Legendreの球面三角形の定理

同義語:Legendreの定理(球面三角形)Legendre's theorem on spherical triangles

概要

Legendreの球面三角形の定理(Legendre's theorem on spherical triangles)とは、半径 $R$ の球面の上の小さい球面三角形の角 $A,B,C$ からそれぞれ球過量 $\varepsilon=A+B+C-\pi$ の $\frac13$ を引くと、3 辺が同じ長さの平面の三角形の角 $A',B',C'$ にほぼ等しいという定理である。形を決めて辺を $t$ 倍にすると $A=A'+\frac{\varepsilon}{3}+O(t^4)$ で、誤差は辺の長さの 4 乗の程度である。球面の余弦定理を Taylor 展開で平面の余弦定理と比べ、$\cos A-\cos A'$ と $\varepsilon$ を平面の三角形の面積 $S'$ で表して示す($\varepsilon\approx\frac{S'}{R^2}$)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 球面三角法, 球面三角形の面積, 関数の近似とTaylor展開, 余弦定理(高校数学)

高校での出発点:小さい球面三角形を平面の三角形で置き換える

地球の表面のような球面の上の三角形は、球面の余弦定理で正確に計算できる(球面三角法)。一方、三角形が球の半径に比べて小さければ、平面の余弦定理でも近似として使える(球面三角法 の注意「小さい三角形での近似」)。では、平面で計算した角と、球面の本当の角は、どれだけずれているのだろうか。まず 1 つの三角形で比べてみる。

辺が $0.10$、$0.13$、$0.15$ の三角形

半径 $1$ の球面の上に、3 辺の長さ(大円の弧の長さ)が $a=0.10$、$b=0.13$、$c=0.15$ の球面三角形をとる。
(1) 球面の角。球面の余弦定理 $\cos A=\dfrac{\cos a-\cos b\cos c}{\sin b\sin c}$ などから(数値計算)
$$ A\approx41.19799^\circ,\qquad B\approx58.79035^\circ,\qquad C\approx80.37947^\circ $$
で、内角の和は約 $180.36781^\circ$ である。$180^\circ$ を超えた分 $\varepsilon\approx0.36781^\circ$ を 球過量 という。
(2) 平面の角。同じ長さの 3 辺をもつ平面の三角形の角を $A'$、$B'$、$C'$ とする。平面の余弦定理から $\cos A'=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}=\dfrac{0.0169+0.0225-0.0100}{0.039}=\dfrac{0.0294}{0.039}\approx0.75385$ で、
$$ A'\approx41.07535^\circ,\qquad B'\approx58.66775^\circ,\qquad C'\approx80.25690^\circ $$
である。和はもちろん $180^\circ$ である。
(3) 差を比べる。
$$ A-A'\approx0.12264^\circ,\qquad B-B'\approx0.12260^\circ,\qquad C-C'\approx0.12257^\circ,\qquad \frac\varepsilon3\approx0.12260^\circ $$
3 つの角の差は、どれも球過量の $\dfrac13$ にほとんど等しい。

半径 1 の球面の上の球面三角形 ABC。3 辺は大円の弧で、辺の長さは 0.60、0.78、0.90 半径 1 の球面の上の球面三角形 ABC。3 辺は大円の弧で、辺の長さは 0.60、0.78、0.90
同じ長さの 3 辺 0.60、0.78、0.90 をもつ平面の三角形。上に平面の角と球面の角を並べて書いた 同じ長さの 3 辺 0.60、0.78、0.90 をもつ平面の三角形。上に平面の角と球面の角を並べて書いた

図 1・図 2 は、ex-leg-start の三角形を形を変えずに $6$ 倍にしたもので、ずれが目に見える大きさになっている。球面の角は $45.89^\circ$、$63.42^\circ$、$84.96^\circ$、平面の角は $41.08^\circ$、$58.67^\circ$、$80.26^\circ$ で、差は $4.82^\circ$、$4.76^\circ$、$4.71^\circ$ である。球過量は約 $14.28^\circ$ で、その $\dfrac13$ は約 $4.76^\circ$ である。
ex-leg-start では、球面の角から球過量の $\dfrac13$ ずつを引くと、平面の三角形の角にほぼ等しくなった。3 つの角の差がそろって $\dfrac\varepsilon3$ に近いのは偶然ではない。小さい球面三角形では、いつもこうなる。これが Legendre の球面三角形の定理である。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 球面の角と平面の角の差は、なぜ球過量の $\dfrac13$ になるのか。→ thm-leg-main
  2. その近似はどれくらい正確か。→ thm-leg-main、ex-leg-scale、ex-leg-earth
  3. どんなときに使えないか。→ ex-leg-large、ex-leg-one-angle
    高校の言葉この記事の言葉大学の言葉
    内角の和から $180^\circ$ を引いた値球過量 $\varepsilon$曲率を面積で積分した量
    $\cos x\approx1-\dfrac{x^2}2$Taylor 展開で 4 次まで比べる漸近展開
    誤差が辺の 4 乗に比例して小さい$O(t^4)$Landau の記号

準備:使う公式と「4 次の程度」

半径 $R$ の球面の上の球面三角形 $ABC$ の辺の長さ(大円の弧の長さ)を $a$、$b$、$c$、角を $A$、$B$、$C$ とする。球面を $\dfrac1R$ 倍に縮めると単位球面になり、辺は $\dfrac aR$、$\dfrac bR$、$\dfrac cR$ になり、角は変わらない。そこで 球面三角法 の主定理(単位球面の余弦定理)から次の式が成り立つ。

この記事で引く 2 つの公式

(1)(球面の余弦定理、球面三角法)
$$ \cos\frac aR=\cos\frac bR\cos\frac cR+\sin\frac bR\sin\frac cR\cos A $$
で、$B$、$C$ についても同じ形の式が成り立つ。
(2)(Girard の定理、球面三角形の面積)球過量 $\varepsilon=A+B+C-\pi$ について、球面三角形の面積は $\varepsilon R^2$ である。

誤差の大きさを言い表すために、次の言葉を使う。

4 次の程度

正の数 $t$ の関数 $E(t)$ について、正の数 $K$、$t_0$ があって、$0< t\le t_0$ のとき $\lvert E(t)\rvert\le Kt^4$ となるとき、$E(t)$ は $t$ の 4 次の程度 であるといい、$E(t)=O(t^4)$ と書く。$O(t^2)$、$O(t^6)$ なども同じように定める。

4 次の程度の例
  1. $E(t)=3t^4-t^5$ は、$0< t\le1$ で $\lvert E(t)\rvert\le3t^4+t^5\le4t^4$ なので $O(t^4)$ である。
  2. $E(t)=t^2$ は $O(t^4)$ ではない。$t^2\le Kt^4$ は $t\ge\dfrac1{\sqrt K}$ でしか成り立たず、$t$ を小さくすると破れるからである。
  3. 定義からすぐ分かるように、$O(t^4)$ どうしの和、$O(t^2)$ どうしの積、$t$ が小さいとき有界な関数と $O(t^4)$ の積は、どれも $O(t^4)$ である(Landau記号)。

もう 1 つの道具は、$\cos$ と $\sin$ の近似の誤差の評価である。

余弦と正弦の近似

すべての実数 $x$ について
$$ \left\lvert\cos x-\left(1-\frac{x^2}2+\frac{x^4}{24}\right)\right\rvert\le\frac{x^6}{720},\qquad\left\lvert\sin x-\left(x-\frac{x^3}6\right)\right\rvert\le\frac{\lvert x\rvert^5}{120} $$
である。

剰余項の評価

$\cos x$ の $5$ 次の Taylor 多項式は $1-\dfrac{x^2}2+\dfrac{x^4}{24}$($5$ 次の項は $0$)で、剰余項は Lagrange の形で $\dfrac{f^{(6)}(\xi)}{6!}x^6$($\xi$ は $0$ と $x$ の間)と書ける。$\cos x$ の $6$ 階導関数は $-\cos x$ で、絶対値は $1$ 以下なので、誤差は $\dfrac{x^6}{720}$ 以下である。$\sin x$ の $4$ 次の Taylor 多項式は $x-\dfrac{x^3}6$ で、$5$ 階導関数は $\cos x$ なので、誤差は $\dfrac{\lvert x\rvert^5}{5!}=\dfrac{\lvert x\rvert^5}{120}$ 以下である(関数の近似とTaylor展開 の剰余項の評価)。$\square$

主定理:角から球過量の 3 分の 1 を引く

平面の三角形の形を 1 つ決め、それと同じ形で大きさ $t$ 倍の辺をもつ球面三角形を考える。$t$ を小さくしたとき、角の差がどう振る舞うかを調べる。

Legendre の球面三角形の定理

平面の三角形の辺を $a_0$、$b_0$、$c_0$、角を $A'$、$B'$、$C'$ とし、その面積を $S_0$ とする。正の数 $t$ について、半径 $R$ の球面の上の、辺の長さが $a=ta_0$、$b=tb_0$、$c=tc_0$ の球面三角形($t$ が小さければある。証明の後の補足)の角を $A$、$B$、$C$、球過量を $\varepsilon$ とする。このとき
$$ A=A'+\frac\varepsilon3+O(t^4),\qquad B=B'+\frac\varepsilon3+O(t^4),\qquad C=C'+\frac\varepsilon3+O(t^4) $$
である。また $\varepsilon=\dfrac{t^2S_0}{R^2}+O(t^4)$ である。

$t^2S_0$ は、辺が $a$、$b$、$c$ の平面の三角形の面積 $S'$ である。定理は、$A'\approx A-\dfrac\varepsilon3$ の誤差が辺の長さの 4 乗の程度で、球過量そのもの(辺の長さの 2 乗の程度)よりずっと小さいことを言っている。平面の三角形の角は $t$ によらないので、$A'$、$B'$、$C'$ は $t$ に関係しない定数である。

余弦定理を 4 次まで展開して比べる

方針:球面の余弦定理から $\cos A$ を求め、lem-leg-taylor で $t$ の 2 次の項まで正確に展開して、平面の余弦定理の $\cos A'$ と比べる。差は平面の三角形の面積で書ける。それを角の差に直し、3 つの角を足して球過量と結びつける。
以下 $t\le1$ とし、$a=ta_0$ などを使うので、$a$、$b$、$c$ の $k$ 次式は $t^k$ の定数倍である。たとえば lem-leg-taylor から $\cos\dfrac aR=1-\dfrac{a^2}{2R^2}+\dfrac{a^4}{24R^4}+O(t^6)$ である。
段 1(分子)。$N=\cos\dfrac aR-\cos\dfrac bR\cos\dfrac cR$ とおく。積を展開し、$t^6$ 以上の項をまとめると
$$ \cos\frac bR\cos\frac cR=1-\frac{b^2+c^2}{2R^2}+\frac{b^4+c^4}{24R^4}+\frac{b^2c^2}{4R^4}+O(t^6) $$
なので
$$ N=\frac{b^2+c^2-a^2}{2R^2}+\frac{a^4-b^4-c^4-6b^2c^2}{24R^4}+O(t^6) $$
である。
段 2(分母)。$D=\sin\dfrac bR\sin\dfrac cR$ とおく。lem-leg-taylor から
$$ D=\left(\frac bR-\frac{b^3}{6R^3}+O(t^5)\right)\left(\frac cR-\frac{c^3}{6R^3}+O(t^5)\right)=\frac{bc}{R^2}\left(1-\frac{b^2+c^2}{6R^2}\right)+O(t^6) $$
である。
段 3($\cos A$)。rem-leg-formulas (1) から $\cos A=\dfrac ND$ である。分子と分母を $\dfrac{bc}{R^2}$($t^2$ の定数倍)で割る。平面の余弦定理 $\cos A'=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}$(余弦定理(高校数学))を使い、
$$ u=\frac{a^4-b^4-c^4-6b^2c^2}{24bcR^2},\qquad v=\frac{b^2+c^2}{6R^2} $$
(どちらも $O(t^2)$)とおくと
$$ \cos A=\frac{\cos A'+u+O(t^4)}{1-v+O(t^4)} $$
である。$w=v+O(t^4)$ とすると $\dfrac1{1-w}=1+w+\dfrac{w^2}{1-w}$ で、$w^2$ は $O(t^4)$ なので $\dfrac1{1-w}=1+v+O(t^4)$ である。分子にこれを掛けて展開し、$uv$ も $O(t^4)$ であることを使うと
$$ \cos A=\cos A'+u+v\cos A'+O(t^4) $$
である。ここで
$$ u+v\cos A'=\frac{a^4-b^4-c^4-6b^2c^2+2(b^2+c^2)(b^2+c^2-a^2)}{24bcR^2}=\frac{(b^2+c^2-a^2)^2-4b^2c^2}{24bcR^2} $$
である(分子を展開すると、どちらも $a^4+b^4+c^4-2a^2b^2-2b^2c^2-2c^2a^2$ になる)。$b^2+c^2-a^2=2bc\cos A'$ なので、分子は $4b^2c^2(\cos^2A'-1)=-4b^2c^2\sin^2A'$ で、
$$ u+v\cos A'=-\frac{bc\sin^2A'}{6R^2}=-\frac{S'}{3R^2}\sin A' $$
である。最後に平面の三角形の面積 $S'=\dfrac12bc\sin A'$(三角形の面積の公式)を使った。まとめると
$$ \cos A=\cos A'-\underbrace{\frac{S'}{3R^2}}_{\delta\text{ とおく}}\sin A'+O(t^4)\qquad\text{(★)} $$
である。
段 4(角の差)。$\delta=\dfrac{S'}{3R^2}=\dfrac{t^2S_0}{3R^2}$ は $O(t^2)$ である。加法定理から $\cos(A'+\delta)=\cos A'\cos\delta-\sin A'\sin\delta$ で、lem-leg-taylor より $\cos\delta=1+O(t^4)$、$\sin\delta=\delta+O(t^6)$ なので、$\cos(A'+\delta)=\cos A'-\delta\sin A'+O(t^4)$ である。(★) と比べて
$$ \cos A-\cos(A'+\delta)=O(t^4) $$
である。平均値の定理から、$A$ と $A'+\delta$ の間の $\xi$ で $\cos A-\cos(A'+\delta)=-\sin\xi\,\bigl(A-(A'+\delta)\bigr)$ となる(平均値の定理による差の評価)。(★) から $t\to0$ で $\cos A\to\cos A'$ なので $A\to A'$ であり、$A'+\delta\to A'$ でもある。$0< A'<\pi$ なので、$t$ が小さければ $\sin\xi\ge\dfrac12\sin A'>0$ である。よって
$$ \left\lvert A-A'-\delta\right\rvert\le\frac{2}{\sin A'}\left\lvert\cos A-\cos(A'+\delta)\right\rvert=O(t^4) $$
で、$A=A'+\dfrac{S'}{3R^2}+O(t^4)$ である。$B$、$C$ でも、文字を入れ替えて同じ計算をすると $B=B'+\dfrac{S'}{3R^2}+O(t^4)$、$C=C'+\dfrac{S'}{3R^2}+O(t^4)$ である($\dfrac12ca\sin B'=\dfrac12ab\sin C'=S'$ なので、同じ $\delta$ になる)。
段 5(球過量)。段 4 の 3 つの式を足すと、$A'+B'+C'=\pi$ から
$$ \varepsilon=A+B+C-\pi=\frac{S'}{R^2}+O(t^4) $$
である。よって $\dfrac{S'}{3R^2}=\dfrac\varepsilon3+O(t^4)$ で、段 4 の式に代入すると $A=A'+\dfrac\varepsilon3+O(t^4)$ などが得られる。$\square$

段 4 の不等式の定数 $\dfrac2{\sin A'}$ は、平面の三角形の角 $A'$ が $0$ や $\pi$ に近い(三角形が細長い)ほど大きくなる。定理は形を 1 つ決めて $t$ を小さくしたときの主張で、誤差の定数は形によって変わる。

辺が $ta_0$、$tb_0$、$tc_0$ の球面三角形があることを開く

定理では、辺が $ta_0$、$tb_0$、$tc_0$ の球面三角形があるとした。$t$ が小さければ、これは次のように作れる。段 1〜3 の計算から、$\dfrac{N}{D}$ は $t\to0$ で $\cos A'$ に近づき、$-1<\cos A'<1$ なので、$t$ が小さければ $-1<\dfrac ND<1$ である。そこで $\cos\theta=\dfrac ND$ となる角 $\theta$($0<\theta<\pi$)をとる。北極 $A$ から経線に沿って弧の長さ $c$ の点を $B$、$A$ で経線と角 $\theta$ をなす大円に沿って弧の長さ $b$ の点を $C$ とする。球面の余弦定理(球面三角法)から、弧 $BC$ の中心角 $x$ は $\cos x=\cos\dfrac bR\cos\dfrac cR+\sin\dfrac bR\sin\dfrac cR\cos\theta=\cos\dfrac aR$ を満たし、弧 $BC$ の長さは $a$ になる。

例で確かめる

大きさを変えて誤差を比べる

ex-leg-start の三角形(半径 $1$、辺 $0.10$、$0.13$、$0.15$)を、形を変えずに $t$ 倍にした球面三角形で、3 つの角の誤差の最大を比べた(ラジアン、数値計算)。

$t$球過量 $\varepsilon$補正なしの誤差 $\lvert A-A'\rvert$Legendre の補正後の誤差 $\left\lvert A-\frac\varepsilon3-A'\right\rvert$補正後の誤差を $t^4$ で割った値
$1$$0.006419$$0.002141$$6.93\times10^{-7}$$6.93\times10^{-7}$
$2$$0.02584$$0.008624$$1.119\times10^{-5}$$6.99\times10^{-7}$
$4$$0.1060$$0.03552$$1.861\times10^{-4}$$7.27\times10^{-7}$
$8$$0.4732$$0.1613$$3.522\times10^{-3}$$8.60\times10^{-7}$

補正なしの誤差は $t$ が $2$ 倍になるとほぼ $4$ 倍($t^2$ に比例)、補正後の誤差はほぼ $16$ 倍($t^4$ に比例)になる。右端の列がほぼ一定であることが、thm-leg-main の $O(t^4)$ の数値での表れである。

辺の長さを変えたときの角の誤差を両対数で描いたグラフ。赤は補正しない誤差で傾きがほぼ 2、青は球過量の 3 分の 1 を引いた後の誤差で傾きがほぼ 4 辺の長さを変えたときの角の誤差を両対数で描いたグラフ。赤は補正しない誤差で傾きがほぼ 2、青は球過量の 3 分の 1 を引いた後の誤差で傾きがほぼ 4
図 3 は同じ比較を両対数のグラフにしたもので、赤の直線の傾きはほぼ $2$、青の直線の傾きはほぼ $4$ である。

地球の上の三角形

地球を半径 $R=6371\ \mathrm{km}$ の球とし、辺が $100\ \mathrm{km}$、$130\ \mathrm{km}$、$150\ \mathrm{km}$ の球面三角形を考える(ex-leg-start と同じ形)。平面の三角形の面積は $S'\approx6406.25\ \mathrm{km}^2$ で、thm-leg-main の $\dfrac{S'}{R^2}$ を角度の秒($1^\circ$ の $\dfrac1{3600}$)に直すと約 $32.555''$ である。球面の余弦定理で計算した球過量は約 $32.556''$ で、ほぼ等しい。
球面の角と平面の角の差は、$A-A'\approx10.852''$ などで、球過量の $\dfrac13$(約 $10.852''$)にほぼ等しい。$\dfrac\varepsilon3$ を引いたあとの誤差は、3 つの角とも $0.0001''$ より小さい(数値計算)。辺を $8$ 倍の $800\ \mathrm{km}$、$1040\ \mathrm{km}$、$1200\ \mathrm{km}$ にしても、球過量は約 $2090''$(約 $0.58^\circ$)、補正後の誤差は $0.36''$ 以下である。

面積についての系

球面三角形の面積と平面の三角形の面積

thm-leg-main と同じ記号で、球面三角形の面積 $S=\varepsilon R^2$ と、同じ辺をもつ平面の三角形の面積 $S'=t^2S_0$ について
$$ S=S'+O(t^4) $$
である。特に $\dfrac{S}{S'}=1+O(t^2)$ である。

球過量の式に $R^2$ を掛ける

thm-leg-main の $\varepsilon=\dfrac{S'}{R^2}+O(t^4)$ に $R^2$($t$ によらない定数)を掛けると $S=\varepsilon R^2=S'+O(t^4)$ である(rem-leg-formulas (2))。両辺を $S'=t^2S_0$ で割ると $\dfrac S{S'}=1+O(t^2)$ である。$\square$

ex-leg-earth の三角形では $S\approx6406.572\ \mathrm{km}^2$、$S'\approx6406.247\ \mathrm{km}^2$ で、比は約 $1.0000507$ である。数値計算では、比から $1$ を引いた値は $\dfrac{a^2+b^2+c^2}{24R^2}\approx0.0000507$ にほぼ等しい(この記事では証明しない)。

3 つの計算法の比較

計算法使う式角の誤差
球面の余弦定理$\cos\dfrac aR=\cos\dfrac bR\cos\dfrac cR+\sin\dfrac bR\sin\dfrac cR\cos A$なし(正確)
平面の余弦定理をそのまま使う$a^2=b^2+c^2-2bc\cos A'$ で $A\approx A'$約 $\dfrac\varepsilon3$($t^2$ の程度)
Legendre の定理$A\approx A'+\dfrac\varepsilon3$、$\varepsilon\approx\dfrac{S'}{R^2}$$t^4$ の程度

平面の余弦定理で近似する考え方は 球面三角法 の注意「小さい三角形での近似」にあり、そこでは誤差の大きさは評価しなかった。thm-leg-main は、その誤差の主な部分が 3 つの角に等しく $\dfrac\varepsilon3$ ずつ分かれることを示している。

例と反例

外す条件反例成り立たなくなること
辺が半径に比べて小さい辺が $\dfrac\pi2$、$\dfrac\pi4$、$\dfrac\pi2$ の球面三角形$A-\dfrac\varepsilon3\approx A'$(誤差が約 $1^\circ$)
球過量を 3 つの角に等しく分ける1 つの角からだけ $\varepsilon$ を引く誤差が $t^4$ の程度
反例:大きい三角形

半径 $1$ の球面で、球面三角法 の例の三角形(辺 $a=\dfrac\pi2$、$b=\dfrac\pi4$、$c=\dfrac\pi2$、角 $A=\dfrac\pi2$、$B=\dfrac\pi4$、$C=\dfrac\pi2$)を考える。球過量は $\varepsilon=\dfrac\pi4$($45^\circ$)で、$A-\dfrac\varepsilon3=75^\circ$、$B-\dfrac\varepsilon3=30^\circ$ である。
同じ辺の平面の三角形では、$\cos A'=\dfrac{b^2+c^2-a^2}{2bc}=\dfrac{\pi^2/16}{\pi^2/4}=\dfrac14$、$\cos B'=\dfrac{a^2+c^2-b^2}{2ac}=\dfrac{7\pi^2/16}{\pi^2/2}=\dfrac78$ で、$A'=\arccos\dfrac14\approx75.522^\circ$、$B'=\arccos\dfrac78\approx28.955^\circ$ である。誤差は約 $0.52^\circ$ と $1.04^\circ$ で、ex-leg-start の $10^{-7}$ ラジアン(約 $0.00004^\circ$)の程度とは比べものにならない。球面の $\dfrac18$ を占めるような三角形では、定理の近似は使えない。
なお、3 辺が等しい球面三角形では、球面の 3 つの角も平面の 3 つの角も等しいので、$A-\dfrac\varepsilon3=A'$ がちょうど成り立つ(球面を 8 等分した三角形では $90^\circ-30^\circ=60^\circ$)。正三角形で確かめても誤差は見えない。

反例:1 つの角からだけ引く

ex-leg-start の三角形で、球過量をすべて角 $A$ から引いて $A-\varepsilon\approx A'$ とすると、誤差は $A-\varepsilon-A'\approx-0.004279$ ラジアンである。これは $-\dfrac{2\varepsilon}3\approx-0.004280$ にほぼ等しい。残りの角でも $B-B'\approx0.002140$、$C-C'\approx0.002139$ の誤差が残る。どれも球過量と同じ $t^2$ の程度で、thm-leg-main の $t^4$ の程度(約 $7\times10^{-7}$)よりずっと大きい。3 つの角に等しく分けることが大事である。

大学数学で見る

曲率と誤差

半径 $R$ の球面は、曲率が $\dfrac1{R^2}$ の曲面である。Hitchman は、曲率 $k$ の一様な幾何で三角形の面積 $A$ と内角について $kA=\alpha+\beta+\gamma-\pi$ が成り立つことを示している(Hit18 Theorem 7.4.3、p. 160)。$k=\dfrac1{R^2}$ とすると Girard の定理 $\varepsilon=\dfrac S{R^2}$ である。thm-leg-main の補正 $\dfrac\varepsilon3=\dfrac{S'}{3R^2}+O(t^4)$ は、曲率と面積の積を 3 等分したものである。曲率が小さい($R$ が大きい)ほど、同じ大きさの三角形の補正は小さい。

双曲平面での同じ現象(数値計算)を開く

曲率が $-1$ の双曲平面(双曲幾何の三角形)では、内角の和は $\pi$ より小さく、欠損 $d=\pi-(\alpha+\beta+\gamma)$ が面積に等しい。上半平面の三角形 $(0,1)$、$(e,1)$、$(0.3e,\ 1+0.8e)$ について、辺の長さを 双曲幾何の三角形 の長さで測り、同じ辺の平面の三角形の角 $\alpha'$ と比べると、$\alpha'-\alpha-\dfrac d3$ は $e=0.2$、$0.1$、$0.05$ で約 $1.0\times10^{-6}$、$8.8\times10^{-8}$、$6.4\times10^{-9}$ だった。$e$ を半分にするごとに約 $\dfrac1{12}$、約 $\dfrac1{14}$ になり、$e$ を小さくするにつれて $\dfrac1{16}$ に近づいていく(数値計算)。双曲平面では、平面の角は双曲の角に欠損の $\dfrac13$ を足したものに近い。この記事ではこれを証明しない。

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関連項目

参考文献

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