Čechコホモロジー(Čech cohomology)とは、被覆 $\{U_i\to U\}$ と前層 $F$ に対し、重なり $U_{i_0\cdots i_p}$ 上の切断の積を並べた複体(Čech複体)のコホモロジー $\check H^p$ のことであり、被覆について帰納極限をとったものも同じ名で呼ぶ。0次は層の条件そのもので、被覆について帰納極限をとった1次は導来関手の $H^1$ と一致し、非可換な係数でも定義できてトーサーを分類する。重なりの上で高次コホモロジーが消える被覆では、すべての次数で導来関手のコホモロジーと一致する。
前提知識: Grothendieck位相, 前層, 鎖複体, 層コホモロジー
レベル: 大学院
Čech コホモロジーは、1 つの被覆と、その「重なり」の上の切断だけから作る具体的なコホモロジーである。位相空間の開被覆でも、スキームのエタール被覆・fppf 被覆でも同じ式で定義できるので、ここでは景上で述べる。
以下、$\mathcal C$ をファイバー積をもつ圏に Grothendieck 位相を入れた景、$U$ を $\mathcal C$ の対象、$\mathfrak U=\{U_i\to U\}_{i\in I}$ を $U$ の被覆、$F$ を $\mathcal C$ 上のアーベル群の前層とする。$i_0,\dots,i_p\in I$ に対し
$$
U_{i_0\cdots i_p}:=U_{i_0}\times_UU_{i_1}\times_U\cdots\times_UU_{i_p}
$$
と書く。$0\le k\le p$ について、$i_k$ の因子を忘れる射影 $U_{i_0\cdots i_p}\to U_{i_0\cdots\widehat{i_k}\cdots i_p}$ がある。
$p\ge0$ に対し
$$
\check C^p(\mathfrak U,F):=\prod_{(i_0,\dots,i_p)\in I^{p+1}}F(U_{i_0\cdots i_p})
$$
と置き、$d\colon\check C^p(\mathfrak U,F)\to\check C^{p+1}(\mathfrak U,F)$ を
$$
(dc)_{i_0\cdots i_{p+1}}:=\sum_{k=0}^{p+1}(-1)^k\,c_{i_0\cdots\widehat{i_k}\cdots i_{p+1}}\big|_{U_{i_0\cdots i_{p+1}}}
$$
で定める(制限は $i_k$ の因子を忘れる射影による)。$(\check C^\bullet(\mathfrak U,F),d)$ を $\mathfrak U$ に関する $F$ の Čech 複体といい、そのコホモロジー
$$
\check H^p(\mathfrak U,F):=H^p(\check C^\bullet(\mathfrak U,F))
$$
を $\mathfrak U$ に関する $F$ の Čech コホモロジー(Čech cohomology)という。
$d\circ d=0$ は、単体的な恒等式から従う。$k< l$ のとき、$i_l$ を忘れてから $i_k$ を忘れる射影と、$i_k$ を忘れてから(番号が 1 つずれた)$i_{l-1}$ を忘れる射影は同じ射であるから、$d(dc)$ の各項は符号 $(-1)^{k+l}$ と $(-1)^{k+l-1}$ の組で打ち消し合う。
$c=(c_i)\in\check C^0$ について $(dc)_{ij}=c_j|_{U_{ij}}-c_i|_{U_{ij}}$ であるから、$\check H^0(\mathfrak U,F)$ は $\prod_iF(U_i)\rightrightarrows\prod_{i,j}F(U_{ij})$ のイコライザである。したがって $F$ が層なら $\check H^0(\mathfrak U,F)=F(U)$ である。
被覆 $\mathfrak V=\{V_j\to U\}_{j\in J}$ が $\mathfrak U$ の細分であるとは、写像 $\lambda\colon J\to I$ と $U$ 上の射 $V_j\to U_{\lambda(j)}$ があることをいう。これは複体の射 $\check C^\bullet(\mathfrak U,F)\to\check C^\bullet(\mathfrak V,F)$ を誘導し、コホモロジーに誘導される写像は $\lambda$ と射の選び方によらない(2 つの選び方から誘導される複体の射はホモトピックである。Milne80 第 III 章 §2、Stacks「Cohomology on Sites」の章)。そこで
$$
\check H^p(U,F):=\varinjlim_{\mathfrak U}\check H^p(\mathfrak U,F)
$$
と定める。ここで $\mathfrak U$ は $U$ の被覆を細分関係で動く(被覆全体が集合をなさない場合には、集合論的な注意が要る)。
位相空間(またはスキームの Zariski 位相)の開被覆 $\mathfrak U=\{U_i\}$ では、$I$ に全順序を入れ、$i_0< i_1<\cdots< i_p$ の成分だけをとった $\prod_{i_0<\cdots< i_p}F(U_{i_0\cdots i_p})$ も(同じ式の微分で)複体をなし、そのコホモロジーは $\check H^p(\mathfrak U,F)$ と一致する(Stacks「Cohomology of Sheaves」の章の交代 Čech 複体の節、Har77 第 III 章 §4 はこちらを定義に採る)。開被覆では $U_{ii}=U_i$ なので、具体的な計算にはこちらを使うことが多い。エタール被覆などでは $U_i\times_UU_i\ne U_i$ となりうるので、本記事の一般論では上の定義の全成分の複体を使う。
$\check C^1$ の元は「重なりごとに与えた切断」、$d$ はその整合性を測る。$\check H^1(\mathfrak U,F)$ が $0$ でないことは、「重なりの上では局所的な切断の差として書けそうに見えるのに、全体では調整しきれない」量があることを意味する。たとえば円周を 2 つの弧で覆うと、重なりは 2 つの成分に分かれ、そのうち一方でだけ $1$ ずらすような調整は解消できない。これが $H^1(S^1,\mathbb Z)=\mathbb Z$ の Čech による見方である(下の例)。
係数 $F$ が非可換な群の層でも、$\check H^1$ だけは点付き集合として定義でき、トーサー(局所的に自明な主等質空間)の同型類を分類する。
ある $i_*\in I$ について、$U_{i_*}\to U$ が $U$ 上の切断 $s\colon U\to U_{i_*}$ をもつとする。このとき、任意のアーベル群の前層 $F$ について、拡大した複体
$$
0\longrightarrow F(U)\xrightarrow{\ \varepsilon\ }\check C^0(\mathfrak U,F)\xrightarrow{\ d\ }\check C^1(\mathfrak U,F)\xrightarrow{\ d\ }\cdots
$$
($\varepsilon(x)=(x|_{U_i})_i$)は完全である。とくに $\check H^p(\mathfrak U,F)=0$($p>0$)、$\check H^0(\mathfrak U,F)=F(U)$ である。
$\check C^{-1}:=F(U)$、$d:=\varepsilon$ と置く。各 $(i_0,\dots,i_{p-1})$ について、$U$ 上の射
$$
\sigma\colon U_{i_0\cdots i_{p-1}}\longrightarrow U_{i_*i_0\cdots i_{p-1}}=U_{i_*}\times_UU_{i_0\cdots i_{p-1}},\qquad \sigma=(s\circ\pi,\ \mathrm{id})
$$
($\pi$ は $U$ への構造射。$p=0$ のときは $\sigma=s$)を取り、$h\colon\check C^p\to\check C^{p-1}$($p\ge0$)を
$$
(hc)_{i_0\cdots i_{p-1}}:=\sigma^*\bigl(c_{i_*i_0\cdots i_{p-1}}\bigr)
$$
で定める。$\sigma$ の後に第 1 因子を忘れる射影を合成すると恒等射であり、$\sigma$ は残りの因子を忘れる射影と可換である。$c\in\check C^p$($p\ge0$)について $(hdc)_{i_0\cdots i_p}=\sigma^*\bigl((dc)_{i_*i_0\cdots i_p}\bigr)$ を計算すると、$(dc)_{i_*i_0\cdots i_p}$ の第 0 項 $c_{i_0\cdots i_p}|$ は $\sigma^*$ で $c_{i_0\cdots i_p}$ に戻り、第 $m$ 項($m\ge1$)$(-1)^mc_{i_*i_0\cdots\widehat{i_{m-1}}\cdots i_p}|$ は $\sigma^*$ で $(-1)^m(hc)_{i_0\cdots\widehat{i_{m-1}}\cdots i_p}|$ になる。したがって
$$
hdc=c-\sum_{k=0}^{p}(-1)^k(hc)_{i_0\cdots\widehat{i_k}\cdots i_p}\big|=c-dhc
$$
である($p=0$ のときは $dhc=\varepsilon(s^*c_{i_*})$ と読む)。また $x\in F(U)$ について $h\varepsilon(x)=s^*(x|_{U_{i_*}})=x$ である。よって $hd+dh=\mathrm{id}$ が各次数で成り立ち、拡大した複体は完全である。
この命題は、係数が層でなくても成り立つことに注意する。スキームの被覆は、自分自身に底変換すると切断をもつ(対角射)。この性質と平坦性を組み合わせたのが 忠実平坦降下 の証明である。
$F$ が層のとき、Čech コホモロジーと導来関手としてのコホモロジー $H^p(U,F)$ の間には、次の関係が知られている。
$F$ を景上のアーベル群の層、$\mathcal H^q(F)$ を前層 $V\mapsto H^q(V,F)$ とする。被覆 $\mathfrak U$ について、スペクトル系列
$$
E_2^{p,q}=\check H^p(\mathfrak U,\mathcal H^q(F))\ \Longrightarrow\ H^{p+q}(U,F)
$$
がある。被覆について帰納極限をとった版 $\check H^p(U,\mathcal H^q(F))\Rightarrow H^{p+q}(U,F)$ もあり、$\check H^0(U,\mathcal H^q(F))=0$($q>0$)が成り立つ。
証明は Milne80 第 III 章 §2 にある。ここから次がすぐに出る。
$F$ を層とする。
2. 仮定から $q>0$ で $\mathcal H^q(F)(U_{i_0\cdots i_p})=0$、したがって $E_2^{p,q}=0$ である。スペクトル系列は $q=0$ の行だけになって退化し、$E_2^{p,0}=\check H^p(\mathfrak U,\mathcal H^0(F))=\check H^p(\mathfrak U,F)$ が $H^p(U,F)$ に等しい。
1. 帰納極限の版で $E_2^{0,q}=0$($q>0$)を使う。全次数 $1$ では $E_2^{0,1}=0$ だから $H^1=E_\infty^{1,0}=E_2^{1,0}$($E_2^{1,0}$ に入る微分・出る微分はない)。全次数 $2$ では $E_\infty^{0,2}=0$ で、$E_2^{1,1}$ からの微分 $d_2$ は $E_2^{3,0}$ へ向かうので $E_2^{2,0}$ には入らず、$E_2^{0,1}=0$ から $E_2^{2,0}$ への $d_2$ も $0$ である。よって $E_2^{2,0}=E_\infty^{2,0}$ はフィルトレーションの部分群として $H^2$ に含まれる。
Leray の定理の典型的な使い方は、分離的なネーター・スキーム上の準連接層を、アフィン開集合による被覆で計算することである。アフィンスキームの共通部分は分離性からアフィンであり、アフィンスキーム上の準連接層の高次コホモロジーは消えるので、Čech 複体で $H^p$ が計算できる(Har77 第 III 章 §4)。
一般のスキームのエタールコホモロジーについては、準コンパクトで、任意の有限個の点が共通のアフィン開集合に含まれるスキームでは、Čech コホモロジーがすべての次数で導来関手のコホモロジーと一致することが M. Artin によって示されている(Milne80 第 III 章 §2。本記事では証明しない)。
$G$ を景上の群の層(非可換でもよい)とする。$\mathfrak U$ に関する 1 コサイクルとは、$g_{ij}\in G(U_{ij})$ の族 $(g_{ij})_{i,j\in I}$ で、
$$
g_{ij}|_{U_{ijk}}\,g_{jk}|_{U_{ijk}}=g_{ik}|_{U_{ijk}}\qquad(i,j,k\in I)
$$
を満たすものをいう。2 つのコサイクル $(g_{ij}),(g'_{ij})$ が同値であるとは、$h_i\in G(U_i)$ の族があって $g'_{ij}=h_i|_{U_{ij}}\,g_{ij}\,h_j|_{U_{ij}}^{-1}$ となることをいう。同値類の集合を $\check H^1(\mathfrak U,G)$ と書き、自明なコサイクル $g_{ij}=1$ の類を基点とする点付き集合とみなす。
$G$ が可換なら、この $\check H^1(\mathfrak U,G)$ は上で定義した群と一致する($d(h_i)=(h_j h_i^{-1})$ であり、符号の取り方の違いは $h_i\mapsto h_i^{-1}$ で吸収される)。被覆について帰納極限をとった $\check H^1(U,G)$ は、$U$ 上の $G$ トーサー の同型類の集合と一致する。この対応はトーサーの記事で扱う。
$S^1$ を 2 つの開いた弧 $U_1,U_2$ で覆い、$U_1\cap U_2$ が 2 つの開いた弧 $A,B$ の非交和になるようにする。係数は定数層 $\mathbb Z$ とする。連結な開集合上の切断は整数 1 つであるから、交代複体(rem-cech-cohomology-alternating)は
$$
\mathbb Z\oplus\mathbb Z\xrightarrow{\ d\ }\mathbb Z\oplus\mathbb Z\longrightarrow0,\qquad d(a_1,a_2)=(a_2-a_1,\ a_2-a_1)
$$
である(右辺の成分は $A$ 上と $B$ 上の値)。したがって $\check H^0=\ker d\cong\mathbb Z$、$\check H^1=(\mathbb Z\oplus\mathbb Z)/\{(n,n)\}\cong\mathbb Z$ である。弧とその共通部分の各成分は開区間と同相であり、開区間上の定数層の高次コホモロジーは消えるので(標準的な事実として認める)、Leray の定理により $H^1(S^1,\mathbb Z)\cong\mathbb Z$ と一致する。$\check H^1$ の生成元は「$A$ 上では $1$、$B$ 上では $0$」という調整である。
$k$ を体、$X=\mathbb P^1_k$、$U_0=\{x_0\ne0\}=\operatorname{Spec}k[t]$、$U_1=\{x_1\ne0\}=\operatorname{Spec}k[t^{-1}]$($t=x_1/x_0$)とし、$U_{01}=\operatorname{Spec}k[t,t^{-1}]$ とする。整数 $n$ について、$\mathcal O(n)$ の $U_0$ 上の切断を $f(t)x_0^n$、$U_1$ 上の切断を $g(t^{-1})x_1^n$ と書く。$U_{01}$ では $x_1^n=t^nx_0^n$ だから、交代複体の微分は
$$
d(f,g)=\bigl(g(t^{-1})\,t^n-f(t)\bigr)x_0^n
$$
である。$g(t^{-1})t^n$ は $t^m$($m\le n$)の一次結合を、$f(t)$ は $t^m$($m\ge0$)の一次結合を自由に動く。
スキーム $X$ の Zariski 開被覆 $\{U_i\}$ で自明化される直線束 $L$ に対し、自明化 $L|_{U_i}\cong\mathcal O_{U_i}$ を選ぶと、重なりでの変換関数 $g_{ij}\in\Gamma(U_{ij},\mathcal O^\times)$ は乗法群 $\mathbb G_m$ の 1 コサイクルをなし、自明化の取り替えは同値なコサイクルを与える。こうして $\operatorname{Pic}(X)\cong\check H^1(X_{\mathrm{Zar}},\mathbb G_m)$ となる(Har77 第 III 章 演習 4.5)。
$S^1$ を 1 つの開集合 $S^1$ 自身で覆う被覆 $\mathfrak U=\{S^1\}$ では、交代複体は $\mathbb Z\to0$ となり $\check H^1(\mathfrak U,\mathbb Z)=0$ である。一方 $H^1(S^1,\mathbb Z)\cong\mathbb Z$ である。Leray の定理の仮定「重なり(ここでは $S^1$ 自身)の上で高次コホモロジーが消える」を破っているので、1 つの被覆に関する Čech コホモロジーは導来関手のコホモロジーと一致しない。被覆について帰納極限をとれば、ex-cech-cohomology-circle の被覆を経由して $\check H^1(S^1,\mathbb Z)\cong\mathbb Z$ に戻る。
2 点の離散空間 $X=\{a,b\}$ 上で、$A\ne0$ をアーベル群とし、空でない開集合 $V$ には $F(V)=A$、空集合には $F(\varnothing)=0$ を与え、空でない開集合の間の制限を恒等写像とする前層 $F$ を考える。被覆 $\mathfrak U=\{\{a\},\{b\}\}$ では $\{a\}\cap\{b\}=\varnothing$ だから、$(s_a,s_b)\in A\oplus A$ に課される重なりの条件は何もなく、$\check H^0(\mathfrak U,F)=A\oplus A$ である。一方 $F(X)=A$ であり、$F(X)\to\check H^0(\mathfrak U,F)$ は対角写像で全射でない。$F$ は貼り合わせの条件を破るので層でなく、rem-cech-cohomology-degree-zero の結論 $\check H^0(\mathfrak U,F)=F(U)$ は、層という仮定を外すと成り立たない。
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