Dieudonné加群とBarsotti–Tate群(Dieudonné modules and Barsotti–Tate groups)とは、標数 $p$ の完全体 $k$ 上の $p$-可除群を、Witt環 $W(k)$ 上の有限自由加群と半線形作用素 $F,V$ の組へ移す反変分類理論の対象である。Dieudonné環は $FV=VF=p$ と Frobenius 半線形関係を満たし、有限可換 $p$-群スキームは有限長加群に、Barsotti–Tate群は有限自由加群に対応する。加群の階数は群の高さ、$M/FM$ の $k$-次元は群の次元を与え、$F$ が可逆な部分はエタール部分、$V$ が可逆な部分は乗法型部分を表す。
前提知識: 群スキーム, WittベクトルとWitt環, Frobenius写像, Cartier双対, 加群
以下、$p$ を素数、$k$ を標数 $p$ の完全体、$W:=W(k)$ を $p$-Witt 環とする。$W$ の Frobenius 自己同型を $\sigma$ と書く。本記事では有限可換群スキームと Barsotti–Tate 群を fppf 層として扱い、Dieudonné 加群については反変な規約を採用する。共変な規約では $F$ と $V$ の役割が入れ替わるため、文献を比較するときは規約を確認する必要がある。
$S$ をスキームとする。$S$ 上の可換 fppf 群層 $G$ が素数 $p$ に関する Barsotti–Tate 群(Barsotti–Tate group)、または $p$-可除群($p$-divisible group)であるとは、ある整数 $h\geq0$ が存在して次を満たすことをいう。
Dieudonné 環 $D_k$ とは、$W$、記号 $F,V$ から生成され、すべての $a\in W$ に対して
$$FV=VF=p,\qquad Fa=\sigma(a)F,\qquad aV=V\sigma(a)$$
を関係式としてもつ結合的環である。最後の関係式は $Va=\sigma^{-1}(a)V$ と同値である。$k\neq\mathbb F_p$ なら一般に $D_k$ は非可換である。
$k$ 上の Dieudonné 加群(Dieudonné module)とは左 $D_k$-加群のことである。言い換えると、$W$-加群 $M$ と加法写像 $F,V\colon M\to M$ の組であって
$$F(am)=\sigma(a)F(m),\qquad V(am)=\sigma^{-1}(a)V(m),\qquad FV=VF=p$$
を満たすものである。
有限可換 $p$-群スキームに対応するのは $W$-加群として有限長の Dieudonné 加群であり、Barsotti–Tate 群に対応するのは $W$-加群として有限階数自由な Dieudonné 加群である。
標数が $p$ と異なるとき、アーベル多様体の $p$-冪捩れは幾何点上の有限アーベル群としてかなり多くの情報を保つ。しかし標数 $p$ では、$\mu_p$ や $\alpha_p$ のように幾何点が一つしかない非被約群スキームが現れ、点の集合だけでは群スキームを区別できない。Dieudonné 理論は、この見えにくい無限小構造を Witt 環上の半線形代数へ移す。
群スキーム側の二つの基本操作は相対 Frobenius と Verschiebung である。有限局所自由可換群スキーム $H$ には
$$F_{H/k}\colon H\longrightarrow H^{(p)},\qquad V_{H/k}\colon H^{(p)}\longrightarrow H$$
があり、合成は両向きとも $p$ 倍写像になる。反変 Dieudonné 関手を施すと、これらは加群側の $F,V$ に移り、$FV=VF=p$ という単純な関係式になる。幾何的対象の列 $G[p],G[p^2],\dots$ は、極限を通して一つの有限自由 $W$-加群へ圧縮される。
ここで「反変」は重要である。群スキームの射 $G\to H$ は加群の射 $M(H)\to M(G)$ を誘導する。Cartier 双対も $F$ と $V$ を交換するので、エタール部分と乗法型部分が互いに双対であることが線形代数に明瞭に現れる。
定数有限エタール群スキーム $\underline{\mathbb Z/p^n\mathbb Z}$ と、$x\bmod p^n\mapsto px\bmod p^{n+1}$ で与えられる包含からなる帰納系
$$\underline{\mathbb Z/p\mathbb Z}\subset\underline{\mathbb Z/p^2\mathbb Z}\subset\cdots$$
は高さ $1$ の Barsotti–Tate 群であり、$\mathbb Q_p/\mathbb Z_p$ と書く。その反変 Dieudonné 加群は $M=W e$ で
$$F(e)=e,\qquad V(e)=pe$$
としたものである。ここで $F$ は $\sigma$-半線形なので $F(ae)=\sigma(a)e$ であり、$F$ は全単射である。この「$F$ が全単射」という性質がエタール性を表す。
抽象群 $\mathbb Q_p/\mathbb Z_p$ 上の $p$ 倍写像は全射である。実際、$x\in\mathbb Q_p$ の類の原像として $x/p$ の類を取れるので、対応する定数 fppf 層上でも $[p]$ は全射である。$[p^n]$ の核はちょうど $p^n$ 個の元をもつ巡回群 $p^{-n}\mathbb Z_p/\mathbb Z_p\cong\mathbb Z/p^n\mathbb Z$ の定数群スキームであり、これは有限エタール、したがって有限局所自由で階数 $p^n$ である。def-dieudonne-bt-group の条件を $h=1$ で満たすから、高さは $1$ である。$\square$
$p^n$ 乗写像の核 $\mu_{p^n}:=\ker([p^n]\colon\mathbb G_m\to\mathbb G_m)$ は階数 $p^n$ の有限局所自由群スキームである。帰納系
$$\mu_p\subset\mu_{p^2}\subset\cdots$$
は高さ $1$、次元 $1$ の Barsotti–Tate 群 $\mu_{p^\infty}$ をなす。その反変 Dieudonné 加群は $M=W e$ で
$$F(e)=pe,\qquad V(e)=e$$
としたものである。したがって $V$ が全単射である。Cartier 双対により
$$\bigl(\mathbb Q_p/\mathbb Z_p\bigr)^D\cong\mu_{p^\infty}$$
である。
$k$ が代数閉体であるとする。位数 $p$ の有限可換群スキームには、定数群 $\underline{\mathbb Z/p\mathbb Z}$、乗法型群 $\mu_p$、加法群の Frobenius 核 $\alpha_p:=\ker(F\colon\mathbb G_a\to\mathbb G_a)$ という三つの基本例がある。反変 Dieudonné 加群はいずれも $k=W/(p)$ を台とし、基底 $e$ 上の作用はそれぞれ
$$
\begin{array}{c|cc}
H&F(e)&V(e)\\ \hline
\underline{\mathbb Z/p\mathbb Z}&e&0\\
\mu_p&0&e\\
\alpha_p&0&0
\end{array}
$$
である。三者は幾何点だけでは十分に区別できないが、$F,V$ の作用は直ちに区別する。
$\alpha_p$ は有限可換群スキームであり、対応する有限長 Dieudonné 加群も存在するが、Barsotti–Tate 群ではない。実際 $[p]=0$ なので、非自明な $\alpha_p$ 上の $p$ 倍写像は全射でない。したがって破れる含意は
$$\text{有限可換 $p$-群スキーム}\Longrightarrow\text{Barsotti–Tate 群}$$
である。正しい関係は、Barsotti–Tate 群の各切断 $G[p^n]$ が有限可換 $p$-群スキームになる、という逆向きの包含である。
$k$ 上の $g$ 次元アーベル多様体 $A$ に対し
$$A[p^\infty]:=\varinjlim_n A[p^n]$$
は高さ $2g$、次元 $g$ の Barsotti–Tate 群である。これは $[p^n]\colon A\to A$ が次数 $p^{2gn}$ の有限平坦射であることによる。反変 Dieudonné 加群 $M(A[p^\infty])$ は $W$ 上階数 $2g$ であり、標数 $p$ における $p$-進 Tate 加群の代替物として働く。
$k$ を標数 $p$ の完全体とする。反変 Dieudonné 関手 $H\mapsto M(H)$ は
$D_kV$ は $D_k$ の両側イデアルであり、環として
$$D_k/D_kV\cong k[F;\sigma]$$
である。実際、$Va=\sigma^{-1}(a)V$、$VF=FV=p$、$VV=V^2$ により、$D_kV$ は右から $W$、$F$、$V$ の各生成元を掛けても閉じている。右辺は $Fa=a^pF$($a\in k$)を満たす Frobenius ねじれ多項式環を表す。標準形を用いると、$V$ の正冪を含む項は $D_kV$ に入り、$p=FV$ も $D_kV$ に入るため係数は $W/(p)=k$ に落ち、$F$ の非負冪だけが残る。この計算の詳細は Dem72 Chapter IV に譲る。
$k$ を標数 $p$ の完全体とする。反変 Dieudonné 関手は
Barsotti–Tate 群に対する反同値と有限レベルとの整合性の証明は Dem72 Chapter V に譲る。
高さ $h$ の Barsotti–Tate 群 $G$ に対し、$M(G)$ は $W(k)$ 上階数 $h$ である。
分類定理と有限レベルの整合性を仮定する。$M:=M(G)$ が $W$ 上階数 $r$ の自由加群なら、$M/p^nM\cong(W/p^nW)^r$ の $W$-加群としての長さは $nr$ である。有限レベルの分類(thm-dieudonne-finite-classification)により、対応する $G[p^n]$ の階数は $p^{nr}$ である。一方、$G$ の高さを $h$ とすると定義からその階数は $p^{nh}$ である。すべての $n\ge1$ について $p^{nr}=p^{nh}$ だから $r=h$ である。$\square$
$G$ を $k$ 上の Barsotti–Tate 群、$M=M(G)$ を反変 Dieudonné 加群とする。このとき
$$\dim(G)=\dim_k(M/FM)$$
である。より有限レベルでは、有限可換 $p$-群スキーム $H$ に対し $M(H)/FM(H)$ は単位元における接空間の双対に自然に同型である。
この公式は例を正しく区別する。$\mathbb Q_p/\mathbb Z_p$ では $F$ が全単射なので次元は $0$、$\mu_{p^\infty}$ では $FM=pM$ なので $M/FM\cong k$ となり次元は $1$ である。
$k$ が完全体なら、Barsotti–Tate 群 $G$ には自然な完全列
$$0\longrightarrow G^0\longrightarrow G\longrightarrow G^{\mathrm{et}}\longrightarrow0$$
があり、$G^0$ は連結、$G^{\mathrm{et}}$ はエタールである。Dieudonné 加群では、エタール部分は $F$ が全単射である成分に対応し、乗法型部分は $V$ が全単射である成分に対応する。Cartier 双対はこの二成分を交換する。
連結–エタール列と Dieudonné 加群による判定の証明は Dem72 Chapter V に譲る。
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