絶対値を含む関数のグラフ(graphs of functions with absolute values)とは、$\lvert f(x)\rvert$ や $f(\lvert x\rvert)$ など、絶対値を含む関数のグラフである。$y=\lvert f(x)\rvert$ のグラフは $y=f(x)$ の $x$ 軸より下の部分を $x$ 軸で折り返したもの、$y=f(\lvert x\rvert)$ のグラフは $x\ge0$ の部分とそれを $y$ 軸で折り返したものを合わせたもの。実数全体を点 $p_1<\cdots<p_k$ で区切った各区間で 1 次式になる連続な関数は、$\alpha+\beta x+\sum c_i\lvert x-p_i\rvert$ と 1 通りに書け、$c_i$ は $p_i$ での傾きの増え方の半分、$\beta$ は両端の傾きの平均である。
前提知識: 絶対値と三角不等式, グラフの平行移動と対称移動, 2次関数の最大・最小
絶対値を含む式は、絶対値の中身の符号で場合分けすると、絶対値の記号を外せる。実数 $a$ の絶対値は
$$
\lvert a\rvert=\begin{cases}a&(a\ge0)\\-a&(a<0)\end{cases}
$$
であった(絶対値と三角不等式)。この定義をそのまま使って、2 つのグラフをかいてみる。
$y=\lvert x-1\rvert+\lvert x-3\rvert$ のグラフをかく。絶対値の中身 $x-1$、$x-3$ の符号が変わるのは $x=1$、$x=3$ なので、数直線を 3 つに分ける。
(1) $x<1$ のとき。$x-1<0$、$x-3<0$ なので
$$
y=-(x-1)-(x-3)=-2x+4
$$
である。
(2) $1\le x\le3$ のとき。$x-1\ge0$、$x-3\le0$ なので
$$
y=(x-1)-(x-3)=2
$$
である。$x$ によらず一定である。
(3) $x>3$ のとき。$x-1>0$、$x-3>0$ なので
$$
y=(x-1)+(x-3)=2x-4
$$
である。
3 つの直線の部分をつなぐと、図 1 の折れ線になる。$x=1$ では (1) の式で $-2+4=2$、(2) の式で $2$ と値がそろい、$x=3$ でも (2) の式で $2$、(3) の式で $6-4=2$ とそろうので、グラフは切れずにつながっている。傾きは左から $-2$、$0$、$2$ と、$x=1$ と $x=3$ で $2$ ずつ増える。
y=|x−1|+|x−3| のグラフは、x=1 と x=3 で折れ、1≦x≦3 では高さ 2 で平らになる折れ線である
$y=\lvert x^2-4\rvert$ のグラフをかく。$x^2-4=(x+2)(x-2)$ は、$x\le-2$ と $x\ge2$ で $0$ 以上、$-2< x<2$ で負である。したがって
$$
y=\begin{cases}x^2-4&(x\le-2,\ x\ge2)\\-(x^2-4)=4-x^2&(-2< x<2)\end{cases}
$$
である。$-2< x<2$ の部分は、放物線 $y=x^2-4$ の $x$ 軸より下の部分を、$x$ 軸に関して上に折り返した形 $y=4-x^2$ になる。たとえば $x=0$ では $y=\lvert-4\rvert=4$、$x=1$ では $y=\lvert-3\rvert=3$、$x=3$ では $y=\lvert5\rvert=5$ である。
2 つの例から、次の問いが出てくる。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 使う道具 |
|---|---|---|
| 中身の符号で場合分けする | 絶対値の定義 | ex-abg-start-sum、ex-abg-start-square |
| $x$ 軸より下を折り返す | $y=\lvert f(x)\rvert$ のグラフ | thm-abg-fold (1) |
| $y$ 軸の右側を左に写す | $y=f(\lvert x\rvert)$ のグラフ | thm-abg-fold (2) |
| 折れる点で傾きが変わる | 折れ線の関数と傾きの増え方 | lem-abg-slope |
| 折れ線を式 1 本で書く | $\lvert x-p_i\rvert$ の和による表し方 | thm-abg-sum |
関数 $f$ の定義域($x$ の動く範囲)を $D$ とする。$y=f(x)$ の グラフ は、点 $(x,f(x))$($x\in D$)の全体である。点を $x$ 軸、$y$ 軸に関して対称に移す移動は
$$
(x,y)\longmapsto(x,-y),\qquad (x,y)\longmapsto(-x,y)
$$
である(グラフの平行移動と対称移動)。
関数 $f$ の定義域を $D$ とする。
(1) $y=\lvert f(x)\rvert$ の定義域は $D$ である。そのグラフは、$y=f(x)$ のグラフのうち $x$ 軸より上または $x$ 軸の上にある部分($f(x)\ge0$ の部分)はそのまま残し、$x$ 軸より下にある部分($f(x)<0$ の部分)を $x$ 軸に関して対称に移したものである。
(2) $y=f(\lvert x\rvert)$ の定義域は、$\lvert x\rvert\in D$ となる $x$ の全体 $D'$ である。そのグラフは、$y=f(x)$ のグラフのうち $x\ge0$ の部分と、その部分を $y$ 軸に関して対称に移したものを合わせたものである。$y=f(x)$ のグラフの $x<0$ の部分は使わない。
方針:グラフの点を 1 つずつ見て、絶対値の定義の 2 つの場合に分ける。
段 1((1) の定義域)。$\lvert f(x)\rvert$ は、$f(x)$ が定まる $x$、つまり $x\in D$ でちょうど定まる。
段 2((1) の $f(x)\ge0$ の点)。$x\in D$ で $f(x)\ge0$ なら、絶対値の定義より $\lvert f(x)\rvert=f(x)$ である。よって $y=\lvert f(x)\rvert$ のグラフの点 $(x,\lvert f(x)\rvert)$ は、$y=f(x)$ のグラフの点 $(x,f(x))$ と同じ点である。
段 3((1) の $f(x)<0$ の点)。$x\in D$ で $f(x)<0$ なら $\lvert f(x)\rvert=-f(x)$ である。よって $y=\lvert f(x)\rvert$ のグラフの点は $(x,-f(x))$ で、これは $y=f(x)$ のグラフの点 $(x,f(x))$ を $x$ 軸に関して対称に移した点である。段 2・段 3 で $D$ のすべての $x$ を尽くしたので、(1) が成り立つ。
段 4((2) の $x\ge0$ の点)。$x\ge0$ なら $\lvert x\rvert=x$ なので、$x\in D'$ は $x\in D$ と同じで、$f(\lvert x\rvert)=f(x)$ である。よって $x\ge0$ の範囲では、$y=f(\lvert x\rvert)$ のグラフは $y=f(x)$ のグラフの $x\ge0$ の部分と一致する。
段 5((2) の $x<0$ の点)。$x<0$ なら $\lvert x\rvert=-x>0$ である。$x\in D'$ は $-x\in D$ と同じで、このとき $f(\lvert x\rvert)=f(-x)$ である。したがって $y=f(\lvert x\rvert)$ のグラフの点 $(x,f(-x))$ は、$y=f(x)$ のグラフの点 $(-x,f(-x))$(横の座標 $-x$ が正なので、$y$ 軸の右側の点)を $y$ 軸に関して対称に移した点である。逆に、$y=f(x)$ のグラフの $t>0$ の点 $(t,f(t))$ を $y$ 軸に関して移した点 $(-t,f(t))$ は、$x=-t$ として $(x,f(\lvert x\rvert))$ の形なので、$y=f(\lvert x\rvert)$ のグラフの点である。段 4・段 5 で (2) が成り立つ。$\square$
$f(x)=x^2-2x-3=(x+1)(x-3)$ とする。$y=f(x)$ は頂点 $(1,-4)$ の放物線で、$x$ 軸と $x=-1$、$x=3$ で交わる。
(1) $y=\lvert f(x)\rvert$。$f(x)<0$ となるのは $-1< x<3$ なので、この部分を $x$ 軸で折り返す。
$$
y=\begin{cases}x^2-2x-3&(x\le-1,\ x\ge3)\\-x^2+2x+3&(-1< x<3)\end{cases}
$$
である。折り返した部分の頂点は $(1,4)$ で、たとえば $x=0$ では $y=\lvert-3\rvert=3$ である(図 2)。
(2) $y=f(\lvert x\rvert)=\lvert x\rvert^2-2\lvert x\rvert-3=x^2-2\lvert x\rvert-3$。$x\ge0$ では $y=x^2-2x-3$ そのもので、頂点 $(1,-4)$、$x$ 軸との共有点 $(3,0)$ をもつ。$x<0$ では、それを $y$ 軸で折り返した $y=x^2+2x-3$ で、頂点 $(-1,-4)$、$x$ 軸との共有点 $(-3,0)$ をもつ。$x=0$ では $y=-3$ である(図 3)。もとの放物線の $x<0$ の部分($x$ 軸との共有点 $(-1,0)$ を含む)は使われない。
同じ $x=-2$ で比べると、$\lvert f(-2)\rvert=\lvert5\rvert=5$、$f(\lvert-2\rvert)=f(2)=-3$ で、値が違う。
y=|x²−2x−3| のグラフ。破線のもとの放物線の x 軸より下の部分(−1<x<3)が x 軸の上へ折り返される
y=x²−2|x|−3 のグラフ。破線のもとの放物線の x≧0 の部分と、それを y 軸で折り返した部分でできている
図 2 は「下を上へ」、図 3 は「右を左へ」写している。図 2 のグラフは $x$ 軸より下に出ることがなく、図 3 のグラフは $y$ 軸に関して左右対称である。
$y=\bigl\lvert\lvert x\rvert-1\bigr\rvert$ のグラフをかく。
段 1。$g(x)=\lvert x\rvert-1$ とする。これは $f(x)=x-1$ に対する $f(\lvert x\rvert)$ なので、thm-abg-fold (2) により、直線 $y=x-1$ の $x\ge0$ の部分(点 $(0,-1)$ から右上へのびる半直線)と、それを $y$ 軸で折り返した部分からなる V 字形である。頂点は $(0,-1)$ で、$x$ 軸とは $x=\pm1$ で交わる。
段 2。$y=\lvert g(x)\rvert$ は、thm-abg-fold (1) により、段 1 の V 字形の $x$ 軸より下の部分($-1< x<1$)を上へ折り返したものである。折り返した部分は頂点 $(0,1)$ の逆 V 字になり、全体は W 字形になる。
値を確かめると、$x=-2,-1,-\dfrac12,0,\dfrac12,1,2$ で $y=1,0,\dfrac12,1,\dfrac12,0,1$ である。
先に (1) を使っても同じ W 字形になる。
$y=\lvert x-1\rvert$ は頂点 $(1,0)$ の V 字形で、その $x\ge0$ の部分(点 $(0,1)$ から $(1,0)$ へ下がり、また上がる部分)を $y$ 軸で左へ写すと、段 2 と同じ図形になる。式でも、$h(x)=\lvert x-1\rvert$ とおくと $h(\lvert x\rvert)=\bigl\lvert\lvert x\rvert-1\bigr\rvert$ である。
ex-abg-double の 2 つの操作は、どちらを先にしても $\bigl\lvert f(\lvert x\rvert)\bigr\rvert$ になるので、いつも同じ結果になる。一方、絶対値を付ける操作と $1$ を引く操作では、順番を入れ替えると結果が変わる。$x-1$ に絶対値を付けた $\lvert x-1\rvert$(頂点 $(1,0)$)と、絶対値を付けてから $1$ を引いた $\lvert x\rvert-1$(頂点 $(0,-1)$)は別の関数である。関数を続けて施すことは 逆関数と合成関数 で「合成」として扱う。
絶対値の付く場所によって、グラフの作り方を次のようにまとめられる。
| 式の形 | グラフの作り方 | 対称性 |
|---|---|---|
| $y=\lvert f(x)\rvert$ | $x$ 軸より下の部分を $x$ 軸で上へ折り返す | 一般にない |
| $y=f(\lvert x\rvert)$ | $x\ge0$ の部分を残し、$y$ 軸で左へ写す | $y$ 軸に関して対称 |
| $y=\bigl\lvert f(\lvert x\rvert)\bigr\rvert$ | 上の 2 つを続けて行う(どちらが先でも同じ) | $y$ 軸に関して対称 |
| $\lvert y\rvert=f(x)$ | $f(x)\ge0$ の部分を残し、$x$ 軸で下へ写す | $x$ 軸に関して対称 |
最後の行の $\lvert y\rvert=f(x)$ は、$y$ について解くと $y=\pm f(x)$($f(x)\ge0$ のとき)で、1 つの $x$ に 2 つの $y$ が対応しうるので、関数のグラフではなく図形の方程式である。
$\lvert y\rvert=4-x^2$ の表す図形は、放物線 $y=4-x^2$ の $x$ 軸より上の部分と、それを $x$ 軸で下へ写した部分を合わせた、レンズのような閉じた曲線である。$\lvert y\rvert\ge0$ なので、$4-x^2\ge0$、つまり $-2\le x\le2$ でしか点がない。この範囲で $y=4-x^2$ または $y=-(4-x^2)$ である。図形は、放物線 $y=4-x^2$ の $x$ 軸より上の部分($-2\le x\le2$)と、それを $x$ 軸で下へ写した部分 $y=x^2-4$($-2\le x\le2$)を合わせた曲線になる。$x=0$ では $y=\pm4$ の 2 点がある。
ex-abg-start-sum のグラフは、いくつかの点で折れる折れ線だった。このような関数に名前を付ける。
実数全体で定義された関数 $f$ について、実数 $p_1< p_2<\cdots< p_k$($k\ge0$)があって、$k+1$ 個の区間
$$
I_0=(-\infty,p_1],\quad I_1=[p_1,p_2],\quad\ldots,\quad I_{k-1}=[p_{k-1},p_k],\quad I_k=[p_k,\infty)
$$
のそれぞれで $f(x)$ が $m_jx+n_j$($x\in I_j$、$m_j$、$n_j$ は定数)の形の式で表されるとき、$f$ を 折れ線の関数 という。$k=0$ のときは $I_0$ を実数全体とし、$f$ は 1 次関数か定数関数である。$m_j$ を区間 $I_j$ での 傾き といい、差 $m_j-m_{j-1}$ を点 $p_j$ での 傾きの増え方 という。傾きの増え方が $0$ でない $p_j$ を 折れる点 という。
隣り合う区間 $I_{j-1}$ と $I_j$ は端の点 $p_j$ を共有している。$f$ は関数なので $f(p_j)$ の値は 1 つで、2 つの式 $m_{j-1}x+n_{j-1}$ と $m_jx+n_j$ は $x=p_j$ で同じ値をとる。したがって折れ線の関数のグラフは、折れる点で切れずにつながっている。
実数 $p_1< p_2<\cdots< p_k$ と定数 $\alpha$、$\beta$、$c_1,\ldots,c_k$ に対して
$$
g(x)=\alpha+\beta x+\sum_{i=1}^kc_i\lvert x-p_i\rvert
$$
とおく。$g$ は def-abg-polyline の区間 $I_0,\ldots,I_k$ をもつ折れ線の関数で、区間 $I_j$ での傾きは
$$
m_j=\beta+\underbrace{(c_1+\cdots+c_j)}_{p_i\le p_j\text{ の項}}-\underbrace{(c_{j+1}+\cdots+c_k)}_{p_i\ge p_{j+1}\text{ の項}}
$$
である。したがって
$$
m_j-m_{j-1}=2c_j\quad(j=1,\ldots,k),\qquad m_0+m_k=2\beta
$$
が成り立つ。
要点:区間 $I_j$ の上では、$p_i\le p_j$ の項は $\lvert x-p_i\rvert=x-p_i$、$p_i\ge p_{j+1}$ の項は $\lvert x-p_i\rvert=p_i-x$ と絶対値が外れる。そこで $g$ は $I_j$ で 1 次式になり、$x$ の係数が上の $m_j$ になる。
$x\in I_j$ とする。$i\le j$ なら $p_i\le p_j\le x$ なので $x-p_i\ge0$ で、$\lvert x-p_i\rvert=x-p_i$ である。$i\ge j+1$ なら $x\le p_{j+1}\le p_i$ なので $x-p_i\le0$ で、$\lvert x-p_i\rvert=-(x-p_i)=p_i-x$ である($j=0$ なら前者の $i$ はなく、$j=k$ なら後者の $i$ はない)。よって $x\in I_j$ で
$$g(x)=\alpha+\beta x+\sum_{i\le j}c_i(x-p_i)+\sum_{i\ge j+1}c_i(p_i-x)$$
である。右辺を $x$ について整理すると、$x$ の係数は $\beta+\sum_{i\le j}c_i-\sum_{i\ge j+1}c_i$ で、残りは $x$ を含まない定数である。よって $g$ は $I_j$ で 1 次式(または定数)で表され、傾きは $m_j$ である。
$g(x)=\lvert x+1\rvert+2\lvert x-2\rvert$ では、$p_1=-1$、$p_2=2$、$c_1=1$、$c_2=2$、$\beta=0$ である。lem-abg-slope により傾きは
$$
m_0=0-(1+2)=-3,\qquad m_1=0+1-2=-1,\qquad m_2=0+(1+2)=3
$$
である。傾きの増え方は $x=-1$ で $2=2c_1$、$x=2$ で $4=2c_2$ である。
$x\le-1$ では $g(x)=-(x+1)-2(x-2)=-3x+3$、$-1\le x\le2$ では $g(x)=(x+1)-2(x-2)=-x+5$、$x\ge2$ では $g(x)=(x+1)+2(x-2)=3x-3$ で、傾きは $-3,-1,3$ である。
lem-abg-slope は「絶対値の和は折れ線になる」ことを示した。逆向きに、どんな折れ線の関数も絶対値の和で書けて、しかも書き方が 1 通りであることを示す。
$f$ を、点 $p_1<\cdots< p_k$ と区間 $I_0,\ldots,I_k$ での傾き $m_0,\ldots,m_k$ をもつ折れ線の関数とする。
$$
c_j=\frac{m_j-m_{j-1}}2\quad(j=1,\ldots,k),\qquad\beta=\frac{m_0+m_k}2,\qquad\alpha=f(0)-\sum_{i=1}^kc_i\lvert p_i\rvert
$$
とおくと、すべての実数 $x$ について
$$
f(x)=\alpha+\beta x+\sum_{i=1}^kc_i\lvert x-p_i\rvert
$$
が成り立つ。逆に、定数 $\alpha'$、$\beta'$、$c_1',\ldots,c_k'$ について、すべての $x$ で $f(x)=\alpha'+\beta'x+\sum c_i'\lvert x-p_i\rvert$ が成り立つなら、$\alpha'=\alpha$、$\beta'=\beta$、$c_j'=c_j$($j=1,\ldots,k$)である。つまり、この形の表し方はただ 1 通りである。
言葉で言うと、$c_j$ は $p_j$ での傾きの増え方の半分、$\beta$ は両端の傾き $m_0$、$m_k$ の平均である。
方針:右辺から $\alpha$ を除いた関数 $g$ を作り、lem-abg-slope で $g$ の傾きが $f$ の傾きと区間ごとに一致することを示す。そうすると差 $f-g$ は傾き $0$ の折れ線、つまり定数になる。1 通りであることも lem-abg-slope から出る。
段 1(傾きがそろう)。$g(x)=\beta x+\sum_{i=1}^kc_i\lvert x-p_i\rvert$ とおく。lem-abg-slope により、$g$ の $I_j$ での傾きは $\beta+(c_1+\cdots+c_j)-(c_{j+1}+\cdots+c_k)$ である。$c_i$ の定義から、和は途中が打ち消し合って
$$
c_1+\cdots+c_j=\frac{(m_1-m_0)+(m_2-m_1)+\cdots+(m_j-m_{j-1})}2=\frac{m_j-m_0}2
$$
となり、同じく $c_{j+1}+\cdots+c_k=\dfrac{m_k-m_j}2$ である。よって $g$ の $I_j$ での傾きは
$$
\frac{m_0+m_k}2+\frac{m_j-m_0}2-\frac{m_k-m_j}2=\frac{2m_j}2=m_j
$$
で、$f$ の傾きと一致する。
段 2(差は区間ごとに定数)。$h(x)=f(x)-g(x)$ とおく。区間 $I_j$ では $f(x)=m_jx+n_j$、$g(x)=m_jx+n_j'$($n_j'$ は定数)と書けるので、$h(x)=n_j-n_j'$ は $I_j$ の上で一定である。この値を $d_j$ とする。
段 3(差は全体で定数)。隣り合う $I_{j-1}$ と $I_j$ は点 $p_j$ を共有するので、$d_{j-1}=h(p_j)=d_j$ である。これを $j=1,\ldots,k$ で続けると $d_0=d_1=\cdots=d_k$ で、$h$ は実数全体で同じ値をとる。その値は $h(0)=f(0)-g(0)=f(0)-\sum c_i\lvert p_i\rvert=\alpha$ である。よって $f(x)=\alpha+g(x)$ で、定理の式が成り立つ。
段 4(1 通りであること)。$f(x)=\alpha'+\beta'x+\sum c_i'\lvert x-p_i\rvert$ とすると、lem-abg-slope をこの式に使って、$f$ の傾きについて $m_j-m_{j-1}=2c_j'$、$m_0+m_k=2\beta'$ が成り立つ。よって $c_j'=\dfrac{m_j-m_{j-1}}2=c_j$、$\beta'=\dfrac{m_0+m_k}2=\beta$ である。最後に $x=0$ を代入すると $f(0)=\alpha'+\sum c_i'\lvert p_i\rvert$ なので、$\alpha'=f(0)-\sum c_i\lvert p_i\rvert=\alpha$ である。$\square$
$x\le0$ で $f(x)=-x$、$0\le x\le1$ で $f(x)=2x$、$x\ge1$ で $f(x)=2$ とする。$x=0$ では $-0=2\cdot0=0$、$x=1$ では $2\cdot1=2$ と値がそろうので、$p_1=0$、$p_2=1$、傾き $m_0=-1$、$m_1=2$、$m_2=0$ の折れ線の関数である。thm-abg-sum の数を計算すると
$$
c_1=\frac{2-(-1)}2=\frac32,\qquad c_2=\frac{0-2}2=-1,\qquad\beta=\frac{-1+0}2=-\frac12,\qquad\alpha=f(0)-\Bigl(\frac32\cdot0+(-1)\cdot1\Bigr)=0+1=1
$$
なので
$$
\boxed{f(x)=1-\frac12x+\frac32\lvert x\rvert-\lvert x-1\rvert}
$$
である。$x=-1$ で右辺は $1+\dfrac12+\dfrac32-2=1=f(-1)$、$x=\dfrac12$ で $1-\dfrac14+\dfrac34-\dfrac12=1=f\bigl(\tfrac12\bigr)$、$x=2$ で $1-1+3-1=2=f(2)$ となり、たしかに一致する(図 4)。
傾きが −1、2、0 と変わる折れ線(太線)は、直線 y=1−x/2 と、(3/2)|x|、−|x−1| の 3 つの項(細線)を足したものである
$x\le0$ で $0$、$0\le x\le1$ で $x$、$x\ge1$ で $1$ をとる関数 $r(x)$ を考える($0$ から $1$ へ一定の傾きで上る坂)。$p_1=0$、$p_2=1$、傾きは $0,1,0$ で、thm-abg-sum から
$$
r(x)=\frac{1+\lvert x\rvert-\lvert x-1\rvert}2
$$
となる。
$c_1=\dfrac{1-0}2=\dfrac12$、$c_2=\dfrac{0-1}2=-\dfrac12$、$\beta=\dfrac{0+0}2=0$、$\alpha=r(0)-\Bigl(\dfrac12\cdot0-\dfrac12\cdot1\Bigr)=\dfrac12$ で、$r(x)=\dfrac12+\dfrac12\lvert x\rvert-\dfrac12\lvert x-1\rvert$ である。$x=-3$ で $\dfrac{1+3-4}2=0$、$x=\dfrac14$ で $\dfrac{1+\frac14-\frac34}2=\dfrac14$、$x=5$ で $\dfrac{1+5-4}2=1$ と一致する。
$y=\lvert x-1\rvert+\lvert x-3\rvert$ は、傾き $-2,0,2$ の折れ線なので、$c_1=\dfrac{0-(-2)}2=1$、$c_2=\dfrac{2-0}2=1$、$\beta=\dfrac{-2+2}2=0$、$\alpha=f(0)-(1\cdot1+1\cdot3)=4-4=0$ である。定理の式は $0+0\cdot x+\lvert x-1\rvert+\lvert x-3\rvert$ で、もとの式にもどる。表し方が 1 通りであることと合っている。
thm-abg-sum の逆向きの読み方も便利である。絶対値の和で書かれた関数のグラフをかくときは、場合分けをしなくても、lem-abg-slope で傾きの列を読み、1 点の値を計算すれば折れ線が決まる。
絶対値を含む方程式は、場合分けで解ける。グラフで見ると、解の個数や、場合分けのどこに解があるかが見通せる。
$\lvert x-1\rvert+\lvert x+2\rvert=5$ を解く。
(1) 場合分けで解く。$x\le-2$ では $\lvert x-1\rvert+\lvert x+2\rvert=-(x-1)-(x+2)=-2x-1$ で、$-2x-1=5$ から $x=-3$ である。これは $x\le-2$ を満たす。$-2\le x\le1$ では $(1-x)+(x+2)=3$ で、$3=5$ は成り立たないので解はない。$x\ge1$ では $(x-1)+(x+2)=2x+1$ で、$2x+1=5$ から $x=2$ である。これは $x\ge1$ を満たす。よって解は
$$
x=-3,\quad x=2
$$
である。
(2) グラフで見る。$y=\lvert x-1\rvert+\lvert x+2\rvert$ は、lem-abg-slope により $x=-2$、$x=1$ で折れ、傾きが $-2$、$0$、$2$ の折れ線である。$-2\le x\le1$ で高さ $3$ の平らな底をもつ。直線 $y=5$ は、底より上の高さで左右の斜めの部分と 1 回ずつ交わる(図 5)。交点の $x$ 座標が (1) の解 $-3$ と $2$ である。
同じグラフから、不等式 $\lvert x-1\rvert+\lvert x+2\rvert<5$ の解は、グラフが直線 $y=5$ より下にある範囲 $-3< x<2$ だと読める。
y=|x−1|+|x+2| のグラフは −2≦x≦1 で高さ 3 の平らな底をもち、直線 y=5 とは x=−3 と x=2 で交わり、直線 y=3 とは底の部分全体で重なる
$\lvert x-1\rvert+\lvert x+2\rvert=k$ の実数解の個数を、$k$ の値で分類する。ex-abg-equation (2) のグラフと直線 $y=k$ の共有点を数えればよい。
| $k$ の範囲 | 共有点 | 解の個数 |
|---|---|---|
| $k<3$ | なし | $0$ 個 |
| $k=3$ | 平らな底の全体 $-2\le x\le1$ | 無数 |
| $k>3$ | 左右の斜めの部分に 1 つずつ | $2$ 個 |
$k>3$ のとき、左の部分 $y=-2x-1$($x\le-2$)と右の部分 $y=2x+1$($x\ge1$)はそれぞれ $3$ 以上のすべての値を 1 回ずつとるので、解はちょうど $2$ 個で、$-2x-1=k$ と $2x+1=k$ を解いて $x=-\dfrac{k+1}2$ と $x=\dfrac{k-1}2$ である。$k=5$ で $-3$ と $2$ になる。
最小値が $3$ であることは、三角不等式でも確かめられる。$\lvert x-1\rvert+\lvert x+2\rvert=\lvert1-x\rvert+\lvert x+2\rvert\ge\bigl\lvert(1-x)+(x+2)\bigr\rvert=3$ である(絶対値と三角不等式)。
絶対値をいくつも足した $\lvert x-1\rvert+\lvert x-2\rvert+\lvert x-6\rvert$ では、lem-abg-slope により傾きが $-3,-1,1,3$ と変わるので、傾きが負から正に変わる $x=2$($1,2,6$ の中央値)で最小値 $5$ をとる。このような和の最小と中央値の関係は 中央値と絶対誤差 で扱う。平面の領域 $\lvert x\rvert+\lvert y\rvert\le1$ は、4 つの 1 次不等式 $x+y\le1$、$x-y\le1$、$-x+y\le1$、$-x-y\le1$ の共通部分なので、不等式の表す領域と線形計画法 の半平面の共通部分として見られる。
thm-abg-fold と thm-abg-sum の使い方で、条件を外したり取り違えたりすると何が崩れるかを並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 絶対値が $f$ の外か $x$ に付くかを区別する | $f(x)=x^2-2x-3$ で $\lvert f(x)\rvert$ と $f(\lvert x\rvert)$ | 2 つのグラフが同じになる |
| グラフが切れずにつながる | ガウス記号 $[x]$ | $\alpha+\beta x+\sum c_i\lvert x-p_i\rvert$ の形に書ける |
| 各区間で 1 次式 | $\lvert x^2-4\rvert$ | 有限個の $\lvert x-p_i\rvert$ と 1 次式の和で書ける |
| 区切りの点が有限個 | 三角波(最も近い整数までの距離) | 有限個の $\lvert x-p_i\rvert$ と 1 次式の和で書ける |
ex-abg-compare の $f(x)=x^2-2x-3$ で、$x=-2$ での値は $\lvert f(-2)\rvert=5$、$f(\lvert-2\rvert)=-3$ だった。$x=0$ では $\lvert f(0)\rvert=3$、$f(\lvert0\rvert)=-3$ である。$y=\lvert f(x)\rvert$ のグラフは $x$ 軸より下に出ないが、$y=f(\lvert x\rvert)$ のグラフは $-3< x<3$ で $x$ 軸より下にある。図 2 と図 3 は別のグラフである。
ガウス記号 $[x]$ は $\alpha+\beta x+\sum_{i=1}^kc_i\lvert x-p_i\rvert$ の形に書けない。この形の関数 $g$ は、$x$ を $1$ に近づけると $g(x)$ が $g(1)$ に近づくが、$[x]$ は $x$ を左から $1$ に近づけても値が $0$ のままで、$[1]=1$ に近づかないからである。thm-abg-sum により、折れ線の関数はどれもこの形に書けるので、$[x]$ は(どう区切っても)折れ線の関数ではない。
$M=\lvert\beta\rvert+\lvert c_1\rvert+\cdots+\lvert c_k\rvert$ とする。逆三角不等式 $\bigl\lvert\lvert u\rvert-\lvert v\rvert\bigr\rvert\le\lvert u-v\rvert$(絶対値と三角不等式)を $u=x-p_i$、$v=1-p_i$ に使うと、$\bigl\lvert\lvert x-p_i\rvert-\lvert1-p_i\rvert\bigr\rvert\le\lvert x-1\rvert$ なので
$$\lvert g(x)-g(1)\rvert\le\lvert\beta\rvert\lvert x-1\rvert+\sum_{i=1}^k\lvert c_i\rvert\lvert x-1\rvert=M\lvert x-1\rvert$$
である。一方、$0<\delta<1$ なら $[1-\delta]=0$、$[1]=1$ なので、$g=[x]$ なら $\lvert g(1-\delta)-g(1)\rvert=1$ である。$M\delta<1$ となる小さい $\delta$ をとると $1\le M\delta<1$ となり、矛盾する。
$\lvert x^2-4\rvert$ は $\alpha+\beta x+\sum_{i=1}^kc_i\lvert x-p_i\rvert$ の形に書けない。この形の関数は、lem-abg-slope により右端の区間 $[p_k,\infty)$ で 1 次式だが、$\lvert x^2-4\rvert$ は $x\ge2$ で $x^2-4$ で、どこまで右へ行っても 1 次式にならないからである。thm-abg-fold でグラフはかけるが、thm-abg-sum は使えない関数である。
1 次式 $mx+n$ なら、等間隔の 3 点 $t$、$t+1$、$t+2$ での値について $\bigl(m(t+2)+n\bigr)-2\bigl(m(t+1)+n\bigr)+(mt+n)=0$ となる。$t\ge\max\{p_k,2\}$ となる $t$ をとると、3 点はどれも $[p_k,\infty)$ に入り、そこで $\lvert x^2-4\rvert=x^2-4$ であるが
$$\bigl((t+2)^2-4\bigr)-2\bigl((t+1)^2-4\bigr)+\bigl(t^2-4\bigr)=2\ne0$$
である($k=0$ なら $[p_k,\infty)$ を実数全体、$t\ge2$ と読む)。
$x$ から最も近い整数までの距離を $d(x)$ とする。$d(0)=0$、$d\bigl(\tfrac14\bigr)=\tfrac14$、$d\bigl(\tfrac12\bigr)=\tfrac12$、$d\bigl(\tfrac34\bigr)=\tfrac14$、$d(1)=0$ で、グラフは傾き $1$ と $-1$ の線分が交互に続く三角波である。どの有限の範囲に限っても折れ線だが、折れる点は $\ldots,-\dfrac12,0,\dfrac12,1,\dfrac32,\ldots$ と無限にある。
$d$ は有限個の $\lvert x-p_i\rvert$ と 1 次式の和では書けない。書けたとすると、ex-abg-cx-square と同じく右端の区間 $[p_k,\infty)$ で 1 次式になるが、$d$ はどこまで右へ行っても折れ続けるからである。
$p_k$ より大きい整数 $N$ をとると、$d(N)=0$、$d\bigl(N+\tfrac12\bigr)=\tfrac12$、$d(N+1)=0$ で、等間隔の 3 点について $0-2\cdot\dfrac12+0=-1\ne0$ なので、3 点は一直線に並ばない。
2 つの数の大きいほう・小さいほうは、絶対値で書ける。
実数 $a$、$b$ について
$$
\max\{a,b\}=\frac{a+b+\lvert a-b\rvert}2,\qquad\min\{a,b\}=\frac{a+b-\lvert a-b\rvert}2
$$
である。特に $\max\{0,x\}=\dfrac{x+\lvert x\rvert}2$ である。
$a\ge b$ なら $\lvert a-b\rvert=a-b$ なので、第 1 式の右辺は $\dfrac{a+b+a-b}2=a=\max\{a,b\}$、第 2 式の右辺は $\dfrac{a+b-a+b}2=b=\min\{a,b\}$ である。$a< b$ なら $\lvert a-b\rvert=b-a$ なので、右辺はそれぞれ $\dfrac{2b}2=b$、$\dfrac{2a}2=a$ で、やはり大きいほうと小さいほうである。最後の式は $a=0$、$b=x$ とおいたものである。$\square$
$\max\{0,x-p\}$ は、$x\le p$ で $0$、$x\ge p$ で $x-p$ の折れ線で、点 $p$ で傾きが $0$ から $1$ に増える。prop-abg-max から $\lvert x-p\rvert=2\max\{0,x-p\}-(x-p)$ なので、thm-abg-sum の式は
$$
f(x)=\alpha'+m_0x+\sum_{i=1}^k(m_i-m_{i-1})\max\{0,x-p_i\}
$$
($\alpha'$ は定数)とも書ける。左端の傾き $m_0$ の直線から出発して、$p_i$ を越えるたびに傾きを $m_i-m_{i-1}$ だけ変える、という読み方である。ex-abg-ramp の坂道の関数なら $r(x)=\max\{0,x\}-\max\{0,x-1\}$ となる。
「1 次式と $\max\{0,x-p\}$ の組合せ」は、大学の数学や応用で、関数を扱いやすい部品に分けて表す方法の入口になる。閉区間で連続な関数は、折れる点を細かくとった折れ線の関数でいくらでもよく近似できる(この記事では証明しない)。折れ線や、区間ごとに多項式をつないだ関数で近似する方法は スプライン と呼ばれる。
thm-abg-sum の $c_i$ がすべて $0$ 以上であることは、傾きが $m_0\le m_1\le\cdots\le m_k$ と左から右へ減らないことと同じである($c_i=\dfrac{m_i-m_{i-1}}2$)。このとき折れ線は下に凸になる。$\lvert x-p\rvert$ はどれも下に凸で、下に凸な関数に $0$ 以上の数を掛けて足し、1 次式を足しても下に凸のままだからである(凸関数の定義とこの性質は 凸関数 で扱う。この記事では証明しない)。ex-abg-start-sum の $\lvert x-1\rvert+\lvert x-3\rvert$ は $c_1=c_2=1$ で下に凸、ex-abg-sum の折れ線は $c_2=-1<0$ で、$x=1$ の近くでは上に凸に折れている。
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