Kaplanskyの稠密性定理(Kaplansky density theorem)とは、Hilbert 空間上の有界作用素のなす $*$-部分代数 $A$ について、ノルムが $1$ 以下の $A$ の元の全体が、$A$ の強作用素位相での閉包のノルムが $1$ 以下の元の全体の中で、強作用素位相について稠密であるという定理である。自己共役な元・正の元に限っても同じことが成り立つ。$A$ が恒等作用素を含めば閉包は二重可換子 $A''$ に等しいので、von Neumann 環の元をノルムを増やさずに $A$ の元で近似できる。強作用素位相では有界でない有向点族について積が連続でないので、この有界性が極限をとる議論を支える。
前提知識: von Neumann環, 連続汎関数計算, Hahn–Banachの定理
Kaplanskyの稠密性定理(Kaplansky density theorem)は、Hilbert 空間上の作用素のなす $*$-部分代数 $A$ について、$A$ の 単位球(ノルムが $1$ 以下の元の全体)が、$A$ の強作用素位相での閉包の単位球の中で、強作用素位相について稠密であることを述べる定理である。
von Neumann環 の定理「von Neumannの二重可換子定理」によれば、単位元を含む $*$-部分代数 $A$ の強作用素位相での閉包は二重可換子 $A''$ に等しい。したがって $A''$ の元 $T$ は $A$ の元の有向点族 $T_i$ の強極限になる。しかしこの定理だけでは $\|T_i\|$ がどれほど大きくなるかは分からない。強作用素位相では、ノルムが有界でない有向点族について積が連続でないので、$\|T_i\|$ の上界がないと $T_i$ を掛け合わせたり関数に代入したりする計算が極限と両立しない。Kaplansky の定理は、近似する元を最初から $\|T_i\|\le\|T\|$ に選べることを保証する。
この記事では、まず凸集合の強作用素位相での閉包と弱作用素位相での閉包が一致することを示し、関数 $f(t)=2t/(1+t^2)$ を自己共役作用素に代入する写像が強作用素位相について連続であることを使って、自己共役な元、一般の元、正の元のそれぞれについて定理を証明する。可分な Hilbert 空間では有向点族を列にとれることも示す。$*$-部分代数を随伴で閉じた部分空間に替えると結論が成り立たないことは、反例で確かめる。
$H$ を複素 Hilbert 空間とし、内積 $\langle x,y\rangle$ は第 1 変数について線形とする。$B(H)$ は $H$ 上の有界線形作用素全体、$1$ は恒等作用素、$T^*$ は $T$ の 随伴作用素 である。強作用素位相・弱作用素位相は von Neumann環 の定義「強作用素位相と弱作用素位相」のとおりとし、部分集合 $S\subset B(H)$ の強作用素位相・弱作用素位相での閉包を $\overline S^{s}$、$\overline S^{w}$ と書く。「強収束」「強稠密」は強作用素位相についての収束・稠密を指す。
部分集合 $S\subset B(H)$ について
$$
(S)_1:=\{T\in S\mid\|T\|\le1\},\qquad S_{\mathrm{sa}}:=\{T\in S\mid T^*=T\},
$$
$$
S_+:=\{T\in S_{\mathrm{sa}}\mid\sigma(T)\subset[0,\infty)\}
$$
とおく。$(S)_1$ を $S$ の 単位球、$S_{\mathrm{sa}}$ を $S$ の 自己共役部分、$S_+$ を $S$ の 正部分 という。また、$B(H)$ の部分集合で、和・スカラー倍・積・随伴で閉じたものを $*$-部分代数 という。恒等作用素 $1$ を含むことは仮定しない。
$S_+$ の元は、連続汎関数計算 の命題「正の元の平方根と正部分・負部分」の意味での正の元である。$B(H)$ 全体の単位球 $(B(H))_1$ は強作用素位相で閉じている。実際、$\|T_i\|\le1$ の有向点族が $T$ に強収束すれば、各 $x$ で $\|Tx\|=\lim\|T_ix\|\le\|x\|$ だからである。
$A\subset B(H)$ を $*$-部分代数とする。このとき、強作用素位相について次が成り立つ。
証明(prf-kd-main)は次の順に進む。$\overline A^{s}$ が $*$-部分代数で $\overline A^{w}$ に等しいことを示し(lem-kd-closure)、自己共役の場合を $f(t)=2t/(1+t^2)$ の強連続性(lem-kd-cayley-type)から導き、一般の場合を $2\times2$ 行列に移して自己共役の場合に帰着させ、正の場合を平方根から導く。$\|T\|\le r$ の元を近似するには、$T/r$ に定理を当てて $r$ 倍すればよいので、単位球を半径 $r$ の球に替えても同じことが成り立つ。
単位元を含む場合は、二重可換子定理と組み合わせて次の形で使われることが多い。
$A\subset B(H)$ を $1$ を含む $*$-部分代数とする。このとき $(A)_1$ は $(A'')_1$ で強作用素位相についても弱作用素位相についても稠密であり、$(A_{\mathrm{sa}})_1$ は $\bigl((A'')_{\mathrm{sa}}\bigr)_1$ で強作用素位相について稠密である。
von Neumann環 の定理「von Neumannの二重可換子定理」により $\overline A^{s}=A''$ なので、強作用素位相についての主張は thm-kd-main の 1・2 である。弱作用素位相は強作用素位相より粗いので、強作用素位相で稠密な部分集合は弱作用素位相でも稠密である。$\square$
$\varphi\colon B(H)\to\mathbb C$ を、強作用素位相について連続な線形汎関数とする。このとき $x_1,\dots,x_m,y_1,\dots,y_m\in H$ があって、すべての $T$ について
$$
\varphi(T)=\sum_{k=1}^m\langle Tx_k,y_k\rangle
$$
が成り立つ。とくに $\varphi$ は弱作用素位相についても連続である。
要点:連続性から $|\varphi(T)|$ が有限個のベクトルでの値 $Tx_k$ で抑えられるので、$\varphi$ は $H^m$ の部分空間上の有界な汎関数を経由し、Riesz の表現定理で書ける。
強作用素位相は半ノルム $p_x(T)=\|Tx\|$ の族が定める局所凸位相なので、$\varphi$ の原点での連続性から、$x_1,\dots,x_m\in H$ と $\delta>0$ があって、$\max_k\|Tx_k\|< \delta$ なら $|\varphi(T)|< 1$ である。$t>0$ について $tT$ に当てると、$\max_k\|Tx_k\|=0$ なら $|\varphi(T)|< 1/t$ がすべての $t$ で成り立つので $\varphi(T)=0$ であり、そうでなければ $T$ を $\delta T/(2\max_k\|Tx_k\|)$ に替えて
$\displaystyle |\varphi(T)|\le\frac{2}{\delta}\max_k\|Tx_k\|\le\frac2\delta\Bigl(\sum_{k=1}^m\|Tx_k\|^2\Bigr)^{1/2}$
を得る。$H^m$ を内積 $\langle(\xi_k),(\eta_k)\rangle:=\sum_k\langle\xi_k,\eta_k\rangle$ の Hilbert 空間とし、$L:=\{(Tx_1,\dots,Tx_m)\mid T\in B(H)\}$ とおく。上の評価から、$(Tx_k)_k\mapsto\varphi(T)$ は $L$ 上の矛盾なく定まる有界線形汎関数で($Tx_k=T'x_k$ がすべての $k$ で成り立てば $\varphi(T-T')=0$)、$L$ の閉包へ連続に延び、閉包の直交補空間の上で $0$ とおけば $H^m$ 上の有界線形汎関数 $\psi$ になる。Riesz表現定理 により $\psi(\xi)=\langle\xi,(y_k)\rangle$ となる $(y_k)\in H^m$ があり、$\varphi(T)=\psi((Tx_k)_k)=\sum_k\langle Tx_k,y_k\rangle$ である。右辺の各項は弱作用素位相について連続である。$\square$
$K\subset B(H)$ を凸集合とすると、$\overline K^{s}=\overline K^{w}$ である。
要点:強作用素位相で $K$ の閉包の外にある点を Hahn–Banach の定理で分離すると、分離する汎関数は弱作用素位相でも連続である。
弱作用素位相は強作用素位相より粗いので $\overline K^{s}\subset\overline K^{w}$ である。逆に $T_0\notin\overline K^{s}$ とする。強作用素位相の基本近傍 $\{T\mid\|(T-T_0)x_k\|< \varepsilon\ (k=1,\dots,m)\}$ は凸なので、$\overline K^{s}$ と交わらない $T_0$ の凸な開近傍 $U$ がある。$B(H)$ を強作用素位相をもつ実位相ベクトル空間とみて、Hahn–Banachの定理 の定理「Hahn–Banachの定理(第一幾何形)」を開凸集合 $U$ と凸集合 $K$ に当てると、強作用素位相で連続な実線形汎関数 $u$ と $\alpha\in\mathbb R$ があって、$T\in U$ なら $u(T)< \alpha$、$T\in K$ なら $u(T)\ge\alpha$ である。同じ記事の補題「実部と複素線形汎関数」により $\varphi(T):=u(T)-iu(iT)$ は強作用素位相で連続な複素線形汎関数で $u=\operatorname{Re}\varphi$ であり、lem-kd-functionals により $\varphi$、したがって $u$ は弱作用素位相でも連続である。よって $\{T\mid u(T)< \alpha\}$ は $K$ と交わらない $T_0$ の弱作用素位相での開近傍であり、$T_0\notin\overline K^{w}$ である。$\square$
$A\subset B(H)$ を $*$-部分代数とすると、$\overline A^{s}=\overline A^{w}$ であり、これはノルムで閉じた $*$-部分代数である。
$A$ は部分空間で凸なので、lem-kd-convex により $\overline A^{s}=\overline A^{w}$ である。$\langle T^*x,y\rangle=\overline{\langle Ty,x\rangle}$ なので随伴をとる写像は弱作用素位相について連続であり、$A$ を $A$ に写すから、$\overline A^{w}$ を $\overline A^{w}$ に写す。和とスカラー倍は連続なので、閉包は部分空間である。積については、$S$ を固定すると $\|STx\|\le\|S\|\|Tx\|$ と $\|TSx\|=p_{Sx}(T)$ から $T\mapsto ST$ と $T\mapsto TS$ は強作用素位相について連続である。まず $S\in A$ に当てると、$T\in\overline A^{s}$ について $ST,TS\in\overline A^{s}$ であり、次に $S\in\overline A^{s}$ を固定し $T\in A$ に当てると、$ST\in\overline A^{s}$ が $T\in\overline A^{s}$ に延びる。最後に、強作用素位相はノルム位相より粗いので、$\overline A^{s}$ はノルムで閉じている。$\square$
$S_i\to S$、$T_i\to T$ が強作用素位相での収束で、$\sup_i\|S_i\|< \infty$ なら、$S_iT_i\to ST$ も強作用素位相で成り立つ。
$x\in H$ について $S_iT_ix-STx=S_i(T_i-T)x+(S_i-S)Tx$ なので、$\|S_iT_ix-STx\|\le\sup_j\|S_j\|\,\|(T_i-T)x\|+\|(S_i-S)(Tx)\|\to0$ である。$\square$
証明では $S_i$ のノルムの上界を使った。強作用素位相で収束する有向点族は一般には有界でなく、$H$ が無限次元なら、積は(2 変数の写像として)$B(H)$ 全体の上では強作用素位相について連続でない。たとえば $S\mapsto S^2$ は強作用素位相について連続でない(Kap51 p. 231 の §4 の冒頭に既知の事実として述べられている。この記事では証明しない)。Kap51 Lemma 1(p. 228)は、単位球の上では積が 2 変数について強連続であることを、この補題と同じ評価で示している。Kaplansky の定理が近似する元のノルムを抑えるのは、この有界性を確保するためである。
次の補題で使う関数を
$$
f(t):=\frac{2t}{1+t^2}\qquad(t\in\mathbb R)
$$
とおく。$|f(t)|\le1$ であり、$f'(t)=\frac{2(1-t^2)}{(1+t^2)^2}$ なので $f$ は $[-1,1]$ の上で狭義単調増加、$f(\pm1)=\pm1$ である。その逆関数は
$$
g(s):=\frac{s}{1+\sqrt{1-s^2}}\qquad(s\in[-1,1])
$$
で、$g\colon[-1,1]\to[-1,1]$ は連続、$g(0)=0$ である($s=\sin\theta$、$|\theta|\le\pi/2$ とおくと $g(s)=\tan(\theta/2)$ であり、$f(\tan(\theta/2))=\sin\theta$)。自己共役作用素 $S$ について、連続汎関数計算 の定理「連続汎関数計算」により $f(S)=2S(1+S^2)^{-1}$ であり、$\|f(S)\|\le\sup_{\mathbb R}|f|\le1$ である。
写像 $B(H)_{\mathrm{sa}}\to B(H)_{\mathrm{sa}}$、$S\mapsto f(S)$ は、強作用素位相について連続である。
$S,T\in B(H)_{\mathrm{sa}}$ について
$$
\frac12\bigl(f(S)-f(T)\bigr)=(1+S^2)^{-1}(S-T)(1+T^2)^{-1}+(1+S^2)^{-1}S\,(T-S)\,T(1+T^2)^{-1}
$$
が成り立つ。実際、右辺は $(1+S^2)^{-1}\bigl[(S-T)+S(T-S)T\bigr](1+T^2)^{-1}$ であり、括弧の中は $S+ST^2-T-S^2T=S(1+T^2)-(1+S^2)T$ に等しいので、右辺は $(1+S^2)^{-1}S-T(1+T^2)^{-1}$ である。$S$ と $(1+S^2)^{-1}$ は可換なので、これは左辺に等しい。
連続汎関数計算の等長性(連続汎関数計算 の定理「連続汎関数計算」の 2)から、$\|(1+S^2)^{-1}\|\le\sup_t\frac1{1+t^2}=1$、$\|(1+S^2)^{-1}S\|\le\sup_t\frac{|t|}{1+t^2}=\frac12$ である。$T$ と $x\in H$ を固定し、$y:=(1+T^2)^{-1}x$、$z:=T(1+T^2)^{-1}x$ とおくと
$$
\|(f(S)-f(T))x\|\le2\|(S-T)y\|+\|(S-T)z\|
$$
である。右辺は $S\to T$(強作用素位相)で $0$ に近づくので、$S\mapsto f(S)$ は $T$ で連続である。$\square$
$S\mapsto S^2$ と違って $S\mapsto f(S)$ が $B(H)_{\mathrm{sa}}$ 全体で強連続なのは、$f$ が有界で無限遠で $0$ に近づくので、上の評価のように $S$ の大きさによらない上界がとれるからである。
要点:ノルム閉包に移したうえで、自己共役の場合は $B=f(g(B))$ と書いて $g(B)$ を $A$ の自己共役な元で強く近似し $f$ を代入する。一般の場合は $\begin{pmatrix}0&T\\T^*&0\end{pmatrix}$ に自己共役の場合を当て、正の場合は平方根を近似して 2 乗する。
段 0(ノルム閉包への帰着)。 $C$ を $A$ のノルムでの閉包とする。$C$ はノルムで閉じた $*$-部分代数で、$\overline A^{s}$ はノルムで閉じているので(lem-kd-closure)$A\subset C\subset\overline A^{s}$、したがって $\overline C^{s}=\overline A^{s}$ である。$T\in(C)_1$ をノルムで $T_n\to T$($T_n\in A$)と近似し、$T_n':=T_n/\max\{1,\|T_n\|\}$ とおくと $T_n'\in(A)_1$ で、$\|T_n\|\le1+\|T_n-T\|$ から $\|T_n'-T\|\le\|T_n'-T_n\|+\|T_n-T\|\le2\|T_n-T\|\to0$ である。$T$ が自己共役なら $T_n$ を $\frac12(T_n+T_n^*)$ に替えておけばよい。よって $(A)_1$、$(A_{\mathrm{sa}})_1$ はそれぞれ $(C)_1$、$(C_{\mathrm{sa}})_1$ でノルム稠密、とくに強稠密であり、$C$ について 1・2 が示せれば $A$ についても 1・2 が成り立つ。3 は、段 3 の議論を $A$ についての 1 に直接当てて得る(段 3 で使うのは 1 と、$\overline A^{s}$ がノルムで閉じた $*$-部分代数であることだけである)。以下 $A$ はノルムで閉じているとする。このとき、自己共役な $S\in A$ と、$\sigma(S)\cup\{0\}$ 上の連続関数 $h$ で $h(0)=0$ を満たすものについて $h(S)\in A$ である。実際、$\sigma(S)\cup\{0\}$ の上で $h$ に一様収束する多項式 $p_n$ をとり(Weierstrassの近似定理)、$p_n-p_n(0)$ に替えると、定数項のない多項式 $p_n(S)\in A$ が $h(S)$ にノルム収束する(連続汎関数計算 の定理「連続汎関数計算」の 2)。同じ理由で、自己共役な $S\in\overline A^{s}$ について $h(S)\in\overline A^{s}$ である。
段 1(自己共役の場合)。 $B\in(\overline A^{s})_{\mathrm{sa}}$、$\|B\|\le1$ とする。自己共役なので $\sigma(B)\subset\mathbb R$ であり(連続汎関数計算 の系「スペクトルによる元の判定」)、$|\lambda|\le\|B\|$ と合わせて $\sigma(B)\subset[-1,1]$ なので $C_0:=g(B)$ が定まり、段 0 により $C_0\in(\overline A^{s})_{\mathrm{sa}}$ であり、合成則(連続汎関数計算 の命題「連続汎関数計算の基本性質」の 3)により $f(C_0)=(f\circ g)(B)=B$ である。lem-kd-closure により $C_0\in\overline A^{w}$ なので、$A$ の有向点族 $A_i$ で $C_0$ に弱作用素位相で収束するものがあり、随伴の弱連続性から $\frac12(A_i+A_i^*)\to\frac12(C_0+C_0^*)=C_0$ も弱作用素位相で成り立つ。よって $C_0$ は凸集合 $A_{\mathrm{sa}}$ の弱作用素位相での閉包に入り、lem-kd-convex により強作用素位相での閉包に入る。$S_j\in A_{\mathrm{sa}}$、$S_j\to C_0$(強作用素位相)とすると、lem-kd-cayley-type により $f(S_j)\to f(C_0)=B$ である。段 0 により $f(S_j)\in A$ であり、$f(S_j)$ は自己共役で $\|f(S_j)\|\le1$ なので、$B$ は $(A_{\mathrm{sa}})_1$ の強作用素位相での閉包に入る。これが 1 である。
段 2(一般の場合)。 $T\in(\overline A^{s})_1$ とする。$H\oplus H$ 上の有界作用素を $2\times2$ の作用素行列で表し、$A$ の元を成分とする行列の全体 $M_2(A)$ を考える。$\begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix}^*=\begin{pmatrix}a^*&c^*\\b^*&d^*\end{pmatrix}$ なので $M_2(A)$ は $B(H\oplus H)$ の $*$-部分代数である。作用素行列の有向点族が強作用素位相で収束することは、4 つの成分がそれぞれ強作用素位相で収束することと同値である。とくに、1 つの成分だけが $\overline A^{s}$ の元で残りが $0$ の行列は $M_2(A)$ の強閉包に入り、強閉包は部分空間なので、成分がすべて $\overline A^{s}$ に入る行列も強閉包に入る。lem-kd-closure により $T^*\in\overline A^{s}$ なので
$\displaystyle X:=\begin{pmatrix}0&T\\T^*&0\end{pmatrix}$
は $M_2(A)$ の強閉包の自己共役な元で、$\|X(x,y)\|^2=\|Ty\|^2+\|T^*x\|^2\le\|T\|^2(\|x\|^2+\|y\|^2)$ から $\|X\|\le1$ である。段 0・段 1 で任意の $*$-部分代数について示した 1 を $M_2(A)$ に当てると、$\|Y_i\|\le1$ の自己共役な $Y_i\in M_2(A)$ で $Y_i\to X$(強作用素位相)となるものがある。$Y_i$ の $(1,2)$ 成分を $b_i\in A$ とすると、$b_iy$ は $Y_i(0,y)$ の第 1 成分なので $\|b_i\|\le\|Y_i\|\le1$ であり、$b_iy\to Ty$ である。これが 2 である。
段 3(正の場合)。 $B\in(\overline A^{s})_+$、$\|B\|\le1$ とする。$\sigma(B)\subset[0,1]$ なので平方根 $B^{1/2}$ が定まり(連続汎関数計算 の命題「正の元の平方根と正部分・負部分」)、$\sqrt0=0$ なので段 0 により $B^{1/2}\in(\overline A^{s})_{\mathrm{sa}}$、$\|B^{1/2}\|\le1$ である。1 により $S_j\in(A_{\mathrm{sa}})_1$、$S_j\to B^{1/2}$ がとれ、lem-kd-product により $S_j^2\to B$ である。$S_j^2\in A$ は自己共役で、スペクトル写像定理から $\sigma(S_j^2)=\{t^2\mid t\in\sigma(S_j)\}\subset[0,1]$ なので $S_j^2\in(A_+)_1$ である。これが 3 である。$\square$
Kap51 Theorem 1(p. 227)の証明は、段 1 で $f$ の代わりに、$[-1,1]$ の上で $t$ に等しく無限遠で $0$ に近づく連続関数 $h$ を使い、$h$ の代入の強連続性を Cayley変換 を経由して示している(同 Lemma 4・5、p. 229)。段 2 の $2\times2$ 行列の工夫は同論文 p. 230 の脚注で P. R. Halmos によるとされている。上の証明は、段 1 を関数 $f$ とその逆関数 $g$ で組み直したもので、$f$ の代入の連続性が lem-kd-cayley-type の 1 つの等式で済む。
$*$-部分代数 $A\subset B(H)$ が強作用素位相で閉じていることと、$(A)_1$ が強作用素位相で閉じていることは同値である。
$A$ が閉じていれば、$(A)_1=A\cap(B(H))_1$ は 2 つの閉集合の共通部分なので閉じている($(B(H))_1$ が閉じていることは def-kd-ball の後の注意)。逆に $(A)_1$ が閉じているとし、$0\ne T\in\overline A^{s}$ をとる。lem-kd-closure により $T/\|T\|\in(\overline A^{s})_1$ であり、thm-kd-main の 2 によりこれは $(A)_1$ の強閉包、すなわち $(A)_1$ に入る。よって $T\in A$ である。$\square$
Kap51 p. 231 の注意 (b) は、この系の「単位球が閉じていれば閉じている」の向きを Theorem 1 の帰結として挙げている。
$H$ が可分なら、$*$-部分代数 $A$ と $T\in(\overline A^{s})_1$ について、$(A)_1$ の元の列 $T_n$ で $T$ に強収束するものがある。
$\{x_1,x_2,\dots\}$ を $H$ の稠密な可算部分集合とする。thm-kd-main の 2 により、各 $n$ について $T_n\in(A)_1$ で $\|(T_n-T)x_k\|< 1/n$($k=1,\dots,n$)となるものがある。$x\in H$ と $\varepsilon>0$ について $\|x-x_k\|< \varepsilon$ となる $k$ をとると、$\|T_n-T\|\le2$ なので $n\ge k$ では $\|(T_n-T)x\|\le\|(T_n-T)x_k\|+2\varepsilon< 1/n+2\varepsilon$ である。よって $\limsup_n\|(T_n-T)x\|\le2\varepsilon$ であり、$\varepsilon$ は任意なので $T_n\to T$(強作用素位相)である。$\square$
prf-kd-sequence では、$\|T_n-T\|\le2$ を使って、可算個のベクトルでの近似からすべてのベクトルでの近似を導いている。近似する元のノルムに上界がなければ、この議論は使えない。
$H=\ell^2$(標準基底 $e_1,e_2,\dots$)とし、$A$ を 有限階作用素 の全体とする。$A$ は単位元を含まない $*$-部分代数である。$P_m$ を $e_1,\dots,e_m$ の張る部分空間への直交射影とすると、任意の $T\in B(H)$ について $P_mTP_m\in A$、$\|P_mTP_m\|\le\|T\|$ であり、$P_mTP_m\to T$(強作用素位相)である(von Neumann環 の例「表の反例の確かめ」の 3 行目と同じ評価)。よって $\overline A^{s}=B(H)$ であり、この場合は thm-kd-main の 2 の近似が $P_mTP_m$ で具体的に与えられる。$T$ が自己共役なら $(P_mTP_m)^*=P_mT^*P_m=P_mTP_m$ なので、1 の近似も同じ $P_mTP_m$ で与えられる。
$H=L^2([0,1])$(Lebesgue 測度 $\lambda$)とし、連続関数 $\varphi$ による掛け算作用素 $M_\varphi h:=\varphi h$ の全体を $A$ とする。$M_\varphi^*=M_{\overline\varphi}$ なので $A$ は $1$ を含む $*$-部分代数で、$\|M_\varphi\|\le\sup|\varphi|$ である。
実数値の可測関数 $\psi$ で $|\psi|\le1$ を満たすものについて、$|\varphi_n|\le1$ を満たす実数値の連続関数 $\varphi_n$ で $M_{\varphi_n}\to M_\psi$(強作用素位相)となるものがある。実際、Lusinの定理 の定理「Euclid空間でのLusinの定理」の 2 により、閉集合 $F_n\subset[0,1]$ と連続関数 $\varphi_n$ で、$\lambda([0,1]\setminus F_n)< 1/n$、$F_n$ の上で $\varphi_n=\psi$、$|\varphi_n|\le1$ となるものがある。$E_n:=[0,1]\setminus F_n$ とおくと、$h\in L^2$ について
$$
\|(M_{\varphi_n}-M_\psi)h\|^2=\int_{E_n}|\varphi_n-\psi|^2|h|^2\,d\lambda\le4\int_{E_n}|h|^2\,d\lambda
$$
である。$N>0$ について右辺の積分は $\int_{\{|h|^2>N\}}|h|^2\,d\lambda+N\lambda(E_n)$ 以下で、第 1 項は $N$ を大きくとれば 優収束定理 によりいくらでも小さく、第 2 項は $n\to\infty$ で $0$ に近づく。よって $M_{\varphi_n}h\to M_\psi h$ である。
これは thm-kd-main の 1 が保証する近似を、この $A$ について具体的に作ったものである。たとえば $\psi=\mathbf 1_{[0,1/2]}$ のとき、$M_\psi$ は $A$ の元のノルム極限ではない(von Neumann環 の節「補足」)。強作用素位相で近似しても、ノルムは $\sup|\varphi_n|\le1$ に抑えられたままである。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 積で閉じている(thm-kd-main) | $\ell^2$ 上の随伴で閉じた部分空間 $V:=\{T\mid\sum_n n^{-2}\langle Te_n,e_n\rangle=0\}$ | $(V)_1$ が $(\overline V^{s})_1$ で強稠密 |
| $H$ が可分(cor-kd-sequence) | 非可算集合 $\Gamma$ 上の $\ell^2(\Gamma)$ と、有限階作用素の全体 | $(\overline A^{s})_1$ の元が $(A)_1$ の列の強極限 |
1 行目:$\phi(T):=\sum_{n\ge1}n^{-2}\langle Te_n,e_n\rangle$ とおく。$|\langle Te_n,e_n\rangle|\le\|T\|$ なので級数は絶対収束し、$\phi$ は線形で $\phi(T^*)=\overline{\phi(T)}$ を満たすので、$V=\ker\phi$ は随伴で閉じた部分空間である。$V$ は積で閉じていない。$e_1$ と $e_2$ を入れ替え他を $0$ に送る作用素 $W$ について、$\phi(W)=0$ だが、$W^2$ は $e_1,e_2$ の張る部分空間への射影で $\phi(W^2)=1+\frac14\ne0$ である。
$1\in\overline V^{s}$ である。$x_1,\dots,x_m\in H$ を与え、$P$ を $\{x_1,\dots,x_m\}$ の 直交補空間 への直交射影とする。$P\ne0$ なので $Pe_n\ne0$ となる $n$ があり、$\phi(P)=\sum_nn^{-2}\|Pe_n\|^2>0$ である。$T:=1-\frac{\phi(1)}{\phi(P)}P$ とおくと $\phi(T)=0$ で $T\in V$、$Tx_k=x_k$($k=1,\dots,m$)である。よって $1$ のどの強作用素位相での基本近傍も $V$ と交わる。
一方、$1$ は $(V)_1$ の強閉包に入らない。$\|S\|,\|T\|\le1$ なら、$N\ge1$ について
$$
|\phi(S)-\phi(T)|\le\sum_{n\le N}n^{-2}\|(S-T)e_n\|+2\sum_{n>N}n^{-2}
$$
なので、$\phi$ は $(B(H))_1$ の上で強作用素位相について連続である。したがって $\{T\in(B(H))_1\mid\phi(T)=0\}$ は強作用素位相で閉じていて $(V)_1$ を含むが、$\phi(1)=\sum_nn^{-2}\ne0$ なので $1$ を含まない。$\|1\|=1$ なので、$(V)_1$ は $(\overline V^{s})_1$ で強稠密でない。
2 行目:$\ell^2(\Gamma)$ の標準基底 $e_\gamma$($\gamma\in\Gamma$)は $\|e_\gamma-e_\delta\|=\sqrt2$($\gamma\ne\delta$)を満たす非可算族なので、$\ell^2(\Gamma)$ は可分でない。有限階作用素の全体 $A$ は $*$-部分代数で、有限個の $x_1,\dots,x_m$ の張る部分空間への直交射影 $P$ は $A$ に属し $\|P\|\le1$、$Px_k=x_k$ なので、$1\in(\overline A^{s})_1$ である。一方、有限階作用素の列 $F_n$ の像の和の閉包 $K$ は可分な閉部分空間で $H$ と異なるので、$0$ でない $x\perp K$ がある。$F_nx\in K$ なので $\|F_nx-x\|^2=\|F_nx\|^2+\|x\|^2\ge\|x\|^2$ であり、$F_n$ は $1$ に強収束しない。
Kap51 p. 231 の注意 (c) は、1 行目の現象($*$-部分代数を部分空間に替えると定理が成り立たないこと)が J. Dixmier によって注意されていたことを記している。上の $V$ はその具体例である。
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