almost Gorenstein局所環とは、Cohen–Macaulay局所環をその標準加群へ埋め込んだとき、余核を生成元数と重複度が一致するUlrich加群にできる環である。Gorenstein環では余核が0になるが、almost Gorenstein環では制御された非零の余核を許す。一次元数値半群環などに非Gorensteinの例があり、正則元による商や次数付き版では追加条件を区別する必要がある。
前提知識:ネーター局所環、Cohen–Macaulay加群、標準加群、重複度、完全列。後半では正則元、極小還元、随伴次数環を用いる。
$(R,\mathfrak m,k)$ をCohen–Macaulay局所環とし、$R$ は標準加群 $\omega_R$ をもつとする。有限生成 $R$-加群 $M$ の最小生成元数を $\mu_R(M)$、$\mathfrak m$ に関する重複度を $e^0_{\mathfrak m}(M)$ と書く。
零でない有限生成 $R$-加群 $M$ が Ulrich加群であるとは、$M$ がCohen–Macaulayであり
$$
\mu_R(M)=e^0_{\mathfrak m}(M)
$$
を満たすことをいう。
$R$ が almost Gorenstein局所環(almost Gorenstein local ring、概Gorenstein局所環)であるとは、完全列
$$
0\longrightarrow R\xrightarrow{\varphi}\omega_R\longrightarrow C\longrightarrow0
$$
が存在し、$C=0$、または $C\neq0$ かつ $C$ がUlrich加群となることをいう。同値に、上の完全列で
$$
\mu_R(C)=e^0_{\mathfrak m}(C)
$$
が成り立つことを要求する。
定義の出典:高次元の定義とUlrich余核による定式化はGoto–Takahashi–Taniguchi, Definition 3.3( 論文・DOI )。一次元に先行する定義との関係は同論文Proposition 3.4およびGoto–Matsuoka–Phuong( 論文・DOI )に基づく。
Gorenstein局所環では $\omega_R\cong R$ であり、定義の完全列を $C=0$ として取れる。almost Gorenstein性は同型を要求せず、$R$ を $\omega_R$ へ埋め込んだ差 $C$ がUlrich加群になることを要求する。従って「標準加群が環そのものではない」というずれは残るが、そのずれの生成元数と重複度が一致する。
$$
\mathrm{Gorenstein}
\Longrightarrow
\mathrm{almost\ Gorenstein}
\Longrightarrow
\mathrm{Cohen\text{-}Macaulay}.
$$
右から左の含意は一般には成り立たない。“almost” は近さの比喩だけではなく、標準加群への埋め込みとUlrich余核という具体的な条件を表す。
| 環 | 標準加群への埋め込み | 判定 |
|---|---|---|
| Gorenstein局所環 | $R\xrightarrow{\sim}\omega_R$、$C=0$ | almost Gorenstein |
| $k\llbracket t^3,t^4,t^5\rrbracket$ | $R\subset R+Rt\cong\omega_R$、余核は $k$ | almost Gorensteinだが非Gorenstein |
| $k\llbracket t^3,t^7,t^8\rrbracket$ | $K=R+Rt\cong\omega_R$ だが $\mathfrak mK\nsubseteq R$ | Cohen–Macaulayだがalmost Gorensteinでない |
| $k\llbracket x,y\rrbracket/(x,y)^2$ | 次元0でsocle次元2 | almost Gorensteinでない |
$R$ がGorenstein局所環なら $\omega_R\cong R$ である。同型を $\varphi$ に取れば $C=0$ だから、$R$ はalmost Gorensteinである。
$R=k\llbracket t^3,t^4,t^5\rrbracket\subset k\llbracket t\rrbracket$ とし、$K=R+Rt$ と置く。数値半群の標準分数イデアルの計算から $K\cong\omega_R$ である。包含 $R\hookrightarrow K$ の余核 $C=K/R$ は $t$ の類で生成され、
$$
\mathfrak mC=0
$$
となる。従って $C\cong k$ は0次元Ulrich加群であり、$R$ はalmost Gorensteinである。一方、$K$ は $1,t$ の2元を必要とするのでCohen–Macaulay型は2であり、$R$ はGorensteinでない。
数値半群例の出典:一般に $e\geq3$ に対する $k\llbracket t^e,t^{e+1},\ldots,t^{2e-1}\rrbracket$ の標準分数イデアルとalmost Gorenstein性はGoto–Matsuoka–Phuong, Example 3.13( 論文・DOI )。ここでは $e=3$ を取り、余核を直接計算した。
$R=k\llbracket t^3,t^7,t^8\rrbracket$ とする。これは一次元Cohen–Macaulay整域で、$K=R+Rt$ は標準分数イデアルである。しかし
$$
t^3\cdot t=t^4\notin R
$$
なので $\mathfrak mK\nsubseteq R$ である。一次元の標準分数イデアルによる判定から $R$ はalmost Gorensteinでない。従ってCohen–Macaulay性や標準加群の存在だけでは定義を満たさない。
反例の出典:$k\llbracket t^3,t^7,t^8\rrbracket$ の標準分数イデアル $R+Rt$ と非almost Gorenstein性はGoto–Matsuoka–Phuong, Example 5.4( 論文・DOI )。本文では失敗する条件 $\mathfrak mK\subseteq R$ を具体的に示した。
$A=k\llbracket x,y\rrbracket/(x,y)^2$ は0次元なのでCohen–Macaulayであるが、socleは $x,y$ の類で張られ、
$$
\dim_k\operatorname{Soc}(A)=2.
$$
従って $A$ はGorensteinでない。0次元almost Gorenstein局所環はGorensteinでなければならないので、$A$ はalmost Gorensteinでない。
$R$ を $d$ 次元almost Gorenstein局所環とし、定義の完全列を取る。$C\neq0$ なら次が成り立つ。
1は深さ補題と次元の比較による。2は完全列を極小素イデアルで局所化すると $R_{\mathfrak p}\cong(\omega_R)_{\mathfrak p}$ となることから従う。3は非正則の場合に $\varphi(1)\notin\mathfrak m\omega_R$ となり、最小生成元数が一つ減ることによる。
構造の出典:余核の次元・Cohen–Macaulay性と全商環のGorenstein性はGoto–Takahashi–Taniguchi, Lemma 3.1、型の式はCorollary 3.10( 論文・DOI )。
定義の完全列は、$R$ と双対性を担う $\omega_R$ の差を一つのCohen–Macaulay加群 $C$ に集める。Cohen–Macaulay型
$$
r(R)=\dim_k\operatorname{Ext}^d_R(k,R)
$$
は $\omega_R$ の最小生成元数に等しく、非正則almost Gorenstein局所環では上の式 $\mu_R(C)=r(R)-1$ がずれの生成元数を測る。
$d=\dim R\geq1$、$k$ は無限体とし、$I\neq R$ を $I\cong\omega_R$ となるイデアルとする。このとき $R$ がalmost Gorensteinであることと、あるパラメータイデアル
$$
Q=(f_1,f_2,\ldots,f_d),\qquad f_1\in I
$$
が存在して
$$
\mathfrak m(I+Q)=\mathfrak mQ
$$
を満たすことは同値である。
一次元で残差体が無限なら、標準分数イデアル $R\subseteq K\subseteq\overline R$ を取れる状況で
$$
R\ \mathrm{is\ almost\ Gorenstein}
\quad\Longleftrightarrow\quad
\mathfrak mK\subseteq R
$$
と書ける。数値半群の例と反例はこの判定を使っている。無限残差体の仮定は極小還元を選ぶ箇所で使われるため、無表示で落としてはいけない。
特徴づけの出典:高次元の標準イデアル判定はGoto–Takahashi–Taniguchi, Theorem 1.3、一次元の判定はGoto–Matsuoka–Phuong, Theorem 3.11(各DOIは参考文献欄)。
$f\in\mathfrak m$ を $R$-正則元とする。
逆向きには「$f$ が $C$ に対して表面的」という条件がある。任意の正則元で切れば保存されるとは限らない。
$(S,\mathfrak n)$ をネーター局所環とし、$R\to S$ を平坦局所準同型とする。閉ファイバー $S/\mathfrak mS$ が正則局所環であるとする。$R$ がalmost Gorensteinなら $S$ もalmost Gorensteinである。逆向きは $R/\mathfrak m$ が無限体なら成り立つ。
一方、almost Gorenstein性は一般の素イデアルでの局所化では保存されない。平坦拡大の定理を「すべての局所化で保存」と読み替えてはいけない。
保存則の出典:正則元についてはGoto–Takahashi–Taniguchi, Theorem 3.7、平坦局所写像についてはTheorem 3.9、局所化の反例の所在はRemark 3.17( 論文・DOI )。
標準次数付きCohen–Macaulay $k$-代数では、$a=a(R)$ として次数付き完全列
$$
0\longrightarrow R\longrightarrow\omega_R(-a)\longrightarrow C\longrightarrow0
$$
を用い、$\mu_R(C)=e^0_{\mathfrak M}(C)$ を課す。次数シフトを固定するため、局所版の完全列をそのまま次数付き版とは呼べない。次数付きalmost Gorenstein環なら斉次極大イデアルでの局所化はalmost Gorenstein局所環だが、逆は一般に成り立たない。
| 名称 | 基本条件 | Cohen–Macaulay性 | almost Gorensteinとの関係 |
|---|---|---|---|
| Gorenstein | $\omega_R\cong R$ | 必須 | 常にalmost Gorenstein |
| almost Gorenstein | $R\hookrightarrow\omega_R$ の余核がUlrich | 必須 | 定義対象 |
| nearly Gorenstein | $\mathfrak m\subseteq\operatorname{tr}(\omega_R)$ | 通常は仮定 | 次元1ではalmostから従うが、高次元では一般の含意なし |
| quasi-Gorenstein | 最高次局所コホモロジーが入射包 | 定義には含めない | CMならGorensteinとなるのでalmostだが、一般には別条件 |
nearlyとの比較の出典:canonical traceによるnearly Gorenstein性と、一次元でalmost Gorensteinからnearly Gorensteinが従うことはHerzog–Hibi–Stamate, Proposition 6.1( 論文・DOI )。同論文は高次元では両概念に一般の含意がない例も扱う。
Gorensteinからの含意、数値半群環の余核、一次元反例で失敗する包含、Artin環の反例は本文中で計算した。余核の構造、標準イデアルによる特徴づけ、正則元・平坦拡大・局所化、次数付き版とnearly Gorensteinとの関係には外部定理を用いる。