種数

同義語:genus

概要

種数(genus)とは、コンパクトで連結なリーマン面の基礎にある向き付き閉曲面がもつ取っ手の数を表す0以上の整数である。Euler標数と $\chi=2-2g$ で結びつき、Riemann–Hurwitzの公式を通じて写像の次数と分岐から計算できる。滑らかな射影複素曲線では正則1形式の次元および算術種数と一致する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: リーマン面, 位相多様体, Euler標数, Riemann–Hurwitzの公式

種数が測るもの

種数は、閉じた向き付き曲面が位相的にもつ「取っ手」の数である。球面は種数0、トーラスは種数1であり、取っ手を一つ増やすごとに種数が1増える。複素構造の細部ではなく、基礎にある実2次元曲面の位相型を測る不変量である。
コンパクトで連結なリーマン面は、標準的な向き付き閉曲面のいずれかと同相である。種数はこの分類の番号であり、Euler標数との等式によって計算できる。

定義と射程

0以上の整数 $g$ に対し、$g$ 個のトーラスを連結和して得られる向き付き閉曲面を $\Sigma_g$ と書く。$\Sigma_0=S^2$ であり、$\Sigma_1=S^1\times S^1$ である。

種数

$X$ をコンパクトで連結なリーマン面とする。基礎となる実2次元多様体が $\Sigma_g$ と同相になる一意な0以上の整数 $g$ を、$X$ の種数(genus)といい、$g(X)$ と書く。

リーマン面は複素構造から標準的な向きをもつ。したがって向き付き閉曲面の分類定理を適用できる。本記事では一貫して「コンパクトで連結なリーマン面の種数」を扱う。境界つき曲面、非コンパクト曲面、3次元多様体のHeegaard種数、およびグラフの種数は別の定義である。

Euler標数による特徴づけ

標準曲面のEuler標数

$g$ が0以上の整数ならば、
$$ \chi(\Sigma_g)=2-2g $$
である。

$g=0$ のときは $\Sigma_0=S^2$ である。球面には0次元胞体1個と2次元胞体1個からなるCW分解があるので、$\chi(S^2)=1+1=2$ である。
$g\ge1$ のとき、$\Sigma_g$ は $4g$ 角形の辺を
$$ a_1b_1a_1^{-1}b_1^{-1}\cdots a_gb_ga_g^{-1}b_g^{-1} $$
の順で貼り合わせて作れる。貼り合わせ後に全頂点は一つ0次元胞体になり、各 $a_i,b_i$ が一つ1次元胞体を与え、角形の内部が一つ2次元胞体を与える。よって0、1、2次元胞体の個数はそれぞれ $1,2g,1$ であり、
$$ \chi(\Sigma_g)=1-2g+1=2-2g $$
を得る。CW分解から得られるEuler標数が分解の選びによらないことは Hat02 §2.2のEuler標数の一般性質による。

種数のEuler標数による式

$X$ がコンパクトで連結なリーマン面ならば、
$$ g(X)=1-\frac{\chi(X)}2 $$
である。とくに $\chi(X)$ は2以下の偶数である。

定義により $X$ は $\Sigma_{g(X)}$ と同相である。Euler標数は同相不変量だから、直前の命題を用いて
$$ \chi(X)=\chi(\Sigma_{g(X)})=2-2g(X) $$
を得る。これを $g(X)$ について解けば主張の式になる。

種数の一意性

$\Sigma_g$ と $\Sigma_h$ が同相ならば $g=h$ である。したがって種数は同相型だけから一意に定まる。

$\Sigma_g\cong\Sigma_h$ ならばEuler標数は等しい。したがって
$$ 2-2g=\chi(\Sigma_g)=\chi(\Sigma_h)=2-2h $$
であり、$g=h$ を得る。

基本例

Riemann球面

Riemann球面 $\mathbb P^1(\mathbb C)$ は位相的に $S^2=\Sigma_0$ である。したがって
$$ g\bigl(\mathbb P^1(\mathbb C)\bigr)=0, \qquad \chi\bigl(\mathbb P^1(\mathbb C)\bigr)=2 $$
である。

複素トーラス

$\Lambda\subset\mathbb C$ を格子とすると、複素トーラス $\mathbb C/\Lambda$ は位相的に $S^1\times S^1=\Sigma_1$ である。したがって
$$ g(\mathbb C/\Lambda)=1, \qquad \chi(\mathbb C/\Lambda)=0 $$
である。格子が異なる二つの複素トーラスは、種数がどちら1でも双正則とは限らない。これは種数が複素構造の分類ではなく位相型の分類であることを示す。

超楕円曲線

$2g+2$ 個の相異な根をもつ多項式 $P(x)$ と、アフィン方程式
$$ y^2=P(x) $$
から得られる滑らかな射影複素曲線 $X$ を考える。$x$ 座標は次数2の正則写像 $X\to\mathbb P^1(\mathbb C)$ を定め、$2g+2$ 個の分岐点はいずれも局所分岐指数2をもつ。Riemann–Hurwitzの公式から
$$ 2g(X)-2=2(-2)+(2g+2)=2g-2 $$
となるので $g(X)=g$ である。構成と無限遠点の扱いは Mir95 Chapter IIを参照。

Riemann–Hurwitzの公式との関係

$f\colon X\to Y$ をコンパクトで連結なリーマン面の間の次数 $d$ の非定数正則写像とする。$x\in X$ での局所分岐指数を $e_x(f)$ とすると、Riemann–Hurwitzの公式 は
$$ 2g(X)-2=d\bigl(2g(Y)-2\bigr)+\sum_{x\in X}\bigl(e_x(f)-1\bigr) $$
を与える。この式で種数は、写像の次数と分岐の総量を通じて結びつく。
分岐点と分岐値を混同してはならない。分岐点は定義域 $X$ の点であり、分岐値はその像として $Y$ にある。$Y$ の三角形分割を引き戻して公式を証明するとき、頂点に含めるのは分岐値の方である。さらに、非定数有理型関数 $X\to\mathbb P^1$ の存在は自明ではなく、Riemann–Rochの定理から得られる。本記事では、これらを仮定なしに使って種数を定義しない。

非分岐被覆と種数

$f\colon X\to Y$ が次数 $d$ の非分岐被覆ならば、
$$ g(X)-1=d\bigl(g(Y)-1\bigr) $$
である。とくにRiemann球面は、次数2以上の連結な非分岐被覆をもたない。

非分岐ならば全ての $x\in X$ で $e_x(f)=1$ である。Riemann–Hurwitzの公式の和の項は0になり、
$$ 2g(X)-2=d\bigl(2g(Y)-2\bigr) $$
を2で割れば最初の式を得る。$Y=\mathbb P^1$ ならば $g(Y)=0$ なので $g(X)=1-d$ となる。$d\ge2$ ならば右辺は負であり、種数が0以上であることに反する。

代数曲線の種数

$C$ を $\mathbb C$ 上の滑らかで射影的かつ幾何学的に連結な曲線とする。その複素点 $C(\mathbb C)$ はコンパクトなリーマン面になり、次の三つの数は一致する。

  • $C(\mathbb C)$ の位相的な種数。
  • 正則1形式の空間の次元 $\dim_{\mathbb C}H^0(C,\Omega_C^1)$。
  • 算術種数 $p_a(C):=1-\chi(C,\mathcal O_C)$。
    この一致にはRiemann–Rochの定理などが使われる(Mir95 Chapter II)。一方、特異曲線では用語を分ける必要がある。幾何種数は正規化 $\widetilde C$ の滑らかな曲線としての種数であり、算術種数と一致するとは限らない。
反例:特異曲線の算術種数と幾何種数

射影平面上の節点三次曲線の算術種数は1であるが、その正規化は $\mathbb P^1$ であるため幾何種数は0である。したがって「代数曲線では算術種数と幾何種数が常に等しい」という含意は、滑らかさを外すと成り立たない。

似た数値との区別

境界成分がある場合

連結でコンパクトな向き付き曲面が $b$ 個の境界成分をもつとき、Euler標数は
$$ \chi=2-2g-b $$
である。例えば三つ穴あき球面は $(g,b)=(0,3)$、一つ穴あきトーラスは $(g,b)=(1,1)$ であり、どちらも $\chi=-1$ である。よって境界を許すと、Euler標数だけから種数は決まらない。閉曲面では $b=0$ だから、先の式 $\chi=2-2g$ に戻る。

写像の次数と種数

種数は曲面の不変量であり、写像の次数ではない。例えば $z\mapsto z^d$ はRiemann球面から自身への次数 $d$ の写像だが、定義域と終域の種数はどちら0である。「写像の次数が大きいほど曲面の種数が大きい」という含意は成り立たない。

非コンパクト曲面にもより一般的な分類理論の中で種数を割り当てる流儀はある。しかし、端や境界成分などの追加データが必要であり、コンパクト閉曲面の種数だけをそのまま適用することはできない。

関連項目

参考文献

[1]
Allen Hatcher, Algebraic Topology, Cambridge University Press, 2002, Chapter 0および§1.2(向き付き閉曲面のCW分解)、§2.2(Euler標数)

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