Carnotの定理(三角形)

同義語:カルノーの定理(三角形)Carnot's theorem (triangle)

概要

Carnotの定理(三角形)(Carnot's theorem (triangle))とは、三角形 $ABC$ の外心 $O$ から 3 辺までの符号つき距離の和が $R+r$($R$ は外接円、$r$ は内接円の半径)に等しいという定理である。符号は、$O$ と向かいの頂点が辺の同じ側にあれば正、辺の上なら $0$、反対側なら負とする(鋭角三角形ではすべて正、鈍角三角形では最大の辺までの距離が負)。辺 $BC$ までの符号つき距離は $R\cos A$ なので、定理は恒等式 $\cos A+\cos B+\cos C=1+\frac rR$ と同じであり、$r=4R\sin\frac A2\sin\frac B2\sin\frac C2$ と和積の公式から示せる。系として、$\cos A+\cos B+\cos C\le\frac32$ と $R\ge2r$ は同じ不等式である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 三角形の外心, 三角形の内心と傍心, 円周角の定理(高校数学), 正弦定理(高校数学), 加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く

高校での出発点:外心から 3 辺までの距離

三角形 $ABC$ の外心 $O$ は、3 辺の垂直二等分線の交点である(三角形の外心)。$O$ から各辺に下ろした垂線の足は、その辺の中点になる。では、$O$ から 3 辺までの距離を足すと、何になるだろうか。3 つの距離はそれぞれ三角形の形で変わるが、和には意外な値が出てくる。
以下、辺の長さを $a=BC$、$b=CA$、$c=AB$、外接円の半径を $R$、内接円の半径を $r$、面積を $S$ と書く。

3 辺が $3,4,5$ の直角三角形

$A(0,3)$、$B(4,0)$、$C(0,0)$ とする。$a=4$、$b=3$、$c=5$ で、$\angle C=90^\circ$ である。
(1) 外心と $R$。直角三角形の外心は斜辺 $AB$ の中点なので $O\left(2,\dfrac32\right)$、$R=\dfrac52$ である。
(2) 内接円の半径。$S=\dfrac12\cdot4\cdot3=6$、$s=\dfrac{a+b+c}2=6$ なので、$r=\dfrac Ss=1$ である(三角形の内心と傍心)。
(3) 3 辺までの距離。辺 $BC$($x$ 軸)までは $\dfrac32$、辺 $CA$($y$ 軸)までは $2$、辺 $AB$ までは $O$ が $AB$ の上にあるので $0$ である。和は
$$ \frac32+2+0=\frac72=\frac52+1=R+r $$
である。

3 辺が $13,14,15$ の三角形

$B(0,0)$、$C(14,0)$、$A(5,12)$ とする。$a=14$、$b=15$、$c=13$ である。
(1) 外心と $R$。辺 $BC$ の垂直二等分線は $x=7$ である。$O(7,k)$ が $OB=OA$ を満たすように $k$ を決めると、$49+k^2=4+(12-k)^2$ から $24k=99$、$k=\dfrac{33}8$ である。$R=OB=\sqrt{49+\dfrac{1089}{64}}=\sqrt{\dfrac{4225}{64}}=\dfrac{65}8$ である。
(2) 内接円の半径。$S=\dfrac12\cdot14\cdot12=84$、$s=21$ なので $r=\dfrac{84}{21}=4$ である。
(3) 3 辺までの距離。辺 $BC$($x$ 軸)までは $\dfrac{33}8$ である。直線 $CA$ は $4x+3y-56=0$、直線 $AB$ は $12x-5y=0$ なので、点と直線の距離の公式から
$$ \frac{\lvert 28+\frac{99}8-56\rvert}{5}=\frac{125/8}{5}=\frac{25}8,\qquad \frac{\lvert 84-\frac{165}8\rvert}{13}=\frac{507/8}{13}=\frac{39}8 $$
である。和は
$$ \frac{33}8+\frac{25}8+\frac{39}8=\frac{97}8=\frac{65}8+\frac{32}8=R+r $$
である。

2 つの例で、外心から 3 辺までの距離の和が $R+r$ になった。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. いつでも和は $R+r$ になるか。鈍角三角形ではどうか。→ def-crn-signed、thm-crn-main
  2. 距離を角で書くと、何が分かるか。→ lem-crn-rcos、prop-crn-cos-sum
  3. この等式から、どんな不等式が出るか。→ cor-crn-ineq
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    外心から辺までの距離符号つき距離 $R\cos A$向きのある量
    和積の公式・半角の式$\cos A+\cos B+\cos C=1+\dfrac rR$三角形の角についての恒等式
    $R\ge2r$$\cos A+\cos B+\cos C\le\dfrac32$凹関数の最大(Jensen の不等式)
    外心 O から 3 辺の中点までの距離 33/8、25/8、39/8 を足すと 97/8 になり、R と r の和に等しい 外心 O から 3 辺の中点までの距離 33/8、25/8、39/8 を足すと 97/8 になり、R と r の和に等しい
    図 1 は ex-crn-131415 の三角形である。外心から各辺に下ろした垂線(青)の足は、辺の中点である。

言葉の準備:符号つき距離

鈍角三角形では、外心は三角形の外にある。そのとき、外心から見て三角形と反対側にある辺までの距離は、負の数として数える。

外心から辺までの符号つき距離

三角形 $ABC$ の外心を $O$ とする。$O$ から直線 $BC$ までの距離を $OD$($D$ は垂線の足)とし、
$$ d_a=\begin{cases}OD & (O\text{ と }A\text{ が直線 }BC\text{ の同じ側にある})\\ 0 & (O\text{ が直線 }BC\text{ の上にある})\\ -OD & (O\text{ と }A\text{ が直線 }BC\text{ の反対側にある})\end{cases} $$
と定め、$d_a$ を $O$ から辺 $BC$ までの 符号つき距離 という。辺 $CA$、$AB$ までの符号つき距離 $d_b$、$d_c$ も、向かいの頂点 $B$、$C$ を使って同じように定める。

$A$ は三角形の頂点なので、「$O$ と $A$ が直線 $BC$ の同じ側にある」は「$O$ と三角形の内部が直線 $BC$ の同じ側にある」と同じである。

符号つき距離は $R\cos A$

三角形 $ABC$ の外接円の半径を $R$ とすると
$$ d_a=R\cos A,\qquad d_b=R\cos B,\qquad d_c=R\cos C $$
である。

中心角を 2 つに分ける

方針:$D$ を辺 $BC$ の中点とすると、$OD$ は直線 $BC$ に垂直である。中心角 $\angle BOC$ を $OD$ で 2 等分し、直角三角形 $OBD$ で $OD$ を求める。$A$ が鋭角・直角・鈍角の 3 つの場合に分ける。$d_a$ だけを示せば、$d_b$、$d_c$ も頂点の名前を入れかえて同じである。
段 1(鋭角)。$A<90^\circ$ とする。$A$ は弦 $BC$ で分けられた大きい方の弧の上にあり、円周角の定理(円周角の定理(高校数学))により $\angle BOC=2A$ で、$O$ は $A$ と同じ側にある。三角形 $OBC$ は $OB=OC=R$ の二等辺三角形なので、$OD$ は $\angle BOC$ を 2 等分し、$\angle BOD=A$ である。直角三角形 $OBD$ で $OD=OB\cos\angle BOD=R\cos A$ で、符号は正なので $d_a=R\cos A$ である。
段 2(直角)。$A=90^\circ$ のとき、$BC$ は直径で、$O$ は $BC$ の中点、つまり直線 $BC$ の上にある。$d_a=0=R\cos90^\circ$ である。
段 3(鈍角)。$A>90^\circ$ とする。$A$ は小さい方の弧の上にあり、$O$ は直線 $BC$ について $A$ と反対側にある。弧 $BC$($A$ を含まない方)の中心角は $2A$ で $180^\circ$ を超えるので、三角形 $OBC$ の頂角は $\angle BOC=360^\circ-2A$、$\angle BOD=180^\circ-A$ である。直角三角形 $OBD$ で $OD=R\cos(180^\circ-A)=-R\cos A$ で、符号は負なので $d_a=-OD=R\cos A$ である。$\square$

鋭角三角形・直角三角形・鈍角三角形で、符号の付き方を比べる。

鋭角三角形直角三角形($C=90^\circ$)鈍角三角形($C>90^\circ$)
外心の位置内部斜辺 $AB$ の中点外部(辺 $AB$ の向こう側)
$d_a$、$d_b$正正正
$d_c=R\cos C$正$0$負
例$13,14,15$$3,4,5$$3,5,7$
$d_a+d_b+d_c$$\dfrac{97}8$$\dfrac72$$\dfrac{17\sqrt3}6$
3 辺が $3,5,7$ の鈍角三角形

$C(0,0)$、$B(3,0)$、$A\left(-\dfrac52,\dfrac{5\sqrt3}2\right)$ とする。$a=3$、$b=5$ で、$\angle C=120^\circ$ である。余弦定理から $c^2=9+25-2\cdot3\cdot5\cos120^\circ=49$、$c=7$ である。
(1) 角の余弦。余弦定理から
$$ \cos A=\frac{b^2+c^2-a^2}{2bc}=\frac{65}{70}=\frac{13}{14},\qquad \cos B=\frac{a^2+c^2-b^2}{2ac}=\frac{33}{42}=\frac{11}{14},\qquad \cos C=-\frac12 $$
である。
(2) $R$ と $r$。正弦定理から $2R=\dfrac{c}{\sin C}=\dfrac{7}{\sqrt3/2}$ で $R=\dfrac7{\sqrt3}=\dfrac{7\sqrt3}3$ である。$S=\dfrac12\cdot3\cdot5\sin120^\circ=\dfrac{15\sqrt3}4$、$s=\dfrac{15}2$ なので $r=\dfrac Ss=\dfrac{\sqrt3}2$ である。
(3) 符号つき距離。lem-crn-rcos により
$$ d_a=\frac7{\sqrt3}\cdot\frac{13}{14}=\frac{13\sqrt3}6,\qquad d_b=\frac7{\sqrt3}\cdot\frac{11}{14}=\frac{11\sqrt3}6,\qquad d_c=\frac7{\sqrt3}\cdot\left(-\frac12\right)=-\frac{7\sqrt3}6 $$
である。外心は $O\left(\dfrac32,\dfrac{13\sqrt3}6\right)$ で、辺 $AB$ について $C$ と反対側にある(図 3)。和は
$$ d_a+d_b+d_c=\frac{(13+11-7)\sqrt3}6=\frac{17\sqrt3}6,\qquad R+r=\frac{14\sqrt3}6+\frac{3\sqrt3}6=\frac{17\sqrt3}6 $$
で、等しい。

直角三角形では外心が斜辺の中点にあり、斜辺までの距離は 0 になる 直角三角形では外心が斜辺の中点にあり、斜辺までの距離は 0 になる
鈍角三角形では外心が三角形の外にあり、赤で示した辺 AB までの距離を負として数える 鈍角三角形では外心が三角形の外にあり、赤で示した辺 AB までの距離を負として数える

図 2 は ex-crn-345、図 3 は ex-crn-357 である。

主定理:符号つき距離の和は $R+r$

Carnot の定理

三角形 $ABC$ の外心 $O$ から 3 辺 $BC$、$CA$、$AB$ までの符号つき距離(def-crn-signed)を $d_a$、$d_b$、$d_c$ とすると
$$ d_a+d_b+d_c=R+r $$
である。ここで $R$ は外接円の半径、$r$ は内接円の半径である。

符号のつけ方は Wei26 の約束(外心と辺の足を結ぶ線分が三角形の外にあるとき負)と同じ内容である。
lem-crn-rcos により左辺は $R(\cos A+\cos B+\cos C)$ なので、定理は角の余弦についての等式
$$ \cos A+\cos B+\cos C=1+\frac rR $$
と同じである。これを 2 段に分けて示す。まず $r$ を $R$ と半角の正弦で書く。

内接円の半径を半角で書く

三角形 $ABC$ で
$$ r=4R\sin\frac A2\sin\frac B2\sin\frac C2 $$
である。

接点までの長さで辺 $c$ を 2 通りに書く

方針:内心 $I$ から辺 $AB$ に下ろした垂線の足を $T$ とし、$c=AT+TB$ を $r$ と半角で書く。一方で正弦定理から $c=2R\sin C$ である。2 つを比べる。
段 1(接点までの長さ)。内心 $I$ は角の二等分線の交点で、$T$ は内接円と辺 $AB$ の接点である(三角形の内心と傍心)。$T$ は線分 $AB$ の上にある。直角三角形 $ATI$ で $\angle IAT=\dfrac A2$、$IT=r$ なので、$AT=\dfrac{r}{\tan(A/2)}=\dfrac{r\cos(A/2)}{\sin(A/2)}$ である。同じように $TB=\dfrac{r\cos(B/2)}{\sin(B/2)}$ である。
段 2(通分と加法定理)。
$$ c=AT+TB=r\cdot\frac{\cos\frac A2\sin\frac B2+\sin\frac A2\cos\frac B2}{\sin\frac A2\sin\frac B2}=r\cdot\frac{\sin\left(\frac A2+\frac B2\right)}{\sin\frac A2\sin\frac B2} $$
である(分子は正弦の加法定理)。$\dfrac A2+\dfrac B2=90^\circ-\dfrac C2$ なので、$\sin\left(\dfrac A2+\dfrac B2\right)=\cos\dfrac C2$ である。
段 3(正弦定理と 2 倍角)。正弦定理(正弦定理(高校数学))と 2 倍角の公式から
$$ c=2R\sin C=4R\sin\frac C2\cos\frac C2 $$
である。
段 4(比べる)。段 2 と段 3 から $r\cdot\dfrac{\cos(C/2)}{\sin(A/2)\sin(B/2)}=4R\sin\dfrac C2\cos\dfrac C2$ である。$0^\circ<\dfrac C2<90^\circ$ なので $\cos\dfrac C2>0$ で、両辺を割って $\sin\dfrac A2\sin\dfrac B2$ を掛けると、$r=4R\sin\dfrac A2\sin\dfrac B2\sin\dfrac C2$ を得る。$\square$

半角の式を確かめる
  1. 正三角形では $A=B=C=60^\circ$ で、$4R\sin^330^\circ=\dfrac R2$ である。1 辺 $2$ の正三角形では $R=\dfrac2{\sqrt3}$、$r=\dfrac1{\sqrt3}$ で、確かに $r=\dfrac R2$ である。
  2. ex-crn-345 では $\cos A=\dfrac{b}{c}=\dfrac35$、$\cos B=\dfrac{a}{c}=\dfrac45$、$C=90^\circ$ である。半角の公式 $\sin^2\dfrac\theta2=\dfrac{1-\cos\theta}2$ から $\sin\dfrac A2=\dfrac1{\sqrt5}$、$\sin\dfrac B2=\dfrac1{\sqrt{10}}$、$\sin\dfrac C2=\dfrac1{\sqrt2}$ で、
    $$ 4R\sin\frac A2\sin\frac B2\sin\frac C2=4\cdot\frac52\cdot\frac1{\sqrt{10}\cdot\sqrt5\cdot\sqrt2}=\frac{10}{10}=1=r $$
    である。
余弦の和の恒等式

三角形 $ABC$ で
$$ \cos A+\cos B+\cos C=1+4\sin\frac A2\sin\frac B2\sin\frac C2=1+\frac rR $$
である。

和積の公式で 2 つをまとめる

方針:$\cos A+\cos B$ を和積の公式でまとめ、$\cos C$ を半角で書く。共通の因数 $\sin\dfrac C2$ でくくる。
段 1($\cos A+\cos B$)。和積の公式(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く)により
$$ \cos A+\cos B=2\cos\frac{A+B}2\cos\frac{A-B}2 $$
である。$\dfrac{A+B}2=90^\circ-\dfrac C2$ なので $\cos\dfrac{A+B}2=\sin\dfrac C2$ で、$\cos A+\cos B=2\sin\dfrac C2\cos\dfrac{A-B}2$ である。
段 2($\cos C$)。2 倍角の公式から $\cos C=1-2\sin^2\dfrac C2$ である。段 1 と同じく $\sin\dfrac C2=\cos\dfrac{A+B}2$ なので、$\cos C=1-2\sin\dfrac C2\cos\dfrac{A+B}2$ と書ける。
段 3(くくる)。段 1 と段 2 を足して
$$ \cos A+\cos B+\cos C=1+2\sin\frac C2\left(\cos\frac{A-B}2-\cos\frac{A+B}2\right) $$
である。加法定理から $\cos(u-v)-\cos(u+v)=2\sin u\sin v$ なので、$u=\dfrac A2$、$v=\dfrac B2$ として括弧の中は $2\sin\dfrac A2\sin\dfrac B2$ である。よって
$$ \cos A+\cos B+\cos C=1+4\sin\frac A2\sin\frac B2\sin\frac C2 $$
である。
段 4($r$ で書く)。lem-crn-inradius により $4\sin\dfrac A2\sin\dfrac B2\sin\dfrac C2=\dfrac rR$ である。$\square$

恒等式を 2 つの三角形で確かめる
  1. ex-crn-131415 では、余弦定理から $\cos A=\dfrac{15^2+13^2-14^2}{2\cdot15\cdot13}=\dfrac{198}{390}=\dfrac{33}{65}$、$\cos B=\dfrac{14^2+13^2-15^2}{2\cdot14\cdot13}=\dfrac{140}{364}=\dfrac5{13}$、$\cos C=\dfrac{14^2+15^2-13^2}{2\cdot14\cdot15}=\dfrac{252}{420}=\dfrac35$ である。
    $$ \frac{33}{65}+\frac{25}{65}+\frac{39}{65}=\frac{97}{65},\qquad 1+\frac rR=1+\frac{4}{65/8}=1+\frac{32}{65}=\frac{97}{65} $$
    で、等しい。
  2. ex-crn-357 では $\dfrac{13}{14}+\dfrac{11}{14}-\dfrac12=\dfrac{17}{14}$、$1+\dfrac rR=1+\dfrac{\sqrt3/2}{7/\sqrt3}=1+\dfrac3{14}=\dfrac{17}{14}$ で、等しい。鈍角の $\cos C=-\dfrac12$ は負のまま足している。

これで主定理が示せる。

lem-crn-rcos により $d_a=R\cos A$、$d_b=R\cos B$、$d_c=R\cos C$ である。3 つを足して prop-crn-cos-sum を使うと
$$ d_a+d_b+d_c=R(\cos A+\cos B+\cos C)=R\left(1+\frac rR\right)=R+r $$
である。$\square$

lem-crn-rcos は鋭角・直角・鈍角で場合を分けたが、prop-crn-cos-sum は場合分けなしの恒等式である。符号つき距離を使うと、主定理も場合分けなしで 1 つの式になる。

Ptolemy の定理を使う別の証明(鋭角三角形の場合)を開く

鋭角三角形とし、辺 $BC$、$CA$、$AB$ の中点を $D$、$E$、$F$ とする。外心 $O$ は三角形の内部にあり、$OD=d_a$、$OE=d_b$、$OF=d_c$ である。

段 1(Ptolemy の定理)。$\angle OEA=\angle OFA=90^\circ$ なので、4 点 $O$、$E$、$A$、$F$ は $OA$ を直径とする円の上にあり、この順に並ぶ。Ptolemyの定理 により $OA\cdot EF=OE\cdot AF+OF\cdot AE$ である。$OA=R$、中点連結定理 から $EF=\dfrac a2$、$AF=\dfrac c2$、$AE=\dfrac b2$ なので、$Ra=d_b\,c+d_c\,b$ である。頂点 $B$、$C$ でも同じようにして $Rb=d_c\,a+d_a\,c$、$Rc=d_a\,b+d_b\,a$ である。3 つを足すと

$$R(a+b+c)=d_a(b+c)+d_b(c+a)+d_c(a+b)$$

である。

段 2(面積)。三角形 $ABC$ を $O$ で 3 つの三角形 $OBC$、$OCA$、$OAB$ に分けると $S=\dfrac12(a\,d_a+b\,d_b+c\,d_c)$ である。内心で分けると $S=\dfrac12r(a+b+c)$ なので、$a\,d_a+b\,d_b+c\,d_c=r(a+b+c)$ である。

段 3(足す)。段 1 と段 2 の式を足すと、右辺は $(d_a+d_b+d_c)(a+b+c)$ にまとまり、$(R+r)(a+b+c)=(d_a+d_b+d_c)(a+b+c)$ である。$a+b+c>0$ で割って $d_a+d_b+d_c=R+r$ を得る。$\square$

段 1 の $Ra=d_b\,c+d_c\,b$ は、lem-crn-rcos で書き直すと $a=b\cos C+c\cos B$ で、これは 三角形の射影定理 である。射影定理と、符号つきの面積の分け方を使えば、この証明は鈍角三角形にも広げられる(ここでは示さない)。

系:余弦の和の最大と $R\ge2r$

prop-crn-cos-sum の等式の両辺を見比べると、角についての不等式と、半径についての不等式が同じものだと分かる。

余弦の和の範囲

三角形 $ABC$ で、次が成り立つ。
(1) $1<\cos A+\cos B+\cos C\le\dfrac32$ で、右の等号は正三角形のときに限る。
(2) $R\ge2r$ で、等号は正三角形のときに限る。
(1) の右の不等式と (2) は、prop-crn-cos-sum によって同じ不等式である。

平方完成で上から押さえる

方針:prf-crn-cos-sum の段 1・段 2 の形を、$t=\sin\dfrac C2$ の 2 次式として上から押さえる。
段 1(左の不等式)。$r>0$、$R>0$ なので、prop-crn-cos-sum から $\cos A+\cos B+\cos C=1+\dfrac rR>1$ である。
段 2(2 次式で押さえる)。$t=\sin\dfrac C2$ とおくと $0< t<1$ である。prf-crn-cos-sum の段 1・段 2 から
$$ \cos A+\cos B+\cos C=2t\cos\frac{A-B}2+1-2t^2 $$
である。$\cos\dfrac{A-B}2\le1$ と $t>0$ から
$$ \cos A+\cos B+\cos C\le 2t+1-2t^2=\frac32-\frac{(2t-1)^2}2\le\frac32 $$
である($\dfrac32-\dfrac{4t^2-4t+1}2=1+2t-2t^2$ で、平方完成の形が正しいことが確かめられる)。
段 3(等号)。等号は $\cos\dfrac{A-B}2=1$ かつ $2t-1=0$ のとき、つまり $A=B$ かつ $\sin\dfrac C2=\dfrac12$($C=60^\circ$)のときに限る。このとき $A=B=60^\circ$ で、正三角形である。逆に正三角形なら $\cos60^\circ\times3=\dfrac32$ である。
段 4((2))。prop-crn-cos-sum により (1) の右の不等式は $1+\dfrac rR\le\dfrac32$、つまり $\dfrac rR\le\dfrac12$、$R\ge2r$ と同じである。等号の条件も同じである。$\square$

$R\ge2r$ は Euler の不等式と呼ばれ、Eulerの三角形の定理 では外心と内心の距離の式 $OI^2=R(R-2r)$ から導いている。上の証明はそれとは別に、角の余弦の和から導いたものである。

余弦の和と $\dfrac rR$ を比べる
  1. ex-crn-131415 では $\cos A+\cos B+\cos C=\dfrac{97}{65}\fallingdotseq1.492$ で $\dfrac32$ より少し小さい。$\dfrac Rr=\dfrac{65}{32}\fallingdotseq2.03$ で、$2$ より少し大きい。
  2. 直角二等辺三角形(等しい 2 辺が $1$)では、$\cos A+\cos B+\cos C=\dfrac{\sqrt2}2+\dfrac{\sqrt2}2+0=\sqrt2\fallingdotseq1.414$ である。$R=\dfrac{\sqrt2}2$、$r=\dfrac{1+1-\sqrt2}2=\dfrac{2-\sqrt2}2$ で、$\dfrac rR=\dfrac{2-\sqrt2}{\sqrt2}=\sqrt2-1$ なので、$1+\dfrac rR=\sqrt2$ と合う。
  3. ex-crn-357 では $\dfrac{17}{14}\fallingdotseq1.214$ で、$\dfrac Rr=\dfrac{7/\sqrt3}{\sqrt3/2}=\dfrac{14}3\fallingdotseq4.67$ である。平たい三角形ほど余弦の和は $1$ に近づき、$\dfrac Rr$ は大きくなる。

二等辺三角形 A=B で頂角 C を動かすと、余弦の和 1+r/R は C=60° で最大値 3/2 をとり、平たくなるにつれて 1 に近づく 二等辺三角形 A=B で頂角 C を動かすと、余弦の和 1+r/R は C=60° で最大値 3/2 をとり、平たくなるにつれて 1 に近づく
図 4 は、$A=B$ の二等辺三角形で頂角 $C$ を $0^\circ$ から $180^\circ$ まで動かしたときの $\cos A+\cos B+\cos C=2\sin\dfrac C2+\cos C$ のグラフである。点は $C=30^\circ,60^\circ,90^\circ,120^\circ,150^\circ$ の値(約 $1.384$、$1.5$、$1.414$、$1.232$、$1.066$)である。

例と反例

thm-crn-main の条件は「符号つきで足す」「外心から測る」の 2 つである。外すと崩れる。

外す条件反例成り立たなくなること
符号をつけて足す鈍角三角形 $3,5,7$ で距離をそのまま足す和 $=R+r$($\frac{31\sqrt3}6\ne\frac{17\sqrt3}6$)
外心から測る$13,14,15$ の三角形で内心から測る和 $=R+r$($12\ne\frac{97}8$)
外心から測る$13,14,15$ の三角形で重心から測る和 $=R+r$($\frac{2348}{195}\ne\frac{97}8$)
反例:鈍角三角形で符号をつけずに足す

ex-crn-357 の三角形で、外心から 3 辺までの距離(向きを考えない長さ)は $\dfrac{13\sqrt3}6$、$\dfrac{11\sqrt3}6$、$\dfrac{7\sqrt3}6$ である。そのまま足すと
$$ \frac{(13+11+7)\sqrt3}6=\frac{31\sqrt3}6\ne\frac{17\sqrt3}6=R+r $$
である。辺 $AB$ までの距離に負の符号をつけたときだけ $R+r$ になる。鋭角三角形では 3 つとも正なので、この区別は要らない。

反例:内心や重心から測る

ex-crn-131415 の三角形で考える。$R+r=\dfrac{97}8=12.125$ である。
(1) 内心から 3 辺までの距離はどれも $r=4$ なので、和は $3r=12\ne\dfrac{97}8$ である。
(2) 重心 $G$ から辺 $BC$ までの距離は、$A$ から辺 $BC$ までの高さ $h_a$ の $\dfrac13$ である(重心は中線を $2:1$ に分ける)。$h_a=\dfrac{2S}a=12$、$h_b=\dfrac{2S}b=\dfrac{56}5$、$h_c=\dfrac{2S}c=\dfrac{168}{13}$ なので、和は
$$ \frac13\left(12+\frac{56}5+\frac{168}{13}\right)=4+\frac{56}{15}+\frac{56}{13}=\frac{780+728+840}{195}=\frac{2348}{195}\fallingdotseq12.041 $$
で、$\dfrac{97}8$ と異なる。
正三角形では外心・内心・重心が一致するので、どれから測っても和は $R+r=3r$ である。$R+r$ が出るのは、外心から測ったときの特別な性質である。

大学数学で見る:向きのある量と凹関数

符号つき距離は、「直線のどちら側にあるか」を符号で記録する量である。Menelausの定理(高校数学) の向きのついた線分の比と同じように、符号を使うと、図の形による場合分けが 1 つの式にまとまる。lem-crn-rcos の 3 つの場合が、$d_a=R\cos A$ という 1 つの式になったのがその例である。
不等式 $\cos A+\cos B+\cos C\le\dfrac32$ は、鋭角三角形なら Jensen の不等式(Jensenの不等式(高校数学))からも出る。

Jensen の不等式による見方を開く

$0^\circ\le x\le90^\circ$ の範囲で $y=\cos x$ のグラフは上に凸である。鋭角三角形では $A$、$B$、$C$ がこの範囲にあるので、Jensen の不等式から $\dfrac{\cos A+\cos B+\cos C}3\le\cos\dfrac{A+B+C}3=\cos60^\circ=\dfrac12$ である。鈍角三角形では $90^\circ< x<180^\circ$ の範囲で $\cos x$ のグラフが下に凸になるので、この議論はそのままでは使えない。prf-crn-ineq の平方完成による証明は、鈍角三角形も含めてすべての三角形で使える。

さらに先へ

  • 円に内接する多角形を三角形に分けるとき、各三角形に Carnot の定理を使うと、内接円の半径の和が分け方によらないことが分かる。これが次の 算額の円内接多角形の定理 である。
  • Archimedesの折れ弦の定理 と同じく、この記事の定理も、円の図形の性質を三角関数の公式で読み直したものである。
  • 外心と内心の距離 $OI$ と $R$、$r$ の関係は Eulerの三角形の定理 で扱う。

関連項目

参考文献

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