Torricelliのラッパ(Torricelli's trumpet)とは、曲線 $y=\frac1x$($x\ge1$)を $x$ 軸のまわりに回してできる無限に長い立体とその表面で、Gabriel のラッパ(Gabriel's horn)ともいう。$x=1$ から $R$ までの体積は $\pi\bigl(1-\frac1R\bigr)$ で $R\to\infty$ のとき $\pi$ に近づくが、面の面積は $2\pi\log R$ 以上なので限りなく大きくなる。$y=x^{-p}$($p>0$)を回すと、体積が有限なのは $p>\frac12$、面積が有限なのは $p>1$ のときで、$\frac12< p\le1$ で体積は有限、面積は無限大になる。
前提知識: 回転体の表面積, 体積と回転体, 球の体積と表面積, 無限級数の和と収束判定
曲線 $y=\dfrac1x$($x\ge1$)を $x$ 軸のまわりに回すと、右へ無限に伸び、先に行くほど細くなるラッパの形の面ができる。この面で囲まれた立体の体積と、面の面積を考える。立体は無限に長いので、まず $x=1$ から $x=R$ までの部分で計算し、$R$ を大きくする。
$1\le x\le10$ の部分の体積は、円板法(体積と回転体 の定理「円板法」)で
$$
V(10)=\pi\int_1^{10}\Bigl(\frac1x\Bigr)^2dx=\pi\Bigl[-\frac1x\Bigr]_1^{10}=\pi\Bigl(1-\frac1{10}\Bigr)=0.9\pi
$$
である。$x=100$ までなら $0.99\pi$、$x=1000$ までなら $0.999\pi$ で、$\pi$ を越えない。
$1\le x\le10$ の部分の面の面積は、球の体積と表面積 の定理「回転面の面積の公式」で
$$
S(10)=2\pi\int_1^{10}\frac1x\sqrt{1+\frac1{x^4}}\,dx
$$
である。この積分は数値で計算すると $15.177\cdots$ である。$\sqrt{1+\frac1{x^4}}\ge1$ なので、$S(10)\ge2\pi\displaystyle\int_1^{10}\frac{dx}x=2\pi\log10=14.47\cdots$ である。$x=100$ までなら $29.65\cdots$、$x=1000$ までなら $44.11\cdots$ で、$x$ の範囲を 10 倍にするたびに約 $14.5$ ずつ増える。
体積は $\pi$ に近づくのに、面の面積は増え続ける。この記事で答える問いは次の 2 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 |
|---|---|
| $\int_1^R\frac{dx}{x^2}=1-\frac1R$ | 体積は有限($\pi$) |
| $\int_1^R\frac{dx}x=\log R$ | 面積は無限大 |
| 調和級数 $\sum\frac1k$ は発散する | 積分の発散と同じ現象 |
$p>0$ とし、曲線 $y=x^{-p}$($x\ge1$)を $x$ 軸のまわりに回してできる面を考える。$R>1$ について、$1\le x\le R$ の部分の立体の体積を $V(R)$、面の面積を $S(R)$ とする。
これは、区間の端が無限大の積分(広義積分)$\int_1^\infty$ を $\lim_{R\to\infty}\int_1^R$ で定めることと同じである(Gauss積分(高校数学) の定義「広義積分の収束」)。$V(R)$ と $S(R)$ は、円板法と回転面の面積の公式で
$$
V(R)=\pi\int_1^Rx^{-2p}\,dx,\qquad S(R)=2\pi\int_1^Rx^{-p}\sqrt{1+p^2x^{-2p-2}}\,dx
$$
と書ける($f(x)=x^{-p}$ のとき $f'(x)=-px^{-p-1}$ は $[1,R]$ で連続で、$f'^2=p^2x^{-2p-2}$)。
$y=\dfrac1x$($x\ge1$)を $x$ 軸のまわりに回してできる立体の体積は有限で $\pi$ であり、面の面積は無限大である。より詳しく、$R>1$ について
$$
V(R)=\pi\Bigl(1-\frac1R\Bigr),\qquad S(R)\ge2\pi\log R
$$
である。
段 1(体積)。$p=1$ では $V(R)=\pi\displaystyle\int_1^R\frac{dx}{x^2}=\pi\Bigl[-\frac1x\Bigr]_1^R=\pi\Bigl(1-\frac1R\Bigr)$ である。$R\to\infty$ のとき $\frac1R\to0$ なので、$V(R)\to\pi$ である。
段 2(面積の下からのおさえ)。$x\ge1$ で $\sqrt{1+\frac1{x^4}}\ge1$ なので、被積分関数について $\dfrac1x\sqrt{1+\dfrac1{x^4}}\ge\dfrac1x$ である。積分は被積分関数の大小を保つので
$$
S(R)=2\pi\int_1^R\frac1x\sqrt{1+\frac1{x^4}}\,dx\ge2\pi\int_1^R\frac{dx}x=2\pi\Bigl[\log x\Bigr]_1^R=2\pi\log R
$$
である。
段 3(面積は無限大)。$\log R$ は $R\to\infty$ のとき限りなく大きくなる(たとえば $R=e^n$ で $\log R=n$)。段 2 から $S(R)$ も限りなく大きくなる。$\square$
y=1/x(1≦x≦8)を x 軸のまわりに回したラッパの形の面(左)と、回す前のグラフ(右)
左は x=1 から R までの面積 S(R) が 2π log R より上にあって増え続ける様子、右は体積 V(R) が π に近づく様子を表すグラフ
図 2 の左で、$S(R)$ と $2\pi\log R$ の差は $R$ が大きくなってもほとんど変わらず($R=10,100,1000$ で $0.710$、$0.710$、$0.710$)、どちらも同じ速さで増える。右の $V(R)$ は $\pi$ の線に下から近づく。
段 2 の $\int_1^R\frac{dx}x=\log R$ が限りなく大きくなることは、調和級数 $1+\frac12+\frac13+\cdots$ が発散すること(無限級数の和と収束判定 の命題「調和級数は発散する」)と同じ現象である。$\frac1x$ のグラフの下の面積と、幅 $1$ の長方形の面積の和 $\sum\frac1k$ を比べると、どちらも限りなく大きくなる(積分と和の類似)。
$y=\frac1x$ では「体積は有限、面積は無限大」になった。指数 $p$ を変えると、それぞれがいつ有限になるかが決まる。まず、もとになる積分を調べる。
$q>0$ とする。$R\to\infty$ のとき、$\displaystyle\int_1^Rx^{-q}\,dx$ は $q>1$ なら $\dfrac1{q-1}$ に近づき、$q\le1$ なら限りなく大きくなる。
$q\ne1$ なら $\displaystyle\int_1^Rx^{-q}\,dx=\Bigl[\frac{x^{1-q}}{1-q}\Bigr]_1^R=\frac{R^{1-q}-1}{1-q}$ である。$q>1$ なら $1-q<0$ で $R^{1-q}\to0$ なので、積分は $\dfrac{-1}{1-q}=\dfrac1{q-1}$ に近づく。$0< q<1$ なら $1-q>0$ で $R^{1-q}$ は限りなく大きくなるので、積分も限りなく大きくなる。$q=1$ なら積分は $\log R$ で、限りなく大きくなる。$\square$
$p>0$ とし、$y=x^{-p}$($x\ge1$)を $x$ 軸のまわりに回す。
(1) 立体の体積が有限 $\iff p>\dfrac12$。このとき体積は $\dfrac{\pi}{2p-1}$ である。
(2) 面の面積が有限 $\iff p>1$。
したがって、$\dfrac12< p\le1$ のとき「体積は有限で、面積は無限大」になる。
段 1(体積)。$V(R)=\pi\displaystyle\int_1^Rx^{-2p}\,dx$ なので、lem-tor-power を $q=2p$ で使うと、$2p>1$ なら $V(R)\to\dfrac\pi{2p-1}$、$2p\le1$ なら $V(R)$ は限りなく大きくなる。
段 2(面積を挟む)。$x\ge1$ では $x^{-2p-2}\le1$ なので
$$
1\le\sqrt{1+p^2x^{-2p-2}}\le\sqrt{1+p^2}
$$
である。各辺に $x^{-p}>0$ を掛けて $1$ から $R$ まで積分すると
$$
2\pi\int_1^Rx^{-p}\,dx\le S(R)\le2\pi\sqrt{1+p^2}\int_1^Rx^{-p}\,dx
$$
である。
段 3($p\le1$)。lem-tor-power を $q=p$ で使うと、左辺は限りなく大きくなるので、$S(R)$ も限りなく大きくなる。
段 4($p>1$)。$S(R)$ は $R$ について増加する($R$ を大きくすると、正の関数を積分する範囲が広がる)。段 2 の右辺は、lem-tor-power の計算から $2\pi\sqrt{1+p^2}\cdot\dfrac{1-R^{1-p}}{p-1}$ で、これは $M=\dfrac{2\pi\sqrt{1+p^2}}{p-1}$ 以下である。よって数列 $S(2),S(3),S(4),\ldots$ は増加し、上に有界なので、無限級数の和と収束判定 の定理「単調有界数列の収束」により、ある値 $L$ に近づく。$R$ が整数でないときも、$R$ 以下で最大の整数を $n$ とすると $S(n)\le S(R)\le S(n+1)$ で、両側が $L$ に近づくので $S(R)\to L$ である。よって面積は有限である。$\square$
段 4 では、$S(R)$ の値そのものは求めずに、増加して上に有界であることだけから極限があると結論した。$S(R)$ の積分は、$p=2$ などでも原始関数を簡単には書けない。
| $p$ | 体積 | 面の面積 | $x\le10^6$ までの面積(数値) |
|---|---|---|---|
| $0.4$ | 無限大 | 無限大 | $41679$ |
| $0.5$ | 無限大 | 無限大 | $12554$ |
| $0.75$ | $2\pi$ | 無限大 | $770.1$ |
| $1$ | $\pi$ | 無限大 | $87.52$ |
| $1.5$ | $\frac\pi2$ | 有限($13.62\cdots$) | $13.61$ |
| $2$ | $\frac\pi3$ | 有限($7.612\cdots$) | $7.612$ |
表の最後の列は、$x$ を $10^6$ で止めたときの数値である。止める場所をさらに遠くにすると、$p\le1$ の行は増え続け、$p>1$ の行はほとんど変わらない。ただし、数値だけでは有限か無限大かは決まらない($p=1$ の行も $10^6$ までなら $87.5$ にすぎない)。決めているのは主定理 2 の証明である。
Wei26 は、このラッパについて「中を $\pi$ 立方単位の塗料で満たせるのに、表面を覆うには無限の量の塗料が要る」という言い方を紹介している。面積が無限大の面の内側を塗料で満たせるのは、矛盾ではないのだろうか。
ラッパの外側に、厚さ $d>0$ の塗料の層を一様に付けるとする。$x$ の位置での層の断面は、内径 $\frac1x$、外径 $\frac1x+d$ の円環で、$x=1$ から $X$ までの層の体積は、円板法と同じ考え方で
$$
\pi\int_1^X\Bigl\{\Bigl(\frac1x+d\Bigr)^2-\frac1{x^2}\Bigr\}dx=\pi\int_1^X\Bigl(\frac{2d}x+d^2\Bigr)dx=\pi\bigl(2d\log X+d^2(X-1)\bigr)
$$
である。$d=0.01$ では $X=10$ で $0.148$、$X=1000$ で $0.748$、$X=10^6$ で $315.0$ で、$X\to\infty$ のとき限りなく大きくなる。厚さがどんなに薄くても一定なら、外側を塗るには無限の量の塗料が要る。
一方、内側を満たす $\pi$ の塗料は、どこでも同じ厚さの層にはなっていない。$x$ の位置でのラッパの半径は $\frac1x$ なので、$x>\frac1d$ の所では、厚さ $d$ の層はもう中に入りきらない。中を満たした塗料が面に触れている部分の「厚さ」は、奥へ行くほど $0$ に近づく。
「塗料の量 $\approx$ 面積 $\times$ 厚さ」という見積もりは、厚さが一定で、面の曲がり方に比べて薄いときの近似である。中を満たした塗料はこの前提を満たさないので、面積が無限大でも体積が有限であることと矛盾しない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 回す範囲が $x\ge1$($0< x\le1$ にする) | $y=\frac1x$($0< x\le1$) | 体積は有限(体積も無限大) |
| $p>\frac12$(主定理 2 (1)) | $p=0.4$ | 体積は有限(体積も無限大) |
| 面積を回転面の公式で計算する(円柱で近似する) | $p=1.5$ で $2\pi\int x^{-p}dx$ | 面積の値($4\pi=12.57$ になり、$13.62$ と合わない) |
| 「体積が有限なら面積も有限」と考える | $p=1$(主定理 1) | その考え(体積 $\pi$、面積は無限大) |
「有限の体積で無限の面積」は、積分 $\int_1^\infty\frac{dx}{x^q}$ が $q>1$ で収束し $q\le1$ で発散するという、広義積分の最も基本的な判定(広義積分)を回転体に当てはめたものである。体積は半径の 2 乗 $x^{-2p}$、面積はほぼ半径そのもの $x^{-p}$ の積分なので、境目が $p=\frac12$ と $p=1$ に分かれる。
同じことは級数でも起こる。$\sum\frac1{k^2}$ は収束し(Basel問題)、$\sum\frac1k$ は発散する。半径 $\frac1k$、厚さ $1$ の円板を並べた立体は、体積 $\pi\sum\frac1{k^2}$ が有限で、側面の面積 $2\pi\sum\frac1k$ が無限大である。
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