誘導表現

同義語:induced representation

概要

誘導表現(induced representation)とは、群 $G$ の部分群 $H$ の表現 $W$ から、群環のテンソル積 $F[G]\otimes_{F[H]}W$ として作られる $G$ の表現である。表現空間は左剰余類ごとの $W$ の写しの直和で、$G$ の元は剰余類を置換しながら作用し、指数が有限なら次元は $[G:H]\dim W$、指標は剰余類の代表元による共役を使って $W$ の指標から計算できる。部分空間の移り先による直和分解で特徴づけられ、置換表現や正則表現は自明表現からの誘導として得られ、別の部分群に制限すると両側剰余類ごとの和に分かれる(Mackey の分解公式)。制限との間には Frobenius 相互律が成り立ち、有限群の表現を作り、調べるための基本の道具である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 群の表現, 群環, 剰余類, テンソル積

部分群 $H$ の表現から、群全体 $G$ の表現を作るもっとも基本的な方法が誘導である。$H$ の表現空間 $W$ を、$G/H$ の剰余類の数だけ並べて $\bigoplus_{tH\in G/H}t\otimes W$ とし、$G$ の元には「剰余類を置換しながら、ずれを $H$ の作用で補う」ように作用させる。たとえば 3 次巡回群 $A_3\subset S_3$ の 1 次元表現から誘導すると、$S_3$ の 2 次元の既約表現が得られる。$H$ の自明表現から誘導すれば $G/H$ 上の置換表現になり、単位群から誘導すれば正則表現になる。
誘導表現の指標は、$H$ の指標から剰余類の代表元による共役で計算でき、誘導したものを別の部分群に制限すると両側剰余類ごとの和に分かれる(Mackey の分解公式)。誘導は部分群への制限と Frobenius相互律 で結ばれていて、有限群の表現の多くはこの 2 つの操作で作られ、調べられる。

定義

この記事を通して、$G$ を群、$H$ をその部分群、$F$ を体とする。$G$ の $F$ 上の表現は群環 $F[G]$ 上の左加群と同じものである(群環 の命題「群環上の加群と群の表現」)。$H$ の表現 $(W,\sigma)$ について、$\sigma(h)w$ を $hw$ とも書く。
$F[G]$ は、右から $F[H]$ の元を掛けることで右 $F[H]$ 加群になる。右 $F[H]$ 加群 $F[G]$ と左 $F[H]$ 加群 $W$ のテンソル積 $F[G]\otimes_{F[H]}W$ を、$F$ 上のテンソル積 $F[G]\otimes_FW$(テンソル積)を、$xh\otimes w-x\otimes hw$($x\in F[G]$、$h\in H$、$w\in W$)の形の元が張る部分空間で割った商と定める。その元 $x\otimes w$ の像も $x\otimes w$ と書く。作り方から、$F$ 双線形写像 $\beta\colon F[G]\times W\to U$ で $\beta(xh,w)=\beta(x,hw)$ を満たすものは、線形写像 $F[G]\otimes_{F[H]}W\to U$、$x\otimes w\mapsto\beta(x,w)$ を一意に定める。

誘導表現

$(W,\sigma)$ を $H$ の $F$ 上の表現とする。ベクトル空間
$$ \operatorname{Ind}_H^GW:=F[G]\otimes_{F[H]}W $$
に $g\in G$ を $g\cdot(x\otimes w):=gx\otimes w$ で作用させた $G$ の表現を、$W$ から 誘導された表現、または 誘導表現(induced representation)という。$G$ の表現 $V$ の作用を $H$ に制限した $H$ の表現を $\operatorname{Res}^G_HV$ と書く。

$(x,w)\mapsto gx\otimes w$ は $(xh,w)$ と $(x,hw)$ で同じ値をとるので、$g$ の作用は well-defined な線形写像であり、$g\cdot(g'\cdot u)=(gg')\cdot u$、$1\cdot u=u$ を満たす。$G$ の左からの積と $H$ の右からの積が可換であることが、この定義の要である。$H$ の自明表現 $F$ を $\mathbf 1_H$ と書く。

剰余類による分解

$T\subset G$ を左剰余類 $G/H$ の代表系とし、$t\otimes W:=\{t\otimes w\mid w\in W\}$ とおく。

  1. $\operatorname{Ind}_H^GW=\bigoplus_{t\in T}t\otimes W$(ベクトル空間の直和)であり、各 $t\in T$ について $w\mapsto t\otimes w$ は $W$ から $t\otimes W$ への線形同型である。
  2. $g\in G$、$t\in T$ について、$gt\in t'H$ となる $t'\in T$ をとると $g(t\otimes w)=t'\otimes(t'^{-1}gt)w$ であり、$g(t\otimes W)=t'\otimes W$ である。また $h\in H$ なら $th\otimes W=t\otimes W$ であり、部分空間 $t\otimes W$ は剰余類 $tH$ だけで決まる。
  3. $[G:H]$ が有限で $W$ が有限次元なら、$\dim\operatorname{Ind}_H^GW=[G:H]\dim W$ である。

要点:$t\otimes w$ を $t$ 成分が $w$ の元に送る写像とその逆写像を、定義の前の段落の性質を使って直接作る。

詳しい証明を開く

1:$G$ は剰余類 $tH$($t\in T$)の非交和なので(剰余類 の命題「剰余類による分割」)、$G$ の各元は $th$($t\in T$、$h\in H$)の形にただ一通りに書ける。$W^{(T)}:=\bigoplus_{t\in T}W$(外部直和)とおく。$x=\sum_{t\in T,\,h\in H}a_{t,h}\,th\in F[G]$ と $w\in W$ について、$t$ 成分が $\sum_ha_{t,h}\,hw$ である $W^{(T)}$ の元を $\beta(x,w)$ とおく。$\beta$ は双線形で、基底の元 $x=th$ と $h'\in H$ について $\beta(thh',w)$ と $\beta(th,h'w)$ はどちらも $t$ 成分だけが $hh'w$ の元なので、$x$ について線形に延ばして $\beta(xh',w)=\beta(x,h'w)$ を満たす。よって線形写像 $\Theta\colon F[G]\otimes_{F[H]}W\to W^{(T)}$、$x\otimes w\mapsto\beta(x,w)$ が定まり、$\Theta(t\otimes w)$ は $t$ 成分だけが $w$ の元である。逆向きに $\Xi((w_t)_t):=\sum_tt\otimes w_t$(有限和)とおくと $\Theta\Xi=\mathrm{id}$ である。また $\Xi\Theta(th\otimes w)=t\otimes hw=th\otimes w$ で、$th\otimes w$ たちは $F[G]\otimes_{F[H]}W$ を張るので $\Xi\Theta=\mathrm{id}$ である。$\Xi$ は $t$ 成分の $W$ を $t\otimes W$ の上へ同型に移すので、1 を得る。

2:$h':=t'^{-1}gt\in H$ とおくと $gt=t'h'$ なので、$g(t\otimes w)=t'h'\otimes w=t'\otimes h'w$ である。$\sigma(h')$ は $W$ の全単射なので $g(t\otimes W)=t'\otimes W$ となる。同様に $th\otimes w=t\otimes hw$ から $th\otimes W=t\otimes W$ である。


3:1 から直ちに従う。$\square$

同じ分解は Web16 Proposition 4.3.1(p. 54)にある。基底で書くと誘導表現の形がよく見える。

行列で書いた誘導表現

$[G:H]=n$ が有限で $W$ が有限次元とし、$T=\{t_1,\dots,t_n\}$ とする。$\operatorname{Ind}_H^GW$ の基底を、$W$ の基底 $w_1,\dots,w_m$ から作った $t_i\otimes w_k$ の全体にとる。$x\in G$ について、$x\in H$ なら $\dot\sigma(x):=\sigma(x)$ の表現行列、$x\notin H$ なら $\dot\sigma(x):=O$($m$ 次の零行列)とおくと、prop-ind-cosets の 2 により $g$ の表現行列は、$(i,j)$ ブロックが $\dot\sigma(t_i^{-1}gt_j)$ の $n\times n$ ブロック行列である。各ブロック列には零でないブロックがちょうど 1 つあり、その位置は $g$ による剰余類の置換で決まる。$W$ が 1 次元なら、これは各行・各列に零でない成分がちょうど 1 つある行列(単項行列)になる。

誘導表現の特徴づけ

誘導表現は、「部分空間 $W$ の $G$ による移り先が $V$ を直和に分ける」という形で、与えられた表現の中に見つかる。

誘導表現の特徴づけ

$V$ を $G$ の表現、$W\subset V$ を $H$ の作用で保たれる部分空間とし、$W$ を $H$ の表現とみる。このとき
$$ \Phi\colon\operatorname{Ind}_H^GW\to V,\qquad x\otimes w\mapsto xw $$
は well-defined な表現の射である。$T$ を $G/H$ の代表系とすると、次は同値である。

  1. $\Phi$ は同型である。
  2. $V=\bigoplus_{t\in T}tW$ である。すなわち、部分空間 $tW$($t\in T$)の和は $V$ に等しく、その和は直和である。

$(x,w)\mapsto xw$ は $F$ 双線形で $(xh)w=x(hw)$ を満たすので、$\Phi$ は well-defined な線形写像であり、$\Phi(g(x\otimes w))=gxw=g\Phi(x\otimes w)$ なので表現の射である。
prop-ind-cosets の 1 により、$\operatorname{Ind}_H^GW$ の元は $\sum_{t\in T}t\otimes w_t$(有限個の $w_t$ を除いて $0$)と一意に書け、$\Phi\bigl(\sum_tt\otimes w_t\bigr)=\sum_ttw_t$ である。したがって、$\Phi$ が全射であることは $\sum_ttW=V$ と同値である。$\Phi$ が単射であることは、「$\sum_ttw_t=0$ ならすべての $w_t$ が $0$」と同値であり、$w\mapsto tw$ は単射なので、これは「$\sum_ttw_t=0$ ならすべての $tw_t$ が $0$」、すなわち和 $\sum_ttW$ が直和であることと同値である。$\square$

推移的に置換される直和分解

$V$ を $G$ の表現、$V=\bigoplus_{i\in I}V_i$ を $0$ でない部分空間の直和分解とする。各 $g\in G$ が $V_i$ たちを置換し($gV_i$ はある $V_j$ に等しい)、その置換が $I$ 上で推移的であるとする。$i_0\in I$ を固定して $H:=\{g\in G\mid gV_{i_0}=V_{i_0}\}$ とおくと、$V_{i_0}$ は $H$ の表現であり、$V\cong\operatorname{Ind}_H^GV_{i_0}$ である。

要点:$g\mapsto gV_{i_0}$ が $G/H$ と $\{V_i\}$ の全単射を与えるので、thm-ind-characterization の条件 2 が成り立つ。

詳しい証明を開く

$0$ でない部分空間の直和なので、$V_i$ たちは互いに異なる。$g\mapsto gV_{i_0}$ は、推移性により $G$ から $\{V_i\}_{i\in I}$ への全射であり、$gV_{i_0}=g'V_{i_0}$ は $g^{-1}g'\in H$ と同値である。よって $G/H$ の代表系 $T$ について、$tV_{i_0}$($t\in T$)は $V_i$ たちをちょうど 1 回ずつ並べたものであり、$V=\bigoplus_{t\in T}tV_{i_0}$ である。thm-ind-characterization により $V\cong\operatorname{Ind}_H^GV_{i_0}$ である。$\square$

特徴づけは Ser77 §7.1 Proposition 18(p. 54)と Web16 Proposition 4.3.2(p. 55)に、系は Ser77 §7.1 Proposition 19(p. 55)にある。Ser77 §3.3 では、有限群の複素表現について条件 2 を誘導表現の定義としている。

例

置換表現と正則表現

$G$ が集合 $X$ に推移的に作用しているとし、$x_0\in X$ の固定部分群を $H$ とする。置換表現 $F[X]=\bigoplus_{x\in X}Fe_x$(群の表現 の例「置換表現と正則表現」)では、$g$ は直線 $Fe_x$ を $Fe_{gx}$ に移し、この置換は推移的で、$Fe_{x_0}$ を保つ元は $gx_0=x_0$ を満たす元、すなわち $H$ の元である。$H$ は $Fe_{x_0}$ に自明に作用するので、cor-ind-transitive により
$$ F[X]\cong\operatorname{Ind}_H^G\mathbf 1_H $$
である。とくに $F[G/H]\cong\operatorname{Ind}_H^G\mathbf 1_H$ であり、$H=\{1\}$ とすると正則表現 $F[G]$ は単位群の自明表現から誘導した表現である(これは $F[G]\otimes_FF=F[G]$ からも分かる)。

$A_3$ から $S_3$ への誘導

$F=\mathbb{C}$、$G=S_3$、$H=A_3=\{1,c,c^2\}$($c=(1\,2\,3)$)、$\tau=(1\,2)$、$\omega=e^{2\pi i/3}$ とし、$A_3$ の 1 次元表現 $\psi_r(c^k):=\omega^{rk}$($r=0,1,2$)を考える。$T=\{1,\tau\}$ とすると $\operatorname{Ind}_{A_3}^{S_3}\psi_r$ は $u_1:=1\otimes1$、$u_2:=\tau\otimes1$ を基底にもつ 2 次元の表現である。$c\tau=\tau c^2$ なので
$$ c\mapsto\begin{pmatrix}\omega^r&0\\0&\omega^{2r}\end{pmatrix},\qquad\tau\mapsto\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix} $$
である($cu_2=\tau c^2\otimes1=\omega^{2r}u_2$、$\tau u_2=\tau^2\otimes1=u_1$)。

  • $r=0$ のとき、$u_1+u_2$ と $u_1-u_2$ はそれぞれ自明表現と符号表現を張り、$\operatorname{Ind}_{A_3}^{S_3}\mathbf 1\cong\mathbf 1\oplus\operatorname{sgn}$ である。これは置換表現 $\mathbb{C}[S_3/A_3]$ の分解である。
  • $r=1$ のとき、$c$ の固有値 $\omega,\omega^2$ は異なり、$\tau$ は 2 つの固有空間を入れ替えるので、共通の固有ベクトルはなく、この表現は既約である。群の表現 の例「$S_3$ の置換表現の分解と 2 次元表現」の 2 次元表現 $W$ について、$\rho(c)v=\omega v$ となる $v\neq0$ をとると、$u_1\mapsto v$、$u_2\mapsto\rho(\tau)v$ は $S_3$ の表現の同型 $\operatorname{Ind}_{A_3}^{S_3}\psi_1\cong W$ を与える(生成元 $c,\tau$ の作用が一致することを、$\rho(c)\rho(\tau)v=\rho(\tau)\rho(c)^2v=\omega^2\rho(\tau)v$ で確かめればよい)。
二面体群の 2 次元表現

$n\ge3$ とし、二面体群 $D_n=\langle r,s\mid r^n=s^2=1,\ srs^{-1}=r^{-1}\rangle$ と巡回部分群 $C_n=\langle r\rangle$、$\zeta=e^{2\pi i/n}$ をとる。$C_n$ の 1 次元表現 $r\mapsto\zeta^j$ から誘導すると、ex-ind-s3 と同じ計算で、基底 $1\otimes1$、$s\otimes1$ について
$$ r\mapsto\begin{pmatrix}\zeta^j&0\\0&\zeta^{-j}\end{pmatrix},\qquad s\mapsto\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix} $$
となる($rs=sr^{-1}$ を使う)。$n=3$、$j=1$ では $D_3\cong S_3$ で、ex-ind-s3 の $\psi_1$ からの誘導になる。

指標の公式

有限次元の表現 $V$ の指標を $\chi_V(g)=\operatorname{tr}\rho(g)$ と書く(群の表現 の定義「指標」)。誘導表現の指標は、もとの表現の指標から次のように計算できる。

誘導表現の指標

$[G:H]$ が有限で $W$ が有限次元とし、$T$ を $G/H$ の代表系とする。$g\in G$ について
$$ \chi_{\operatorname{Ind}_H^GW}(g)=\sum_{\substack{t\in T\\ t^{-1}gt\in H}}\chi_W(t^{-1}gt) $$
が成り立つ。さらに $G$ が有限群で $|H|\cdot1\neq0$($F$ の標数が $|H|$ を割らない)なら、
$$ \chi_{\operatorname{Ind}_H^GW}(g)=\frac{1}{|H|}\sum_{\substack{x\in G\\ x^{-1}gx\in H}}\chi_W(x^{-1}gx) $$
である。

prop-ind-cosets の 1 により、$W$ の基底 $w_1,\dots,w_m$ から作った $t\otimes w_k$($t\in T$、$1\le k\le m$)は $\operatorname{Ind}_H^GW$ の基底であり、$g$ の表現行列は rem-ind-matrix のブロック行列になる。跡は対角ブロックの跡の和である。$t$ に対応する対角ブロックは $\dot\sigma(t^{-1}gt)$ で、$t^{-1}gt\notin H$ なら零行列、$t^{-1}gt\in H$ なら $\sigma(t^{-1}gt)$ の表現行列であり、その跡は $\chi_W(t^{-1}gt)$ である。これで 1 つ目の式を得る。
2 つ目の式:$x^{-1}gx\in H$ と $h\in H$ について $(xh)^{-1}g(xh)=h^{-1}(x^{-1}gx)h\in H$ なので、$\{x\in G\mid x^{-1}gx\in H\}$ は左剰余類 $tH$($t\in T$、$t^{-1}gt\in H$)の和集合である。指標は $H$ の共役類の上で一定なので(群の表現 の命題「指標の基本性質」の 2)、$\chi_W\bigl((th)^{-1}g(th)\bigr)=\chi_W(t^{-1}gt)$ であり、各剰余類は同じ値を $|H|$ 回与える。$|H|$ で割って 1 つ目の式に一致する。$\square$

$F=\mathbb{C}$ の場合の同じ公式が Ser77 §3.3 Theorem 12(pp. 30–31)と Web16 Proposition 4.3.5(p. 57)にある。上の証明は体 $F$ によらない。

誘導表現の指標の計算
  1. $\operatorname{Ind}_H^G\mathbf 1_H=F[G/H]$(ex-ind-permutation)では、$\chi(g)$ は $t^{-1}gt\in H$、すなわち $gtH=tH$ となる剰余類の個数、つまり $g$ が $G/H$ 上に持つ固定点の個数(を $F$ の元とみたもの)である。正則表現 $F[G]$($H=\{1\}$)の指標は $\chi(1)=|G|$、$\chi(g)=0$($g\neq1$)である。
  2. ex-ind-s3 の $\operatorname{Ind}_{A_3}^{S_3}\psi_1$ の指標は、$T=\{1,\tau\}$ で計算して、$1$ で $2$、互換で $0$($t^{-1}\tau t$ は互換で $A_3$ に属さない)、$c$ で $\psi_1(c)+\psi_1(\tau^{-1}c\tau)=\omega+\omega^2=-1$ である。これは 群の表現 の $S_3$ の指標の表の $W$ の行と一致する。

推移律と Mackey の分解公式

推移律と直和
  1. $H\subset K\subset G$ を部分群、$W$ を $H$ の表現とすると、$\operatorname{Ind}_K^G\operatorname{Ind}_H^KW\cong\operatorname{Ind}_H^GW$ である。
  2. $H$ の表現 $W_1,W_2$ について $\operatorname{Ind}_H^G(W_1\oplus W_2)\cong\operatorname{Ind}_H^GW_1\oplus\operatorname{Ind}_H^GW_2$ である。

1:$\alpha\colon F[G]\otimes_{F[K]}(F[K]\otimes_{F[H]}W)\to F[G]\otimes_{F[H]}W$ を $x\otimes(y\otimes w)\mapsto xy\otimes w$、$\beta$ を逆向きに $x\otimes w\mapsto x\otimes(1\otimes w)$ で定め、両者が互いに逆な $G$ の表現の射であることを確かめる。

確認を開く

$x\in F[G]$ を固定すると、$(y,w)\mapsto xy\otimes w$ は $(yh,w)$ と $(y,hw)$ で同じ値をとるので、線形写像 $\alpha_x\colon F[K]\otimes_{F[H]}W\to F[G]\otimes_{F[H]}W$ を定める。$(x,u)\mapsto\alpha_x(u)$ は双線形で $\alpha_{xk}(u)=\alpha_x(ku)$($k\in K$)を満たすので、$\alpha(x\otimes u):=\alpha_x(u)$ は well-defined である。$\beta$ は $(xh,w)\mapsto xh\otimes(1\otimes w)=x\otimes(h\otimes w)=x\otimes(1\otimes hw)$ なので well-defined である。$\beta\alpha(x\otimes(y\otimes w))=xy\otimes(1\otimes w)=x\otimes(y\otimes w)$($y\in F[K]$ は $\otimes_{F[K]}$ を越えて動かせる)、$\alpha\beta(x\otimes w)=x\otimes w$ であり、どちらも左からの $G$ の積と可換である。


2:$x\otimes(w_1,w_2)\mapsto(x\otimes w_1,\,x\otimes w_2)$ と、逆向きの $(x\otimes w_1,\,y\otimes w_2)\mapsto x\otimes(w_1,0)+y\otimes(0,w_2)$ は、どちらも $(xh,\cdot)$ と $(x,h\,\cdot)$ で同じ値をとる双線形写像から定まる線形写像である。生成元で確かめれば互いに逆で、どちらも左からの $G$ の積と可換である。$\square$

誘導した表現を別の部分群に制限すると、両側剰余類ごとに分かれる。部分群 $H,K\subset G$ について、$KgH=\{kgh\mid k\in K,\ h\in H\}$ の形の部分集合を 両側剰余類 といい、$G$ はそれらの非交和である(両側剰余類)。両側剰余類の全体を $K\backslash G/H$ と書く。$K$ は左からの積で $G/H$ に作用し、その軌道 $K\cdot gH$ は $KgH$ に含まれる左剰余類の全体なので、$K\backslash G/H$ は $G/H$ の $K$ 軌道と 1 対 1 に対応する。

Mackey の分解公式

$H,K\subset G$ を部分群、$(W,\sigma)$ を $H$ の表現、$S\subset G$ を $K\backslash G/H$ の代表系とする。$s\in S$ について $K_s:=K\cap sHs^{-1}$ とおき、$W$ に $x\in K_s$ を $\sigma(s^{-1}xs)$ で作用させた $K_s$ の表現を ${}^sW$ と書く。このとき
$$ \operatorname{Res}^G_K\operatorname{Ind}_H^GW\cong\bigoplus_{s\in S}\operatorname{Ind}_{K_s}^K{}^sW $$
が成り立つ。

$V:=\operatorname{Ind}_H^GW$ とし、$W\neq0$ としてよい。prop-ind-cosets により $V$ は、左剰余類 $xH\in G/H$ ごとに決まる $0$ でない部分空間 $x\otimes W$ の直和であり、$k\in K$ は $x\otimes W$ を $kx\otimes W$ に移す。$s\in S$ について
$$ V(s):=\bigoplus_{xH\subset KsH}x\otimes W $$
とおく。$G/H$ は $K$ 軌道(=両側剰余類 $KsH$ に含まれる剰余類の集合)の非交和なので $V=\bigoplus_{s\in S}V(s)$ であり、各 $V(s)$ は $K$ の作用で保たれ、$K$ は $V(s)$ の直和成分を推移的に置換する。直和成分 $s\otimes W$ を保つ $k\in K$ は $ksH=sH$、すなわち $s^{-1}ks\in H$ を満たすものだから、その全体は $K\cap sHs^{-1}=K_s$ である。cor-ind-transitive により $V(s)\cong\operatorname{Ind}_{K_s}^K(s\otimes W)$ である。$x\in K_s$ について $x(s\otimes w)=s(s^{-1}xs)\otimes w=s\otimes\sigma(s^{-1}xs)w$ なので、$w\mapsto s\otimes w$ は $K_s$ の表現の同型 ${}^sW\to s\otimes W$ である。表現の同型は誘導で同型に移るので、$V(s)\cong\operatorname{Ind}_{K_s}^K{}^sW$ である。$\square$

この公式は Ser77 §7.3 Proposition 22(pp. 58–59、有限群の複素表現)と Web16 Theorem 5.2.1(p. 77、可換環上の表現)にある。推移律は Web16 Corollary 4.3.8 (2)(p. 60)にある。

正規部分群の場合

$H=K$ が $G$ の正規部分群なら、$HsH=sH$ なので $K\backslash G/H=G/H$、$K_s=H$ であり、Mackey の分解公式は
$$ \operatorname{Res}^G_H\operatorname{Ind}_H^GW\cong\bigoplus_{s\in G/H}{}^sW $$
となる。ex-ind-s3 では ${}^\tau\psi_1(c)=\psi_1(\tau^{-1}c\tau)=\psi_1(c^2)=\omega^2$ なので ${}^\tau\psi_1=\psi_2$ であり、$\operatorname{Res}^{S_3}_{A_3}\operatorname{Ind}_{A_3}^{S_3}\psi_1\cong\psi_1\oplus\psi_2$ となる。これは $c$ の行列が $\operatorname{diag}(\omega,\omega^2)$ であることと一致する。

反例

thm-ind-characterization・prop-ind-cosets の仮定を 1 つずつ外すと、次のように結論が崩れる。最後の行は、成り立ちそうで成り立たない性質の例である。

外す条件反例成り立たなくなること
和 $\sum_ttW$ が直和である$G=S_3$、$H=A_3$、$V=W=\mathbf 1$$V\cong\operatorname{Ind}_H^GW$
和 $\sum_ttW$ が $V$ 全体である$G=S_3$、$H=A_3$、$V=\mathbb{C}[S_3/A_3]\oplus\mathbf 1$、$W=\mathbb{C}e_{A_3}$$V\cong\operatorname{Ind}_H^GW$
$[G:H]$ が有限である$G=\mathbb{Z}$、$H=\{0\}$、$W=F$$\dim\operatorname{Ind}_H^GW=[G:H]\dim W$ が有限
(既約表現から誘導する)$\operatorname{Ind}_{A_3}^{S_3}\mathbf 1\cong\mathbf 1\oplus\operatorname{sgn}$誘導表現が既約であること

1 行目:$W=V$ は $1$ 次元で、$\tau W=W$ なので $W+\tau W=V$ だが、和は直和でない。一方 $\operatorname{Ind}_{A_3}^{S_3}\mathbf 1$ は $2$ 次元なので $V$ と同型でない。2 行目:$W$ と $\tau W=\mathbb{C}e_{\tau A_3}$ の和は直和で $\mathbb{C}[S_3/A_3]$ に等しいが、$V$ は $3$ 次元で、$2$ 次元の $\operatorname{Ind}_{A_3}^{S_3}W$ と同型でない。3 行目:$\operatorname{Ind}_{\{0\}}^{\mathbb{Z}}F=F[\mathbb{Z}]$ は無限次元である($[\mathbb{Z}:\{0\}]$ は無限)。4 行目:ex-ind-s3 の $r=0$ の場合で、既約な $\mathbf 1$ から誘導しても既約とは限らない。誘導表現が既約になる条件は Frobenius相互律 の記事の「Mackey の既約性判定法」で与えられる。

補足

相互律・放物型誘導・位相群の場合
  • 誘導は、制限との間の自然な同型 $\operatorname{Hom}_G(\operatorname{Ind}_H^GW,V)\cong\operatorname{Hom}_H(W,\operatorname{Res}^G_HV)$ をもつ。これが Frobenius相互律 であり、誘導表現の既約成分を調べる基本の道具である。
  • 有限体上の一般線形群の 放物型誘導表現 は、Levi 部分群の表現を放物型部分群の表現に膨張してから、この記事の意味で誘導したものである。
  • $W$ に値をもつ関数 $f\colon G\to W$ で $f(hg)=\sigma(h)f(g)$($h\in H$)を満たすものの空間に、右からの平行移動 $(g_0f)(g)=f(gg_0)$ で $G$ を作用させる構成もある。$G$ が有限群なら、これは $\operatorname{Ind}_H^GW$ と同型な表現になる(Web16 Corollary 4.3.8 (5)、p. 60。この記事では証明しない。そこでの $\operatorname{Hom}_{F[H]}(F[G],W)$ は、$F[G]$ の基底 $G$ 上の値を見ることでこの関数の空間と同じものになる)。位相群では、この関数の形に連続性や台の条件を課して誘導を定義する。たとえば局所副有限群の閉部分群からの誘導は BZ76 2.21–2.22(pp. 21–22)で定義されている。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する