Hodge–Riemann双線形関係(Hodge–Riemann bilinear relations)とは、複素次元 $n$ のコンパクト Kähler 多様体の $k$ 次($k\le n$)の原始コホモロジー上の形式 $Q(\xi,\eta)=(-1)^{k(k-1)/2}\int\omega^{n-k}\wedge\xi\wedge\eta$ について、型 $(p,q)$ の類は型 $(q,p)$ の類とだけ対になり、$0$ でない $\xi\in P^{p,q}$ で $i^{p-q}Q(\xi,\bar\xi)>0$ となるという関係である。帰結として交叉形式の符号数が $\sum(-1)^ph^{p,q}$ に等しいという Hodge 指数定理を得る。Kähler 曲面の $(1,1)$ 類の交叉形式は符号 $(1,h^{1,1}-1)$ をもつ。
前提知識: Hard Lefschetz定理, Hodge分解, Kählerの恒等式, Kähler形式, Hodge構造
Hodge–Riemann双線形関係(Hodge–Riemann bilinear relations)とは、複素次元 $n$ のコンパクト Kähler 多様体 $(X,\omega)$ の $k$ 次($k\le n$)の原始コホモロジー上の双線形形式
$$
Q(\xi,\eta):=(-1)^{k(k-1)/2}\int_X\omega^{n-k}\wedge\xi\wedge\eta
$$
について成り立つ 2 つの関係
$$
Q(P^{p,q},P^{p',q'})=0\quad((p',q')\neq(q,p)),\qquad i^{p-q}Q(\xi,\bar\xi)>0\quad(0\neq\xi\in P^{p,q})
$$
のことである。ここで $P^{p,q}$ は型 $(p,q)$ の原始的な類の空間(Hard Lefschetz定理 の定義「原始コホモロジー」)である。コンパクト Riemann 面の正則 1 形式 $\eta$ についての古典的な Riemann の関係 $\int_X\eta\wedge\eta'=0$、$i\int_X\eta\wedge\bar\eta>0$ を、高次元の原始コホモロジーへ一般化したものである。
帰結として、交叉形式の符号が Hodge 数で決まる Hodge 指数定理 が得られる。複素次元が偶数 $n=2m$ なら、$H^{2m}(X,\mathbb R)$ 上のカップ積形式の符号数は $\sum_{p,q}(-1)^ph^{p,q}$ に等しく、とくに Kähler 曲面の $(1,1)$ 類の上の交叉形式は符号 $(1,h^{1,1}-1)$ をもつ。また、Hard Lefschetz 定理と合わせて、コホモロジーが偏極 Hodge 構造(Hodge構造)になることを保証する。
この記事では、一般の $(p,q)$ の場合を各点の線形代数の公式(Weil の公式)に帰着して示し、その公式は $(p,0)$ 型と $(1,1)$ 型の場合に完全に証明する。後者から $(1,1)$ 類の Hodge 指数定理を、主定理から符号数の公式を導く。
$X$ を複素次元 $n$ のコンパクト Kähler 多様体、$\omega$ を Kähler 形式とし、$L$、$P^k(X)$、$P^{p,q}(X)$ を Hard Lefschetz定理 の記事のとおりとする。
$0\le k\le n$ について、$H^k(X,\mathbb C)$ 上の双線形形式
$$
Q(\xi,\eta):=(-1)^{k(k-1)/2}\int_X\omega^{n-k}\wedge\xi\wedge\eta
$$
を Hodge–Riemann 形式 という。右辺は閉形式の代表で計算する。
$d\omega=0$ なので、代表を $\xi+d\beta$ に替えても $\omega^{n-k}\wedge d\beta\wedge\eta=\pm d(\omega^{n-k}\wedge\beta\wedge\eta)$ の積分は Stokes の定理により $0$ で、$Q$ は代表によらない。$Q$ は実係数の類の上で実数値をとり、$Q(\eta,\xi)=(-1)^kQ(\xi,\eta)$ をみたす。符号 $(-1)^{k(k-1)/2}$ は、次の関係 2 の符号が型だけで決まるように選んだ規格化である。
$X$ を複素次元 $n$ のコンパクト Kähler 多様体、$0\le k\le n$、$p+q=k$ とする。
証明は、調和代表をとって各点の公式に帰着する。一般の型の各点の公式はこの記事では証明せず、次のものを引用する。
$(X,\omega)$ を複素次元 $n$ の Hermite 多様体、$x\in X$、$\alpha\in\Lambda^{p,q}T^*_xX$ を原始的($\Lambda\alpha=0$)、$k:=p+q\le n$ とする。このとき
$$
i^{p-q}(-1)^{k(k-1)/2}\,\omega^{n-k}\wedge\alpha\wedge\bar\alpha=(n-k)!\,|\alpha|^2\,\mathrm{vol}
$$
である(各点の内積と体積形式は Kählerの恒等式 の記事と同じ規格化 $\omega=\frac i2\sum_j\theta_j\wedge\bar\theta_j$、$|\theta_j|^2=2$ による)。これは原始形式の Hodge スター作用素を $\omega$ の冪で表す Weil の公式 $*\alpha=(-1)^{k(k+1)/2}\,i^{p-q}\,\frac{1}{(n-k)!}\,\omega^{n-k}\wedge\alpha$ と、$\alpha\wedge*\bar\alpha=|\alpha|^2\mathrm{vol}$ から従う。Weil の公式は Wel08 Ch. V Theorem 3.16(p. 187)にあり、主定理の証明への使い方は同書 Theorem 6.3 の証明(p. 207)にある(同書は規格化が違い、定数が正の数倍ずれる)。$(p,0)$ 型と $(1,1)$ 型の場合は下の prop-hr-p0 と prop-hr-11 で証明する。
$\omega$ の定める Kähler 計量をとる。$\xi\in P^{p,q}(X)$ の調和代表を $\alpha$ とする。Hodge分解 の定理「Hodge 分解定理」の 4 により $\alpha$ は型 $(p,q)$ であり、Hard Lefschetz定理 の主定理の 4 により各点で原始的である。$\Delta$ は実の作用素なので $\bar\alpha$ は調和で、$\bar\xi$ の代表である。
1.$\eta$ の調和代表 $\beta$ は型 $(p',q')$ で、$\omega^{n-k}\wedge\alpha\wedge\beta$ は型 $(n-k+p+p',\,n-k+q+q')$ である。$2n$ 次形式で $0$ でありうるのは型 $(n,n)$ だけなので、$p+p'=k$、すなわち $p'=q$、$q'=p$ でなければ積分は $0$ である。
2.rem-hr-cited を各点で使って積分すると
$$
i^{p-q}Q(\xi,\bar\xi)=\int_Xi^{p-q}(-1)^{k(k-1)/2}\,\omega^{n-k}\wedge\alpha\wedge\bar\alpha=(n-k)!\,\|\alpha\|^2
$$
である。$\xi\neq0$ なので $\alpha\neq0$ で、右辺は正である。
3.Hermite 形式であることは $\overline{i^{p-q}Q(\xi,\bar\eta)}=i^{q-p}Q(\bar\xi,\eta)=i^{q-p}(-1)^kQ(\eta,\bar\xi)=i^{p-q}Q(\eta,\bar\xi)$($(-1)^ki^{q-p}=i^{p-q}$ は $p+q=k$ による)から、正定値であることは 2 から分かる。非退化性:$0\neq\xi=\sum_{p+q=k}\xi^{p,q}\in P^k(X)$(Hard Lefschetz定理 の主定理の 3 による分解)について $\eta:=\sum_{p+q=k}i^{p-q}\,\overline{\xi^{p,q}}\in P^k(X)$ とおくと、1 により $Q(\xi,\eta)=\sum_{p+q=k}i^{p-q}Q(\xi^{p,q},\overline{\xi^{p,q}})>0$ である。$\square$
証明で Kähler 条件を使うのは、調和代表が型 $(p,q)$ で各点で原始的になるところ(Hard Lefschetz 定理の主定理の 3・4)である。定理は Wel08 Ch. V Theorem 6.3(p. 207)にある(同書の $Q$ は原始コホモロジーの上で $(-1)^{k(k+1)/2}\int_X\omega^{n-k}\wedge\xi\wedge\eta$、すなわちこの記事の $Q$ の $(-1)^k$ 倍で、関係 2 を $i^{q-p}Q(\xi,\bar\xi)>0$ の形で述べている。2 つの形は同値である)。同書は $Q$ を $H^k$ 全体に Lefschetz 分解を使って延ばし、そこでも非退化であることを示している(Theorem 6.1、p. 203)。
点 $x$ で、計量についてユニタリな余枠 $\theta_1,\dots,\theta_n$($\omega_x=\frac i2\sum_j\theta_j\wedge\bar\theta_j$、$|\theta_j|^2=2$)をとり、$e_j:=\theta_j\wedge\bar\theta_j$ とおく。2 次形式 $e_j$ どうしは可換で $e_j\wedge e_j=0$、$\frac i2e_j$ は向きを定める実 2 次形式で、$\bigl(\frac i2\bigr)^ne_1\wedge\cdots\wedge e_n=\omega^n/n!=\mathrm{vol}$ である(Hodge分解 の命題「Hodge 数の関係」の 4 の証明)。多項定理から
$$
\omega^m=\Bigl(\frac i2\Bigr)^mm!\sum_{|S|=m}e_S\qquad(e_S:=e_{j_1}\wedge\cdots\wedge e_{j_m},\ S=\{j_1< \cdots< j_m\})
$$
である。
$\alpha\in\Lambda^{p,0}T^*_x$($p\le n$)は原始的で、
$$
i^{p}(-1)^{p(p-1)/2}\,\omega^{n-p}\wedge\alpha\wedge\bar\alpha=(n-p)!\,|\alpha|^2\,\mathrm{vol}
$$
が成り立つ。
$\Lambda$ は型を $(-1,-1)$ ずらすので、$(p,0)$ 形式に $\Lambda$ を施すと $0$ である。$\alpha=\sum_{|I|=p}a_I\theta_I$ と書き、冒頭の式で $\omega^{n-p}\wedge\alpha\wedge\bar\alpha$ を展開すると、$\theta_I\wedge\bar\theta_J$ のうち $I=J$ の項だけが残る。
$\omega^{n-p}\wedge\theta_I\wedge\bar\theta_J$ の $e_S$($|S|=n-p$)の項が $0$ でないのは、$I$ と $J$ がともに $S$ の補集合に一致するときだけである。$\theta_I\wedge\bar\theta_I=(-1)^{p(p-1)/2}e_I$($\bar\theta_{i_1}$ を左へ $p-1$ 個、$\bar\theta_{i_2}$ を $p-2$ 個、… 動かす)なので $$\omega^{n-p}\wedge\alpha\wedge\bar\alpha=\Bigl(\frac i2\Bigr)^{n-p}(n-p)!\,(-1)^{p(p-1)/2}\sum_I|a_I|^2\,e_1\wedge\cdots\wedge e_n=(n-p)!\,(-1)^{p(p-1)/2}\,2^pi^{-p}\sum_I|a_I|^2\,\mathrm{vol}$$ である($e_1\wedge\cdots\wedge e_n=(2/i)^n\mathrm{vol}$)。$\theta_I$ たちは直交し $|\theta_I|^2=2^p$ なので $|\alpha|^2=2^p\sum_I|a_I|^2$ であり、両辺に $i^p(-1)^{p(p-1)/2}$ を掛けて主張を得る。$\square$
$n\ge2$ とし、$\alpha\in\Lambda^{1,1}T^*_x$ を原始的な形式とする。このとき
$$
-\,\omega^{n-2}\wedge\alpha\wedge\bar\alpha=(n-2)!\,|\alpha|^2\,\mathrm{vol}
$$
が成り立つ。とくに実の原始的な $(1,1)$ 形式 $\alpha\neq0$ について $\omega^{n-2}\wedge\alpha\wedge\alpha$ は体積形式の負の倍である。
実の場合.実 $(1,1)$ 形式は $\alpha=\frac i2\sum_{j,k}a_{jk}\theta_j\wedge\bar\theta_k$ と書け、$\bar\alpha=\alpha$ は行列 $A=(a_{jk})$ が Hermite 行列であることと同値である。ユニタリ行列 $U$ で余枠を $\theta'=U\theta$ に替えても $\omega_x=\frac i2\sum_j\theta'_j\wedge\bar\theta'_j$ の形は変わらず、$A$ は $U$ で共役な行列に変わる。Hermite 行列はユニタリ行列で対角化できるので、はじめから $\alpha=\frac i2\sum_j\lambda_je_j$($\lambda_j\in\mathbb R$)としてよい。Kählerの恒等式 の補題「$L$ と $\Lambda$ の表示」の $\Lambda=-2i\sum_l\bar\iota_l\iota_l$ から $\Lambda e_j=-2i$ なので、$\Lambda\alpha=\sum_j\lambda_j$ であり、原始的であることは $\sum_j\lambda_j=0$ と同値である。$e_j$ どうしは可換で $e_j^2=0$ なので $\alpha\wedge\alpha=\bigl(\frac i2\bigr)^2\,2\sum_{j< k}\lambda_j\lambda_ke_j\wedge e_k$ であり、冒頭の式から
$$
\omega^{n-2}\wedge\alpha\wedge\alpha=\Bigl(\frac i2\Bigr)^n(n-2)!\,2\sum_{j< k}\lambda_j\lambda_k\,e_1\wedge\cdots\wedge e_n=(n-2)!\Bigl(\Bigl(\sum_j\lambda_j\Bigr)^2-\sum_j\lambda_j^2\Bigr)\mathrm{vol}=-(n-2)!\sum_j\lambda_j^2\,\mathrm{vol}
$$
である。$e_j$ たちは直交し $|e_j|^2=|\theta_j|^2|\bar\theta_j|^2=4$ なので $|\alpha|^2=\sum_j\lambda_j^2$ で、主張を得る。
一般の場合.$\alpha=\beta+i\gamma$($\beta:=\frac12(\alpha+\bar\alpha)$、$\gamma:=\frac1{2i}(\alpha-\bar\alpha)$)は実 $(1,1)$ 形式に分かれ、$\Lambda$ は実の作用素なので $\beta$、$\gamma$ も原始的である。2 次形式どうしは可換なので $\alpha\wedge\bar\alpha=\beta\wedge\beta+\gamma\wedge\gamma$、また $|\alpha|^2=|\beta|^2+|\gamma|^2$(実形式どうしの内積は実数)であり、実の場合から主張が従う。$\square$
$(0,p)$ 型の場合は prop-hr-p0 の共役をとれば得られる。$(p,0)$ 型・$(0,p)$ 型・$(1,1)$ 型では、thm-hr-main は引用なしに完全に証明されたことになる。とくに正則形式について次が成り立つ。
$X$ をコンパクト Kähler 多様体、$\eta$ を $0$ でない正則 $p$ 形式($p\le n$)とすると
$$
i^{p}(-1)^{p(p-1)/2}\int_X\omega^{n-p}\wedge\eta\wedge\bar\eta=(n-p)!\,\|\eta\|^2>0
$$
である。$n=p=1$(コンパクト Riemann 面の正則 1 形式)では $\int_X\eta\wedge\eta'=0$、$i\int_X\eta\wedge\bar\eta>0$ である(Riemann の双線形関係)。
prop-hr-p0 を各点で使って積分すればよい。Riemann 面の前半は、$\eta\wedge\eta'$ が型 $(2,0)$ で、1 次元では $0$ であることによる。$\square$
正則形式は $d$ 閉であり(Kählerの恒等式 の系「コンパクト Kähler 多様体上の正則形式と Kähler 形式の冪」)、$\omega^{n-p+1}\wedge\eta$ は型 $(n+1,n-p+1)$ なので $0$ だから、$[\eta]\in P^{p,0}(X)$ であり、この系は主定理の $(p,0)$ 型の場合にあたる。
$X$ を複素次元 $n\ge2$ の連結なコンパクト Kähler 多様体、$\omega$ を Kähler 形式とし、$H^{1,1}_{\mathbb R}(X):=H^{1,1}(X)\cap H^2(X,\mathbb R)$ の上の対称双線形形式
$$
q(\xi,\eta):=\int_X\omega^{n-2}\wedge\xi\wedge\eta
$$
を考える。このとき $H^{1,1}_{\mathbb R}(X)=\mathbb R[\omega]\oplus P^{1,1}_{\mathbb R}(X)$ は $q$ について直交する分解であり、$q$ は $\mathbb R[\omega]$ の上で正定値、$P^{1,1}_{\mathbb R}(X):=P^{1,1}(X)\cap H^2(X,\mathbb R)$ の上で負定値である。とくに $q$ は非退化で、符号 $(1,\,h^{1,1}-1)$ をもつ。
分解.Hard Lefschetz定理 の主定理の 3 により $H^{1,1}(X)=P^{1,1}(X)\oplus L\,P^{0,0}(X)$ で、$X$ は連結なので $P^{0,0}(X)=H^0(X,\mathbb C)=\mathbb C$、$L\,P^{0,0}=\mathbb C[\omega]$ である。$L$ は実係数の写像で $H^{1,1}(X)$ は複素共役で保たれるので、$P^{1,1}(X)=\ker(L^{n-1})\cap H^{1,1}(X)$ も複素共役で保たれ、実の部分をとって $H^{1,1}_{\mathbb R}=\mathbb R[\omega]\oplus P^{1,1}_{\mathbb R}$ を得る。$\dim P^{1,1}=h^{1,1}-h^{0,0}=h^{1,1}-1$ である(同記事の系「Betti 数と Hodge 数の不等式」の 2)。
直交性と正値性.$q([\omega],[\omega])=\int_X\omega^n=n!\operatorname{vol}(X)>0$ である。$\xi\in P^{1,1}$ は原始的なので $L^{n-1}\xi=0$、すなわち $q([\omega],\xi)=\int_X\omega^{n-1}\wedge\xi=0$ である。
負定値性.$0\neq\xi\in P^{1,1}_{\mathbb R}$ の調和代表 $\alpha$ は実で($\Delta$ は実の作用素)、型 $(1,1)$ で、各点で原始的である(同記事の主定理の 4)。prop-hr-11 により各点で $\omega^{n-2}\wedge\alpha\wedge\alpha=-(n-2)!|\alpha|^2\mathrm{vol}$ なので、$q(\xi,\xi)=-(n-2)!\|\alpha\|^2<0$ である。$\square$
この証明は rem-hr-cited を使わず、prop-hr-11 だけで完結している。$n=2$ では $q$ は $H^{1,1}_{\mathbb R}$ 上のカップ積そのもので、Kähler 曲面の $(1,1)$ 類の交叉形式は符号 $(1,h^{1,1}-1)$ をもつ。複素射影曲面では、豊富な因子の類は Kähler 類であり、Néron–Severi 群は $H^{1,1}$ の中の整数係数の類からなる(Hodge分解 の定理「Lefschetz の $(1,1)$ 定理」)。符号 $(1,m)$ の形式を正の元を含む部分空間に制限すると、正の元の直交補空間は負定値なので、符号は $(1,\text{次元}-1)$ になる。こうして 交叉理論 の定理「交叉形式の符号」の 1(代数的な Hodge 指数定理)の複素数体上の形が得られる(豊富な因子の類が Kähler 類であることと、交叉数とカップ積の一致はこの記事では証明しない)。
$X$ を複素次元 $n=2m$ のコンパクト Kähler 多様体とし、$\tau(X)$ を $H^{2m}(X,\mathbb R)$ 上の対称双線形形式 $B(\xi,\eta):=\int_X\xi\wedge\eta$ の符号数(正の固有値の個数から負の固有値の個数を引いたもの)とする。このとき
$$
\tau(X)=\sum_{p,q=0}^n(-1)^ph^{p,q}(X)
$$
である。
段 1:直交分解.Hard Lefschetz定理 の主定理の 2・3 により $H^{2m}(X,\mathbb C)=\bigoplus_{r\ge0}\bigoplus_{a+b=2m-2r}L^rP^{a,b}$ である。$\zeta\in P^{a,b}$、$\zeta'\in P^{a',b'}$($a+b=2m-2r$、$a'+b'=2m-2s$)について $B(L^r\zeta,L^s\zeta')=\int_X\omega^{r+s}\wedge\zeta\wedge\zeta'$ である。$r< s$ なら $r+s\ge2r+1=n-(a+b)+1$ なので $L^{r+s}\zeta=0$(原始的)で、これは $0$ である。$r=s$ なら、主定理の証明の 1 と同じ型の比較により $(a',b')=(b,a)$ でなければ $0$ である。
段 2:各部分の符号.$a\le b$ について、$W_{r,a,b}$ を $L^r(P^{a,b}+P^{b,a})$ の実の元の空間とする($L$ は実で、複素共役は $P^{a,b}$ と $P^{b,a}$ を入れ替える)。$k:=a+b$ は偶数なので $(-1)^{k(k-1)/2}=(-1)^{k/2}$、$i^{a-b}=(-1)^{(a-b)/2}$ であり、thm-hr-main の 2 は $\zeta\neq0$ について
$$
(-1)^{(a-b)/2+k/2}\int_X\omega^{2r}\wedge\zeta\wedge\bar\zeta=(-1)^a\int_X\omega^{2r}\wedge\zeta\wedge\bar\zeta>0
$$
を意味する($n-k=2r$)。$a< b$ のとき $W_{r,a,b}$ の元は $L^r(\zeta+\bar\zeta)$($\zeta\in P^{a,b}$)で、型の比較から $B(L^r(\zeta+\bar\zeta),L^r(\zeta+\bar\zeta))=2\int_X\omega^{2r}\wedge\zeta\wedge\bar\zeta$ である。$a=b$ のとき $W_{r,a,a}$ の元は $L^r\zeta$($\zeta=\bar\zeta$)で、$B(L^r\zeta,L^r\zeta)=\int_X\omega^{2r}\wedge\zeta\wedge\bar\zeta$ である。いずれの場合も $B$ は $W_{r,a,b}$ の上で符号 $(-1)^a$ の定値で、$\dim_{\mathbb R}W_{r,a,b}=\dim P^{a,b}+\dim P^{b,a}$($a< b$)、$=\dim P^{a,a}$($a=b$)である。
段 3:数え上げ.段 1 により $H^{2m}(X,\mathbb R)$ は $W_{r,a,b}$ たちの $B$ について直交する直和なので、$(-1)^a=(-1)^b$ に注意して
$$
\tau(X)=\sum_{a+b\ \text{偶数},\ a+b\le n}(-1)^a\dim P^{a,b}
$$
である。一方、主定理の 3 の $H^{p,q}=\bigoplus_{s\ge0}L^sP^{p-s,q-s}$ と、$L^s$ が $P^{a,b}$ の上で $0\le s\le n-a-b$ なら単射、$s>n-a-b$ なら $0$ であること(同記事の主定理の 2)から
$$
\sum_{p,q}(-1)^ph^{p,q}=\sum_{a+b\le n}(-1)^a\dim P^{a,b}\sum_{s=0}^{n-a-b}(-1)^s
$$
である。$n$ は偶数なので、内側の和は $a+b$ が偶数なら $1$、奇数なら $0$ である。よって両辺は一致する。$\square$
公式は Wel08 Ch. V §6 の注意(p. 208)に述べられている(同書は証明を与えていない)。$\sum_{p,q}(-1)^ph^{p,q}$ は $p+q$ が奇数の項が打ち消し合うので、$\sum_{p+q\ \text{偶数}}(-1)^ph^{p,q}$ に等しい。
$X$ を連結なコンパクト Kähler 曲面とし、$p_g:=h^{2,0}$ とおく。$H^2(X,\mathbb R)$ のカップ積形式の正の固有値の個数 $b^+$ と負の固有値の個数 $b^-$ は
$$
b^+=2p_g+1,\qquad b^-=h^{1,1}-1,\qquad\tau(X)=2+2p_g-h^{1,1}
$$
である。とくに $b^+$ は奇数である。
thm-hr-signature の証明の段 2 を $n=2$、$m=1$ に当てると、$H^2(X,\mathbb R)$ は $W_{0,0,2}$($P^{2,0}=H^{2,0}$ から、次元 $2p_g$、符号 $+$)、$W_{0,1,1}$($P^{1,1}$ から、次元 $h^{1,1}-1$、符号 $-$)、$W_{1,0,0}=\mathbb R[\omega]$(符号 $+$)の直交直和である。$H^{2,0}$ の類がすべて原始的なのは、$L\colon H^{2,0}\to H^{3,1}=0$ による。$\square$
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 原始的であること | $\mathbb P^1\times\mathbb P^1$ の $\xi=[\omega]=a+b$ | $i^{p-q}Q(\xi,\bar\xi)>0$ |
| 類が Kähler 類であること | $\mathbb P^1\times\mathbb P^1$ で $\omega$ の類を $a-b$ に替える | 原始的な $(1,1)$ 類で $Q(\xi,\bar\xi)>0$ |
| 型ごとの符号 $i^{p-q}$ | 楕円曲線の $[d\bar z]$ | $iQ(\xi,\bar\xi)>0$ が $P^1$ 全体で成り立つこと |
1 行目:$n=k=2$、$(p,q)=(1,1)$ では $i^{p-q}Q(\xi,\bar\xi)=-\int_X\xi\wedge\bar\xi$ で、$\xi=a+b$ では $-2<0$ である。$\xi$ は $L\xi=2ab\neq0$ なので原始的でない。Lefschetz 分解の $LP^0$ の部分では符号が逆になる(thm-hr-index-11 の正の部分)。
2 行目:$c:=a-b$ を Kähler 類の代わりに使い、原始性を $c\cup\xi=0$ で定めると、$\xi=a+b$ が「原始的」になる($(a-b)(a+b)=0$)。しかし $-\int_X\xi^2=-2<0$ である。$c$ は $c^2=-2<0$ で、どの Kähler 形式の類でもない(Kähler 類は $\int\omega^2>0$ をみたす)。
3 行目:楕円曲線で $\xi=[d\bar z]\in P^{0,1}$ とすると $i\,Q(\xi,\bar\xi)=i\int_Ed\bar z\wedge dz=-2\operatorname{area}(E)<0$ である。関係 2 の係数 $i^{p-q}=i^{-1}$ を正しく使えば $i^{-1}Q(\xi,\bar\xi)=2\operatorname{area}(E)>0$ となる。$Q$ に掛ける符号は型ごとに違い、$P^k$ 全体では一般に定符号にならない。
注意を 2 つ挙げる。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する