階乗の大きさの見積もり

同義語:estimating factorials

概要

階乗の大きさの見積もり(estimating factorials)とは、$n!$ の大きさを扱いやすい式で近似することで、中心となる結果は Stirling の公式 $n!\sim\sqrt{2\pi n}\,(n/e)^n$(比が $1$ に近づく)である。より詳しく、すべての $n\ge1$ で $1<\frac{n!}{\sqrt{2\pi n}(n/e)^n}<e^{1/(12n)}$ が成り立つ。$d_n=\log n!-(n+\frac12)\log n+n$ の隣り合う差を積分で $0<d_n-d_{n+1}<\frac1{12n(n+1)}$ と評価すると $d_n$ の収束が分かり、その極限は Wallis の公式から $\log\sqrt{2\pi}$ と決まる。補正 $\sqrt{2\pi n}$ を落とした $(n/e)^n$ は $n!$ と漸近的に等しくない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 階乗, 対数関数, 数列の極限, はさみうちの原理, Wallisの公式(高校数学)

高校での出発点:階乗はどのくらい大きいか

階乗 $n!=1\cdot2\cdots n$ は、$n$ とともに急速に大きくなる。

階乗の値

$5!=120$、$10!=3628800$、$20!=2432902008176640000$(19 桁)である。$70!=1.197\ldots\times10^{100}$ で、$70!$ は $10^{100}$ より大きい。

$n!$ の大きさを、もっと扱いやすい式で見積もりたい。以下 $\log$ は自然対数とする。積の対数は対数の和なので、$\log n!=\log1+\log2+\cdots+\log n$ である。これを、$y=\log x$ のグラフの下の面積と比べる。

log n! を積分で挟む

$\log x$ は増加関数である。$k\ge2$ について、区間 $[k-1,k]$ では $\log x\le\log k$、区間 $[k,k+1]$ では $\log x\ge\log k$ なので、
$$ \int_{k-1}^k\log x\,dx\le\log k\le\int_k^{k+1}\log x\,dx $$
である。$k=2,\dots,n$ について足すと($\log1=0$ に注意)
$$ \int_1^n\log x\,dx\le\log n!\le\int_2^{n+1}\log x\,dx\le\int_1^{n+1}\log x\,dx $$
である。$\int\log x\,dx=x\log x-x$(部分積分)を使うと、
$$ n\log n-n+1\le\log n!\le(n+1)\log(n+1)-n $$
となる(図 1)。$n=10$ では $14.02\ldots\le\log10!=15.10\ldots\le16.37\ldots$ である。

図1:!FORMULA[26][1402372811][0] を幅 1 の長方形の面積の和として !FORMULA[27][-257406628][0] と比べる。左は長方形が曲線の上に、右は下にある 図1:$\log10!=\log2+\cdots+\log10$ を幅 1 の長方形の面積の和として $y=\log x$ と比べる。左は長方形が曲線の上に、右は下にある
ex-fac-integral-bounds から、$\log n!$ はおよそ $n\log n-n$、つまり $n!$ はおよそ $(n/e)^n$ である。しかし、比 $n!/(n/e)^n$ は $1$ に近づかない(ex-fac-drop-sqrt)。正しくは $\sqrt{2\pi n}$ 倍の補正が必要であり、この記事ではそれを証明する。

答えの予告

$\sqrt{2\pi\cdot10}\,(10/e)^{10}=3598695.6\ldots$ であり、$10!=3628800$ との比は $1.0083\ldots$ である。$n=20$ では $\sqrt{40\pi}(20/e)^{20}=2.42278\ldots\times10^{18}$ で、$20!$ との比は $1.0041\ldots$ である。

問い答え
$n!$ はどんな式と漸近的に等しいか$\sqrt{2\pi n}\,(n/e)^n$(Stirling の公式)→ thm-fac-stirling
誤差はどのくらいか比は $1$ と $e^{1/(12n)}$ の間 → thm-fac-stirling
$\pi$ はどこから入るのかWallis の公式 → prf-thm-fac-stirling の段 4
$\sqrt{2\pi n}$ を落とすとどうなるか漸近的に等しくない → ex-fac-drop-sqrt

2 つの正の数の列 $a_n,b_n$ について $\frac{a_n}{b_n}\to1$ のとき $a_n\sim b_n$ と書き、漸近的に等しいという(Wallisの公式(高校数学))。

補正項の差の評価

$n!$ と $\sqrt n(n/e)^n$ の比の対数を
$$ d_n:=\log n!-\Bigl(n+\frac12\Bigr)\log n+n\qquad(n\ge1) $$
とおく。$d_n=\log\dfrac{n!}{\sqrt n\,(n/e)^n}$ である($\log\bigl(\sqrt n(n/e)^n\bigr)=\frac12\log n+n\log n-n$)。

d_n の最初の値

$d_1=\log1-\frac32\log1+1=1$、$d_2=\log2-\frac52\log2+2=2-\frac32\log2=0.96027\ldots$、$d_3=\log6-\frac72\log3+3=0.94661\ldots$ である。$d_{10}=0.92726\ldots$ である。$d_n$ は減っていき、ある値に近づいていくように見える。差は $d_1-d_2=\frac32\log2-1=0.03972\ldots$ で、$\frac1{12\cdot1\cdot2}=\frac1{24}=0.04166\ldots$ より小さい。

補正項の差の評価

$n\ge1$ について
$$ 0< d_n-d_{n+1}<\frac1{12n(n+1)}=\frac1{12}\Bigl(\frac1n-\frac1{n+1}\Bigr) $$
である。

対数を有理関数の積分で書く

方針:$d_n-d_{n+1}$ を $\log\frac{n+1}n$ の式に直し、$\log$ を有理関数の積分で表して、被積分関数を評価する。
段 1(差を計算する):$\log(n+1)!=\log n!+\log(n+1)$ なので
$$ d_{n+1}=\log n!+\log(n+1)-\Bigl(n+\frac32\Bigr)\log(n+1)+n+1=\log n!-\Bigl(n+\frac12\Bigr)\log(n+1)+n+1 $$
である。$d_n$ から引くと
$$ d_n-d_{n+1}=\Bigl(n+\frac12\Bigr)\bigl(\log(n+1)-\log n\bigr)-1=\Bigl(n+\frac12\Bigr)\log\frac{n+1}n-1 $$
である。
段 2(文字を置き換える):$t:=\frac1{2n+1}$ とおくと $0< t<1$ であり、$n+\frac12=\frac{2n+1}2=\frac1{2t}$、$\frac{1+t}{1-t}=\frac{(2n+2)/(2n+1)}{2n/(2n+1)}=\frac{n+1}n$ である。よって $d_n-d_{n+1}=\frac1{2t}\log\frac{1+t}{1-t}-1$ である。
段 3(対数を積分で書く):$0\le s<1$ で $\bigl(\log(1+s)-\log(1-s)\bigr)'=\frac1{1+s}+\frac1{1-s}=\frac2{1-s^2}$ であり、$s=0$ で $\log1-\log1=0$ なので
$$ \log\frac{1+t}{1-t}=\int_0^t\frac{2}{1-s^2}\,ds $$
である。
段 4(書き直す):段 2・段 3 と $1=\frac1t\int_0^t1\,ds$ から
$$ d_n-d_{n+1}=\frac1t\int_0^t\frac{ds}{1-s^2}-\frac1t\int_0^t1\,ds=\frac1t\int_0^t\Bigl(\frac1{1-s^2}-1\Bigr)ds=\frac1t\int_0^t\frac{s^2}{1-s^2}\,ds $$
である。
段 5(評価):$0< s< t$ では $0<1-t^2<1-s^2$ なので $0<\frac{s^2}{1-s^2}<\frac{s^2}{1-t^2}$ である。積分すると
$$ 0< d_n-d_{n+1}<\frac1t\int_0^t\frac{s^2}{1-t^2}\,ds=\frac1t\cdot\frac{t^3}{3(1-t^2)}=\frac{t^2}{3(1-t^2)} $$
である。$\frac{t^2}{1-t^2}=\frac1{t^{-2}-1}=\frac1{(2n+1)^2-1}=\frac1{4n(n+1)}$ なので、右辺は $\frac1{12n(n+1)}$ に等しい。最後の等式 $\frac1{n(n+1)}=\frac1n-\frac1{n+1}$ は通分で確かめられる。$\square$

和と積分を比べてその差の収束を調べる考え方は 和と積分の差 で扱う。

評価を数値で確かめる
  • $n=1$:$d_1-d_2=0.039720\ldots<\frac1{24}=0.041666\ldots$。
  • $n=10$:$d_{10}-d_{11}=0.00075688\ldots<\frac1{1320}=0.00075757\ldots$。
  • $n=100$:$d_{100}-d_{101}=0.0000082507\ldots<\frac1{121200}=0.0000082508\ldots$。
    $n$ が大きいと、上界はほとんど等号に近い。

主定理:Stirling の公式

Stirling の公式(評価つき)

すべての整数 $n\ge1$ について
$$ 1<\frac{n!}{\sqrt{2\pi n}\,(n/e)^n}< e^{1/(12n)} $$
が成り立つ。特に
$$ n!\sim\sqrt{2\pi n}\,\Bigl(\frac ne\Bigr)^n\qquad(n\to\infty) $$
である。

極限の存在を示し、定数を Wallis の公式で決める

方針:まず lem-fac-diff から $d_n$ が収束することと、その極限 $C$ との差の評価を出す。次に、Wallis の公式を $d_n$ で書き直して $e^C=\sqrt{2\pi}$ を決める。
段 1(2 つの単調な列):lem-fac-diff の左の不等式から $d_n>d_{n+1}$、すなわち $(d_n)$ は狭義単調減少である。右の不等式 $d_n-d_{n+1}<\frac1{12n}-\frac1{12(n+1)}$ を移項すると $d_n-\frac1{12n}< d_{n+1}-\frac1{12(n+1)}$、すなわち $\bigl(d_n-\frac1{12n}\bigr)$ は狭義単調増加である。
段 2(有界):段 1 から、すべての $n\ge1$ で
$$ d_1-\frac1{12}\le d_n-\frac1{12n}< d_n\le d_1 $$
である(左端の等号は $n=1$ のときだけ成り立つ)。よって $(d_n)$ は下に有界な減少列であり、ある実数 $C$ に収束する(単調で有界な数列は収束する)。
段 3($C$ を挟む):減少列の極限は各項以下なので、$d_n>d_{n+1}\ge C$ である。一方 $d_m-\frac1{12m}$ は増加列で、$m\to\infty$ で $C-0=C$ に近づくので、各項は $C$ 以下であり、$d_n-\frac1{12n}< d_{n+1}-\frac1{12(n+1)}\le C$ である。まとめて、すべての $n\ge1$ で
$$ C< d_n< C+\frac1{12n} $$
である。
段 4(定数の決定):$d_n$ の定義から $n!=e^{d_n}\,n^{n+1/2}e^{-n}$、$(2n)!=e^{d_{2n}}(2n)^{2n+1/2}e^{-2n}$ である。$(2n)^{2n+1/2}=2^{2n}\cdot2^{1/2}\cdot n^{2n+1/2}=4^n\sqrt2\,n^{2n+1/2}$ に注意して、Wallisの公式(高校数学)の系の量 $\frac{4^n(n!)^2}{(2n)!\sqrt n}$ に代入すると
$$ \frac{4^n(n!)^2}{(2n)!\,\sqrt n}=\frac{4^n\,e^{2d_n}n^{2n+1}e^{-2n}}{e^{d_{2n}}\,4^n\sqrt2\,n^{2n+1/2}e^{-2n}\cdot\sqrt n}=\frac{e^{2d_n-d_{2n}}}{\sqrt2} $$
である。$n\to\infty$ で左辺は $\sqrt\pi$ に近づき(Wallisの公式(高校数学)の系)、右辺は $\frac{e^{2C-C}}{\sqrt2}=\frac{e^C}{\sqrt2}$ に近づく($d_n\to C$、$d_{2n}\to C$ と指数関数の連続性)。よって $\frac{e^C}{\sqrt2}=\sqrt\pi$、すなわち $e^C=\sqrt{2\pi}$ である。
段 5(結論):$e^{d_n}=\dfrac{n!}{\sqrt n\,(n/e)^n}$ である。段 3 の $C< d_n< C+\frac1{12n}$ の各辺の指数をとると $e^C< e^{d_n}< e^Ce^{1/(12n)}$ であり、$e^C=\sqrt{2\pi}$ で割ると主張の不等式を得る。$e^{1/(12n)}\to1$ なので、はさみうちの原理により比は $1$ に収束する。$\square$

証明は 2 段に分かれている。前半(段 1〜3)は「$\log n!$ から主要な部分 $(n+\frac12)\log n-n$ を引いた残りが収束する」ことで、これだけでは極限 $C$ の値は分からない(数値的には $C=0.918938\ldots$)。後半(段 4)で、同じ $C$ が現れる別の量として Wallis の公式を使い、$e^C=\sqrt{2\pi}$ と決める。Stirling の公式の $\pi$ は、Wallis 積分の $I_0=\frac\pi2$ から来ている。
図2:!FORMULA[153][36320597][0](減少)と !FORMULA[154][-166929634][0](増加)が、!FORMULA[155][-835545457][0] を上下から挟んで近づく 図2:$d_n$(減少)と $d_n-\frac1{12n}$(増加)が、$C=\log\sqrt{2\pi}$ を上下から挟んで近づく

比の表

比 $n!\big/\bigl(\sqrt{2\pi n}(n/e)^n\bigr)$ と上界 $e^{1/(12n)}$ を数値計算すると、次のとおりである(図 3)。

$n$$1$$5$$10$$100$
$n!\big/\bigl(\sqrt{2\pi n}(n/e)^n\bigr)$$1.08443\ldots$$1.016783\ldots$$1.0083653\ldots$$1.00083367\ldots$
$e^{1/(12n)}$$1.08690\ldots$$1.016806\ldots$$1.0083681\ldots$$1.00083368\ldots$

上界 $e^{1/(12n)}$ は非常に精密である。$n=10$ では $\sqrt{20\pi}(10/e)^{10}e^{1/120}=3628810.05\ldots$ で、$10!=3628800$ をわずかに上回る。

図3:比 !FORMULA[177][-758512709][0] と上界 !FORMULA[178][-1396663473][0]。2 つはほとんど重なり、どちらも 1 に近づく 図3:比 $n!/(\sqrt{2\pi n}(n/e)^n)$ と上界 $e^{1/(12n)}$。2 つはほとんど重なり、どちらも 1 に近づく

中央の二項係数をもう一度

$\binom{2n}n=\frac{(2n)!}{(n!)^2}$ に Stirling の公式を使うと
$$ \binom{2n}n\sim\frac{\sqrt{4\pi n}\,(2n/e)^{2n}}{2\pi n\,(n/e)^{2n}}=\frac{4^n}{\sqrt{\pi n}} $$
となり、Wallisの公式(高校数学)の系に戻る(段 4 はこの計算を逆向きにしたものである)。$n=10$ では $\binom{20}{10}=184756$、$\frac{4^{10}}{\sqrt{10\pi}}=187078.9\ldots$ である。

和と積分の差を積分で表す Euler–Maclaurin の公式は Euler–Maclaurinの公式(高校数学) で扱う。

反例と注意

変えた主張崩れることボックス
補正 $\sqrt{2\pi n}$ を落とす$n!\sim(n/e)^n$ex-fac-drop-sqrt
比ではなく差を見る差が小さくなるex-fac-difference
反例:補正因子を落とすと漸近的に等しくない

$\log n!$ と $n\log n-n$ の比は $1$ に近づく(thm-fac-stirling の対数をとると、差 $\log n!-(n\log n-n)$ は $\frac12\log(2\pi n)$ と $\frac12\log(2\pi n)+\frac1{12n}$ の間にあり、$n\log n$ に比べて小さい)。しかし $n!$ と $(n/e)^n$ は漸近的に等しくない。比 $n!/(n/e)^n$ は $n=1,10,100$ で $2.718\ldots$、$7.99\ldots$、$25.08\ldots$ と、$\sqrt{2\pi n}$($2.50\ldots$、$7.92\ldots$、$25.06\ldots$)程度で大きくなる。「対数どうしが漸近的に等しいなら、元の量も漸近的に等しい」という主張は、この例で崩れる。元の量の比が $1$ に近づくには対数の差が $0$ に近づくことが必要であり、そのために $\frac12\log(2\pi n)$ まで正確に求める必要がある。

反例:比は 1 に近づくが差は大きくなる

差 $n!-\sqrt{2\pi n}(n/e)^n$ は、$n=10$ で約 $3.0\times10^4$、$n=100$ で約 $7.8\times10^{154}$ と大きくなっていく(数値計算)。$\sim$ は比についての主張であり、差が小さいことは意味しない。

さらに先へ

  • よりよい評価:下界 $1$ は、Robbins により $e^{1/(12n+1)}$ まで改良されている(Rob55。本記事では証明しない)。
  • Stirling の級数:$\log n!-\bigl(n+\frac12\bigr)\log n+n-\log\sqrt{2\pi}$ は $\frac1{12n}-\frac1{360n^3}+\cdots$ という漸近展開をもつ(WW96 §12.33)。
  • ガンマ関数:実数 $x\to\infty$ でも $\Gamma(x+1)\sim\sqrt{2\pi x}(x/e)^x$ が成り立つ(Rud76 第 8 章。本記事では証明しない。Wallis積分とガンマ関数)。
  • 歴史:Stirling は 1730 年の『Methodus Differentialis』で $\sqrt{2\pi}$ を含む形の公式を示し、de Moivre はそれ以前に定数を決めずに同じ近似を得ていた(GS06 第 3.1 節の歴史の注、印刷 p. 88)。

関連項目

参考文献

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