Carnotの定理(三角形)(Carnot's theorem (triangle))とは、三角形 $ABC$ の外心 $O$ から 3 辺までの符号つき距離の和が $R+r$($R$ は外接円、$r$ は内接円の半径)に等しいという定理である。符号は、$O$ と向かいの頂点が辺の同じ側にあれば正、辺の上なら $0$、反対側なら負とする(鋭角三角形ではすべて正、鈍角三角形では最大の辺までの距離が負)。辺 $BC$ までの符号つき距離は $R\cos A$ なので、定理は恒等式 $\cos A+\cos B+\cos C=1+\frac rR$ と同じであり、$r=4R\sin\frac A2\sin\frac B2\sin\frac C2$ と和積の公式から示せる。系として、$\cos A+\cos B+\cos C\le\frac32$ と $R\ge2r$ は同じ不等式である。
前提知識: 三角形の外心, 三角形の内心と傍心, 円周角の定理(高校数学), 正弦定理(高校数学), 加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く
三角形 $ABC$ の外心 $O$ は、3 辺の垂直二等分線の交点である(三角形の外心)。$O$ から各辺に下ろした垂線の足は、その辺の中点になる。では、$O$ から 3 辺までの距離を足すと、何になるだろうか。3 つの距離はそれぞれ三角形の形で変わるが、和には意外な値が出てくる。
以下、辺の長さを $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$、外接円の半径を $R$、内接円の半径を $r$、面積を $S$ と書く。
$A(0,3)$、$B(4,0)$、$C(0,0)$ とする。$a=4$、$b=3$、$c=5$ で、$\angle C=90^\circ$ である。
(1) 外心と $R$。直角三角形の外心は斜辺 $AB$ の中点なので $O\left(2,\dfrac32\right)$、$R=\dfrac52$ である。
(2) 内接円の半径。$S=\dfrac12\cdot4\cdot3=6$、$s=\dfrac{a+b+c}2=6$ なので、$r=\dfrac Ss=1$ である(三角形の内心と傍心)。
(3) 3 辺までの距離。辺 $BC$($x$ 軸)までは $\dfrac32$、辺 $CA$($y$ 軸)までは $2$、辺 $AB$ までは $O$ が $AB$ の上にあるので $0$ である。和は
$$
\frac32+2+0=\frac72=\frac52+1=R+r
$$
である。
$B(0,0)$、$C(14,0)$、$A(5,12)$ とする。$a=14$、$b=15$、$c=13$ である。
(1) 外心と $R$。辺 $BC$ の垂直二等分線は $x=7$ である。$O(7,k)$ が $OB=OA$ を満たすように $k$ を決めると、$49+k^2=4+(12-k)^2$ から $24k=99$、$k=\dfrac{33}8$ である。$R=OB=\sqrt{49+\dfrac{1089}{64}}=\sqrt{\dfrac{4225}{64}}=\dfrac{65}8$ である。
(2) 内接円の半径。$S=\dfrac12\cdot14\cdot12=84$、$s=21$ なので $r=\dfrac{84}{21}=4$ である。
(3) 3 辺までの距離。辺 $BC$($x$ 軸)までは $\dfrac{33}8$ である。直線 $CA$ は $4x+3y-56=0$、直線 $AB$ は $12x-5y=0$ なので、点と直線の距離の公式から
$$
\frac{\lvert 28+\frac{99}8-56\rvert}{5}=\frac{125/8}{5}=\frac{25}8,\qquad \frac{\lvert 84-\frac{165}8\rvert}{13}=\frac{507/8}{13}=\frac{39}8
$$
である。和は
$$
\frac{33}8+\frac{25}8+\frac{39}8=\frac{97}8=\frac{65}8+\frac{32}8=R+r
$$
である。
2 つの例で、外心から 3 辺までの距離の和が $R+r$ になった。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 外心から辺までの距離 | 符号つき距離 $R\cos A$ | 向きのある量 |
| 和積の公式・半角の式 | $\cos A+\cos B+\cos C=1+\dfrac rR$ | 三角形の角についての恒等式 |
| $R\ge2r$ | $\cos A+\cos B+\cos C\le\dfrac32$ | 凹関数の最大(Jensen の不等式) |
外心 O から 3 辺の中点までの距離 33/8、25/8、39/8 を足すと 97/8 になり、R と r の和に等しい
鈍角三角形では、外心は三角形の外にある。そのとき、外心から見て三角形と反対側にある辺までの距離は、負の数として数える。
三角形 $ABC$ の外心を $O$ とする。$O$ から直線 $BC$ までの距離を $OD$($D$ は垂線の足)とし、
$$
d_a=\begin{cases}OD & (O\text{ と }A\text{ が直線 }BC\text{ の同じ側にある})\\ 0 & (O\text{ が直線 }BC\text{ の上にある})\\ -OD & (O\text{ と }A\text{ が直線 }BC\text{ の反対側にある})\end{cases}
$$
と定め、$d_a$ を $O$ から辺 $BC$ までの 符号つき距離 という。辺 $CA$、$AB$ までの符号つき距離 $d_b$、$d_c$ も、向かいの頂点 $B$、$C$ を使って同じように定める。
$A$ は三角形の頂点なので、「$O$ と $A$ が直線 $BC$ の同じ側にある」は「$O$ と三角形の内部が直線 $BC$ の同じ側にある」と同じである。
三角形 $ABC$ の外接円の半径を $R$ とすると
$$
d_a=R\cos A,\qquad d_b=R\cos B,\qquad d_c=R\cos C
$$
である。
方針:$D$ を辺 $BC$ の中点とすると、$OD$ は直線 $BC$ に垂直である。中心角 $\angle BOC$ を $OD$ で 2 等分し、直角三角形 $OBD$ で $OD$ を求める。$A$ が鋭角・直角・鈍角の 3 つの場合に分ける。$d_a$ だけを示せば、$d_b$、$d_c$ も頂点の名前を入れかえて同じである。
段 1(鋭角)。$A<90^\circ$ とする。$A$ は弦 $BC$ で分けられた大きい方の弧の上にあり、円周角の定理(円周角の定理(高校数学))により $\angle BOC=2A$ で、$O$ は $A$ と同じ側にある。三角形 $OBC$ は $OB=OC=R$ の二等辺三角形なので、$OD$ は $\angle BOC$ を 2 等分し、$\angle BOD=A$ である。直角三角形 $OBD$ で $OD=OB\cos\angle BOD=R\cos A$ で、符号は正なので $d_a=R\cos A$ である。
段 2(直角)。$A=90^\circ$ のとき、$BC$ は直径で、$O$ は $BC$ の中点、つまり直線 $BC$ の上にある。$d_a=0=R\cos90^\circ$ である。
段 3(鈍角)。$A>90^\circ$ とする。$A$ は小さい方の弧の上にあり、$O$ は直線 $BC$ について $A$ と反対側にある。弧 $BC$($A$ を含まない方)の中心角は $2A$ で $180^\circ$ を超えるので、三角形 $OBC$ の頂角は $\angle BOC=360^\circ-2A$、$\angle BOD=180^\circ-A$ である。直角三角形 $OBD$ で $OD=R\cos(180^\circ-A)=-R\cos A$ で、符号は負なので $d_a=-OD=R\cos A$ である。$\square$
鋭角三角形・直角三角形・鈍角三角形で、符号の付き方を比べる。
| 鋭角三角形 | 直角三角形($C=90^\circ$) | 鈍角三角形($C>90^\circ$) | |
|---|---|---|---|
| 外心の位置 | 内部 | 斜辺 $AB$ の中点 | 外部(辺 $AB$ の向こう側) |
| $d_a$、$d_b$ | 正 | 正 | 正 |
| $d_c=R\cos C$ | 正 | $0$ | 負 |
| 例 | $13,14,15$ | $3,4,5$ | $3,5,7$ |
| $d_a+d_b+d_c$ | $\dfrac{97}8$ | $\dfrac72$ | $\dfrac{17\sqrt3}6$ |
$C(0,0)$、$B(3,0)$、$A\left(-\dfrac52,\dfrac{5\sqrt3}2\right)$ とする。$a=3$、$b=5$ で、$\angle C=120^\circ$ である。余弦定理から $c^2=9+25-2\cdot3\cdot5\cos120^\circ=49$、$c=7$ である。
(1) 角の余弦。余弦定理から
$$
\cos A=\frac{b^2+c^2-a^2}{2bc}=\frac{65}{70}=\frac{13}{14},\qquad \cos B=\frac{a^2+c^2-b^2}{2ac}=\frac{33}{42}=\frac{11}{14},\qquad \cos C=-\frac12
$$
である。
(2) $R$ と $r$。正弦定理から $2R=\dfrac{c}{\sin C}=\dfrac{7}{\sqrt3/2}$ で $R=\dfrac7{\sqrt3}=\dfrac{7\sqrt3}3$ である。$S=\dfrac12\cdot3\cdot5\sin120^\circ=\dfrac{15\sqrt3}4$、$s=\dfrac{15}2$ なので $r=\dfrac Ss=\dfrac{\sqrt3}2$ である。
(3) 符号つき距離。lem-crn-rcos により
$$
d_a=\frac7{\sqrt3}\cdot\frac{13}{14}=\frac{13\sqrt3}6,\qquad d_b=\frac7{\sqrt3}\cdot\frac{11}{14}=\frac{11\sqrt3}6,\qquad d_c=\frac7{\sqrt3}\cdot\left(-\frac12\right)=-\frac{7\sqrt3}6
$$
である。外心は $O\left(\dfrac32,\dfrac{13\sqrt3}6\right)$ で、辺 $AB$ について $C$ と反対側にある(図 3)。和は
$$
d_a+d_b+d_c=\frac{(13+11-7)\sqrt3}6=\frac{17\sqrt3}6,\qquad R+r=\frac{14\sqrt3}6+\frac{3\sqrt3}6=\frac{17\sqrt3}6
$$
で、等しい。
直角三角形では外心が斜辺の中点にあり、斜辺までの距離は 0 になる
鈍角三角形では外心が三角形の外にあり、赤で示した辺 AB までの距離を負として数える
図 2 は ex-crn-345、図 3 は ex-crn-357 である。
三角形 $ABC$ の外心 $O$ から 3 辺 $BC$、$CA$、$AB$ までの符号つき距離(def-crn-signed)を $d_a$、$d_b$、$d_c$ とすると
$$
d_a+d_b+d_c=R+r
$$
である。ここで $R$ は外接円の半径、$r$ は内接円の半径である。
符号のつけ方は Wei26 の約束(外心と辺の足を結ぶ線分が三角形の外にあるとき負)と同じ内容である。
lem-crn-rcos により左辺は $R(\cos A+\cos B+\cos C)$ なので、定理は角の余弦についての等式
$$
\cos A+\cos B+\cos C=1+\frac rR
$$
と同じである。これを 2 段に分けて示す。まず $r$ を $R$ と半角の正弦で書く。
三角形 $ABC$ で
$$
r=4R\sin\frac A2\sin\frac B2\sin\frac C2
$$
である。
方針:内心 $I$ から辺 $AB$ に下ろした垂線の足を $T$ とし、$c=AT+TB$ を $r$ と半角で書く。一方で正弦定理から $c=2R\sin C$ である。2 つを比べる。
段 1(接点までの長さ)。内心 $I$ は角の二等分線の交点で、$T$ は内接円と辺 $AB$ の接点である(三角形の内心と傍心)。$T$ は線分 $AB$ の上にある。直角三角形 $ATI$ で $\angle IAT=\dfrac A2$、$IT=r$ なので、$AT=\dfrac{r}{\tan(A/2)}=\dfrac{r\cos(A/2)}{\sin(A/2)}$ である。同じように $TB=\dfrac{r\cos(B/2)}{\sin(B/2)}$ である。
段 2(通分と加法定理)。
$$
c=AT+TB=r\cdot\frac{\cos\frac A2\sin\frac B2+\sin\frac A2\cos\frac B2}{\sin\frac A2\sin\frac B2}=r\cdot\frac{\sin\left(\frac A2+\frac B2\right)}{\sin\frac A2\sin\frac B2}
$$
である(分子は正弦の加法定理)。$\dfrac A2+\dfrac B2=90^\circ-\dfrac C2$ なので、$\sin\left(\dfrac A2+\dfrac B2\right)=\cos\dfrac C2$ である。
段 3(正弦定理と 2 倍角)。正弦定理(正弦定理(高校数学))と 2 倍角の公式から
$$
c=2R\sin C=4R\sin\frac C2\cos\frac C2
$$
である。
段 4(比べる)。段 2 と段 3 から $r\cdot\dfrac{\cos(C/2)}{\sin(A/2)\sin(B/2)}=4R\sin\dfrac C2\cos\dfrac C2$ である。$0^\circ<\dfrac C2<90^\circ$ なので $\cos\dfrac C2>0$ で、両辺を割って $\sin\dfrac A2\sin\dfrac B2$ を掛けると、$r=4R\sin\dfrac A2\sin\dfrac B2\sin\dfrac C2$ を得る。$\square$
三角形 $ABC$ で
$$
\cos A+\cos B+\cos C=1+4\sin\frac A2\sin\frac B2\sin\frac C2=1+\frac rR
$$
である。
方針:$\cos A+\cos B$ を和積の公式でまとめ、$\cos C$ を半角で書く。共通の因数 $\sin\dfrac C2$ でくくる。
段 1($\cos A+\cos B$)。和積の公式(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く)により
$$
\cos A+\cos B=2\cos\frac{A+B}2\cos\frac{A-B}2
$$
である。$\dfrac{A+B}2=90^\circ-\dfrac C2$ なので $\cos\dfrac{A+B}2=\sin\dfrac C2$ で、$\cos A+\cos B=2\sin\dfrac C2\cos\dfrac{A-B}2$ である。
段 2($\cos C$)。2 倍角の公式から $\cos C=1-2\sin^2\dfrac C2$ である。段 1 と同じく $\sin\dfrac C2=\cos\dfrac{A+B}2$ なので、$\cos C=1-2\sin\dfrac C2\cos\dfrac{A+B}2$ と書ける。
段 3(くくる)。段 1 と段 2 を足して
$$
\cos A+\cos B+\cos C=1+2\sin\frac C2\left(\cos\frac{A-B}2-\cos\frac{A+B}2\right)
$$
である。加法定理から $\cos(u-v)-\cos(u+v)=2\sin u\sin v$ なので、$u=\dfrac A2$、$v=\dfrac B2$ として括弧の中は $2\sin\dfrac A2\sin\dfrac B2$ である。よって
$$
\cos A+\cos B+\cos C=1+4\sin\frac A2\sin\frac B2\sin\frac C2
$$
である。
段 4($r$ で書く)。lem-crn-inradius により $4\sin\dfrac A2\sin\dfrac B2\sin\dfrac C2=\dfrac rR$ である。$\square$
これで主定理が示せる。
lem-crn-rcos により $d_a=R\cos A$、$d_b=R\cos B$、$d_c=R\cos C$ である。3 つを足して prop-crn-cos-sum を使うと
$$
d_a+d_b+d_c=R(\cos A+\cos B+\cos C)=R\left(1+\frac rR\right)=R+r
$$
である。$\square$
lem-crn-rcos は鋭角・直角・鈍角で場合を分けたが、prop-crn-cos-sum は場合分けなしの恒等式である。符号つき距離を使うと、主定理も場合分けなしで 1 つの式になる。
鋭角三角形とし、辺 $BC$、$CA$、$AB$ の中点を $D$、$E$、$F$ とする。外心 $O$ は三角形の内部にあり、$OD=d_a$、$OE=d_b$、$OF=d_c$ である。
段 1(Ptolemy の定理)。$\angle OEA=\angle OFA=90^\circ$ なので、4 点 $O$、$E$、$A$、$F$ は $OA$ を直径とする円の上にあり、この順に並ぶ。Ptolemyの定理 により $OA\cdot EF=OE\cdot AF+OF\cdot AE$ である。$OA=R$、中点連結定理 から $EF=\dfrac a2$、$AF=\dfrac c2$、$AE=\dfrac b2$ なので、$Ra=d_b\,c+d_c\,b$ である。頂点 $B$、$C$ でも同じようにして $Rb=d_c\,a+d_a\,c$、$Rc=d_a\,b+d_b\,a$ である。3 つを足すと
$$R(a+b+c)=d_a(b+c)+d_b(c+a)+d_c(a+b)$$
である。
段 2(面積)。三角形 $ABC$ を $O$ で 3 つの三角形 $OBC$、$OCA$、$OAB$ に分けると $S=\dfrac12(a\,d_a+b\,d_b+c\,d_c)$ である。内心で分けると $S=\dfrac12r(a+b+c)$ なので、$a\,d_a+b\,d_b+c\,d_c=r(a+b+c)$ である。
段 3(足す)。段 1 と段 2 の式を足すと、右辺は $(d_a+d_b+d_c)(a+b+c)$ にまとまり、$(R+r)(a+b+c)=(d_a+d_b+d_c)(a+b+c)$ である。$a+b+c>0$ で割って $d_a+d_b+d_c=R+r$ を得る。$\square$
段 1 の $Ra=d_b\,c+d_c\,b$ は、lem-crn-rcos で書き直すと $a=b\cos C+c\cos B$ で、これは 三角形の射影定理 である。射影定理と、符号つきの面積の分け方を使えば、この証明は鈍角三角形にも広げられる(ここでは示さない)。
prop-crn-cos-sum の等式の両辺を見比べると、角についての不等式と、半径についての不等式が同じものだと分かる。
三角形 $ABC$ で、次が成り立つ。
(1) $1<\cos A+\cos B+\cos C\le\dfrac32$ で、右の等号は正三角形のときに限る。
(2) $R\ge2r$ で、等号は正三角形のときに限る。
(1) の右の不等式と (2) は、prop-crn-cos-sum によって同じ不等式である。
方針:prf-crn-cos-sum の段 1・段 2 の形を、$t=\sin\dfrac C2$ の 2 次式として上から押さえる。
段 1(左の不等式)。$r>0$、$R>0$ なので、prop-crn-cos-sum から $\cos A+\cos B+\cos C=1+\dfrac rR>1$ である。
段 2(2 次式で押さえる)。$t=\sin\dfrac C2$ とおくと $0< t<1$ である。prf-crn-cos-sum の段 1・段 2 から
$$
\cos A+\cos B+\cos C=2t\cos\frac{A-B}2+1-2t^2
$$
である。$\cos\dfrac{A-B}2\le1$ と $t>0$ から
$$
\cos A+\cos B+\cos C\le 2t+1-2t^2=\frac32-\frac{(2t-1)^2}2\le\frac32
$$
である($\dfrac32-\dfrac{4t^2-4t+1}2=1+2t-2t^2$ で、平方完成の形が正しいことが確かめられる)。
段 3(等号)。等号は $\cos\dfrac{A-B}2=1$ かつ $2t-1=0$ のとき、つまり $A=B$ かつ $\sin\dfrac C2=\dfrac12$($C=60^\circ$)のときに限る。このとき $A=B=60^\circ$ で、正三角形である。逆に正三角形なら $\cos60^\circ\times3=\dfrac32$ である。
段 4((2))。prop-crn-cos-sum により (1) の右の不等式は $1+\dfrac rR\le\dfrac32$、つまり $\dfrac rR\le\dfrac12$、$R\ge2r$ と同じである。等号の条件も同じである。$\square$
$R\ge2r$ は Euler の不等式と呼ばれ、Eulerの三角形の定理 では外心と内心の距離の式 $OI^2=R(R-2r)$ から導いている。上の証明はそれとは別に、角の余弦の和から導いたものである。
二等辺三角形 A=B で頂角 C を動かすと、余弦の和 1+r/R は C=60° で最大値 3/2 をとり、平たくなるにつれて 1 に近づく
図 4 は、$A=B$ の二等辺三角形で頂角 $C$ を $0^\circ$ から $180^\circ$ まで動かしたときの $\cos A+\cos B+\cos C=2\sin\dfrac C2+\cos C$ のグラフである。点は $C=30^\circ,60^\circ,90^\circ,120^\circ,150^\circ$ の値(約 $1.384$、$1.5$、$1.414$、$1.232$、$1.066$)である。
thm-crn-main の条件は「符号つきで足す」「外心から測る」の 2 つである。外すと崩れる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 符号をつけて足す | 鈍角三角形 $3,5,7$ で距離をそのまま足す | 和 $=R+r$($\frac{31\sqrt3}6\ne\frac{17\sqrt3}6$) |
| 外心から測る | $13,14,15$ の三角形で内心から測る | 和 $=R+r$($12\ne\frac{97}8$) |
| 外心から測る | $13,14,15$ の三角形で重心から測る | 和 $=R+r$($\frac{2348}{195}\ne\frac{97}8$) |
ex-crn-357 の三角形で、外心から 3 辺までの距離(向きを考えない長さ)は $\dfrac{13\sqrt3}6$、$\dfrac{11\sqrt3}6$、$\dfrac{7\sqrt3}6$ である。そのまま足すと
$$
\frac{(13+11+7)\sqrt3}6=\frac{31\sqrt3}6\ne\frac{17\sqrt3}6=R+r
$$
である。辺 $AB$ までの距離に負の符号をつけたときだけ $R+r$ になる。鋭角三角形では 3 つとも正なので、この区別は要らない。
ex-crn-131415 の三角形で考える。$R+r=\dfrac{97}8=12.125$ である。
(1) 内心から 3 辺までの距離はどれも $r=4$ なので、和は $3r=12\ne\dfrac{97}8$ である。
(2) 重心 $G$ から辺 $BC$ までの距離は、$A$ から辺 $BC$ までの高さ $h_a$ の $\dfrac13$ である(重心は中線を $2:1$ に分ける)。$h_a=\dfrac{2S}a=12$、$h_b=\dfrac{2S}b=\dfrac{56}5$、$h_c=\dfrac{2S}c=\dfrac{168}{13}$ なので、和は
$$
\frac13\left(12+\frac{56}5+\frac{168}{13}\right)=4+\frac{56}{15}+\frac{56}{13}=\frac{780+728+840}{195}=\frac{2348}{195}\fallingdotseq12.041
$$
で、$\dfrac{97}8$ と異なる。
正三角形では外心・内心・重心が一致するので、どれから測っても和は $R+r=3r$ である。$R+r$ が出るのは、外心から測ったときの特別な性質である。
符号つき距離は、「直線のどちら側にあるか」を符号で記録する量である。Menelausの定理(高校数学) の向きのついた線分の比と同じように、符号を使うと、図の形による場合分けが 1 つの式にまとまる。lem-crn-rcos の 3 つの場合が、$d_a=R\cos A$ という 1 つの式になったのがその例である。
不等式 $\cos A+\cos B+\cos C\le\dfrac32$ は、鋭角三角形なら Jensen の不等式(Jensenの不等式(高校数学))からも出る。
$0^\circ\le x\le90^\circ$ の範囲で $y=\cos x$ のグラフは上に凸である。鋭角三角形では $A$、$B$、$C$ がこの範囲にあるので、Jensen の不等式から $\dfrac{\cos A+\cos B+\cos C}3\le\cos\dfrac{A+B+C}3=\cos60^\circ=\dfrac12$ である。鈍角三角形では $90^\circ< x<180^\circ$ の範囲で $\cos x$ のグラフが下に凸になるので、この議論はそのままでは使えない。prf-crn-ineq の平方完成による証明は、鈍角三角形も含めてすべての三角形で使える。
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