微分積分学(calculus)とは、実数の連続性を基礎に、1 変数および多変数の実数値関数の極限・微分・積分とそれらの関係を研究する数学の分野である。中間値の定理・最大値の定理・平均値の定理・Taylor の定理を経て、連続関数 $f$ について $F(x)=\int_a^xf$ は微分可能で $F'=f$ となり、原始関数 $G$ があれば $\int_a^bf=G(b)-G(a)$ となる、という微分積分学の基本定理に至る。仮定を外すと、不連続な $f$ では $F$ が微分できない点が現れることがあり、導関数が存在しても有界とは限らず Riemann 積分できないことがある。多変数では逆関数定理・陰関数定理・Fubini の定理・Stokes の定理が基本で、Lebesgue 積分・微分方程式・関数解析・複素解析などの入口になる。
微分積分学(calculus)は、実数の上の関数を、極限を使って「瞬間の変化率」(微分)と「細かく分けて足し合わせた量」(積分)の 2 つの面から調べる数学の分野である。速度と道のり、接線の傾きと曲線の下の面積は、一見別の問いだが、微分と積分が互いに逆の操作であるという 微分積分学の基本定理 によって 1 つに結びつく。微分積分学は、実数の連続性 を出発点に、1 変数の関数から多変数の関数まで、極限・微分・積分の基本定理を積み上げる。
この記事では、極限・連続性・微分・Riemann 積分を定義し、微分積分学が答える問いと、定理が論理的に依存し合う順序を記事とともに示す。代表例として、連続関数についての微分積分学の基本定理を完全に証明し、仮定を 1 つずつ外した反例を挙げる。微分積分学は、関数を扱う数学の広い分野(解析学)の入口にあたる。この記事では、実数の連続性から Riemann 積分と多変数の微分・積分の基本定理までを微分積分学の範囲とし、Lebesgue 積分・関数解析・複素関数の理論などはその先の分野として案内する。
以下、$I$ は実数の区間(1 点より多くの点を含むもの)、$f\colon I\to\mathbb R$ は関数とする。
$a\in I$ とする。実数 $L$ について、任意の $\varepsilon>0$ に対しある $\delta>0$ が存在して、$x\in I$、$0<\lvert x-a\rvert<\delta$ ならば $\lvert f(x)-L\rvert<\varepsilon$ となるとき、$x\to a$ のとき $f(x)$ は $L$ に収束するといい、$\displaystyle\lim_{x\to a}f(x)=L$ と書く。$\displaystyle\lim_{x\to a}f(x)=f(a)$ のとき、$f$ は $a$ で連続であるという。$I$ のすべての点で連続な $f$ を $I$ 上の連続関数という。
有界な関数 $f\colon[a,b]\to\mathbb R$ と、$[a,b]$ の分割 $P\colon a=x_0< x_1<\cdots< x_n=b$ について、$M_i,m_i$ を小区間 $[x_{i-1},x_i]$ での $f$ の上限・下限とし、
$$
U(P,f):=\sum_{i=1}^nM_i(x_i-x_{i-1}),\qquad L(P,f):=\sum_{i=1}^nm_i(x_i-x_{i-1})
$$
とおく。すべての分割にわたる $L(P,f)$ の上限と $U(P,f)$ の下限が一致するとき、$f$ は Riemann 積分可能 であるといい、その共通の値を $\displaystyle\int_a^bf(x)\,dx$ と書く。
微分積分学とは、実数の連続性を基礎に、1 変数および多変数の実数値関数の極限・微分・積分とそれらの関係を研究する数学の分野である。
Riemann 積分の基本性質(区間についての加法性、単調性、連続関数の可積分性)は Riemann積分 が証明している。$a>b$ のときは $\int_a^bf:=-\int_b^af$、$\int_a^af:=0$ と約束する。
すべての土台は実数の性質で、とくに「上に有界な空でない実数の集合は上限をもつ」という実数の連続性(実数の連続性、上限)が、有理数の範囲では成り立たない極限の存在を保証する。たとえば $x^2=2$ の正の解は有理数の中にはないが、実数の中には $\{x>0\mid x^2<2\}$ の上限として存在する。中間値の定理・最大値の定理・平均値の定理など、微分積分学の主要な定理はどれも、最後はこの性質に頼っている(Rud76 Theorem 1.19(p. 8)は、この性質をもつ順序体としての実数の存在を述べている)。
微分積分学の定理は、次の順に前の定理を使って証明される。上から順に記事を読むと、論理の抜けなく学べる。
| 段 | 主な定理 | 記事 |
|---|---|---|
| 1. 実数 | 上限の存在、Archimedes の性質 | 実数、実数の連続性、上限 |
| 2. 数列 | 単調有界数列の収束、Bolzano–Weierstrass の定理、Cauchy 列の収束 | 数列の極限、Bolzano–Weierstrassの定理、Cauchy列 |
| 3. 連続関数 | 中間値の定理、最大値・最小値の定理、閉区間上の一様連続性 | 関数の極限、中間値の定理、最大値・最小値の定理、一様連続 |
| 4. 微分 | Rolle の定理、平均値の定理、増減の判定、Taylor の定理 | 導関数、平均値の定理、Taylorの定理 |
| 5. 積分 | 連続関数の可積分性、微分積分学の基本定理、部分積分・置換積分 | Riemann積分、微分積分学の基本定理、原始関数、広義積分 |
| 6. 関数の列 | 一様収束と積分・微分の交換、冪級数の項別微分 | 級数、一様収束、冪級数 |
| 7. 多変数 | 全微分と連鎖律、逆関数定理、陰関数定理、Fubini の定理、Green・Stokes の定理 | 多変数微分積分学、偏微分、全微分、逆関数定理、陰関数定理、重積分、Fubiniの定理、Greenの定理、Stokesの定理 |
たとえば平均値の定理(Rud76 Theorem 5.10、p. 108)は Rolle の定理から、Rolle の定理は最大値・最小値の定理(同 Theorem 4.16、p. 89)から、最大値・最小値の定理は閉区間のコンパクト性から、閉区間のコンパクト性は実数の連続性から導かれる。中間値の定理(同 Theorem 4.23、p. 93)も実数の連続性による。この依存の鎖をたどると、どの定理がどの段で使えるかが分かる。
微分積分学の中心にあるのは、積分の上端を動かした関数を微分するともとの関数に戻り、積分の値は原始関数の端の値の差で求まる、という定理である。ここでは連続関数の場合を、Riemann積分 と 平均値の定理 の結果だけを使って証明する。被積分関数が連続とは限らない一般の形(積分可能な $f$ と、$F'=f$ を満たす $F$)は 微分積分学の基本定理 の定理「原始関数による積分の計算」が扱っている(Rud76 Theorem 6.20・6.21、pp. 133–134)。
$a< b$ とし、$f\colon[a,b]\to\mathbb R$ を連続関数とする。
連続関数は Riemann 積分可能なので(Riemann積分 の定理「連続関数の可積分性」)、$f$ は $[a,b]$ とその部分区間で積分可能であり、$F$ が定義される。
1:$c\in[a,b]$ と $\varepsilon>0$ をとる。$f$ は $c$ で連続なので、ある $\delta>0$ があって、$t\in[a,b]$、$\lvert t-c\rvert<\delta$ なら $\lvert f(t)-f(c)\rvert<\varepsilon$ となる。$h\ne0$、$c+h\in[a,b]$、$\lvert h\rvert<\delta$ とする。Riemann積分 の定理「区間についての加法性」により $F(c+h)-F(c)=\int_c^{c+h}f(t)\,dt$ であり、定数の積分 $\int_c^{c+h}f(c)\,dt=hf(c)$ を引くと
$$
\frac{F(c+h)-F(c)}{h}-f(c)=\frac1h\int_c^{c+h}\bigl(f(t)-f(c)\bigr)\,dt
$$
となる。$c$ と $c+h$ の間の $t$ では $\lvert t-c\rvert\le\lvert h\rvert<\delta$ なので被積分関数の絶対値は $\varepsilon$ 未満であり、同記事の命題「積分の単調性と絶対値の評価」により右辺の絶対値は $\frac1{\lvert h\rvert}\cdot\varepsilon\lvert h\rvert=\varepsilon$ 以下である。$\varepsilon$ は任意なので $F'(c)=f(c)$ である。
2:$H:=G-F$ とおく。1 により $F$ は $[a,b]$ で微分可能、したがって連続であり、$H$ は $[a,b]$ 上で連続、$(a,b)$ 上で微分可能で $H'=f-f=0$ である。平均値の定理 の系「導関数が0なら定数」を開区間 $(a,b)$ に当てはめると、$H$ は $(a,b)$ 上で定数 $C$ である。$H$ は $a,b$ で連続なので $H(a)=\lim_{x\to a+0}H(x)=C$、同様に $H(b)=C$ である。よって
$$
G(b)-G(a)=\bigl(F(b)+C\bigr)-\bigl(F(a)+C\bigr)=F(b)-F(a)=\int_a^bf(x)\,dx
$$
である($F(a)=0$)。最後の主張は、$G$ が原始関数なら $G-F$ が $[a,b]$ 上で定数になることを今示したことによる。$\square$
定理の 1 は「連続関数にはつねに原始関数がある」ことを、2 は「原始関数が 1 つ見つかれば積分が計算できる」ことを述べている。原始関数が初等関数で書けない場合(たとえば $e^{-x^2}$)でも、1 により原始関数そのものは $F$ として存在する。
$f(x)=\dfrac1{1+x^2}$ は $[0,1]$ で連続で、$G(x)=\arctan x$ が原始関数である(逆三角関数)。定理の 2 により
$$
\int_0^1\frac{dx}{1+x^2}=\arctan1-\arctan0=\frac\pi4=0.7853\ldots
$$
である。一方、$[0,1]$ を $n$ 等分した下限和・上限和で積分を挟むこともできる。$f$ は $[0,1]$ で減少するので、各小区間の上限は左端の値、下限は右端の値である。$n=4$ では
$$
L(P,f)=\tfrac14\bigl(f(\tfrac14)+f(\tfrac12)+f(\tfrac34)+f(1)\bigr)=0.7202\ldots,\qquad U(P,f)=\tfrac14\bigl(f(0)+f(\tfrac14)+f(\tfrac12)+f(\tfrac34)\bigr)=0.8452\ldots
$$
で、確かに $\pi/4$ を挟んでいる。$n=100$ では両者の差は $\frac1n\bigl(f(0)-f(1)\bigr)=0.005$ まで縮み、和の平均の 4 倍は $3.14157\ldots$ になる。積分を和の極限として求める方法と、原始関数で求める方法が同じ値を与えることを、この定理が保証している。
導関数は存在しても、積分できるとは限らない。このとき定理の 2 の形の公式は、Riemann 積分の範囲では意味をもたない。
$G(x):=x^2\sin\dfrac1{x^2}$($x\ne0$)、$G(0):=0$ とおく。$G$ は $[-1,1]$ のすべての点で微分可能だが、導関数 $G'$ は $[-1,1]$ 上で有界でなく、したがって Riemann 積分可能でない。
$x\ne0$ では積と合成関数の微分により
$$
G'(x)=2x\sin\frac1{x^2}-\frac2x\cos\frac1{x^2}
$$
である。$x=0$ では、$h\ne0$ について $\Bigl\lvert\dfrac{G(h)-G(0)}{h}\Bigr\rvert=\Bigl\lvert h\sin\dfrac1{h^2}\Bigr\rvert\le\lvert h\rvert$ なので $G'(0)=0$ である。よって $G$ は $[-1,1]$ のすべての点で微分可能である。
正の整数 $m$ について $x_m:=1/\sqrt{2\pi m}\in(0,1)$ とおくと、$1/x_m^2=2\pi m$ なので $\sin(1/x_m^2)=0$、$\cos(1/x_m^2)=1$ であり、$G'(x_m)=-2\sqrt{2\pi m}$ である。これは $m\to\infty$ で $-\infty$ に発散するので、$G'$ は有界でない。Riemann 積分は有界な関数についてだけ定義されるので(def-calc-riemann)、$G'$ は Riemann 積分可能でない。$\square$
$G'$ は $[\varepsilon,1]$ のような $0$ を含まない区間では連続なので、そこでは定理が使えて $\int_\varepsilon^1G'=G(1)-G(\varepsilon)$ である。全区間 $[-1,1]$ では、積分を 広義積分 や Lebesgue積分 に広げて扱うことになる。
定理の仮定を 1 つずつ外したときに崩れることを表にまとめる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 1 の「$f$ が連続」 | $[-1,1]$ 上の $f(x)=0$($x<0$)、$f(x)=1$($x\ge0$) | $f$ は積分可能で $F(x)=\max(x,0)$ だが、$F$ は $x=0$ で微分可能でない |
| 2 の「$(a,b)$ 上で微分可能で、各点で $G'=f$」 | $[0,1]$ 上の $f=0$ と Cantor 関数 $G$(Cantor集合 の命題「Cantor関数の構成」) | $G$ は連続で、Cantor 集合の外では $G'=0=f$ だが、$G(1)-G(0)=1\ne0=\int_0^1f$ |
| 2 の「$G$ が $[a,b]$ 上で連続」 | $f=0$ と、$G(x)=0$($-1\le x<1$)、$G(1)=1$ | $(-1,1)$ では $G'=0=f$ だが、$G(1)-G(-1)=1\ne0$ |
| 「定義域が 1 つの区間」 | $(0,1)\cup(2,3)$ 上の $G$:$(0,1)$ で $0$、$(2,3)$ で $1$ | $G'=0$ だが $G$ は定数でなく、原始関数は定数の差だけでは決まらない |
| 2 の「$f$ が連続(積分可能)」 | prop-calc-unbounded-derivative の $G$ と $f=G'$ | $G'$ は各点で存在するが、$\int_{-1}^1G'$ が Riemann 積分として定まらない |
1 行目の $f$ は原始関数をもたない。導関数は、連続でなくても中間値の性質をもつからである(導関数の中間値の性質、Rud76 Theorem 5.12、p. 108)。一方、$x\ne0$ で $x^2\sin(1/x)$、$0$ で $0$ となる関数は、導関数が存在するが $0$ で連続でない例である(Rud76 Example 5.6 (b)、p. 106)。
$\mathbb R^n$ の開集合の上の関数では、1 変数の微分係数の役割を 全微分(1 次近似を与える線形写像、その行列が Jacobi行列)が担う(全微分、偏微分)。偏微分がすべて存在しても全微分可能とは限らないが、偏導関数が連続なら全微分可能である。合成写像の全微分は全微分の合成である(連鎖律)。
多変数に固有の基本定理は、1 次近似が可逆なら写像そのものが局所的に可逆であるという 逆関数定理(逆関数定理、Rud76 Theorem 9.24、p. 221)と、そこから導かれ、方程式 $F(x,y)=0$ を局所的に $y=g(x)$ と解く条件を与える 陰関数定理(陰関数定理、同 Theorem 9.28、p. 224)である。積分の側では、重積分を 1 変数の積分の繰り返しで計算する Fubiniの定理 と、積分の変数変換の公式(重積分)が基本である。1 変数の微分積分学の基本定理は、領域の上の積分を境界の上の積分で表す Greenの定理・Gaussの発散定理・Stokesの定理 に一般化される。これらの全体は 多変数微分積分学 が見渡している。
微分積分学は、関数を扱う数学の多くの分野の共通の基礎である。
微分と積分は、面積や接線の個別の計算として古くから知られていたが、17 世紀後半に Newton と Leibniz が互いに独立に、両者を逆の操作として結びつける計算の体系を作った。Leibniz の記号 $dy/dx$ と $\int$ は現在も使われている。19 世紀には Cauchy が極限を使って微分と積分を定義し直し、Riemann が積分可能性の一般的な定義を与え、Weierstrass らが $\varepsilon$–$\delta$ による議論を整え、Dedekind らが実数を構成して実数の連続性を証明できるようにした。Rud76 はこの論理の順序(実数・数列・連続性・微分・積分・関数列・多変数)で微分積分学を構成する教科書である。
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