\|Te_i\|$(仮定から有限)とおくと、
$$ \|Tx\|\le\sum_i|x_i|\,\|Te_i\|\le\Bigl(\max_iM_i\Bigr)\|x\|_*\le C\Bigl(\max_iM_i\Bigr)\|x\| $$
がすべての $T\in\mathcal{A}$ で成り立つ。有限個の点 $e_1,\dots,e_d$ で有界なら全体で一様に有界になるわけである。無限次元の Banach 空間は可算個の基底ベクトルの線形結合で尽くせない(Banach空間 の記事の命題「無限次元の Banach 空間の基底は非可算」)ので、この議論は使えない。

級数がつねに収束する係数の列

$1\le p<\infty$ とし、$p'$ を双対指数($\frac1p+\frac1{p'}=1$)とする。数列 $a=(a_k)_{k\ge1}$ について、すべての $x\in\ell^p$ で級数 $\sum_ka_kx_k$ が収束するなら、$a\in\ell^{p'}$ である。
実際、$\varphi_n(x):=\sum_{k=1}^na_kx_k$ は $\ell^p$ 上の有界線形汎関数で、その作用素ノルムは有限列 $(a_1,\dots,a_n)$ の $p'$ ノルム $\bigl(\sum_{k\le n}|a_k|^{p'}\bigr)^{1/p'}$($p=1$ なら $\max_{k\le n}|a_k|$)に等しい。仮定は $\varphi_n(x)$ が各 $x$ で収束することなので、$\ell^p$ が Banach 空間であること(Lp空間 の記事の定理「$L^p$ 空間の完備性(Riesz–Fischer)」)と cor-uniform-boundedness-principle-banach-steinhaus から $\sup_n\|\varphi_n\|<\infty$、すなわち $a\in\ell^{p'}$ である。逆に $a\in\ell^{p'}$ なら、Lp空間 の記事の定理「Hölderの不等式」により級数は絶対収束する。

作用素ノルムの計算を開く

$b:=(a_1,\dots,a_n)$ とする。Hölder の不等式から $|\varphi_n(x)|\le\|b\|_{p'}\|x\|_p$ である。逆向きは、$b\ne0$ として等号を実現する $x$ を作る。$\sigma_k$ を $|\sigma_k|=1$、$\sigma_ka_k=|a_k|$ を満たす数とする。$p=1$ のときは $|a_j|=\max_{k\le n}|a_k|$ となる $j$ について $x:=\sigma_je_j$ とおけば $\|x\|_1=1$、$\varphi_n(x)=|a_j|$ である。$1< p<\infty$ のときは $x_k:=\sigma_k|a_k|^{p'-1}/\|b\|_{p'}^{p'-1}$($k\le n$)、$x_k:=0$($k>n$)とおく。$(p'-1)p=p'$ なので $\|x\|_p^p=\sum_{k\le n}|a_k|^{p'}/\|b\|_{p'}^{p'}=1$ であり、$\varphi_n(x)=\sum_{k\le n}|a_k|^{p'}/\|b\|_{p'}^{p'-1}=\|b\|_{p'}$ である。

数値積分の公式の列

$C([0,1])$($F$ 値の連続関数、上限ノルム)は Banach 空間である(Banach空間 の記事の命題「有界連続関数の空間の完備性」)。各 $n$ について、相異なる点 $t_{n,1}<\dots< t_{n,m_n}$ と重み $w_{n,k}\in F$ で
$$ Q_n(f):=\sum_{k=1}^{m_n}w_{n,k}f(t_{n,k}) $$
と定める数値積分の公式を考える。$Q_n$ は有界線形汎関数で、$\|Q_n\|=\sum_k|w_{n,k}|$ である。したがって、もしすべての連続関数 $f$ について $Q_n(f)\to\int_0^1f(t)\,dt$ となるなら、cor-uniform-boundedness-principle-banach-steinhaus により重みの絶対値の和 $\sum_k|w_{n,k}|$ は $n$ について有界でなければならない。対偶をとると、重みの絶対値の和が有界でない公式の列は、ある連続関数で収束しない。重みがすべて $0$ 以上なら、$\sum_k|w_{n,k}|=Q_n(1)$ であり、定数関数 $1$ で収束すればこの和は有界である(区間を $n$ 等分した Riemann 和はこの場合で、和はつねに $1$)。

作用素ノルムの計算を開く

$|Q_n(f)|\le\sum_k|w_{n,k}|\,\|f\|_\infty$ は明らかである。逆向きは、$|\sigma_k|=1$、$\sigma_kw_{n,k}=|w_{n,k}|$ を満たす $\sigma_k$ をとり、$g(t_{n,k})=\sigma_k$ を満たし、隣り合う点の間では 1 次式、$t_{n,1}$ より左と $t_{n,m_n}$ より右では定数である連続関数 $g$ を作る。単位円板 $\{|z|\le1\}$ は凸なので $|g|\le1$ であり、$Q_n(g)=\sum_k|w_{n,k}|$ となる。

応用:連続関数の Fourier 級数の発散

$2\pi$ 周期の連続関数 $f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{C}$ の Fourier 係数を $\hat f(n)=\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(t)e^{-int}\,dt$、第 $N$ 部分和を $s_N(f;x)=\sum_{n=-N}^{N}\hat f(n)e^{inx}$ とする(記号は Fourier級数 の記事の定義「Fourier 係数と Fourier 級数」に合わせる)。区分的に $C^1$ 級なら部分和は $f$ に収束するが、連続性だけでは足りないことを、一様有界性原理から示す。
$2\pi$ 周期の連続関数 $f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{C}$ 全体に上限ノルム $\|f\|_\infty$ を入れた空間を $C(\mathbb{T})$ と書く。$C(\mathbb{T})$ は Banach 空間である。実際、$\mathbb{R}$ 上の有界連続関数の空間 $C_b(\mathbb{R})$ は Banach 空間で(Banach空間 の記事の命題「有界連続関数の空間の完備性」)、周期関数の一様極限は周期関数なので $C(\mathbb{T})$ はその閉部分空間である(同じ記事の命題「閉部分空間と完備性」)。
Dirichlet 核 $D_N(t):=\sum_{n=-N}^{N}e^{int}$ は実数値の偶関数で、$\sin\frac t2\ne0$ なら $D_N(t)=\sin\bigl((N+\frac12)t\bigr)/\sin\frac t2$ であり、部分和は $s_N(f;0)=\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}f(t)D_N(t)\,dt$ と書ける(Fourier級数 の記事の命題「Dirichlet 核」の性質 (ii)・(iii)。(iii) の式で $x=0$ とし、$t$ を $-t$ に置き換えて $D_N$ が偶関数であることを使う)。そこで
$$ \varphi_N(f):=s_N(f;0),\qquad L_N:=\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}|D_N(t)|\,dt $$
とおく。

部分和の汎関数のノルム

$\varphi_N$ は $C(\mathbb{T})$ 上の有界線形汎関数で、$\|\varphi_N\|=L_N$ である。さらに $L_N\ge\frac4{\pi^2}\sum_{k=1}^N\frac1k$ であり、$L_N\to\infty$ である。

$|\varphi_N(f)|\le\frac1{2\pi}\int|f|\,|D_N|\le L_N\|f\|_\infty$ なので $\|\varphi_N\|\le L_N$ である。逆向きには、$\varepsilon>0$ について
$$ g_\varepsilon(t):=\frac{D_N(t)}{|D_N(t)|+\varepsilon} $$
を使う。$g_\varepsilon$ は $2\pi$ 周期の連続関数で $|g_\varepsilon|<1$ である。$|D_N|-\frac{D_N^2}{|D_N|+\varepsilon}=\frac{\varepsilon|D_N|}{|D_N|+\varepsilon}\le\varepsilon$ なので
$$ \varphi_N(g_\varepsilon)=\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi}\frac{D_N(t)^2}{|D_N(t)|+\varepsilon}\,dt\ge L_N-\varepsilon $$
であり、$\varepsilon\to0$ として $\|\varphi_N\|\ge L_N$ を得る。
$L_N$ の下からの評価:$0< t\le\pi$ で $0<\sin\frac t2\le\frac t2$ なので、$D_N$ が偶関数であることと $u=(N+\frac12)t$ の置き換えから
$$ L_N=\frac1\pi\int_0^{\pi}\frac{\bigl|\sin(N+\frac12)t\bigr|}{\sin\frac t2}\,dt\ge\frac2\pi\int_0^{(N+\frac12)\pi}\frac{|\sin u|}u\,du\ge\frac2\pi\sum_{k=1}^N\frac1{k\pi}\int_{(k-1)\pi}^{k\pi}|\sin u|\,du=\frac4{\pi^2}\sum_{k=1}^N\frac1k $$
である(区間 $[(k-1)\pi,k\pi]$ では $\frac1u\ge\frac1{k\pi}$、$\int_{(k-1)\pi}^{k\pi}|\sin u|\,du=2$)。右辺は調和級数の部分和なので $\infty$ に発散する。$\square$

$L_N$ の値は $L_1=1.4359\ldots$、$L_{10}=2.2233\ldots$、$L_{50}=2.8598\ldots$ で、ゆっくり増える。下からの評価の右辺は、調和級数の部分和が $\log(N+1)$ 以上であることから、$\frac4{\pi^2}\log(N+1)$ 以上である。

$0$ で Fourier 級数が発散する連続関数の存在

$2\pi$ 周期の連続関数 $f\colon\mathbb{R}\to\mathbb{C}$ で、$\sup_N|s_N(f;0)|=\infty$ となるもの、とくに Fourier 級数が $x=0$ で収束しないものが存在する。さらに、そのような $f$ 全体は $C(\mathbb{T})$ で稠密である。

lem-uniform-boundedness-principle-lebesgue-constant により $\sup_N\|\varphi_N\|=\sup_NL_N=\infty$ である。$C(\mathbb{T})$ は Banach 空間なので、cor-uniform-boundedness-principle-resonance を族 $\{\varphi_N\}\subset B(C(\mathbb{T}),\mathbb{C})$ に当てると、$\sup_N|\varphi_N(f)|=\infty$ となる $f$ 全体は $C(\mathbb{T})$ で稠密であり、とくに空でない。収束する数列は有界なので、そのような $f$ の部分和 $s_N(f;0)$ は収束しない。$\square$

この証明は存在証明であり、発散する関数を具体的に書き下してはいない。調べたのは「部分和をとる汎関数のノルム $L_N$ が有界でない」ことだけで、あとは Baire のカテゴリー定理が関数を与える。Fourier級数 の記事の例「反例:連続関数でも各点収束しない」は、この事実を引用として述べている(同じ手順は Axl20 Exercises 11A の 11、p. 354 に演習として示されている)。点 $0$ に特別な意味はなく、平行移動すれば任意の点で発散する連続関数が得られる。

仮定を外すと成り立たなくなること

外す条件反例成り立たなくなること
定義域の完備性$c_{00}$(上限ノルム)上の $\varphi_n(x)=nx_n$$\sup_n\Vert\varphi_n\Vert<\infty$
定義域の完備性(系)$c_{00}$(上限ノルム)上の $T_nx=\sum_{k\le n}kx_k$各点収束の極限が有界であること
線形性$\mathbb{R}$ 上の連続関数 $f_n(x)=n\max(0,1-n\lvert x-\frac1n\rvert)$単位区間の上での一様な有界性
すべての点での有界性$\ell^2$ 上の $\varphi_n(x)=nx_n$(稠密な $c_{00}$ の上だけで有界)$\sup_n\Vert\varphi_n\Vert<\infty$

1 行目は Banach空間 の記事の例「反例:定義域が完備でないときの一様有界性原理」である。$c_{00}$(有限個以外の項が $0$ の数列の空間)の各元では $\varphi_n(x)$ は $n$ が大きいと $0$ になるので各点で有界だが、$\varphi_n(e_n)=n$ から $\|\varphi_n\|=n$ である。2 行目も同じ空間で、$T_nx$ は $n$ が大きいと一定の値 $Tx=\sum_kkx_k$(有限和)になるので各点で収束するが、$T(e_k)=k$ なので極限 $T$ は有界でない。$c_{00}$ が完備でないこと(Banach空間 の記事の例「反例:収束しない絶対収束級数」)が、thm-uniform-boundedness-principle と cor-uniform-boundedness-principle-banach-steinhaus の仮定を満たさない点である。残りの 2 行を確かめる。

反例:線形でない写像の族

$n\ge1$ について、$f_n\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}$ を $f_n(x):=n\max\bigl(0,1-n|x-\tfrac1n|\bigr)$ とおく。$f_n$ は区間 $(0,\frac2n)$ の外で $0$、点 $\frac1n$ で最大値 $n$ をとる三角形の山である(下の図)。

  • 各点で有界:$x\le0$ ならすべての $n$ で $f_n(x)=0$ である。$x>0$ なら $f_n(x)\ne0$ となるのは $\frac2n>x$、すなわち $n<\frac2x$ の有限個の $n$ だけなので、$\sup_nf_n(x)\le\frac2x<\infty$ である。
  • 一様には有界でない:$\sup_{|x|\le1}f_n(x)=f_n(\tfrac1n)=n\to\infty$ である。$0$ のどの近傍の上でも $\sup_n\sup_xf_n(x)=\infty$ である。
    $\mathbb{R}$ は完備であり、$F_m:=\{x\mid\text{すべての }n\text{ で }f_n(x)\le m\}$ は閉集合で $\mathbb{R}=\bigcup_mF_m$ となるので、Baire のカテゴリー定理はここでも成り立ち、ある $F_m$ が開区間を含む。実際 $x\ge2$ ではすべての $f_n$ が $0$ なので、$(2,3)\subset F_1$ である。しかし thm-uniform-boundedness-principle の証明の 2 段目、すなわち「1 つの開球の上の評価を平行移動と拡大で全体へ運ぶ」ことは、線形性がないのでできない。満たす性質は各 $f_n$ の連続性・定義域の完備性・各点での有界性、満たさない性質は線形性であり、破る含意は「各点で有界なら単位球の上で一様に有界」である。

三角形の山 f_1 から f_5。山の頂点は x = 1/n で高さ n、支えは区間 (0, 2/n) で、n とともに高く細くなって原点に近づく 三角形の山 f_1 から f_5。山の頂点は x = 1/n で高さ n、支えは区間 (0, 2/n) で、n とともに高く細くなって原点に近づく
図のように、山は原点に近づきながら高くなるので、どの点でも有限個の山しか通らないが、原点の近くの値の上限は有界でない。

反例:稠密な部分空間の上だけで有界な族

$\ell^2$ は Banach 空間であり、$\varphi_n(x):=nx_n$ は $\|\varphi_n\|=n$ の有界線形汎関数である。$\ell^2$ で稠密な部分空間 $c_{00}$ の各点では $\sup_n|\varphi_n(x)|<\infty$ だが、$\sup_n\|\varphi_n\|=\infty$ である。したがって、仮定の「すべての $x\in V$ について」を稠密な部分集合の上だけに弱めると、結論は成り立たない。実際、cor-uniform-boundedness-principle-resonance のとおり有界でない点があり、たとえば $x_k:=k^{-3/4}$ は $\sum_kk^{-3/2}<\infty$ なので $\ell^2$ に属し、$\varphi_n(x)=n^{1/4}\to\infty$ である。

補足

名前と位置づけ

一様有界性原理は 1927 年に Banach と Steinhaus が示したもので、Banach–Steinhaus の定理とも呼ばれる(Axl20 p. 189 の傍注と本文)。同じ名前は cor-uniform-boundedness-principle-banach-steinhaus の形を指すこともある。Baire のカテゴリー定理から従う関数解析の基本定理には、ほかに開写像定理(全射な有界線形写像は開写像)とその系の有界逆写像定理・閉グラフ定理があり、どれも完備性を「局所的な情報を全体へ広げる」ために使う。

文献

一様有界性原理は Axl20 6.86(p. 190)、Baire のカテゴリー定理は 6.76(p. 185)、各点収束の極限が有界線形であることは Exercises 6E の 17、弱い意味で有界な集合がノルムで有界であることは同じく 18(p. 192)、ノルムを汎関数で測る等式は 6.72(p. 181)、連続関数の Fourier 級数の発散を一様有界性原理で示す手順は Exercises 11A の 11(p. 354)にある。本記事の証明はこれらを本記事の記号で書き直したものであり、値が有界でない点が稠密であること、数列と数値積分の例、部分和の汎関数のノルムの計算は本文で完全に示した。

関連項目

参考文献

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