Cayleyの公式(Cayley's formula)とは、$n$ 個の区別された頂点 $1,2,\dots,n$ を結ぶ木(ラベル付き木)がちょうど $n^{n-2}$ 個あるという数え上げの定理である($n=1$ では $1$ 個)。たとえば 4 頂点では星形 4 個と道形 12 個で $16=4^2$ 個、5 頂点では $125=5^3$ 個ある。最小の葉を取り除いてその隣の頂点を書き留める操作を繰り返すと、木から長さ $n-2$ の列(Prüfer 符号)が得られ、この対応が全単射であることから公式が従う。各頂点が符号に現れる回数は次数より 1 少ないので、次数を指定した木の個数は多項係数で与えられる。同型類を数えると公式は成り立たない。群論の Cayley の定理とは別の定理である。
前提知識: グラフ, 木, 次数(グラフ), 全単射, 数学的帰納法
4 つの町 $1,2,3,4$ を、道路をできるだけ少なく敷いて全部つなぐ方法は何通りあるだろうか。どの 2 つの町も道路をたどって行き来でき、しかも無駄な回り道(輪)ができない道路網は、町を頂点、道路を辺とする木にほかならない。4 頂点の木の形は 2 種類しかない。1 つの町から残り 3 つの町へ道路を放射状に出す「星形」は、中心の町の選び方で $4$ 通りある。4 つの町を 1 列につなぐ「道形」は、町の並べ方 $4!=24$ 通りのうち、逆順に並べたものが同じ道路網になるので $24/2=12$ 通りある。合計は $16=4^{2}$ 通りである。同じように数えると、5 つの町では $125=5^{3}$ 通り、6 つの町では $1296=6^{4}$ 通りになる。一般に $n$ 個の区別された頂点を結ぶ木はちょうど $n^{n-2}$ 個ある、というのが Cayley の公式 である。本記事では、木を長さ $n-2$ の数の列(Prüfer 符号)に 1 対 1 に対応させる方法で、この公式を完全に証明する。
なお、群論の Cayleyの定理(すべての群は対称群の部分群と同型である)や線形代数の Cayley–Hamiltonの定理 は、同じ Cayley の名がつく別の定理である。
本記事のグラフは有限な単純グラフであり、木 の記事と同じく、木とは連結グラフで閉路をもたないもの、葉とは次数 $1$ の頂点のことである。
$V$ を有限集合とする。頂点集合がちょうど $V$ である木を、$V$ 上のラベル付き木(labeled tree)という。$V$ 上の 2 つのラベル付き木は、辺集合が一致するときに限り等しいとみなす。$V$ 上のラベル付き木全体の集合を $\mathcal{T}(V)$ と書く。$V=\{1,2,\dots,n\}$ のとき、$\mathcal{T}(V)$ の元を単に $n$ 頂点のラベル付き木という。
「ラベル付き」とは、頂点に名前が付いていて、名前の付け替えで移り合う木も区別して数えるという意味である。たとえば $V=\{1,2,3\}$ 上の木 $\{12,23\}$ と $\{13,32\}$ は、どちらも 3 頂点の道で同型(グラフ同型)だが、中央の頂点が $2$ か $3$ かが違うので異なるラベル付き木である。$V$ と $V'$ の元の個数が等しければ、全単射 $V\to V'$ で頂点の名前を付け替えることにより $|\mathcal{T}(V)|=|\mathcal{T}(V')|$ となるので、$|\mathcal{T}(V)|$ は $|V|$ だけで決まる。
$n\geq1$ とする。$n$ 元集合を頂点集合とするラベル付き木の個数は $n^{n-2}$ である。ここで $n=1$ のときは $1^{-1}=1$ と読む。
$n=1$ のラベル付き木は頂点 1 個・辺 0 本のものだけであり、$n=2$ のものは 2 頂点を結ぶ辺 1 本のものだけだから、どちらも公式どおり $1$ 個である。$n\geq2$ の場合は、thm-cayley-formula-bijection で $\mathcal{T}(V)$ から $V$ の元を成分とする長さ $n-2$ の列全体の集合 $V^{n-2}$ への全単射を作る。$|V^{n-2}|=n^{n-2}$ なので公式が従う(cor-cayley-formula-proof)。
5 頂点の木の形(同型類)は 3 種類ある。次数の並びで書くと、星形 $(4,1,1,1,1)$、道形 $(2,2,2,1,1)$、次数 $3$ の頂点を 1 つもつ形 $(3,2,1,1,1)$ である。星形は中心の選び方で $5$ 通り、道形は 5 頂点の並べ方 $5!=120$ 通りを逆順の同一視で割って $60$ 通りある。3 つ目の形は、次数 $3$ の頂点の選び方が $5$ 通り、それに隣接する次数 $2$ の頂点の選び方が残り 4 個から $4$ 通り、次数 $2$ の頂点の先の葉の選び方が残り 3 個から $3$ 通りで、$5\cdot4\cdot3=60$ 通りある。合計 $5+60+60=125=5^{3}$ で、Cayley の公式と一致する(KT17 §5.6、pp. 96–97 も 3 つの形に分けて $5+60+60$ と数えている)。
名前を区別しない木、すなわち木の同型類の個数は、$n=1,2,\dots,8$ で
$$
1,\ 1,\ 1,\ 2,\ 3,\ 6,\ 11,\ 23
$$
であり、$n^{n-2}$($n=4$ で $16$、$n=6$ で $1296$)とはまったく異なる。満たす性質は「$n$ 頂点の木を数えている」、満たさない性質は「頂点の名前を区別して数える」であり、破る含意は「$n$ 頂点の木の種類は $n^{n-2}$ 個である」である。Cayley の公式が簡潔な形になるのは、名前の付け替えで移り合う木を別々に数えるからである。
$n$ 頂点のラベル付き木は、$n$ 頂点の完全グラフ $K_n$ の全域木(すべての頂点を含む木である部分グラフ)と同じものである(cor-cayley-formula-spanning)。$K_n$ を別のグラフに替えると全域木の個数は $n^{n-2}$ にならない。たとえば 4 頂点の閉路グラフ $C_4$(辺 $12,23,34,41$)の全域木は、4 本の辺から 1 本を除いた $4$ 個だけで、$4^{2}=16$ ではない。満たさない性質は「すべての 2 頂点の間に辺がある」であり、Cayley の公式は $K_n$ のすべての辺が使えることを前提にしている。一般のグラフの全域木の個数は 行列木定理 で求められる。
以下、頂点集合 $V$ は整数からなる有限集合とし、頂点の大小は整数の大小で比べる。まず、葉を 1 枚ずつ取り除く操作について、木の基本的な事実を確かめておく。
$T$ を $V$ 上の木とする。
$|V|=n\geq2$ とし、$T$ を $V$ 上の木とする。$T$ の Prüfer 符号(Prüfer code)$P(T)$ を、$n$ に関して帰納的に次のように定める。
lem-cayley-formula-leaf の 1 により葉は存在し、2 により $T-\ell$ は $n-1$ 頂点の木なので、この定義は意味をもつ。言い換えると、「最小の葉を取り除き、その隣の頂点を書き留める」操作を頂点が 2 個になるまで $n-2$ 回繰り返したときに書き留めた列が $P(T)$ である。$P(T)$ は $V$ の元を成分とする長さ $n-2$ の列、すなわち $V^{n-2}$ の元である。
$V=\{1,2,3,4,5,6\}$ 上の木 $T$ で、辺が $14,24,35,45,56$ であるものを考える。葉は $1,2,3,6$ である。
$|V|=n\geq2$ とし、$T$ を $V$ 上の木とする。各頂点 $v\in V$ は $P(T)$ にちょうど $\deg_T(v)-1$ 回現れる。特に、$P(T)$ に現れない頂点全体は $T$ の葉全体に一致する。
$n$ に関する帰納法で示す。$n=2$ なら $T$ は 1 本の辺だけで、両頂点の次数は $1$、$P(T)$ は空列なので、どちらの頂点も $0=1-1$ 回現れる。
$n\geq3$ とし、$n-1$ 頂点の木について主張が成り立つとする。最小の葉を $\ell$、その隣を $b$ とすると $P(T)=(b,P(T-\ell))$ である。$T-\ell$ では $b$ の次数が $1$ 減り、$\ell$ 以外の他の頂点の次数は変わらない。帰納法の仮定により、$v\neq\ell$ は $P(T-\ell)$ にちょうど $\deg_{T-\ell}(v)-1$ 回現れる。
$|V|=n\geq2$ のとき、$T\mapsto P(T)$ は $\mathcal{T}(V)$ から $V^{n-2}$ への全単射である。
$n$ に関する帰納法で示す。ここで $V$ は元の個数が $n$ の任意の整数の集合を動く。$n=2$ なら $\mathcal{T}(V)$ は 2 頂点を結ぶ辺 1 本の木だけ、$V^{0}$ は空列だけなので、全単射である。$n\geq3$ とし、元の個数が $n-1$ のすべての整数の集合について主張が成り立つとする。
単射性。$T_1,T_2\in\mathcal{T}(V)$ が $P(T_1)=P(T_2)=(a_1,a_2,\dots,a_{n-2})$ を満たすとする。lem-cayley-formula-degree により $T_1$ と $T_2$ の葉全体はどちらも「$a_1,\dots,a_{n-2}$ に現れない $V$ の元全体」に一致するので、最小の葉は共通の頂点 $\ell$ である。Prüfer 符号の定義から、$\ell$ の隣の頂点は $T_1$ でも $T_2$ でも先頭の $a_1$ であり、$P(T_1-\ell)=P(T_2-\ell)=(a_2,\dots,a_{n-2})$ である。$T_1-\ell$ と $T_2-\ell$ は $V\setminus\{\ell\}$ 上の木なので、帰納法の仮定(単射性)により $T_1-\ell=T_2-\ell$ である。これに同じ辺 $\ell a_1$ を加えると $T_1=T_2$ を得る。
全射性。$a=(a_1,\dots,a_{n-2})\in V^{n-2}$ を任意にとる。$a$ に現れる値は $n-2$ 個以下なので、$a$ に現れない $V$ の元があり、その最小のものを $\ell$ とする。$a'=(a_2,\dots,a_{n-2})$ の成分はどれも $\ell$ ではないので $a'\in(V\setminus\{\ell\})^{n-3}$ であり、帰納法の仮定(全射性)により $P(T')=a'$ となる $V\setminus\{\ell\}$ 上の木 $T'$ がある。$a_1\neq\ell$ だから $a_1\in V\setminus\{\ell\}$ であり、lem-cayley-formula-leaf の 3 により $T:=T'+\ell a_1$ は $V$ 上の木で、$\ell$ はその葉である。
$\ell$ が $T$ の最小の葉であることを示す。$m\neq\ell$ を $T$ の葉とする。$T$ で $a_1$ は $\ell$ と $T'$ の中の頂点の両方に隣接する($T'$ は 2 頂点以上の連結グラフなので $a_1$ は $T'$ で次数 $1$ 以上)から、次数が $2$ 以上であり、$m\neq a_1$ である。すると $\deg_{T'}(m)=\deg_T(m)=1$ だから $m$ は $T'$ の葉であり、lem-cayley-formula-degree により $m$ は $a'$ に現れない。$m\neq a_1$ とあわせて $m$ は $a$ に現れないので、$\ell$ の最小性により $m>\ell$ である。
よって $T$ の Prüfer 符号を計算する最初の段階では $\ell$ が取り除かれ、その隣の $a_1$ が書き留められ、$T-\ell=T'$ だから $P(T)=(a_1,P(T'))=(a_1,a')=a$ である。以上で全単射性が示された。$\square$
thm-cayley-formula が成り立つ。
$n=1$ の場合は rem-cayley-formula-plan で確かめた。$n\geq2$ なら、$V=\{1,\dots,n\}$ として thm-cayley-formula-bijection により $|\mathcal{T}(V)|=|V^{n-2}|=n^{n-2}$ である。$\square$
全射性の証明は、列から木を復元する手続きを与えている。列 $a$ に現れない最小の頂点 $\ell$ を $a_1$ につなぎ、$\ell$ を頂点の候補から、$a_1$ を列から除いて繰り返し、列が空になったら残った 2 頂点を辺で結べばよい。
$V=\{1,\dots,7\}$、$a=(7,5,5,3,1)$ とする。各段階の列、頂点の候補、加える辺は次のとおりである。
$$
\begin{array}{l|l|c}
\text{列} & \text{頂点の候補} & \text{加える辺}\\ \hline
(7,5,5,3,1) & \{1,2,3,4,5,6,7\} & 2\text{–}7\\
(5,5,3,1) & \{1,3,4,5,6,7\} & 4\text{–}5\\
(5,3,1) & \{1,3,5,6,7\} & 6\text{–}5\\
(3,1) & \{1,3,5,7\} & 5\text{–}3\\
(1) & \{1,3,7\} & 3\text{–}1\\
() & \{1,7\} & 1\text{–}7
\end{array}
$$
得られる木の辺は $27,45,56,35,13,17$ であり、その Prüfer 符号を計算し直すと $(7,5,5,3,1)$ に戻る。この例は KT17 §5.6 の Example 5.43(pp. 99–100)と同じである。
Prüfer 符号は木の個数だけでなく、各頂点の次数も記録している(lem-cayley-formula-degree)。このことから、条件付きの数え上げがいくつも得られる。
$n\geq2$ とし、正の整数 $d_1,\dots,d_n$ が $d_1+\cdots+d_n=2n-2$ を満たすとする。$\{1,\dots,n\}$ 上のラベル付き木で、各頂点 $i$ の次数が $d_i$ であるものの個数は、多項係数
$$
\binom{n-2}{d_1-1,\ d_2-1,\ \dots,\ d_n-1}=\frac{(n-2)!}{(d_1-1)!\,(d_2-1)!\cdots(d_n-1)!}
$$
に等しい。和が $2n-2$ でない正の整数の組に対しては、そのような木は存在しない。
lem-cayley-formula-degree により、木 $T$ の各頂点 $i$ の次数が $d_i$ であることは、$P(T)$ に各 $i$ がちょうど $d_i-1$ 回現れることと同値である。特に、どの木でも $\sum_i(\deg_T(i)-1)$ は $P(T)$ の長さ $n-2$ に等しいので $\sum_i\deg_T(i)=2n-2$ であり、和が $2n-2$ でない組を次数にもつ木はない。和が $2n-2$ のとき、thm-cayley-formula-bijection の全単射により、求める個数は「長さ $n-2$ で、各 $i$ がちょうど $d_i-1$ 回現れる列」の個数に等しい。そのような列は、$n-2$ 個の位置を大きさ $d_1-1,\dots,d_n-1$ の組に分ける方法と 1 対 1 に対応するので、個数は上の多項係数である。$\square$
証明の途中で得た $\sum_i\deg_T(i)=2n-2$ は、次数(グラフ) の定理「次数の総和と辺数」と合わせると「$n$ 頂点の木の辺はちょうど $n-1$ 本」(木 の記事で引かれている事実)の別証明にもなっている。
$n=4$ のとき、次数の組 $(d_1,d_2,d_3,d_4)$ は和が $6$ の正の整数の組である。星形では 1 つの頂点が次数 $3$、他が次数 $1$ で、たとえば $(3,1,1,1)$ に対する個数は $\frac{2!}{2!\,0!\,0!\,0!}=1$、中心の選び方 $4$ 通りで計 $4$ 個である。道形では 2 つの頂点が次数 $2$ で、たとえば $(2,2,1,1)$ に対する個数は $\frac{2!}{1!\,1!\,0!\,0!}=2$(道 $3,1,2,4$ と $3,2,1,4$)、次数 $2$ の頂点の選び方 $\binom42=6$ 通りで計 $12$ 個である。合わせて $16=4^{2}$ 個であり、記事の冒頭の数え方と一致する。
$n\geq2$ とする。$\{1,\dots,n\}$ 上のラベル付き木のうち、頂点 $1$ が葉であるものの個数は $(n-1)^{n-2}$ である。
lem-cayley-formula-degree により、頂点 $1$ が葉であることは $1$ が $P(T)$ に現れないことと同値である。thm-cayley-formula-bijection の全単射により、求める個数は $\{2,\dots,n\}$ の元を成分とする長さ $n-2$ の列の個数 $(n-1)^{n-2}$ に等しい。$\square$
たとえば $n=4$ では $3^{2}=9$ 個である。実際、中心が $1$ でない星形が $3$ 個、$1$ が端にある道形が $12$ 個のうち半分の $6$ 個で、計 $9$ 個になる。$n$ が大きいとき、頂点 $1$ が葉である割合 $(n-1)^{n-2}/n^{n-2}=(1-1/n)^{n-2}$ は $e^{-1}\approx0.368$ に近づく。
$n\geq1$ とする。
2 の組は根付き木とよばれる。
Cayley の公式には多くの証明がある。KT17 §5.6(p. 97)は、Aigner–Ziegler『Proofs from THE BOOK』の Cayley の公式の章に 4 通りの証明があることを紹介し、自らは 5 通り目として Prüfer の証明を与えている。一般のグラフの全域木の個数を行列式で表す 行列木定理 を $K_n$ に適用しても、公式が得られる。
Prüfer 符号には流儀の違いがある。Bog §2.3.3(pp. 44–45、Problem 111 以下)は、2 頂点の木に対しても大きいほうのラベルを書き留めて、長さ $n-1$ の列 $b_1,\dots,b_{n-1}$ を作る(頂点 $n$ は最後まで取り除かれないので、lem-cayley-formula-leaf の 1 により葉は 2 個以上あることとあわせると、Problem 112 が示すとおり最後の成分は常に $n$ である)。そのうえで Bog は最初の $n-2$ 項 $b_1,\dots,b_{n-2}$ を Prüfer 符号(Prüfer coding/Prüfer code)とよぶので、これは本記事の $P(T)$ と一致する。
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