無理数とは、整数の比 $\frac pq$($q\ne0$)で書けない実数である。$\sqrt2$ の無理数性は、素因数分解の指数の偶奇、分母が最小の表示からの無限降下、有理根定理(整数係数の多項式の有理数の根を既約分数 $\frac pq$ で書くと $p\mid a_0$、$q\mid a_n$)のいずれでも示せ、同じ方法で、正の整数 $N$ の $m$ 乗根は整数か無理数であることが分かる。有理数の集合 $\{x\in\mathbb{Q}:x>0,\ x^2<2\}$ は $\mathbb{Q}$ の中に上限をもたず、この穴を埋めるのが実数の上限公理である。有理数も無理数もどの区間にも存在し、$[0,1)$ の実数が有理数であることは小数展開が循環することと同値である。整数係数の多項式の根である代数的数は可算だが実数は可算でないので、超越数が存在する。
前提知識: 有理数, 素因数分解の一意性, 数列の極限, 等比級数
高校では、$\sqrt2$ が無理数であることを次のように証明する。$\sqrt2=\frac pq$($p,q$ は互いに素な正の整数)と書けたとすると、$p^2=2q^2$ なので $p^2$ は偶数、したがって $p$ も偶数である(奇数の 2 乗は奇数)。$p=2p'$ とおくと $4p'^2=2q^2$、すなわち $q^2=2p'^2$ となり、$q$ も偶数になる。これは $p,q$ が互いに素であることに反する(Ham25 §6.1 も同じ証明を与える)。
数値で見ると、$\sqrt2$ にいくらでも近い分数はある。
$$
\Bigl(\frac{99}{70}\Bigr)^2=\frac{9801}{4900}=2+\frac1{4900},\qquad \Bigl(\frac{577}{408}\Bigr)^2=\frac{332929}{166464}=2+\frac1{166464}.
$$
どちらも分子の 2 乗と分母の 2 乗の 2 倍の差は $1$ であり($99^2-2\cdot70^2=1$、$577^2-2\cdot408^2=1$)、この差をどうしても $0$ にできない、というのが ex-rni-start-proof の中身である。
この証明を読むと、いくつかの疑問が出てくる。
| 高校の計算 | 大学の概念 | ボックス |
|---|---|---|
| 「$p^2$ が偶数なら $p$ も偶数」 | 素因数分解の指数の比較 | prf-thm-rni-sqrt2 |
| 既約分数に約分しておく | 分母の最小性(無限降下) | prf-thm-rni-sqrt2-descent |
| 有理数解の候補を定数項と最高次の係数の約数で探す | 有理根定理 | thm-rni-rational-root |
| 数直線上に $\sqrt2$ の点をとる | 上限公理(実数の完備性) | axm-rni-sup、thm-rni-sqrt2-exists |
| 循環小数を分数に直す | 等比級数と筆算の余り | thm-rni-periodic |
整数 $p$ と $0$ でない整数 $q$ によって $\frac pq$ と書ける実数を有理数といい、その全体を $\mathbb{Q}$ と書く。有理数でない実数を無理数という。有理数 $r$ を $r=\frac pq$($q\ge1$)と書くとき、$p$ と $q$ の最大公約数が $1$ であるものを $r$ の既約分数表示という。
$0.75=\frac34=\frac68$ であり、既約分数表示は $\frac34$ である。$-\frac64$ の既約分数表示は $\frac{-3}2$ である(分母を正にとる)。
どの有理数にも既約分数表示がある(分母が最小の表示をとればよい)。以下、正の整数 $n$ と正の実数 $x$ について $\sqrt[n]x$ は $n$ 乗して $x$ になる正の実数を表す。その存在は後の節「有理数の穴と実数の完備性」で、実数の完備性から示す。それまでは「もし $\sqrt2$ が有理数なら」という仮定から矛盾を導く形の議論だけを行う。
2 乗して $2$ になる有理数は存在しない。
以下の 3 つの証明は、それぞれ違う一般化につながる。
正の有理数 $\frac pq$ が $\bigl(\frac pq\bigr)^2=2$ を満たすとすると、$p^2=2q^2$ である(負の有理数なら符号を変える。$0^2\ne2$)。両辺を素因数分解したときの $2$ の指数を比べる。$p$ の素因数分解に $2$ が $a$ 回現れるなら $p^2$ には $2a$ 回現れ、$q$ に $b$ 回現れるなら $2q^2$ には $2b+1$ 回現れる。素因数分解の一意性により両辺の指数は等しいので $2a=2b+1$ となるが、左辺は偶数、右辺は奇数であり矛盾する。$\square$
この証明は、既約分数を仮定しない。偶奇の議論を「素因数の指数」の議論に置き換えたものであり、$2$ を他の素数 $p$ に替えれば、そのまま $\sqrt p$ が無理数であることの証明になる。
$\sqrt2$ が正の有理数 $\frac pq$ に等しいと仮定し、$\sqrt2=\frac pq$ と書ける正の整数 $q$ のうち最小のものをとる(正の整数の空でない集合は最小元をもつ)。$1<\sqrt2<2$ なので $q< p<2q$ である。ここで
$$
\frac{2q-p}{p-q}
$$
を考える。$\sqrt2=\frac pq$ から $p^2=2q^2$ であり、
$$
(2q-p)q-(p-q)p=2q^2-p^2=0
$$
なので $\frac{2q-p}{p-q}=\frac pq=\sqrt2$ である。しかも分母 $p-q$ は $0< p-q< q$ を満たす正の整数である。これは $q$ の最小性に反する。$\square$
この証明は素因数分解も偶奇も使わず、「$1<\sqrt2<2$」と「正の整数には最小のものがある」だけを使う。
$\frac{99}{70}$ に同じ変換を施すと $\frac{140-99}{99-70}=\frac{41}{29}$ となり、分母が小さい近似分数が得られる($41^2-2\cdot29^2=-1$)。
$\sqrt2$ が有理数なら、この変換で分母が減り続ける正の整数の列ができてしまう、というのが「無限降下」の名の由来である。
無限降下法が自然数の整列性によって正当化されることは 数学的帰納法と整列性 で扱う。
3 つ目の証明は、次の定理の特別な場合として得られる。
整数係数の多項式 $f(x)=a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_1x+a_0$($n\ge1$、$a_n\ne0$)が有理数の根 $r$ をもつとし、$r=\frac pq$ を既約分数表示とする。このとき $p$ は $a_0$ を割り切り、$q$ は $a_n$ を割り切る。特に $a_n=\pm1$ ならば、$f$ の有理数の根はすべて整数である。
$f\bigl(\frac pq\bigr)=0$ の両辺に $q^n$ を掛けると
$$
a_np^n+a_{n-1}p^{n-1}q+\cdots+a_1pq^{n-1}+a_0q^n=0
$$
である。$a_0q^n$ 以外の項はすべて $p$ の倍数なので、$p$ は $a_0q^n$ を割り切る。同様に $a_np^n$ 以外の項はすべて $q$ の倍数なので、$q$ は $a_np^n$ を割り切る。
ここで次の事実を使う:整数 $d$ と $m$ が互いに素で、$d$ が $em^n$ を割り切るならば、$d$ は $e$ を割り切る。 実際、$d$ の素因数分解に現れる素数 $\ell$ は $m$ を割り切らないので、素因数分解の一意性により $m^n$ の素因数分解に現れない。よって $em^n$ の素因数分解での $\ell$ の指数は $e$ での指数に等しく、それは $d$ での $\ell$ の指数以上である。これが $d$ のすべての素因数 $\ell$ で成り立つので $d\mid e$ である($d=\pm1$ なら自明、$e=0$ でも自明)。
$p=0$ なら $a_0=f(0)=0$ なので $p\mid a_0$ は成り立つ。$p\ne0$ のとき、$p$ と $q$ は互いに素なので、$p\mid a_0q^n$ から $p\mid a_0$、$q\mid a_np^n$ から $q\mid a_n$ を得る。$a_n=\pm1$ なら $q=1$ であり、$r=p$ は整数である。$\square$
$\sqrt2$ が有理数なら、それは $x^2-2=0$ の有理数の根である。最高次の係数が $1$ なので、thm-rni-rational-root によりその根は整数で、$2$ の約数 $\pm1,\pm2$ のいずれかである。ところが $1^2=1$、$2^2=4$ でどれも $2$ ではない。$\square$
有理根定理の利点は、根を知らなくても使えることである。
$m\ge1$ を整数、$N\ge1$ を整数とする。$\sqrt[m]N$ が有理数ならば、それは整数である。したがって、$N$ がある整数の $m$ 乗でなければ $\sqrt[m]N$ は無理数である。特に、正の整数 $n$ が平方数でなければ $\sqrt n$ は無理数である。
$\sqrt[m]N$ は $x^m-N=0$ の根であり、最高次の係数は $1$ である。thm-rni-rational-root により、有理数の根は整数である。$\square$
$3^2<12<4^2$ なので $12$ は平方数でなく、$\sqrt{12}$ は無理数である。$2^3<25<3^3$ なので $\sqrt[3]{25}$ も無理数である。一方 $\sqrt[3]{64}=4$ は整数である。
$\sqrt n$ の場合には、$\sqrt2$ のときと同じ無限降下の証明もできる。$\sqrt n$ が整数でないとし、$k$ を $k<\sqrt n< k+1$ となる整数とする。$\sqrt n=\frac pq$ と書ける最小の正の整数 $q$ をとると、$kq< p<(k+1)q$ であり、
$$
\frac{nq-kp}{p-kq}=\sqrt n\qquad\bigl((nq-kp)q-(p-kq)p=nq^2-p^2=0\ \text{による}\bigr)
$$
の分母 $p-kq$ は $0< p-kq< q$ を満たす。これは $q$ の最小性に反する。
$n=7$、$k=2$ で近似分数 $\frac{127}{48}$($127^2-7\cdot48^2=1$)にこの変換を施すと $\frac{7\cdot48-2\cdot127}{127-2\cdot48}=\frac{82}{31}$ になる。
$\log_23$ は無理数である。正の整数 $p,q$ で $\log_23=\frac pq$ と書けたとすると $2^{p/q}=3$、すなわち $2^p=3^q$ となる。左辺は偶数、右辺は奇数なので矛盾する($\log_23>0$ なので $p,q$ は正にとれる)。数値は $\log_23=1.58496\ldots$ である。
無理数全体は、足し算・掛け算で閉じていない。$\sqrt2+(-\sqrt2)=0$、$\sqrt2\cdot\sqrt2=2$ である。「$\alpha,\beta$ が無理数 $\Rightarrow$ $\alpha+\beta$ は無理数」は成り立たない。一方、有理数 $r$ と無理数 $\alpha$ については $r+\alpha$ は無理数であり(有理数なら $\alpha=(r+\alpha)-r$ が有理数になる)、$r\ne0$ なら $r\alpha$ も無理数である。
もう一つの有名な例として、無理数 $a,b$ で $a^b$ が有理数になるものがある。$\sqrt2^{\sqrt2}$ が有理数なら $a=b=\sqrt2$ でよい。無理数なら $a=\sqrt2^{\sqrt2}$、$b=\sqrt2$ とすると $a^b=\sqrt2^{2}=2$ である。どちらの場合かを決めずに存在を示すこの論法は、存在証明と構成が別物であることの例としてよく引かれる(実際には $\sqrt2^{\sqrt2}$ は無理数であることが知られているが、この記事では証明しない)。
有理数どうしの四則演算($0$ で割ることを除く)の結果は有理数であり、大小も比べられる。このように、四則演算と、演算と両立する大小関係($a< b$ なら $a+c< b+c$、$a< b$ かつ $c>0$ なら $ac< bc$)をもつ数の体系を順序体という。$\mathbb{Q}$ も $\mathbb{R}$ も順序体である。両者の違いは次の公理にある。
集合 $E$ の上界とは、すべての $x\in E$ について $x\le u$ となる $u$ のことであり、上界をもつ集合を上に有界という。上界のうち最小のものを $E$ の上限といい $\sup E$ と書く。
そのうえで次を要請する:$\mathbb{R}$ の空でない上に有界な部分集合は、$\mathbb{R}$ の中に上限をもつ。
$E=[0,1)$ では $1$ が上界である。$u<1$ は上界でない:$u<0$ なら $0\in E$ が $u$ より大きく、$0\le u<1$ なら $\frac{u+1}2\in E$ が $u$ より大きい。よって $\sup E=1$ であり、上限は $E$ に属さなくてもよい。
実数とは、上限公理を満たす順序体のことである。そのような順序体が存在し、本質的にただ 1 つであることは、この記事では証明しない(Leb26a Theorem 1.2.1)。上限公理は「単調増加で上に有界な数列は収束する」と同値であり、この同値性と、極限の $\varepsilon$-$N$ 論法による扱いは 極限とε-δ で詳しく述べる。以下では上限公理を直接使う。
$\mathbb{Q}$ では上限公理が成り立たない。穴のあいている場所をはっきり示すのが次の定理である。証明の鍵は、次の計算である。
$K$ を $\mathbb{Q}$ または $\mathbb{R}$ とし、$s\in K$、$s>0$ とする。
$h$ は $s$ から四則演算と $\min$ で作られるので $K$ に属する。
$A_{\mathbb{Q}}:=\{x\in\mathbb{Q}:x>0,\ x^2<2\}$ は空でなく、$\mathbb{Q}$ の中で上に有界であるが、$\mathbb{Q}$ の中に上限をもたない。すなわち、$A_{\mathbb{Q}}$ の有理数の上界のうちに最小のものはない。
$1\in A_{\mathbb{Q}}$ である。$x\ge2$ なら $x^2\ge4$ なので、$2$ は上界である。有理数 $r$ が $A_{\mathbb{Q}}$ の最小の上界であると仮定する。$r\ge1>0$ であり、thm-rni-sqrt2 により $r^2\ne2$ である。
同じ議論を $\mathbb{R}$ で行うと、今度は矛盾ではなく $\sqrt2$ の存在が得られる。
$A:=\{x\in\mathbb{R}:x>0,\ x^2<2\}$ の上限 $s:=\sup A$ は $s^2=2$ を満たす。2 乗して $2$ になる正の実数は $s$ ただ 1 つである。
$A$ は $1$ を含み、$2$ を上界にもつので、上限公理により $s=\sup A$ が存在し $s\ge1$ である。$s^2<2$ なら lem-rni-step の 1 により $s+h\in A$ となり、$s$ が上界であることに反する。$s^2>2$ なら、lem-rni-step の 2 の $h$ について $s-h$ は $s$ より小さい上界になり(prf-thm-rni-hole と同じ議論)、$s$ の最小性に反する。よって $s^2=2$ である。正の実数 $x< y$ について $x^2< y^2$ なので、2 乗して $2$ になる正の実数はただ 1 つである。$\square$
こうして、$\mathbb{Q}$ では「上限があるはずの場所」に何もなかったのが、$\mathbb{R}$ ではそこに $\sqrt2$ が入る。上限公理は、有理数の穴をすべて埋めるための公理である。同様にして、正の実数 $x$ と正の整数 $n$ について $n$ 乗して $x$ になる正の実数がただ 1 つ存在することも示せる(この記事では証明しない。Leb26a Exercise 1.2.11)。
上限公理からまず出てくるのが、次の性質である。
任意の実数 $x$ に対して、$n>x$ となる正の整数 $n$ がある。
すべての正の整数 $n$ が $n\le x$ を満たすとすると、正の整数全体は上に有界なので上限 $s$ をもつ。$s-1$ は上界でないので $n>s-1$ となる正の整数 $n$ があるが、すると $n+1>s$ となり $s$ が上界であることに反する。$\square$
Archimedes の性質により、任意の実数 $y$ について $m\le y< m+1$ となる整数 $m$ がただ 1 つある($y$ より大きい整数のうち最小のものから $1$ を引く)。これを $\lfloor y\rfloor$ と書く(ガウス記号 $[y]$ と同じもの)。
実数 $a< b$ に対して、$a< r< b$ となる有理数 $r$ がある。
lem-rni-archimedes により $n>\frac1{b-a}$ となる正の整数 $n$ をとる。すると $nb-na>1$ である。$m:=\lfloor na\rfloor+1$ とおくと $na< m\le na+1< nb$ なので、$a<\frac mn< b$ である(Leb26a Theorem 1.2.4 と同じ考え方)。$\square$
$a=1.41$、$b=1.42$ では $\frac1{b-a}=100$ なので $n=101$ とする。$m=\lfloor101\cdot1.41\rfloor+1=\lfloor142.41\rfloor+1=143$ で、$\frac{143}{101}=1.4158\ldots$ は確かに $1.41$ と $1.42$ の間にある。
実数 $a< b$ に対して、$a<\alpha< b$ となる無理数 $\alpha$ がある。
thm-rni-dense-q を $a-\sqrt2< b-\sqrt2$ に適用して、$a-\sqrt2< r< b-\sqrt2$ となる有理数 $r$ をとる。$\alpha:=r+\sqrt2$ は $a<\alpha< b$ を満たし、有理数と無理数の和なので無理数である(rem-rni-sums)。$\square$
区間 $(a,b)$ に有理数が 1 つあれば、$(a,r)$ にもまた 1 つあるので、どの区間にも有理数も無理数も無限個ある。また、任意の実数 $x$ について $x-\frac1n< r_n< x$ となる有理数 $r_n$ をとれば $r_n\to x$ なので、どの実数も有理数の数列の極限である。特に、$A_{\mathbb{Q}}$ を $\mathbb{R}$ の部分集合と見たときの上限は $\sqrt2$ である($\sqrt2$ は上界であり、$\sqrt2$ より小さい正の数 $y$ に対しては $y< r<\sqrt2$ となる有理数 $r\in A_{\mathbb{Q}}$ があるので、$y$ は上界でない)。
有理数と無理数は、どちらも数直線上に「びっしり」並んでいて、区間の長さだけからは区別できない。ところが、後で見るように、個数の意味では両者はまったく違う。
$0\le x<1$ について、$d_k:=\lfloor10^kx\rfloor-10\lfloor10^{k-1}x\rfloor$($k\ge1$)は $0$ から $9$ までの整数であり、$x_n:=\sum_{k=1}^nd_k10^{-k}$ は $x_n\le x< x_n+10^{-n}$ を満たす。数字の列 $(d_k)$ を $x$ の小数展開といい、$x=0.d_1d_2\cdots$ と書く。逆に、ある番号から先がすべて $9$ ではない数字の列は、$[0,1)$ のただ 1 つの数の小数展開である。
$10^{k-1}x=m+t$($m$ は整数、$0\le t<1$)と書くと $\lfloor10^kx\rfloor=10m+\lfloor10t\rfloor$ なので $d_k=\lfloor10t\rfloor$ である。帰納法により $x_n=\lfloor10^nx\rfloor/10^n$ なので不等式が成り立ち、$x_n\to x$ である。よって小数展開の同じ 2 数は等しい。逆に、数字の列 $(d_k)$ から作った $x_n$ は単調増加で $1$ 以下なので収束する(上限公理)。極限を $v$ とすると、$k>n$ の $d_k$ のどれかは $9$ 未満なので $0\le v-x_n<\sum_{k>n}9\cdot10^{-k}=10^{-n}$($x_0:=0$)であり、$\lfloor10^nv\rfloor=10^nx_n$ となる。よって $0\le v<1$ で、$v$ の小数展開は $(d_k)$ である。$\square$
小数展開 $0.d_1d_2\cdots$ が循環するとは、整数 $s\ge0$ と $t\ge1$ があって、$k>s$ のすべての $k$ で $d_{k+t}=d_k$ となることをいう(有限小数は、$0$ が循環する場合に含める)。
$0.25000\cdots$ は $s=2$、$t=1$ で循環し(有限小数)、$0.8333\cdots$ は $s=1$、$t=1$、$0.142857142857\cdots$ は $s=0$、$t=6$ で循環する。
$0\le x<1$ とする。$x$ が有理数であることと、$x$ の小数展開が循環することは同値である。
まず、循環するなら有理数であることを示す。$A:=\lfloor10^sx\rfloor$、$B$ を数字 $d_{s+1}\cdots d_{s+t}$ を並べた整数とする。周期性により、$j\ge1$ について
$$
x_{s+jt}=\frac A{10^s}+\frac B{10^s}\sum_{i=1}^j10^{-ti}
$$
であり、$j\to\infty$ として(等比級数)$x=\frac A{10^s}+\frac{B}{10^s(10^t-1)}$ は有理数である。
次に、有理数なら循環することを示す。$x=\frac pq$($0\le p< q$)とし、$10^kp$ を $q$ で割った余りを $r_k$ とおく。$10^kp=q\lfloor10^kx\rfloor+r_k$、$0\le r_k< q$ であり、$10^{k+1}x=10\lfloor10^kx\rfloor+\frac{10r_k}q$ から
$$
d_{k+1}=\Bigl\lfloor\frac{10r_k}q\Bigr\rfloor,\qquad r_{k+1}=10r_k-qd_{k+1}
$$
となる。つまり $d_{k+1}$ と $r_{k+1}$ は $r_k$ だけで決まる(筆算の割り算そのものである)。$r_0,r_1,\dots,r_q$ の $q+1$ 個は $0,\dots,q-1$ のどれかなので、$r_i=r_j$ となる $0\le i< j\le q$ がある(鳩の巣原理)。すると $k\ge i$ で $r_{k+t}=r_k$($t:=j-i$)となり、$k>i$ で $d_{k+t}=d_k$ である。$\square$
証明から、$\frac pq$ の循環の周期は $q$ 以下であることも分かる。Leb26a では、有理数なら循環することが Proposition 1.5.3、その逆が Exercise 1.5.2 にある。
$x=0.101001000100001\cdots$($1$ の後に $0$ を $1$ 個、$2$ 個、$3$ 個、…と並べる)は無理数である。周期 $t$ で番号 $s$ から先が循環すると仮定する。$s$ より後に $0$ が $t$ 個以上続く箇所があり、周期性によりそれより後の数字はすべてその $t$ 個のどれかに等しいので $0$ になる。ところが $1$ はその後にも現れるので矛盾する。
$\sqrt2$ の小数を 1 桁ずつ求める筆算は 開平法:平方根の筆算 で扱う。
$0$ でない整数係数の多項式の根になる実数を代数的数といい、代数的数でない実数を超越数という。
有理数 $\frac pq$ は $qx-p$ の根なので代数的数であり、$\sqrt2$、$\sqrt[3]2$、$\sqrt2+\sqrt3$、$\cos20^\circ$ も ex-rni-rrt-examples の多項式の根なので代数的数である。
「無理数」は「有理数(1 次式の根)でない」という性質だったが、「超越数」は「どの次数の整数係数の多項式の根でもない」という、はるかに強い性質である。超越数が 1 つでも存在するかどうかは自明でない。ここでは、個数を比べることで存在を示す。
集合が可算であるとは、その要素を $a_1,a_2,a_3,\dots$ と(有限個で終わってもよい)1 列に並べて、すべての要素を漏れなく数え上げられることをいう。
代数的数全体は可算である。
$n$ 次($n\ge1$)の整数係数の多項式 $f=a_nx^n+\cdots+a_0$ の高さを $H(f):=n+|a_n|+\cdots+|a_0|$ と定める。正の整数 $N$ について、$H(f)\le N$ の $f$ は、次数が $N$ 未満で係数の絶対値がすべて $N$ 以下なので有限個しかない。また $n$ 次多項式の根は $n$ 個以下である($f(\alpha)=0$ なら因数定理により $f=(x-\alpha)g$、$g$ は $n-1$ 次であり、$\alpha$ 以外の根は $g$ の根なので、次数についての帰納法による)。よって、$H(f)\le N$ の $f$ の実数の根の集合 $E_N$ は有限集合である。
$E_1\subset E_2\subset\cdots$ であり、各代数的数はある $E_N$ に入る($0$ でない定数は根をもたないので、代数的数を根にもつ $0$ でない多項式は 1 次以上である)。$E_1$ の要素を並べ、次に $E_2$ の新しい要素を並べ、…と続ければ、代数的数全体が 1 列に並ぶ。$\square$
特に有理数全体は可算である(Ham25 Theorem 14.4 は分数を並べる直接の数え方を与える)。
区間 $[0,1)$ の実数全体は可算でない。
$[0,1)$ の実数の列 $a_1,a_2,\dots$ が与えられたとき、どの $a_j$ とも異なる $[0,1)$ の実数を作る。$a_j$ の小数展開の第 $j$ 位の数字を $c_j$ とし、$e_j:=5$($c_j\ne5$ のとき)、$e_j:=4$($c_j=5$ のとき)と定め、$y:=0.e_1e_2e_3\cdots$ とする。数字は $4$ か $5$ なので $9$ が続かず、prop-rni-decimal によりこの列は $y$ の小数展開である。$y$ と $a_j$ の小数展開は第 $j$ 位が異なるので $y\ne a_j$ である。よって、どんな列も $[0,1)$ を数え尽くせない(有限の列でも同じ)。$\square$
超越数は存在する。しかも超越数全体は可算でない。同様に、無理数全体も可算でない。
超越数全体が可算なら、$[0,1)$ の代数的数と超越数を交互に並べることで $[0,1)$ が可算になり、thm-rni-uncountable に反する。無理数についても、有理数が代数的数なので可算であることから、同じ議論が通る。$\square$
この議論は、超越数が「ある」ことを示すが、具体的な超越数を 1 つも与えない。Cantor は 1874 年の論文で、代数的数が可算であることと実数が可算でないことを示し、超越数の存在を導いた(Can74)。これより前に、超越数であることが証明された具体的な数を与えたのが Liouville である(Lio51)。
$\alpha$ を無理数の代数的数とし、$\alpha$ を根にもつ $0$ でない整数係数の多項式の次数の最小値を $n$ とする。このとき定数 $c>0$ があって、すべての有理数 $\frac pq$($q\ge1$)について $\bigl|\alpha-\frac pq\bigr|\ge\frac c{q^n}$ となる。
次数 $n$ で $f(\alpha)=0$ となる整数係数の $f$ をとる。$f$ は有理数の根をもたない。もし $f(r)=0$($r$ は有理数)なら、$f=(x-r)g$ で $g$ は有理数係数の $n-1$ 次式であり、分母を払った整数係数の多項式が $\alpha\ (\ne r)$ を根にもち、$n$ の最小性に反するからである。よって $q^nf\bigl(\frac pq\bigr)$ は $0$ でない整数であり、$\bigl|f\bigl(\frac pq\bigr)\bigr|\ge\frac1{q^n}$ である。$M$ を $1$ と、区間 $[\alpha-1,\alpha+1]$ での $|f'|$ の最大値のうち大きい方とする。$\bigl|\alpha-\frac pq\bigr|\le1$ なら、平均値の定理により
$$
\frac1{q^n}\le\Bigl|f(\alpha)-f\Bigl(\frac pq\Bigr)\Bigr|\le M\Bigl|\alpha-\frac pq\Bigr|
$$
である。$\bigl|\alpha-\frac pq\bigr|>1$ なら $\bigl|\alpha-\frac pq\bigr|>\frac1{Mq^n}$ である。どちらでも $c:=\frac1M$ でよい。$\square$
$L:=\sum_{k\ge1}10^{-k!}=0.110001000000000000000001\cdots$ は超越数である。まず小数展開が循環しないので($1$ の間の $0$ の個数が限りなく増える。ex-rni-nonperiodic と同じ議論)無理数である。$L$ が代数的数なら thm-rni-liouville の $n$ と $c$ がある。$\frac{p_m}{q_m}:=\sum_{k\le m}10^{-k!}$、$q_m:=10^{m!}$ とおくと、$k\ge m+1$ で $k!\ge(m+1)!+(k-m-1)$ なので
$$
0< L-\frac{p_m}{q_m}=\sum_{k>m}10^{-k!}\le10^{-(m+1)!}\sum_{j\ge0}10^{-j}<\frac2{q_m^{m+1}}
$$
である。すると $\frac c{q_m^n}<\frac2{q_m^{m+1}}$、すなわち $c<2\cdot10^{-m!(m+1-n)}$ がすべての $m$ で成り立つが、$m\to\infty$ で右辺は $0$ に近づくので矛盾する。
有理数による近似が「よすぎる」ことが、代数的数でない証拠になる(対照的な例が ex-rni-sqrt2-liouville)。
$\sqrt2$ の近似 $\frac{577}{408}$ の誤差 $0.0000021\cdots$ は $\frac1{408^2}$ の約 $0.35$ 倍であり、thm-rni-liouville($n=2$)により、$\sqrt2$ の近似の誤差は $\frac1{q^2}$ の定数倍より小さくならない。
$e$ と $\pi$ も超越数である($e$ は Hermite Her73、$\pi$ は Lindemann Lin82)。$\pi$ の超越性から、定規とコンパスで円と同じ面積の正方形を作図できないこと(円積問題)が従う(作図できる数は代数的数であることによる。いずれも証明しない)。
$e$ が無理数であることの証明は eの級数表示と無理数性 で扱う。
反例は各節に置いた。外した仮定と崩れる主張の対応は次のとおりである。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 一方が有理数 | 有理数と無理数の和は無理数 | rem-rni-sums |
| 最高次の係数が $\pm1$ | 有理数の根は整数 | ex-rni-rrt-leading |
| 上限公理($\mathbb{Q}$ で考える) | 上に有界な集合は上限をもつ | thm-rni-hole |
| ある番号から先がすべて $9$ ではない | 数字の列がその値の小数展開になる(prop-rni-decimal) | ex-rni-periodic-examples の 3 |
| 小数展開が循環する | 有理数である | ex-rni-nonperiodic |
$2x-1=0$ の根 $\frac12$ は有理数だが整数でない。thm-rni-rational-root の後半は $a_n=\pm1$ を外すと成り立たない。前半のとおり、分子 $1$ は $a_0=-1$ を、分母 $2$ は $a_n=2$ を割り切っている。
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