巡回置換

同義語:cyclic permutation

概要

巡回置換(cyclic permutation)とは、相異なる $k$ 個の元($k\ge2$)を $a_1\mapsto a_2\mapsto\cdots\mapsto a_k\mapsto a_1$ と輪にして回し、他の元を動かさない置換 $(a_1\,a_2\,\cdots\,a_k)$ のことである。有限集合の置換は互いに交わらない巡回置換の積に分解される。$S_n$ の 2 つの置換が共役であることと輪の長さの組(巡回型)が一致することは同値であり、共役類は $n$ の分割と 1 対 1 に対応する。巡回型 $1^{m_1}2^{m_2}\cdots$ の置換は $n!/\prod m_k!\,k^{m_k}$ 個あり、でたらめな $n$ 文字の置換の輪(不動点を含む)の個数の平均は $1+\frac12+\cdots+\frac1n$ である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 置換, 対称群, 群

4 文字 $1,2,3,4$ の置換 $4!=24$ 個を、「どの長さの輪に分かれるか」で分類すると次のようになる。

形例個数
すべて動かさない$e$$1$
2 文字の入れ替え 1 組$(1\,2)$$6$
2 文字の入れ替え 2 組$(1\,2)(3\,4)$$3$
3 文字の輪$(1\,2\,3)$$8$
4 文字の輪$(1\,2\,3\,4)$$6$

合計は $1+6+3+8+6=24$ である。ここで $(1\,2\,3)$ は $1\mapsto2\mapsto3\mapsto1$ と回して $4$ を動かさない置換であり、このように何文字かを 1 つの輪にして回す置換が 巡回置換 である。どの置換も互いに交わらない巡回置換の積に分解されるので、置換は「輪の長さの組」で分類できる。上の 5 つの形は、$4$ を正の整数の和に分ける 5 通りの方法 $1+1+1+1$、$2+1+1$、$2+2$、$3+1$、$4$ に対応している。
本記事では巡回置換を定義し、その冪の形、共役の公式と「共役であること=輪の長さの組が同じであること」、輪の長さの組ごとの置換の個数、でたらめに選んだ置換の輪の個数の平均を扱う。互いに交わらない巡回置換の積への分解そのものの存在と一意性は 置換 の記事で証明している。

定義

以下、$X$ は集合、置換の積 $\sigma\tau$ は $\tau$ を先に $\sigma$ を後に施す合成 $\sigma\circ\tau$ とし、恒等置換を $e$ と書く(置換・互換 の記事と同じ流儀)。

長さ $k$ の巡回置換

$k\ge2$ とし、$X$ の相異なる元 $a_1,\dots,a_k$ をとる。
$$ a_1\mapsto a_2\mapsto\cdots\mapsto a_{k-1}\mapsto a_k\mapsto a_1 $$
と移し、それ以外の元を動かさない置換を $(a_1\,a_2\,\cdots\,a_k)$ と書き、長さ $k$ の 巡回置換(cyclic permutation)、または $k$ 巡回置換という。長さ $2$ の巡回置換が互換である。集合 $\{a_1,\dots,a_k\}$(置換が動かす元の全体)を巡回置換の 台 という。

添字を $k$ を法として読み $a_{k+1}=a_1$ とすれば、$(a_1\,\cdots\,a_k)$ は $a_i\mapsto a_{i+1}$ で与えられる。同じ巡回置換は書き始めの元を変えて $k$ 通りに書ける:
$$ (a_1\,a_2\,\cdots\,a_k)=(a_2\,a_3\,\cdots\,a_k\,a_1)=\cdots=(a_k\,a_1\,\cdots\,a_{k-1}). $$
恒等置換は巡回置換に含めないが、不動点 $x$ を「長さ $1$ の輪」$(x)$ とみなすと便利なことがある。

巡回型

$n\ge1$ とし、$\sigma\in S_n$ を互いに素な巡回置換の積に分解し(置換 の記事の定理「互いに素な巡回置換の積への分解」)、不動点を長さ $1$ の輪として数える。長さ $k$ の輪の個数を $m_k$ とするとき、組 $(m_1,m_2,\dots,m_n)$ を $\sigma$ の 巡回型 といい、$1^{m_1}2^{m_2}\cdots n^{m_n}$ とも書く($m_k=0$ の因子は省く)。

輪は $\{1,\dots,n\}$ を分割するので $\sum_{k=1}^nk\,m_k=n$ である。逆にこれを満たす $0$ 以上の整数の組は、$n$ を正の整数の和に分ける方法($n$ の分割、分割数)と 1 対 1 に対応する。たとえば $(1\,4\,3)(2\,6)(5\,8)\in S_8$($7$ は不動点)の巡回型は $1^1\,2^2\,3^1$ で、$8=3+2+2+1$ に対応する。

直感

巡回置換は「輪になって座った $k$ 人が、全員そろって 1 つ隣の席へ移る」操作である。$k$ 回繰り返すと全員がもとの席に戻り、それより少ない回数では戻らないので、長さ $k$ の巡回置換の元の位数は $k$ である。
2 つの置換 $\sigma,\tau$ について $\tau\sigma\tau^{-1}$ は、「文字の名前を $\tau$ で付け替えてから $\sigma$ で並べ替え、名前を戻す」操作である(prop-cyc-conjugation)。名前を付け替えても輪の長さは変わらないので、共役な置換は同じ巡回型をもち、逆に巡回型が同じなら名前の付け替えで移り合う(thm-cyc-conjugacy-classes)。対称群では、置換の「本質的な形」は巡回型だけで決まる。

例と反例

$S_4$ の巡回型

冒頭の表を巡回型で書くと、$1^4$($e$)が $1$ 個、$1^2\,2^1$(互換)が $6$ 個、$2^2$ が $(1\,2)(3\,4)$、$(1\,3)(2\,4)$、$(1\,4)(2\,3)$ の $3$ 個、$1^1\,3^1$ が $8$ 個、$4^1$ が $6$ 個である。たとえば 3 巡回置換は、動かす 3 文字の選び方 $\binom43=4$ 通りのそれぞれに $(a\,b\,c)$ と $(a\,c\,b)$ の 2 つがあるので $8$ 個、4 巡回置換は $1$ から書き始めて残り 3 文字の並べ方 $3!=6$ 通りである。これらは thm-cyc-count の公式 $4!/(m_1!\,1^{m_1}\,m_2!\,2^{m_2}\cdots)$ とも一致する($2^2$ なら $24/(2!\cdot2^2)=3$)。

6 巡回置換の冪

$c=(1\,2\,3\,4\,5\,6)$ の冪を計算すると
$$ c^2=(1\,3\,5)(2\,4\,6),\qquad c^3=(1\,4)(2\,5)(3\,6),\qquad c^4=(1\,5\,3)(2\,6\,4),\qquad c^5=(1\,6\,5\,4\,3\,2) $$
である。$c^m$ は $\gcd(m,6)$ 個の長さ $6/\gcd(m,6)$ の巡回置換に分かれ、$m$ が $6$ と互いに素なときだけ再び 6 巡回置換になる(prop-cyc-powers)。

反例:交わる巡回置換は可換とは限らない

台が交わらない 2 つの巡回置換は可換である(置換 の記事の補題「互いに素な置換は可換」)。台が交われば一般に可換でない。たとえば
$$ (1\,2)(2\,3)=(1\,2\,3),\qquad (2\,3)(1\,2)=(1\,3\,2) $$
である。また 2 つの巡回置換の積は巡回置換とは限らない。$(1\,2\,3)(2\,3\,4)$ は $1\mapsto1\mapsto2$、$2\mapsto3\mapsto1$、$3\mapsto4\mapsto4$、$4\mapsto2\mapsto3$ なので $(1\,2)(3\,4)$ であり、巡回置換ではない。この例は「巡回置換である」を満たすが「台が交わらない」を満たさず、可換性の補題の仮定が省けないことを示す。

反例:交代群の中では巡回型で共役類が決まらない

$S_3$ の中で $(1\,2\,3)$ と $(1\,3\,2)$ は同じ巡回型 $3^1$ をもち、$(2\,3)(1\,2\,3)(2\,3)^{-1}=(1\,3\,2)$ なので共役である(prop-cyc-conjugation)。しかし偶置換の全体 $A_3=\{e,(1\,2\,3),(1\,3\,2)\}$(交代群)は位数 $3$ の巡回群なので可換であり、$A_3$ の元 $\tau$ について $\tau(1\,2\,3)\tau^{-1}=(1\,2\,3)$ である。したがって $(1\,2\,3)$ と $(1\,3\,2)$ は $A_3$ の中では共役でない。この例は「巡回型が同じである」を満たすが「共役をとる置換を $A_n$ の中から選べる」を満たさず、thm-cyc-conjugacy-classes が対称群 $S_n$ 全体での共役についての主張であることを示す。

性質

巡回置換の見分け方と冪

置換 $\sigma\in S_X$ と $x\in X$ について、$\{\sigma^m(x)\mid m\in\mathbb{Z}\}$ を $x$ の $\sigma$ による 軌道 という。$X$ が有限なら $X$ は互いに交わらない軌道に分かれ、元が $2$ 個以上の軌道ごとに 1 つずつ巡回置換を作って掛けたものが $\sigma$ の分解である(置換 の記事の定理「互いに素な巡回置換の積への分解」の証明)。

巡回置換の特徴づけ

$X$ を有限集合、$\sigma\in S_X$ とする。$\sigma$ が巡回置換であることと、$\sigma$ の軌道のうち元が $2$ 個以上のものがちょうど 1 つであることは同値である。このとき、その軌道の元 $x$ と軌道の元の個数 $\ell$ について $\sigma=(x\ \ \sigma(x)\ \ \cdots\ \ \sigma^{\ell-1}(x))$ である。

分解の一意性による

$\sigma=(a_1\,\cdots\,a_k)$ なら、$a_1$ の軌道は $\{a_1,\dots,a_k\}$($k\ge2$ 個)であり、他の元はすべて不動点なので軌道は 1 元である。逆に元が $2$ 個以上の軌道がちょうど 1 つなら、置換 の記事の定理「互いに素な巡回置換の積への分解」の証明で作る分解は、その軌道の巡回置換 $(x\ \ \sigma(x)\ \ \cdots\ \ \sigma^{\ell-1}(x))$ ただ 1 つからなり、これが $\sigma$ に等しい。$\square$

巡回置換の冪

$k\ge2$、$c=(a_0\,a_1\,\cdots\,a_{k-1})$ とし(添字は $k$ を法として読む)、$m$ を整数、$d=\gcd(m,k)$ とする。このとき $c^m$ は、$i=0,1,\dots,d-1$ についての $d$ 個の互いに素な置換
$$ (a_i\ \ a_{i+m}\ \ a_{i+2m}\ \ \cdots\ \ a_{i+(k/d-1)m}) $$
の積である($k/d=1$ のときは各因子を恒等置換と読み、$c^m=e$ である)。とくに $c^m=e$ であることと $k\mid m$ は同値で、$c$ の元の位数は $k$ である。また $c^m$ が長さ $k$ の巡回置換であることと、$m$ と $k$ が互いに素であることは同値である。

添字をずらす回数を数える

帰納法により $c^t(a_j)=a_{j+t}$ なので、$c^m(a_j)=a_{j+m}$ であり、台の外の元は $c^m$ でも動かない。$a_i$ の $c^m$ による軌道は $\{a_{i+tm}\mid t\in\mathbb{Z}\}$ である。$a_{i+tm}=a_i$ となるのは $k\mid tm$ のときであり、$k=dk'$、$m=dm'$($k',m'$ は互いに素)と書くと、$k\mid tm$ は $k'\mid tm'$、すなわち $k'\mid t$ と同値である。よって $a_i$ が初めて戻るのは $t=k'=k/d$ 回目であり、軌道の元の個数は $k/d$ で、軌道の元は $a_i,a_{i+m},\dots,a_{i+(k/d-1)m}$ である。
$tm$ はすべて $d$ の倍数なので、$a_i$ の軌道の元の添字は $k$ を法として $i$ と合同な $d$ の倍数ずれにある。$0\le j< k$ のうち $j\equiv i\pmod d$ となるものはちょうど $k/d$ 個なので、$a_i$ の軌道は $\{a_j\mid j\equiv i\pmod d\}$ に一致する。したがって台 $\{a_0,\dots,a_{k-1}\}$ は $i=0,\dots,d-1$ に対応する $d$ 個の軌道に分かれ、各軌道の上で $c^m$ は上の巡回置換として働く(置換 の記事の定理「互いに素な巡回置換の積への分解」)。
$c^m=e$ は軌道がすべて 1 元、すなわち $k/d=1$、$k\mid m$ と同値である。$c^m$ が長さ $k$ の巡回置換であることは、元が $2$ 個以上の軌道が台全体の 1 つだけ(prop-cyc-characterization)、すなわち $d=1$ と同値である。$\square$

ex-cyc-powers はこの命題の $k=6$ の場合である。長さ $k$ の巡回置換の置換の符号は $(-1)^{k-1}$ である($k-1$ 個の互換の積なので。互換 の記事の例「巡回置換の分解」)。したがって $k$ が奇数なら偶置換、偶数なら奇置換である。

共役と巡回型

共役の公式

$a_1,\dots,a_k\in X$ を相異なる元($k\ge2$)、$\tau\in S_X$ とすると
$$ \tau\,(a_1\,a_2\,\cdots\,a_k)\,\tau^{-1}=(\tau(a_1)\ \ \tau(a_2)\ \ \cdots\ \ \tau(a_k)) $$
である。したがって $\sigma=c_1\cdots c_r$ が互いに素な巡回置換の積なら、$\tau\sigma\tau^{-1}=(\tau c_1\tau^{-1})\cdots(\tau c_r\tau^{-1})$ は各 $c_i$ の文字を $\tau$ で付け替えた巡回置換の積である。とくに $X=\{1,\dots,n\}$ なら、$\tau\sigma\tau^{-1}$ は $\sigma$ と同じ巡回型をもつ。

両辺の値を比べる

$\tau$ は単射なので $\tau(a_1),\dots,\tau(a_k)$ は相異なり、右辺は長さ $k$ の巡回置換である。$c=(a_1\,\cdots\,a_k)$ とおく。$y=\tau(a_i)$ なら、左辺は $\tau(c(\tau^{-1}(y)))=\tau(c(a_i))=\tau(a_{i+1})$ であり、右辺も $\tau(a_{i+1})$ である(添字は $k$ を法とする)。$y$ がどの $\tau(a_i)$ とも異なれば $\tau^{-1}(y)\notin\{a_1,\dots,a_k\}$ なので $c$ は $\tau^{-1}(y)$ を動かさず、左辺は $\tau(\tau^{-1}(y))=y$ であり、右辺も $y$ である。
後半について、$\tau\sigma\tau^{-1}=\tau c_1\tau^{-1}\tau c_2\tau^{-1}\cdots\tau c_r\tau^{-1}$ であり、前半により $\tau c_i\tau^{-1}$ は $c_i$ と同じ長さで台が $\tau$($c_i$ の台)の巡回置換である。$\tau$ は単射なので、これらの台は互いに交わらない。とくに $X=\{1,\dots,n\}$ のとき、分解の一意性により、$\tau\sigma\tau^{-1}$ の長さ $2$ 以上の輪の長さは $\sigma$ と同じであり、不動点の個数($n$ から台の元の個数の和を引いたもの)も同じなので、巡回型が一致する。$\square$

対称群の共役類と巡回型

$\sigma,\rho\in S_n$ について、$\tau\sigma\tau^{-1}=\rho$ となる $\tau\in S_n$ が存在すること($\sigma$ と $\rho$ が $S_n$ で共役であること)と、$\sigma$ と $\rho$ の巡回型が一致することは同値である。したがって $S_n$ の共役類は $n$ の分割と 1 対 1 に対応し、その個数は分割数 $p(n)$ である。

同じ長さの輪どうしを重ねる

共役なら巡回型が一致することは prop-cyc-conjugation である。逆に巡回型が一致するとする。不動点も長さ $1$ の輪として、$\sigma$ の輪を長さの順に並べて
$$ \sigma:\ (a_{1,1}\,\cdots\,a_{1,\ell_1})(a_{2,1}\,\cdots\,a_{2,\ell_2})\cdots(a_{r,1}\,\cdots\,a_{r,\ell_r}) $$
と書き、$\rho$ の輪も同じ長さの列 $\ell_1,\dots,\ell_r$ で $(b_{1,1}\,\cdots\,b_{1,\ell_1})\cdots(b_{r,1}\,\cdots\,b_{r,\ell_r})$ と書く(巡回型が同じなのでこう並べられる)。$1,\dots,n$ はどちらの並びにもちょうど 1 回ずつ現れるので、$\tau(a_{i,j}):=b_{i,j}$ は $S_n$ の元を定める。$j$ を $\ell_i$ を法として読むと $\sigma(a_{i,j})=a_{i,j+1}$、$\rho(b_{i,j})=b_{i,j+1}$ であり(長さ $1$ の輪では $a_{i,1}$ も $b_{i,1}$ も不動点である)、
$$ \tau\sigma\tau^{-1}(b_{i,j})=\tau(\sigma(a_{i,j}))=\tau(a_{i,j+1})=b_{i,j+1}=\rho(b_{i,j}) $$
がすべての $b_{i,j}$、すなわち $1,\dots,n$ のすべてで成り立つので $\tau\sigma\tau^{-1}=\rho$ である。巡回型と $n$ の分割の対応は def-cyc-type の後に述べたとおりである。$\square$

この定理は 対称群 の記事の定理「共役類の分類」と同じ内容である。同記事は共役の公式を証明なしに用いているので、ここでは公式(prop-cyc-conjugation)から示した。$n=4$ では $p(4)=5$ であり、冒頭の表の 5 行が $S_4$ の 5 つの共役類である。

巡回型ごとの個数

巡回型が与えられた置換の個数

$n\ge1$ とし、$\sum_{k=1}^nk\,m_k=n$ を満たす $0$ 以上の整数の組 $(m_1,\dots,m_n)$ をとる。巡回型が $1^{m_1}2^{m_2}\cdots n^{m_n}$ である $\sigma\in S_n$ の個数は
$$ \frac{n!}{\prod_{k=1}^n m_k!\,k^{m_k}} $$
である。

型紙に数字を書き込む

長さ $1$ の括弧を $m_1$ 個、長さ $2$ の括弧を $m_2$ 個、…と長さの順に並べ、各括弧に長さと同じ数の空欄を置いた「型紙」を作る。空欄は全部で $n$ 個ある。$1,\dots,n$ を 1 回ずつ並べた列($n!$ 通り)を左から順に空欄へ書き込むと、各括弧は輪 $(x_1\,\cdots\,x_k)$ になり、それらの積(長さ $1$ の輪は不動点と読む)は巡回型 $1^{m_1}\cdots n^{m_n}$ の置換である。逆にこの巡回型の置換 $\sigma$ は、分解(置換 の記事の定理「互いに素な巡回置換の積への分解」)に現れる輪を型紙に書き込むことで得られる。
同じ $\sigma$ を与える書き込み方の個数を数える。分解の一意性により、$\sigma$ の長さ $k$ の輪の集合は決まっているので、書き込み方は (i) 長さ $k$ の $m_k$ 個の輪を長さ $k$ の $m_k$ 個の括弧にどの順で割り当てるか($m_k!$ 通り)と、(ii) 各輪をどの元から書き始めるか(長さ $k$ の輪ごとに $k$ 通り)で決まり、これらの選び方が異なれば書き込まれる列も異なる。よって同じ $\sigma$ を与える列はちょうど $\prod_km_k!\,k^{m_k}$ 個あり、求める個数は $n!/\prod_km_k!\,k^{m_k}$ である。$\square$

長さ $k$ の巡回置換の個数

$2\le k\le n$ について、$S_n$ の長さ $k$ の巡回置換の個数は $\binom nk(k-1)!$ である。とくに長さ $n$ の巡回置換は $(n-1)!$ 個ある。

個数の公式に当てはめる

長さ $k$ の巡回置換の巡回型は $1^{n-k}k^1$ なので、thm-cyc-count により個数は $\dfrac{n!}{(n-k)!\cdot k}=\dbinom nk\dfrac{k!}{k}=\dbinom nk(k-1)!$ である。$\square$

中心化群の位数

巡回型が $1^{m_1}\cdots n^{m_n}$ である $\sigma\in S_n$ と可換な置換の全体($\sigma$ の中心化群(共役(群論)))$C(\sigma)=\{\tau\in S_n\mid\tau\sigma=\sigma\tau\}$ の位数は $\prod_{k}m_k!\,k^{m_k}$ である。

共役による作用の軌道と安定化群

$S_n$ は自分自身に共役 $\tau\cdot\sigma=\tau\sigma\tau^{-1}$ で作用し、$\sigma$ の軌道は $\sigma$ の共役類、安定化群は $C(\sigma)$ である(群の作用 の記事の例「共役による作用」)。thm-cyc-conjugacy-classes により共役類は巡回型が $\sigma$ と同じ置換の全体であり、その個数は thm-cyc-count により $n!/\prod_km_k!\,k^{m_k}$ である。軌道・安定化群定理(群の作用 の記事の定理「軌道・安定化群定理」)により、軌道の元の個数は $|S_n|/|C(\sigma)|$ に等しいので、$|C(\sigma)|=\prod_km_k!\,k^{m_k}$ である。$\square$

たとえば $n$ 巡回置換 $\sigma=(1\,2\,\cdots\,n)$ では $|C(\sigma)|=n$ であり、$\sigma$ と可換な置換は $\sigma$ の冪 $e,\sigma,\dots,\sigma^{n-1}$ だけである(これらは $\sigma$ と可換で、ちょうど $n$ 個ある)。

でたらめな置換の輪の個数

$S_n$ から置換を等確率に 1 つ選ぶ(有限な確率空間で各置換の確率を $1/n!$ とする)。不動点も長さ $1$ の輪として数えた輪の個数を $N(\sigma)$ とする。

輪の個数の期待値

$1\le k\le n$ について、長さ $k$ の輪の個数の期待値は $1/k$ である。したがって
$$ E[N]=1+\frac12+\frac13+\cdots+\frac1n $$
である。

指示確率変数に分けて線形性を使う

長さ $k$ の「輪」$\gamma$ を、$k$ 個の相異なる元を円く並べたもの $(a_1\,\cdots\,a_k)$(書き始めの違いは同一視する。$k=1$ なら 1 点 $(a_1)$)とする。輪 $\gamma$ の個数は、元の選び方 $\binom nk$ と円く並べる方法 $(k-1)!$ の積 $\binom nk(k-1)!$ である。置換 $\sigma$ の分解に $\gamma$ が現れる($\sigma(a_i)=a_{i+1}$ がすべての $i$ で成り立つ)とき $1$、そうでないとき $0$ となる確率変数を $X_\gamma$ とする。$X_\gamma(\sigma)=1$ となる $\sigma$ は、$a_1,\dots,a_k$ での値が決まっていて、残りの $n-k$ 元の上では残りの $n-k$ 元の置換として任意なので、$(n-k)!$ 個ある。よって $E[X_\gamma]=(n-k)!/n!$ である。長さ $k$ の輪の個数は $X_\gamma$ を長さ $k$ のすべての輪 $\gamma$ について足したものなので、期待値 の記事の定理「期待値の線形性」により、その期待値は
$$ \binom nk(k-1)!\cdot\frac{(n-k)!}{n!}=\frac{n!}{k!\,(n-k)!}\cdot(k-1)!\cdot\frac{(n-k)!}{n!}=\frac1k $$
である。$N$ は長さ $1,\dots,n$ の輪の個数の和なので、再び線形性により $E[N]=\sum_{k=1}^n1/k$ である。$\square$

$k=1$ の場合は「不動点の個数の期待値は $1$」であり、期待値 の記事の例「帽子の問題(置換の不動点)」と一致する。$n=4$ では $E[N]=25/12$ であり、冒頭の表から輪の個数の合計を数えると $1\cdot4+6\cdot3+3\cdot2+8\cdot2+6\cdot1=50$、$50/24=25/12$ で一致する。右辺の調和級数の部分和は $\log(n+1)< E[N]\le1+\log n$ を満たす(調和級数 の記事の命題「積分による上下の評価」)ので、$n$ 文字のでたらめな置換の輪はおよそ $\log n$ 個しかない。

補足

輪の個数による数え上げと巡回指数

$S_n$ のうち輪の個数(不動点を含む)がちょうど $k$ 個の置換の個数は符号なし第 1 種 Stirling 数 $c(n,k)$ であり、漸化式 $c(n+1,k)=n\,c(n,k)+c(n,k-1)$ を満たす(数え上げ組合せ論 の記事の定義「第1種Stirling数」と命題「第1種Stirling数の漸化式」、Bog §6.1.7 の Problem 277、p. 113)。prop-cyc-expected-number は $\sum_kk\,c(n,k)=n!\,(1+\frac12+\cdots+\frac1n)$ と言い換えられる。
置換群 $G\subset S_n$ の各元の巡回型 $1^{m_1}\cdots n^{m_n}$ に単項式 $x_1^{m_1}\cdots x_n^{m_n}$ を対応させて平均したものを $G$ の巡回指数といい、Pólya の数え上げ定理で「対称性で移り合うものを同一視した塗り分けの数」を数えるのに使われる(KT17 §15.4.1、pp. 299–301)。巡回型が数え上げに効くのは、置換 $\pi$ で変わらない塗り分けでは各輪の上の色がすべて等しいからである。

文献

巡回表記と巡回の長さによる分類は KT17 §15.2.1(pp. 295–296、Example 15.4 は輪の長さの数え方)と Bog §6.1.7(pp. 112–113)による。共役の公式、共役類と巡回型の対応、巡回型ごとの個数の公式、輪の個数の期待値は本記事で証明した。

関連項目

参考文献

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