マトロイド

同義語:matroidマトロイド理論グラフ的マトロイドgraphic matroid線形マトロイド一様マトロイド双対マトロイドFanoマトロイド

概要

マトロイド(matroid)とは、有限集合 $E$ の部分集合の族 $\mathcal I$ で、$\emptyset\in\mathcal I$、独立集合の部分集合は独立、$|I|< |J|$ なら $J\setminus I$ のある元を $I$ に加えても独立、の 3 条件をみたすもののことである。ベクトルの線形独立性とグラフの森(閉路を含まない辺集合)が代表的な例で、Whitney が導入した。基はすべて同じ大きさをもち、階数関数は劣モジュラで、閉路は消去律をみたす。独立集合・基・階数関数・閉路のどれを公理にしても同じ概念になる。双対マトロイドやフラット(閉集合)の束も定まる。同じ整数ベクトルの族でも、係数体によって定まるマトロイドは変わりうる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 線形独立, ベクトル空間, グラフ, 全域木, 閉路

マトロイド(matroid)とは、有限集合 $E$ とその部分集合の族 $\mathcal I$ の組で、「独立」と呼ぶ部分集合たちが、ベクトルの線形独立性のもつ 3 つの性質(空集合は独立、独立集合の部分集合は独立、小さい独立集合は大きい独立集合から元を 1 つ借りて大きくできる)をみたすもののことである。ベクトル空間の有限個のベクトルの線形独立性と、グラフの辺集合が閉路を含まないこと(森であること)とが、同じ公理の例になる。この共通の枠組みは Whitney が導入した(AHK18 §1、p. 1)。
マトロイドは、独立集合のほかに、基(極大な独立集合)、階数関数、閉路(極小な従属集合)、フラット(閉じた集合)のどれを使っても定義でき、それらの公理系は互いに同値である。この記事の主定理はこの同値性であり、それを完全に証明する。そのための基本事実(基の大きさがそろうこと、階数関数の劣モジュラ性、閉路の消去律、基の交換)も記事の中で証明する。
マトロイドの特性多項式の係数が対数凹であるという Heron–Rota–Welsh 予想と、その解決(Adiprasito–Huh–Katz)は Heron–Rota–Welsh予想 で扱う。

独立集合による定義

マトロイド

$E$ を有限集合とし、$\mathcal I$ を $E$ の部分集合の族とする。次の 3 条件をみたす組 $M=(E,\mathcal I)$ を $E$ 上の マトロイド と呼び、$E$ を 台集合、$\mathcal I$ の元を 独立集合 と呼ぶ。

  1. (I1)$\emptyset\in\mathcal I$ である。
  2. (I2)$I\in\mathcal I$、$J\subset I$ ならば $J\in\mathcal I$ である。
  3. (I3,増加公理)$I,J\in\mathcal I$、$|I|< |J|$ ならば、ある $e\in J\setminus I$ について $I\cup\{e\}\in\mathcal I$ である。
    独立でない部分集合を 従属 という。極大な独立集合を 基、極小な従属集合を 閉路(サーキット)という。1 元の閉路 $\{e\}$ の $e$ を ループ という。

以下、$I\cup\{e\}$ を $I+e$、$I\setminus\{e\}$ を $I-e$ と略記する。

例

一様マトロイド

$0\le r\le n$ とし、$E=\{1,\dots,n\}$ の $r$ 元以下の部分集合全体を $\mathcal I$ とする。(I1)(I2)は明らかで、(I3)は $|I|< |J|\le r$ なら $J\setminus I$ の任意の元 $e$ について $|I+e|\le r$ であることからしたがう。これを 一様マトロイド $U_{r,n}$ という。基は $r$ 元部分集合、閉路は $r+1$ 元部分集合である。例えば $U_{2,3}$ では 3 元全体だけが閉路である。

線形マトロイド

$k$ を体、$V$ を $k$ 上のベクトル空間、$E$ を有限集合、$v\colon E\to V$ を写像とする。$I\subset E$ を、$v|_I$ が単射で $\{v(e)\}_{e\in I}$ が線形独立であるときに独立と呼ぶと、マトロイドが得られる。

(I1)空の族は線形独立である。(I2)線形独立な族の部分族は線形独立である。(I3)$I,J$ が独立で $|I|< |J|$ とし、$W$ を $\{v(e)\}_{e\in I}$ が張る部分空間とする。$\dim W=|I|$ である。もし $J$ のすべての元 $e$ について $v(e)\in W$ なら、$\{v(e)\}_{e\in J}$ は $W$ の中の $|J|$ 個の線形独立なベクトルになり、$|J|\le\dim W=|I|$ に反する。よって $v(e)\notin W$ となる $e\in J$ がある。$v(e)\notin W$ から $e\notin I$ であり、$v(e)$ は $v(I)$ の元のどれとも異なる。線形独立な族に、その張る空間の外のベクトルを加えた族は線形独立なので、$I+e$ は独立である。$\square$

こうして得られるマトロイドを $k$ 上の 線形マトロイド(ベクトル配置のマトロイド)という。あるマトロイドがこの形に同型であるとき、$k$ 上 表現可能 という。行列の列ベクトルの族からは、列の添字集合の上のマトロイドが得られる。

グラフ的マトロイド

$G=(V,E)$ を有限グラフ(ループや多重辺を許す)とする。辺集合 $F\subset E$ を、部分グラフ $(V,F)$ が閉路を含まない(森である)ときに独立と呼ぶと、$E$ 上のマトロイドが得られる。さらに、$(V,F)$ の連結成分の個数を $c(F)$ と書くと、独立集合 $F$ について $c(F)=|V|-|F|$ である。

段 1(成分の個数).辺を 1 本ずつ加えていく。辺 $e$ を $(V,F)$ に加えるとき、$e$ の両端が異なる成分にあれば、2 つの成分がつながって成分は 1 つ減り、新しい閉路はできない(新しい閉路は $e$ を通り、$e$ を除くと両端を結ぶ $F$ の道が残るはずだが、両端は $F$ で結ばれていない)。$e$ の両端が同じ成分にあれば(ループの場合を含む)、両端を結ぶ $F$ の道と $e$ で閉路ができる。したがって、森 $F$ の辺を順に加えると、各段で成分はちょうど 1 つずつ減る。辺のないとき成分は $|V|$ 個なので、$c(F)=|V|-|F|$ である。
段 2(公理).(I1)(I2)は、辺のないグラフは閉路を含まず、閉路を含まないグラフの部分グラフも閉路を含まないことによる。(I3)$F_1,F_2$ を森とし $|F_1|< |F_2|$ とする。段 1 により $c(F_2)< c(F_1)$ である。もし $F_2$ のどの辺も両端が $(V,F_1)$ の同じ成分にあるなら、$(V,F_2)$ の各成分は $(V,F_1)$ のある成分に含まれ、$c(F_2)\ge c(F_1)$ となって矛盾する。よって両端が $(V,F_1)$ の異なる成分にある辺 $e\in F_2$ がある。$e\notin F_1$ であり、段 1 により $F_1+e$ は森である。$\square$

グラフ的マトロイドの閉路はグラフの閉路(の辺集合)であり、連結なグラフでは基は全域木(の辺集合)である(全域木)。

Fano マトロイド

2 元体 $\mathbb F_2$ 上の 3 次元空間の $0$ でない 7 個のベクトルを台集合とする線形マトロイドを Fano マトロイド $F_7$ という。3 元の従属集合は、和が $0$ になる 3 本、すなわち Fano 平面(位数 2 の射影平面)の 7 本の直線である。独立集合の個数は、大きさ $0,1,2,3$ の順に
$$ 1,\quad 7,\quad 21,\quad \binom73-7=28 $$
である(2 元集合はすべて独立で、3 元集合は直線でなければ独立)(Huh18 Example 6、p. 8)。
同じベクトル $e_1+e_2$、$e_1+e_3$、$e_2+e_3$ は、$\mathbb F_2$ 上では和が $0$ なので従属だが、$\mathbb Q$ 上では行列式が $-2\neq0$ なので独立である。整数成分のベクトルの族から得られる線形マトロイドは、体の標数によって変わりうる。

基・階数・閉路の基本性質

この節では、マトロイド $M=(E,\mathcal I)$ を 1 つ固定する。

極大な独立部分集合の大きさ

$A\subset E$ とする。$A$ に含まれる独立集合のうち(包含について)極大なものは、すべて同じ元の個数をもつ。特に、$M$ の基はすべて同じ元の個数をもつ。

$I,J\subset A$ を $A$ の中で極大な独立集合とし、$|I|< |J|$ と仮定する。(I3)により $e\in J\setminus I$ で $I+e$ が独立なものがある。$e\in A$ なので $I+e\subset A$ であり、$I$ の極大性に反する。よって $|I|=|J|$ である。$A=E$ の場合が基についての主張である。$\square$

階数関数

$A\subset E$ に対し、$A$ に含まれる極大な独立集合の元の個数(lem-mat-maximal によって定まる)を $r(A)$ と書き、$r$ を $M$ の 階数関数 という。$r(E)$ を $M$ の 階数 という。$A$ が独立であることと $r(A)=|A|$ は同値である。

線形マトロイドでは $r(A)$ は $v(A)$ の張る部分空間の次元(ただし $v$ が同じ値をとる元は 1 つと数える)であり、グラフ的マトロイドでは prop-mat-graphic により $r(A)=|V|-c(A)$ である。

階数関数の性質

階数関数 $r$ は次をみたす。

  1. (R1)$0\le r(A)\le|A|$。
  2. (R2)$A\subset B$ ならば $r(A)\le r(B)$。
  3. (R3,劣モジュラ性)$r(A\cup B)+r(A\cap B)\le r(A)+r(B)$。

(R1)(R2)は定義から明らかである($A$ の中の極大な独立集合は、$B$ の中の極大な独立集合に広げられる)。
(R3)$A\cap B$ の中の極大な独立集合 $J$ をとり、これを $A\cup B$ の中の極大な独立集合 $K\supset J$ に広げる。lem-mat-maximal により $|K|=r(A\cup B)$、$|J|=r(A\cap B)$ である。$K\cap A\cap B$ は $J$ を含む独立集合で $A\cap B$ に含まれるので、$J$ の極大性から $K\cap A\cap B=J$ である。$K\cap A$、$K\cap B$ はそれぞれ $A$、$B$ に含まれる独立集合なので $|K\cap A|\le r(A)$、$|K\cap B|\le r(B)$ である。よって
$$ r(A)+r(B)\ge|K\cap A|+|K\cap B|=|K\cap(A\cup B)|+|K\cap A\cap B|=|K|+|J|=r(A\cup B)+r(A\cap B) $$
である。$\square$

閉路の性質

$M$ の閉路全体の族 $\mathcal C$ は次をみたす。

  1. (C1)$\emptyset\notin\mathcal C$。
  2. (C2)$C_1,C_2\in\mathcal C$、$C_1\subset C_2$ ならば $C_1=C_2$。
  3. (C3,消去律)$C_1,C_2\in\mathcal C$、$C_1\neq C_2$、$e\in C_1\cap C_2$ ならば、ある $C_3\in\mathcal C$ で $C_3\subset(C_1\cup C_2)-e$ となるものがある。
    さらに、$A\subset E$ が独立であることと、$A$ がどの閉路も含まないことは同値である。

(C1)は $\emptyset$ が独立であること、(C2)は閉路が極小な従属集合であることによる。
(C3)閉路 $C$ の真部分集合は独立なので $r(C)=|C|-1$ である。$C_1\neq C_2$ と(C2)から $C_1\cap C_2$ は $C_1$ の真部分集合であり、独立なので $r(C_1\cap C_2)=|C_1\cap C_2|$ である。prop-mat-rank-axioms の(R3)により
$$ r(C_1\cup C_2)\le r(C_1)+r(C_2)-r(C_1\cap C_2)=|C_1|+|C_2|-|C_1\cap C_2|-2=|C_1\cup C_2|-2 $$
である。(R2)により $r((C_1\cup C_2)-e)\le|C_1\cup C_2|-2< |(C_1\cup C_2)-e|$ なので、$(C_1\cup C_2)-e$ は従属であり、極小な従属部分集合として閉路を含む。
最後の主張:独立集合の部分集合は独立なので閉路を含まない。従属集合 $A$ は、元の個数が最小の従属部分集合を含み、それは閉路である。$\square$

基本閉路

$I$ が独立で $I+e$ が従属ならば、$I+e$ に含まれる閉路はただ 1 つであり、それは $e$ を含む。

$I+e$ は従属なので閉路を含み(prop-mat-circuit-axioms)、$I$ は閉路を含まないので、その閉路は $e$ を含む。異なる 2 つの閉路 $C_1,C_2\subset I+e$ があれば、どちらも $e$ を含むので、(C3)により閉路 $C_3\subset(C_1\cup C_2)-e\subset I$ があり、$I$ が独立であることに反する。$\square$

基の交換

$B_1,B_2$ を $M$ の基とする。

  1. (B2)$x\in B_1\setminus B_2$ ならば、ある $y\in B_2\setminus B_1$ について $(B_1-x)+y$ は基である。
  2. $x\in B_2\setminus B_1$ ならば、ある $y\in B_1\setminus B_2$ について $(B_1+x)-y$ は基である。

lem-mat-maximal により $|B_1|=|B_2|$ で、元の個数が $|B_1|$ の独立集合は基である。
1:$|B_1-x|< |B_2|$ なので、(I3)により $y\in B_2\setminus(B_1-x)$ で $(B_1-x)+y$ が独立なものがある。$x\notin B_2$ なので $y\neq x$、したがって $y\in B_2\setminus B_1$ であり、$(B_1-x)+y$ は $|B_1|$ 元の独立集合なので基である。
2:$B_1$ は基なので $B_1+x$ は従属であり、lem-mat-fundamental-circuit によりただ 1 つの閉路 $C\ni x$ を含む。$C\subset B_2$ なら $B_2$ が従属になるので、$y\in C\setminus B_2$ がある。$x\in B_2$ なので $y\neq x$、したがって $y\in B_1\setminus B_2$ である。$(B_1+x)-y$ は閉路 $C$ を含まず、$B_1+x$ のほかの閉路もないので、閉路を含まず独立であり、$|B_1|$ 元なので基である。$\square$

主定理:公理系の同値

マトロイドは、基・階数関数・閉路のどれか 1 つを与えれば決まり、それぞれの性質を公理として出発しても同じ概念になる。

マトロイドの公理系の同値

$E$ を有限集合とする。

  1. (基)$E$ の部分集合の族 $\mathcal B$ が(B1)$\mathcal B\neq\emptyset$ と prop-mat-basis-exchange の(B2)をみたすとき、$\mathcal I_{\mathcal B}:=\{I\mid I\subset B\text{ となる }B\in\mathcal B\text{ がある}\}$ はマトロイドで、その基全体は $\mathcal B$ である。逆に、マトロイドの基全体は(B1)(B2)をみたし、独立集合は基の部分集合にほかならない。
  2. (階数)関数 $r\colon 2^E\to\mathbb Z$ が prop-mat-rank-axioms の(R1)〜(R3)をみたすとき、$\mathcal I_r:=\{A\mid r(A)=|A|\}$ はマトロイドで、その階数関数は $r$ である。逆に、マトロイドの階数関数は(R1)〜(R3)をみたし、$\mathcal I=\mathcal I_r$ である。
  3. (閉路)$E$ の部分集合の族 $\mathcal C$ が prop-mat-circuit-axioms の(C1)〜(C3)をみたすとき、$\mathcal I_{\mathcal C}:=\{A\mid A\text{ は }\mathcal C\text{ のどの元も含まない}\}$ はマトロイドで、その閉路全体は $\mathcal C$ である。逆に、マトロイドの閉路全体は(C1)〜(C3)をみたし、独立集合は閉路を含まない集合にほかならない。
    したがって、独立集合・基・階数関数・閉路の公理系は、上の対応によって互いに 1 対 1 に対応する。

各項の「逆に」の部分は、prop-mat-basis-exchange、prop-mat-rank-axioms、prop-mat-circuit-axioms と定義からしたがう(独立集合 $I$ は基に広げられるので基の部分集合であり、$r(I)=|I|$ は独立性と同値である)。以下で残りの部分を証明する。

基からの構成

段 1($\mathcal B$ の元の大きさはそろう).$|B_1|>|B_2|$ となる $B_1,B_2\in\mathcal B$ があったとし、そのような組のうち $|B_1\setminus B_2|$ が最小のものをとる。$B_1\subset B_2$ なら $|B_1|\le|B_2|$ なので、$x\in B_1\setminus B_2$ がある。(B2)により $y\in B_2\setminus B_1$ で $B_1':=(B_1-x)+y\in\mathcal B$ となるものがある。$|B_1'|=|B_1|>|B_2|$ かつ $|B_1'\setminus B_2|=|B_1\setminus B_2|-1$ なので、最小性に反する。
段 2(増加公理).(I1)は(B1)から、(I2)は定義から明らかである。(I3)を示す。$I_1,I_2\in\mathcal I_{\mathcal B}$、$|I_1|< |I_2|$ とする。$B_1\supset I_1$、$B_2\supset I_2$ となる $B_1,B_2\in\mathcal B$ のうち、$|B_2\setminus(I_2\cup B_1)|$ が最小のものをとる。
$B_2\setminus(I_2\cup B_1)$ に元 $x$ があるとすると、$x\in B_2\setminus B_1$ に(B2)を当てて $y\in B_1\setminus B_2$ で $B_2':=(B_2-x)+y\in\mathcal B$ となるものがとれる。$x\notin I_2$ なので $B_2'\supset I_2$ であり、$|B_2'\setminus(I_2\cup B_1)|$ は 1 だけ小さくなって最小性に反する。よって $B_2\setminus B_1\subset I_2$ である。
次に、$B_1\setminus(I_1\cup B_2)$ に元 $x$ があるとする。(B2)により $y\in B_2\setminus B_1$ で $B_1':=(B_1-x)+y\in\mathcal B$ となるものがある。上で示したことから $y\in I_2$ であり、$y\notin B_1\supset I_1$ である。$x\notin I_1$ なので $I_1+y\subset B_1'$ で、$I_1+y\in\mathcal I_{\mathcal B}$、$y\in I_2\setminus I_1$ となって(I3)が成り立つ。
残るのは $B_1\setminus B_2\subset I_1$ の場合である。このとき $I_1\setminus B_2=B_1\setminus B_2$、$I_2\setminus B_1=B_2\setminus B_1$ であり、段 1 から $|B_1\setminus B_2|=|B_2\setminus B_1|$ なので
$$ |I_1\cap B_2|=|I_1|-|B_1\setminus B_2|< |I_2|-|B_2\setminus B_1|=|I_2\cap B_1| $$
である。$I_1\cap B_2$ と $I_2\cap B_1$ はともに $B_1\cap B_2$ に含まれるので、$y\in(I_2\cap B_1)\setminus I_1$ がある。$I_1+y\subset B_1$ なので $I_1+y\in\mathcal I_{\mathcal B}$ である。
段 3(基は $\mathcal B$).$\mathcal I_{\mathcal B}$ の極大元は $\mathcal B$ の極大元である。段 1 により $\mathcal B$ の元は同じ大きさで互いに包含関係にないので、$\mathcal B$ の元はすべて極大であり、基全体は $\mathcal B$ に一致する。$\square$

階数からの構成

段 1(補題).$A\subset E$、$X\subset E$ とし、すべての $e\in X$ で $r(A+e)=r(A)$ とする。このとき $r(A\cup X)=r(A)$ である。実際、$X'\subset X$ で $r(A\cup X')=r(A)$ とし、$e\in X\setminus X'$ をとると、(R3)を $A\cup X'$ と $A+e$ に当てて
$$ r(A\cup X'+e)+r(A)\le r(A\cup X'+e)+r((A\cup X')\cap(A+e))\le r(A\cup X')+r(A+e)=2r(A) $$
となる(左の不等号は(R2))。よって $r(A\cup X'+e)\le r(A)$ で、(R2)から等号が成り立つ。$X'$ を 1 元ずつ大きくすればよい。
段 2(公理).(I1):(R1)から $r(\emptyset)=0$ である。(I2):$r(A)=|A|$、$B\subset A$、$C:=A\setminus B$ とする。(R3)と(R1)から $|A|=r(A)\le r(A)+r(\emptyset)\le r(B)+r(C)\le r(B)+|C|$ なので $r(B)\ge|B|$ であり、(R1)から $r(B)=|B|$ である。(I3):$r(I)=|I|$、$r(J)=|J|$、$|I|< |J|$ とし、どの $e\in J\setminus I$ についても $r(I+e)\neq|I|+1$ と仮定する。(R2)と、(R3)から出る $r(I+e)\le r(I)+r(\{e\})\le r(I)+1$ により $r(I+e)=r(I)$ である。段 1 により $r(I\cup J)=r(I)=|I|< |J|=r(J)$ となり、(R2)に反する。
段 3(階数関数は $r$).$A\subset E$ とし、$J$ を $A$ に含まれる $\mathcal I_r$ の極大元とする。$e\in A\setminus J$ なら $r(J+e)\neq|J|+1$ なので、段 2 と同じ議論で $r(J+e)=r(J)$ である。段 1 により $r(A)=r(J)=|J|$ である。$|J|$ は $\mathcal I_r$ に関する $A$ の階数なので、$\mathcal I_r$ の階数関数は $r$ である。$\square$

閉路からの構成

(I1)(C1)により $\emptyset$ は $\mathcal C$ の元を含まない。(I2)は定義から明らかである。
(I3)が成り立たないと仮定し、$I_1,I_2\in\mathcal I_{\mathcal C}$、$|I_1|< |I_2|$ で、どの $e\in I_2\setminus I_1$ についても $I_1+e\notin\mathcal I_{\mathcal C}$ となる組のうち、$|I_1\setminus I_2|$ が最小のものをとる。$I_1\subset I_2$ なら $e\in I_2\setminus I_1$ について $I_1+e\subset I_2$ は(I2)により $\mathcal I_{\mathcal C}$ に属するので、$e\in I_1\setminus I_2$ がある。
組 $(I_1-e,I_2)$ は $|I_1-e|< |I_2|$ で、$|(I_1-e)\setminus I_2|$ がより小さいので(I3)の結論をみたす。$e\notin I_2$ なので、$f\in I_2\setminus I_1$ で $T:=(I_1-e)+f\in\mathcal I_{\mathcal C}$ となるものがある。組 $(T,I_2)$ も $|T|=|I_1|< |I_2|$、$|T\setminus I_2|=|I_1\setminus I_2|-1$ なので、$g\in I_2\setminus T$ で $T+g\in\mathcal I_{\mathcal C}$ となるものがある。$g\in I_2\setminus I_1$、$g\neq f$ である。
仮定から $I_1+g$、$I_1+f$ は $\mathcal C$ の元 $C_1\subset I_1+g$、$C_2\subset I_1+f$ を含む。$C_1\not\subset T+g=(I_1-e)+f+g$ なので $e\in C_1$ であり、同様に $C_2\not\subset T$ から $e\in C_2$ である。$I_1\in\mathcal I_{\mathcal C}$ なので $g\in C_1$ で、$g\notin I_1+f\supset C_2$ だから $C_1\neq C_2$ である。(C3)により $C_3\in\mathcal C$ で $C_3\subset(C_1\cup C_2)-e\subset T+g$ となるものがあり、$T+g\in\mathcal I_{\mathcal C}$ に反する。
閉路が $\mathcal C$ であること:$\mathcal I_{\mathcal C}$ で従属な集合は $\mathcal C$ の元を含む集合である。$C\in\mathcal C$ の真部分集合が $C'\in\mathcal C$ を含めば(C2)により $C'=C$ となって矛盾するので、$C$ は極小な従属集合である。逆に極小な従属集合 $D$ は $C\in\mathcal C$ を含み、$C$ は従属なので $D=C$ である。$\square$

主定理により、マトロイドを定義するときは扱いやすい公理系を選んでよい。例えば一様マトロイド $U_{r,n}$ は階数関数 $r(A)=\min(|A|,r)$ で、グラフ的マトロイドは閉路の族で与えるのが自然である。

閉包とフラット

閉包とフラット

$A\subset E$ の 閉包 を $\operatorname{cl}(A):=\{e\in E\mid r(A+e)=r(A)\}$ と定める。$\operatorname{cl}(F)=F$ となる $F$ を フラット(閉集合)という。階数 $k$ のフラットの個数 $W_k$ を 第二種 Whitney 数 という。

閉包とフラットの性質
  1. $A\subset\operatorname{cl}(A)$、$r(\operatorname{cl}(A))=r(A)$ であり、$\operatorname{cl}(A)$ はフラットである。
  2. フラットの共通部分はフラットである。したがってフラット全体は包含について 束 をなし、$F_1\wedge F_2=F_1\cap F_2$、$F_1\vee F_2=\operatorname{cl}(F_1\cup F_2)$ である。

要点:1 は主定理の証明の補題(階数が増えない元を加えても階数は変わらない)から、2 は $F_1$ と $(F_1\cap F_2)+e$ に劣モジュラ性を当てることからしたがう。

詳しい証明を開く

1:$e\in A$ なら $A+e=A$ なので $A\subset\operatorname{cl}(A)$ である。thm-mat-cryptomorphism の 2 の証明(階数からの構成)の段 1 を $X=\operatorname{cl}(A)$ に当てると $r(\operatorname{cl}(A))=r(A)$ である。$r(\operatorname{cl}(A)+e)=r(\operatorname{cl}(A))$ なら、(R2)により $r(A)\le r(A+e)\le r(\operatorname{cl}(A)+e)=r(A)$ なので $e\in\operatorname{cl}(A)$ である。

2:$F_1,F_2$ をフラットとし、$e\notin F_1$ が $r((F_1\cap F_2)+e)=r(F_1\cap F_2)$ をみたすとする。(R3)を $F_1$ と $(F_1\cap F_2)+e$ に当てると、共通部分は $F_1\cap F_2$、和集合は $F_1+e$ なので $r(F_1+e)+r(F_1\cap F_2)\le r(F_1)+r((F_1\cap F_2)+e)=r(F_1)+r(F_1\cap F_2)$ となり、(R2)と合わせて $r(F_1+e)=r(F_1)$、つまり $e\in F_1$ となって矛盾する。よって $\operatorname{cl}(F_1\cap F_2)\subset F_1$ で、同様に $\subset F_2$ である。$E$ はフラットなので、フラット全体は共通部分で閉じた族として束をなす。$\square$

フラットの例
  1. $U_{r,n}$ のフラットは、$r-1$ 元以下の部分集合と $E$ である。よって $W_k=\binom nk$($0\le k\le r-1$)、$W_r=1$ である。
  2. グラフ的マトロイドでは、辺集合 $F$ がフラットであることは、$F$ に属さない辺で、両端が $F$ の道で結ばれているものがないことである(Huh18 Example 8、p. 9)。
  3. Fano マトロイド $F_7$ のフラットは、$\emptyset$、7 個の点、7 本の直線、全体であり、$(W_0,W_1,W_2,W_3)=(1,7,7,1)$ である。

フラットの族は、「$E$ はフラット」「フラットの共通部分はフラット」「フラット $F$ に属さない元は、$F$ を被覆する($F$ を真に含む極小な)フラットのちょうど 1 つに属する」という公理で特徴づけられ、これもマトロイドの同値な定義になる(Huh18 Definition 7、p. 9。BHMPW §1.1、p. 2)。この記事ではこの同値性は証明しない。

双対マトロイド

双対マトロイド

$M$ を $E$ 上のマトロイド、$\mathcal B$ をその基全体とする。$\mathcal B^*:=\{E\setminus B\mid B\in\mathcal B\}$ はあるマトロイド $M^*$ の基全体であり、$(M^*)^*=M$ である。$M^*$ を $M$ の 双対マトロイド という。

thm-mat-cryptomorphism の 1 により、$\mathcal B^*$ が(B1)(B2)をみたすことを示せばよい。(B1)は明らかである。$B_1^*=E\setminus B_1$、$B_2^*=E\setminus B_2$ とし、$x\in B_1^*\setminus B_2^*=B_2\setminus B_1$ とする。prop-mat-basis-exchange の 2 により $y\in B_1\setminus B_2=B_2^*\setminus B_1^*$ で $(B_1+x)-y$ が基となるものがある。その補集合は $(B_1^*-x)+y$ なので、これは $\mathcal B^*$ に属する。補集合を 2 回とると元に戻るので $(M^*)^*=M$ である。$\square$

例えば $U_{r,n}^*=U_{n-r,n}$ である。双対をとると、ループ(どの基にも属さない元)と コループ(すべての基に属する元)が入れ替わる。

反例と注意

公理の各条件は外せない。表の各行は、1 つの条件だけを破る族である。

外す条件・替える条件反例成り立たなくなること
(I3)$E=\{1,2,3\}$、$\mathcal I=\{\emptyset,\{1\},\{2\},\{3\},\{2,3\}\}$極大な独立集合 $\{1\}$ と $\{2,3\}$ の大きさが違い、階数が定まらない
(I2)$E=\{1,2\}$、$\mathcal I=\{\emptyset,\{1\},\{1,2\}\}$極大な独立部分集合の大きさで定めた $r$ が(R3)を破る
(C3)$E=\{1,2,3\}$、$\mathcal C=\{\{1,2\},\{1,3\}\}$$\mathcal C$ の元を含まない集合の族が(I3)を破る
森をマッチングに替える道 $a$–$b$–$c$–$d$ の辺のマッチング極大なマッチング $\{bc\}$ と $\{ab,cd\}$ の大きさが違う
辺の条件を頂点の条件に替える道 $a$–$b$–$c$ の頂点の独立集合(隣接しない頂点の集合)極大な $\{b\}$ と $\{a,c\}$ の大きさが違う
係数体を決めない整数ベクトル $e_1+e_2,\ e_1+e_3,\ e_2+e_3$$\mathbb F_2$ 上では従属、$\mathbb Q$ 上では独立(ex-mat-fano)
反例の確認

各行の族が破る条件と、他の条件をみたすことを確かめる。

各行の確認を開く

1 行目:$\mathcal I$ は部分集合で閉じているので(I1)(I2)をみたす。$I=\{1\}$、$J=\{2,3\}$ について $\{1,2\},\{1,3\}\notin\mathcal I$ なので(I3)が成り立たない。lem-mat-maximal の結論が破れている。

2 行目:(I3)は、$\emptyset$ に $1$ を、$\{1\}$ に $2$ を加えればよいので成り立つが、$\{2\}\subset\{1,2\}$ は独立でない。極大な独立部分集合の大きさを $r$ とすると $r(\{1\})=1$、$r(\{2\})=0$、$r(\{1,2\})=2$ で、$r(\{1,2\})+r(\emptyset)=2>1=r(\{1\})+r(\{2\})$ である。

3 行目:(C1)(C2)はみたす。$\{1,2\}$ と $\{1,3\}$ から $1$ を消去すると $\{2,3\}$ が残るが、これは $\mathcal C$ の元を含まない。$\mathcal C$ の元を含まない集合の族は 1 行目の族に等しく、(I3)が成り立たない。

4 行目:マッチング(端点を共有しない辺の集合)の族は(I1)(I2)をみたすが、$\{bc\}$ に $ab$ も $cd$ も加えられないので(I3)が成り立たない。

5 行目:隣接しない頂点の集合の族も(I1)(I2)をみたすが、$\{b\}$ に $a$ も $c$ も加えられない。グラフ理論の「独立集合」はマトロイドの独立集合とは別の概念である。

6 行目:$\mathbb F_2$ 上では $(e_1+e_2)+(e_1+e_3)+(e_2+e_3)=2(e_1+e_2+e_3)=0$ である。$\mathbb Q$ 上ではこの 3 本を並べた行列の行列式が $-2$ で、$0$ でない。

注意を 2 つ挙げる。

  • 表現可能性.マトロイドの公理は線形独立性から抜き出したものだが、どの体の上でも線形マトロイドとして表せないマトロイドがある。Huh は、ほとんどすべてのマトロイドはどの体の上でも表現可能でないことが示されている、と述べている(Huh18 §2.6、p. 10)。この記事ではこれを証明しない。
  • 対数凹性との関係.独立集合の個数、特性多項式の係数(第一種 Whitney 数)、フラットの個数(第二種 Whitney 数)について、それぞれ対数凹性が予想された。前の 2 つは成り立ち(Heron–Rota–Welsh予想)、フラットの個数については反例がある。数列の対数凹性そのものは 対数凹性 で扱う。

関連項目

参考文献

[1]
Karim Adiprasito, June Huh, Eric Katz, Hodge theory for combinatorial geometries, arXiv:1511.02888v2, arXiv:1511.02888v2(2018-05-01。Ann. of Math. 188 (2018))。§1(Whitney による導入と閉包作用素による定義、p. 1)
[2]
June Huh, Combinatorial applications of the Hodge–Riemann relations, arXiv:1711.11176v2, arXiv:1711.11176v2(2018-04-16。ICM 2018 の報告)。Example 6(Fano 平面の独立集合の個数、p. 8)、Definition 7 と Example 8(フラットによる定義、グラフ的マトロイドのフラット、p. 9)、§2.6(表現可能でないマトロイドについての記述、p. 10)
[3]
Tom Braden, June Huh, Jacob P. Matherne, Nicholas Proudfoot, Botong Wang, Singular Hodge theory for combinatorial geometries, arXiv:2010.06088v5, arXiv:2010.06088v5(2026-06-27)。§1.1(フラットによる定義、p. 2)

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