Feuerbachの定理(Feuerbach's theorem)とは、三角形の九点円が内接円に内接し、3 つの傍接円のそれぞれに外接するという定理である(正三角形では九点円と内接円は一致する)。九点円の中心を $N$、外接円の半径を $R$ とすると $NI=\frac R2-r$、$NI_A=\frac R2+r_a$ が成り立ち、これは Eulerの三角形の定理の $OI^2=R^2-2Rr$(傍心では $OI_A^2=R^2+2Rr_a$)と、Euler線の $OH^2=9R^2-(a^2+b^2+c^2)$ から、外心を原点とする内積の計算で示せる。$b\ne c$ のとき、辺 $BC$ の中点を中心とする半径 $\frac{\lvert b-c\rvert}2$ の円に関する反転は内接円と傍心 $I_A$ の傍接円を動かさず、九点円を両者の第 4 の共通接線に移す。
前提知識: 九点円, Eulerの三角形の定理, 三角形の内心と傍心, 円に関する反転
三角形 $ABC$ の 3 辺の中点、3 本の垂線の足、垂心と頂点を結ぶ線分の中点の 9 点は、1 つの円の上にある。これが 九点円 で、中心 $N$ は外心 $O$ と垂心 $H$ を結ぶ線分の中点、半径は外接円の半径 $R$ の半分 $\frac R2$ である(九点円)。この記事では、九点円と内接円・傍接円の関係を調べる。記号は Eulerの三角形の定理 と同じく、辺の長さを $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$、$s=\frac{a+b+c}2$、面積を $S$、内心を $I$、内接円の半径を $r$、$\angle A$ に向かい合う傍心を $I_A$、その傍接円の半径を $r_a$ とする。
$A(5,12)$、$B(0,0)$、$C(14,0)$ とする。九点円 で計算したとおり、九点円の中心は $N\bigl(6,\frac{63}{16}\bigr)$、半径は $\frac R2=\frac{65}{16}$ である。内心は $I(6,4)$、$r=4$ である(三角形の内心と傍心)。
3 辺 13, 14, 15 の三角形の九点円(紫)と内接円(青)の拡大図。中心 $N$ と $I$ は $\frac1{16}$ しか離れておらず、2 つの円は点 $F(6,8)$(赤の四角)でだけ触れ合い、ほかでは内接円が九点円のわずかに内側にあることを見る図。
ex-feu-first の三角形の傍心と半径は $I_A(8,-12)$、$r_a=12$;$I_B(21,14)$、$r_b=14$;$I_C\bigl(-7,\frac{21}2\bigr)$、$r_c=\frac{21}2$ である(三角形の内心と傍心)。$N\bigl(6,\frac{63}{16}\bigr)$ からの距離の 2 乗を計算する(分母を $256$ にそろえる)。
| 傍心 | $N$ からのずれ | 距離の 2 乗 | 距離 | $\frac{65}{16}+$(傍接円の半径) |
|---|---|---|---|---|
| $I_A$ | $\bigl(2,-\frac{255}{16}\bigr)$ | $\frac{1024+65025}{256}=\frac{66049}{256}$ | $\frac{257}{16}$ | $\frac{65+192}{16}=\frac{257}{16}$ |
| $I_B$ | $\bigl(15,\frac{161}{16}\bigr)$ | $\frac{57600+25921}{256}=\frac{83521}{256}$ | $\frac{289}{16}$ | $\frac{65+224}{16}=\frac{289}{16}$ |
| $I_C$ | $\bigl(-13,\frac{105}{16}\bigr)$ | $\frac{43264+11025}{256}=\frac{54289}{256}$ | $\frac{233}{16}$ | $\frac{65+168}{16}=\frac{233}{16}$ |
$257^2=66049$、$289^2=83521$、$233^2=54289$ である。3 つとも、中心の距離が半径の和に等しい。
3 辺 13, 14, 15 の三角形の九点円(紫、中心 $N$)と、内接円(青、中心 $I$)、3 つの傍接円(橙)。赤の四角は九点円とそれぞれの円の共有点で、九点円が 4 つの円すべてに接していることを見る図。
中心の距離が半径の差や和にちょうど等しいのは、2 つの円が接している印である(lem-feu-tangent)。図 2 では、九点円は内接円に内側から接し、3 つの傍接円に外側から接している。次の問いが出てくる。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| 2 円の中心間の距離と半径の和・差 | 接する条件(共有点がただ 1 つ) | lem-feu-tangent |
| $OI^2=R^2-2Rr$(Euler の定理) | $NI^2=\bigl(\frac R2-r\bigr)^2$ を内積の計算で出す | prf-thm-feu-main |
| 解と係数の関係 | $ab+bc+ca$ を $s$、$r$、$R$ で書く | lem-feu-symmetric |
| 反転で円が直線に移る | 九点円を、内接円と傍接円の共通接線に移す | prf-thm-feu-inversion |
2 つの円が 接する とは、共有点がちょうど 1 つであることをいう。一方の円が他方の円の内側にあって接するとき 内接する、互いに外側にあって接するとき 外接する という。共有点を 接点 という。
中心 $P$、半径 $\rho_1$ の円 $\Gamma_1$ と、中心 $Q$、半径 $\rho_2$ の円 $\Gamma_2$ があり、$d=PQ$ とする。
要点:1 では、$X$ が $PX=\rho_1$、$QX=\rho_2$ を満たすことを計算で確かめる。ほかに共有点 $Y$ があるとすると、三角不等式 $PY\le PQ+QY$ が等号になり、$\overrightarrow{PQ}$ と $\overrightarrow{QY}$ が同じ向きになるので $Y=X$ である。2 も三角不等式 $PQ\le PY+YQ$ の等号から同じように示せる。内側・外側も三角不等式からわかる。
段 1(1 の $X$ は共有点)。$d=\rho_1-\rho_2>0$ である。$X=P+\rho_1\frac{Q-P}d$ は $PX=\rho_1$ で $\Gamma_1$ の上にある。$X-Q=(P-Q)+\rho_1\frac{Q-P}d=\frac{\rho_1-d}d(Q-P)$ で、$\rho_1-d=\rho_2$ なので $QX=\rho_2$ であり、$\Gamma_2$ の上にもある。
段 2(1 の共有点はそれだけ)。$Y$ を共有点とすると $PY=\rho_1$、$QY=\rho_2$ である。三角不等式 $PY\le PQ+QY$ に入れると $\rho_1\le d+\rho_2=\rho_1$ で、等号が成り立つ。$\vec u=\overrightarrow{PQ}$、$\vec v=\overrightarrow{QY}$ とおくと $\overrightarrow{PY}=\vec u+\vec v$ で、$\lvert\vec u+\vec v\rvert^2=\lvert\vec u\rvert^2+2\vec u\cdot\vec v+\lvert\vec v\rvert^2$ と $(\lvert\vec u\rvert+\lvert\vec v\rvert)^2=\lvert\vec u\rvert^2+2\lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert+\lvert\vec v\rvert^2$ が等しいので $\vec u\cdot\vec v=\lvert\vec u\rvert\lvert\vec v\rvert$ である。$\lvert\vec u\rvert=d>0$、$\lvert\vec v\rvert=\rho_2>0$ なので、$\vec u$ と $\vec v$ のなす角の余弦は $1$ で、2 つは同じ向きである(ベクトルの内積(高校数学))。よって $Y$ は $P$ から $Q$ に向かう半直線の上で $P$ から $\rho_1$ の点であり、$Y=X$ である。
段 3(1 は内接)。$\Gamma_2$ の点 $Z$ について $PZ\le PQ+QZ=d+\rho_2=\rho_1$ なので、$\Gamma_2$ は $\Gamma_1$ の内側(周を含む)にある。
段 4(2)。$X=P+\rho_1\frac{Q-P}d$ について $PX=\rho_1$、$X-Q=\frac{\rho_1-d}d(Q-P)=-\frac{\rho_2}d(Q-P)$ で $QX=\rho_2$ である。共有点 $Y$ について $d=PQ\le PY+YQ=\rho_1+\rho_2=d$ で等号が成り立つので、段 2 と同じ理由で $\overrightarrow{PY}$ と $\overrightarrow{YQ}$ は同じ向きであり、$Y$ は線分 $PQ$ の上で $P$ から $\rho_1$ の点、すなわち $X$ である。$\Gamma_2$ の点 $Z$ について $PZ\ge PQ-QZ=d-\rho_2=\rho_1$ なので、$\Gamma_2$ は $\Gamma_1$ の外側(周を含む)にある。$\square$
$d=\rho_1-\rho_2=0$ のときは、中心も半径も同じで 2 つの円は一致する。このときは共有点が無数にあり、「接する」とはいわない。2 つの円の位置関係の全体(5 通り)と共通接線は 2円の位置関係と共通接線 で扱う。
三角形 $ABC$ の外接円の半径を $R$、九点円の中心を $N$ とする。
この定理は Feuerbach が 1822 年に発表した(Wei26)。九点円と内接円が接する点を Feuerbach 点 という(ex-feu-first の $F(6,8)$)。
証明は、内心と傍心をまとめて扱うために、次の表の記号を使う。$\alpha$ は $a$ か $-a$、$\sigma$ は $\frac{\alpha+b+c}2$、$\rho$ はその円の半径、$\varepsilon$ は符号である。
| 円 | $\alpha$ | $\sigma=\frac{\alpha+b+c}2$ | 中心 $J$ | 半径 $\rho$ | $\varepsilon$ |
|---|---|---|---|---|---|
| 内接円 | $a$ | $s$ | $I$ | $r$ | $1$ |
| $\angle A$ に向かい合う傍接円 | $-a$ | $s-a$ | $I_A$ | $r_a$ | $-1$ |
どちらの場合も、次の 4 つが成り立つ。
上の表の記号で
$$
\alpha b+bc+c\alpha=\sigma^2+\rho^2+4\varepsilon R\rho
$$
である。とくに、内接円の場合は $ab+bc+ca=s^2+r^2+4Rr$ である。
方針:$\alpha,b,c$ を解にもつ 3 次式 $f(x)=(x-\alpha)(x-b)(x-c)$ に $x=\sigma$ を 2 通りの方法で代入する。
段 1(展開)。$q=\alpha b+bc+c\alpha$ とおくと、展開して(解と係数の関係と同じ計算)
$$
f(x)=x^3-(\alpha+b+c)x^2+qx-\alpha bc=x^3-2\sigma x^2+qx-\alpha bc
$$
である。$x=\sigma$ を入れて (F3) を使うと
$$
f(\sigma)=\sigma^3-2\sigma^3+q\sigma-4\varepsilon R\rho\sigma=-\sigma^3+q\sigma-4\varepsilon R\rho\sigma
$$
である。
段 2(Heron の公式)。上で書き直した Heron の公式と (F2) から $\sigma f(\sigma)=\sigma(\sigma-\alpha)(\sigma-b)(\sigma-c)=S^2=\rho^2\sigma^2$ で、$\sigma>0$ で割って $f(\sigma)=\rho^2\sigma$ である。
段 3(比べる)。段 1・段 2 から $-\sigma^3+q\sigma-4\varepsilon R\rho\sigma=\rho^2\sigma$ で、$\sigma>0$ で割って整理すると $q=\sigma^2+\rho^2+4\varepsilon R\rho$ である。$\square$
ex-feu-first の三角形($a=14$、$b=15$、$c=13$、$s=21$、$r=4$、$R=\frac{65}8$)で確かめる。
これで主定理を示す準備ができた。九点円 で示したとおり、外心 $O$ を原点にとると九点円の中心は $\vec n=\frac{\vec a+\vec b+\vec c}2$ である。
方針:$NJ^2=\lvert\vec n-\vec j\rvert^2=ON^2-2\,\vec n\cdot\vec j+OJ^2$ と分け、3 つの項を $R$、$\sigma$、$\rho$ で書く。lem-feu-symmetric で $\sigma^2$ の項が消えることがわかる。以下、上の表の記号を使い、外心 $O$ を原点にとる。
段 1(内積を辺の長さで書く)。$\lvert\vec a\rvert=\lvert\vec b\rvert=\lvert\vec c\rvert=R$ で、Eulerの三角形の定理 の 2 つ目の証明と同じく $\vec a\cdot\vec b=R^2-\frac{c^2}2$、$\vec b\cdot\vec c=R^2-\frac{a^2}2$、$\vec c\cdot\vec a=R^2-\frac{b^2}2$ である($c^2=\lvert\vec a-\vec b\rvert^2=2R^2-2\vec a\cdot\vec b$ などから)。
段 2($ON^2$)。Euler線 の「外心と垂心の距離」により $OH^2=9R^2-(a^2+b^2+c^2)$ で、$N$ は $OH$ の中点なので $ON^2=\frac{OH^2}4$ である。$a^2=\alpha^2$ に注意して lem-feu-symmetric を使うと
$$
a^2+b^2+c^2=(\alpha+b+c)^2-2(\alpha b+bc+c\alpha)=4\sigma^2-2(\sigma^2+\rho^2+4\varepsilon R\rho)=2\sigma^2-2\rho^2-8\varepsilon R\rho
$$
なので
$$
ON^2=\frac{9R^2-2\sigma^2+2\rho^2+8\varepsilon R\rho}4
$$
である。
段 3($\vec n\cdot\vec j$ の準備)。段 1 から
$$
(\vec a+\vec b+\vec c)\cdot\vec a=R^2+\Bigl(R^2-\frac{c^2}2\Bigr)+\Bigl(R^2-\frac{b^2}2\Bigr)=3R^2-\frac{b^2+c^2}2
$$
で、同じく $(\vec a+\vec b+\vec c)\cdot\vec b=3R^2-\frac{c^2+a^2}2$、$(\vec a+\vec b+\vec c)\cdot\vec c=3R^2-\frac{a^2+b^2}2$ である。
段 4($\vec n\cdot\vec j$)。(F1) と段 3 から
$$
\begin{aligned}
4\sigma\,\vec n\cdot\vec j&=(\vec a+\vec b+\vec c)\cdot(\alpha\vec a+b\vec b+c\vec c)\\
&=3R^2(\alpha+b+c)-\frac12\bigl\{\alpha(b^2+c^2)+b(c^2+\alpha^2)+c(\alpha^2+b^2)\bigr\}
\end{aligned}
$$
である($a^2=\alpha^2$ と書きかえた)。波かっこの中を $T$ とおく。$(\alpha+b+c)(\alpha b+bc+c\alpha)$ を展開すると、$\alpha^2b$ のような項が 6 つと $\alpha bc$ が 3 つ出るので、$T=(\alpha+b+c)(\alpha b+bc+c\alpha)-3\alpha bc$ である。lem-feu-symmetric と (F3) を入れると
$$
T=2\sigma(\sigma^2+\rho^2+4\varepsilon R\rho)-12\varepsilon R\rho\sigma=2\sigma(\sigma^2+\rho^2-2\varepsilon R\rho)
$$
である。よって $4\sigma\,\vec n\cdot\vec j=6R^2\sigma-\sigma(\sigma^2+\rho^2-2\varepsilon R\rho)$ で、$4\sigma$ で割って
$$
\vec n\cdot\vec j=\frac32R^2-\frac{\sigma^2+\rho^2-2\varepsilon R\rho}4
$$
である。
段 5(まとめる)。(F4) と段 2・段 4 から
$$
\begin{aligned}
NJ^2&=ON^2-2\,\vec n\cdot\vec j+OJ^2\\
&=\frac{9R^2-2\sigma^2+2\rho^2+8\varepsilon R\rho}4-3R^2+\frac{\sigma^2+\rho^2-2\varepsilon R\rho}2+R^2-2\varepsilon R\rho
\end{aligned}
$$
である。文字ごとに係数を集める。$R^2$ は $\frac94-3+1=\frac14$、$\sigma^2$ は $-\frac12+\frac12=0$、$\rho^2$ は $\frac12+\frac12=1$、$\varepsilon R\rho$ は $2-1-2=-1$ である。よって
$$
NJ^2=\frac{R^2}4-\varepsilon R\rho+\rho^2=\Bigl(\frac R2-\varepsilon\rho\Bigr)^2
$$
である。
段 6(結論)。内接円($\varepsilon=1$)では $NI=\bigl\lvert\frac R2-r\bigr\rvert$ で、Eulerの三角形の定理 の Euler の不等式 $R\ge2r$ から $\frac R2-r\ge0$ なので $NI=\frac R2-r$ である。傍接円($\varepsilon=-1$)では $NI_A=\frac R2+r_a$ である。$I_B$、$I_C$ は、頂点の名前を入れかえて同じ計算をすればよい。
段 7(接すること)。正三角形でなければ Euler の不等式の等号は成り立たず、$\frac R2>r$ である。九点円の半径は $\frac R2$ なので、lem-feu-tangent の 1 により九点円と内接円は内接し、2 により九点円と傍接円は外接する。正三角形では $NI=0$ で半径も等しい($\frac R2=r$)ので、2 つの円は一致する。$\square$
ex-feu-first の三角形の内接円($\sigma=21$、$\rho=4$、$\varepsilon=1$、$R=\frac{65}8$)で確かめる。
$A(0,4)$、$B(-3,0)$、$C(3,0)$(3 辺 $6,5,5$)とする。$s=8$、$S=12$、$r=\frac32$、$I\bigl(0,\frac32\bigr)$ である。外心は $O\bigl(0,\frac78\bigr)$($OB^2=9+\frac{49}{64}=\frac{625}{64}$、$OA=4-\frac78=\frac{25}8$)で $R=\frac{25}8$ である。垂心は $\angle B$ からの垂線と $y$ 軸の交点で、$H\bigl(0,\frac94\bigr)$ である($\overrightarrow{BH}\cdot\overrightarrow{CA}=(3,\frac94)\cdot(-3,4)=-9+9=0$)。$N=\frac{O+H}2=\bigl(0,\frac{25}{16}\bigr)$、九点円の半径は $\frac{25}{16}$ である。
$NI=\frac{25}{16}-\frac32=\frac1{16}=\frac R2-r$ である。$I$ は $N$ の真下にあるので、lem-feu-tangent により接点は $N$ から真下へ $\frac{25}{16}$ 進んだ点 $(0,0)$ である。これは辺 $BC$ の中点 $M_a$ で、内接円が $BC$ に接する点でもある。
$b=c$ の二等辺三角形では、内接円と九点円は辺 $BC$ の中点で接する(ex-feu-isosceles)。$b\ne c$ のときは、中点 $M_a$ は内接円の外にあるので(lem-feu-fixed の証明の段 2)、接点は中点ではない。この違いは、反転による証明(prf-thm-feu-inversion)で $b=c$ の場合を分ける理由にもなる。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 三角形が正三角形でない | 九点円と内接円の共有点がただ 1 つ(接する) | ex-feu-equilateral |
| 円が九点円である(外接円に替える) | 内接円に接する | ex-feu-circumcircle |
| 円が内接円である(傍接円に替える) | 九点円に内側から接する(内接する) | ex-feu-excircles |
| 九点円の半径が $\frac R2$ である(中心 $N$ のまま半径を変える) | 内接円に接する | ex-feu-radius |
$A(0,\sqrt3)$、$B(-1,0)$、$C(1,0)$ の正三角形では、$O=H=N=I=\bigl(0,\frac{\sqrt3}3\bigr)$、$R=\frac2{\sqrt3}$、$r=\frac1{\sqrt3}$ である(九点円 の正三角形の例)。$\frac R2=\frac1{\sqrt3}=r$、$NI=0=\frac R2-r$ で thm-feu-main の 1 は成り立つが、2 つの円は同じ円になり、共有点は無数にある。外した仮定:正三角形でないこと。崩れる主張:共有点がただ 1 つであること。傍接円のほうは、$I_A(0,-\sqrt3)$、$r_a=\sqrt3$ で $NI_A=\frac{\sqrt3}3+\sqrt3=\frac{4\sqrt3}3=\frac1{\sqrt3}+\sqrt3=\frac R2+r_a$ となり、正三角形でも外接する。
外接円と内接円の中心間の距離は $OI=\sqrt{R^2-2Rr}$ である(Eulerの三角形の定理)。$(R-r)^2-(R^2-2Rr)=r^2>0$ なので $OI< R-r$ で、内接円の点 $Z$ はどれも $OZ\le OI+IZ<(R-r)+r=R$ を満たし、外接円の内部にある。よって外接円と内接円には共有点がない。ex-feu-first の三角形では $OI=\frac{\sqrt{65}}8\approx1.008$、$R-r=\frac{65}8-4=\frac{33}8=4.125$ である。外した仮定:円が九点円であること。崩れる主張:内接円に接すること。
ex-feu-first の三角形で、中心 $N\bigl(6,\frac{63}{16}\bigr)$、半径 $5$ の円を考える。$NI=\frac1{16}$ で、$5-4=1\ne\frac1{16}$、$5+4=9\ne\frac1{16}$ なので、lem-feu-tangent の条件を満たさない。実際、内接円の点 $Z$ はどれも $NZ\le NI+IZ=\frac1{16}+4<5$ で、この円の内部にあり、共有点はない。九点円の中心だけでなく、半径が $\frac R2$ であることも効いている。外した仮定:半径が $\frac R2$ であること。崩れる主張:内接円に接すること。
計算による証明は確実だが、なぜ接するのかは見えにくい。円に関する反転(円に関する反転)を使うと、九点円を直線に移して、「内接円と傍接円の共通接線」という見慣れた図形の話にできる。使う反転の性質は次の 3 つである。
(R1) 反転の中心を通る円は、中心を通らない直線に移る(円に関する反転 の「直線と円の移り方」)。
(R2) 反転の円と直交する円は、自分自身に移る(方べきの定理(高校数学) の「直交する円と方べき」)。
(R3) 円と、その点(反転の中心と異なる点)における接線を反転すると、像どうしも接する(円に関する反転 の「接することは保たれる」)。
ここでは $b\ne c$ とし、辺 $BC$ の中点を $M_a$、$\delta=\frac{\lvert b-c\rvert}2>0$、中心 $M_a$・半径 $\delta$ の円を $\omega$ とする。$\omega$ に関する反転を考える。$\angle A$ の二等分線と辺 $BC$ の交点を $L$、$A$ から直線 $BC$ への垂線の足を $D_a$ とする。
反転による証明の図。緑の破線の円 $\omega$ は中心 $M_a$・半径 $\frac{\lvert b-c\rvert}2$ で、内接円(青)と傍接円(橙)が辺 $BC$ に接する 2 点(緑の点)を通る。九点円(紫)は $\omega$ に関する反転で赤の直線 $\ell$ に移り、$\ell$ は $\angle A$ の二等分線(一点鎖線)について直線 $BC$ を折り返した直線で、内接円と傍接円の両方に接することを見る図。
$\angle A$ に向かい合う傍接円が辺 $BC$ に接する点を $P_a$ とすると、$BP_a=s-c$、$CP_a=s-b$ である。
方針:三角形の内心と傍心 の「接点までの長さ」と同じく、1 点から引いた 2 本の接線の長さが等しいことを使って連立方程式を作る。
段 1(接点の位置)。三角形の内心と傍心 で見たとおり、この傍接円は辺 $BC$(線分)に $P_a$ で接し、直線 $AB$ には $AB$ を $B$ の先に延ばした部分の点 $Z_a$ で、直線 $AC$ には $AC$ を $C$ の先に延ばした部分の点 $Y_a$ で接する。
段 2(接線の長さ)。1 点から円に引いた 2 本の接線の長さは等しい(方べきの定理(高校数学) の「接線の長さ」)。$B$ から:$BP_a=BZ_a=:x$。$C$ から:$CP_a=CY_a=:y$。$A$ から:$AZ_a=AY_a$。
段 3(連立方程式)。段 1 から $AZ_a=AB+BZ_a=c+x$、$AY_a=AC+CY_a=b+y$、$x+y=BP_a+P_aC=a$ である。段 2 から $c+x=b+y$ である。2 式を足すと $c+2x=a+b$ で、$x=\frac{a+b-c}2=s-c$、$y=a-x=s-b$ である。$\square$
$\omega$ に関する反転は、内接円を内接円に、$\angle A$ に向かい合う傍接円をその傍接円に移す。
要点:内接円と傍接円が辺 $BC$ に接する点 $P$、$P_a$ は、どちらも $M_a$ から距離 $\delta$ にあり、$\omega$ の上にある。$P$ では、内接円の半径 $IP$ は $BC$ に垂直で、$\omega$ の半径 $M_aP$ は $BC$ の上にあるので、2 つの円は直交する。(ii) により内接円は自分自身に移る。傍接円も同じである。
段 1(接点)。$B$ を原点、$C$ の向きを正として直線 $BC$ に目盛りをつける。$M_a$ は $\frac a2$ にある。内接円の接点 $P$ は $BP=s-b$(三角形の内心と傍心)なので $s-b$ に、傍接円の接点 $P_a$ は lem-feu-excircle-touch により $s-c$ にある。$$\frac a2-(s-b)=\frac{a-(a+b+c)+2b}2=\frac{b-c}2,\qquad(s-c)-\frac a2=\frac{b-c}2$$なので $M_aP=M_aP_a=\delta$ で、$P$ と $P_a$ は $\omega$ の上にある。
段 2(方べき)。$IP\perp BC$ なので、直角三角形 $IPM_a$ で三平方の定理から $M_aI^2=M_aP^2+IP^2=\delta^2+r^2$ である。よって $M_a$ の内接円に関する方べきは $M_aI^2-r^2=\delta^2>0$ で、$M_a$ は内接円の外にある。
段 3(直交)。$P$ は $\omega$ と内接円の共有点である。$P$ での 2 つの半径は、$M_aP$ が直線 $BC$ の上にあり、$IP$ が直線 $BC$ に垂直なので、互いに垂直である。よって $\omega$ と内接円は直交する(方べきの定理(高校数学) の「円に関する反転と直交する円」の定義)。段 2 の $M_aI^2=\delta^2+r^2$ は、同じ命題の 1 の条件 $d^2=r_1^2+r_2^2$ にあたる。
段 4(結論)。方べきの定理(高校数学) の「直交する円と方べき」の 2 により、$\omega$ に関する反転は内接円の点を内接円の点に移す。反転は 2 回で元に戻るので、内接円の点はどれも内接円の点の像であり、内接円は内接円全体に移る。傍接円も、段 2〜段 4 の $I$、$P$、$r$ を $I_A$、$P_a$、$r_a$ に替えて同じである。$\square$
$\omega$ に関する反転で、九点円は、$L$ を通り直線 $OA$ に垂直な直線 $\ell$ に移る。
要点:九点円は反転の中心 $M_a$ を通るので、(i) により直線 $\ell$ に移る。九点円は直線 $M_aN$ について対称なので $\ell$ も対称で、$\ell\perp M_aN$ である。$\overrightarrow{M_aN}=\frac12\overrightarrow{OA}$ から $\ell\perp OA$ となる。さらに、垂線の足 $D_a$ の反転が $L$ になる($M_aL\cdot M_aD_a=\delta^2$)ので、$\ell$ は $L$ を通る。
段 1(直線になる)。$\Gamma_N$ は辺の中点 $M_a$、つまり反転の中心を通る(九点円)。(i) により、像は $M_a$ を通らない直線である。これを $\ell$ とする。
段 2(向き)。直線 $M_aN$ を $m$ とし、$m$ についての折り返しを $\tau$ とする。$\tau$ は $M_a$ を動かさず長さを変えないので、$M_a$ からの半直線を $M_a$ からの半直線に移し、$M_aX=M_a\tau(X)$ である。したがって、$X$ の反転 $X'$(半直線 $M_aX$ の上で $M_aX\cdot M_aX'=\delta^2$)について $\tau(X')$ は $\tau(X)$ の反転である。$\Gamma_N$ は中心 $N$ が $m$ の上にあるので $\tau$ で自分自身に移る。よって $\ell$ も $\tau$ で自分自身に移る。$\ell$ の点 $X$ で $m$ の上にないものをとると($\ell$ は $M_a$ を通らないので $\ell\ne m$)、$\tau(X)$ も $\ell$ の上にあり、$X\ne\tau(X)$ で、線分 $X\tau(X)$ は $m$ に垂直である。$\ell$ はこの 2 点を通る直線なので $\ell\perp m$ である。
段 3($m$ の向き)。外心 $O$ を原点にとると、九点円 の主定理の証明の段 2 により $\vec m_a-\vec n=-\frac{\vec a}2$、つまり $\overrightarrow{M_aN}=\frac12\overrightarrow{OA}$ である。$OA=R>0$ なので $m\parallel OA$ で、段 2 と合わせて $\ell\perp OA$ である。
段 4($D_a$ の像は $L$)。段 1 と同じ目盛りで、$L$ は $\frac{ac}{b+c}$ にある(角の二等分線の定理)。$D_a$ の目盛りは $\frac{\overrightarrow{BA}\cdot\overrightarrow{BC}}a$ で、$b^2=\lvert\overrightarrow{BC}-\overrightarrow{BA}\rvert^2=a^2-2\overrightarrow{BA}\cdot\overrightarrow{BC}+c^2$ から $\overrightarrow{BA}\cdot\overrightarrow{BC}=\frac{a^2+c^2-b^2}2$ なので、$\frac{a^2+c^2-b^2}{2a}$ である。$M_a$ からの目盛りの差は$$\frac{ac}{b+c}-\frac a2=\frac{a(c-b)}{2(b+c)},\qquad\frac{a^2+c^2-b^2}{2a}-\frac a2=\frac{(c-b)(c+b)}{2a}$$で、どちらも $c-b$ と同じ符号をもち $0$ でない。よって $L$ と $D_a$ は $M_a$ から見て同じ向きにあり、$D_a\ne M_a$ で、$$M_aL\cdot M_aD_a=\frac{a\lvert c-b\rvert}{2(b+c)}\cdot\frac{\lvert c-b\rvert(b+c)}{2a}=\frac{(b-c)^2}4=\delta^2$$である。したがって $L$ は $D_a$ の反転である。$D_a$ は $\Gamma_N$ の上にあるので(九点円)、$L$ は $\ell$ の上にある。$\square$
直線 $BC$ を $\angle A$ の二等分線 $AL$ について折り返した直線を $\ell^*$ とすると、$\ell^*$ は $L$ を通り、直線 $OA$ に垂直で、内接円と $\angle A$ に向かい合う傍接円の両方に接する。
要点:二等分線 $AL$ についての折り返しは、$AB$ 向きと $AC$ 向きの単位ベクトル $\vec u$、$\vec v$ を入れかえる。よって $\ell^*$ の向きは $b\vec u-c\vec v$ で、これと $\overrightarrow{AO}$ の内積は $0$ になる。$L$、$I$、$I_A$ は折り返しの軸の上にあって動かないので、$\ell^*$ は $L$ を通り、内接円と傍接円の両方に接する。
段 1($L$ を通る)。$L$ は折り返しの軸 $AL$ の上にあるので動かない。$L$ は直線 $BC$ の上にあるので、$\ell^*$ の上にある。
段 2(向きの折り返し)。$\vec u=\frac{\overrightarrow{AB}}c$、$\vec v=\frac{\overrightarrow{AC}}b$ とおく(長さ $1$)。二等分線の向きは $\vec e=\vec u+\vec v$ である($\vec u$ と $\vec v$ は平行でないので $\vec e\ne\vec0$)。直線 $AL$ についての折り返しは、ベクトル $\vec x$ を $\frac{2(\vec x\cdot\vec e)}{\lvert\vec e\rvert^2}\vec e-\vec x$ に移す。$\vec u\cdot\vec e=1+\vec u\cdot\vec v$、$\lvert\vec e\rvert^2=2+2\vec u\cdot\vec v$ なので、$\vec u$ の行き先は $\vec e-\vec u=\vec v$ である。同じく $\vec v$ の行き先は $\vec u$ である。$\overrightarrow{BC}=b\vec v-c\vec u$ なので、$\ell^*$ の向きは $b\vec u-c\vec v$ である。
段 3($OA$ に垂直)。$OA=OB$ なので $\lvert\overrightarrow{AO}-\overrightarrow{AB}\rvert^2=\lvert\overrightarrow{AO}\rvert^2$ で、展開して $\overrightarrow{AB}\cdot\overrightarrow{AO}=\frac{c^2}2$ である。同じく $\overrightarrow{AC}\cdot\overrightarrow{AO}=\frac{b^2}2$ である。よって$$(b\vec u-c\vec v)\cdot\overrightarrow{AO}=\frac bc\cdot\frac{c^2}2-\frac cb\cdot\frac{b^2}2=\frac{bc}2-\frac{bc}2=0$$で、$\ell^*\perp OA$ である。
段 4(接する)。内心 $I$ と傍心 $I_A$ は $\angle A$ の二等分線の上にあるので(三角形の内心と傍心)、折り返しで動かず、内接円と傍接円はそれぞれ自分自身に移る。直線 $BC$ は両方の円に接するので、その折り返し $\ell^*$ も両方の円に接する(折り返しは長さを変えないので、中心から直線までの距離が半径に等しいことが保たれる)。$\square$
方針:九点円を $\omega$ で反転した直線 $\ell$ が $\ell^*$ に一致することを示し、(iii) で接することを九点円に戻す。示すのは「九点円が内接円と $\angle A$ に向かい合う傍接円に接する」ことである(内接か外接かは prf-thm-feu-main で決まる)。$I_B$、$I_C$ は頂点の名前を入れかえればよい。
段 1($b\ne c$ のとき:直線が一致する)。lem-feu-image-line の $\ell$ と lem-feu-reflected-line の $\ell^*$ は、どちらも $L$ を通り直線 $OA$ に垂直である。$L$ を通り 1 つの向きに垂直な直線はただ 1 つなので、$\ell=\ell^*$ である。
段 2($b\ne c$ のとき:接点を戻す)。lem-feu-reflected-line により $\ell$ は内接円に接する。その接点を $T$ とする。内接円は $M_a$ を通らない(prf-lem-feu-fixed の段 2)ので $T\ne M_a$ である。(iii) を「内接円と、その点 $T$ における接線 $\ell$」に使うと、像どうし、つまり内接円(lem-feu-fixed)と九点円($\ell$ の像。反転は 2 回で元に戻る)は $T'$ で接する。傍接円も同じである。
段 3($b=c$ のとき)。$M_a$ は $\overrightarrow{M_aN}=\frac12\overrightarrow{OA}$(prf-lem-feu-image-line の段 3)を満たし、$b=c$ なので $A$ と $O$ はどちらも辺 $BC$ の垂直二等分線の上にある。よって $M_aN\perp BC$ で、九点円は $M_a$ で直線 $BC$ に接する。prf-lem-feu-fixed の段 1 の計算で $b=c$ とおくと、内接円と傍接円も $M_a$ で $BC$ に接する。3 つの円はどれも $M_a$ を通り、中心は $M_a$ で $BC$ に立てた垂線の上にある。2 つの円の中心間の距離は、中心が $BC$ について同じ側なら半径の差、反対側なら半径の和になるので、lem-feu-tangent により 2 つの円は接する(半径も中心も同じなら一致する)。$\square$
ex-feu-first の三角形($a=14$、$b=15$、$c=13$)で、$\delta=1$、$M_a(7,0)$ である。
反転の証明で使ったのは、「円を直線に移す」「接することを保つ」「直交する円を動かさない」という反転の性質だけである。円と直線をまとめて扱い、反転や相似変換で移り合うものとして調べる幾何を Möbius 幾何(反転幾何)という(Möbius変換)。Feuerbach の定理は、その見方で「九点円は、内接円と傍接円の第 4 の共通接線の反転像である」と言いかえられる。
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