原始元定理

同義語:primitive element theorem

概要

原始元定理(primitive element theorem)とは、体の有限次分離拡大 $L/K$ がただ 1 つの元 $\theta$ で $L=K(\theta)$ と生成されるという定理である。このような $\theta$ を原始元という。とくに標数 $0$ の体や有限体の上の有限次拡大はつねに単純拡大であり、たとえば $\mathbb{Q}(\sqrt{2},\sqrt{3})=\mathbb{Q}(\sqrt{2}+\sqrt{3})$ である。より精密に、有限次拡大が単純拡大であることは中間体が有限個しかないことと同値である。分離性は外せず、$\mathbb{F}_p(s,t)/\mathbb{F}_p(s^p,t^p)$ は原始元をもたず、無限個の中間体をもつ。原始元定理により拡大の研究は 1 つの既約多項式の研究に帰着する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 体の拡大, 拡大次数, 最小多項式, 分離拡大, 有限体

動機

体 $K$ の有限次拡大 $L$ は、有限個の元を添加して $L=K(\alpha_1,\dots,\alpha_m)$ と書ける。たとえば $\mathbb{Q}(\sqrt2,\sqrt3)$ は 2 つの元で生成されているが、実は $\sqrt2+\sqrt3$ という 1 つの元だけで生成される(分離拡大 の記事の「原始元定理」の節の計算)。1 つの元 $\theta$ で生成される拡大 $K(\theta)$ は、$\theta$ の最小多項式 $m_{\theta,K}$ を用いて $K[x]/(m_{\theta,K})$ と同型であり(体の拡大 の記事の定理「単純拡大の構造」)、拡大の元はすべて $\theta$ の多項式として書け、$K$ 上の埋め込みは $\theta$ の行き先だけで決まる。多くの元で生成された拡大を 1 つの元の拡大に書き直せれば、拡大の研究は 1 つの既約多項式の研究に帰着する。
原始元定理は、標数 $0$ の体や有限体の上の有限次拡大、より一般に有限次分離拡大では、この書き直しがいつでもできることを述べる。さらに、拡大が 1 つの元で生成されるかどうかは、拡大の間にある体(中間体)が有限個かどうかで判定できる。分離的でない拡大では、2 つの元を 1 つにまとめられないことがある。

仮定と定理

$L/K$ を体の拡大とする。$K\subset M\subset L$ を満たす $L$ の部分体 $M$ を $L/K$ の中間体という。$S\subset L$ に対し、$K\cup S$ を含む $L$ の最小の部分体を $K(S)$ と書き、$S=\{\alpha_1,\dots,\alpha_m\}$ なら $K(\alpha_1,\dots,\alpha_m)$ と書く。$\alpha\in L$ が $K$ 上代数的であるとは、$K$ 係数の $0$ でない多項式の根になることをいい、このとき $\alpha$ の $K$ 上の最小多項式を $m_{\alpha,K}$ と書く。$m_{\alpha,K}$ は既約なモニック多項式(最高次の係数が $1$ の多項式)であり、$g\in K[x]$ について $g(\alpha)=0$ と $m_{\alpha,K}\mid g$ は同値で、$[K(\alpha):K]=\deg m_{\alpha,K}$ である(体の拡大 の記事の命題「最小多項式の存在と一意性」と定理「単純拡大の構造」)。$\alpha$ が $K$ 上分離的であるとは、$\alpha$ が $K$ 上代数的で、$m_{\alpha,K}$ が $1$ 次式の積に分解する拡大体において重根をもたないことをいう(分離拡大 の記事の定義「分離元と分離拡大」)。

単純拡大と原始元

体の拡大 $L/K$ が単純拡大(simple extension)であるとは、$L=K(\theta)$ となる $\theta\in L$ が存在することをいう。このような $\theta$ を $L/K$ の原始元(primitive element)という。

この定義は 体の拡大 の記事の定義「元の添加と単純拡大」と同じである。原始元は 1 つに決まらない。$\theta$ が原始元なら、$0$ でない $a\in K$ と $b\in K$ について $a\theta+b$ も原始元である。

原始元定理

$L/K$ を有限次拡大とする。

  1. $L/K$ が分離拡大ならば、$L/K$ は単純拡大である。
  2. より一般に、$L=K(\alpha,\beta_1,\dots,\beta_r)$($r\ge0$)と書けて、$\beta_1,\dots,\beta_r$ がいずれも $K$ 上分離的であれば、$L/K$ は単純拡大である。$\alpha$ は分離的でなくてよい。さらに $K$ が無限体なら、原始元を $\theta=\alpha+c_1\beta_1+\cdots+c_r\beta_r$($c_1,\dots,c_r\in K$)の形にとれる。
定理の 1 と 2 の関係と出典

証明は後の prf-primitive-element で与える。定理は Lan02 Chapter V §4、DF04 §14.4 にもある。
1 は 2 の特別な場合である。実際、$L/K$ が有限次分離拡大なら、$L$ の $K$ 上のベクトル空間としての基底(基底と次元) $\beta_1,\dots,\beta_r$ をとると $L=K(\beta_1,\dots,\beta_r)$ で、各 $\beta_i$ は分離的である($\alpha=0$ とする)。標数 $0$ の体と有限体の上の代数拡大はつねに分離的なので(分離拡大 の記事の命題「標数が 0 の体と有限体の上の代数拡大」)、これらの体の上の有限次拡大はすべて単純拡大である。

中間体の有限性による特徴づけ

有限次拡大 $L/K$ について、次の 2 条件は同値である。

  1. $L/K$ は単純拡大である。
  2. $L/K$ の中間体は有限個しかない。
証明の構成

この定理も Lan02 Chapter V §4 にある。以下の証明では、thm-primitive-element を最小多項式の最大公約数による直接の議論で示し(prf-primitive-element)、この定理は両方向とも初等的に示す(prf-primitive-element-intermediate)。Galois理論 の記事の定理「有限次分離拡大は単純拡大である」は、これとは逆に、Galois 対応から中間体の有限性を先に導き、そこから単純性を得ている(rem-primitive-element-galois-proof)。

証明

最大公約数の準備

$K[x]$ は単項イデアル整域であり、$0$ でない $f,g\in K[x]$ の生成するイデアル $(f,g)$ はただ 1 つのモニックな多項式 $d$ で生成される。この $d$ を $f,g$ の $K[x]$ における最大公約数という。$d$ は $f,g$ を割り切り、$f,g$ の公約元はすべて $d$ を割り切る。

最大公約数は係数体の拡大で変わらない

$K\subset E$ を体の拡大、$f,g\in K[x]$ をともに $0$ でない多項式とし、$d\in K[x]$ を $K[x]$ における $f,g$ の最大公約数とする。このとき $d$ は $E[x]$ における $f,g$ の最大公約数でもある。

$(f,g)=(d)$ なので、$d=uf+vg$ となる $u,v\in K[x]$ がある(Bézoutの等式)。$d$ は $K[x]$ で $f,g$ を割り切るので、$E[x]$ でも割り切る。$h\in E[x]$ が $E[x]$ で $f,g$ を割り切れば、$h$ は $uf+vg=d$ を割り切る。よって $d$ は $E[x]$ における $f,g$ の公約元のうちすべての公約元で割り切れるモニックな多項式であり、$E[x]$ における最大公約数である。$\square$

この補題により、次が分かる。$0$ でない $g,h\in K[x]$ と拡大体 $K\subset E$ があり、$g$ が $E[x]$ で $1$ 次式の積に分解し、$g$ と $h$ の $E$ における共通の根が $\beta$ ただ 1 つで、$\beta$ が $g$ の単根であるとする。このとき $\beta\in K$ である。実際、$E[x]$ における $g,h$ の最大公約数は $g$ のモニックな約元なので $g$ の $1$ 次因子の積であり、その根はすべて $g,h$ の共通の根 $\beta$ で、$\beta$ は $g$ の単根なので最大公約数は $x-\beta$ である。補題によりこれは $K[x]$ における最大公約数でもあるので、$x-\beta\in K[x]$ である。
$g$ が $E$ で $1$ 次式の積に分解するという仮定は外せない。たとえば $K=\mathbb{Q}$、$g=h=x^3-2$、$E=\mathbb{R}$ とすると、$E$ における共通の根は $\sqrt[3]{2}$ ただ 1 つでそれは単根だが、$\sqrt[3]{2}\notin\mathbb{Q}$ である。$E[x]$ における最大公約数は $x^3-2$ 自身であり、$1$ 次式にならない。次の補題の証明では、$g$ が分解する体 $\Omega$ でこの議論を行う。

2 つの元の場合

2 つの元による拡大の単純性

$K$ を体、$L=K(\alpha,\beta)$ を $K$ 上代数的な 2 元で生成される拡大とし、$\beta$ は $K$ 上分離的であるとする。$f=m_{\alpha,K}$、$g=m_{\beta,K}$ とおき、$L$ の拡大体 $\Omega$ で $f$ と $g$ が $1$ 次式の積に分解するものを 1 つとる。$f$ の $\Omega$ における相異なる根を $\alpha=\alpha_1,\alpha_2,\dots,\alpha_r$、$g$ の $\Omega$ における根を $\beta=\beta_1,\beta_2,\dots,\beta_s$ とする($\beta$ は分離的なので $s=\deg g$ で、$\beta_j$ は相異なる)。

  1. $c\in K$ が
    $$ \alpha_i+c\beta_j\neq\alpha+c\beta\qquad(1\le i\le r,\ 2\le j\le s) $$
    を満たせば、$L=K(\alpha+c\beta)$ である。
  2. 1 の条件を満たさない $c\in K$ は高々 $r(s-1)$ 個である。とくに $K$ が無限体、または $K$ の元の個数が $r(s-1)$ より多ければ、1 の条件を満たす $c\in K$ が存在し、$L/K$ は単純拡大である。

$\Omega$ としては、たとえば $fg$ の $L$ 上の分解体をとればよい(分解体 の記事の定理「分解体の存在」)。

最小多項式の共通根を 1 つに絞る

1:$s=1$ なら $g=x-\beta$ なので $\beta\in K$ であり、$L=K(\alpha)=K(\alpha+c\beta)$ である。以下 $s\ge2$ とする。このとき $c=0$ は条件を満たさない($i=1$、$j=2$ で両辺がともに $\alpha$ になる)ので、$c\neq0$ である。
$\theta:=\alpha+c\beta$、$M:=K(\theta)\subset L$ とおき、
$$ h(x):=f(\theta-cx)\in M[x] $$
を考える。$f$ の次数を $n$ とすると、$h$ の $x^n$ の係数は $(-c)^n\neq0$ なので $h\neq0$ である。$h(\beta)=f(\theta-c\beta)=f(\alpha)=0$、$g(\beta)=0$ なので、$\beta$ は $g$ と $h$ の共通の根である。
$g$ と $h$ の $\Omega$ における共通の根は $\beta$ だけである。実際 $2\le j\le s$ について $h(\beta_j)=0$ とすると、$\theta-c\beta_j$ は $f$ の根なので、ある $i$ で $\theta-c\beta_j=\alpha_i$、すなわち $\alpha_i+c\beta_j=\alpha+c\beta$ となり、$c$ の条件に反する。
$\Omega[x]$ において $g=\prod_{j=1}^s(x-\beta_j)$ であり、$\beta_j$ は相異なる。$g$ と $h$ の $\Omega[x]$ におけるモニックな公約元は、$g$ のモニックな約元なので、いくつかの相異なる $x-\beta_j$ の積である($\Omega[x]$ は一意分解整域で、$1$ 次式は既約である)。その各因子の根 $\beta_j$ は $h$ の根でもあるので、上により $j=1$ に限る。$x-\beta$ は実際に $g$ と $h$ を割り切るので、$\Omega[x]$ における $g$ と $h$ の最大公約数は $x-\beta$ である。
$g,h\in M[x]$ なので、lem-primitive-element-gcd を $M\subset\Omega$ に適用すると、$M[x]$ における $g,h$ の最大公約数も $x-\beta$ である。よって $x-\beta\in M[x]$、すなわち $\beta\in M$ であり、$\alpha=\theta-c\beta\in M$ である。したがって $L=K(\alpha,\beta)\subset M\subset L$、すなわち $L=K(\theta)$ である。
2:$1\le i\le r$、$2\le j\le s$ を固定する。$\beta_j\neq\beta$ なので、$\alpha_i+c\beta_j=\alpha+c\beta$ を満たす $c\in\Omega$ は $c=(\alpha_i-\alpha)/(\beta-\beta_j)$ のただ 1 つである。組 $(i,j)$ は $r(s-1)$ 個なので、条件を破る $c\in K$ は高々 $r(s-1)$ 個である。残りの主張は 1 から従う。$\square$

証明で分離性を使ったのは、$g$ が $\Omega$ で重根をもたないことだけである。$g$ に重根があると、$\Omega[x]$ における $g,h$ の最大公約数が $(x-\beta)^k$($k\ge2$)になりえて、係数から $\beta$ を取り出せない。一方 $\alpha$ の分離性はどこでも使っていない。

原始元定理の証明

有限体の場合と生成元の個数についての帰納法

rem-primitive-element-sources のとおり 1 は 2 に含まれるので、2 を示す。
$K$ が有限体の場合:$L/K$ は有限次なので、$L$ も有限体である(元の個数は $K$ の元の個数の $[L:K]$ 乗)。有限体の乗法群 $L^\times$ は巡回群である(有限体 の記事の定理「有限体の乗法群の構造」)。その生成元を $\theta$ とすると、$L$ の $0$ でない元はすべて $\theta$ の冪なので $L=K(\theta)$ である。この場合 $\beta_i$ の分離性は使わない。
$K$ が無限体の場合:$r$ についての数学的帰納法で、$\theta=\alpha+c_1\beta_1+\cdots+c_r\beta_r$ の形の原始元があることを示す。$r=0$ なら $L=K(\alpha)$ で、$\theta=\alpha$ でよい。$r\ge1$ とし、$r-1$ では成り立つとする。$L':=K(\alpha,\beta_1,\dots,\beta_{r-1})$ は $L$ の中間体なので $K$ 上有限次であり、帰納法の仮定により $L'=K(\theta')$、$\theta'=\alpha+c_1\beta_1+\cdots+c_{r-1}\beta_{r-1}$ と書ける。すると $L=L'(\beta_r)=K(\theta',\beta_r)$ で、$\theta'$ と $\beta_r$ は $K$ 上代数的($L/K$ が有限次なので)、$\beta_r$ は $K$ 上分離的である。lem-primitive-element-two の 2 により、ある $c_r\in K$ について $L=K(\theta'+c_r\beta_r)$ であり、$\theta'+c_r\beta_r=\alpha+c_1\beta_1+\cdots+c_r\beta_r$ である。$\square$

$K$ が有限体のとき、原始元を $\alpha+c\beta$ の形にとれるとは限らない(ex-primitive-element-small-field)。有限体の場合には、乗法群が巡回群であるという別の理由で単純性が成り立つ。

中間体の有限性による特徴づけの証明

原始元の最小多項式の約元と中間体の対応

1 ⇒ 2:$L=K(\theta)$ とし、$f:=m_{\theta,K}$ とおく。中間体 $M$ に対し、$\theta$ の $M$ 上の最小多項式 $g_M:=m_{\theta,M}\in M[x]$ を考える。$f\in K[x]\subset M[x]$ は $\theta$ を根にもつので、$M[x]$ で $g_M\mid f$ であり、したがって $L[x]$ でも $g_M\mid f$ である。
$M$ は $g_M$ から決まることを示す。$g_M$ の係数を $K$ に添加した体を $M_0$ とすると、$M_0\subset M$ である。$g_M\in M_0[x]$ は $\theta$ を根にもつモニックな多項式であり、$M[x]$ で既約なので $M_0[x]$ でも既約である($M_0[x]$ での分解はそのまま $M[x]$ での分解になる)。よって $g_M=m_{\theta,M_0}$ である。$L=K(\theta)$ なので $L=M(\theta)=M_0(\theta)$ であり、
$$ [L:M]=\deg g_M=[L:M_0] $$
である。拡大次数の乗法性(体の拡大 の記事の定理「拡大次数の乗法性」)により $[L:M_0]=[L:M][M:M_0]$ なので $[M:M_0]=1$、すなわち $M=M_0$ である。
したがって、中間体 $M$ に $g_M$ を対応させる写像は単射である。その像は $f$ の $L[x]$ におけるモニックな約元の集合に含まれる。$L[x]$ は一意分解整域なので、$f=p_1^{e_1}\cdots p_k^{e_k}$($p_i$ は相異なるモニックな既約多項式、$e_i\ge1$)と書け、$f$ のモニックな約元は $p_1^{d_1}\cdots p_k^{d_k}$($0\le d_i\le e_i$)の形のものに限る。その個数は $(e_1+1)\cdots(e_k+1)$ で有限なので、中間体も有限個である。
2 ⇒ 1:$K$ が有限体なら、$L$ は有限体で、prf-primitive-element の前半と同じく単純拡大である。$K$ が無限体の場合、まず次を示す。
(*) 中間体が有限個の拡大 $L/K$ の 2 元 $\alpha,\beta\in L$ について、$K(\alpha,\beta)=K(\alpha+c\beta)$ となる $c\in K$ がある。
$c\in K$ ごとに中間体 $M_c:=K(\alpha+c\beta)$ を考える。$K$ は無限集合で中間体は有限個なので、$c\neq c'$ で $M_c=M_{c'}$ となるものがある。この体を $M$ とすると $(c-c')\beta=(\alpha+c\beta)-(\alpha+c'\beta)\in M$ であり、$c-c'\neq0$ なので $\beta\in M$、$\alpha=(\alpha+c\beta)-c\beta\in M$ である。よって $K(\alpha,\beta)\subset M=K(\alpha+c\beta)\subset K(\alpha,\beta)$ である。
$L/K$ は有限次なので $L=K(\gamma_1,\dots,\gamma_m)$ と書ける(基底をとればよい)。$m$ が最小になるように生成元をとり、$m\ge2$ と仮定すると、(*) により $K(\gamma_1,\gamma_2)=K(\delta)$ となる $\delta$ があり、$L=K(\delta,\gamma_3,\dots,\gamma_m)$ は $m-1$ 個の元で生成されて $m$ の最小性に反する。よって $m\le1$ であり、$L/K$ は単純拡大である($m=0$ なら $L=K=K(0)$)。$\square$

2 ⇒ 1 の (*) は Galois理論 の記事の定理「有限次分離拡大は単純拡大である」の証明の 2 と同じ議論である。1 ⇒ 2 の証明から、単純拡大 $K(\theta)/K$ の中間体の個数は $m_{\theta,K}$ の $K(\theta)[x]$ におけるモニックな約元の個数以下であることも分かる。

Galois 対応を経由する証明

Galois 理論による別証明

有限次分離拡大 $L/K$ は、ある有限次 Galois拡大 $N/K$ の中間体として実現できる($L$ の生成元の最小多項式の積の分解体をとる)。Galois理論 の基本定理により $N/K$ の中間体は有限群 $\operatorname{Gal}(N/K)$ の部分群と 1 対 1 に対応するので有限個であり、$L/K$ の中間体も有限個である。すると thm-primitive-element-intermediate の 2 ⇒ 1 により $L/K$ は単純拡大である。この証明は Galois理論 の記事の定理「有限次分離拡大は単純拡大である」にある。
本記事の証明はこれと順序が逆である。thm-primitive-element を直接示し、thm-primitive-element-intermediate の 1 ⇒ 2 と合わせて中間体の有限性を導く(cor-primitive-element-finitely-many)。こちらは Galois 理論を使わず、また $\alpha$ の分離性を仮定しない形(thm-primitive-element の 2)まで得られる。

例と反例

2 の立方根と 1 の原始 3 乗根

$\alpha=\sqrt[3]2\in\mathbb{R}$、$\omega=(-1+\sqrt{-3})/2\in\mathbb{C}$ とし、$L=\mathbb{Q}(\alpha,\omega)$ とする。$L$ は $x^3-2$ の $\mathbb{Q}$ 上の分解体で、$[L:\mathbb{Q}]=6$ である(分解体 の記事の例「$x^3-2$ の分解体」)。$L=\mathbb{Q}(\alpha+\omega)$ であることを lem-primitive-element-two で確かめる。
$\Omega=\mathbb{C}$ とする。$f=x^3-2$ の根は $\alpha_1=\alpha$、$\alpha_2=\omega\alpha$、$\alpha_3=\omega^2\alpha$ であり、$g=m_{\omega,\mathbb{Q}}=x^2+x+1$ の根は $\beta_1=\omega$、$\beta_2=\omega^2=\overline{\omega}$ である。標数 $0$ なので $\omega$ は分離的である。$c=1$ が条件 $\alpha_i+\beta_2\neq\alpha+\beta_1$ を満たすこと、すなわち $\alpha_i-\alpha\neq\omega-\omega^2$($i=1,2,3$)を示せばよい。右辺は $\omega-\omega^2=\sqrt{-3}$ で、複素数としての絶対値は $\sqrt3$ である。左辺は $0$、$\alpha(\omega-1)$、$\alpha(\omega^2-1)$ のいずれかで、$|\omega-1|=|\omega^2-1|=\sqrt3$ なので絶対値は $0$ か $\sqrt[3]2\cdot\sqrt3$ である。どちらも $\sqrt3$ と異なるので条件は成り立ち、$L=\mathbb{Q}(\sqrt[3]2+\omega)$ である。したがって $\sqrt[3]2+\omega$ の $\mathbb{Q}$ 上の最小多項式は $6$ 次である。
同じ補題で $c=1$、$\alpha=\sqrt2$、$\beta=\sqrt3$ とすると、条件 $\pm\sqrt2-\sqrt3\neq\sqrt2+\sqrt3$ は明らかに成り立ち、$\mathbb{Q}(\sqrt2,\sqrt3)=\mathbb{Q}(\sqrt2+\sqrt3)$ が再び得られる。

分離的でない元を含む単純拡大

$p$ を素数、$K=\mathbb{F}_p(t)$ を有理関数体、$u$ を $u^p=t$ を満たす元とする。$K(u)/K$ は定義により単純拡大であるが、$u$ の最小多項式 $x^p-t=(x-u)^p$ は重根をもつので分離拡大でない(分離拡大 の記事の例「反例:p 乗根の添加は分離的でない」)。よって thm-primitive-element の 1 の仮定「分離拡大」は、単純拡大であるための十分条件であって必要条件ではない。
さらに $p$ が奇素数なら、$\beta$ を $\beta^2=t+1$ を満たす元とすると、$x^2-(t+1)$ の形式微分 $2x$ との最大公約数は $1$ なので $\beta$ は $K$ 上分離的であり、thm-primitive-element の 2 により $K(u,\beta)$ は単純拡大で、有限個を除く $c\in K$ について $K(u,\beta)=K(u+c\beta)$ である。分離的でない生成元が 1 つだけなら、単純性は失われない。

反例:小さい有限体の上では 1 次結合の原始元がとれない

$K=\mathbb{F}_2$ とし、$L=\mathbb{F}_{64}$ を位数 $64$ の有限体とする。有限体 の記事の命題「有限体の部分体」により、$L$ の部分体は位数 $2,4,8,64$ のものがただ 1 つずつある。$\alpha\in\mathbb{F}_8\setminus\mathbb{F}_2$、$\gamma\in\mathbb{F}_4\setminus\mathbb{F}_2$ をとり、$\beta:=\alpha+\gamma$ とおく。
$K(\alpha,\beta)$ は $\alpha$ と $\gamma=\beta-\alpha$ を含むので、$\mathbb{F}_2(\alpha)=\mathbb{F}_8$ と $\mathbb{F}_2(\gamma)=\mathbb{F}_4$ を含む(位数 $8$、$4$ の部分体の真部分体は $\mathbb{F}_2$ だけである)。同じ命題を $K(\alpha,\beta)$ に適用すると、その位数 $2^d$ の $d$ は $3$ と $2$ で割り切れ、$6$ の約数なので $d=6$、すなわち $K(\alpha,\beta)=L$ である。$L$ は有限次分離拡大なので単純拡大であり、thm-primitive-element が成り立つ。
しかし $c\in K=\{0,1\}$ に対する $\alpha+c\beta$ は、$c=0$ なら $\alpha\in\mathbb{F}_8$、$c=1$ なら(標数 $2$ なので)$\alpha+\beta=\gamma\in\mathbb{F}_4$ であり、どちらも $L$ を生成しない。この例は「$L=K(\alpha,\beta)$ で $\beta$ が分離的」を満たすが「$K$ が無限体、または $K$ の元の個数が $r(s-1)$ より多い」を満たさず(ここで $r=3$、$s=6$)、lem-primitive-element-two の 2 の結論「$\alpha+c\beta$ の形の原始元がある」を破る($s=[K(\beta):K]=6$ である。$\beta\in\mathbb{F}_8$ なら $\gamma=\beta-\alpha\in\mathbb{F}_8\cap\mathbb{F}_4=\mathbb{F}_2$、$\beta\in\mathbb{F}_4$ なら $\alpha\in\mathbb{F}_4\cap\mathbb{F}_8=\mathbb{F}_2$ となって、いずれも選び方に反するので、$K(\beta)$ は位数 $64$ の部分体である)。有限体の上で prf-primitive-element が 1 次結合を使わずに乗法群の生成元をとるのはこのためである。

反例:原始元をもたない有限次拡大

$p$ を素数、$L=\mathbb{F}_p(s,t)$ を 2 変数の有理関数体、$K=\mathbb{F}_p(s^p,t^p)$ とする。分離拡大 の記事の例「反例:原始元をもたない有限次拡大」により、$[L:K]=p^2$ であり、すべての $\alpha\in L$ について $\alpha^p\in K$、したがって $[K(\alpha):K]\le p$ であって、$L/K$ は単純拡大でない。
thm-primitive-element-intermediate のとおり、$L/K$ は無限個の中間体をもつ。それを具体的に示す。$K$ は相異なる元 $s^p,s^{2p},s^{3p},\dots$ を含むので無限体である。$c\in K$ ごとに $M_c:=K(s+ct)$ とおく。$c\neq c'$ で $M_c=M_{c'}$ なら、prf-primitive-element-intermediate の (*) と同じ計算で $s,t\in M_c$ となり、$M_c=L$ である。ところが $[M_c:K]=[K(s+ct):K]\le p< p^2$ なので、これは起こらない。よって $M_c$($c\in K$)は相異なる中間体であり、無限個ある。
この拡大では $K$ に属さない元はどれも分離的でない($\alpha\notin K$ の最小多項式は $x^p-\alpha^p=(x-\alpha)^p$ を割り切るので、$(x-\alpha)^k$、$k\ge2$ の形になる)。したがって $L=K(\alpha,\beta_1,\dots,\beta_r)$ と書いて $\beta_1,\dots,\beta_r$ がすべて分離的なら、それらは $K$ に属し、$L=K(\alpha)$ となって単純でないことに反する。thm-primitive-element の 2 の仮定を満たす書き方は存在しない。この例は「有限次拡大」を満たすが「分離拡大」を満たさず、thm-primitive-element の 1 の結論「単純拡大である」を破る。分離的でない生成元が 2 つ以上必要になると、単純性は失われうる。

反例:有限次でない拡大
  1. $K$ を体、$K(t)$ を 1 変数の有理関数体とする。$K(t)/K$ は $t$ で生成される単純拡大であるが、中間体 $K(t^n)$($n\ge1$)は相異なる。実際 $[K(t):K(t^n)]=n$ である(拡大次数 の記事の命題「有理関数体の冪による部分体上の次数」)。この例は「単純拡大である」を満たすが「有限次拡大」を満たさず、thm-primitive-element-intermediate の 1 ⇒ 2(単純なら中間体は有限個)を破る。定理の有限次の仮定は外せない。
  2. 代数的な元 $\theta$ による単純拡大 $K(\theta)$ は $K$ 上 $\deg m_{\theta,K}$ 次で有限次である。よって無限次の代数拡大は単純拡大でない。たとえば $\mathbb{C}$ の中の代数的数全体 $\overline{\mathbb{Q}}$ は $\mathbb{Q}$ 上の無限次代数拡大で(体の拡大 の記事の例「反例:代数拡大だが有限次でない拡大」)、標数 $0$ なので分離拡大であるが、単純拡大でない。この例は「分離拡大」を満たすが「有限次拡大」を満たさず、thm-primitive-element の 1 の結論を破る。

帰結と応用

有限次分離拡大の中間体の有限性

有限次分離拡大の中間体は有限個である。

thm-primitive-element の 1 により単純拡大であり、thm-primitive-element-intermediate の 1 ⇒ 2 により中間体は有限個である。$\square$

埋め込みの個数と拡大次数

$L/K$ を有限次分離拡大、$\Omega$ を $K$ を含む代数閉体とする。$K$ の元を動かさない体の準同型 $L\to\Omega$($K$ 上の埋め込み)はちょうど $[L:K]$ 個ある。

thm-primitive-element の 1 により $L=K(\theta)$ と書ける。$L/K$ は分離拡大なので $\theta$ は分離的である。分離拡大 の記事の命題「単純拡大の埋め込みの個数」により、$K$ 上の埋め込み $K(\theta)\to\Omega$ の個数は $\deg m_{\theta,K}=[K(\theta):K]=[L:K]$ に等しい。$\square$

この系は 分離拡大 の記事で分離次数の性質として出典つきで述べられている事実($[L:K]_s=[L:K]$)の、原始元による証明である。

原始元定理が使われる場面
  1. $L=K(\theta)$ と書けると、$L\cong K[x]/(m_{\theta,K})$ であり、$L/K$ の正規閉包は $m_{\theta,K}$ の分解体として 1 つの多項式から得られる。$L/K$ が分離的なら、これは $K$ 上の Galois拡大 である。
  2. 代数体($\mathbb{Q}$ の有限次拡大)は標数 $0$ なので分離的であり、すべて $\mathbb{Q}(\theta)$ の形に書ける。$\theta$ に適当な $0$ でない整数 $d$ を掛けると $d\theta$ は代数的整数になり(代数的整数 の記事の命題「代数的数の整数倍」)、$\mathbb{Q}(d\theta)=\mathbb{Q}(\theta)$ なので、原始元は代数的整数にとれる。
  3. 体 $K$ 上の有限次分離拡大 $L$ は $K[x]/(h)$($h$ は既約な分離多項式)と表され、$h'(\theta)\neq0$ となる。代数幾何学では、この表示を用いて体の有限次分離拡大がエタール射の最も簡単な例であることが確かめられる。

関連項目

参考文献

[1]
Serge Lang, Algebra, Revised 3rd ed.(Graduate Texts in Mathematics 211), Springer, 2002, Chapter V §4(分離拡大と原始元定理、中間体の有限性による特徴づけ)

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