Tychonoffのコルク抜き(Tychonoff corkscrew)とは、穴あき Tychonoff の板 $[0,\omega_1]\times[0,\omega]\setminus\{(\omega_1,\omega)\}$ の複製を整数で番号づけ、上の辺どうしと右の辺どうしで交互に貼り合わせ、両端に 2 点 $a^+,a^-$ を加えた位相空間である。板の上の連続関数は取り除いた隅で値が 1 つに決まり、その値が貼り合わせで受け渡されるので、任意の連続関数は $a^+$ と $a^-$ で同じ値をとる。この空間は $T_3$ 空間だが Tychonoff 空間($T_{3.5}$)でも正規空間でもなく、正則性から完全正則性が従わない例である。
前提知識: 分離公理, Tychonoffの板, 順序位相, 商位相
正則な空間($T_3$ 空間)では、点と閉集合を開集合で分離できる。それをさらに連続関数で分離できる空間が Tychonoff 空間($T_{3.5}$ 空間)である。$T_3$ から $T_{3.5}$ が従わないことを示すには、連続関数がどうしても同じ値をとってしまう 2 点をもつ正則空間を作る必要がある。Tychonoff のコルク抜きはそのような空間である。
材料は穴あき Tychonoff の板である。この板の上の連続関数は、取り除いた隅で「値が 1 つに決まる」。板の複製を、上の辺どうし・右の辺どうしで交互に貼り合わせて無限に長いらせんを作り、両端に点を 1 つずつ加えると、隅の値がらせんに沿って受け渡され、両端の点で連続関数の値が一致してしまう。この記事では、この空間を定義し、$T_3$ であることと、両端の 2 点が連続関数で分離できないことを証明する。全体を通して ZFC を仮定する。
Tychonoffの板 の記号を使う。$\omega$ は最小の無限順序数、$\omega_1$ は最小の非可算順序数で、
$$
T:=[0,\omega_1]\times[0,\omega],\qquad t^\ast:=(\omega_1,\omega),\qquad T_\ast:=T\setminus\{t^\ast\}
$$
とし、$T_\ast$ の右の辺を $A:=\{\omega_1\}\times[0,\omega)$、上の辺を $B:=[0,\omega_1)\times\{\omega\}$ とする。$A,B$ は $T_\ast$ の互いに交わらない閉集合である(Tychonoffの板 の命題「板と穴あきの板の性質」)。
整数 $k\in\mathbb{Z}$ で番号づけた $T_\ast$ の複製 $T_\ast\times\{k\}$ の直和 $Z:=\bigsqcup_{k\in\mathbb{Z}}T_\ast\times\{k\}$ に、次の同一視を入れる。
各複製は 2 本の辺のうち一方で前の複製と、他方で次の複製とつながる。隅 $t^\ast$ は除かれているので 2 本の辺は交わらず、$E_k$ どうしも交わらない。板を交互に貼り継いだ形がらせん状のコルク抜きに見えることが名前の由来である。$a^+$ は番号の大きい側の端、$a^-$ は小さい側の端にあたる。
2 から示す。$\pi^{-1}(U^+_m\cap Y)$ は、$k>m$ の複製全体、$m$ 番目の複製から $E_m$ に対応する辺(閉集合)を除いた部分の和である。$m-1$ 番目の複製の点で $k\ge m$ の複製の点と同一視されるのは $E_m$ の辺の点だけなので、$m-1$ 番目以下の複製は含まれない。各部分は $T_\ast$ の開集合なので $U^+_m\cap Y$ は $Y$ の開集合で、$U^+_m$ 自身が条件を満たす。$E_m$ は $m-1$ 番目と $m$ 番目の複製にしか含まれないので、$U^+_{m+1}\subset U^+_m$ である。$U^-_m$ も同様である。
1:$\emptyset$ と $X$ は条件を満たす。合併は明らかに条件を満たす。2 つの開集合 $O,O'$ がともに $a^+$ を含めば $U^+_m\subset O$、$U^+_{m'}\subset O'$ となり、2 により $U^+_{\max\{m,m'\}}\subset O\cap O'$ である。$a^-$ も同様なので共通部分も条件を満たす。$Y$ の開集合は $a^\pm$ を含まないので $X$ の開集合であり、1 の残りが従う。
3:$X\setminus C_m=\{a^-\}\cup\pi\bigl(\bigcup_{k< m}T_\ast\times\{k\}\bigr)\setminus E_m$ であり($E_m$ は $C_m$ に含まれる)、これは $U^-_{m-1}$ の定義そのものである。$E_{m-1}$ は $m-2$ 番目と $m-1$ 番目の複製にしか含まれないので $C_m\subset U^+_{m-1}$ である。$\square$
Tychonoff のコルク抜き $X$ は $T_3$ 空間($T_1$ で正則性条件を満たす空間)である。
各点が閉集合からなる基本近傍系をもつことを示せば、正則性条件が従う(分離公理 の命題「正則性と閉近傍」)。
$a^+$ の場合:prop-tc-topology の 3 により $C_m$ は閉集合(補集合 $U^-_{m-1}$ が開)で、$U^+_m\subset C_m\subset U^+_{m-1}$ である。$a^+$ の近傍は $U^+_m$ の形の集合を含むので、$C_m$($m\in\mathbb{Z}$)は $a^+$ の閉集合からなる基本近傍系である。$a^-$ も同様である。
$Y$ の点の場合:$[0,\omega_1]$ と $[0,\omega]$ の各点 $\xi$ は、区間 $(\delta,\xi]$($\delta<\xi$。$\xi=0$ なら $\{0\}$)の形の開かつ閉な基本近傍をもつ(順序数空間 の補題「開かつ閉な区間と基本近傍」)。その直積は $T$ の開かつ閉集合で、$T_\ast$ に含まれるものは $T_\ast$ の開かつ閉集合である。点 $y\in Y$ の種類ごとに次の集合 $W$ をとる。
証明から、$Y$ は開かつ閉集合からなる開基をもつ $T_1$ 空間であり、Tychonoff 空間であることも分かる。完全正則性が壊れるのは、2 点 $a^\pm$ を付け加えたときである。
連続関数 $f\colon T_\ast\to\mathbb{R}$ に対し、実数 $c$ で次の 2 つを満たすものがただ 1 つある。
Tychonoffの板 の定理「隅への延長」により、$f$ は連続関数 $F\colon T\to\mathbb{R}$ に延びる。$c:=F(t^\ast)$ とおく。$[0,\omega]$ で $n\to\omega$ なので $(\omega_1,n)\to t^\ast$ であり、$F$ の連続性から 2 が成り立つ。
1 を示す。$f(\cdot,\omega)$ は $[0,\omega_1)$ の上の連続関数なので、Tychonoffの板 の補題「連続関数は最後に一定」により、ある $\gamma$ から先で一定値 $c'$ をとる。$\varepsilon>0$ に対し、$F$ の $t^\ast$ での連続性から、近傍 $(\delta,\omega_1]\times(m,\omega]$ の上で $|F-c|<\varepsilon$ となる $\delta<\omega_1$、$m<\omega$ がある。$\beta>\max\{\gamma,\delta\}$ をとれば $(\beta,\omega)$ はこの近傍に属するので $|c'-c|<\varepsilon$ である。$\varepsilon$ は任意なので $c'=c$ である。
一意性は 2 の極限の一意性による。$\square$
$X$ を Tychonoff のコルク抜きとする。任意の連続関数 $f\colon X\to\mathbb{R}$ について $f(a^+)=f(a^-)$ である。
$k\in\mathbb{Z}$ について、$f_k\colon T_\ast\to\mathbb{R}$ を $f_k(t):=f(\pi(t,k))$ で定める。$f_k$ は連続関数の合成なので連続であり、lem-tc-corner によりその隅の値 $c_k$ が定まる。
段 1:$c_k=c_{k+1}$。$k$ が偶数なら上の辺が貼られているので、すべての $\beta<\omega_1$ で $f_k(\beta,\omega)=f(\pi(\beta,\omega,k))=f(\pi(\beta,\omega,k+1))=f_{k+1}(\beta,\omega)$ である。十分大きな $\beta$ でこの値は $c_k$ とも $c_{k+1}$ とも等しいので $c_k=c_{k+1}$ である。$k$ が奇数なら右の辺が貼られているので、すべての $n<\omega$ で $f_k(\omega_1,n)=f_{k+1}(\omega_1,n)$ であり、$n\to\infty$ の極限をとって $c_k=c_{k+1}$ である。よってすべての $c_k$ は共通の値 $c$ に等しい。
段 2:$f(a^+)=c$。$\varepsilon>0$ をとる。$f$ の $a^+$ での連続性から、$U^+_m$ の上で $|f-f(a^+)|<\varepsilon$ となる $m$ がある。$U^+_m$ は $m+1$ 番目の複製の像全体を含む。lem-tc-corner の 1 により、十分大きな $\beta<\omega_1$ について $f(\pi(\beta,\omega,m+1))=f_{m+1}(\beta,\omega)=c$ なので、$|c-f(a^+)|<\varepsilon$ である。$\varepsilon$ は任意なので $f(a^+)=c$ である。同様に、$U^-_m$ が $m-1$ 番目の複製の像全体を含むことから $f(a^-)=c$ である。$\square$
1:$T_3$ は thm-tc-regular による。$\{a^-\}$ は閉集合で $a^+$ を含まないが、$f(a^+)=0$、$f(a^-)=1$ となる連続関数は thm-tc-ends によりない。よって完全正則性条件を満たさない。
2:$T_4$ 空間は $T_{3.5}$ 空間である(分離公理 の命題「完全正則性を経由する含意」)ので、1 から $X$ は $T_4$ でない。$X$ は $T_1$ なので、正規性条件を満たさない。
3:$T_3$ 空間は $T_{2.5}$ 空間である(分離公理 の定理「$T_3$ は Urysohn である」)。後半は thm-tc-ends である。$\square$
3 は、閉包が交わらない開近傍で 2 点を分けられても、連続関数で分けられるとは限らないことを示している。
次の表は、分離公理の含意の仮定を 1 つずつ外したときの反例である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $T_4$(「$T_4$ 空間は $T_{3.5}$」) | $X$($T_3$ だが $T_4$ でない) | 点と閉集合 $\{a^-\}$ を連続関数で分離できる |
| $T_{3.5}$(「Tychonoff 空間の異なる 2 点は連続関数で分けられる」) | $X$($T_3$ だが $T_{3.5}$ でない) | $a^+$ と $a^-$ を分ける連続関数がある |
$m\in\mathbb{Z}$ を固定し、$Y$ の上の関数 $g$ を、$\pi\bigl(\bigcup_{k\le m}T_\ast\times\{k\}\bigr)$ の上で $0$、残りの点で $1$ と定める。$g$ は連続でない。辺 $E_{m+1}$ の点は $m$ 番目の複製の像に属するので値 $0$ をとるが、$m+1$ 番目の複製の中で辺にない点(値 $1$)の極限になっているからである。このように、複製の番号で区切った値の付け方は辺のところでつながらず、thm-tc-ends の段 1 のとおり、隅の値は辺を越えて隣の複製へそのまま受け渡される。
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