Chern数(Chern number)とは、複素次元 $n$ の閉じた概複素多様体 $M$ について、$n$ の分割 $I=(i_1,\dots,i_r)$ ごとに、接束の Chern 類の積を基本類で評価した整数 $c_I[M]=\langle c_{i_1}\cdots c_{i_r},[M]\rangle$ のことである。Chern 根の単項対称多項式から作る類 $s_I$ は直和と直積について簡単な公式をみたし、$s_n$ は正の次元の 2 つの因子の積の上で $0$ になる。Thom の定理により、複素射影空間の積の上の Chern 数の行列は正則で、Chern 数のあいだにはすべての多様体で成り立つ自明でない 1 次の関係がない。超曲面の $s$ 数は法束と Poincaré 双対から計算できる。
Chern 数(Chern number)とは、閉じた概複素多様体 $M$ の接束の Chern類 の積を、複素構造の定める向きの基本類で評価した整数
$$
c_I[M]=\bigl\langle c_{i_1}(TM)\cdots c_{i_r}(TM),\ [M]\bigr\rangle
$$
のことである。複素次元 $n$ の多様体では、$n$ の分割 $I=(i_1,\dots,i_r)$ ごとに 1 つ、全部で $p(n)$ 個(分割数)の Chern 数がある。たとえば複素曲面の Chern 数は $c_1^2[M]$ と $c_2[M]$ の 2 つで、$c_2[M]$ は Euler 標数に等しい。安定複素構造まで込めて境界になる多様体の Chern 数はすべて $0$ であり、Chern 数は複素同境の基本的な不変量である(複素コボルディズム)。
Thom の定理によれば、Chern 数のあいだには、すべての多様体で成り立つ自明でない 1 次の関係式はない。この記事では、Chern 根の単項対称多項式から作る特性類 $s_I$ の直和と直積の公式を証明し、複素射影空間の積の上の値の行列が三角行列になることから、この定理を証明する。帰結として、複素射影空間が正の次元の 2 つの複素多様体の積にならないことを示し、射影空間の超曲面の $s$ 数を計算する。
多様体は Hausdorff かつ第 2 可算な $C^\infty$ 級の多様体とし、閉多様体はコンパクトで境界のない多様体(連結とは限らない)とする。概複素多様体 $(M,J)$ は 概複素構造 の定義「概複素構造と概複素多様体」のもので、接束 $TM$ を $J$ によって複素ベクトル束とみる。$\dim_{\mathbb R}M=2n$ のとき $n$ を複素次元という。複素多様体は付随する概複素構造によって概複素多様体である(同記事の例「複素多様体の概複素構造」)。$M$ には $J$ の定める標準的な向きを入れ(同記事の命題「概複素多様体は偶数次元で向き付け可能」)、その向きの基本類を $[M]\in H_{2n}(M;\mathbb Z)$ と書く(基本類 の定理「基本類の存在と一意性」。連結でなければ各成分の基本類の和)。$c_i(M):=c_i(TM)\in H^{2i}(M;\mathbb Z)$ は Chern類 の定義「Chern類の公理的定義」の Chern 類である。偶数次の類どうしのカップ積は可換なので、積の順序は問わない。
2 つの概複素多様体の直積 $M\times N$ には、$T(M\times N)\cong\mathrm{pr}_1^*TM\oplus\mathrm{pr}_2^*TN$ の各成分の複素構造を並べた概複素構造を入れる。複素多様体の直積では、これは直積の複素多様体の構造に付随するものである。
$I$ が $J$ の細分なら $|I|=|J|$ で、各 $I_s$ は空でないので $\ell(I)\ge\ell(J)$ である。$\ell(I)=\ell(J)$ なら各 $I_s$ はただ 1 つの部分 $j_s$ からなり、$I=J$ である。
$M$ を複素次元 $n$ の閉じた概複素多様体とする。$n$ の分割 $I=(i_1,\dots,i_r)$ について
$$
c_I[M]:=\bigl\langle c_{i_1}(M)\smile\cdots\smile c_{i_r}(M),\ [M]\bigr\rangle\in\mathbb Z
$$
を $M$ の Chern 数という。$n=0$ なら $M$ は有限個の点で、標準的な向きはどの点でも正とし、$c_\emptyset[M]:=\langle1,[M]\rangle$ は点の個数である。
Chern 数は非交和について加法的である。概複素多様体の間の微分同相 $f\colon M\to N$ で各点の微分が複素線形なものは、$f^*TN\cong TM$(複素ベクトル束として)を与え、標準的な向きを保つので $f_*[M]=[N]$ であり、$M$ と $N$ の Chern 数は等しい。最高次の Chern 数 $c_n[M]$ は Euler 標数 $\chi(M)$ に等しい。最高次の Chern 類は実化の Euler 類に等しく(Euler類 の節「ほかの特性類との関係」)、Euler類 の定理「接束の Euler 数と Euler 標数」が使えるからである。また、安定複素構造まで込めて境界になる閉多様体の Chern 数はすべて $0$ である(複素コボルディズム の定理「境界の Chern 数は 0」)。
Chern 類 $c_i$ は Chern 根の基本対称多項式であった。基本対称多項式の積の代わりに単項対称多項式を使うと、直和について扱いやすい類が得られる。
$t_1,\dots,t_N$ を不定元とする。$k$ の分割 $I=(i_1,\dots,i_r)$ について、$\alpha_1,\dots,\alpha_r$ が $1,\dots,N$ の相異なる番号を動くときに現れる相異なる単項式 $t_{\alpha_1}^{i_1}\cdots t_{\alpha_r}^{i_r}$ の全体の和を $m_I(t_1,\dots,t_N)$ と書く。これは 対称多項式 の命題「単項対称多項式による基底」の単項対称多項式で、$r>N$ なら $0$、$m_\emptyset=1$ である。たとえば $m_{(1,1)}=\sum_{\alpha< \beta}t_\alpha t_\beta=e_2$、$m_{(2)}=\sum_\alpha t_\alpha^2$ である。
$k\ge0$ と $k$ の分割 $I$ について、整数係数の多項式 $S_I\in\mathbb Z[y_1,\dots,y_k]$ で、すべての $N\ge0$ について
$$
m_I(t_1,\dots,t_N)=S_I\bigl(e_1,\dots,e_k\bigr)\qquad(e_i=e_i(t_1,\dots,t_N),\ i>N\text{ では }e_i=0)
$$
をみたすものがただ 1 つある。$y_i$ に重み $i$ を与えると、$S_I$ は重み $k$ の斉次多項式である。
要点:$N\ge k$ では対称多項式の基本定理で一意に表し、変数を $0$ に特殊化して $N$ によらないことと $N< k$ の場合を見る。
$N\ge k$ とする。$m_I(t_1,\dots,t_N)$ は整数係数の $k$ 次斉次の対称多項式なので、対称多項式 の定理「対称多項式の基本定理」により、重み $k$ の斉次な $P_N\in\mathbb Z[y_1,\dots,y_N]$ でただ 1 つ $m_I=P_N(e_1,\dots,e_N)$ となるものがある。重み $k$ の単項式は $i>k$ の $y_i$ を含まないので $P_N\in\mathbb Z[y_1,\dots,y_k]$ である。
$N+1$ 変数の式で $t_{N+1}=0$ とおくと、$e_i(t_1,\dots,t_N,0)=e_i(t_1,\dots,t_N)$ であり、$m_I(t_1,\dots,t_N,0)$ は $t_{N+1}$ を含まない単項式の和なので $m_I(t_1,\dots,t_N)$ に等しい。よって $m_I(t_1,\dots,t_N)=P_{N+1}(e_1,\dots,e_k)$ であり、基本定理の一意性から $P_{N+1}=P_N$ である。$S_I:=P_N$($N\ge k$)とおく。一意性は $N=k$ の場合の一意性による。
$N< k$ なら、$k$ 変数の式で $t_{N+1}=\cdots=t_k=0$ とおく。$e_i(t_1,\dots,t_N,0,\dots,0)$ は $i\le N$ で $N$ 変数の $e_i$、$i>N$ で $0$ になり、$m_I$ は $N$ 変数の $m_I$ になる($\ell(I)>N$ なら $0$)。よって $N< k$ でも等式が成り立つ。$\square$
パラコンパクト Hausdorff 空間 $B$ 上の複素ベクトル束 $E$ と $k$ の分割 $I$ について
$$
s_I(E):=S_I\bigl(c_1(E),\dots,c_k(E)\bigr)\in H^{2k}(B;\mathbb Z)
$$
とおく($s_\emptyset(E)=1$)。$M$ が複素次元 $n$ の閉じた概複素多様体で $|I|=n$ のとき、$s_I[M]:=\langle s_I(TM),[M]\rangle\in\mathbb Z$ を $M$ の $s$ 数という。
$s_{(k)}$ を $s_k$ とも書く。$m_{(k)}$ は冪和なので、$S_{(k)}$ は冪和を基本対称多項式で表す Newton の多項式である(対称多項式 の定理「Newton の恒等式」)。$k\le3$ では次のとおりである。
| $I$ | $s_I$ | $I$ | $s_I$ |
|---|---|---|---|
| $(1)$ | $c_1$ | $(3)$ | $c_1^3-3c_1c_2+3c_3$ |
| $(2)$ | $c_1^2-2c_2$ | $(2,1)$ | $c_1c_2-3c_3$ |
| $(1,1)$ | $c_2$ | $(1,1,1)$ | $c_3$ |
$s$ 数は Chern 数の整数係数の 1 次結合である。逆に、$n$ 次の斉次対称多項式の全体は $\{m_I\}_{|I|=n}$ とも $\{e_{k_1}\cdots e_{k_r}\}_{|K|=n}$ とも $\mathbb Z$ 上の基底をもつので($N\ge n$。対称多項式 の命題「単項対称多項式による基底」と定理「対称多項式の基本定理」の重みの主張)、整数の正方行列 $(b_{KI})$ で、逆行列も整数のものがあって $e_{k_1}\cdots e_{k_r}=\sum_Ib_{KI}m_I$ となる。$N\ge n$ での $e_1,\dots,e_n$ の代数的独立性から $y_{k_1}\cdots y_{k_r}=\sum_Ib_{KI}S_I(y)$ が $\mathbb Z[y_1,\dots,y_n]$ で成り立つので、
$$
c_K[M]=\sum_{|I|=n}b_{KI}\,s_I[M]
$$
である。したがって Chern 数の全体と $s$ 数の全体は、整数係数で可逆な 1 次変換で互いに移り合う。
パラコンパクト Hausdorff 空間 $B$ 上の複素直線束 $L_1,\dots,L_N$ について $x_i:=c_1(L_i)$ とおくと、すべての分割 $I$ について $s_I(L_1\oplus\cdots\oplus L_N)=m_I(x_1,\dots,x_N)$ である。また、自明な複素直線束 $\underline{\mathbb C}$ を足しても $s_I$ は変わらない。
要点:Whitney の和公式で全 Chern 類が $\prod_i(1+x_i)$ になり、lem-cn-stable の等式をそのまま使える。
直線束では $c(L_i)=1+x_i$ なので、Whitney の和公式により $c(L_1\oplus\cdots\oplus L_N)=\prod_i(1+x_i)$、すなわち $c_j=e_j(x_1,\dots,x_N)$($j>N$ では $0$)である。$t_i\mapsto x_i$ で定まる環準同型 $\mathbb Z[t_1,\dots,t_N]\to H^{\mathrm{even}}(B;\mathbb Z)$(偶数次の部分は可換環)で lem-cn-stable の等式を送ればよい。後半は、$\underline{\mathbb C}$ を足しても全 Chern 類が変わらないことによる(Chern類 の例「自明束と自明な直和因子」)。$\square$
パラコンパクト Hausdorff 空間 $B$ 上の複素ベクトル束 $E$、$F$ と分割 $I$ について
$$
s_I(E\oplus F)=\sum_{J\cup K=I}s_J(E)\,s_K(F)
$$
が成り立つ。和は $J\cup K=I$ となる分割の順序対 $(J,K)$(空の分割も含む)全体にわたる。とくに $k\ge1$ なら $s_k(E\oplus F)=s_k(E)+s_k(F)$ である。
要点:多項式環の中で $m_I(t,t')=\sum_{J\cup K=I}m_J(t)\,m_K(t')$ を単項式の分け方で示し、分裂原理 で束の等式に移す。
多項式の等式. 不定元 $t_1,\dots,t_a$、$t'_1,\dots,t'_b$ をまとめた $a+b$ 変数で$$m_I(t,t')=\sum_{J\cup K=I}m_J(t)\,m_K(t')$$を示す。左辺の単項式 $\mu$ について、$t$ の変数に現れる正の指数の多重集合を $J$、$t'$ の変数に現れるものを $K$ とすると $J\cup K=I$ であり、$\mu$ は $m_J(t)$ の単項式と $m_K(t')$ の単項式の積にただ 1 通りに分かれる。逆に $J\cup K=I$ となる $(J,K)$ と、$m_J(t)$ の単項式 $\nu$、$m_K(t')$ の単項式 $\nu'$ について、$\nu\nu'$ は指数の多重集合が $I$ の単項式であり、$\nu\nu'$ から $(J,K,\nu,\nu')$ が復元できる。よって両辺の単項式は 1 対 1 に対応し、どの係数も $1$ なので、この等式が成り立つ。
束への移行. $E$ の階数が $0$ なら $s_J(E)$ は $J=\emptyset$ で $1$、それ以外で $0$ なので(lem-cn-stable の $N=0$)、等式は明らかである。$F$ についても同じである。両方の階数が正のとき、分裂原理 の定理「分裂原理」の 2・4 により、連続写像 $p\colon Y\to B$ で $p^*E\cong L_1\oplus\cdots\oplus L_a$、$p^*F\cong L'_1\oplus\cdots\oplus L'_b$(直線束の直和)となり、$p^*\colon H^*(B;\mathbb Z)\to H^*(Y;\mathbb Z)$ が単射であるものがある。$x_i:=c_1(L_i)$、$x'_j:=c_1(L'_j)$ とおくと、Chern 類の自然性と lem-cn-lines と上の多項式の等式により$$p^*s_I(E\oplus F)=m_I(x,x')=\sum_{J\cup K=I}m_J(x)\,m_K(x')=p^*\Bigl(\sum_{J\cup K=I}s_J(E)\,s_K(F)\Bigr)$$であり、$p^*$ の単射性から等式が従う。$I=(k)$ なら、$J\cup K=(k)$ となるのは $(J,K)=((k),\emptyset),(\emptyset,(k))$ だけである。$\square$
これは MS74 Lemma 16.2 と Corollary 16.3(p. 190)である。同書は、上の多項式の等式と基本対称多項式の代数的独立性から直接示している。
複素射影空間の接束 の記号を使い、$h\in H^2(\mathbb{CP}^n;\mathbb Z)$ を $\langle h^n,[\mathbb{CP}^n]\rangle=1$ をみたす超平面類とする。$H^*(\mathbb{CP}^n;\mathbb Z)=\mathbb Z[h]/(h^{n+1})$ である。
$n\ge1$ とする。複素射影空間の接束 の系「位相的な分裂と Euler 完全列」の 2 により、複素ベクトル束として $\underline{\mathbb C}\oplus T\mathbb{CP}^n\cong\mathcal O(1)^{\oplus(n+1)}$ である。lem-cn-lines により、$|I|=k$ について
$$
s_I(T\mathbb{CP}^n)=m_I(\underbrace{h,\dots,h}_{n+1})=N_I(n+1)\,h^k
$$
である。ここで $N_I(n+1)$ は $n+1$ 変数の $m_I$ の単項式の個数である。とくに $s_k(T\mathbb{CP}^n)=(n+1)h^k$、$s_n[\mathbb{CP}^n]=n+1$ である。また $c_i(T\mathbb{CP}^n)=\binom{n+1}{i}h^i$(同記事の定理「全 Chern 類」)なので、$n$ の分割 $K=(k_1,\dots,k_r)$ について $c_K[\mathbb{CP}^n]=\prod_{s=1}^r\binom{n+1}{k_s}$ である。$n=2$ では $c_1^2[\mathbb{CP}^2]=9$、$c_2[\mathbb{CP}^2]=3$ である。
直積の Chern 数は、因子の $s$ 数から決まる。
$M$、$N$ をそれぞれ複素次元 $m$、$n$ の閉じた概複素多様体とする。$m+n$ の分割 $I$ について
$$
s_I[M\times N]=\sum_{\substack{J\cup K=I\\|J|=m,\ |K|=n}}s_J[M]\,s_K[N]
$$
が成り立つ。とくに $m,n\ge1$ なら $s_{m+n}[M\times N]=0$ である。
要点:$T(M\times N)$ に prop-cn-sum を当てると $s_I$ はクロス積 $s_J(TM)\times s_K(TN)$ の和になり、次数が因子の次元に合う項だけが基本類で $0$ でない値をもつ。
$M\times N$ はコンパクト Hausdorff なのでパラコンパクトである(パラコンパクト空間 の例「コンパクト空間の例」)。$T(M\times N)\cong\mathrm{pr}_1^*TM\oplus\mathrm{pr}_2^*TN$ に prop-cn-sum と Chern 類の自然性を当てると$$s_I\bigl(T(M\times N)\bigr)=\sum_{J\cup K=I}\mathrm{pr}_1^*s_J(TM)\smile\mathrm{pr}_2^*s_K(TN)=\sum_{J\cup K=I}s_J(TM)\times s_K(TN)$$である($\times$ は Künnethの公式 の定義「コホモロジーのクロス積」)。$|J|+|K|=m+n$ なので、$|J|\ne m$ なら $|J|>m$ か $|K|>n$ であり、$H^{2|J|}(M;\mathbb Z)=0$ または $H^{2|K|}(N;\mathbb Z)=0$ によってその項は $0$ である(多様体の次元を超える次数のコホモロジーは消える。基本類 の定理「基本類の存在と一意性」の 3 と 普遍係数定理)。残る項について、$a\in H^{2m}(M;\mathbb Z)$、$b\in H^{2n}(N;\mathbb Z)$ の評価は$$\langle a\times b,[M\times N]\rangle=\langle a,[M]\rangle\,\langle b,[N]\rangle$$をみたす。これは次のように確かめられる。両辺は $a$、$b$ について双線形で基本類は成分ごとの和なので、$M$、$N$ は連結としてよく、$m=0$ または $n=0$ なら明らかなので $m,n\ge1$ とする。Poincaré双対 の定理「閉多様体の Poincaré 双対」により $H^{2m}(M;\mathbb Z)\cong\mathbb Z$ で、普遍係数定理 により評価 $H^{2m}(M;\mathbb Z)\to\mathbb Z$ は全射なので同型である。$\langle u_M,[M]\rangle=1$ となる $u_M$ をとると $a=\langle a,[M]\rangle u_M$ であり、$N$ の $u_N$ についても同様なので、$\varepsilon:=\langle u_M\times u_N,[M\times N]\rangle=1$ を示せばよい。点 $x\in M$ で $[M]$ の局所類 $\mu_x\in H_{2m}(M,M\setminus x;\mathbb Z)$ について $\langle\tau_x,\mu_x\rangle=1$ となる $\tau_x\in H^{2m}(M,M\setminus x;\mathbb Z)$ をとると、$\tau_x$ の $H^{2m}(M;\mathbb Z)$ での像は評価が $1$ なので $u_M$ であり、$y\in N$ の $\tau_y$ も同様である。$M\times N\setminus\{(x,y)\}=(M\setminus x)\times N\cup M\times(N\setminus y)$ は開集合の和なので相対クロス積 $\tau_x\times\tau_y$ が定まり、自然性により $\varepsilon=\langle\tau_x\times\tau_y,\mu_{(x,y)}\rangle$ である($\mu_{(x,y)}$ は $[M\times N]$ の局所類)。$x$、$y$ のまわりで、その点での微分が $(T_xM,J_x)\cong\mathbb C^m$、$(T_yN,J_y)\cong\mathbb C^n$ と複素線形になる座標をとって切除すると、この値は $(\mathbb C^m,\mathbb C^m\setminus0)\times(\mathbb C^n,\mathbb C^n\setminus0)$ での同じ量(複素構造の向きによる)に等しく、$m$、$n$ だけで決まる。そこで $M=\mathbb{CP}^m$、$N=\mathbb{CP}^n$ で計算する。Whitney の和公式と次数により $c_{m+n}(T(M\times N))=c_m(M)\times c_n(N)$ なので、定義の直後の注意と ex-cn-cpn により $\chi(M\times N)=c_{m+n}[M\times N]=\varepsilon\,c_m[M]\,c_n[N]=\varepsilon\,(m+1)(n+1)$ である。Künnethの公式 の系「Betti 数と Euler 標数の乗法性」により $\chi(M\times N)=\chi(M)\chi(N)=(m+1)(n+1)\ne0$ なので、$\varepsilon=1$ である。これで公式が得られる。$I=(m+n)$ なら、$J\cup K=(m+n)$ となる組は $J$ か $K$ が空なので、$m,n\ge1$ では $|J|=m$、$|K|=n$ をみたす組がなく、和は $0$ である。$\square$
$n\ge2$ とする。$\mathbb{CP}^n$ は、正の次元の 2 つのコンパクト複素多様体の直積と双正則にならない。
双正則写像 $f\colon\mathbb{CP}^n\to K\times L$($\dim_{\mathbb C}K,\dim_{\mathbb C}L\ge1$)があれば、定義の直後の注意と同じ理由で($s$ 数は Chern 数の整数係数の 1 次結合である)$s$ 数は等しく、$s_n[\mathbb{CP}^n]=s_n[K\times L]$ である。左辺は ex-cn-cpn により $n+1\ne0$、右辺は prop-cn-product により $0$ で矛盾する(和が空になるので、この部分は評価の式によらない)。$\square$
$\mathbb{CP}^1\times\mathbb{CP}^1$ では、$x,y$ を 2 つの因子の超平面類の引き戻しとすると $c(T)=(1+x)^2(1+y)^2=(1+2x)(1+2y)$($x^2=y^2=0$)なので $c_1=2x+2y$、$c_2=4xy$、$c_1^2=8xy$ である。評価の式から $\langle xy,[\mathbb{CP}^1\times\mathbb{CP}^1]\rangle=1$ なので、$c_1^2=8$、$c_2=4$ である。ex-cn-cpn の $\mathbb{CP}^2$ の値と並べると、行に $c_2$、$c_1^2$、列に $\mathbb{CP}^2$、$\mathbb{CP}^1\times\mathbb{CP}^1$ をとった行列
$$
\begin{pmatrix}3&4\\9&8\end{pmatrix}
$$
の行列式は $-12\ne0$ である(MS74 p. 194)。したがって複素曲面の Chern 数のあいだに、すべての曲面で成り立つ 1 次の関係 $\lambda c_1^2+\mu c_2=0$($(\lambda,\mu)\ne(0,0)$)はない。
$n$ の分割 $J=(j_1,\dots,j_q)$ について、$\mathbb{CP}^J:=\mathbb{CP}^{j_1}\times\cdots\times\mathbb{CP}^{j_q}$ とおく。これは複素次元 $n$ の連結なコンパクト複素多様体である。
$n\ge1$ とする。$n$ の分割 $K$、$J$ を添字とする $p(n)\times p(n)$ の整数行列 $\bigl(c_K[\mathbb{CP}^J]\bigr)_{K,J}$ の行列式は $0$ でない。したがって、有理数 $\lambda_K$($|K|=n$)が、複素次元 $n$ のすべての閉じた複素多様体 $M$ について $\sum_K\lambda_Kc_K[M]=0$ をみたすなら、すべての $\lambda_K$ は $0$ である。
段 1:$s$ 数の計算. $J=(j_1,\dots,j_q)$ とし、$h_s\in H^2(\mathbb{CP}^J;\mathbb Z)$ を $s$ 番目の因子の超平面類の引き戻しとする。Künnethの公式 の例「複素射影空間の積」を繰り返し使うと $H^*(\mathbb{CP}^J;\mathbb Z)=\mathbb Z[h_1,\dots,h_q]/(h_1^{j_1+1},\dots,h_q^{j_q+1})$ であり、$H^{2n}(\mathbb{CP}^J;\mathbb Z)$ は $h^J:=h_1^{j_1}\cdots h_q^{j_q}$ で生成される $\mathbb Z$ である。$\varepsilon_J:=\langle h^J,[\mathbb{CP}^J]\rangle$ とおく。$H_{2n}(\mathbb{CP}^J;\mathbb Z)=\mathbb Z\,[\mathbb{CP}^J]$(基本類 の定理「基本類の存在と一意性」)なので、普遍係数定理 により評価 $H^{2n}\to\operatorname{Hom}(H_{2n},\mathbb Z)\cong\mathbb Z$ は全射である。$\mathbb Z$ から $\mathbb Z$ への全射な準同型は同型なので、評価は同型で、$\varepsilon_J=\pm1$ である(評価の式からは $\varepsilon_J=1$ だが、以下では使わない)。
ex-cn-cpn と同様に、$T\mathbb{CP}^J\cong\bigoplus_s\mathrm{pr}_s^*T\mathbb{CP}^{j_s}$ に自明な直線束を $q$ 本足すと $\bigoplus_s\mathrm{pr}_s^*\mathcal O(1)^{\oplus(j_s+1)}$ になる。lem-cn-lines により、$s_I(T\mathbb{CP}^J)$ は $m_I$ の変数を $j_s+1$ 個ずつの組に分け、$s$ 番目の組の変数をすべて $h_s$ に置き換えたものである。$m_I$ の各単項式は $\prod_sh_s^{a_s}$($a_s$ は $s$ 番目の組の指数の和、$\sum_sa_s=n$)に写る。$h_s^{j_s+1}=0$ なので、ある $a_s$ が $j_s$ と異なれば(そのときある $a_{s'}$ は $j_{s'}$ より大きいので)この類は $0$ であり、すべての $s$ で $a_s=j_s$ なら $h^J$ である。よって
$$
s_I[\mathbb{CP}^J]=\varepsilon_J\,A_{IJ},\qquad A_{IJ}:=\#\{m_I\text{ の単項式で、各組の指数の和が }j_s\text{ になるもの}\}
$$
である。
段 2:三角性. $A_{IJ}\ne0$ とし、そのような単項式を 1 つとる。$s$ 番目の組の変数に現れる正の指数の多重集合を $I_s$ とすると、$I=I_1\cup\cdots\cup I_q$、$|I_s|=j_s\ge1$ なので、$I$ は $J$ の細分である。とくに $\ell(I)\ge\ell(J)$ であり、等号なら $I=J$ である(def-cn-partition の直後)。$I=J$ の場合、同じ理由で各 $I_s$ はただ 1 つの部分 $j_s$ からなるので、該当する単項式は「各組から 1 つの変数を選び、その指数を $j_s$ にしたもの」であり、選び方は $\prod_s(j_s+1)$ 通りで、どれも相異なる。よって $A_{JJ}=\prod_{s=1}^q(j_s+1)\ne0$ である。
$n$ の分割を長さの小さい順に(同じ長さの中では任意の順に)並べると、$A_{IJ}\ne0$ なら $I=J$ か $\ell(I)>\ell(J)$ なので、行列 $(A_{IJ})$ は対角成分が $0$ でない三角行列で、行列式は $0$ でない。
段 3:Chern 数への移行. 節「$s$ 類」の変換の式 $c_K[M]=\sum_Ib_{KI}s_I[M]$ により
$$
\bigl(c_K[\mathbb{CP}^J]\bigr)_{K,J}=(b_{KI})_{K,I}\,(A_{IJ})_{I,J}\,\operatorname{diag}(\varepsilon_J)_J
$$
である。3 つの因子の行列式はどれも $0$ でないので、左辺の行列式も $0$ でない。
帰結. $\sum_K\lambda_Kc_K[M]=0$ を $M=\mathbb{CP}^J$(すべての $J$)に当てると、行ベクトル $(\lambda_K)$ と正則行列の積が $0$ になるので $\lambda_K=0$ である。$\square$
これは MS74 Theorem 16.7(p. 193、証明は pp. 194–195)である。同書は、$\mathbb{CP}^{j_s}$ の代わりに、$s_{j}[K^{j}]\ne0$ をみたす複素次元 $j$ の閉じた概複素多様体 $K^{j}$ を使った形で述べている(prop-cn-product を $q-1$ 回使うと、同じ三角性が得られる)。
$\mathbb{CP}^J$ 以外で $s_n$ が $0$ にならない多様体は、超曲面から得られる。
$Y$ を複素次元 $n+1$($n\ge1$)の連結なコンパクト複素多様体、$L$ を $Y$ 上の正則直線束、$\sigma$ を $L$ の正則な切断とし、$X:=\sigma^{-1}(0)$ は連結で、$\sigma$ は $X$ の各点で横断的に消える(局所的に $\sigma=fe$、$e$ は枠、と書いたとき $X$ の上で $df\ne0$)とする。$u:=c_1(L)$、$i\colon X\to Y$ を包含とすると、$X$ は複素次元 $n$ のコンパクト複素部分多様体であり、
要点:法束は $L|_X$ で、Whitney の和公式と $s_n$ の加法性から 1・2 が、直線束の第 1 Chern 類が零点集合の Poincaré 双対類であることから 3 が出る。
$X$ が複素部分多様体であることと、垂直微分 $D\colon TY|_X\to L|_X$(局所的に $df$)が複素線形な全射で核が $TX$ であることは、複素射影空間の接束 の系「滑らかな超曲面の Chern 類」の証明と同じく、正則な陰関数定理による(実の束としては 閉部分多様体のPoincaré双対 の補題「零点集合と法束」の 1・2)。$TY|_X$ に Hermite 計量をとり、$TX$ の直交補を $\nu$ とすると、$\nu$ は複素部分束で $D|_\nu\colon\nu\to L|_X$ は複素ベクトル束の同型なので、$TY|_X\cong TX\oplus i^*L$ である。
1:Whitney の和公式により $i^*c(TY)=c(TX)\,(1+i^*u)$ で、$1+i^*u$ は可逆である。
2:prop-cn-sum の $s_n$ の加法性と lem-cn-lines($s_n(i^*L)=(i^*u)^n$)により、$i^*s_n(TY)=s_n(TX)+(i^*u)^n$ である。
3:直線束の第 1 Chern 類は、横断的に消える切断の零点集合の Poincaré 双対類である:$\beta\in H^{2n}(Y;\mathbb Z)$ について $\langle i^*\beta,[X]\rangle=\langle u\smile\beta,[Y]\rangle$(Gysin写像 の命題「基本類の押し出し」と定理「複素多様体の因子の類」。$X$ の向きは複素構造の向き。この記事では証明しない。同定理は $c_1(\mathcal O_Y(X))$ の形で述べられているが、横断性により $\sigma$ の局所表示 $f_\alpha$ は $X$ の局所的な定義関数なので、$\mathcal O_Y(X)$ の変換関数 $f_\alpha/f_\beta$ は $L$ の変換関数に等しく、$L\cong\mathcal O_Y(X)$ である)。2 の右辺に $\beta=s_n(TY)-u^n$ として当てればよい。$\square$
これは MS74 Problem 16-D(p. 196)の前半にあたる。
$n\ge1$、$d\ge1$ とし、$F$ を $d$ 次の斉次多項式で、$F(z)=0$ となる各 $z\ne0$ で、ある $\partial F/\partial z_i(z)$ が $0$ でないものとする。$X:=\{F=0\}\subset\mathbb{CP}^{n+1}$ は $\mathcal O(d)$ の切断 $F$ の零点集合で、横断性は 複素射影空間の接束 の系「滑らかな超曲面の Chern 類」の証明にあり、連結性は Lefschetzの超平面定理 の系「射影空間の超曲面」による。$u=c_1(\mathcal O(d))=dh$(Chern類 の命題「直線束のテンソル積」)、$s_n(T\mathbb{CP}^{n+1})=(n+2)h^n$(ex-cn-cpn)なので、prop-cn-hypersurface の 3 により
$$
s_n[X]=\bigl\langle\bigl((n+2)-d^n\bigr)h^n\cdot dh,\ [\mathbb{CP}^{n+1}]\bigr\rangle=d\,(n+2-d^n)
$$
である。$d=1$ なら $X=\mathbb{CP}^n$ で $n+1$ となり、ex-cn-cpn と一致する。$n=2$、$d=4$(4 次曲面)では $s_2=4(4-16)=-48$ で、$c_1=0$、$c_2=24$ から得られる $s_2=c_1^2-2c_2=-48$ と一致する(複素射影空間の接束 の例「4 次曲面」)。
$2\le l\le m$ とし、$Y:=\mathbb{CP}^m\times\mathbb{CP}^l$、$H:=\{([u],[v])\in Y\mid\sum_{j=0}^{l}u_jv_j=0\}$ とする。$H$ は直線束 $\mathrm{pr}_1^*\mathcal O(1)\otimes\mathrm{pr}_2^*\mathcal O(1)$ の切断 $\sum_ju_jv_j$ の零点集合で、横断的に消え、連結である(下の確かめ)。$H$ の複素次元は $n:=m+l-1$ である。$x,y$ を 2 つの因子の超平面類の引き戻しとすると、この直線束の第 1 Chern 類はテンソル積の公式(Chern類 の命題「直線束のテンソル積」)により $u=x+y$ である。prop-cn-sum と ex-cn-cpn により $s_n(TY)=(m+1)x^n+(l+1)y^n$ で、$n>m$、$n>l$ なので $x^n=y^n=0$、$s_n(TY)=0$ である。prop-cn-hypersurface の 3 と評価の式 $\langle x^my^l,[Y]\rangle=1$ により
$$
s_{m+l-1}[H]=-\bigl\langle(x+y)^{m+l},[Y]\bigr\rangle=-\binom{m+l}{m}
$$
である。
斉次座標で $G(u,v):=\sum_{j=0}^lu_jv_j$ とおく。$\partial G/\partial u_j=v_j$($j\le l$)、$0$($j>l$)であり、$u_a\ne0$ の近傍 $\{u_a=1\}$ で $G$ の $u_j$($j\ne a$)についての偏微分がすべて $0$ なら $v_j=0$($j\ne a$、$j\le l$)となる。$a>l$ ならこれで $v=0$ であり、$a\le l$ なら $G=0$ から $u_av_a=v_a=0$ となって、やはり $v=0$ に反する。よって $H$ の各点で局所表示の微分は $0$ でない。第 2 因子への射影 $\pi\colon H\to\mathbb{CP}^l$ の $[v]$ の上のファイバーは、$\mathbb{CP}^m$ の超平面 $\{\sum_ju_jv_j=0\}$($l\le m$ なので $0$ でない 1 次式)で連結である。$H$ がコンパクトなので $\pi$ は閉写像で全射であり、$H$ を交わらない 2 つの開かつ閉な集合に分けると、各ファイバーはどちらか一方に含まれ、像は $\mathbb{CP}^l$ を交わらない 2 つの閉集合に分けるので、一方は空である。
ex-cn-hml は MS74 Problem 16-E(p. 196)の計算である。同書は続けて、これらの超曲面と複素射影空間の非交和から複素同境環の生成元が作れることを、Milnor と Novikov の定理として述べている(複素同境環が多項式環であることは 複素コボルディズム の定理「Milnor–Novikov の定理」。この記事では扱わない)。実射影空間の積の中の同じ形の超曲面は Milnor超曲面 で、そこでは $\mathbb Z/2$ 係数の $s$ 数を使う。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| thm-cn-independence で $\mathbb{CP}^J$ をすべて使う | $\mathbb{CP}^2$ だけを使う | 1 次の関係を排除すること:$c_1^2-3c_2$ は $\mathbb{CP}^2$ で $0$ になるが、すべての曲面で成り立つ関係ではない |
| prop-cn-product の $m,n\ge1$ | $M$ が 1 点、$N=\mathbb{CP}^n$ | $s_{m+n}[M\times N]=0$:$s_n[\mathrm{pt}\times\mathbb{CP}^n]=n+1$ |
1 行目:$\mathbb{CP}^2$ では $c_1^2-3c_2=9-9=0$、$\mathbb{CP}^1\times\mathbb{CP}^1$ では $8-12=-4\ne0$ である(ex-cn-cpn、ex-cn-surfaces)。
2 行目:1 点は複素次元 $0$ の閉じた概複素多様体で、$\mathrm{pt}\times\mathbb{CP}^n$ は $\mathbb{CP}^n$ と双正則なので $s_n=n+1\ne0$ である(ex-cn-cpn)。prop-cn-product の公式自体は $J=\emptyset$、$K=(n)$ の項として成り立っている。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する