正作用素

同義語:正値作用素非負作用素positive operator

概要

正作用素(positive operator)とは、Hilbert 空間上の自己共役な有界線形作用素 $T$ で、すべてのベクトル $x$ について $\langle Tx,x\rangle\ge0$ を満たすもののことであり、$T\ge0$ と書く。自己共役な $T$ が正作用素であることはスペクトルが $[0,\infty)$ に含まれることと同値で、正作用素は 2 次形式についての Cauchy–Schwarz の不等式を満たし、$T$ と可換な作用素すべてと可換な正の平方根 $T^{1/2}$ をただ 1 つもつ。$S^*S$ や直交射影が典型例で、自己共役作用素の順序、作用素の絶対値と極分解、半正定値行列の無限次元版として使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Hilbert空間, 随伴作用素, 自己共役作用素

何を捉える概念か

実数の中で $0$ 以上の数は、平方根をとれること、積が再び $0$ 以上になること、大小の比較ができることで特別である。行列では、半正定値な Hermite 行列(正定値行列)がこの役割を担い、$A^*A$ の形の行列や直交射影がその例である。
Hilbert 空間の有界作用素で同じ役割を果たすのが正作用素である。自己共役な作用素 $T$ で、2 次形式 $\langle Tx,x\rangle$ が常に $0$ 以上のものをいう。正作用素は、自己共役作用素のうちでスペクトルが $[0,\infty)$ に入るものとして特徴づけられ、ただ 1 つの正の平方根をもつ。自己共役作用素の間には「差が正作用素」という順序が入り、作用素の絶対値 $\lvert T\rvert=(T^*T)^{1/2}$ や極分解、量子力学の密度作用素などはこの順序と平方根の上に組み立てられる。
以下 $\mathbb K$ を $\mathbb R$ または $\mathbb C$ とし、$H\ne\{0\}$ を $\mathbb K$ 上の Hilbert 空間、内積は第 1 変数に線形とする(随伴作用素 の記事と同じ)。$B(H)$ は $H$ 上の有界線形作用素全体である。$T\in B(H)$ のスペクトル $\sigma(T)$ は、$\mathbb K=\mathbb C$ なら $T-\lambda$ が全単射でない $\lambda\in\mathbb C$ 全体、$\mathbb K=\mathbb R$ なら $T-\lambda$ が全単射でない $\lambda\in\mathbb R$ 全体とする(後者は Bre11 の流儀)。自己共役な $T$ について
$$ m_T=\inf_{\|x\|=1}\langle Tx,x\rangle,\qquad M_T=\sup_{\|x\|=1}\langle Tx,x\rangle $$
とおく。$\sigma(T)\subset[m_T,M_T]$ で $m_T,M_T\in\sigma(T)$ であり、$\|T\|=\max\{\lvert m_T\rvert,\lvert M_T\rvert\}$ である($\mathbb K=\mathbb C$ では 自己共役作用素 の定理「自己共役作用素のスペクトル」と命題「2 次形式によるノルムとスペクトルの端」、$\mathbb K=\mathbb R$ では Bre11 Proposition 6.9、pp. 165–167)。

定義

正作用素

$T\in B(H)$ が自己共役で、すべての $x\in H$ について
$$ \langle Tx,x\rangle\ge0 $$
を満たすとき、$T$ を正作用素(positive operator)といい、$T\ge0$ と書く。自己共役な $A,B\in B(H)$ について $B-A\ge0$ のとき $A\le B$ と書く。

正値作用素・非負作用素ともいう。$x\ne0$ で $\langle Tx,x\rangle>0$ となることを課す「正定値」とは別の条件である。$\le$ は自己共役作用素の間の半順序である。反対称律は、$A\le B\le A$ なら $\langle(B-A)x,x\rangle=0$ がすべての $x$ で成り立ち、ノルムの式から $\|B-A\|=0$ となることによる。$A\le B$ なら任意の $S\in B(H)$ について $S^*AS\le S^*BS$ である($\langle S^*(B-A)Sx,x\rangle=\langle(B-A)Sx,Sx\rangle$)。
複素 Hilbert 空間では、すべての $x$ で $\langle Tx,x\rangle\ge0$ なら、この値は実数なので偏極恒等式により $T$ は自動的に自己共役である(随伴作用素 の節「自己随伴・正規・ユニタリ」)。実 Hilbert 空間ではそうならない。$J(x_1,x_2)=(-x_2,x_1)$ を $\mathbb R^2$ の $90^\circ$ 回転とすると、$T=I+J$ は $\langle Tx,x\rangle=\|x\|^2\ge0$ を満たすが、$T^*=I-J\ne T$ である。そのため実の場合も含めて、定義では自己共役性を課す。

例

正作用素の例
  1. 任意の Hilbert 空間 $K$ と $S\in B(H,K)$ について $S^*S\ge0$ である。$\langle S^*Sx,x\rangle=\|Sx\|^2$ による。
  2. 閉部分空間への直交射影 $P$ は $P=P^*=P^2$ なので $P=P^*P\ge0$ である(直交射影)。
  3. σ-有限な測度空間 $(X,\mu)$ と実数値の $\varphi\in L^\infty(\mu)$ について、$L^2(\mu)$ 上の掛け算作用素 $M_\varphi f=\varphi f$ が正作用素であることと、ほとんどいたるところ $\varphi\ge0$ であることは同値である。
  4. $\mathbb K^n$ に標準内積を入れると、正作用素は半正定値な Hermite 行列(実なら半正定値な実対称行列)にほかならない(正定値行列 の定義「正定値行列と半正定値行列」)。
  5. $L^2(\mathbb R^n)$ の Fourier 乗数作用素 $f\mapsto\mathcal F^{-1}(m\,\mathcal Ff)$ は、ほとんどいたるところ $m\ge0$ なら正作用素である(平行移動と可換な作用素)。$m(\xi)=e^{-4\pi^2t\lvert\xi\rvert^2}$($t>0$)は熱方程式の解作用素にあたる(Fourier変換 の節「熱方程式」)。

3 だけ確かめる。$\varphi$ は実数値なので $M_\varphi^*=M_{\varphi}$ である。$\varphi\ge0$ なら $\langle M_\varphi f,f\rangle=\int\varphi\lvert f\rvert^2\,d\mu\ge0$ である。逆に $E=\{\varphi<0\}$ が正の測度をもつとすると、σ-有限性から $0<\mu(F)<\infty$ の可測集合 $F\subset E$ がとれ、$\langle M_\varphi\mathbf 1_F,\mathbf 1_F\rangle=\int_F\varphi\,d\mu<0$ となる。$\square$

Cauchy–Schwarz の不等式

正作用素の 2 次形式は内積と同じ型の不等式を満たす。この不等式が、以下のほとんどすべての証明の道具になる。

正作用素の Cauchy–Schwarz の不等式

$T\ge0$ とする。すべての $x,y\in H$ について
$$ \lvert\langle Tx,y\rangle\rvert^2\le\langle Tx,x\rangle\langle Ty,y\rangle,\qquad \|Tx\|^2\le\|T\|\,\langle Tx,x\rangle $$
である。とくに $\langle Tx,x\rangle=0$ なら $Tx=0$ である。

$(x,y)\mapsto\langle Tx,y\rangle$ は第 1 変数について線形で、$T$ が自己共役なので $\langle Ty,x\rangle=\langle y,Tx\rangle=\overline{\langle Tx,y\rangle}$ を満たし、$\langle Tx,x\rangle\ge0$ である。つまり Cauchy–Schwarzの不等式 の定義「半内積と内積」の半内積であり、同じ記事の定理「Cauchy–Schwarzの不等式」から最初の不等式が出る。$y=Tx$ を代入すると
$$ \|Tx\|^4=\langle Tx,Tx\rangle^2\le\langle Tx,x\rangle\langle T(Tx),Tx\rangle\le\langle Tx,x\rangle\,\|T\|\,\|Tx\|^2 $$
であり、$Tx\ne0$ なら $\|Tx\|^2$ で割って 2 つ目の不等式を得る($Tx=0$ なら明らか)。$\square$

スペクトルによる特徴づけ

正値性とスペクトル

$T\in B(H)$ を自己共役作用素、$a\le b$ を実数とする。$aI\le T\le bI$ であることと $\sigma(T)\subset[a,b]$ であることは同値である。とくに
$$ T\ge0\iff\sigma(T)\subset[0,\infty) $$
である。さらに $T\ge0$ なら $\|T\|=M_T=\max\sigma(T)$ であり、$T$ が可逆であることと、ある $c>0$ ですべての $x$ について $\langle Tx,x\rangle\ge c\|x\|^2$ となることは同値である。

$aI\le T\le bI$ は $a\le m_T$ かつ $M_T\le b$ と同じである。冒頭で引いた事実 $\sigma(T)\subset[m_T,M_T]$、$m_T,M_T\in\sigma(T)$ から、これは $\sigma(T)\subset[a,b]$ と同値である。$T\ge0$ なら $m_T\ge0$ なので $\|T\|=\max\{\lvert m_T\rvert,\lvert M_T\rvert\}=M_T$ である。最後の主張では、$T\ge0$ のもとで「$0\notin\sigma(T)$」は「$m_T>0$」と同値であり($m_T=\min\sigma(T)\ge0$)、$m_T>0$ は $c=m_T$ として条件そのものである。$\square$

最後の主張の条件は、Lax–Milgramの定理 の強圧性を正作用素について述べたものである。前半の同値は Bre11 Exercise 6.24 の 1(p. 178)にある。

縮小な正作用素

$T\in B(H)$ を自己共役作用素とする。次は同値である。

  1. $T\ge0$ かつ $\|T\|\le1$。
  2. $0\le T\le I$。
  3. $\sigma(T)\subset[0,1]$。
  4. すべての $x\in H$ について $\langle Tx,x\rangle\ge\|Tx\|^2$。

1 ⇒ 2:$\langle Tx,x\rangle\le\|T\|\,\|x\|^2\le\|x\|^2$ である。2 ⇒ 1:thm-po-spectrum から $\|T\|=M_T\le1$ である。2 ⇔ 3:thm-po-spectrum で $a=0$、$b=1$ とする。1 ⇒ 4:lem-po-cs から $\|Tx\|^2\le\|T\|\,\langle Tx,x\rangle\le\langle Tx,x\rangle$ である。4 ⇒ 1:$\langle Tx,x\rangle\ge\|Tx\|^2\ge0$ なので $T\ge0$ であり、$\|Tx\|^2\le\langle Tx,x\rangle\le\|Tx\|\,\|x\|$ から $\|Tx\|\le\|x\|$ である。$\square$

これは Bre11 Exercise 6.24 の 2(p. 178)の同値である。4 の不等式を逆向きにした条件も、スペクトルで読める。

逆向きの不等式とスペクトルの隙間

$T\in B(H)$ を自己共役作用素とする。すべての $x$ について $\langle Tx,x\rangle\le\|Tx\|^2$ であることと、$\sigma(T)\cap(0,1)=\emptyset$ であることは同値である。

$U=2T-I$ とおく。$U$ は自己共役で、$\langle Tx,x\rangle$ が実数なので
$$ \|Ux\|^2=4\|Tx\|^2-4\langle Tx,x\rangle+\|x\|^2 $$
である。よって条件は「すべての $x$ で $\|Ux\|\ge\|x\|$」と同値である。また $\sigma(U)=\{2\lambda-1:\lambda\in\sigma(T)\}$ なので、$\sigma(T)\cap(0,1)=\emptyset$ は $\sigma(U)\cap(-1,1)=\emptyset$ と同値である。
$\|Ux\|\ge\|x\|$ とし、実数 $s$、$\lvert s\rvert<1$ をとる。$\|(U-s)x\|\ge(1-\lvert s\rvert)\|x\|$ なので、自己共役な $U-s$ は単射で像が閉じている(像の Cauchy 列の逆像が Cauchy 列になる)。随伴作用素 の命題「核と像の直交補」から像は $(\ker(U-s))^\perp=H$ に稠密なので、$U-s$ は全単射であり $s\notin\sigma(U)$ である。
逆に $\sigma(U)\cap(-1,1)=\emptyset$ とする。$0\notin\sigma(U)$ なので $V=U^{-1}$ が存在して自己共役であり、$\mu\ne0$ について $V-\mu=-\mu V(U-\mu^{-1})$ から $\sigma(V)=\{s^{-1}:s\in\sigma(U)\}\subset[-1,1]$ である。$m_V,M_V\in\sigma(V)$ なので $\|V\|=\max\{\lvert m_V\rvert,\lvert M_V\rvert\}\le1$ であり、$\|x\|=\|VUx\|\le\|Ux\|$ である。$\square$

これは Bre11 Exercise 6.24 の 3(p. 178)で、$U=2T-I$ を使う方針はそこのヒントによる。

正の平方根

正の実数がただ 1 つの正の平方根をもつのと同じく、正作用素もただ 1 つの正の平方根をもつ。有限次元では固有空間ごとに平方根をとればよいが(正定値行列 の定理「半正定値な平方根の存在と一意性」)、無限次元では固有ベクトルの基底がないので、多項式の単調な列の極限として構成する。そのために次の補題を使う。

単調な作用素列の収束

自己共役作用素の列 $(Y_n)$ が $0\le Y_1\le Y_2\le\cdots\le I$ を満たすとする。このとき各 $x\in H$ について $Y_nx$ は収束し、$Yx=\lim_nY_nx$ で定まる $Y$ は $0\le Y\le I$ を満たす自己共役作用素である。

$x$ を固定する。実数列 $\langle Y_nx,x\rangle$ は単調増加で $\|x\|^2$ 以下なので収束する。$n< k$ について $D=Y_k-Y_n$ とおくと $0\le D\le Y_k\le I$ なので、thm-po-contraction から $\|D\|\le1$ であり、lem-po-cs から
$$ \|Y_kx-Y_nx\|^2=\|Dx\|^2\le\langle Dx,x\rangle=\langle Y_kx,x\rangle-\langle Y_nx,x\rangle $$
である。右辺は $n,k\to\infty$ で $0$ に近づくので、$(Y_nx)$ は Cauchy 列であり収束する。極限 $Y$ は線形で $\|Yx\|\le\|x\|$ を満たし、$\langle Yx,y\rangle=\lim\langle Y_nx,y\rangle=\lim\langle x,Y_ny\rangle=\langle x,Yy\rangle$ から自己共役である。$0\le\langle Yx,x\rangle\le\|x\|^2$ も極限で保たれる。$\square$

正の平方根の存在と一意性

$T\ge0$ とする。$R\ge0$ かつ $R^2=T$ となる $R\in B(H)$ がただ 1 つ存在する。この $R$ を $T^{1/2}$ と書く。さらに、$T$ と可換なすべての $S\in B(H)$ は $T^{1/2}$ とも可換である。

存在:$T=0$ なら $R=0$ でよい。$T\ne0$ なら $T'=\|T\|^{-1}T$ は thm-po-contraction により $0\le T'\le I$ を満たし、$T'$ の平方根 $R'$ があれば $R=\|T\|^{1/2}R'$ が $T$ の平方根になる。そこで $0\le T\le I$ とし、$A=I-T$ とおく。$A$ も $0\le A\le I$ を満たす。
$$ Y_0=0,\qquad Y_{n+1}=\tfrac12\bigl(A+Y_n^2\bigr) $$
で作用素の列を定める。帰納法で次の 3 つを示す。(a) $Y_n$ は $A$ の多項式で係数が $0$ 以上の実数である。(b) $Y_{n+1}-Y_n$ も同じ形の多項式である。(c) $\|Y_n\|\le1$ である。
(a):係数が $0$ 以上の多項式の 2 乗と和は同じ形である。(b):$Y_1-Y_0=\frac12A$ であり、$Y_n$ たちは $A$ の多項式なので互いに可換で、
$$ Y_{n+1}-Y_n=\tfrac12\bigl(Y_n^2-Y_{n-1}^2\bigr)=\tfrac12\bigl(Y_n-Y_{n-1}\bigr)\bigl(Y_n+Y_{n-1}\bigr) $$
は (a) と帰納法の仮定から係数が $0$ 以上の多項式どうしの積である。(c):$\|Y_{n+1}\|\le\frac12(\|A\|+\|Y_n\|^2)\le1$ である。
係数が $0$ 以上の $A$ の多項式は正作用素である。実際 $A$ は自己共役なので、$\langle A^{2j}x,x\rangle=\|A^jx\|^2\ge0$、$\langle A^{2j+1}x,x\rangle=\langle A(A^jx),A^jx\rangle\ge0$ である。したがって (b)・(c) から $0\le Y_1\le Y_2\le\cdots\le I$ であり、lem-po-monotone により $Y_nx\to Yx$ となる $0\le Y\le I$ がある。$\|Y_n\|\le1$ なので
$$ \|Y_n^2x-Y^2x\|\le\|Y_n\|\,\|Y_nx-Yx\|+\|(Y_n-Y)Yx\|\to0 $$
であり、漸化式の極限をとって $Y=\frac12(A+Y^2)$ を得る。$R=I-Y$ とおくと、$Y\le I$ から $R\ge0$ であり、
$$ R^2=I-2Y+Y^2=I-A=T $$
である。
可換性:$ST=TS$ なら $S$ は $A$、したがって各 $Y_n$ と可換で、$SYx=\lim SY_nx=\lim Y_nSx=YSx$ である。よって $S$ は $R=I-Y$(一般の場合はその定数倍)と可換である。
一意性:$R'\ge0$、$R'^2=T$ とする。$R'T=R'^3=TR'$ なので、上の可換性から $RR'=R'R$ である。$x\in H$ について $y=(R-R')x$ とおくと
$$ \langle Ry,y\rangle+\langle R'y,y\rangle=\langle(R+R')(R-R')x,y\rangle=\langle(R^2-R'^2)x,y\rangle=0 $$
であり、左辺の 2 項はどちらも $0$ 以上なので $0$ である。lem-po-cs から $Ry=R'y=0$、すなわち $(R-R')^2x=0$ であり、
$$ \|(R-R')x\|^2=\langle(R-R')^2x,x\rangle=0 $$
となる。よって $R=R'$ である。$\square$

構成の漸化式は、$1-\sqrt{1-t}$ の冪級数を $t=A$ に代入する代わりに、その係数がすべて $0$ 以上であることを単調性として使ったものである。C*-代数の連続関数計算を使う証明もある(Sun00 Proposition 3.3.11 (e)、p. 113)。

平方根から分かること
  1. $A,B\ge0$ が可換なら $AB\ge0$ である。
  2. $T\in B(H)$ について、$T\ge0$ であることと、ある $S\in B(H)$ で $T=S^*S$ と書けることは同値である。
  3. $T\in B(H)$ について $\lvert T\rvert=(T^*T)^{1/2}$ とおくと、すべての $x$ で $\bigl\|\lvert T\rvert x\bigr\|=\|Tx\|$ である。

1:$B$ は $A$ と可換なので thm-po-sqrt から $A^{1/2}$ とも可換であり、$AB=A^{1/2}BA^{1/2}$ である。$AB=BA$ から $AB$ は自己共役で、$\langle A^{1/2}BA^{1/2}x,x\rangle=\langle BA^{1/2}x,A^{1/2}x\rangle\ge0$ である。2:$T\ge0$ なら $S=T^{1/2}$ とすればよく、逆は ex-po-examples の 1 である。3:$\bigl\|\lvert T\rvert x\bigr\|^2=\langle\lvert T\rvert^2x,x\rangle=\langle T^*Tx,x\rangle=\|Tx\|^2$ である。$\square$

3 から、$\lvert T\rvert x\mapsto Tx$ は $\lvert T\rvert$ の像の上で等長な写像として矛盾なく定まる。これを延長して、$T=V\lvert T\rvert$($V$ は部分等長作用素)と書けるのが作用素の極分解である(Sun00 Theorem 4.2.5、p. 154。この記事では証明しない。行列の場合は 極分解)。

反例の表

外す条件反例成り立たなくなること
自己共役性$\mathbb C^2$ 上の $N=\begin{pmatrix}0&2\\0&0\end{pmatrix}$$\sigma(T)\subset[0,\infty)$ から $T\ge0$ が出ること(thm-po-spectrum)
自己共役性$\mathbb R^2$ 上の $T=I+J$($J$ は $90^\circ$ 回転)自己共役な平方根の存在(thm-po-sqrt)
平方根が正であること$\mathbb C^2$ 上の $I$ と $R=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix}$平方根の一意性(thm-po-sqrt)
$A$ と $B$ の可換性$A=\begin{pmatrix}1&0\\0&0\end{pmatrix}$、$B=\begin{pmatrix}1&1\\1&1\end{pmatrix}$積が正作用素であること(cor-po-consequences の 1)

1 行目:$\sigma(N)=\{0\}$ だが、$x=(1,-1)$ で $\langle Nx,x\rangle=-2<0$ である。2 行目:$\langle Tx,x\rangle=\|x\|^2\ge0$ だが、自己共役な $R$ について $R^2$ は自己共役なので、自己共役でない $T$ は $R^2$ の形に書けない。3 行目:$R$ は自己共役で $R^2=I$ だが正作用素ではなく、正の平方根 $I$ とは異なる。4 行目:$A,B$ はどちらも正作用素($B$ の固有値は $0,2$)だが $AB=\begin{pmatrix}1&1\\0&0\end{pmatrix}$ は自己共役でない。

関連項目

参考文献

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