シンプレクティック幾何学

同義語:symplectic geometry

概要

シンプレクティック幾何学(symplectic geometry)とは、閉じていて各点で非退化な 2 次微分形式をもつ多様体(シンプレクティック多様体)と、その形式を保つ写像や Hamilton の流れを研究する数学の分野である。古典力学の相空間を起源とする。Darboux の定理によりシンプレクティック形式は各点の近くで標準形になり、曲率のような局所的な不変量をもたないので、違いは形式の存在、領域の埋め込み、Hamilton 系の周期軌道や固定点の個数などの大域的な性質に現れる。シンプレクティック行列が定めるアフィン写像は、半径 $r$ の閉球を、$\omega_0$ が退化しない座標平面の上の半径 $R < r$ の閉円柱に移せない(線形の非圧縮定理)。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 微分形式, 可微分多様体, シンプレクティック多様体

シンプレクティック幾何学(symplectic geometry)は、シンプレクティック形式、すなわち閉じていて各点で非退化な 2 次微分形式をもつ多様体と、その形式を保つ写像を研究する数学の分野である。古典力学では、粒子の位置 $q$ と運動量 $p$ の組がなす相空間が典型例で、エネルギーを表す関数から Hamilton の運動方程式が定まり、その時間発展はシンプレクティック形式を保つ。Riemann 幾何学の計量と違い、シンプレクティック形式には曲率のような局所的な不変量がない(Darboux の定理)。そのため、この分野の問いは大域的になる。どの多様体がシンプレクティック形式をもつか、ある領域を別の領域にシンプレクティックに埋め込めるか、Hamilton 系の周期軌道や固定点はいくつあるか、などである。
この記事では、まずシンプレクティック幾何学の対象を定義し、主な問いと代表的な定理を、それを扱う記事とともに一覧にする。続いて、「シンプレクティックな写像は、体積を保つ写像よりはるかに硬い」ことを示す最も簡単な定理として、線形写像についての非圧縮定理を完全に証明する。最後に、学ぶ順に記事を並べた道筋を示す。

定義

$V$ を有限次元の実ベクトル空間とする。双線形形式 $\omega\colon V\times V\to\mathbb{R}$ で、すべての $v$ について $\omega(v,v)=0$ となり(交代的)、$\omega(v,\cdot)=0$ なら $v=0$ となる(非退化)ものを線形シンプレクティック形式という。このとき $\dim V$ は偶数であり、基底をうまくとると $\omega$ は標準形になる(シンプレクティック多様体 の定理「線形シンプレクティック形式の標準形」)。
$\mathbb{R}^{2n}$ の座標を $(x_1,\dots,x_n,y_1,\dots,y_n)$ とし、標準シンプレクティック形式を $\omega_0:=\sum_{i=1}^ndx_i\wedge dy_i$ とする。

シンプレクティック多様体とシンプレクティック同相写像

多様体 $M$ の上の 2 次微分形式 $\omega$ が、$d\omega=0$ を満たし、各点 $p$ で $\omega_p$ が接空間 $T_pM$ の線形シンプレクティック形式であるとき、$\omega$ をシンプレクティック形式、組 $(M,\omega)$ をシンプレクティック多様体という。微分同相写像 $\varphi\colon(M,\omega)\to(M',\omega')$ で $\varphi^*\omega'=\omega$ となるものをシンプレクティック同相写像、単射なはめ込みで $\varphi^*\omega'=\omega$ となるもののうち像への同相写像であるものをシンプレクティック埋め込みという。
シンプレクティック幾何学とは、シンプレクティック多様体と、シンプレクティック同相写像・シンプレクティック埋め込み・Hamilton の流れを研究する数学の分野である。

滑らかな関数 $H$ に対し、$\omega(X_H,\cdot)=dH$ で定まるベクトル場 $X_H$ を Hamilton ベクトル場、その流れを Hamilton の流れ という。標準形の座標では $X_H$ の積分曲線は Hamilton の運動方程式 $\dot x_i=\partial H/\partial y_i$、$\dot y_i=-\partial H/\partial x_i$ の解であり、Hamilton の流れは $\omega$ と体積形式 $\omega^n$ を保つ(シンプレクティック多様体 の定義「Hamilton ベクトル場と Poisson 括弧」と命題「Hamilton の流れの保存則」)。
シンプレクティック多様体の基本の例は次のとおりである(詳しくは シンプレクティック多様体 の例「シンプレクティック多様体の例」と命題「余接束の標準シンプレクティック形式」)。

  • $(\mathbb{R}^{2n},\omega_0)$ と、それを $\mathbb{Z}^{2n}$ で割ったトーラス。
  • 向き付け可能な曲面と、その面積形式。2 次元では、シンプレクティック形式とは面積形式のことである。
  • 多様体 $Q$ の余接束 $T^*Q$。古典力学の相空間にあたる。
  • Kähler 多様体。複素射影空間とその複素部分多様体を含む(Kähler多様体)。
    奇数次元で対応する対象が接触多様体であり(接触多様体)、シンプレクティック幾何学と並んで研究される。

シンプレクティック幾何学の主な問い

  1. 局所的な形。 Darboux の定理により、どのシンプレクティック多様体も各点の近くでは $(\mathbb{R}^{2n},\omega_0)$ と同じ形をしている(シンプレクティック多様体 の定理「Darboux の定理」)。したがって、2 つのシンプレクティック多様体の違いは大域的な性質にしか現れない。
  2. 存在。 どの多様体がシンプレクティック形式をもつかを問う。閉シンプレクティック多様体では $\omega^k$($1\le k\le n$)は完全形式でなく、とくに 2 次の de Rham コホモロジーが消えないので、$n\ge2$ の球面 $S^{2n}$ はシンプレクティック形式をもたない(シンプレクティック多様体 の命題「閉シンプレクティック多様体のコホモロジー」と系「球面のシンプレクティック構造」)。
  3. 埋め込みと硬さ。 1 つの領域を別の領域にシンプレクティックに埋め込めるかを問う。シンプレクティック同相写像は体積を保つが、体積が足りても埋め込めないことがある。これが Gromov の非圧縮定理で、下の代表例はその線形版である。
  4. 周期軌道と固定点。 Hamilton の流れの周期軌道や、Hamilton 同相写像の固定点の個数を、多様体の位相で下から評価する。閉シンプレクティック多様体についての Arnold 予想と、それを解く道具である Floer ホモロジーがこの型である(Floer理論)。
  5. Lagrange 部分多様体。 次元が半分で $\omega$ が $0$ になる部分多様体を調べる。関数の微分のグラフや余法束がその例で、Lagrange 部分多様体どうしの交わりの個数も大域的な問いになる(Lagrange部分多様体)。

代表的な定理

シンプレクティック幾何学の基本となる定理を、それを扱う記事とともに挙げる。

定理主張の要点記事
線形シンプレクティック形式の標準形基底をうまくとると $\sum_ie^i\wedge f^i$ になり、次元は偶数シンプレクティック多様体
Darboux の定理各点のまわりに $\omega=\sum_idx_i\wedge dy_i$ となる座標があるシンプレクティック多様体
Liouville の定理Hamilton の流れは $\omega$ と体積を保つシンプレクティック多様体
閉シンプレクティック多様体のコホモロジー$\omega^k$ は完全形式でないシンプレクティック多様体
閉 1 次形式のグラフ1 次形式のグラフが Lagrange 部分多様体であることと、閉形式であることは同値シンプレクティック多様体
母関数による局所表示Lagrange 部分多様体は局所的に関数の微分のグラフLagrange部分多様体
接触形式の Darboux の定理接触形式は局所的に標準形接触多様体
Floer の定理と Arnold 予想シンプレクティック非球面的な閉多様体では、非退化な Hamilton 同相写像の、可縮な 1 周期軌道に対応する固定点の個数は $\mathbb{Z}/2$ 係数のベッチ数の和以上Floer理論
Gromov の非圧縮定理半径 $r$ の球は、半径 $R < r$ の円柱にシンプレクティックに埋め込めないこの記事(線形の場合を証明)

代表例:線形の非圧縮定理

シンプレクティック行列

$\mathbb{R}^{2n}$ の標準内積を $\langle\,\cdot\,,\cdot\,\rangle$、ノルムを $\lvert\cdot\rvert$ とし、$a\in\mathbb{R}^{2n}$ を $a=(a_x,a_y)$($a_x,a_y\in\mathbb{R}^n$ は $x$ 座標と $y$ 座標)と書く。線形写像 $J_0(a_x,a_y):=(-a_y,a_x)$ を考えると
$$ \omega_0(a,b)=\sum_{i=1}^n\bigl(a_{x_i}b_{y_i}-a_{y_i}b_{x_i}\bigr)=\langle J_0a,b\rangle $$
である。$J_0$ は直交行列で、${}^tJ_0=-J_0$、$J_0^2=-I$ を満たす。

シンプレクティック行列

$2n$ 次の実正方行列 $\Psi$ が、すべての $a,b\in\mathbb{R}^{2n}$ について $\omega_0(\Psi a,\Psi b)=\omega_0(a,b)$ を満たすとき、$\Psi$ をシンプレクティック行列という。これは ${}^t\Psi J_0\Psi=J_0$ と同値である。シンプレクティック行列の全体を $\mathrm{Sp}(2n,\mathbb{R})$ と書く。

シンプレクティック行列の基本性質

$\Psi\in\mathrm{Sp}(2n,\mathbb{R})$ とする。このとき $\det\Psi=1$ であり、$\Psi^{-1}$ と ${}^t\Psi$ もシンプレクティック行列である。

$\omega_0^n=n!\,dx_1\wedge dy_1\wedge\dots\wedge dx_n\wedge dy_n$ は $\mathbb{R}^{2n}$ の $0$ でない交代 $2n$ 重線形形式である(シンプレクティック多様体 の定理「線形シンプレクティック形式の標準形」の 3 の証明)。交代 $2n$ 重線形形式 $\mu$ と行列 $\Psi$ について $\mu(\Psi a_1,\dots,\Psi a_{2n})=\det\Psi\cdot\mu(a_1,\dots,a_{2n})$ である(行列式)。$\Psi$ が $\omega_0$ を保つので $\omega_0^n$ も保ち、$\det\Psi=1$ を得る。とくに $\Psi$ は可逆で、$\omega_0(\Psi^{-1}a,\Psi^{-1}b)=\omega_0(\Psi\Psi^{-1}a,\Psi\Psi^{-1}b)=\omega_0(a,b)$ なので $\Psi^{-1}$ もシンプレクティック行列である。$J_0^{-1}=-J_0$ を使うと、${}^t\Psi J_0\Psi=J_0$ から $\Psi^{-1}=-J_0\,{}^t\Psi J_0$ であり、これを $\Psi\Psi^{-1}=I$ に代入すると $\Psi J_0\,{}^t\Psi=-J_0^{-1}=J_0$ となる。これは ${}^t\Psi$ がシンプレクティック行列であることを意味する。$\square$

$n=1$ のときは、$2$ 次の行列 $\Psi$ について ${}^t\Psi J_0\Psi=(\det\Psi)J_0$ なので、シンプレクティック行列とは行列式が $1$ の行列、すなわち面積を保つ線形写像のことである。$n\ge2$ では、行列式が $1$ でもシンプレクティック行列でないものがある(下の反例の表の (a) の行)。

定理と証明

$r,R>0$ について、閉球と、$(x_1,y_1)$ 平面の円板の上の閉円柱を
$$ B(r):=\{z\in\mathbb{R}^{2n}\mid\lvert z\rvert\le r\},\qquad Z(R):=\{z\in\mathbb{R}^{2n}\mid x_1(z)^2+y_1(z)^2\le R^2\} $$
とおく。ここで $x_1(z)$、$y_1(z)$ は $z$ の $x_1$ 座標と $y_1$ 座標である。$n\ge2$ なら $Z(R)$ の体積は無限大なので、体積を保つ写像で $B(r)$ を $Z(R)$ に入れることには、体積からの妨げはない。

線形の非圧縮定理

$\Psi\in\mathrm{Sp}(2n,\mathbb{R})$、$c\in\mathbb{R}^{2n}$ とし、アフィン写像 $\Phi(z):=\Psi z+c$ が $\Phi(B(r))\subset Z(R)$ を満たすとする。このとき $r\le R$ である。

証明の考え方は、$\Phi$ を $(x_1,y_1)$ 平面へ射影した線形写像 $L$ が、ある方向の長さを $1$ 倍以上に伸ばすことを示すことである。そのために、$L$ を決める 2 つのベクトル $u,v$ について $\omega_0(u,v)=1$ が成り立つことを使う。$\omega_0(u,v)=\langle J_0u,v\rangle$ なので、$u$ と $v$ の両方が短いことはありえない。

段 1:射影を内積で書く。 $x_1$ 座標と $y_1$ 座標の方向の標準基底ベクトルを $e,f$ とする。$u:={}^t\Psi e$、$v:={}^t\Psi f$ とおくと、$x_1(\Psi z)=\langle e,\Psi z\rangle=\langle u,z\rangle$、$y_1(\Psi z)=\langle v,z\rangle$ である。そこで線形写像 $L\colon\mathbb{R}^{2n}\to\mathbb{R}^2$ を $L(z):=(\langle u,z\rangle,\langle v,z\rangle)$ と定め、$c$ の $(x_1,y_1)$ 成分を $c'\in\mathbb{R}^2$ とすると、$\Phi(z)$ の $(x_1,y_1)$ 成分は $L(z)+c'$ である。
段 2:$\omega_0(u,v)=1$。 lem-sg-matrix により ${}^t\Psi$ はシンプレクティック行列なので、$\omega_0(u,v)=\omega_0(e,f)=1$ である。とくに $u\ne0$ である。
段 3:長さ $r$ のベクトル $z$ で $\lvert L(z)\rvert\ge r$ となるものがある。 $\lvert u\rvert\ge1$ のときは $z:=ru/\lvert u\rvert$ とおくと、$\langle u,z\rangle=r\lvert u\rvert\ge r$ なので $\lvert L(z)\rvert\ge r$ である。$\lvert u\rvert<1$ のときは、$v$ から $u$ の方向の成分を除いた
$$ v':=v-\frac{\langle u,v\rangle}{\lvert u\rvert^2}\,u $$
を考える。$\langle u,v'\rangle=0$ であり、$\omega_0(u,u)=0$ なので $\omega_0(u,v')=\omega_0(u,v)=1$ である。Cauchy–Schwarz の不等式と $\lvert J_0u\rvert=\lvert u\rvert$ から
$$ 1=\langle J_0u,v'\rangle\le\lvert u\rvert\,\lvert v'\rvert $$
なので $\lvert v'\rvert\ge1/\lvert u\rvert>1$ である。$z:=rv'/\lvert v'\rvert$ とおくと $\langle u,z\rangle=0$、また $v=v'+tu$($t$ は実数)と $\langle u,v'\rangle=0$ から $\langle v,v'\rangle=\lvert v'\rvert^2$ なので、$\langle v,z\rangle=r\lvert v'\rvert>r$ である。よって $\lvert L(z)\rvert\ge r$ である。
段 4:円柱に入らない。 段 3 の $z$ について、$\pm z\in B(r)$ なので $\Phi(\pm z)\in Z(R)$、すなわち $\lvert c'+L(z)\rvert\le R$ と $\lvert c'-L(z)\rvert\le R$ が成り立つ。平行四辺形の等式から
$$ 2\lvert L(z)\rvert^2\le\lvert c'+L(z)\rvert^2+\lvert c'-L(z)\rvert^2\le2R^2 $$
であり、$r\le\lvert L(z)\rvert\le R$ を得る。$\square$

この定理は、線形のシンプレクティック写像では球を細い円柱に押し込めないことを示している。Gromov は 1985 年に、線形とは限らないシンプレクティック埋め込みについても同じことが成り立つことを証明した。

Gromov の非圧縮定理

$0 < R < r$ とする。$\mathbb{R}^{2n}$ の半径 $r$ の開球 $\{\lvert z\rvert < r\}$ から、開円柱 $\{x_1^2+y_1^2 < R^2\}$ への、$\omega_0$ に関するシンプレクティック埋め込みは存在しない。

出典と証明の方法

この記事では thm-sg-gromov を証明しない。AS17 Theorem 5.5(p. 38)は、球を $\{\pi\sum_j\lvert z_j\rvert^2 < A\}$、円柱を $\{\pi\lvert z_1\rvert^2 < a\}$($z_j=x_j+iy_j$)と書いた形で、$0 < a < A$ ならば埋め込みがないことを述べている。半径で書き直したものが上の主張である。同書 §6.5(pp. 48–49)は Floer ホモロジーの一種(シンプレクティックホモロジー)を使う証明の筋を述べ、Gromov の元の証明は擬正則曲線による。線形の場合には、thm-sg-linear-nonsqueezing のように線形代数だけで証明できる。

円柱に入る体積保存の行列

$n=2$、$0 < \varepsilon < 1$ とし、
$$ A(x_1,x_2,y_1,y_2):=(\varepsilon x_1,\ \varepsilon^{-1}x_2,\ \varepsilon y_1,\ \varepsilon^{-1}y_2) $$
とおく。$\det A=\varepsilon\cdot\varepsilon^{-1}\cdot\varepsilon\cdot\varepsilon^{-1}=1$ なので $A$ は体積を保つ。一方 $x_1(Az)^2+y_1(Az)^2=\varepsilon^2(x_1^2+y_1^2)\le\varepsilon^2r^2$ なので $A(B(r))\subset Z(\varepsilon r)$ であり、$\varepsilon r < r$ である。thm-sg-linear-nonsqueezing により、$A$ はシンプレクティック行列でない。実際、$\omega_0(Ae,Af)=\varepsilon^2\ne1=\omega_0(e,f)$ である。

反例:仮定を外すと崩れること

thm-sg-linear-nonsqueezing の仮定は、(a) $\Psi$ がシンプレクティック行列であること、(b) 円柱の底の円板が $(x_1,y_1)$ 平面、すなわち $\omega_0$ が $0$ にならない平面にあること、である。1 つずつ外すと、結論 $r\le R$ が成り立たなくなる。以下 $n=2$、$0 < \varepsilon < 1$ とする。

外す条件反例成り立たなくなること
(a) シンプレクティック行列(行列式が $1$ だけにする)ex-sg-squeeze の $A(x_1,x_2,y_1,y_2)=(\varepsilon x_1,\varepsilon^{-1}x_2,\varepsilon y_1,\varepsilon^{-1}y_2)$$A(B(r))\subset Z(\varepsilon r)$ で、半径が $r$ より小さい円柱に入る
(b) 円柱の底が $(x_1,y_1)$ 平面($(x_1,x_2)$ 平面にする)シンプレクティック行列 $\Psi(x_1,x_2,y_1,y_2)=(\varepsilon x_1,\varepsilon x_2,\varepsilon^{-1}y_1,\varepsilon^{-1}y_2)$ と、円柱 $\{x_1^2+x_2^2\le R^2\}$$\Psi(B(r))\subset\{x_1^2+x_2^2\le\varepsilon^2r^2\}$ で、半径 $\varepsilon r < r$ の円柱に入る
表の反例の確かめ

(a):ex-sg-squeeze で確かめた。
(b):$\Psi$ は $x_i$ を $\varepsilon$ 倍、$y_i$ を $\varepsilon^{-1}$ 倍するので、$dx_i\wedge dy_i$ の値は $\varepsilon\cdot\varepsilon^{-1}=1$ 倍で変わらず、$\Psi$ はシンプレクティック行列である。$z\in B(r)$ なら $x_1(\Psi z)^2+x_2(\Psi z)^2=\varepsilon^2(x_1^2+x_2^2)\le\varepsilon^2r^2$ である。$(x_1,x_2)$ 平面のベクトル $a,b$ はどちらも $y$ 座標が $0$ なので $\omega_0(a,b)=0$ であり、この平面の上では $\omega_0$ が $0$ になる(Lagrange 部分空間)。証明の段 2 の $\omega_0(e,f)=1$ が、この場合には $0$ になる。

非圧縮定理が測っているのは、球の「$\omega_0$ が $0$ にならない 2 次元の方向の太さ」である。この量を一般の領域に広げ、シンプレクティック埋め込みがあれば大小が保たれるようにした不変量をシンプレクティック容量という。AS17 §6.5 の (6.8)(p. 49)は、Floer ホモロジーからそのような量を作り、それを楕円体で計算して thm-sg-gromov を導いている。

学ぶ順の道筋

シンプレクティック幾何学の基礎は、次の順に記事をたどると学べる。各段の記事は、前の段の記事の定義と定理を使う。

  1. 準備:線形写像・行列式・双線形形式、可微分多様体・ベクトル場。
  2. 微分形式:微分形式 → 外微分 → Lie微分 → Stokesの定理。
  3. シンプレクティック多様体:シンプレクティック多様体(線形代数の標準形・Darboux の定理・Hamilton ベクトル場)→ Lagrange部分多様体 → 接触多様体。
  4. 複素幾何との関係:概複素構造 → Kähler形式 → Kähler多様体。
  5. 大域的な理論:Morse理論 → Floer理論。
  6. その先:D加群(特性多様体の包合性)、Lie群。
    この記事の代表例の定理は 1 の線形代数だけで証明でき、2・3 を学ぶ前に読める。

歴史

Lagrange と Hamilton は 19 世紀前半に、力学の運動方程式を相空間の上の方程式として書き直した。Darboux は 1882 年に、今日 Darboux の定理とよばれる標準形を示した。1960 年代に Arnold が Hamilton 同相写像の固定点についての予想を述べ、1970 年代に Weinstein が Lagrange 部分多様体を中心にした理論を整えた。1985 年に Gromov は擬正則曲線を導入して非圧縮定理を証明し、1980 年代の終わりに Floer が Floer ホモロジーを作って Arnold 予想の多くの場合を解いた。これらによって、シンプレクティック幾何学は大域的な不変量を研究する分野(シンプレクティック位相幾何学)として大きく発展した。

関連項目

参考文献

[1]
Alberto Abbondandolo, Felix Schlenk, Floer homologies, with applications, arXiv:1709.00297, arXiv 版 v1(2017)。Theorem 5.5(非圧縮定理、p. 38)、§6.5 と (6.8)(pp. 48–49)

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