数の幾何学

同義語:数の幾何geometry of numbers

概要

数の幾何学(geometry of numbers)とは、$\mathbb{R}^n$ の格子と原点対称な凸体の位置関係を調べて整数論に使う分野で、Minkowski の凸体定理を出発点とする。凸体を膨らませて 1 次独立な格子点を順に含む大きさを逐次最小 $\lambda_1\le\dots\le\lambda_n$ といい、Minkowski の第 2 定理は $\lambda_1\cdots\lambda_n\operatorname{vol}(K)$ を基本領域の体積の $2^n/n!$ 倍と $2^n$ 倍で挟む。最短ベクトルの長さの 2 乗は Hermite の不等式で $(4/3)^{(n-1)/2}\operatorname{covol}^{2/n}$ 以下であり、2 次元の Hermite 定数は $2/\sqrt3$ である。類数の有限性や単数定理はその応用である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 格子(群), 凸集合, Minkowskiの凸体定理, Lebesgue測度

平面の格子点 $\mathbb{Z}^2$ の上に、原点を中心とする円板を置いて少しずつ大きくしていく。円板が原点以外の格子点に初めて触れる半径はいくつか、その点はどの向きにあるか、さらに大きくしたとき別の向きの格子点に触れるのはいつか。こうした「格子と凸な図形の位置関係」を調べ、その答えを整数論の問題に使う分野を 数の幾何学(geometry of numbers)という。名前は Minkowski の著書『Geometrie der Zahlen』(1896 年・1910 年。Minkowskiの凸体定理 の注意「歴史と精密化」)による。
出発点は Minkowskiの凸体定理 である。体積が $2^n$ より大きい原点対称な凸集合は原点以外の格子点を含む、という一見素朴な主張から、2 つの平方数の和の定理、代数体の類数の有限性、判別式の評価、単数群の構造が導かれる。この記事では、数の幾何学の基本の対象(格子・凸体・逐次最小)を定義し、主要な定理を地図の形でまとめる。そのうえで、逐次最小についての Minkowski の第 2 定理の下からの評価と、最短ベクトルの長さについての Hermite の不等式を完全に証明し、2 次元の Hermite 定数 $\gamma_2=2/\sqrt3$ を決める。最後に、代数的整数論への応用と、正本の各記事へ進む順を示す。

基本の対象

格子と凸体

$\mathbb{R}^n$ には標準の内積と Lebesgue 測度 $\operatorname{vol}$ を入れる。$\mathbb{R}^n$ の 格子 $\Lambda$ とは、$\mathbb{R}$ 上の基底 $v_1,\dots,v_n$ によって $\Lambda=\mathbb{Z}v_1+\cdots+\mathbb{Z}v_n$ と書ける部分群のことであり、基底を列に並べた行列 $M$ について $\operatorname{covol}(\Lambda):=\lvert\det M\rvert$ を 基本領域の体積 という(格子(群) の定義「格子」と同じ。$\operatorname{covol}(\Lambda)$ は基底によらず、Gram 行列 $G=M^{\mathsf T}M$ を使えば $\sqrt{\det G}$ である)。$\mathbb{R}^n$ の部分群が格子であることは、離散でかつ $\mathbb{R}^n$ を張ることと同値である(同記事の定理「格子であるための条件」)。

凸体

$\mathbb{R}^n$ の部分集合 $K$ が 凸体(convex body)であるとは、$K$ が原点について対称($x\in K\Rightarrow-x\in K$)な凸集合であり、有界な閉集合で、内点をもつことをいう。$x\in\mathbb{R}^n$ について
$$ \|x\|_K:=\min\{\lambda\ge0\mid x\in\lambda K\} $$
とおく($\lambda K:=\{\lambda y\mid y\in K\}$)。

$\|\cdot\|_K$ は $K$ の Minkowski汎関数 であり、凸体については $\mathbb{R}^n$ のノルムになる(Minkowski汎関数 の定理「Minkowski 汎関数がノルムになる条件」)。$K$ が閉集合なので上の最小値は存在し、$K=\{x\mid\|x\|_K\le1\}$ である。$K$ が原点を中心とする単位閉球 $B^n$ のとき、$\|x\|_K$ は Euclid ノルム $\lvert x\rvert$ である。

逐次最小

凸体を $\lambda K$ と膨らませていくと、まず原点以外の格子点に触れ、次に 1 本目と 1 次独立な格子点に触れ、と進んで、最後に $\mathbb{R}^n$ を張るだけの格子点を含む。その各段の大きさが逐次最小である。

逐次最小

$\Lambda$ を $\mathbb{R}^n$ の格子、$K$ を凸体とする。$i=1,\dots,n$ について
$$ \lambda_i=\lambda_i(K,\Lambda):=\min\bigl\{\lambda>0\ \bigm|\ \lambda K\ \text{が}\ \Lambda\ \text{の 1 次独立な}\ i\ \text{個の元を含む}\bigr\} $$
を $K$ の $\Lambda$ に関する 第 $i$ 逐次最小($i$-th successive minimum)という。

逐次最小の存在

上の最小値は存在し、$0<\lambda_1\le\lambda_2\le\cdots\le\lambda_n<\infty$ である。さらに、1 次独立な $b_1,\dots,b_n\in\Lambda$ で $\|b_i\|_K=\lambda_i$($i=1,\dots,n$)となるものがある。

要点:$K$ は原点を中心とする球を含み、ある球に含まれるので、$\lambda K$ に含まれる格子点は有限個で、大きな $\lambda$ では基底を含む。有限個の値 $\|v\|_K$ のどこかで次元が上がるので、最小値は実際にとられる。

詳しい証明を開く

$x_0$ を $K$ の内点とし、$B(x_0,r)\subset K$ とする。対称性から $B(-x_0,r)\subset K$ で、凸性から $\frac12\bigl(B(x_0,r)+B(-x_0,r)\bigr)\supset B(0,r)$ も $K$ に含まれる。また $K$ は有界なので $K\subset B(0,R)$ となる $R$ がある。よって $\lvert x\rvert/R\le\|x\|_K\le\lvert x\rvert/r$ である。

$\lambda>0$ について $S(\lambda):=\{v\in\Lambda\mid\|v\|_K\le\lambda\}=\Lambda\cap\lambda K$ とおき、$d(\lambda)$ をその張る部分空間の次元とする。$S(\lambda)\subset B(0,\lambda R)$ なので、格子(群) の補題「有界集合に含まれる点の有限性」により $S(\lambda)$ は有限集合である。$d(\lambda)$ は $\lambda$ について単調増加で、とる値が変わるのは有限個の値 $\|v\|_K$($v\in S(\lambda')$、$\lambda'$ を大きくとる)のところだけであり、$d(\lambda)$ は右連続な階段関数である。$\lambda\ge\max_j\lvert v_j\rvert/r$($v_j$ は $\Lambda$ の基底)なら $S(\lambda)$ は基底を含むので $d(\lambda)=n$ であり、$\lambda<\min_{v\ne0}\lvert v\rvert/R$ なら $S(\lambda)=\{0\}$ である。よって $\{\lambda>0\mid d(\lambda)\ge i\}$ は正の数 $\lambda_i$ を左端にもつ閉区間 $[\lambda_i,\infty)$ であり、$\lambda_i$ の単調性も明らかである。

$b_i$ は帰納的にとる。$b_1,\dots,b_{i-1}$ をとったとき、それらの張る空間 $W_{i-1}$($W_0=\{0\}$)に入らない $\Lambda$ の元のうち $\|\cdot\|_K$ が最小のものを $b_i$ とする($S(\lambda)$ は有限なので最小のものがある)。$\mu_i:=\|b_i\|_K$ とおく。$b_i\notin W_{i-1}\supset W_{i-2}$ なので $b_i$ は第 $i-1$ 段の候補でもあり、$\mu_{i-1}\le\mu_i$ である。$S(\lambda_i)$ は 1 次独立な $i$ 個の元を含み、その 1 つは $W_{i-1}$ に入らないので $\mu_i\le\lambda_i$ である。逆に $b_1,\dots,b_i$ は 1 次独立で、どれも $\mu_iK$ に入るので $d(\mu_i)\ge i$、すなわち $\mu_i\ge\lambda_i$ である。よって $\|b_i\|_K=\lambda_i$ である。$\square$

$\lambda_1$ は「$K$ のノルムで測った最短の格子ベクトルの長さ」である。$K=B^n$ のとき $\lambda_1(B^n,\Lambda)^2=\min_{0\ne v\in\Lambda}\lvert v\rvert^2$ を $m(\Lambda)$ と書き、$\Lambda$ の 最小ノルム と呼ぶ。

主要な定理の地図

数の幾何学の中心の定理を、扱う量ごとに並べる。

定理主張($K$ は凸体、$\Lambda$ は格子)証明の所在
Blichfeldt の補題可測集合 $S$ が $\operatorname{vol}(S)>\operatorname{covol}(\Lambda)$ なら、$x-y\in\Lambda$ となる相異なる $x,y\in S$ があるMinkowskiの凸体定理 の補題「Blichfeldtの補題」($\Lambda=\mathbb{Z}^n$)、Zha23 Theorem 7.9.6(p. 257)
Minkowski の第 1 定理(凸体定理)$\operatorname{vol}(K)\ge2^n\operatorname{covol}(\Lambda)$ なら $K$ は $\Lambda$ の $0$ でない点を含む。言い換えると $\lambda_1^n\operatorname{vol}(K)\le2^n\operatorname{covol}(\Lambda)$Minkowskiの凸体定理、イデアル類群 の補題「格子に対する凸体定理」
Minkowski の第 2 定理$\dfrac{2^n}{n!}\operatorname{covol}(\Lambda)\le\lambda_1\cdots\lambda_n\operatorname{vol}(K)\le2^n\operatorname{covol}(\Lambda)$左は thm-gon-second-lower、右は Zha23 Theorem 7.9.4(p. 257、証明 pp. 257–258)
Minkowski による最小ノルムの評価$m(\Lambda)\le4\bigl(\operatorname{covol}(\Lambda)/V_n\bigr)^{2/n}$($V_n=\operatorname{vol}(B^n)$)prop-gon-minkowski-bound
Hermite の不等式$m(\Lambda)\le(4/3)^{(n-1)/2}\operatorname{covol}(\Lambda)^{2/n}$thm-gon-hermite

第 1 定理は第 2 定理の右の不等式から $\lambda_1^n\le\lambda_1\cdots\lambda_n$ を使って従う。第 2 定理の右の不等式は第 1 定理よりはるかに強く、その証明は Blichfeldt の補題を巧妙な写像と組み合わせるもので、この記事では証明しない(Zha23 pp. 257–258)。

Minkowski の第 2 定理の下からの評価

下からの評価は、逐次最小を実現するベクトルの凸包を $K$ の中に置くだけで得られる。

第2定理の下からの評価

$\Lambda$ を $\mathbb{R}^n$ の格子、$K$ を凸体、$\lambda_1,\dots,\lambda_n$ を $K$ の $\Lambda$ に関する逐次最小とする。このとき
$$ \lambda_1\lambda_2\cdots\lambda_n\operatorname{vol}(K)\ \ge\ \frac{2^n}{n!}\operatorname{covol}(\Lambda) $$
である。

lem-gon-minima-exist により、1 次独立な $b_1,\dots,b_n\in\Lambda$ で $\|b_i\|_K=\lambda_i$ となるものがある。$c_i:=b_i/\lambda_i$ とおくと $c_i\in K$ であり、$K$ は原点対称なので $\pm c_i\in K$ である。$K$ は凸なので、$\pm c_1,\dots,\pm c_n$ の凸包
$$ C:=\Bigl\{\sum_{i=1}^nt_ic_i\ \Bigm|\ \sum_{i=1}^n\lvert t_i\rvert\le1\Bigr\} $$
は $K$ に含まれる。$C$ は、体積 $2^n/n!$ の正軸体 $\{t\in\mathbb{R}^n\mid\sum\lvert t_i\rvert\le1\}$(座標の符号ごとの $2^n$ 個の部分が、どれも体積 $1/n!$ の単体 $\{t_i\ge0,\ \sum t_i\le1\}$ と合同である)を、列が $c_1,\dots,c_n$ の行列で写した像なので、
$$ \operatorname{vol}(K)\ge\operatorname{vol}(C)=\frac{2^n}{n!}\bigl\lvert\det(c_1,\dots,c_n)\bigr\rvert=\frac{2^n}{n!}\cdot\frac{\lvert\det(b_1,\dots,b_n)\rvert}{\lambda_1\cdots\lambda_n} $$
である。$\Lambda':=\mathbb{Z}b_1+\cdots+\mathbb{Z}b_n$ は $\Lambda$ の部分格子なので、格子(群) の定理「部分格子の指数と体積」により $\lvert\det(b_1,\dots,b_n)\rvert=\operatorname{covol}(\Lambda')=[\Lambda:\Lambda']\operatorname{covol}(\Lambda)\ge\operatorname{covol}(\Lambda)$ である。両辺に $\lambda_1\cdots\lambda_n$ を掛ければよい。$\square$

$K=B^n$、$\Lambda=\mathbb{Z}^n$ では $\lambda_i=1$ で、両側の評価は $2^n/n!\le V_n\le2^n$ になる。正軸体 $K=\{\sum\lvert x_i\rvert\le1\}$ と $\mathbb{Z}^n$ では $\lambda_i=1$、$\operatorname{vol}(K)=2^n/n!$ なので下の評価で等号が成り立ち、立方体 $K=[-1,1]^n$ と $\mathbb{Z}^n$ では上の評価で等号が成り立つ(Zha23 Example 7.9.5、p. 257)。

逐次最小を実現するベクトルが基底にならない例

$v:=\frac12(1,1,1,1)$ とし、$\Lambda:=\mathbb{Z}^4+\mathbb{Z}v=\mathbb{Z}^4\cup(\mathbb{Z}^4+v)$ とおく(座標がすべて整数か、すべて整数 $+\frac12$ の点の全体。四元数で見れば Hurwitz の整四元数である)。$\mathbb{Z}^4$ は $\Lambda$ の指数 $2$ の部分格子なので $\operatorname{covol}(\Lambda)=\frac12$ である。$0$ でない元の長さの 2 乗は、$\mathbb{Z}^4$ の元なら $1$ 以上、$\mathbb{Z}^4+v$ の元なら各座標の 2 乗が $\frac14$ 以上なので $1$ 以上であり、$e_1$ や $v$ で $1$ になる。よって単位球 $B^4$ について $\lambda_1=\cdots=\lambda_4=1$ で、標準基底 $e_1,\dots,e_4$ はこれを実現する。しかし $e_1,\dots,e_4$ の張る格子は $\mathbb{Z}^4$ で、$\Lambda$ の基底ではない。第 2 定理の両側の評価は $\frac{2^4}{4!}\cdot\frac12=\frac13\le V_4=\frac{\pi^2}2\approx4.93\le2^4\cdot\frac12=8$ である。同じ構成で $n=8$ の例が Zha23 Example 7.9.3(pp. 256–257)にある。

Hermite 定数

最小ノルム $m(\Lambda)$ は $\Lambda$ を $t$ 倍すると $t^2$ 倍に、$\operatorname{covol}(\Lambda)^{2/n}$ も $t^2$ 倍になるので、比 $m(\Lambda)/\operatorname{covol}(\Lambda)^{2/n}$ は大きさによらない。

Hermite定数

$n\ge1$ について
$$ \gamma_n:=\sup_{\Lambda}\frac{m(\Lambda)}{\operatorname{covol}(\Lambda)^{2/n}} $$
($\Lambda$ は $\mathbb{R}^n$ の格子全体を動く)を Hermite 定数(Hermite constant)という。

$\gamma_1=1$ である。格子 $\Lambda=M\mathbb{Z}^n$ と正定値対称行列 $G=M^{\mathsf T}M$ は、2 次形式 $Q(x)=x^{\mathsf T}Gx$ を通じて対応し、$m(\Lambda)=\min_{0\ne x\in\mathbb{Z}^n}Q(x)$、$\operatorname{covol}(\Lambda)^2=\det G$ である。したがって $\gamma_n$ は「行列式 $D$ の正定値 $n$ 元 2 次形式は、$0$ でない整数ベクトルで $\gamma_nD^{1/n}$ 以下の値をとる」という評価の最良の定数である。$\gamma_n$ が有限であることを、2 つの方法で示す。

Minkowskiによる最小ノルムの評価

$V_n:=\operatorname{vol}(B^n)$ とすると、$\mathbb{R}^n$ の任意の格子 $\Lambda$ について
$$ m(\Lambda)\le4\Bigl(\frac{\operatorname{covol}(\Lambda)}{V_n}\Bigr)^{2/n} $$
である。とくに $\gamma_n\le4/V_n^{2/n}$ である。

$r:=2(\operatorname{covol}(\Lambda)/V_n)^{1/n}$ とおくと、半径 $r$ の閉球 $rB^n$ は凸体で $\operatorname{vol}(rB^n)=V_nr^n=2^n\operatorname{covol}(\Lambda)$ である。イデアル類群 の補題「格子に対する凸体定理」により、$rB^n$ は $\Lambda$ の $0$ でない点 $v$ を含む。よって $m(\Lambda)\le\lvert v\rvert^2\le r^2$ である。$\square$

同じ主張は、判別式 $\operatorname{disc}=\operatorname{covol}^2$ を使った形で 格子(数論) の補題「短いベクトルの存在」にもある。

Hermiteの不等式

$n\ge1$ と $\mathbb{R}^n$ の任意の格子 $\Lambda$ について
$$ m(\Lambda)\le\Bigl(\frac43\Bigr)^{(n-1)/2}\operatorname{covol}(\Lambda)^{2/n} $$
である。すなわち $\gamma_n\le(4/3)^{(n-1)/2}$ である。

$n$ についての帰納法による。$n=1$ では $\Lambda=\mathbb{Z}v$ で $m(\Lambda)=\lvert v\rvert^2=\operatorname{covol}(\Lambda)^2$ なので等号で成り立つ。$n\ge2$ とし、最短の元 $v_1\in\Lambda$($\lvert v_1\rvert^2=m:=m(\Lambda)$)をとる。$W:=v_1^\perp$ を直交補空間、$\pi\colon\mathbb{R}^n\to W$ を直交射影とする。
段 1:$\Lambda':=\pi(\Lambda)$ は $W$ の格子で、$\operatorname{covol}(\Lambda')=\operatorname{covol}(\Lambda)/\lvert v_1\rvert$ である。 $v_1$ を含む $\Lambda$ の基底 $v_1,w_2,\dots,w_n$ があれば、$\pi(w_2),\dots,\pi(w_n)$ は $W$ の基底で $\Lambda'$ を生成し、行列式は $\lvert\det(v_1,w_2,\dots,w_n)\rvert=\lvert v_1\rvert\cdot\lvert\det_W(\pi(w_2),\dots,\pi(w_n))\rvert$(各 $w_i$ から $v_1$ の倍数を引いても行列式は変わらない)となる。そのような基底の存在を示す。

基底の存在の証明を開く

$\Lambda\cap\mathbb{R}v_1$ は直線 $\mathbb{R}v_1$ の離散部分群なので、格子(群) の定理「離散部分群の構造」により $\mathbb{Z}u$ の形である。$v_1=ku$($k\in\mathbb{Z}$)で、$\lvert u\rvert\ge\lvert v_1\rvert$($v_1$ は最短)なので $k=\pm1$、すなわち $\Lambda\cap\mathbb{R}v_1=\mathbb{Z}v_1$ である。商 $\Lambda/\mathbb{Z}v_1$ はねじれをもたない:$w\in\Lambda$ と $0$ でない整数 $c$ で $cw\in\mathbb{Z}v_1$ なら $w\in\Lambda\cap\mathbb{R}v_1=\mathbb{Z}v_1$ である。有限生成でねじれのないアーベル群は自由なので(自由アーベル群)、$\Lambda/\mathbb{Z}v_1$ は階数 $n-1$ の自由アーベル群で、その基底の代表元 $w_2,\dots,w_n$ をとると $v_1,w_2,\dots,w_n$ は $\Lambda$ の基底である。


段 2:$m(\Lambda')\ge\frac34m$。 $0$ でない $w'\in\Lambda'$ をとり、$w'=\pi(w)$($w\in\Lambda$)と書く。$w=w'+tv_1$($t\in\mathbb{R}$)であり、$w$ から $v_1$ の整数倍を引いて $\lvert t\rvert\le\frac12$ にできる。$w'\ne0$ なので $w\ne0$ で、$w'\perp v_1$ から
$$ m\le\lvert w\rvert^2=\lvert w'\rvert^2+t^2\lvert v_1\rvert^2\le\lvert w'\rvert^2+\frac m4 $$
である。よって $\lvert w'\rvert^2\ge\frac34m$ である。
段 3:帰納法。 $\Lambda'$ は $n-1$ 次元の格子なので、帰納法の仮定と段 1・段 2 から
$$ \frac34m\le m(\Lambda')\le\Bigl(\frac43\Bigr)^{(n-2)/2}\Bigl(\frac{\operatorname{covol}(\Lambda)}{m^{1/2}}\Bigr)^{2/(n-1)} $$
である。両辺を整理すると $m^{n/(n-1)}\le(4/3)^{n/2}\operatorname{covol}(\Lambda)^{2/(n-1)}$ となり、$(n-1)/n$ 乗して $m\le(4/3)^{(n-1)/2}\operatorname{covol}(\Lambda)^{2/n}$ を得る。$\square$

2次元のHermite定数

$\gamma_2=2/\sqrt3$ であり、上限は正三角形の格子 $\Lambda_{\mathrm{hex}}:=\mathbb{Z}(1,0)+\mathbb{Z}(\frac12,\frac{\sqrt3}2)$ でとられる。

thm-gon-hermite で $n=2$ とすれば $\gamma_2\le(4/3)^{1/2}=2/\sqrt3$ である。$\Lambda_{\mathrm{hex}}$ の元 $a(1,0)+b(\frac12,\frac{\sqrt3}2)$ の長さの 2 乗は $a^2+ab+b^2$ で、$(a,b)\ne(0,0)$ の整数なら $a^2+ab+b^2=\frac12\bigl(a^2+b^2+(a+b)^2\bigr)\ge1$(3 つの整数のうち少なくとも 2 つは $0$ でない)なので $m(\Lambda_{\mathrm{hex}})=1$ である。$\operatorname{covol}(\Lambda_{\mathrm{hex}})=\frac{\sqrt3}2$ なので、比は $1/(\sqrt3/2)=2/\sqrt3$ である。$\square$

2 元 2 次形式 $Q=ax^2+bxy+cy^2$($a,c>0$、判別式 $b^2-4ac=-\Delta<0$)に当てると、Gram 行列の行列式は $ac-b^2/4=\Delta/4$ なので、cor-gon-gamma2 は「$Q$ は $0$ でない整数の組で $\sqrt{\Delta/3}$ 以下の値をとる」ことを意味する。簡約形式 $\lvert b\rvert\le a\le c$ では $\Delta=4ac-b^2\ge3a^2$ なので $a\le\sqrt{\Delta/3}$ であり、すべての正定値形式が簡約形式と同値であること(2元2次形式 の定理「簡約形式の存在」)と合わせても同じ評価が得られる。
2 つの上界を数値で比べる(小数第 3 位で四捨五入)。

$n$2345678910
Hermite の上界 $(4/3)^{(n-1)/2}$1.151.331.541.782.052.372.743.163.65
Minkowski の上界 $4/V_n^{2/n}$1.271.541.802.062.312.572.823.073.32

$n\le8$ では Hermite の上界が小さく、$n=9,10$ では Minkowski の上界が小さい。Hermite の上界は $n$ について指数的に増えるが、$V_n=\pi^{n/2}/\Gamma(\frac n2+1)$ に Stirling の公式を使うと Minkowski の上界は $n$ に比例する程度にしか増えない。凸体定理という「体積の議論」が、帰納法による「射影の議論」より大きな次元で強いことを示す例である。ex-gon-hurwitz の格子の比は $1/(1/2)^{1/2}=\sqrt2\approx1.41$ で、$n=4$ の 2 つの上界より小さい。

整数論への応用

数の幾何学の定理は、整数論の対象を格子と凸体に置き換えることで働く。代数体 $K$ では、Minkowski 埋め込みで整数環 $\mathcal{O}_K$ が $\mathbb{R}^n$ の格子になり、その基本領域の体積が判別式で決まる(判別式(代数体) の定理「整数環の格子としての体積」)。これが代数的整数論への入口である。

応用使う格子と凸体記事
素数 $p\equiv1\pmod4$ は 2 つの平方数の和合同条件で決まる $\mathbb{Z}^2$ の部分格子と円板Minkowskiの凸体定理 の定理「凸体定理による二平方定理」
実数の有理数による近似$\mathbb{Z}^2$ と細長い平行四辺形Minkowskiの凸体定理 の命題「凸体定理による近似定理」、Diophantus近似
類数の有限性と Minkowski の限界$\mathcal{O}_K$ のイデアルの格子と、絶対値の和が小さい領域イデアル類群 の定理「類数の有限性」「Minkowskiの限界」
$\mathbb{Q}$ と異なる代数体では $\lvert d_K\rvert>1$同上(単項イデアルの類)判別式(代数体) の定理「Minkowskiの判別式定理」
判別式が有界な代数体は有限個$\mathcal{O}_K$ の格子と、1 つの埋め込みの方向にだけ長い箱Hermite–Minkowskiの定理
単数群は有限生成で階数 $r_1+r_2-1$$\mathcal{O}_K$ の格子と、各埋め込みで小さい箱Dirichletの単数定理
小さい階数のユニモジュラー格子の分類正定値の格子と球格子(数論) の定理「階数 4 以下の正定値ユニモジュラー格子」

どの応用でも、凸体定理は「条件を満たす $0$ でない整数(整数ベクトル、代数的整数)が存在する」ことを与えるだけで、その元を具体的に構成しない。具体的な計算には、2元2次形式 の簡約のような、格子の短い基底を求める手続きが使われる。

反例

lem-gon-minima-exist の仮定($\Lambda$ が格子、$K$ が凸体)を 1 つずつ外すと、逐次最小が意味をもたなくなる。

外す条件反例成り立たなくなること
$\Lambda$ が離散$n=1$、$\Lambda=\mathbb{Z}+\sqrt2\,\mathbb{Z}$、$K=[-1,1]$$\lambda_1>0$($\lambda K$ が $0$ でない元を含む $\lambda$ の下限が $0$ で、最小値がない)
$\Lambda$ が $\mathbb{R}^n$ を張る$n=2$、$\Lambda=\mathbb{Z}(1,0)$、$K=B^2$$\lambda_2<\infty$(1 次独立な 2 元がない)
$K$ が有界$n=2$、$\Lambda=\mathbb{Z}^2$、$K=\mathbb{R}\times[-1,1]$$\lambda_1>0$(すべての $\lambda>0$ で $(1,0)\in\lambda K$)
$K$ が内点をもつ$n=2$、$\Lambda=\mathbb{Z}^2$、$K=[-1,1]\times\{0\}$$\lambda_2<\infty$($\lambda K$ は $x$ 軸に含まれる)
反例の確認

各行の $K$ は、外した条件以外の性質(原点対称・凸・閉)をもつ。

各行の確認を開く
  1. $\sqrt2$ は無理数なので、Minkowskiの凸体定理 の命題「凸体定理による近似定理」により、各 $N\ge1$ について $0<\lvert q\sqrt2-p\rvert<\frac1N$ となる整数 $p,q$($1\le q\le N$)がある。$q\sqrt2-p$ は $\Lambda$ の $0$ でない元で $\frac1N K$ に入る。$\Lambda$ は $\mathbb{R}$ を張るが離散でない。
  2. $\Lambda$ は離散な部分群だが階数 $1$ で、どの $\lambda K$ にも $\Lambda$ の 1 次独立な 2 元はない。
  3. $K$ は閉じた帯で、原点対称な凸集合で内点をもつが有界でない。$(1,0)\in\lambda K$ は $1\in\mathbb{R}$、$0\in[-\lambda,\lambda]$ による。
  4. $K$ は線分で、原点対称な有界閉凸集合だが内点をもたない。$\lambda K\cap\mathbb{Z}^2\subset\mathbb{Z}\times\{0\}$ である。

学ぶ順

  1. 格子(群):格子・基本領域の体積・離散部分群の構造。
  2. Minkowskiの凸体定理:Blichfeldt の補題と凸体定理、二平方定理と近似定理。
  3. 判別式(代数体) と イデアル類群:Minkowski 埋め込み、類数の有限性、Minkowski の判別式定理。
  4. Dirichletの単数定理 と Hermite–Minkowskiの定理:凸体定理による単数の構成と、判別式が有界な代数体の有限性。
  5. 2元2次形式 と 格子(数論):2 次形式の簡約、ユニモジュラー格子。

関連項目

参考文献

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