正多角形の頂点までの距離の累乗の和(power sums of distances to a regular polygon)とは、中心 $O$、外接円の半径 $R$ の正 $n$ 角形($n\ge3$)の頂点 $A_0,\dots,A_{n-1}$ と点 $P$($OP=d$)について、和 $\sum_kPA_k^{2m}$ である。$1\le m\le n-1$ ならこの和は $n\sum_{i=0}^m\binom mi^2R^{2i}d^{2(m-i)}$ に等しく、$P$ の向きによらない。とくに $\sum_kPA_k^2=n(R^2+d^2)$ で、$P$ が外接円の上なら $\sum_kPA_k^{2m}=n\binom{2m}mR^{2m}$ である。$m=n$ では $P$ の向きによって値が変わる。
前提知識: 距離の2乗の重み付き和, 1の冪根で数を振り分ける, 複素数の掛け算は回転と拡大, 二項定理と組合せの恒等式
半径 $1$ の円に内接する正五角形の頂点を $A_0,\dots,A_4$ とし、中心 $O$ からずれた点 $P$ から 5 つの頂点までの距離を測る。
$A_k=\left(\cos\frac{2\pi k}5,\ \sin\frac{2\pi k}5\right)$($k=0,\dots,4$)、$P=\left(\frac12,0\right)$ とする。$PA_k^2=\left(\cos\frac{2\pi k}5-\frac12\right)^2+\sin^2\frac{2\pi k}5=\frac54-\cos\frac{2\pi k}5$ である。$\cos0=1$、$\cos\frac{2\pi}5=\cos\frac{8\pi}5\approx0.309$、$\cos\frac{4\pi}5=\cos\frac{6\pi}5\approx-0.809$ なので
$$
PA_0^2=0.25,\quad PA_1^2=PA_4^2\approx0.941,\quad PA_2^2=PA_3^2\approx2.059
$$
で(図 1)、2 乗の和は $0.25+2\times0.941+2\times2.059=6.25$、4 乗の和は $0.0625+2\times0.8855+2\times4.2394\approx10.3125$ である。
半径 1 の正五角形と点 P(1/2, 0)。線分の横の数は、P から各頂点までの距離の 2 乗
$OP=d=\frac12$ とすると、$6.25=5\left(1+\frac14\right)=5(R^2+d^2)$、$10.3125=5\left\{\left(1+\frac14\right)^2+2\cdot\frac14\right\}$ と書ける($R=1$)。どちらも $P$ の向きを含まない形である。$P$ を中心のまわりに回しても、和は変わらないのだろうか。この記事の問いは次の 2 つである。
| $m$ | $\sum_kPA_k^{2m}$($m< n$ のとき) | $P$ が外接円の上($d=R$) |
|---|---|---|
| $1$ | $n(R^2+d^2)$ | $2nR^2$ |
| $2$ | $n(R^4+4R^2d^2+d^4)$ | $6nR^4$ |
| $3$ | $n(R^6+9R^4d^2+9R^2d^4+d^6)$ | $20nR^6$ |
| 一般 | $n\sum_{i=0}^m\binom mi^2R^{2i}d^{2(m-i)}$ | $n\binom{2m}mR^{2m}$ |
$n\ge3$ とし、中心 $O$、外接円の半径 $R$ の正 $n$ 角形 $A_0A_1\cdots A_{n-1}$ を、$O$ を原点とする座標で $A_k=\left(R\cos\frac{2\pi k}n,\ R\sin\frac{2\pi k}n\right)$ と置く。点 $P$ を $P=(d\cos\theta,\ d\sin\theta)$($d=OP\ge0$)と表す。正の整数 $m$ に対し、$S_m(P)=\displaystyle\sum_{k=0}^{n-1}PA_k^{\,2m}$ とおく。
複素数平面では、$\omega=\cos\frac{2\pi}n+i\sin\frac{2\pi}n$ を $1$ の原始 $n$ 乗根として、$A_k=R\omega^k$、$P=z=d(\cos\theta+i\sin\theta)$ である。使う道具は次の和である。
def-psr-setting の正 $n$ 角形($n\ge3$)と点 $P$($OP=d$)について
$$
S_1(P)=n(R^2+d^2),\qquad S_2(P)=n\left\{(R^2+d^2)^2+2R^2d^2\right\}
$$
である。どちらも $P$ の向き $\theta$ によらない。
方針:余弦定理の形で $PA_k^2$ を書き、余弦の和が $0$ になることを使う。
段 1($PA_k^2$)。$\theta_k=\frac{2\pi k}n$ とおくと、三角形 $OPA_k$ で $OP=d$、$OA_k=R$、挟む角が $\theta-\theta_k$ なので(余弦定理。$P=O$ のときもそのまま成り立つ)
$$
PA_k^2=R^2+d^2-2Rd\cos(\theta-\theta_k)
$$
である。
段 2(2 乗の和)。$\cos(\theta-\theta_k)=\cos\left(\theta-\frac{2\pi k}n\right)$ の $k$ についての和は、上の道具で $l=-1$($n\nmid-1$)として $0$ である。よって $S_1(P)=n(R^2+d^2)$ である。
段 3(4 乗の和)。段 1 を 2 乗すると
$$
PA_k^4=(R^2+d^2)^2-4Rd(R^2+d^2)\cos(\theta-\theta_k)+4R^2d^2\cos^2(\theta-\theta_k)
$$
である。2 項目の和は段 2 と同じく $0$ である。3 項目は $\cos^2x=\frac{1+\cos2x}2$ で書き直すと、$\cos\left(2\theta-\frac{4\pi k}n\right)$ の和が現れる。$n\ge3$ なので $n\nmid-2$ で、この和は $0$ である。よって $\displaystyle\sum_k\cos^2(\theta-\theta_k)=\frac n2$ で、
$$
S_2(P)=n(R^2+d^2)^2+4R^2d^2\cdot\frac n2=n\left\{(R^2+d^2)^2+2R^2d^2\right\}
$$
である。$\square$
2 乗の和は、距離の2乗の重み付き和 の定理「重みの和が $0$ でない場合」からも分かる。重みをすべて $1$ にすると $W=n$、$G$ は頂点の平均で、正多角形では中心 $O$ である(段 2 の余弦の和と、同じ計算の正弦の和が $0$ だから)。よって $S_1(P)=n\cdot PO^2+S_1(O)=nd^2+nR^2$ である。
正三角形($n=3$)で $R=1.3$、$d=0.7$ とすると、主定理 1 から $S_1=3(1.69+0.49)=6.54$、$S_2=3\{2.18^2+2\cdot1.69\cdot0.49\}=3(4.7524+1.6562)=19.2258$ である。$P$ の向きを $0^\circ$ から $360^\circ$ まで変えて数値で計算しても、$S_1$ と $S_2$ はこの値から動かない(図 2 の緑と青の線)。
def-psr-setting の正 $n$ 角形と点 $P$($OP=d$)、$1\le m\le n-1$ の整数 $m$ について
$$
S_m(P)=n\sum_{i=0}^m\binom mi^2R^{2i}d^{2(m-i)}
$$
で、$P$ の向き $\theta$ によらない。
方針:複素数で $PA_k^2=(z-R\omega^k)\overline{(z-R\omega^k)}$ と書いて $m$ 乗を二項定理で展開し、$k$ について足すと、$\omega$ の冪の和で大部分の項が消えることを見る。
段 1(展開)。$\lvert\omega\rvert=1$ なので $\overline{\omega^k}=\omega^{-k}$ である。$w_k=R\omega^k$ とおくと $PA_k^2=(z-w_k)(\bar z-\bar w_k)$ で、二項定理(二項定理と組合せの恒等式)から
$$
PA_k^{\,2m}=(z-w_k)^m(\bar z-\bar w_k)^m=\sum_{i=0}^m\sum_{j=0}^m\binom mi\binom mj z^{m-i}\bar z^{m-j}(-1)^{i+j}w_k^{\,i}\,\bar w_k^{\,j}
$$
である。ここで $w_k^{\,i}\bar w_k^{\,j}=R^{i+j}\omega^{k(i-j)}$ である。
段 2($k$ について足す)。$z$、$\bar z$ は $k$ によらないので、$k$ について足すと、各項には $\displaystyle\sum_{k=0}^{n-1}\omega^{k(i-j)}$ が掛かる。これは $n\mid(i-j)$ なら $n$、そうでなければ $0$ である。$0\le i,j\le m\le n-1$ なので $\lvert i-j\rvert\le n-1$ で、$n\mid(i-j)$ となるのは $i=j$ のときだけである。
段 3(残る項)。$i=j$ の項だけが残り、$z^{m-i}\bar z^{m-i}=\lvert z\rvert^{2(m-i)}=d^{2(m-i)}$、$(-1)^{2i}=1$ なので
$$
S_m(P)=n\sum_{i=0}^m\binom mi^2R^{2i}d^{2(m-i)}
$$
である。右辺は $d$ だけで決まり、$\theta$ を含まない。$\square$
$m=1$ では $n(d^2+R^2)$、$m=2$ では $n(d^4+4R^2d^2+R^4)=n\{(R^2+d^2)^2+2R^2d^2\}$ で、主定理 1 と一致する。
$P$ が外接円の上にあり($d=R$)、$1\le m\le n-1$ なら
$$
S_m(P)=n\binom{2m}mR^{2m}
$$
である。
主定理 2 で $d=R$ とすると $S_m=nR^{2m}\sum_{i=0}^m\binom mi^2$ である。$\binom mi=\binom m{m-i}$ なので $\sum_i\binom mi\binom m{m-i}$ と書け、Vandermonde の恒等式(二項定理と組合せの恒等式 の定理「Vandermonde の恒等式」)でこれは $\binom{2m}m$ に等しい。$\square$
半径 $1$ の正六角形($n=6$)の外接円の上の点 $P$ では、$m=2$ で $S_2=6\binom42=36$ である。たとえば $P=A_0=(1,0)$ のとき、頂点までの距離は $0,1,\sqrt3,2,\sqrt3,1$ で、4 乗の和は $0+1+9+16+9+1=36$ と一致する。$m=5$ でも $S_5=6\binom{10}5=1512$ で、$P=A_0$ なら $0+1+3^5+2^{10}+3^5+1=1+243+1024+243+1=1512$ である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $m\le n-1$ | 正三角形で $m=3$ | 和が $P$ の向きで変わる |
| 距離の偶数乗($2m$ 乗) | 距離そのもの(1 乗)の和 | 和が $P$ の向きで変わる |
| 頂点が等間隔(正多角形) | 円の上の等間隔でない 3 点 | 2 乗の和でも $P$ の向きで変わる |
主定理 2 の証明の段 2 で $m=n$ とすると、$i=j$ の項のほかに $(i,j)=(n,0)$ と $(0,n)$ の項が残る($i-j=\pm n$)。$(n,0)$ の項は $\binom nn\binom n0z^0\bar z^n(-1)^nR^n\omega^{kn}=(-1)^nR^n\bar z^n$ で、$k$ について足すと $n(-1)^nR^n\bar z^n$ になる。$(0,n)$ の項はその共役である。$z^n+\bar z^n=2d^n\cos n\theta$ なので
$$
S_n(P)=n\sum_{i=0}^n\binom ni^2R^{2i}d^{2(n-i)}+2n(-1)^nR^nd^n\cos n\theta
$$
となり、$\theta$ によって変わる。正三角形で $R=1.3$、$d=0.7$ のとき、$S_3$ は $\theta=0^\circ$ で約 $59.05$、$30^\circ$ で約 $63.58$、$60^\circ$ で約 $68.10$ である(図 2 の赤の線)。
正三角形(R=1.3)で、中心から 0.7 の点 P を中心のまわりに回したときの距離の 2m 乗の和。m=1, 2 では一定で、m=3 では P の向きで変わる
ex-psr-pentagon の正五角形で、$d=\frac12$ のまま $P$ の向きを変えて距離そのものの和 $\sum_kPA_k$ を数値で計算すると、$\theta=0$ では約 $5.3099$、$\theta=36^\circ$ では約 $5.3253$ で、一定でない。距離の 2 乗は $z$ と $\bar z$ の多項式で書けるが、距離そのものは平方根を含み、段 1 の展開ができない。
単位円の上の 3 点 $(1,0)$、$(0,1)$、$(-1,0)$ は等間隔でない。$P=\left(0,\frac12\right)$ では 2 乗の和は $\frac54+\frac14+\frac54=\frac{11}4$、$P=\left(0,-\frac12\right)$ では $\frac54+\frac94+\frac54=\frac{19}4$ で、$OP$ が同じでも値が違う。3 点の位置ベクトルの和は $(0,1)$ で $\vec0$ でなく、距離の2乗の重み付き和 の $G$ が中心 $O$ にならないからである。
主定理 2 の証明で使ったのは、$\omega^{kl}$ を $k$ について平均すると、$1\le\lvert l\rvert\le n-1$ では $0$ になることだけだった。これは「正 $n$ 角形の頂点での平均」が、$\cos l\theta$、$\sin l\theta$($1\le l\le n-1$)を円全体で平均した値 $0$ と一致することを意味する。$S_m(P)$ は、頂点の位置の $\cos$、$\sin$ についての $m$ 次以下の多項式なので、$m\le n-1$ なら、頂点の平均が円全体の平均と同じになり、$P$ の向きによらない値になる。和の代わりに積 $\prod_kPA_k$ をとると、$\prod_k(z-R\omega^k)=z^n-R^n$ を使って計算できる。これは 正多角形の頂点までの距離の積 で扱う。$1$ の冪根の一般論は 1の冪根 へ続く。
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