正則圏(Regular Category)とは核対を持ち、かつ核対の余等化子を持つような圏であって、正則エピ射の引き戻しが再び正則エピ射であるものをいう。 圏 $\cat$ の射について、その核対の余等化子を像という。この用語法を用いれば、前二つの条件は任意の射が像を持つような圏といいかえられる。 更に正則エピ射が引き戻しで閉じていることを用いると、像の持つホモロジー代数的な性質の幾つかを示すことができる。 この意味で正則圏はアーベル圏の非加法的な場合への一般化の一つと見做すことができ、実際、集合の為す圏 $\SetCat$ のような非アーベル(より強く非前加法的)な圏も含む概念であることに注意されたい。
$$\newcommand{AA}[0]{\mathbb{A}}
\newcommand{AbCat}[0]{\mathsf{Ab}}
\newcommand{abelcat}[0]{\mathcal{A}}
\newcommand{cat}[0]{\mathcal{C}}
\newcommand{CC}[0]{\mathbb{C}}
\newcommand{commring}[0]{A}
\newcommand{DD}[0]{\mathbb{D}}
\newcommand{domain}[0]{\commring}
\newcommand{family}[2]{( #1 )_{#2}}
\newcommand{FF}[0]{\mathbb{F}}
\newcommand{func}[3]{{#1}\colon{#2}\rightarrow{#3}}
\newcommand{generate}[2]{\langle #1 \rangle_{#2}}
\newcommand{GG}[0]{\mathbb{G}}
\newcommand{HH}[0]{\mathbb{H}}
\newcommand{ideal}[0]{I}
\newcommand{idealgen}[2]{\generate{#1}{#2}}
\newcommand{invert}[0]{^{-1}}
\newcommand{KanExt}[2]{\ordpair{ #1, #2 }}
\newcommand{ModCat}[1]{\mathsf{Mod}(#1)}
\newcommand{module}[1]{#1}
\newcommand{modulegen}[2]{\generate{#1}{#2}}
\newcommand{morph}[3]{{#1}\colon{#2}\rightarrow{#3}}
\newcommand{NN}[0]{\mathbb{N}}
\newcommand{ordpair}[1]{\langle #1 \rangle}
\newcommand{overcat}[2]{{#1}_{/#2}}
\newcommand{PP}[0]{\mathbb{P}}
\newcommand{QQ}[0]{\mathbb{Q}}
\newcommand{ring}[0]{R}
\newcommand{RR}[0]{\mathbb{R}}
\newcommand{SetCat}[0]{\mathsf{Set}}
\newcommand{sexseq}[3]{\zeroobj\rightarrow{#1}\rightarrow{#2}\rightarrow{#3}\rightarrow\zeroobj}
\newcommand{TopCat}[0]{\mathsf{Top}}
\newcommand{TT}[0]{\mathbb{T}}
\newcommand{undercat}[2]{#1_{\backslash #2}}
\newcommand{zeroobj}[0]{0}
\newcommand{ZZ}[0]{\mathbb{Z}}
$$
定義と基本性質
正則圏(Regular Category)
圏 $\cat$ が正則圏(Regular Category)であるとは、以下の三条件を満たすことをいう。
- $\cat$ の任意の射 $\morph{f}{C}{D}$ は核対を持つ。
- $\cat$ の任意の核対 $\kerpair{X}{a}{b}$ は余極限を持つ。すなわち、任意の射 $\morph{f}{C}{D}$ に対する引き戻し図式
\begin{xy}
\xymatrix {
X \ar[d]^{a} \ar[r]_{b} & D \ar[d]_f \\
D \ar[r]^f & C
}
\end{xy}
について、$a$ と $b$ についてのコイコライザが存在する。 - 正則エピ射の引き戻しは正則エピである。
$\cat$ を正則圏とする。このとき正則エピ射全体 $\RegEpiSet{\cat}$ およびモノ射全体 $\MonoSet{\cat}$ に関して、次が成立する:$\cat$ の任意の射 $f$ について、$\cat$ の正則エピ射 $p$ およびモノ射 $i$ であって $f=i \circ p$ を満たすものが存在する。
正則圏の例
まず三つ具体例を挙げる。
環上の加群の為す圏 $\ModCat{\ring}$
$\ModCat{\ring}$ は正則圏である。より一般に、任意のアーベル圏は正則圏であることを後に述べる。
位相空間の為す圏の双対圏 $\TopCat\op$ は
位相空間の為す圏の双対圏 $\TopCat\op$ は正則圏である。
次いで正則性を導く圏論的性質と、正則性を保つ圏論的構成について述べる。
$\abelcat$ をアーベル圏とする。このとき $\abelcat$ は正則圏である。
$\cat$ を正則圏とする。このとき $\cat$ の $\cat'$-図式の為す圏、すなわち圏 $\cat'$ から $\cat$ への函手圏 $\FuncCat{\cat'}{\cat}$ は正則圏である。