Schmidtの部分空間定理

同義語:Schmidt subspace theorem部分空間定理subspace theoremシュミットの部分空間定理S単数定理unit theorem (S-unit equations)

概要

Schmidtの部分空間定理(Schmidt subspace theorem)とは、代数的数を係数とする $n$ 個の線形独立な 1 次形式 $L_1,\dots,L_n$ と $\delta>0$ について、$|L_1(\mathbf{x})\cdots L_n(\mathbf{x})|<|\mathbf{x}|^{-\delta}$ をみたす整数ベクトル $\mathbf{x}$ が、すべて有限個の真の有理部分空間に含まれるという定理である。W. M. Schmidt が 1972 年に証明した。$n=2$ の場合は Roth の定理にあたる。代数体と有限個の素点での射影空間の形があり、そこから S 単数方程式 $a_1u_1+\dots+a_nu_n=1$ の非退化な解が有限個であること(S 単数定理)が従う。ノルム形式方程式や Siegel の定理の別証明にも使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Rothの定理, Weil高さ, 代数体, 線形部分空間, 線形独立

Schmidt の部分空間定理(Schmidt subspace theorem)とは、代数的数を係数とする $n$ 個の線形独立な 1 次形式 $L_1,\dots,L_n$ と $\delta>0$ について、不等式
$$ \lvert L_1(\mathbf{x})\cdots L_n(\mathbf{x})\rvert<\lvert\mathbf{x}\rvert^{-\delta} $$
をみたす整数ベクトル $\mathbf{x}\in\mathbb{Z}^n$ が、すべて有限個の真の有理部分空間に含まれる、という定理である。W. M. Schmidt が 1972 年に証明した。$n=2$ の場合は Rothの定理 にあたり、部分空間定理はその多変数への一般化である。
1 変数の近似と違い、例外が「有限個の点」ではなく「有限個の部分空間」になるのは避けられない。たとえば $L_1$ が有理数係数なら、有理部分空間 $L_1=0$ の上の無限個の整数点で左辺は $0$ になる。部分空間定理の使い方の典型は、例外の部分空間の上で問題の変数を 1 つ減らし、帰納法で片づけることである。この方法で、単数の 1 次方程式(S 単数方程式)の解の有限性、ノルム形式方程式の解の有限性、Siegel の整数点の定理の別証明などが得られる。
部分空間定理そのものの証明はこの記事では扱わない。この記事では、定理を整数ベクトルの形と、代数体と有限個の素点での射影空間の形で述べ、Roth の定理が $n=2$ の場合から従うこと、および S 単数方程式の非退化な解が有限個であること(S 単数定理)を、部分空間定理から完全に証明する。

整数ベクトルの形

$\mathbb{R}^n$ の部分空間が 有理部分空間 であるとは、有理数係数の 1 次方程式で定義されることをいう。$\mathbf{x}=(x_1,\dots,x_n)$ について $\lvert\mathbf{x}\rvert:=(x_1^2+\dots+x_n^2)^{1/2}$ とする。

部分空間定理

$n\ge2$ とし、$L_1,\dots,L_n$ を、実数または複素数の代数的数を係数とする $n$ 変数の 1 次形式で、線形独立なものとする。$\delta>0$ とする。このとき
$$ \lvert L_1(\mathbf{x})\cdots L_n(\mathbf{x})\rvert<\lvert\mathbf{x}\rvert^{-\delta} $$
をみたす $\mathbf{x}\in\mathbb{Z}^n\setminus\{\mathbf{0}\}$ は、すべて有限個の真の有理部分空間の和集合に含まれる。

この定理はこの記事では証明しない(Schmidt, Ann. of Math. 96 (1972)。主張は Sch89 §1、p. 121)。素数の有限集合 $S$ について、各 $\ell\in S$ で整数係数の線形独立な 1 次形式 $L_{1,\ell},\dots,L_{n,\ell}$ をとり、左辺に $\prod_{\ell\in S}\prod_i\lvert L_{i,\ell}(\mathbf{x})\rvert_\ell$ を掛け、右辺を $(\max\{1,\lvert x_1\rvert,\dots,\lvert x_n\rvert\})^{-\delta}$ とした $p$ 進版もある(Bug11 §2 の Theorem (Subspace Theorem)、p. 38)。
定量版.Schmidt は、例外の部分空間の個数の上界を与えた。係数が $d$ 次の代数体に属し、$0<\delta<1$ のとき、不等式 $\lvert L_1(\mathbf{x})\cdots L_n(\mathbf{x})\rvert<\lvert\det(L_1,\dots,L_n)\rvert\,\lvert\mathbf{x}\rvert^{-\delta}$ の整数解は、$\bigl[(2d)^{2^{26n}\delta^{-2}}\bigr]$ 個の真の部分空間のどれかに含まれるか、ノルムが $\max\bigl((n!)^{8/\delta},H(L_1),\dots,H(L_n)\bigr)$ 未満である(Sch89 の Theorem、p. 122)。部分空間の大きさ(高さ)には上界がなく、この意味で定理は有効でない(Bug11 §1、p. 36)。

Roth の定理は部分空間定理から従う

thm-sst-integral を認めると、Rothの定理 の定理「Roth の定理」が成り立つ。すなわち、実数の代数的な無理数 $\alpha$ と $\varepsilon>0$ について、$\lvert\alpha-p/q\rvert< q^{-2-\varepsilon}$($q\ge1$)をみたす有理数 $p/q$ は有限個である。

$L_1(x_1,x_2):=x_2$、$L_2(x_1,x_2):=\alpha x_2-x_1$ とおく。係数行列 $\begin{pmatrix}0&1\\-1&\alpha\end{pmatrix}$ の行列式は $1$ なので、$L_1,L_2$ は線形独立で、係数は代数的数である。
条件をみたす既約分数 $p/q$($q\ge1$)が無限個あったとする。そのような $p/q$ について $\mathbf{x}=(p,q)$ とおくと
$$ \lvert L_1(\mathbf{x})L_2(\mathbf{x})\rvert=q\,\lvert q\alpha-p\rvert=q^2\Bigl\lvert\alpha-\frac pq\Bigr\rvert< q^{-\varepsilon} $$
である。また $\lvert q\alpha-p\rvert<1$ から $\lvert p\rvert\le(\lvert\alpha\rvert+1)q$ なので、$\lvert\mathbf{x}\rvert\le\lvert p\rvert+q\le(\lvert\alpha\rvert+2)q$ である。$q\ge\lvert\alpha\rvert+2$ なら $\lvert\mathbf{x}\rvert\le q^2$、すなわち $q^{-\varepsilon}\le\lvert\mathbf{x}\rvert^{-\varepsilon/2}$ となる。$\lvert\alpha-p/q\rvert<1$ で分母が $\lvert\alpha\rvert+2$ 未満の有理数は有限個なので、無限個の $p/q$ が
$$ \lvert L_1(\mathbf{x})L_2(\mathbf{x})\rvert<\lvert\mathbf{x}\rvert^{-\varepsilon/2} $$
をみたす。thm-sst-integral($n=2$、$\delta=\varepsilon/2$)により、これらの $\mathbf{x}$ は有限個の真の有理部分空間に含まれる。$\mathbb{Q}^2$ の真の部分空間は $\{\mathbf{0}\}$ か原点を通る直線である。$q\ge1$ で $\gcd(p,q)=1$ の点 $(p,q)$ は、1 本の直線の上に高々 1 つしかない(同じ直線上の 2 点は比 $p/q$ が等しく、既約分数としての表し方は 1 通り)。よって $p/q$ は有限個となり、矛盾する。$\square$

Bug11 §2(p. 38)は、Roth の定理を「$q\lvert q\alpha-p\rvert<\lvert q\rvert^{-\varepsilon}$ の整数解は $\mathbb{Q}^2$ の有限個の真の部分空間に含まれる」と書き直し、部分空間定理の特別な場合であることを述べている。上の証明はこの書き直しを確かめたものである。

代数体と有限個の素点の形

応用では、代数体 $k$ の点を、有限個の素点で同時に測る形が使われる。以下 $k$ を 代数体、$M_k$ をその素点全体、$\|\cdot\|_v$ を Weil高さ の節「素点と正規化された絶対値」の正規化された絶対値とし、$S\subset M_k$ を無限素点をすべて含む有限集合とする。射影空間の点 $P=[y_0:\dots:y_N]\in\mathbb{P}^N(k)$ について
$$ h_k(P):=\sum_{v\in M_k}\log\max_i\|y_i\|_v=[k:\mathbb{Q}]\,h(P) $$
とおく($h$ は Weil高さ)。

一般の位置と Weil 関数

$k$ 係数の $0$ でない 1 次形式 $\ell_1,\dots,\ell_q$($N+1$ 変数)が定める $\mathbb{P}^N$ の超平面 $H_1,\dots,H_q$ が 一般の位置 にあるとは、$\ell_1,\dots,\ell_q$ のうち $N+1$ 個以下をどう選んでも線形独立であることをいう。
$k$ 係数の $0$ でない 1 次形式 $\ell$ と、$\ell=0$ の上にない点 $P=[y_0:\dots:y_N]\in\mathbb{P}^N(k)$、$v\in M_k$ について
$$ \lambda_{\ell,v}(P):=\log\frac{\max_i\|y_i\|_v}{\|\ell(\mathbf{y})\|_v} $$
とおき、$m_S(\ell,P):=\sum_{v\in S}\lambda_{\ell,v}(P)$、$N_S(\ell,P):=\sum_{v\notin S}\lambda_{\ell,v}(P)$ とおく。$m_S$ を 近接関数、$N_S$ を 個数関数 という。

$\lambda_{\ell,v}(P)$ は、座標 $\mathbf{y}$ を $c\in k^\times$ 倍しても分子と分母が $\|c\|_v$ 倍になるだけなので、$P$ だけで決まる。$P$ が $v$ 進的に超平面 $\ell=0$ に近いほど大きい。一般の位置の定義は Voj11 Definition 7.1(p. 133)の「$j\le N$ 個の交わりは $N-j$ 次元、$N+1$ 個の交わりは空」と同じことである。$\lambda_{\ell,v}$ の定義は Voj11 Definition 7.9、$m_S$・$N_S$ は同 Definition 7.10(pp. 134–135)である。

近接関数と個数関数の和

$\ell=0$ の上にない $P\in\mathbb{P}^N(k)$ について $m_S(\ell,P)+N_S(\ell,P)=h_k(P)$ である。

$\ell(\mathbf{y})\ne0$ なので、アデール環 の定理「積公式」により $\sum_{v}\log\|\ell(\mathbf{y})\|_v=0$ である。よって $\sum_v\lambda_{\ell,v}(P)=\sum_v\log\max_i\|y_i\|_v=h_k(P)$ である。和は有限和である(Weil高さ の定義「Weil 高さ」の後の段落と同じ理由)。$\square$

部分空間定理(射影空間の形)

$N\ge1$ とし、$k$ 係数の 1 次形式 $\ell_1,\dots,\ell_q$ が定める超平面は一般の位置にあるとする。$\varepsilon>0$、$c\in\mathbb{R}$ とする。このとき、$\mathbb{P}^N_k$ の有限個の真の線形部分空間の和集合 $Z$ があって、どの $\ell_j=0$ の上にもなく $Z$ にも属さないすべての $P\in\mathbb{P}^N(k)$ について
$$ \sum_{j=1}^qm_S(\ell_j,P)\le(N+1+\varepsilon)\,h_k(P)+c $$
が成り立つ。

この定理はこの記事では証明しない(Voj11 Theorem 7.11、p. 135)。$N=1$ のとき、$\mathbb{P}^1$ の超平面は点で、これは代数体と有限個の素点での Roth の定理になる(同所)。Schmidt の元の形は、超平面の組を素点ごとに取り替えてよい、より強い主張である(Voj11 Theorem 7.12、p. 136。Schmidt の 1991 年の本の Chapter VIII, Theorem 7A を出典としている)。
なぜ「和」が効くか.lem-sst-first-main により、$N_S(\ell_j,P)$ が小さい点、すなわち $S$ の外では超平面に近づかない点では、$m_S(\ell_j,P)$ はほぼ $h_k(P)$ に等しい。そのような超平面が $N+2$ 枚以上あると、左辺はほぼ $(N+2)h_k(P)$ 以上になり、右辺の $(N+1+\varepsilon)h_k(P)$ を超える。こうして、$Z$ の外では高さが有界になり、Northcott の定理で有限性が出る。次節はこの議論の典型である。

応用:S 単数定理

S 単数

$S$ を上のとおりとする。$u\in k^\times$ が $S$ 単数 であるとは、すべての $v\notin S$ について $\|u\|_v=1$ であることをいう。$S$ 単数全体は乗法群をなし、$\mathcal{O}_S^\times$ と書く。

$S$ が無限素点だけなら、$S$ 単数は整数環の単数である(有限素点で $\|u\|_v=1$ は $v_{\mathfrak{p}}(u)=0$ のこと)。$k=\mathbb{Q}$、$S=\{\infty,2,3\}$ なら、$\mathcal{O}_S^\times=\{\pm2^a3^b\mid a,b\in\mathbb{Z}\}$ である。この定義は Bug11 §3(p. 39)、Eve84 §1(p. 226)のものである。
$a_1,\dots,a_n\in k^\times$ を固定し、方程式
$$ a_1u_1+\dots+a_nu_n=1,\qquad u_1,\dots,u_n\in\mathcal{O}_S^\times $$
を S 単数方程式 という。解 $(u_1,\dots,u_n)$ が 非退化 であるとは、$\{1,\dots,n\}$ の空でないどの部分集合 $J$ についても $\sum_{j\in J}a_ju_j\ne0$ であることをいう($J=\{1,\dots,n\}$ では和が $1$ なので、条件は真部分集合についてのものである)。

S 単数定理

S 単数方程式 $a_1u_1+\dots+a_nu_n=1$ の非退化な解は有限個である。

この定理は van der Poorten–Schlickewei(1982)と Evertse(1984)が独立に示した(Eve84 Theorem 1、p. 227 は同値な射影の形 $x_0+\dots+x_n=0$ で述べる。Voj11 Theorem 13.2、p. 157、Bug11 §3、p. 39)。以下の証明は Voj11 の証明の方針に沿い、細部を補ったものである。

$n$ についての帰納法で示す。$n=1$ なら $u_1=1/a_1$ だけである。$n\ge2$ とし、$n-1$ 以下の場合は(任意の $0$ でない係数について)示されているとする。非退化な解全体を $U$ とする。
射影空間の点への翻訳.$\mathbf{u}\in U$ について $y_j:=a_ju_j$ とし、$P_{\mathbf{u}}:=[y_1:\dots:y_n]\in\mathbb{P}^{n-1}(k)$ とおく。$\sum_jy_j=1$ なので座標は $P_{\mathbf{u}}$ から一意に決まり、$u_j=y_j/a_j$ なので $\mathbf{u}\mapsto P_{\mathbf{u}}$ は単射である。$N:=n-1\ge1$ とし、$n+1$ 個の 1 次形式
$$ \ell_j(\mathbf{Y}):=Y_j\quad(1\le j\le n),\qquad\ell_0(\mathbf{Y}):=Y_1+\dots+Y_n $$
を考える。これらのうち $n$ 個はつねに線形独立である($\ell_1,\dots,\ell_n$ は座標、$\ell_j$ を 1 つ除いた組では、$\ell_0$ だけが $Y_j$ を含む)。よって定める超平面は一般の位置にある。$y_j\ne0$、$\ell_0(\mathbf{y})=1\ne0$ なので、$P_{\mathbf{u}}$ はどの超平面の上にもない。
個数関数は定数.$v\notin S$ では $\|u_j\|_v=1$ なので $\|y_j\|_v=\|a_j\|_v$、$\|\ell_0(\mathbf{y})\|_v=1$ である。よって
$$ \lambda_{\ell_j,v}(P_{\mathbf{u}})=\log\frac{\max_i\|a_i\|_v}{\|a_j\|_v},\qquad\lambda_{\ell_0,v}(P_{\mathbf{u}})=\log\max_i\|a_i\|_v $$
であり、これらは $\mathbf{u}$ によらない。$\|a_i\|_v\ne1$ となる $v$ は有限個なので、$S$ の外の有限個の素点を除いて $0$ である。したがって定数 $c_0,\dots,c_n$ があって、すべての $\mathbf{u}\in U$ で $N_S(\ell_j,P_{\mathbf{u}})=c_j$ となる。lem-sst-first-main により $m_S(\ell_j,P_{\mathbf{u}})=h_k(P_{\mathbf{u}})-c_j$ であり、$c':=\sum_jc_j$ とおくと
$$ \sum_{j=0}^nm_S(\ell_j,P_{\mathbf{u}})=(n+1)\,h_k(P_{\mathbf{u}})-c' $$
である。
部分空間の外では有限個.thm-sst-projective を $N=n-1$、$\varepsilon=1/2$、$c=0$ で当てる。有限個の真の線形部分空間 $W_1,\dots,W_t$ があって、$P_{\mathbf{u}}\notin W_1\cup\dots\cup W_t$ なら $(n+1)h_k(P_{\mathbf{u}})-c'\le(n+\tfrac12)h_k(P_{\mathbf{u}})$、すなわち $h_k(P_{\mathbf{u}})\le2c'$ である。これらの点は $\mathbb{P}^{n-1}(k)$ に属し(定義体の次数は $[k:\mathbb{Q}]$ 以下)、高さが有界なので、Weil高さ の定理「Northcott の定理」により有限個である。単射性から、このような $\mathbf{u}$ は有限個である。
部分空間の上では変数が減る.各 $W_i$ を、$k$ 係数の超平面 $\sum_jc^{(i)}_jY_j=0$ に含まれるものとして 1 つ固定する。$P_{\mathbf{u}}\in W_i$ とし、$c:=c^{(i)}$ と書く。$\sum_jc_jy_j=0$ かつ $\sum_jy_j=1$ なので、$c$ は $(1,\dots,1)$ の定数倍ではない。$c_{j_0}\ne0$ となる $j_0$ を 1 つ固定し、$b_j:=1-c_j/c_{j_0}$ とおくと $b_{j_0}=0$ で
$$ \sum_{j\ne j_0}b_jy_j=\sum_jy_j-\frac{1}{c_{j_0}}\sum_jc_jy_j=1 $$
である。空でない $I\subset\{j\ne j_0\mid b_j\ne0\}$ で $\sum_{j\in I}b_jy_j=1$ となるもの(全体がその 1 つ)のうち、包含について極小なもの $I_0$ をとる。$\lvert I_0\rvert\le n-1$ であり、$(u_j)_{j\in I_0}$ は方程式 $\sum_{j\in I_0}(b_ja_j)u_j=1$ の非退化な解である。実際、空でない真部分集合 $I_1\subsetneq I_0$ で $\sum_{j\in I_1}b_jy_j=0$ となるものがあれば、$I_0\setminus I_1$ の上の和が $1$ となって極小性に反する。$I_0$ の選び方は有限通りなので、帰納法の仮定により、$(u_j)_{j\in I_0}$ は有限個の値しかとらない。
$I_0$ から $j_1$ を 1 つとる。$u_{j_1}$ は有限個の値しかとらない。$\beta:=1-a_{j_1}u_{j_1}$ とおくと、$\sum_{j\ne j_1}a_ju_j=\beta$ であり、$\beta=0$ なら空でない真部分集合 $J=\{1,\dots,n\}\setminus\{j_1\}$ の和が $0$ となって非退化性に反する。よって $\beta\ne0$ で、$(u_j)_{j\ne j_1}$ は $\sum_{j\ne j_1}(a_j/\beta)u_j=1$ の解であり、その部分和が $0$ なら元の方程式の部分和も $0$ なので非退化である。$u_{j_1}$ の値ごとに帰納法の仮定($n-1$ 変数)を当てると、$(u_j)_{j\ne j_1}$ は有限個である。
$W_1,\dots,W_t$ は有限個なので、$P_{\mathbf{u}}$ がどれかの $W_i$ に属する解も有限個である。前段と合わせて $U$ は有限集合である。$\square$

$n=2$ の場合は、単数の方程式 $\varepsilon_1-\varepsilon_2=1$ の解の有限性(Chowla 1961)の一般化で、$n=2$ の射影の形は Mahler による(Eve84 §1、p. 225、p. 227)。$n=2$ では例外の部分空間は $\mathbb{P}^1$ の点であり、上の証明は Rothの定理 の代数体と有限個の素点への一般化だけを使っている。

$\{2,3\}$ 単数の方程式

$k=\mathbb{Q}$、$S=\{\infty,2,3\}$ とし、$u+v=1$($u,v\in\{\pm2^a3^b\}$)を考える。$n=2$ では非退化は $u,v\ne0$ のことで自動的に成り立つので、解は有限個である。たとえば
$$ 2+(-1)=1,\quad 3+(-2)=1,\quad 4+(-3)=1,\quad 9+(-8)=1,\quad \tfrac12+\tfrac12=1,\quad \tfrac14+\tfrac34=1,\quad \tfrac19+\tfrac89=1,\quad -\tfrac18+\tfrac98=1 $$
は解である。$\lvert a\rvert\le12$、$\lvert b\rvert\le8$ の範囲を探すと、順序を区別して $21$ 組の解が見つかる(Python による計算)。この範囲の外に解がないことは、S 単数定理からは分からない(定理は有効でない)。

退化した解

$n=3$、$a_1=a_2=a_3=1$ とする。$u$ を任意の $S$ 単数とすると、$(u,-u,1)$ は $u+(-u)+1=1$ をみたす。$S$ 単数が無限個あれば(たとえば $k=\mathbb{Q}$、$S=\{\infty,2\}$ で $u=2^a$)、解は無限個ある。これらはすべて部分和 $u+(-u)=0$ をもつ退化した解である(Voj11 Example 13.3、p. 157)。射影の言葉では、これらの点 $[u:-u:1]$ は直線 $Y_1+Y_2=0$ の上にあり、thm-sst-projective の例外の部分空間に入る。

ほかの応用

以下はこの記事では証明しない。

  • ノルム形式方程式.代数体 $K$ の元 $\alpha_1,\dots,\alpha_n$ による 1 次形式 $L=\alpha_1X_1+\dots+\alpha_nX_n$ について、方程式 $N_{K/\mathbb{Q}}(L(x_1,\dots,x_n))=m$ の整数解が、すべての $0$ でない整数 $m$ について有限個であるための必要十分条件を、Schmidt は部分空間定理で与えた(Schmidt, Ann. of Math. 96 (1972)。Bug11 §3、p. 39)。Thue 方程式はその特別な場合である。
  • 次数が有界な代数的数による近似.$\xi$ を $n$ 次より大きい実代数的数、$\varepsilon>0$ とする。次数 $n$ 以下の代数的数 $\alpha$ で $\lvert\xi-\alpha\rvert< H(\alpha)^{-n-1-\varepsilon}$ となるものは有限個である。ここで $H(\alpha)$ は $\alpha$ の最小多項式(整数係数)の係数の絶対値の最大である(Schmidt 1970。Bug11 §3、p. 38)。$n=1$ が Rothの定理 である。
  • Siegel の定理の別証明.少なくとも 3 つの無限遠点をもつ滑らかなアフィン曲線の整数点の集合は有限である。Corvaja–Zannier(2002)は、曲線を大きな射影空間に埋め込み、無限遠点で高い位数で消える超平面を選んで部分空間定理を当てることで、これを示した(Voj11 §19、Theorem 19.1、p. 171)。
  • 一般の因子への拡張.射影多様体 $X$ の有効 Cartier 因子 $D$ について、Ru は $\mathrm{Nev}(D)$ という数を定め、$\varepsilon>0$ について近接関数 $m_S(x,D)$ が $(\mathrm{Nev}(D)+\varepsilon)h_D(x)$ 以下であることを、$X(k)$ の真の Zariski 閉集合の外で示した。$\mathrm{Nev}(D)< 1$ なら $X\setminus D$ の整数点は退化する(RV16 §1、Theorem B と前後の段落、pp. 1–2)。超平面の場合の thm-sst-projective がその出発点になっている。
    これらの定理は、複素解析の Nevanlinna 理論の定理(Cartan の定理)と形がよく似ており、この対応は Vojta予想 で扱う(Voj11 §7、Theorem 7.7 と Theorem 7.11、pp. 134–135)。

反例と注意

部分空間定理と S 単数定理の仮定を外すと、結論は成り立たなくなる。確かめは表の下にある。

外す条件・替える条件反例成り立たなくなること
$\delta>0$$n=2$、$L_1=x_2$、$L_2=\sqrt2x_2-x_1$、$\delta=0$解は有限個の部分空間に含まれる
係数が代数的$L_2=\xi x_2-x_1$($\xi$ は Liouville 数)解は有限個の部分空間に含まれる
$L_i$ が線形独立$L_1=L_2=\sqrt2x_2-x_1$解は有限個の部分空間に含まれる
「部分空間」を「点」に替える$n=3$、$L_1=x_1$、$L_2=x_2-\sqrt2x_3$、$L_3=x_3$解は有限個
非退化$u+(-u)+1=1$S 単数方程式の解は有限個
$S$ が有限集合$S=M_{\mathbb{Q}}$(すべての素点)$u+v=1$ の解は有限個

各行の反例が、どの条件を破り、他の条件をみたすかを確かめる。

各行の確認を開く

1 行目:$L_1,L_2$ は代数的係数で線形独立である。$\sqrt2$ の連分数の収束子 $p/q$ は無限個あり、$\lvert\sqrt2-p/q\rvert<1/q^2$ をみたす(連分数 の定理「無理数の連分数展開」)ので、$\mathbf{x}=(p,q)$ について $\lvert L_1L_2\rvert=q\lvert q\sqrt2-p\rvert<1=\lvert\mathbf{x}\rvert^{0}$ である。既約な $(p,q)$ は直線ごとに高々 1 つなので、これらは有限個の直線に含まれない。

2 行目:Liouville 数 $\xi=\sum_{k\ge1}10^{-k!}$ の近似 $p_n/q_n$($q_n=10^{n!}$)は $0<\xi-p_n/q_n<2/q_n^{n+1}$ をみたす(Diophantus幾何学 の例「Liouville 数」)。$L_1,L_2$ は線形独立だが $\xi$ は代数的でない。$\mathbf{x}=(p_n,q_n)$ について $\lvert L_1L_2\rvert< 2/q_n^{n-1}$、$\lvert\mathbf{x}\rvert\le2q_n$ なので、$n$ が大きいと $\lvert L_1L_2\rvert<\lvert\mathbf{x}\rvert^{-1}$ となる。$p_n/q_n$ は互いに異なる既約分数なので、これらは有限個の直線に含まれない。

3 行目:係数は代数的だが $L_1=L_2$ は線形独立でない。1 行目の収束子について $\lvert L_1L_2\rvert=(q\sqrt2-p)^2<1/q^2$ であり、$\lvert\mathbf{x}\rvert\le3q$ なので、$\delta< 2$ について $q$ が大きいと $1/q^2<\lvert\mathbf{x}\rvert^{-\delta}$ となる。解は有限個の直線に含まれない。

4 行目:$L_1,L_2,L_3$ は代数的係数で線形独立である。$\mathbf{x}=(0,p,q)$ はすべて $L_1(\mathbf{x})=0$ なので不等式をみたし、解は無限個ある。これらは 1 つの有理部分空間 $x_1=0$ に含まれるので定理の結論は成り立つが、「解は有限個」は成り立たない。

5 行目:ex-sst-degenerate のとおり、$S$ 単数が無限個あれば解は無限個で、すべて部分和 $u+(-u)$ が $0$ の退化した解である。

6 行目:$S$ がすべての素点なら、$0$ でないすべての有理数が $S$ 単数になる。$u\ne0,1$ について $(u,1-u)$ は非退化な解($n=2$)で、無限個ある。prf-sst-unit の「個数関数は定数」の段で、$S$ の外の素点が有限個を除いて寄与しないことを使ったが、$S$ が無限集合だと $m_S$ が有限和でなくなり、thm-sst-projective も当てられない。

関連項目

参考文献

[1]
Wolfgang M. Schmidt, The subspace theorem in diophantine approximations, Compositio Mathematica, 1989, §1:部分空間定理の主張(Schmidt, Norm form equations, Ann. of Math. 96 (1972) を引く)p. 121、定量版の Theorem p. 122
[2]
Yann Bugeaud, Quantitative versions of the Subspace Theorem and applications, Journal de Théorie des Nombres de Bordeaux, 2011, §1(非有効性)p. 36、§2:Theorem (Subspace Theorem) と Roth の定理の書き換え p. 38、§3:Theorem (Schmidt, 1970) p. 38、ノルム形式方程式・S 単数の定義・Theorem (Schlickewei and van der Poorten, 1982, and Evertse, 1984) p. 39
[3]
Paul Vojta, Diophantine approximation and Nevanlinna theory, Arithmetic Geometry (Cetraro, 2007), Lecture Notes in Mathematics 2009, Springer, 2011, 著者サイトの版(刊行版と同じ頁番号)。§7:Definition 7.1 p. 133、Theorem 7.7・Definition 7.9 p. 134、Definition 7.10・Theorem 7.11 p. 135、Theorem 7.12 p. 136;§13:Theorem 13.2(Unit Theorem)と証明・Example 13.3 p. 157;§19:Theorem 19.1(Siegel)p. 171
[4]
Jan-Hendrik Evertse, On sums of S-units and linear recurrences, Compositio Mathematica, 1984, §1:Chowla の単数方程式 p. 225、S 単数の定義 p. 226、Theorem 1 と Mahler の n=2 の場合 p. 227
[5]
Min Ru, Paul Vojta, A birational Nevanlinna constant and its consequences, arXiv:1608.05382v1, 2016, arXiv:1608.05382v1(2016-08-18)。§1:Nevanlinna 定数と、Nev(D)<1 なら整数点が退化すること p. 1、Definition 1.1・Theorem B p. 2

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