Hensel局所環(Henselian local ring)とは、Hensel の補題が成り立つ局所環、すなわち任意のモニック多項式について剰余体上の単根が環の中の根に一意に持ち上がる局所環 $(A,\mathfrak{m},k)$ をいう。$\mathfrak{m}$ 進完備な局所環($\mathbb{Z}_p$、$k[\![t]\!]$)や収束冪級数環がその例で、$\mathbb{Z}_{(p)}$ や $k[t]_{(t)}$ は例でない。有限 $A$ 代数が局所環の有限直積になること、剰余体の点をもつエタール $A$ 代数が切断をもつことと同値であり、Newton 法や陰関数定理の代数的な対応物である。任意の局所環はエタール近傍の帰納極限として Hensel 化 $A^h$ をもち、これがエタール位相の局所環(狭義 Hensel 局所環)の基礎になる。
前提知識: 局所環, 剰余体, 多項式環, 完備化, 整拡大, エタール射
Hensel 局所環は、Hensel の補題——剰余体の上で見つかった多項式の単根が、環の中の根に持ち上がる——が成り立つ局所環である。p進数の整数環や形式的冪級数環のような完備局所環がその典型だが、完備性は必要でなく、任意の局所環から純代数的な操作(Hensel 化)で作ることができる。
以下、$(A,\mathfrak{m},k)$ は可換環である局所環 $A$、その極大イデアル $\mathfrak{m}$、剰余体 $k=A/\mathfrak{m}$ の組を表す。$a\in A$ の $k$ での像を $\bar a$、多項式 $f\in A[t]$ の係数を $k$ に還元したものを $\bar f\in k[t]$、$f$ の形式導分を $f'$ と書く。多項式がモニック(monic)であるとは最高次の係数が $1$ であることをいう。
局所環 $(A,\mathfrak{m},k)$ が Hensel 局所環(Henselian local ring)である、または Hensel 環(Henselian ring)であるとは、次の条件が成り立つことをいう。
任意のモニック多項式 $f\in A[t]$ と、$\bar f$ の単根 $a_0\in k$(すなわち $\bar f(a_0)=0$ かつ $\bar f'(a_0)\neq0$)に対して、
$$
f(a)=0,\qquad \bar a=a_0
$$
をみたす $a\in A$ が存在する。
この条件を「$A$ で Hensel の補題(Hensel's lemma)が成り立つ」という。持ち上げ $a$ は自動的に一意である(lem-henselian-local-ring-uniqueness)。Hensel の補題には「$\bar f$ の互いに素な因数分解が $f$ の因数分解に持ち上がる」という形もあり、Milne Mil80 I.4.1 はそちらを定義に採用している。両者は同値なので(thm-henselian-local-ring-characterization)、どちらを定義にしても同じ概念になる。定義は Stacks Tag 04GF、EGA4 IV 18.5、Raynaud Ray70 に従う。
剰余体 $k$ が分離閉体でもある Hensel 局所環を狭義 Hensel 局所環といい、エタールコホモロジーの茎を与える局所環として重要である。これは 狭義Hensel局所環 の記事で扱う。
Hensel の補題は Newton法の代数版である。近似解 $a_0$(剰余体での根)から出発し、$a_{n+1}=a_n-f(a_n)/f'(a_n)$ と修正を繰り返すと、$\mathfrak{m}$ 進位相(イデアル進位相)で誤差が 2 乗ずつ縮む。$A$ が完備なら極限が存在して真の根になる(thm-henselian-local-ring-complete)。Hensel 局所環とは、この「近似解を真の解に直す機構」を位相的な完備性とは無関係に公理として要求した環である。実際、完備でない Hensel 局所環(ex-henselian-local-ring-henselization)が存在する。
幾何的には、Hensel 局所環は「陰関数定理が成り立つ局所環」である。$X=\operatorname{Spec}A$ の閉点 $x$ の近くで、エタール射 $Y\to X$(局所同型のような射)が $x$ の上に剰余体 $k$ の点をもてば、$Y\to X$ は $x$ の近傍で切断をもつ(thm-henselian-local-ring-characterization の 4)。複素解析では陰関数定理により収束冪級数環が Hensel 局所環になる(ex-henselian-local-ring-convergent)。代数幾何ではこの性質がエタール位相での「局所環」を定める:スキームの点 $x$ での局所環 $\mathcal{O}_{X,x}$ の Hensel 化は、$x$ のエタール近傍の局所環の帰納極限である(rem-henselian-local-ring-henselization)。
$\mathfrak{m}$ 進位相で完備かつ分離的な局所環($A\to\varprojlim A/\mathfrak{m}^n$ が同型)は Hensel 局所環である(thm-henselian-local-ring-complete)。とくに次は Hensel 局所環である。
原点の近傍で収束する 1 変数の複素冪級数のなす環 $\mathbb{C}\{t\}$(収束冪級数環)は、極大イデアル $(t)$、剰余体 $\mathbb{C}$ の Noether 局所環であり、完備ではない($\mathbb{C}\{t\}$ の完備化は $\mathbb{C}[\![t]\!]$ であり、$\sum n!\,t^n$ はそこに属するが収束しない)。しかし Hensel 局所環である。実際、モニック多項式 $f(x)=x^n+c_1(t)x^{n-1}+\dots+c_n(t)\in\mathbb{C}\{t\}[x]$ を 2 変数 $(x,t)$ の正則関数 $F(x,t)$ とみなす。$\bar f$ の単根 $a_0\in\mathbb{C}$ は $F(a_0,0)=0$、$\partial F/\partial x\,(a_0,0)\neq0$ を意味するから、正則関数の陰関数定理により、$x(0)=a_0$ かつ $F(x(t),t)\equiv0$ をみたす正則関数 $x(t)$ が $t=0$ の近傍に存在する。この $x(t)$ は $\mathbb{C}\{t\}$ の元であり、求める根である。多変数 $\mathbb{C}\{t_1,\dots,t_n\}$ でも同様である。
任意の局所環 $A$ には Hensel 化 $A^{h}$(def-henselian-local-ring-henselization)が付随し、これは Hensel 局所環である。
$\mathbb{Z}$ の素数 $p$ での局所化 $\mathbb{Z}_{(p)}=\{a/b\in\mathbb{Q}\mid p\nmid b\}$ は離散付値環であり、剰余体は $\mathbb{F}_p$、完備化は $\mathbb{Z}_p$ である。この環は Noether 環、正則局所環、Krull次元 1 の局所環という性質をすべてみたすが、Hensel の補題をみたさない。実際 $f(x)=x^2-x-p^2$ をとると、$\bar f=x^2-x=x(x-1)\in\mathbb{F}_p[x]$ は単根 $0,1$ をもつ($\bar f'=2x-1$ は $x=0,1$ で $\mp1\neq0$。$p=2$ でも同じ)。もし $f$ が $\mathbb{Z}_{(p)}\subset\mathbb{Q}$ に根 $a$ をもてば、判別式 $1+4p^2$ が有理数の 2 乗、したがって整数の 2 乗でなければならない。しかし $(2p)^2<1+4p^2<(2p+1)^2$ なのでこれは不可能である。よって $\mathbb{Z}_{(p)}$ は Hensel 局所環でない。満たす性質は離散付値環(Noether・正則・1 次元)であること、満たさない性質は Hensel 性であり、破る含意は「離散付値環ならば Hensel 局所環である」である。同じ多項式は完備化 $\mathbb{Z}_p$ では根をもつ(ex-henselian-local-ring-complete)。
体 $k$ 上の $k[t]_{(t)}=\{g/h\in k(t)\mid h(0)\neq0\}$ について、$f(x)=x^2-x-t$ をとる。$\bar f=x(x-1)\in k[x]$ は単根 $0,1$ をもつ。根 $a=g/h\in k(t)$($g,h\in k[t]$、$h\neq0$)があれば $g^2-gh-th^2=0$ である。$\deg g=d$、$\deg h=e$ とすると、$d>e$ なら $g^2$ の次数 $2d$ が他の 2 項の次数 $d+e$、$2e+1$ より真に大きく、$d< e$ なら $th^2$ の次数 $2e+1$ が $2d$、$d+e$ より真に大きく、$d=e$ なら $th^2$ の次数 $2d+1$ が $2d$ より大きい。いずれの場合も最高次の項が打ち消されず矛盾する。よって $f$ は $k(t)$ に根をもたず、$k[t]_{(t)}$ は Hensel 局所環でない。この議論は標数によらない。満たす性質は離散付値環(さらに体上有限型の環の局所化)であること、満たさない性質は Hensel 性であり、破る含意は「離散付値環ならば Hensel 局所環である」と「Hensel 化は自明である」($k[t]_{(t)}\subsetneq k\langle t\rangle$)である。一方、$k[\![t]\!]$ では根 $-t+t^2-2t^3+\cdots$($\bar a=0$ を持ち上げるもの)が存在し、それは代数的冪級数環 $k\langle t\rangle$ に属する(ex-henselian-local-ring-henselization)。
上の 2 つの反例は、Hensel 性が Noether 性・正則性・次元 1・離散付値環であることのどれからも従わないことを示す。実際、Hensel 局所環 $A$ が整域で分数体が $K$ なら、$A$ 上モニックで剰余体上に単根をもつ多項式は必ず $K$ に根をもつ。$\mathbb{Q}$ や $k(t)$ のような小さい体を分数体にもつ局所環は、この要求をみたせない。一方で Hensel 性は完備性より真に弱い:$k\langle t\rangle$ は Hensel 局所環だが完備でない(ex-henselian-local-ring-henselization)。
$(A,\mathfrak{m},k)$ を局所環、$f\in A[t]$ とし、$a,b\in A$ が $f(a)=f(b)=0$、$a\equiv b\pmod{\mathfrak{m}}$、$f'(a)\notin\mathfrak{m}$ をみたすとする。このとき $a=b$ である。とくに Hensel 局所環において、$\bar f$ の単根 $a_0$ の持ち上げ $a$ は一意である。
$A[t]$ における Taylor 展開 $f(t+s)=f(t)+f'(t)s+s^2g(t,s)$($g\in A[t,s]$)は、$f$ が $t^n$ の場合の 2 項展開から従う。$t=a$、$s=b-a$ を代入すると
$$
0=f(b)=f(a)+f'(a)(b-a)+(b-a)^2g(a,b-a)=(b-a)\bigl(f'(a)+(b-a)g(a,b-a)\bigr).
$$
$f'(a)$ は $\mathfrak{m}$ に属さないので単元であり、$b-a\in\mathfrak{m}$ だから $f'(a)+(b-a)g(a,b-a)$ は単元と $\mathfrak{m}$ の元の和、すなわち単元である。したがって $b-a=0$ である。Hensel 局所環での主張は、$\bar f'(a_0)\neq0$ が $f'(a)\notin\mathfrak{m}$ を意味することから従う。
局所環 $(A,\mathfrak{m},k)$ が $\mathfrak{m}$ 進完備、すなわち自然な写像 $A\to\varprojlim_nA/\mathfrak{m}^n$ が同型ならば、$A$ は Hensel 局所環である。
$f\in A[t]$ をモニック、$a_0\in k$ を $\bar f$ の単根とする。$a_0$ の持ち上げ $a_1\in A$ を任意にとる。$f(a_1)\in\mathfrak{m}$、$f'(a_1)\notin\mathfrak{m}$ である。列 $a_1,a_2,\dots$ を次の性質をみたすように帰納的に作る:$a_n\equiv a_1\pmod{\mathfrak{m}}$、$f(a_n)\in\mathfrak{m}^n$、$f'(a_n)$ は単元、$a_{n+1}\equiv a_n\pmod{\mathfrak{m}^n}$。$n=1$ では成り立っている。$a_n$ まで作れたとき
$$
a_{n+1}:=a_n-\frac{f(a_n)}{f'(a_n)}
$$
とおく。$f(a_n)\in\mathfrak{m}^n$ なので $a_{n+1}\equiv a_n\pmod{\mathfrak{m}^n}$、したがって $a_{n+1}\equiv a_1\pmod{\mathfrak{m}}$ であり、$f'(a_{n+1})\equiv f'(a_1)\pmod{\mathfrak{m}}$ は単元である。prf-henselian-local-ring-uniqueness の Taylor 展開を $t=a_n$、$s=a_{n+1}-a_n$ に適用すると
$$
f(a_{n+1})=f(a_n)+f'(a_n)(a_{n+1}-a_n)+(a_{n+1}-a_n)^2g=(a_{n+1}-a_n)^2g\in\mathfrak{m}^{2n}\subset\mathfrak{m}^{n+1}
$$
である($n\ge1$)。これで帰納的な構成が終わる。
列 $(a_n)$ は $a_{n+1}\equiv a_n\pmod{\mathfrak{m}^n}$ をみたすので、各 $N$ について $A/\mathfrak{m}^N$ における像は $n\ge N$ で一定であり、それらは $\varprojlim A/\mathfrak{m}^n$ の元を定める。完備性により、この元に対応する $a\in A$ がある。$a\equiv a_n\pmod{\mathfrak{m}^n}$($n\ge1$)である。任意の $n$ について $f(a)\equiv f(a_n)\equiv0\pmod{\mathfrak{m}^n}$ なので $f(a)\in\bigcap_n\mathfrak{m}^n$ であり、$A\to\varprojlim A/\mathfrak{m}^n$ が単射(分離性)だからこの共通部分は $0$ である。よって $f(a)=0$、$\bar a=\bar a_1=a_0$ である。
証明が使ったのは $\mathfrak{m}$ 進 Cauchy列の極限の存在と分離性だけで、Noether 性は不要である。Matsumura Mat89 Theorem 8.3 は同じ主張を因数分解の形で述べている。逆は成り立たない:ex-henselian-local-ring-henselization の $k\langle t\rangle$ は Hensel だが完備でない。なお $\mathfrak{m}$ 進完備な局所環では、多変数の Newton 法も同様に収束する。すなわち $f_1,\dots,f_n\in A[x_1,\dots,x_n]$ と $\bar f_i(\alpha)=0$、$\det(\partial\bar f_i/\partial x_j)(\alpha)\neq0$ をみたす $\alpha\in k^n$ に対し、$\alpha$ を持ち上げる共通根 $a\in A^n$ が存在する。Hensel 局所環一般でも同じ多変数版が成り立つが、その証明は完備性ではなく thm-henselian-local-ring-characterization の 4(エタール射の切断)による(rem-henselian-local-ring-multivariable)。
局所環 $(A,\mathfrak{m},k)$ について次は同値である。
この定理は Azumaya、Nagata、Grothendieck による。全体の証明は Stacks Tag 04GG(13 個の同値条件を挙げる)、EGA4 IV 18.5.11、Milne Mil80 I.4.2、Raynaud Ray70 に譲る。本記事では、2 $\Rightarrow$ 1(prop-henselian-local-ring-factor-to-root)、3 $\Rightarrow$ 2(prop-henselian-local-ring-product-to-factor)、2 $\Rightarrow$ 3(prop-henselian-local-ring-factor-to-product)を完全に証明する。これで 2 と 3 の同値と、それらから 1 が従うことは記事内で閉じる。残る 1 $\Rightarrow$ 4 はエタール代数の局所構造定理を認めれば短く示せ(prop-henselian-local-ring-etale-section)、4 $\Rightarrow$ 3 は準有限代数(準有限射)のエタール局所化(Stacks Tag 04GG の証明が引く補題)を要するので出典に譲る。したがって 1 $\Rightarrow$ 2 の証明は記事内では完結しない。
まず、有限代数と互いに素な因数分解についての 2 つの補題を用意する。
$(A,\mathfrak{m},k)$ を局所環、$C$ を有限 $A$ 代数とする。
$(A,\mathfrak{m},k)$ を局所環、$g,h\in A[t]$ とし、$g$ はモニックで、$\bar g,\bar h\in k[t]$ は互いに素とする。このとき $(g,h)=A[t]$ であり、したがって $A[t]/(gh)\cong A[t]/(g)\times A[t]/(h)$ である。
局所環 $A$ が thm-henselian-local-ring-characterization の条件 2 をみたせば、$A$ は Hensel 局所環である。
$f\in A[t]$ をモニック、$a_0\in k$ を $\bar f$ の単根とする。$k[t]$ で $\bar f=(t-a_0)h_0$ と書け、$a_0$ が単根なので $h_0(a_0)\neq0$、すなわち $t-a_0$ と $h_0$ は互いに素である。条件 2 により $f=gh$、$\bar g=t-a_0$、$\bar h=h_0$ となるモニック $g,h\in A[t]$ がある。$g$ はモニックで次数 1 だから $g=t-a$($a\in A$)の形で、$\bar a=a_0$、$f(a)=g(a)h(a)=0$ である。
局所環 $A$ が thm-henselian-local-ring-characterization の条件 3 をみたせば、条件 2 をみたす。
$f\in A[t]$ をモニック(次数 $n$)、$\bar f=g_0h_0$ を互いに素なモニック多項式による因数分解とする。$S=A[t]/(f)$ は $1,t,\dots,t^{n-1}$ を基底とする階数 $n$ の自由 $A$ 加群であり、有限 $A$ 代数である。条件 3 により $S=S_1\times\dots\times S_r$(各 $S_i$ は局所環)と書ける。$\mathfrak{m}$ で還元すると
$$
k[t]/(\bar f)=S/\mathfrak{m}S=S_1/\mathfrak{m}S_1\times\dots\times S_r/\mathfrak{m}S_r
$$
であり、lem-henselian-local-ring-finite-algebra の 2・3 により各 $S_i/\mathfrak{m}S_i$ は $0$ でない局所環である。他方、lem-henselian-local-ring-coprime($A=k$ の場合)により $k[t]/(\bar f)=k[t]/(g_0)\times k[t]/(h_0)$ である。
局所環には冪等元が $0,1$ しかないので、有限個の局所環の直積 $\prod L_i$ の冪等元は各成分が $0$ または $1$ の元にかぎる。したがって $k[t]/(\bar f)$ の冪等元で $k[t]/(g_0)$ に対応するもの $\varepsilon$ は、ある添字集合 $I\subset\{1,\dots,r\}$ について $\prod_{i\in I}S_i/\mathfrak{m}S_i$ の単位元である。$S'=\prod_{i\in I}S_i$、$S''=\prod_{i\notin I}S_i$ とおけば $S=S'\times S''$、$S'/\mathfrak{m}S'\cong k[t]/(g_0)$、$S''/\mathfrak{m}S''\cong k[t]/(h_0)$ であり、これらの同型は $t$ の像を $t$ の像に写す。
$S'$ は自由加群 $S$ の直和因子なので有限生成射影加群であり、局所環上の有限生成射影加群は自由である(Mat89 Theorem 2.5)。その階数は $\dim_kS'/\mathfrak{m}S'=\deg g_0$ である。$S'$ における $t$ の掛け算の特性多項式を $g\in A[t]$ とすると、$g$ はモニックで次数 $\deg g_0$ であり、$\bar g$ は $k[t]/(g_0)$ における $t$ の掛け算の特性多項式、すなわち $g_0$ である(基底 $1,t,\dots,t^{\deg g_0-1}$ に関する行列は $g_0$ の同伴行列)。同様に $S''$ から次数 $\deg h_0$ のモニック多項式 $h$ で $\bar h=h_0$ となるものが得られる。Cayley–Hamiltonの定理により $g(t)=0$ が $S'$ で、$h(t)=0$ が $S''$ で成り立つので、$g(t)h(t)=0$ が $S=S'\times S''$ で成り立つ。すなわち $f$ は $A[t]$ で $gh$ を割る。$f$ と $gh$ はともにモニックで次数 $n=\deg g_0+\deg h_0$ だから $f=gh$ である。
局所環 $A$ が thm-henselian-local-ring-characterization の条件 2 をみたせば、条件 3 をみたす。
$B$ を有限 $A$ 代数とし、$\bar B=B/\mathfrak{m}B$ とおく。まず、$\bar B$ の任意の冪等元 $\bar e$ が $B$ の冪等元に持ち上がることを示す。$\bar e=0,1$ なら明らかなので $\bar e\neq0,1$ とする。$b\in B$ を $\bar e$ の持ち上げとする。$B$ は $A$ 上有限なので $b$ は $A$ 上整であり(AM69 Proposition 5.1)、$f(b)=0$ となるモニック $f\in A[t]$ がある。$\bar B$ で $\bar f(\bar e)=0$ であり、$\bar e^2=\bar e$ から $\bar f(\bar e)=\bar f(0)(1-\bar e)+\bar f(1)\bar e$ なので、$\bar e$ と $1-\bar e$ をそれぞれ掛けて $\bar f(1)\bar e=0$、$\bar f(0)(1-\bar e)=0$ を得る。$\bar f(0),\bar f(1)\in k$ はスカラーで $\bar e,1-\bar e\neq0$ だから $\bar f(0)=\bar f(1)=0$ である。
$\bar f=t^rh_0$($r\ge1$、$h_0(0)\neq0$)と書く。$\bar f(1)=0$ から $h_0(1)=0$ である。$t^r$ と $h_0$ は互いに素なので、条件 2 により $f=gh$、$\bar g=t^r$、$\bar h=h_0$ となるモニック $g,h\in A[t]$ がある。lem-henselian-local-ring-coprime により $ug+vh=1$ となる $u,v\in A[t]$ がとれる。$e':=(vh)(b)\in B$ とおくと
$$
e'^2-e'=(vh)(b)\bigl((vh)(b)-1\bigr)=-(vh)(b)(ug)(b)=-(uv)(b)\,f(b)=0
$$
なので $e'$ は冪等元である。その像 $\bar e'\in\bar B$ を計算する。$\bar e$ が冪等なので、任意の $q\in k[t]$ について $q(\bar e)=q(0)(1-\bar e)+q(1)\bar e$ である。$h_0(1)=0$ より $h_0(\bar e)=h_0(0)(1-\bar e)$、また $\bar u\bar g+\bar v h_0=1$ に $t=0$ を代入して $\bar v(0)h_0(0)=1$ である。よって
$$
\bar e'=\bar v(\bar e)h_0(\bar e)=\bigl(\bar v(0)(1-\bar e)+\bar v(1)\bar e\bigr)h_0(0)(1-\bar e)=\bar v(0)h_0(0)(1-\bar e)=1-\bar e
$$
となり、$1-e'$ は $\bar e$ を持ち上げる冪等元である。
次に $B$ が有限個の局所環の直積であることを示す。lem-henselian-local-ring-finite-algebra の 3 により $\bar B=\bar B_1\times\dots\times\bar B_s$(各 $\bar B_i$ は局所環)であり、この分解の単位元 $\bar e_1,\dots,\bar e_s$ は互いに直交する冪等元で和が $1$ である。$s$ についての帰納法で、$B=B_1\times\dots\times B_s$、$B_i/\mathfrak{m}B_i\cong\bar B_i$ となる分解を作る。$s=1$ なら何もすることはない。$s\ge2$ のとき $\bar e_1$ を冪等元 $e_1\in B$ に持ち上げると $B=e_1B\times(1-e_1)B$ であり、両因子は有限 $A$ 代数で、$e_1B/\mathfrak{m}e_1B\cong\bar e_1\bar B=\bar B_1$、$(1-e_1)B/\mathfrak{m}(1-e_1)B\cong(1-\bar e_1)\bar B=\bar B_2\times\dots\times\bar B_s$ である。後者に帰納法の仮定を適用すればよい。最後に、各 $B_i$ は $B_i/\mathfrak{m}B_i\cong\bar B_i$ が局所環なので、lem-henselian-local-ring-finite-algebra の 2 により局所環である。
$A$ を Hensel 局所環、$B$ を局所環であるような有限 $A$ 代数とする。このとき $B$ は Hensel 局所環である。より一般に、Hensel 局所環上の任意の有限代数は有限個の Hensel 局所環の直積である。
thm-henselian-local-ring-characterization の 1 と 3 の同値を用いる。$C$ を有限 $B$ 代数とすると、$C$ は有限 $A$ 代数でもあるので、条件 3 により有限個の局所環の直積である。よって $B$ は条件 3 をみたし、Hensel 局所環である。一般の有限 $A$ 代数 $B$ は条件 3 により局所環 $B_i$ の直積で、各 $B_i$ は有限 $A$ 代数なので前半により Hensel 局所環である(Stacks Tag 04GH)。
$A\to B$ をエタールな環準同型、$\mathfrak{q}$ を $B$ の素イデアルとする。このとき $g\in B\setminus\mathfrak{q}$ が存在して、$B_g$ は $A$ 代数として
$$
B_g\cong\bigl(A[t]/(f)\bigr)_{h}
$$
の形に書ける。ここで $f\in A[t]$ はモニック、$h\in A[t]$ であり、$f'$ の像は $(A[t]/(f))_h$ の単元である(標準エタール代数)。
証明は EGA4 IV 18.4.6、Stacks Tag 00UE、Milne Mil80 I.3.14 に譲る。Zariskiの主定理に基づく議論であり、本記事の範囲を超える。
$(A,\mathfrak{m},k)$ を Hensel 局所環とすると、thm-henselian-local-ring-characterization の条件 4 が成り立つ。すなわち、エタール $A$ 代数 $B$ と、$\mathfrak{m}$ の上にあって剰余体 $\kappa(\mathfrak{q})=k$ をみたす素イデアル $\mathfrak{q}\subset B$ に対し、$A$ 代数の射 $\tau\colon B\to A$ で $\tau^{-1}(\mathfrak{m})=\mathfrak{q}$ となるものが存在する。
thm-henselian-local-ring-etale-structure により $g\notin\mathfrak{q}$ をとって $B_g\cong(A[t]/(f))_h$ とできる。$B\to B_g$ と合成すれば $B_g$ の切断から $B$ の切断が得られ、$\mathfrak{q}B_g$ の引き戻しは $\mathfrak{q}$ になるので、$B=(A[t]/(f))_h$ としてよい。$\mathfrak{q}$ は $\mathfrak{m}$ の上にあるので、$B/\mathfrak{m}B=(k[t]/(\bar f))_{\bar h}$ の素イデアルに対応し、$\kappa(\mathfrak{q})=k$ という仮定から、それは $\bar f$ の根 $a_0\in k$ に対応する極大イデアル $(t-a_0)$ で、$\bar h(a_0)\neq0$ をみたす。$f'$ が $B$ で単元なので $\bar f'(a_0)\neq0$、すなわち $a_0$ は $\bar f$ の単根である。$A$ が Hensel 局所環だから $f(a)=0$、$\bar a=a_0$ となる $a\in A$ がある。$h(a)\equiv\bar h(a_0)\not\equiv0\pmod{\mathfrak{m}}$ より $h(a)$ は $A$ の単元なので、$t\mapsto a$ は $A$ 代数の射 $\tau\colon(A[t]/(f))_h\to A$ を定める。$\tau^{-1}(\mathfrak{m})$ は $\mathfrak{m}B$ と $t-a$ を含む素イデアルなので、$B/\mathfrak{m}B$ での像は $t-a_0$ を含む素イデアル、すなわち極大イデアル $(t-a_0)$ であり、したがって $\tau^{-1}(\mathfrak{m})=\mathfrak{q}$ である。
prop-henselian-local-ring-etale-section から多変数版の Hensel の補題が従う。$f_1,\dots,f_n\in A[x_1,\dots,x_n]$ と $\alpha\in k^n$ が $\bar f_i(\alpha)=0$(各 $i$)、$\Delta:=\det(\partial f_i/\partial x_j)$ について $\bar\Delta(\alpha)\neq0$ をみたすとする。$B=(A[x_1,\dots,x_n]/(f_1,\dots,f_n))_{\Delta}$ は Jacobi判定法により $A$ 上滑らかで相対次元 $0$、すなわちエタール $A$ 代数であり(滑らかな射、EGA4 IV 17)、$\alpha$ は剰余体 $k$ の素イデアル $\mathfrak{q}$ を定める。切断 $\tau\colon B\to A$ の $x_j$ での値 $a=(\tau(x_1),\dots,\tau(x_n))\in A^n$ が $\alpha$ を持ち上げる共通根である。逆に、条件 4 は 1 変数の場合に帰着させれば条件 1 を含意する($B=(A[t]/(f))_{f'}$ をとる)。Hensel 局所環とは、剰余体上の Jacobi 行列が可逆な多項式方程式系の解がつねに持ち上がる局所環である、と言い換えてよい。
局所環 $(A,\mathfrak{m},k)$ の Hensel 化(henselization)とは、Hensel 局所環 $A^{h}$ と局所準同型 $i\colon A\to A^{h}$ の組であって、次の普遍性をみたすものをいう:任意の Hensel 局所環 $C$ と局所準同型 $\varphi\colon A\to C$ に対し、$\varphi=\psi\circ i$ となる局所準同型 $\psi\colon A^{h}\to C$ が一意に存在する。普遍性により $A^{h}$ は一意な同型を除いて定まる。
任意の局所環 $(A,\mathfrak{m},k)$ に Hensel 化 $i\colon A\to A^{h}$ が存在し、次が成り立つ。
存在と 1・2・3 は Stacks Tag 04GN と Tag 0BSK の節、EGA4 IV 18.6.6、Raynaud Ray70、Milne Mil80 I §4 による。4 も EGA4 IV 18.6 による。5 は普遍性から直ちに従う。構成 2 は、$A$ が Hensel であることを「$k$ 有理点をもつエタール近傍がすべて切断をもつ」と言い換えた thm-henselian-local-ring-characterization の 4 を、極限をとることで強制的にみたさせるものである。スキーム $X$ の点 $x$ での $\mathcal{O}_{X,x}^{h}$ は、$x$ のエタール近傍 $(U,u)\to(X,x)$($\kappa(u)=\kappa(x)$)の局所環 $\mathcal{O}_{U,u}$ の帰納極限であり、剰余体まで分離閉包に広げた極限が狭義 Hensel 化 $\mathcal{O}_{X,\bar x}^{sh}$、すなわちエタール位相での茎である(狭義Hensel局所環)。$k[t]_{(t)}$ の Hensel 化が代数的冪級数環であること(ex-henselian-local-ring-henselization)は、$k\langle t\rangle$ が Hensel であること($k[\![t]\!]$ の中で Hensel の補題の根が代数的であること)と、$k\langle t\rangle$ の元が $k[t]_{(t)}$ のエタール近傍の元として得られることの 2 つから従う。
Hensel 局所環 $A$ の上では、多くの構造が閉点で決まる。Azumaya代数の同型類は剰余体上のそれに一致し、Brauer群は $\operatorname{Br}(A)\cong\operatorname{Br}(k)$ をみたす(Azumaya の定理、Grothendieck Gro68 I 6.1、Milne Mil80 IV §1)。捩れ係数のエタールコホモロジーも $H^i(\operatorname{Spec}A,F)\cong H^i(\operatorname{Spec}k,F|_k)$ をみたす(Gabber の定理。Hensel 対 $(A,\mathfrak{m})$ に対する Stacks Tag 09ZI)。剰余体が分離閉ならこれらは $0$ になる(狭義Hensel局所環)。さらに Hensel 局所環を底とするアーベル多様体や滑らかな群スキームでは、閉ファイバーの有理点が持ち上がる(prop-henselian-local-ring-etale-section を滑らかな射に拡張したもの)。これらの性質が、Néronモデルや Brauer 群の局所的な計算で Hensel 離散付値環(Hensel 局所環である離散付値環)が完備離散付値環の代わりに使われる理由である。
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