部分対象分類子(subobject classifier)は、圏の各部分対象を真理値対象への特性射として一意に表す対象である。集合の圏では真理値対象は $\{0,1\}$、前層の圏では各対象上の篩の集合となる。部分対象と特性射の自然な対応、分類子の一意性、前層圏での構成を証明し、群の圏には分類子が存在しないことを示す。
前提知識: 圏, 終対象, モノ射, 引き戻し, 部分対象, 前層, 米田の補題, 篩(圏論)
集合 $X$ の部分集合 $A\subset X$ は、その要素かどうかを $0,1$ で答える特性関数 $\chi_A\colon X\to\{0,1\}$ で表せる。部分対象分類子は、この表現を一般の圏に移したものである。以下、$\mathcal E$ は終対象 $1$ と引き戻しをもつ局所小圏とする。射 $m\colon A\to X$ がモノ射であるとは、任意の射 $a,b\colon T\to A$ について $m\circ a=m\circ b$ なら $a=b$ となることをいい、このとき $m\colon A\rightarrowtail X$ と書く。
$\mathcal E$ の 部分対象分類子(subobject classifier)とは、対象 $\Omega$ と射 $\mathrm{true}\colon1\to\Omega$ の組であって、任意のモノ射 $m\colon A\rightarrowtail X$ に対し、次の正方形が引き戻しになるような射 $\chi_m\colon X\to\Omega$ がただ 1 つ存在するものをいう。
$$
\begin{array}{ccc}
A&\longrightarrow&1\\
\big\downarrow m&&\big\downarrow\mathrm{true}\\
X&\xrightarrow{\chi_m}&\Omega.
\end{array}
$$
$\chi_m$ を $m$ の 特性射(characteristic morphism)という。大域元 $1\to\Omega$(より一般には一般化元 $X\to\Omega$)は、集合の圏の $0,1$ を一般化した真理値として振る舞う。MM92 I §3–4;J77 1章 §1.1。
同じ $X$ への 2 つのモノ射 $m\colon A\rightarrowtail X$、$n\colon B\rightarrowtail X$ が同じ部分対象を表すとは、$n\circ u=m$ を満たす同型 $u\colon A\to B$ があることをいう。この同値関係によるモノ射の同値類を $X$ の部分対象といい、その全体を $\operatorname{Sub}_{\mathcal E}(X)$ と書く。分類子の定義は、$X$ の部分対象と $X\to\Omega$ の射を 1 対 1 に対応させる(prop-subobject-classifier-correspondence)。$\mathcal E$ は局所小なので $\operatorname{Hom}_{\mathcal E}(X,\Omega)$ は集合であり、この対応により $\operatorname{Sub}_{\mathcal E}(X)$ も集合になる。
終対象 $1$ からの射は常にモノ射である。実際、$a,b\colon T\to1$ は終対象の性質でともに一意の射だから、$\mathrm{true}\circ a=\mathrm{true}\circ b$ なら $a=b$ である。したがって $\mathrm{true}$ 自身も部分対象を表す。
集合では「$x\in A$」を「$\chi_A(x)=1$」と言い換える。一般の圏では要素 $x$ がなくても、$A$ を $X$ へのモノ射として表し、$\chi_m$ に沿う $\mathrm{true}$ の引き戻しで「真となる部分」を取り戻せる。分類子は、部分対象の情報を 1 個の対象 $\Omega$ への射として格納する装置である。$\Omega$ が存在するときの真理値は必ず 2 個とは限らない。前層の圏では、各対象上の篩(圏論)が真理値になる(thm-subobject-classifier-presheaf)。
$\mathbf{Set}$ では $\Omega=\{0,1\}$、$1=\{*\}$、$\mathrm{true}(*)=1$ とする。包含 $A\subset X$ に対して
$$
\chi_A(x)=\begin{cases}1&x\in A,\\0&x\notin A\end{cases}
$$
とおけば、$\chi_A^{-1}(\{1\})=A$ であり、上の正方形は引き戻しである。この条件を満たす関数は各 $x$ の値が指定されるので一意である。$\mathbf{FinSet}$ でも同じ $\Omega$ が有限集合なので、同じ議論で部分対象分類子になる。MM92 I §3–4。
$\mathbf{Set}\times\mathbf{Set}$ では、対象は集合の対 $(X,Y)$、射は写像の対であり、引き戻しは各成分で計算する。したがって $(\{0,1\},\{0,1\})$ が部分対象分類子である。部分対象 $(A\subset X,B\subset Y)$ の特性射は $(\chi_A,\chi_B)$ である。この例の真理値は対 $(0,0),(0,1),(1,0),(1,1)$ の 4 個ある。MM92 I §4。
群と群準同型の圏 $\mathbf{Grp}$ は終対象(自明群)と引き戻しをもつ。実際、$\varphi\colon G_1\to K$、$\psi\colon G_2\to K$ の引き戻しは、集合のファイバー積 $G_1\times_KG_2=\{(g_1,g_2)\mid\varphi(g_1)=\psi(g_2)\}$ に成分ごとの演算を入れた群である。それでも $\mathbf{Grp}$ には部分対象分類子がない。部分群の包含は単射準同型なのでモノ射である。仮に $(\Omega,\mathrm{true})$ があれば、終対象 $1$ は自明群であり、$\mathrm{true}\colon1\to\Omega$ は $\Omega$ の単位元 $e$ への写像である。任意の部分群 $H\subset G$ が特性射 $\chi_H\colon G\to\Omega$ で分類されるなら、上の引き戻しの作り方から $H=\chi_H^{-1}(e)=\ker\chi_H$ となり、$H$ は正規部分群(すべての $g\in G$ について $gHg^{-1}=H$ を満たす部分群)でなければならない。しかし対称群 $S_3$ の 1 つの互換が生成する位数 $2$ の部分群は正規でない。よってそのような $\Omega$ は存在しない。この反例は「終対象と引き戻しがあれば部分対象分類子もある」という含意を破る。
部分対象分類子 $(\Omega,\mathrm{true})$ をもつ圏では、任意の対象 $X$ について
$$
\operatorname{Sub}_{\mathcal E}(X)\cong\operatorname{Hom}_{\mathcal E}(X,\Omega)
$$
である。$f\colon Y\to X$ に沿う部分対象の引き戻しは、特性射の合成 $\chi_m\circ f$ に対応する。MM92 I §3。
部分対象 $[m\colon A\rightarrowtail X]$ を一意な $\chi_m$ に送る。これは代表の取り方によらない。実際、$m'=m\circ u$($u\colon A'\to A$ は同型)なら、$m$ の正方形の左上の $A$ を同型 $u$ で $A'$ に取り替えた正方形も引き戻しであり、$\chi_m$ は $m'$ も分類するので、一意性から $\chi_{m'}=\chi_m$ である。逆向きには射 $\chi\colon X\to\Omega$ を $\mathrm{true}$ の $\chi$ に沿う引き戻し $A_\chi\rightarrowtail X$ に送る。この引き戻しの特性射は、分類子の一意性から $\chi$ そのものである。一方 $m$ はその特性射による引き戻しなので $A_{\chi_m}\rightarrowtail X$ と同じ部分対象を表す。よって両構成は互いに逆である。$A_\chi$ を $f$ に沿って引き戻したもの(モノ射の引き戻しはモノ射なので $Y$ の部分対象である)は、引き戻しの貼り合わせにより $\mathrm{true}$ の $\chi\circ f$ に沿う引き戻しだから、自然性も従う。$\square$
同じ圏の 2 つの部分対象分類子 $(\Omega,\mathrm{true})$ と $(\Omega',\mathrm{true}')$ は、$\mathrm{true}$ と $\mathrm{true}'$ を対応させる一意な同型 $\Omega\cong\Omega'$ で結ばれる。
$\mathrm{true}'\colon1\rightarrowtail\Omega'$ を $\Omega$ で分類して $f\colon\Omega'\to\Omega$ を得る。同様に $\mathrm{true}$ を $\Omega'$ で分類して $g\colon\Omega\to\Omega'$ を得る。$f\circ g\colon\Omega\to\Omega$ に沿う $\mathrm{true}$ の引き戻しは、まず $f$、次に $g$ に沿って引き戻すことで $\mathrm{true}$ 自身になる。恒等射 $\operatorname{id}_\Omega$ も $\mathrm{true}$ を分類するので、分類射の一意性から $f\circ g=\operatorname{id}_\Omega$ である。同様に $g\circ f=\operatorname{id}_{\Omega'}$。一意性を示す。同型 $h\colon\Omega'\to\Omega$ が $h\circ\mathrm{true}'=\mathrm{true}$ を満たすとする。同型に沿う引き戻しは逆射との合成で与えられるので、$\mathrm{true}$ の $h$ に沿う引き戻しは $h^{-1}\circ\mathrm{true}=\mathrm{true}'$ であり、$h$ は $\mathrm{true}'$ の特性射である。分類射の一意性から $h=f$ となる。$\square$
$\mathcal C$ を小さい圏とし、前層の圏 $\widehat{\mathcal C}=\mathbf{Set}^{\mathcal C^{\mathrm{op}}}$ を考える。前層 $F$ の射 $f\colon V\to U$ による写像 $F(f)\colon F(U)\to F(V)$ を制限と呼び、$F(f)x$ とも書く。
極限は対象ごとに計算される。前層の射 $\alpha\colon P\to R$、$\beta\colon Q\to R$ に対し、各 $U$ で集合のファイバー積 $P(U)\times_{R(U)}Q(U)$ をとり、制限を成分ごとに定めると前層が得られる。前層 $T$ から $P$、$Q$ への射で $\alpha,\beta$ と両立するものが与えられれば、各 $U$ でファイバー積への写像が一意に定まり、成分ごとに見れば自然性も成り立つ。したがってこれが $\widehat{\mathcal C}$ の引き戻しである。同様に、すべての $U$ で 1 点集合をとる前層 $1$ が終対象である。前層の射が同型であることは各成分が全単射であることと同値なので(成分ごとの逆写像は自動的に自然である)、$\widehat{\mathcal C}$ の可換な正方形が引き戻しであることは、各 $U$ での集合の正方形が引き戻しであることと同値である。
モノ射は成分ごとに単射である。各 $m_U$ が単射なら $m$ がモノ射であることは明らかである。逆に $m\colon A\to F$ がモノ射で、$a,b\in A(U)$ が $m_U(a)=m_U(b)$ を満たすとする。米田の補題により $a,b$ は表現可能前層 $h_U=\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(-,U)$ からの射 $\hat a,\hat b\colon h_U\to A$ に対応し、$m\circ\hat a$ と $m\circ\hat b$ はともに $m_U(a)=m_U(b)$ に対応するので等しい。$m$ がモノ射だから $\hat a=\hat b$、すなわち $a=b$ である。ゆえに $m$ の像 $m(A)(U):=m_U(A(U))$ は、自然性により制限で閉じた部分前層であり、$A\to m(A)$ は成分ごとに全単射だから同型である。同じ部分対象を表す 2 つのモノ射は同じ像をもつので、$F$ の部分対象は $F$ の部分前層と 1 対 1 に対応する。したがって部分前層を分類すれば十分である。
真理値の前層。$U$ 上の篩とは、終域が $U$ の射の集まり $S$ で、$f\in S$ なら任意の $g$ について $f\circ g\in S$ となるものである(篩(圏論))。$f\colon V\to U$ に沿う引き戻しを $f^*S:=\{g\colon W\to V\mid f\circ g\in S\}$ で定めると、これは $V$ 上の篩であり、定義から直ちに $\operatorname{id}_U^*S=S$、$(f\circ g)^*S=g^*(f^*S)$、$f^*h_U=h_V$ が成り立つ($h_U$ は $U$ への射全体からなる最大篩)。そこで $\Omega(U)$ を $U$ 上の篩全体の集合とし、制限 $\Omega(f)\colon\Omega(U)\to\Omega(V)$ を $S\mapsto f^*S$ とすれば、前の 2 式により $\Omega$ は前層になり、3 つ目の式により $U\mapsto h_U$ は自然変換 $\mathrm{true}\colon1\to\Omega$ を定める。
上の前層 $\Omega$ と $\mathrm{true}\colon1\to\Omega$ は、$\widehat{\mathcal C}$ の部分対象分類子である。部分前層 $A\subset F$ の特性射は
$$
\chi_{A,U}(x)=\{f\colon V\to U\mid F(f)(x)\in A(V)\}\qquad(x\in F(U))
$$
で与えられる。一般のモノ射 $m\colon A\rightarrowtail F$ の特性射は、その像 $m(A)\subset F$ の特性射である。MM92 I §4。
上で見たとおり、モノ射 $m$ とその像 $m(A)$ は同じ部分対象を表すので、部分前層 $A\subset F$ について示せばよい。
右辺が篩になることを確かめる。$f\colon V\to U$ が右辺に入り、$g\colon W\to V$ なら $F(f\circ g)(x)=F(g)(F(f)(x))\in A(W)$ なので $f\circ g$ も入る。射 $k\colon U'\to U$ による自然性は、$\chi_{A,U'}(F(k)x)$ と $k^*\chi_{A,U}(x)$ の双方で $f\colon V\to U'$ が属する条件が $F(k\circ f)x\in A(V)$ であることから従う。
引き戻しは対象ごとに計算されるので、$\mathrm{true}$ の射 $\psi\colon F\to\Omega$ に沿う引き戻しは、各 $U$ で $\{x\in F(U)\mid\psi_U(x)=h_U\}$ を値とする部分前層である。したがって $\psi$ が $A$ を分類することは、すべての $U$ で
$$
A(U)=\{x\in F(U)\mid\psi_U(x)=h_U\}
$$
となることと同値である。篩 $S$ が最大篩 $h_U$ であることと $\operatorname{id}_U\in S$ は同値である($S$ が $\operatorname{id}_U$ を含めば、任意の $f$ は $\operatorname{id}_U\circ f$ として $S$ に属する)。
存在:$\chi_{A,U}(x)=h_U$ は $\operatorname{id}_U\in\chi_{A,U}(x)$、すなわち $x\in A(U)$ と同値である。よって $\chi_A$ は $A$ を分類する。
一意性:$\psi\colon F\to\Omega$ が $A$ を分類するとし、$f\colon V\to U$ をとる。$f\in\psi_U(x)$ であることは $\operatorname{id}_V\in f^*\psi_U(x)$ と同値であり、自然性から $f^*\psi_U(x)=\psi_V(F(f)x)$ である。これは $\psi_V(F(f)x)=h_V$、さらに上の条件により $F(f)x\in A(V)$ と同値である。ゆえに $\psi_U(x)=\chi_{A,U}(x)$ がすべての $U,x$ で成り立ち、特性射は一意である。$\square$
この例では、真理値は単なる $0,1$ でなく「どの射のもとで真になるか」を記録した篩である。モノイド $M$ を 1 対象圏とみなすと、唯一の対象 $*$ 上の篩は $SM\subset S$ を満たす右イデアル $S\subset M$ であり、$m\in M$ による制限は $S\mapsto\{g\mid mg\in S\}$ である。$M$ が群なら、空でない右イデアルは元 $s$ を含み、任意の $g$ について $g=s(s^{-1}g)\in S$ となるので $S=M$ であり、$\Omega(*)$ は 2 元に戻る。$M$ が群でなければ、右逆をもたない元 $a$ がある(すべての元が右逆をもつなら、$ab=1$、$bc=1$ から $a=a(bc)=(ab)c=c$ となり $ba=1$ なので $M$ は群である)。このとき $aM$ は $a$ を含み $1$ を含まない右イデアルなので、$\Omega(*)$ は $\emptyset$、$aM$、$M$ を含む 3 個以上の元をもち、$\Omega$ は $1+1$(終対象 2 個の余積。余極限も対象ごとに計算され、$*$ での値は 2 元集合)と同型でない。ただし大域元 $1\to\Omega$、すなわちすべての制限で不変な右イデアルは 2 個のこともある。例えば $M=(\mathbb N,+)$ の右イデアルは $\emptyset$ と $n+\mathbb N$($n\in\mathbb N$)であり、$m$ による制限は $n+\mathbb N\mapsto\max(n-m,0)+\mathbb N$ なので、不変なのは $\emptyset$ と $\mathbb N$ だけである。位相空間上の層の圏や一般のトポスの部分対象分類子は トポス の記事に譲る。
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