Buchsbaum環(ブックスバウム環)とは、すべてのパラメータ系について、正則列からのずれを表すcolon加群が極大イデアルで消えるネーター局所環である。Cohen–Macaulay環を含む一方、非Cohen–Macaulayな例もあり、長さとHilbert–Samuel重複度の差がパラメータ・イデアルによらないことでも特徴づけられる。下位局所コホモロジーは極大イデアルで消えるが、この条件だけでは一般にBuchsbaum性を特徴づけない。
前提知識:ネーター局所環、Krull次元、パラメータ系、正則列、イデアル商。後半ではHilbert–Samuel重複度と局所コホモロジーを用いる。
$(A,\mathfrak m,k)$ を $d$ 次元ネーター局所環とする。$x_1,\ldots,x_d\in\mathfrak m$ が パラメータ系であるとは、$(x_1,\ldots,x_d)$ が $\mathfrak m$-準素イデアルであることをいう。
$x_1,\ldots,x_r\in\mathfrak m$ が $A$ の 弱列(weak $A$-sequence)であるとは、$I_{i-1}=(x_1,\ldots,x_{i-1})$ とおいたとき、すべての $1\leq i\leq r$ について
$$
\mathfrak m(I_{i-1}:x_i)\subseteq I_{i-1}
$$
が成り立つことをいう。
$x_i\in\mathfrak m$ なので $I_{i-1}:\mathfrak m\subseteq I_{i-1}:x_i$ である。従って弱列の条件は
$$
I_{i-1}:x_i=I_{i-1}:\mathfrak m
$$
と同値である。
ネーター局所環 $(A,\mathfrak m)$ が Buchsbaum環(Buchsbaum ring、ブックスバウム環)であるとは、$A$ のすべてのパラメータ系が弱列であることをいう。
零次元のネーター局所環はCohen–Macaulay環なのでBuchsbaum環である。以下では、この条件が非自明になる正次元の場合を主に扱う。
定義と基本特徴づけの出典:Stückrad–Vogelの体系書 Buchsbaum Rings and Applications( Springer書誌ページ )およびHunekeによる弱列・$d$-列の比較( 1982年論文・DOI )。
正則列なら $I_{i-1}:x_i=I_{i-1}$ であり、$x_i$ はそれ以前の元で割った環上の非零因子である。弱列では零因子を許すが、余分な部分
$$
(I_{i-1}:x_i)/I_{i-1}
$$
は $\mathfrak m$ で消える。つまり正則性からのずれは剰余体 $k=A/\mathfrak m$ 上のベクトル空間として現れ、どのパラメータ系を選んでも同じ強さで制御される。
この「どのパラメータ系でも」という全称条件が重要である。一つの都合のよいパラメータ系だけが弱列でも、一般にはBuchsbaum性は従わない。
以下で $k$ は体、$\mathfrak m$ は表示された局所環の極大イデアルとする。
| 局所環 | 次元・深さ | 欠陥の様子 | 判定 |
|---|---|---|---|
| $k[[t]]$ | $\dim=\operatorname{depth}=1$ | パラメータは非零因子 | Cohen–Macaulay、従ってBuchsbaum |
| $k[[x,y]]/(x^2,xy)$ | $\dim=1$, $\operatorname{depth}=0$ | $H^0_{\mathfrak m}(A)=(x)$、$\mathfrak m(x)=0$ | BuchsbaumだがCohen–Macaulayでない |
| $k[[x,y]]/(x^3,xy)$ | $\dim=1$, $\operatorname{depth}=0$ | $H^0_{\mathfrak m}(A)=(x)$、$\mathfrak m(x)=(x^2)\neq0$ | 一般化Cohen–MacaulayだがBuchsbaumでない |
Cohen–Macaulay局所環のすべてのパラメータ系は正則列である。従ってすべてのCohen–Macaulay局所環はBuchsbaum環である。
$x_1,\ldots,x_d$ をパラメータ系とし、$I_{i-1}=(x_1,\ldots,x_{i-1})$ とする。正則性から $I_{i-1}:x_i=I_{i-1}$ である。また $A/I_{i-1}$ は正の深さをもつので、そのソクルは零、すなわち $I_{i-1}:\mathfrak m=I_{i-1}$ である。従って各 $i$ で二つのイデアル商が等しく、パラメータ系は弱列である。
$$
A=k[[x,y]]/(x^2,xy)
$$
とする。$\sqrt{(x^2,xy)}=(x)$ なので $\dim A=1$ である。$A$ は $k[[y]]$-加群として
$$
A\cong k[[y]]\oplus kx
$$
と書け、$x\neq0$ かつ $\mathfrak m x=0$ だから深さは0である。それでも、下の計算により $A$ はBuchsbaum環である。
$a\in\mathfrak m$ を任意のパラメータとする。$A/(x)\cong k[[y]]$ における $a$ の像は非零である。$ra=0$ なら、整域 $k[[y]]$ へ移した像から $r\in(x)$ が従う。逆に $\mathfrak m(x)=0$ なので $(x)\subseteq(0:a)$ であり、
$$
(0:a)=(x)=(0:\mathfrak m)
$$
となる。一次元ではパラメータ系は一元 $a$ からなるので、すべてのパラメータ系が弱列である。
$$
B=k[[x,y]]/(x^3,xy)
$$
とする。$\dim B=1$ で、$H^0_{\mathfrak m}(B)=(x)$ は長さ2をもつ。従って $B$ は一般化Cohen–Macaulayである。一方、$y$ はパラメータだが
$$
(0:y)=(x),\qquad (0:\mathfrak m)=(x^2)
$$
であり、両者は等しくない。従って $(y)$ は弱列でなく、$B$ はBuchsbaum環でない。これは「一般化Cohen–MacaulayならBuchsbaum」という含意の反例である。
$Q=(x_1,\ldots,x_d)$ をパラメータ・イデアルとし、$e(Q,A)$ をHilbert–Samuel重複度とする。
正次元ネーター局所環 $A$ について、次は同値である。
Cohen–Macaulay環では $I(A)=0$ である。上の非Cohen–Macaulay例 $A=k[[x,y]]/(x^2,xy)$ では、$Q=(y)$ とすると $\ell_A(A/(y))=2$、$e((y),A)=1$ なので $I(A)=1$ である。従って $I(A)$ は、パラメータ系が正則列でないことによる有限長のずれを測る。
数値的特徴づけの出典:Stückrad–Vogel, Buchsbaum Rings and Applications。定義の弱列条件と、すべてのパラメータ・イデアルで長さと重複度の差が一定になる条件との同値を用いる( Springer書誌ページ )。
局所コホモロジーは、Buchsbaum環がCohen–Macaulay環からどれだけ外れるかを次数ごとに記録する。
$A$ を $d$ 次元Buchsbaum局所環とする。このとき $0\leq i< d$ について
$$
\mathfrak m H^i_{\mathfrak m}(A)=0
$$
であり、各 $H^i_{\mathfrak m}(A)$ は有限長である。さらに
$$
I(A)=\sum_{i=0}^{d-1}\binom{d-1}{i}
\ell_A\bigl(H^i_{\mathfrak m}(A)\bigr)
$$
が成り立つ。
特にBuchsbaum環は一般化Cohen–Macaulay環である。ただし、$\mathfrak mH^i_{\mathfrak m}(A)=0$ だけをBuchsbaum性と同値だと考えてはいけない。この消去条件を満たす環は quasi-Buchsbaum環と呼ばれ、一般にはBuchsbaum環より広い。
$$
\text{Cohen--Macaulay}
\Longrightarrow \text{Buchsbaum}
\Longrightarrow \text{quasi-Buchsbaum}
\Longrightarrow \text{一般化Cohen--Macaulay}.
$$
最初の逆向きが成り立たないことは $k[[x,y]]/(x^2,xy)$ が示す。最後の逆向きが成り立たないことは $k[[x,y]]/(x^3,xy)$ が示す。中央の逆向きも一般には成り立たず、次元3以上のquasi-Buchsbaum整域でBuchsbaumでない例が存在する。
ホモロジー的性質の出典:Fiorentini–Hoaは一般化Cohen–Macaulay、Buchsbaum、quasi-Buchsbaumを局所コホモロジーと弱列で比較している( 1994年論文PDF )。quasi-BuchsbaumからBuchsbaumへの逆が失敗する具体的な存在定理はGoto( 1984年論文・DOI )による。
ネーター局所環 $A$ がBuchsbaum環であることと、すべてのパラメータ系が $d$-列をなすことは同値である。
$d$-列はRees代数や対称代数の関係式を制御するため、この特徴づけはBuchsbaum性をblow-up代数の研究へ結び付ける。ただし、ここで必要なのは一つのパラメータ系ではなくすべてのパラメータ系についての条件である。
$d$-列による特徴づけの出典:Huneke, “The theory of d-sequences and powers of ideals,” Proposition 1.7( DOI )。
ネーター局所環 $A$ はBuchsbaum環であることと、その $\mathfrak m$-進完備化 $\widehat A$ がBuchsbaum環であることは同値である。
一方、Buchsbaum性は多項式を付け加える操作に無条件では安定でない。非Cohen–MacaulayなBuchsbaum局所環 $A$ に対し、$A[T]$ のすべての局所環がBuchsbaumになるとは限らない。完備化による保存と、多項式環の局所的な保存を混同してはいけない。
完備化と局所化に関する出典:Daepp–Evans, “A Note on Buchsbaum Rings and Localizations of Graded Domains,” p.1246のNotice(多項式環の非保存)、Theorem 3(特定の平坦局所拡大)、Addendum(完備化)( 1980年論文・DOI )。
二つの一次元例では、次元、深さ、$H^0_{\mathfrak m}$、colonイデアルを本文中で計算した。Cohen–Macaulay環からBuchsbaum環への含意も正則列から示した。すべてのパラメータ・イデアルに対する数値的不変性、一般次数の局所コホモロジー公式、$d$-列による特徴づけ、完備化による保存には外部定理を用いる。