H空間

同義語:H-spaceHopf空間

概要

H空間(H-space)とは、連続な積 $\mu\colon X\times X\to X$ と点 $e$ をもち、$x\mapsto\mu(x,e)$ と $x\mapsto\mu(e,x)$ がどちらも基点を止めたホモトピーで恒等写像と結べる空間である。位相群、ループ空間、単位球面 $S^1,S^3,S^7$ が例で、単位元を基点とする基本群は可換になる。弧状連結な CW 複体であるH空間のコホモロジーが各次数で有限生成自由なら、積の引き戻しが余積を与え、正の次数の元 $\alpha$ は $\alpha\otimes1+1\otimes\alpha$ と正の次数どうしの項の和に写る。ここから標数 $0$ の体の係数での Hopf の定理が出て、偶数次元の球面や $\mathbb{CP}^n$ はH空間でないことがわかる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: カップ積, コホモロジー環, ホモトピー, CW複体

H 空間(H-space)は、連続な積 $\mu\colon X\times X\to X$ と、ホモトピーを込めて単位元としてはたらく点 $e$ をもつ空間である。名前の H は Hopf にちなむ。位相群、ループ空間、単位球面 $S^1,S^3,S^7$ がその例で、群の公理のうち単位元の存在だけを(ホモトピーを込めて)残したものといえる。
単位元しか要求しないのに、H 空間のコホモロジーには強い制約がかかる。積 $\mu$ が引き戻しによって余積 $H^*(X)\to H^*(X)\otimes H^*(X)$ を与え、その形が単位元の性質で決まってしまうからである。この記事では、H 空間の定義と例を述べたあと、単位元を基点とする基本群が可換であること(hsp-thm-pi1)、コホモロジーの余積の性質(hsp-thm-coproduct)、標数 $0$ の体の上の Hopf の定理(hsp-thm-hopf)を証明する。帰結として、偶数次元の球面や複素射影空間 $\mathbb{CP}^n$ が H 空間でないこと(hsp-prop-not-h)がわかる。

定義

$I:=[0,1]$ とし、積空間にはつねに積位相を入れる。

H 空間

空でない位相空間 $X$、点 $e\in X$、連続写像 $\mu\colon X\times X\to X$ の組 $(X,\mu,e)$ が H 空間であるとは、連続写像 $R,L\colon X\times I\to X$ で
$$ R(x,0)=\mu(x,e),\quad R(x,1)=x,\quad L(x,0)=\mu(e,x),\quad L(x,1)=x,\quad R(e,t)=L(e,t)=e $$
($x\in X$、$t\in I$)をみたすものが存在することをいう。すなわち、$x\mapsto\mu(x,e)$ と $x\mapsto\mu(e,x)$ が、どちらも恒等写像と基点 $e$ を止めたホモトピーで結べる。$\mu$ を積、$e$ を単位元という。とくに $\mu(e,e)=R(e,0)=e$ である。

  1. $\mu(x,e)=\mu(e,x)=x$($x\in X$)が等式として成り立つとき、単位元は厳密であるという。
  2. $\mu\circ(\mu\times\mathrm{id})$ と $\mu\circ(\mathrm{id}\times\mu)\colon X\times X\times X\to X$ がホモトピックなとき、ホモトピー結合的という。
定義の流儀

ホモトピーが基点を止めることを課さない定義や、逆に単位元が厳密であることを課す定義もある。単位元が $0$ 胞体である CW 複体で、$X\times X$ も CW 複体になる場合には、基点を止める定義から厳密な定義へ直せる(hsp-prop-strict)。基点を止めない定義から直すことは Hat02 §3.C の演習 1(p. 291)で問われており、この記事では扱わない。基点を止める定義の利点は、次の命題のように、基点付きホモトピー同値で H 空間の性質が移ることである。結合性と逆元を基点を止めたホモトピーで課した H 空間を H 群という(ループ空間 の定義「H 空間と H 群」)。

基点付きホモトピー同値で移ること

$(X,\mu,e)$ を H 空間とし、基点付き連続写像 $f\colon(X,e)\to(Y,e')$、$g\colon(Y,e')\to(X,e)$ が $f\circ g\simeq\mathrm{id}_Y$($e'$ を止めたホモトピー)をみたすとする。このとき $\mu'(y,y'):=f(\mu(g(y),g(y')))$ により $(Y,\mu',e')$ は H 空間である。

要点:$\mu'(y,e')=f(\mu(g(y),e))$ を、$R$ で $f(g(y))$ に、さらに $f\circ g\simeq\mathrm{id}_Y$ で $y$ に変形する。

詳しい証明を開く

$G\colon Y\times I\to Y$ を $G(y,0)=f(g(y))$、$G(y,1)=y$、$G(e',t)=e'$ をみたすホモトピーとする。$g(e')=e$ なので $\mu'(y,e')=f(\mu(g(y),e))$ である。$R'(y,t):=f(R(g(y),2t))$($t\le\frac12$)、$R'(y,t):=G(y,2t-1)$($t\ge\frac12$)とおくと、$t=\frac12$ で両式は $f(g(y))$ に一致し、閉集合 $Y\times[0,\frac12]$ と $Y\times[\frac12,1]$ の上でそれぞれ連続なので $R'$ は連続である。$R'(y,0)=\mu'(y,e')$、$R'(y,1)=y$、$R'(e',t)=f(R(e,2t))=f(e)=e'$($t\le\frac12$)、$G(e',2t-1)=e'$($t\ge\frac12$)である。$L'$ も $L$ から同様に作れる。$\square$

例

位相群と単位球面

位相群 $G$ は、群の積と単位元によって厳密な単位元をもつ H 空間である。$\mathrm{GL}_n(\mathbb{R})$、直交群 $O(n)$、$SO(n)$、Lie群 はすべてこの例である。単位複素数の全体 $S^1\subset\mathbb{C}$ と単位四元数の全体 $S^3\subset\mathbb{H}$ は、絶対値が積を保つ($|ab|=|a||b|$)ので積で閉じた位相群である(四元数)。

7 次元球面と射影空間

八元数 の積は結合的でないが、絶対値 $1$ の八元数の全体 $S^7$ は積で閉じ、$1$ を厳密な単位元とする H 空間になる(八元数 の節「単位八元数と 7 次元球面」)。$S^1,S^3,S^7$ の中で $-1$ はすべての元と可換なので、積は商 $\mathbb{RP}^1,\mathbb{RP}^3,\mathbb{RP}^7$ に降りて、これらも H 空間になる(Hat02 p. 285)。逆に、球面 $S^n$ が H 空間になるのは $n=0,1,3,7$ のときに限る。これは Adams の Hopf 不変量 $1$ の定理の帰結として Hat02 §4.B(pp. 427–428)に述べられている。この記事では証明しない。

ループ空間と James 簡約積

基点付き空間 $X$ の ループ空間 $\Omega X$ は、ループの連結を積とし、定値ループを単位元とする H 空間である(同記事の定理「ループ空間は H 群」)。可算個の胞体をもつ CW 複体 $X$ で基点が $0$ 胞体のとき(たとえば $X=S^n$)、James簡約積 $J(X)$ は、語を並べる積によって、結合的で厳密な単位元をもつ H 空間である(Hat02 p. 282)。$J(S^n)$ は $\Omega S^{n+1}$ と弱ホモトピー同値であり(同記事の定理「James の定理」)、H 空間のコホモロジーの典型例を与える。

無限次元複素射影空間

$0$ でない複素係数の多項式 $a_0+a_1z+\dots+a_nz^n$ を $\mathbb{C}^\infty\setminus\{0\}$ の点 $(a_0,\dots,a_n,0,\dots)$ とみると、多項式の積は結合的・可換で $(1,0,0,\dots)$ を単位元とする積を与える。$0$ でない定数倍で割ると、結合的・可換で厳密な単位元をもつ積 $\mathbb{CP}^\infty\times\mathbb{CP}^\infty\to\mathbb{CP}^\infty$ が得られる(Hat02 p. 282)。有限の $n$ の $\mathbb{CP}^n$ は H 空間でない(hsp-prop-not-h)。

単位元の厳密化

CW 複体では、ホモトピー拡張性質を使って単位元を厳密にできる。$X\vee X:=X\times\{e\}\cup\{e\}\times X\subset X\times X$ と書く。

単位元の厳密化

$(X,\mu,e)$ を H 空間とし、$X$ は CW 複体、$e$ はその $0$ 胞体で、$X\times X$(積位相)は積胞体を胞体とする CW 複体であるとする(たとえば $X$ が有限 CW 複体のとき。Hat02 Theorem A.6, p. 524)。このとき $\mu$ にホモトピックな連続写像 $\mu'\colon X\times X\to X$ で、$\mu'(x,e)=\mu'(e,x)=x$ をみたすものがある。$(X,\mu',e)$ は厳密な単位元をもつ H 空間である。

要点:$X\vee X$ の上で単位元のホモトピー $R,L$ を貼り合わせたホモトピーを、対 $(X\times X,X\vee X)$ のホモトピー拡張性質で $X\times X$ 全体へ延ばし、その終点を $\mu'$ とする。

詳しい証明を開く

$R,L$ を hsp-def-main のホモトピーとし、$h\colon(X\vee X)\times I\to X$ を$$h((x,e),t):=R(x,t),\qquad h((e,y),t):=L(y,t)$$で定める。2 つの式が重なるのは点 $(e,e)$ だけで、そこでは $R(e,t)=e=L(e,t)$ なので $h$ は矛盾なく定まる。$X$ は Hausdorff なので $\{e\}$ は閉集合であり、$X\times\{e\}$ と $\{e\}\times X$ は $X\vee X$ の閉集合である。$h$ はそれぞれの上で連続($X\times\{e\}\to X$、$(x,e)\mapsto x$ は同相写像)なので、貼り合わせて連続である。$h_0=\mu|_{X\vee X}$ である。

$X\vee X$ は CW 複体 $X\times X$ の部分複体なので、対 $(X\times X,X\vee X)$ はホモトピー拡張性質をもつ(コファイブレーション の例「CW 対と良い基点」)。よってホモトピー $H\colon X\times X\times I\to X$ で $H_0=\mu$、$H_t|_{X\vee X}=h_t$ となるものがある。$\mu':=H_1$ とおくと $\mu'(x,e)=R(x,1)=x$、$\mu'(e,y)=L(y,1)=y$ であり、$H$ が $\mu$ と $\mu'$ を結ぶ。単位元のホモトピーは定値のもの $R'(x,t):=x$ でよい。$\square$

基本群の可換性

H 空間の基本群は可換

$(X,\mu,e)$ を H 空間とすると、基本群 $\pi_1(X,e)$ は可換群である。

要点:ループ $f,g$ について、$t\mapsto\mu(f(t),g(t))$ は $f\cdot g$ とも $g\cdot f$ とも端点を止めてホモトピックである。$(f,g)$ を $(f\cdot c,c\cdot g)$ と $(c\cdot f,g\cdot c)$($c$ は定値ループ)に変形してから $\mu$ を合成し、単位元のホモトピーで $\mu(f,e)$ を $f$ に、$\mu(e,g)$ を $g$ に戻す。

詳しい証明を開く

$f,g$ を $e$ を基点とするループ、$c$ を $e$ にとどまる定値ループとし、ループの連結を $\cdot$ で書く。まず$$\mu\circ(f,g)\simeq f\cdot g\qquad(\text{端点を止めたホモトピー})$$を示す。ここで $\mu\circ(f,g)$ は $t\mapsto\mu(f(t),g(t))$ である。$f\cdot c\simeq f$、$c\cdot g\simeq g$(端点を止めたホモトピー、基本群)なので、それらを成分とする $X\times X$ の道のホモトピーにより $(f,g)\simeq(f\cdot c,c\cdot g)$ であり、$\mu$ を合成すると端点が $\mu(e,e)=e$ に止まったまま$$\mu\circ(f,g)\simeq\mu\circ(f\cdot c,c\cdot g)$$となる。右辺は、$t\le\frac12$ で $\mu(f(2t),e)$、$t\ge\frac12$ で $\mu(e,g(2t-1))$ であり、ループ $f_R(t):=\mu(f(t),e)$ と $g_L(t):=\mu(e,g(t))$ の連結 $f_R\cdot g_L$ に等しい。$(t,s)\mapsto R(f(t),s)$ は $f_R$ から $f$ へのホモトピーで、$R(e,s)=e$ なので端点は止まっている。同様に $g_L\simeq g$ なので、$\mu\circ(f,g)\simeq f\cdot g$ である。

同じ議論を $(f,g)\simeq(c\cdot f,g\cdot c)$ に使うと、$\mu\circ(c\cdot f,g\cdot c)$ は $t\le\frac12$ で $\mu(e,g(2t))$、$t\ge\frac12$ で $\mu(f(2t-1),e)$ なので $g_L\cdot f_R\simeq g\cdot f$ となり、$\mu\circ(f,g)\simeq g\cdot f$ を得る。よって $[f][g]=[g][f]$ である。$\square$

たとえば $S^1\vee S^1$ の基本群は 2 元で生成される自由群で可換でないので、$S^1\vee S^1$ はどんな積をもってきても H 空間にならない。さらに、H 空間では $\pi_1$ の高次ホモトピー群 $\pi_n$ への作用も自明になる(Hat02 p. 342 で予告され、Example 4A.3(p. 422)で示される。この記事では証明しない)。

コホモロジーの余積

この節では、$X$ は弧状連結な CW 複体で、H 空間 $(X,\mu,e)$ の構造をもつとする。$R$ を可換環とし、すべての $k$ について $H^k(X;R)$ が有限生成自由 $R$ 加群であるとする。$H^*:=H^*(X;R)$ と書く。$X$ は弧状連結なので $H^0=R\cdot1$ である。
コホモロジー環 の定理「Künneth の定理(環の形)」により、クロス積 $\theta(a\otimes b):=p_1^*a\smile p_2^*b$($p_1,p_2\colon X\times X\to X$ は射影)は次数付き $R$ 代数の同型
$$ \theta\colon H^*\otimes_RH^*\xrightarrow{\ \cong\ }H^*(X\times X;R) $$
である。ここで $H^*\otimes_RH^*$ の積は $(a\otimes b)(c\otimes d):=(-1)^{|b||c|}ac\otimes bd$ である。

余積と原始元

$\Delta:=\theta^{-1}\circ\mu^*\colon H^*\to H^*\otimes_RH^*$ を H 空間 $X$ のコホモロジーの余積という。$\Delta(\alpha)=\alpha\otimes1+1\otimes\alpha$ をみたす $\alpha$ を原始元という。

余積の性質

$\Delta$ は次数を保つ $R$ 代数の準同型であり、次数 $n>0$ の $\alpha\in H^n$ について
$$ \Delta(\alpha)=\alpha\otimes1+1\otimes\alpha+\sum_i\alpha_i'\otimes\alpha_i'',\qquad|\alpha_i'|>0,\ |\alpha_i''|>0 $$
の形に書ける。

$\mu^*$ は環準同型で次数を保ち、$\theta$ は次数付き代数の同型なので、$\Delta$ は次数を保つ代数の準同型である。
$\varepsilon\colon H^*\to R$ を、$H^0=R\cdot1$ への射影(正の次数の成分を $0$ にする写像)とする。$i_1,i_2\colon X\to X\times X$ を $i_1(x):=(x,e)$、$i_2(x):=(e,x)$ とし、$c_e\colon X\to X$ を $e$ への定値写像とする。$c_e$ は 1 点を経由するので、$c_e^*$ は正の次数で $0$ であり、$c_e^*(1)=1$ である。すなわち $c_e^*(b)=\varepsilon(b)\cdot1$ である。$p_1\circ i_1=\mathrm{id}$、$p_2\circ i_1=c_e$ なので、カップ積の自然性から
$$ i_1^*\theta(a\otimes b)=a\smile c_e^*b=\varepsilon(b)\,a $$
となる。同様に $i_2^*\theta(a\otimes b)=\varepsilon(a)\,b$ である。
H 空間の定義により $\mu\circ i_1\simeq\mathrm{id}_X$ なので $i_1^*\mu^*=\mathrm{id}$ であり、$\alpha\in H^n$ について
$$ \alpha=i_1^*\theta(\Delta\alpha)=(\mathrm{id}\otimes\varepsilon)(\Delta\alpha) $$
である($H^*\otimes_RR=H^*$ と同一視した)。$\Delta\alpha$ を $\bigoplus_{p+q=n}H^p\otimes_RH^q$ の成分に分けると、$H^n\otimes_RH^0=H^n\otimes R\cdot1$ の成分は $a\otimes1$ の形であり、$\mathrm{id}\otimes\varepsilon$ はこの成分だけを $a$ として残してほかの成分を $0$ にする。よって $a=\alpha$、すなわち $H^n\otimes H^0$ の成分は $\alpha\otimes1$ である。$i_2$ を使えば、同じく $H^0\otimes H^n$ の成分は $1\otimes\alpha$ である。$n>0$ なら、残りの成分は $p,q>0$ の $H^p\otimes H^q$ にある。$\square$

hsp-thm-coproduct の性質をもつ代数を、Hat02 §3.C(p. 283)にならって(連結な)Hopf 代数と呼ぶ。正確には、可換環 $R$ の上の次数付き代数 $A=\bigoplus_{n\ge0}A^n$ で $A^0=R\cdot1$ をみたし、次数を保つ代数の準同型 $\Delta\colon A\to A\otimes_RA$ が上の形をもつものである。Hopf代数 の記事の定義とは違い、余積の結合性や対蹠射は課していない。$\mu$ がホモトピー結合的なら $\Delta$ も結合的になるが、hsp-thm-coproduct とそれを使う以下の議論は結合性を使わないので、ホモトピー結合性を仮定しない H 空間にもそのまま当てはまる。

余積の計算

$\alpha\in H^n$ について、$0< j< n$ で $H^j=0$ なら、$\alpha_i',\alpha_i''$ の入る場所がないので $\alpha$ は原始元である。$\alpha$ が原始元のとき、$n$ が偶数なら $\alpha\otimes1$ と $1\otimes\alpha$ は可換なので、二項展開により
$$ \Delta(\alpha^k)=(\alpha\otimes1+1\otimes\alpha)^k=\sum_{i=0}^k\binom ki\alpha^i\otimes\alpha^{k-i} $$
である。$R=\mathbb{Z}/2$ なら符号が消えるので、$n$ の偶奇によらず同じ式が成り立つ。$n$ が奇数なら $(1\otimes\alpha)(\alpha\otimes1)=-\alpha\otimes\alpha$ なので $\Delta(\alpha)^2=\alpha^2\otimes1+1\otimes\alpha^2$ となる。

H空間でない空間

余積の形だけから、多くの空間が H 空間でないことがわかる。

H 空間にならない空間

次の空間には、どんな積と単位元をとっても H 空間の構造が入らない。

  1. 偶数次元の球面 $S^{2k}$($k\ge1$)。
  2. 複素射影空間 $\mathbb{CP}^n$($1\le n<\infty$)。
  3. 実射影空間 $\mathbb{RP}^n$($n\ge1$)で、$n+1$ が $2$ の冪でないもの。

要点:H 空間の構造があるとすると、hsp-thm-coproduct により最低次の生成元は原始元で、$\Delta$ は代数の準同型である。1 では $0=\Delta(u^2)=2\,u\otimes u$、2 では $0=\Delta(\alpha^{n+1})$ の $\alpha\otimes\alpha^n$ の係数 $n+1$、3 では $\mathbb{Z}/2$ 係数で $\binom{n+1}{i}$ がすべて偶数であることが要求され、どれも成り立たない。

詳しい証明を開く

どれも弧状連結な有限 CW 複体であり(CW複体 の命題「球面の 2 つの CW 構造」「射影空間の CW 構造」)、H 空間の構造があるとして hsp-thm-coproduct を使って矛盾を導く。

1:$R=\mathbb{Z}$ とすると $H^*(S^{2k};\mathbb{Z})=\mathbb{Z}[u]/(u^2)$、$|u|=2k$ で、各次数は有限生成自由である。$0< j<2k$ で $H^j=0$ なので $u$ は原始元であり(hsp-ex-coproduct)、$\Delta$ は代数の準同型なので$$0=\Delta(u^2)=(u\otimes1+1\otimes u)^2=u^2\otimes1+2\,u\otimes u+1\otimes u^2=2\,u\otimes u$$となる。しかし $H^{2k}\otimes H^{2k}\cong\mathbb{Z}$ は $u\otimes u$ で生成されるので $2\,u\otimes u\ne0$ であり、矛盾する。

2:$H^*(\mathbb{CP}^n;\mathbb{Z})=\mathbb{Z}[\alpha]/(\alpha^{n+1})$、$|\alpha|=2$ である(コホモロジー環 の節「代表的なコホモロジー環」)。$H^1=0$ なので $\alpha$ は原始元で、hsp-ex-coproduct により$$0=\Delta(\alpha^{n+1})=\sum_{i=1}^{n}\binom{n+1}{i}\alpha^i\otimes\alpha^{n+1-i}$$となる($i=0,n+1$ の項は $\alpha^{n+1}=0$ で消える)。$\alpha^i\otimes\alpha^{n+1-i}$($1\le i\le n$)は $H^*\otimes H^*$ の異なる成分の生成元なので、係数 $\binom{n+1}{1}=n+1$ が $0$ でなければならず、矛盾する。

3:$R=\mathbb{Z}/2$ とすると $H^*(\mathbb{RP}^n;\mathbb{Z}/2)=(\mathbb{Z}/2)[\alpha]/(\alpha^{n+1})$、$|\alpha|=1$ である(実射影空間 の定理「$\mathbb{Z}/2$ 係数のコホモロジー環」)。次数 $1$ の元は原始元で、2 と同じ計算により、$1\le i\le n$ のすべてで $\binom{n+1}{i}$ が偶数でなければならない。ところが $m:=n+1=2^ru$($u\ge3$ は奇数)と書けるなら、$(\mathbb{Z}/2)[x]$ で $(1+x)^{2^r}=1+x^{2^r}$($r$ に関する帰納法で、$(a+b)^2=a^2+b^2$ を使う)なので$$(1+x)^m=(1+x^{2^r})^u=1+u\,x^{2^r}+(\text{次数}>2^r\text{ の項})$$となり、$\binom{m}{2^r}\equiv u\equiv1\pmod2$ である。$0<2^r< m$ なので矛盾する。$\square$

3 の逆は成り立たない。$\mathbb{RP}^1,\mathbb{RP}^3,\mathbb{RP}^7$ は H 空間だが(hsp-ex-s7)、$n+1=16$ の $\mathbb{RP}^{15}$ は H 空間でない。$\mathbb{RP}^n$ が H 空間になるのは $n=1,3,7$ に限ることが、H 空間の普遍被覆がまた H 空間になること(Hat02 §3.C の演習 4)と Adams の定理(hsp-ex-s7)から従う(Hat02 p. 285。この記事では証明しない)。$S^{2k}$ が H 空間でないことは、James簡約積 $J_2(S^{2k})$ の $4k$ 胞体の付着写像を使っても確かめられる(同記事の定理「H 空間であることの判定」)。

Hopf の定理

体 $F$ の上の次数付き代数 $A=\bigoplus_{n\ge0}A^n$ が次数付き可換であるとは、斉次元について $ab=(-1)^{|a||b|}ba$ が成り立つことをいう。$\Lambda_F[x]$ で奇数次の生成元 $x$ の外積代数 $F\oplus Fx$($x^2=0$)を表す。

Hopf の定理

$F$ を標数 $0$ の体とし、$A=\bigoplus_{n\ge0}A^n$ を $F$ の上の結合的・次数付き可換な連結 Hopf 代数で、各 $A^n$ が有限次元であるものとする。このとき、奇数次の元 $x_i$ と偶数次の元 $y_j$(各次数には有限個)があって、代数として
$$ A\cong\bigotimes_i\Lambda_F[x_i]\otimes\bigotimes_jF[y_j] $$
となる(Hat02 Theorem 3C.4, p. 285)。生成元が無限個のときは、右辺は有限個の因子のテンソル積の和集合(帰納極限)である。

生成元の選び方。 次数 $d>0$ について、$\bigoplus_{0< j< d}A^j$ が生成する部分代数の次数 $d$ の部分を $D^d$ とし、$D^d$ の $A^d$ での補空間の基底を選ぶ。選んだ元を、次数が減らない順に $z_1,z_2,\dots$ と並べる(各次数に有限個)。次数に関する帰納法で、$A$ は $z_1,z_2,\dots$ で生成される。$A_n$ を $z_1,\dots,z_n$ が生成する部分代数とする。$A_{n-1}$ の次数 $|z_n|$ の部分は、$D^{|z_n|}$ と、$z_n$ より前に選んだ同じ次数の元で張られるので、$z_n\notin A_{n-1}$ である。また、$\Delta(z_n)$ の $z_n\otimes1+1\otimes z_n$ 以外の項は、正で $|z_n|$ より小さい次数の元のテンソルであり、そのような元は $z_n$ より前の生成元で書けるので、$\Delta(A_n)\subset A_n\otimes A_n$ である。
帰納法の形。 $|z_n|$ が奇数なら、次数付き可換性から $z_n^2=-z_n^2$、標数が $2$ でないので $z_n^2=0$ である。次数付き可換性により、$A_{n-1}\otimes B_n\to A_n$、$a\otimes b\mapsto ab$ は代数の準同型である。ここで $B_n$ は、$|z_n|$ が偶数なら $F[z_n]$、奇数なら $\Lambda_F[z_n]$ である。これは全射なので、単射を示せば $A_n\cong A_{n-1}\otimes B_n$ となり、$n$ に関する帰納法と $A=\bigcup_nA_n$ から定理が従う。
補助の商。 $I\subset A_n$ を、$z_n^2$ と $A_{n-1}$ の正の次数の元とが生成するイデアルとする。$I$ の次数 $|z_n|$ の元は、正の次数の $a\in A_{n-1}$ と次数 $<|z_n|$ の元(これは $A_{n-1}$ に入る)の積の和なので $A_{n-1}$ に入る。よって $z_n\notin I$ であり、$A_n/I$ での像 $\bar z_n$ は $0$ でない。また $\bar z_n^2=0$ である。代数の準同型 $q\colon A_n\otimes A_n\to A_n\otimes(A_n/I)$ を $\mathrm{id}\otimes(\text{商写像})$ とする。$a\in A_{n-1}$ については、$\Delta(A_{n-1})\subset A_{n-1}\otimes A_{n-1}$ と余積の形(斉次元ごとに見る)から、$\Delta(a)-a\otimes1$ は $A_{n-1}\otimes\bigl(\bigoplus_{j>0}A_{n-1}^j\bigr)$ に入るので $q$ で消え、$q\Delta(a)=a\otimes1$ である。同様に $q\Delta(z_n)=z_n\otimes1+1\otimes\bar z_n$ である。
偶数次の場合。 核の $0$ でない斉次元があるとして、$\sum_{i=0}^ma_i\otimes z_n^i$($a_i\in A_{n-1}$、$a_m\ne0$)と書いたときの $m$ が最小のものをとる。$m=0$ なら $a_0=0$ となるので $m\ge1$ である。$z_n\otimes1$ と $1\otimes\bar z_n$ は可換で $(1\otimes\bar z_n)^2=0$ なので、$(z_n\otimes1+1\otimes\bar z_n)^i=z_n^i\otimes1+i\,z_n^{i-1}\otimes\bar z_n$ である。関係式 $\sum_ia_iz_n^i=0$ に代数の準同型 $q\Delta$ を施すと
$$ 0=\sum_i(a_i\otimes1)(z_n^i\otimes1+i\,z_n^{i-1}\otimes\bar z_n)=\Bigl(\sum_ia_iz_n^i\Bigr)\otimes1+\Bigl(\sum_{i\ge1}i\,a_iz_n^{i-1}\Bigr)\otimes\bar z_n $$
となる。第 1 項は $0$ で、$\bar z_n\ne0$ なので(体の上のテンソル積では $u\otimes v=0$、$v\ne0$ なら $u=0$)、$\sum_{i\ge1}i\,a_iz_n^{i-1}=0$ である。標数が $0$ なので $m\,a_m\ne0$ であり、これは $z_n$ の冪が $m-1$ までの核の $0$ でない元を与える($m=1$ なら $a_1=0$ を意味する)。どちらも $m$ の最小性または $a_m\ne0$ に反する。
奇数次の場合。 核の元 $a_0\otimes1+a_1\otimes z_n$ で $a_1\ne0$ のものがあるとする($a_1=0$ なら $a_0=0$)。$a_0+a_1z_n=0$ に $q\Delta$ を施すと、$0=(a_0+a_1z_n)\otimes1+a_1\otimes\bar z_n=a_1\otimes\bar z_n$ となり、$a_1=0$ が従って矛盾する。$\square$

有理コホモロジー

$X$ を弧状連結な CW 複体で H 空間の構造をもち、各 $H^k(X;\mathbb{Q})$ が有限次元であるものとする。このとき $H^*(X;\mathbb{Q})$ は奇数次の生成元の外積代数と偶数次の生成元の多項式環のテンソル積である。とくに $X$ が有限 CW 複体で $\tilde H^*(X;\mathbb{Q})\ne0$ なら、$H^*(X;\mathbb{Q})$ は奇数次の生成元 $r\ge1$ 個の外積代数であり、Euler 標数は $\chi(X)=0$ である。

要点:$H^*(X;\mathbb{Q})$ に Hopf の定理を当てる。有限 CW 複体ならコホモロジーは有限次元なので多項式の生成元はなく、外積代数の Poincaré 多項式 $\prod_i(1+t^{|x_i|})$ に $t=-1$ を代入すると $0$ になる。

詳しい証明を開く

$H^*(X;\mathbb{Q})$ は結合的で次数付き可換であり(カップ積 の定理「次数付き可換性」)、hsp-thm-coproduct により連結 Hopf 代数なので、hsp-thm-hopf が使える。有限 CW 複体ならコホモロジーは全体で有限次元なので、多項式の生成元 $y$ はない($y^k\ne0$ がすべての $k$ で成り立ってしまう)。奇数次の生成元 $x_1,\dots,x_r$ の外積代数の次数 $k$ の部分の次元を $b_k$ とすると、$\sum_kb_kt^k=\prod_{i=1}^r(1+t^{|x_i|})$ であり、$t=-1$ を代入すると $|x_i|$ が奇数なので $\chi(X)=\sum_k(-1)^kb_k=0$ となる(Euler標数)。$\tilde H^*\ne0$ なので $r\ge1$ である。$\square$

たとえば位相群 $S^3\times S^3$ の有理コホモロジーは、次数 $3$ の生成元 2 個の外積代数である(コホモロジー環 の定理「Künneth の定理(環の形)」)。偶数次の生成元は無限次元の H 空間に現れ、$H^*(\mathbb{CP}^\infty;\mathbb{Q})=\mathbb{Q}[\alpha]$ や、$J(S^{2m})$ の $\mathbb{Q}[x]$(James簡約積)がその例である。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
右側の単位元のホモトピー $\mu(x,e)\simeq x$$X=S^2$、$\mu(x,y):=y$hsp-thm-coproduct の形($\Delta(\alpha)$ が $\alpha\otimes1$ を含む)
hsp-thm-hopf の体の標数が $0$$\mathbb{RP}^3$ と係数 $\mathbb{Z}/2$外積代数と多項式環のテンソル積に同型になること
反例の確かめ
確かめを開く

1 行目:$\mu(e,x)=x$ なので左側の単位元は厳密だが、$\mu(x,e)=e$ は定値写像で、$S^2$ は可縮でないので恒等写像とホモトピックでない。$u\in H^2(S^2;\mathbb{Z})$ を生成元とすると、$\mu=p_2$ なので $\mu^*u=p_2^*u=\theta(1\otimes u)$、すなわち $\Delta(u)=1\otimes u$ であり、$u\otimes1$ の項をもたない。

2 行目:$\mathbb{RP}^3$ は H 空間で(hsp-ex-s7)、$A:=H^*(\mathbb{RP}^3;\mathbb{Z}/2)=(\mathbb{Z}/2)[\alpha]/(\alpha^4)$ は各次数で有限生成自由なので、hsp-thm-coproduct により結合的・可換な連結 Hopf 代数である。$A$ が奇数次の生成元の外積代数と偶数次の生成元の多項式環のテンソル積に同型だとすると、$A$ は全体で 4 次元なので多項式の生成元はない。外積代数のテンソル積では、標数 $2$ なので交差項 $x_Ix_J+x_Jx_I=2x_Ix_J$ が消え、正の次数の元の平方はすべて $0$ である。ところが $\alpha^2\ne0$ なので矛盾する。$F$ が標数 $p$ の有限体なら、Hopf の定理の代わりに、切り詰めた多項式環 $F[\alpha]/(\alpha^{p^i})$ も因子に許す Borel の定理が成り立つ(Hat02 p. 285 に述べられている。この記事では証明しない)。

補足

  • Pontryagin 積:ホモロジーにも $H_*(X)\otimes H_*(X)\xrightarrow{\times}H_*(X\times X)\xrightarrow{\mu_*}H_*(X)$ により積が入り、これを Pontryagin 積という。体係数で各次数が有限次元なら、Pontryagin 積とコホモロジーの余積は互いに双対である(Hat02 §3.C, pp. 287–289)。たとえば $J(S^n)$ の Pontryagin 環は $n$ の偶奇によらず多項式環 $\mathbb{Z}[x]$ になる(同 Example 3C.7, p. 288)。
  • 直交群の mod 2 コホモロジー:$H^*(SO(n);\mathbb{Z}/2)\cong\bigotimes_{i\text{ 奇数},\,i< n}(\mathbb{Z}/2)[\beta_i]/(\beta_i^{p_i})$($|\beta_i|=i$、$p_i$ は $|\beta_i^{p_i}|\ge n$ となる最小の $2$ の冪)であり(Hat02 Theorem 3D.2, p. 297。この記事では証明しない)、Borel の定理の型の Hopf 代数の例になっている。

関連項目

参考文献

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