永田のコンパクト化(Nagata compactification)とは、準コンパクトかつ準分離的なスキーム $S$ 上の分離的な有限型スキーム $X$ を、$S$ 上固有なスキーム $\bar X$ の準コンパクトな開部分スキームとして実現すること、またそれが常に可能であるという永田雅宜の定理のことである。逆にコンパクト化をもつ $X$ は分離的で有限型なので、この条件はコンパクト化の存在と同値である。コンパクト化は一意ではないが、スキーム論的像をとれば稠密なものに取り替えられ、どの 2 つも両方へ写る第 3 のコンパクト化をもち、固有な $X$ の稠密なコンパクト化は $X$ 自身に限る。エタールコホモロジーのコンパクト台の順像の定義などで基本となる。
位相空間論では、局所コンパクト Hausdorff 空間は、コンパクト Hausdorff 空間の開集合として実現できる(一点コンパクト化)。スキームの世界では「Hausdorff」に当たるのが分離的(分離射)、「コンパクト」に当たるのが固有(固有射)である。永田のコンパクト化定理は、この類似が期待どおりに成り立つことを主張する。準コンパクトかつ準分離的なスキーム $S$ の上の分離的な有限型スキーム $X$ は、$S$ 上固有なスキーム $\bar X$ の開部分スキームとして実現できる。
この定理は、$S$ が Noether の場合に永田雅宜が 1962 年と 1963 年の論文で示した。永田の議論はスキーム以前の言葉で書かれており、Deligne がそれをスキームの言葉に翻訳して $S$ が準コンパクトかつ準分離的な場合に広げ、Conrad がそれを詳しく書き下ろした(Con07 の序文)。証明は長く、この記事では証明しない。代わりに、定理を使う場面で必要になる次の基本的な事実を証明する。コンパクト化があれば $X$ は分離的で有限型であること(条件は外せない)、準射影的な場合の構成、コンパクト化を稠密なものに取り替えられること、2 つのコンパクト化は第 3 のコンパクト化で支配されること、そして固有な $X$ では稠密なコンパクト化が $X$ 自身しかないこと、である。
この記事では $S$ を準コンパクトかつ準分離的(分離射 の記事の定義「準分離的な射の定義」)なスキームとし、$S$ 上の射を $S$ 射とよぶ。
スキームの射 $h\colon X\to Y$ について、$h$ が経由する $Y$ の閉部分スキームのうち最小のものが存在し、$h$ のスキーム論的像(scheme theoretic image)とよばれる(Stacks Definition 29.6.2、Tag 01R7、p. 2433)。$h$ が準コンパクトなら、スキーム論的像 $Z$ は準連接イデアル層 $\operatorname{Ker}(\mathcal{O}_Y\to h_*\mathcal{O}_X)$ が定める閉部分スキームで、次の 2 つが成り立つ(Stacks Lemma 29.6.3、Tag 01R8、p. 2434)。
$X$ を $S$ スキームとする。$X$ の $S$ 上のコンパクト化(compactification)とは、$S$ 上固有なスキーム $\bar X$ と、準コンパクトな $S$ 上の開埋め込み $j\colon X\to\bar X$ の組 $(\bar X,j)$ のことである。$j(X)$ が $\bar X$ で稠密であり、かつ $j$ がスキーム論的に稠密であるとき、$(\bar X,j)$ は稠密であるという。2 つのコンパクト化の間の射 $(\bar X',j')\to(\bar X,j)$ とは、$S$ 射 $\varphi\colon\bar X'\to\bar X$ で $\varphi\circ j'=j$ となるもののことである。
これは Stacks Section 38.32(Tag 0ATT、pp. 3517–3518)の定義である。稠密性を定義に含めない文献もある(Stacks は含めない)。
$S$ を準コンパクトかつ準分離的なスキーム、$f\colon X\to S$ を分離的な有限型の射とする。このとき $X$ は $S$ 上のコンパクト化をもつ。さらに、コンパクト化は稠密なものにとれる。
前半はこの記事では証明しない。Stacks Theorem 38.33.8(Tag 0F41、p. 3525。証明は Section 38.33、pp. 3520–3525)と Con07 Theorem 4.1 に証明がある。後半は、前半と下の prop-nagata-compactification-dense から従う(Con07 Remark 4.2 と同じ議論)。
Stacks の証明の筋は次のとおりである。まず極限の議論で $S$ が Noether の場合に帰着する。$S$ が Noether なら、$X$ を有限個のアフィン開集合 $U_1,\dots,U_n$ で、共通部分 $U_1\cap\cdots\cap U_n$ が $X$ で稠密になるように覆う。各 $U_i$ はアフィン空間 $\mathbb{A}^{m_i}_S$ へのはめ込みをもつので、prop-nagata-compactification-quasi-projective のように $\mathbb{P}^{m_i}_S$ の中の閉包でコンパクト化できる。最後に、開被覆 $U=U_1\cup U_2$ の両方がコンパクト化をもち $U_1\cap U_2$ が $U$ で稠密なら $U$ もコンパクト化をもつ、という貼り合わせの補題(Stacks Lemma 38.33.7、Tag 0F40、p. 3523)を $n-1$ 回使う。この補題が証明の核心で、2 つのコンパクト化を、境界の外では同型な爆発(ブローアップ)で修正してから貼り合わせ、貼り合わせたものが分離的になるようにする。
$X$ が $S$ 上のコンパクト化 $(\bar X,j)$ をもつなら、$X\to S$ は分離的な有限型の射であり、$X$ は準コンパクトである。
$X\to S$ は $j$ と $\bar X\to S$ の合成である。開埋め込みはモノ射なので分離的であり(分離射 の記事の命題「モノ射とはめ込みの分離性」)、準コンパクトな開埋め込みは有限型である(有限型射 の記事の命題「閉埋め込み・開埋め込み・有限射・射影射の有限型性」の 2)。固有射は定義により分離的で有限型である。分離射の合成と有限型射の合成はそれぞれ分離的、有限型なので(分離射 の記事の命題「合成・底変換・積で閉じること」、有限型射 の記事の命題「合成で閉じること」)、$X\to S$ は分離的で有限型である。有限型の射は準コンパクトで $S$ は準コンパクトだから、$X$ は準コンパクトである。$\square$
したがって永田の定理の仮定は、コンパクト化が存在するための必要十分条件である。仮定を 1 つずつ外した例は下の反例の表にある。
$S$ を Noether スキーム、$Z\subset\mathbb{P}^n_S$ を閉部分スキーム、$X\subset Z$ を開部分スキームとし、$j\colon X\to Z$ を包含とする。このとき $(Z,j)$ は $X$ の $S$ 上のコンパクト化である。さらに $j$ のスキーム論的像を $\bar X$ とすると、$(\bar X,j)$ は稠密なコンパクト化であり、$\bar X$ の台は $X$ の $\mathbb{P}^n_S$ における閉包である。
$Z\to S$ は閉埋め込み $Z\to\mathbb{P}^n_S$ と射影 $\mathbb{P}^n_S\to S$ の合成なので射影射であり、固有である(固有射 の記事の定理「射影射の固有性」)。$S$ は Noether なので $\mathbb{P}^n_S$ と $Z$ も Noether であり(有限型射 の記事の系「有限型スキームの Noether 性」)、Noether スキームの開集合はすべて準コンパクトである。$Z$ のアフィン開集合 $W$ について $j^{-1}(W)=X\cap W$ は Noether スキーム $W$ の開集合なので準コンパクトであり、$j$ は準コンパクトな開埋め込みである。後半は prop-nagata-compactification-dense と (I2) による。$\square$
$k$ を体とする。
コンパクト化は一意ではない。この節では、コンパクト化の全体が「稠密なものに取り替えられ、どの 2 つも共通の細分をもつ」という意味でよく振る舞うことを示す。これは、コンパクト化を使って定義した量(下の rem-nagata-compactification-applications)が選び方によらないことを示すときの基本の道具である。以下 $X$ は $S$ 上分離的な有限型のスキームとする。
$(\bar X,j)$ を $X$ のコンパクト化とし、$j$ のスキーム論的像を $\bar X'\subset\bar X$ とする。$j$ が経由する射を $j'\colon X\to\bar X'$ とすると、$(\bar X',j')$ は稠密なコンパクト化であり、閉埋め込み $\bar X'\to\bar X$ はコンパクト化の射である。
$\bar X'$ は固有スキーム $\bar X$ の閉部分スキームなので $S$ 上固有である(固有射 の記事の系「固有射の像と閉部分スキーム」)。$j$ は準コンパクトなので (I1) を開集合 $V:=j(X)$ に使うと、$\bar X'\cap V$ は $j^{-1}(V)=X\to V$ のスキーム論的像に等しい。この射は同型なので、そのスキーム論的像は $V$ 全体であり、$\bar X'\cap V=V$ が開部分スキームとして成り立つ。よって $j'$ は開集合 $\bar X'\cap V$ への同型、すなわち開埋め込みである。
$j'$ の準コンパクト性を示す。次の事実を使う(Stacks Remark 26.21.18 の (2)、Tag 0816、p. 2316):$Y$ が準コンパクトかつ準分離的なスキームなら、射 $g\colon T\to Y$ が準コンパクトかつ準分離的であることと $T$ が準コンパクトかつ準分離的であることは同値である。これを $Y=S$ に使うと、$S$ 上分離的(したがって準分離的)で有限型(したがって準コンパクト)な $S$ スキームは準コンパクトかつ準分離的である。よって $X$(prop-nagata-compactification-necessary)と $\bar X'$ は準コンパクトかつ準分離的であり、もう一度同じ事実を $Y=\bar X'$ に使うと $j'$ は準コンパクトである。
稠密性:(I2) により $j(X)$ は $\bar X'$ で稠密である。$j'$ が経由する $\bar X'$ の閉部分スキーム $Z$ は $\bar X$ の閉部分スキームでもあり $j$ がそれを経由するから、最小性により $Z\supset\bar X'$、すなわち $Z=\bar X'$ である。よって $j'$ はスキーム論的に稠密である。$\square$
1:$h$ を次の 2 つの射の合成に分解する。
$$
X\xrightarrow{\ (\mathrm{id}_X,\,j_2)\ }X\times_S\bar X_2\xrightarrow{\ j_1\times\mathrm{id}\ }\bar X_1\times_S\bar X_2 .
$$
左の射は $j_2$ のグラフ射で、$\bar X_2$ が $S$ 上分離的なので閉埋め込みである(分離射 の記事の命題「分離射への 2 つの射の一致点集合」の最後の主張)。右の射は開埋め込み $j_1$ の底変換なので開埋め込みであり(開埋め込み の記事の命題「開埋め込みの底変換」)、その像を $V$ とする。よって $h$ は、開集合 $V$ の閉部分スキーム $h(X)$ への同型である。
$P:=\bar X_1\times_S\bar X_2$ は $S$ 上固有であり(固有射 の記事の定理「合成・底変換・積で閉じること」の 3)、$\bar X$ はその閉部分スキームなので $S$ 上固有である。prop-nagata-compactification-dense の証明と同じく $X$ と $P$ は準コンパクトかつ準分離的なので、$h$ は準コンパクトである。(I1) を開集合 $V$ に使うと、$\bar X\cap V$ は $X\to V$ のスキーム論的像であり、この射は閉部分スキーム $h(X)$ への閉埋め込みなので、そのスキーム論的像は $h(X)$ 自身である。よって $\bar X\cap V=h(X)$ が開部分スキームとして成り立ち、$j\colon X\to\bar X$ は開集合 $\bar X\cap V$ への同型、すなわち開埋め込みである。$j$ の準コンパクト性と稠密性は prop-nagata-compactification-dense の証明と同じ議論で示せる。$p_k\circ j=\mathrm{pr}_k\circ h=j_k$ なので $p_k$ はコンパクト化の射である。
2:$\varphi,\psi\colon\bar X'\to\bar X$ を 2 つの射とする。$\bar X$ は $S$ 上分離的なので、$\varphi$ と $\psi$ の一致点集合 $E\subset\bar X'$ は閉部分スキームであり、射 $T\to\bar X'$ が $E$ を経由することは、それと $\varphi$、$\psi$ の合成が一致することと同値である(分離射 の記事の命題「分離射への 2 つの射の一致点集合」)。$\varphi\circ j'=j=\psi\circ j'$ なので $j'$ は $E$ を経由する。$j'$ はスキーム論的に稠密なので $E=\bar X'$ であり、恒等射が $E$ を経由するから $\varphi=\psi$ である。$\square$
1 は Stacks Lemma 38.32.1(Tag 0ATU、p. 3518)の (a) の証明の中心部分である。1 と 2 を合わせると、稠密なコンパクト化の全体に「射があるとき $(\bar X',j')\le(\bar X,j)$」という前順序が入り、どの 2 つの元にも、その両方以下の元がある。コンパクト化を使った構成が選び方によらないことは、この性質を使って示される。
$X\to S$ が固有で、$(\bar X,j)$ を $X$ のコンパクト化とする。このとき $j(X)$ は $\bar X$ の開かつ閉な集合である。とくに $(\bar X,j)$ が稠密なら $j$ は同型である。逆に、稠密なコンパクト化 $(\bar X,j)$ で $j$ が同型なものがあれば $X$ は $S$ 上固有である。
$X\to S$ は固有、$\bar X\to S$ は分離的なので、$S$ 射 $j\colon X\to\bar X$ は固有であり(固有射 の記事の定理「合成・底変換・積で閉じること」の 4)、とくに閉写像である。よって $j(X)$ は閉集合であり、開埋め込みの像として開集合でもある。$j(X)$ が稠密なら $j(X)=\bar X$ となり、$j$ は全射な開埋め込み、すなわち同型である。逆は、$X\cong\bar X$ が $S$ 上固有であることから明らかである。$\square$
位相空間で、コンパクト空間の稠密なコンパクト化が自分自身しかないことの類似である。固有でない $X$ では、稠密なコンパクト化 $\bar X$ の境界 $\bar X\setminus j(X)$ は空でない。
$k$ を代数閉体とする。$\mathbb{A}^2_k$ は、$\mathbb{P}^2_k$ の開集合 $D_+(x_0)$ としても、$\mathbb{P}^1_k\times_k\mathbb{P}^1_k$ の開集合 $D_+(x_0)\times D_+(y_0)$ としても稠密にコンパクト化される(どちらも prop-nagata-compactification-quasi-projective の状況で、$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ は Segre 埋め込みで $\mathbb{P}^3$ の閉部分スキームになる)。しかし $\mathbb{P}^2_k$ と $\mathbb{P}^1_k\times_k\mathbb{P}^1_k$ はスキームとして同型でない。実際、$\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ の 2 つの曲線 $\{0\}\times\mathbb{P}^1$ と $\{\infty\}\times\mathbb{P}^1$ は交わらないが、$\mathbb{P}^2_k$ の 2 つの曲線(1 次元の既約閉集合)は必ず交わる(Har77 I 定理 7.2(射影次元定理)、p. 48。この記事では証明しない)。したがって、コンパクト化は一意でなく、prop-nagata-compactification-cofiltered のような比較の道具が必要になる。2 つのコンパクト化を支配する第 3 のものは、この場合 $(x,y)\mapsto([1:x:y],([1:x],[1:y]))$ の像の閉包である。
永田の定理の仮定(分離的・有限型)は prop-nagata-compactification-necessary により必要でもある。有限型を「局所有限型」と「準コンパクト」に分けて、仮定を 1 つずつ外す。$k$ は体とする。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $X\to S$ の分離性 | $S=\operatorname{Spec}k$ 上の原点を 2 重にした直線 | コンパクト化の存在 |
| $X$ の準コンパクト性 | $S=\operatorname{Spec}k$ 上の 1 点 $\operatorname{Spec}k$ の可算無限個の非交和 | コンパクト化の存在 |
| $X\to S$ が局所有限型であること | $S=\operatorname{Spec}k$ 上の $X=\operatorname{Spec}k(t)$($t$ は変数) | コンパクト化の存在 |
どの行でも、コンパクト化があれば prop-nagata-compactification-necessary により $X\to S$ は分離的な有限型で $X$ は準コンパクトのはずなので、外した条件以外が成り立つことと、外した条件が破れていることを見ればよい。
1 行目。 原点を 2 重にした直線は $k$ 上有限型(2 本のアフィン直線で覆われる)で準コンパクトだが、分離的でない(分離射 の記事の例「反例:原点を 2 重にした直線」)。
2 行目。 $X=\coprod_{n\ge1}\operatorname{Spec}k$ は各点が開集合なので準コンパクトでない。各成分 $\operatorname{Spec}k$ は $k$ 上有限型なので $X$ は局所有限型である。$X\times_kX$ は 1 点の非交和 $\coprod_{m,n}\operatorname{Spec}k$ で、対角線の像は成分 $(n,n)$ の和という開かつ閉な集合なので、$X$ は分離的である。
3 行目。 $X=\operatorname{Spec}k(t)$ は 1 点からなるので準コンパクトで、アフィンなので分離的である。$k(t)$ が $k$ 代数として有限生成なら、Zariski の補題(有限型射 の記事の定理「Zariski の補題」)により $k(t)$ は $k$ の有限次拡大になるが、$1,t,t^2,\dots$ は $k$ 上 1 次独立なので矛盾する。よって $X\to S$ は局所有限型でない。
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