充満部分圏

同義語:full subcategory

概要

充満部分圏(full subcategory)とは、圏 $\mathcal{C}$ の対象の一部を選び、選んだ対象の間の射として $\mathcal{C}$ の射をすべて残した部分圏であり、対象の集まりだけで決まる。アーベル群の圏が群の圏の中にあるように、射の概念を変えずに対象に条件を課すときに現れ、包含関手は充満忠実で同型を反映する。どの対象も同型を除いて含む充満部分圏(骨格など)の包含は圏同値であり、充満忠実関手は本質的像との圏同値を与える。一方、もとの圏の極限・余極限は、その頂点が部分圏に入るときにしか部分圏の極限・余極限にならない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 圏, 関手, 充満忠実関手

充満部分圏は、圏の対象の一部だけを選び、選んだ対象の間の射はもとの圏の射をすべて残して作る圏である。「アーベル群の圏は群の圏の中にある」「層は前層の特別なものである」のように、ある種類の対象を、射の概念を変えずに大きな圏の中で考えるときの枠組みであり、どの充満部分圏も対象の集まりを選ぶだけで決まる。充満忠実関手の像や、同型な対象を $1$ つにまとめた骨格は充満部分圏として現れ、圏同値を具体的に作る道具にもなる。一方で、もとの圏の極限・余極限は充満部分圏の極限・余極限と一致するとは限らない。

定義

部分圏・充満部分圏

圏 $\mathcal C$ の部分圏(subcategory)$\mathcal A$ とは、対象の集まり $\operatorname{Ob}\mathcal A\subset\operatorname{Ob}\mathcal C$ と、$x,y\in\operatorname{Ob}\mathcal A$ ごとの部分集合 $\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(x,y)\subset\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(x,y)$ の組で、次を満たすものである。
(R1) 各 $x\in\operatorname{Ob}\mathcal A$ について $\mathrm{id}_x\in\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(x,x)$ である。
(R2) $f\in\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(x,y)$、$g\in\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(y,z)$ なら $g\circ f\in\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(x,z)$ である。
$\mathcal A$ は $\mathcal C$ の合成と恒等射によって圏になる。部分圏 $\mathcal A$ が充満部分圏(full subcategory)であるとは、すべての $x,y\in\operatorname{Ob}\mathcal A$ について
$$ \operatorname{Hom}_{\mathcal A}(x,y)=\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(x,y) $$
となることをいう。充満部分圏 $\mathcal A$ が同型で閉じている(strictly full)とは、$x\in\operatorname{Ob}\mathcal A$ と $\mathcal C$ で同型な対象 $y\cong x$ がつねに $\operatorname{Ob}\mathcal A$ に入ることをいう。

充満部分圏は対象の集まりだけで決まる。$\mathcal C$ の対象の集まり $S$ を任意に選び、対象を $S$、$x,y\in S$ の間の射を $\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(x,y)$ 全体とすると、条件 (i)(ii) は自動的に満たされる。これを $S$ の張る充満部分圏といい、$\mathcal C_S$ と書く。充満部分圏 $\mathcal A$ は $\mathcal C_{\operatorname{Ob}\mathcal A}$ に等しいので、$\mathcal C$ の充満部分圏と $\operatorname{Ob}\mathcal C$ の部分的な集まりは $1$ 対 $1$ に対応する(Stacks Tag 001D)。とくに、「アーベル群である」「有限である」のような性質を $1$ つ決めれば、それを満たす対象の張る充満部分圏が決まる。性質が同型で保たれるなら、その充満部分圏は同型で閉じている。
部分圏の包含 $\iota\colon\mathcal A\to\mathcal C$(対象と射をそのまま送る関手)はいつも忠実であり、充満であることは $\mathcal A$ が充満部分圏であることと同じである(後の prop-full-subcategory-inclusion)。「充満」という名前は、この包含関手が充満忠実関手の意味で充満であることに由来する。

例

性質で定まる充満部分圏

アーベル群の圏と群の圏

群と群準同型の圏を $\mathbf{Grp}$、アーベル群と群準同型の圏を $\mathbf{Ab}$ とする。アーベル群 $A,B$ の間の準同型は、群としての準同型と同じものなので $\operatorname{Hom}_{\mathbf{Ab}}(A,B)=\operatorname{Hom}_{\mathbf{Grp}}(A,B)$ であり、$\mathbf{Ab}$ は $\mathbf{Grp}$ の充満部分圏である。アーベル群と同型な群はアーベル群なので、同型で閉じている。

有限集合、Hausdorff 空間、有限次元ベクトル空間

集合と写像の圏 $\mathbf{Set}$ の中で、有限集合の張る充満部分圏 $\mathbf{FinSet}$ を考えることができる。全単射は有限性を保つので同型で閉じている。同様に、位相空間と連続写像の圏 $\mathbf{Top}$ の中の Hausdorff空間 の張る充満部分圏、体 $K$ 上のベクトル空間と線形写像の圏 $\mathbf{Vect}_K$ の中の有限次元ベクトル空間の張る充満部分圏 $\mathbf{Vect}_K^{\mathrm{fd}}$ も、同型で閉じた充満部分圏である(同相写像は Hausdorff 性を、線形同型は次元を保つ)。

層と前層、準連接層と加群の層

位相空間 $X$ 上の集合の前層と前層の射の圏の中で、層の張る充満部分圏が層の圏である。層の射は前層としての射と定義されるので、充満であることは定義に含まれている。同様に、スキーム $X$ 上の $\mathcal O_X$ 加群の圏の中で、準連接層の張る充満部分圏が準連接層の圏である。このように「射の概念は大きい圏のものをそのまま使い、対象に条件を課す」ときに充満部分圏が現れる。

性質で定まらない充満部分圏

数ベクトル空間だけの圏

$\mathbf{Vect}_K^{\mathrm{fd}}$ の中で、対象 $K^n$($n\in\mathbb N$)だけの張る充満部分圏 $\mathcal K$ を考える。$\operatorname{Hom}_{\mathcal K}(K^n,K^m)$ は線形写像 $K^n\to K^m$ 全体であり、$m\times n$ 行列全体と $1$ 対 $1$ に対応する。$\mathcal K$ は同型で閉じていない。たとえば $1$ 次以下の実係数多項式の空間は $\mathbb R^2$ と同型だが $\mathbb R^n$ のどれとも等しくないので、$K=\mathbb R$ のとき $\mathcal K$ に入らない。それでも、どの有限次元ベクトル空間もある $K^n$ と同型なので、$\mathcal K$ の包含は圏同値になる(後の prop-full-subcategory-representatives)。

充満でない部分圏

単位元をもつ環

乗法の単位元を仮定しない環と、加法と乗法を保つ写像(単位元を保つとは限らない)の圏を $\mathbf{Rng}$ とする。単位元をもつ環と、単位元を保つ環準同型の圏 $\mathbf{Ring}$ は $\mathbf{Rng}$ の部分圏である(恒等写像は単位元を保ち、単位元を保つ写像の合成も単位元を保つ)。しかし充満ではない:零写像 $\mathbb Z\to\mathbb Z$ は加法と乗法を保つので $\mathbf{Rng}$ の射だが、$1\mapsto0$ なので $\mathbf{Ring}$ の射でない(Rie16 Example 1.6.15 (v))。一方、可換環の圏 $\mathbf{CRing}$ は $\mathbf{Ring}$ の充満部分圏である。

可逆な射だけを残す

$\mathbf{Vect}_K$ の対象をすべて残し、射を線形同型だけにすると部分圏になる(恒等写像は同型で、同型の合成は同型)。対象はすべて残っているが、$0$ でない空間 $V$ の零写像 $V\to V$ が落ちるので充満でない。どの圏でも、対象をすべて残して同型射だけを射とすると部分圏になり(Rie16 Lemma 1.1.14)、これはすべての射が同型射である圏、つまり亜群の典型例である。

モノイドの部分モノイド

モノイド $M$ を、対象が $1$ つで射の集合が $M$、合成が $M$ の積である圏とみなす。単位元を含み積で閉じた部分集合 $M'\subset M$(部分モノイド)は部分圏を与え、それが充満であるのは $M'=M$ のときに限る。対象が $1$ つの圏では、充満部分圏は空の圏と自分自身だけである。

これらの例を、部分圏の種類で比べると次のようになる。

部分圏充満か同型で閉じているか
$\mathbf{Ab}\subset\mathbf{Grp}$、$\mathbf{FinSet}\subset\mathbf{Set}$、層 $\subset$ 前層充満閉じている
$\{K^n\}$ の張る $\mathcal K\subset\mathbf{Vect}_K^{\mathrm{fd}}$充満閉じていない
$\mathbf{Ring}\subset\mathbf{Rng}$充満でない(充満部分圏でないので問わない)
線形同型だけの部分圏 $\subset\mathbf{Vect}_K$充満でない(対象はすべて残る)(同上)

包含関手と充満関手の像

包含関手と充満関手の像
  1. 部分圏 $\mathcal A\subset\mathcal C$ の包含関手 $\iota\colon\mathcal A\to\mathcal C$ は忠実である。$\iota$ が充満であることと、$\mathcal A$ が充満部分圏であることは同値である。
  2. 関手 $F\colon\mathcal B\to\mathcal C$ が充満なら、像の対象の集まり $S=\{Fx\mid x\in\operatorname{Ob}\mathcal B\}$ と像の射全体 $\{Fh\}$ は、ちょうど $S$ の張る充満部分圏 $\mathcal C_S$ をなす。とくに像は部分圏である。
  3. $F$ が充満忠実で、対象の上で単射なら、$F$ は圏の同型 $\mathcal B\cong\mathcal C_S$ を与える。

要点:(i) は包含写像 $\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(x,y)\hookrightarrow\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(x,y)$ の単射性と全射性の言い換えである。(ii) は、像の対象の間の射 $u\colon Fx\to Fy$ が充満性によって $Fh$ の形に書けることから従い、(iii) は対象と $\operatorname{Hom}$ の上の逆写像が関手になることを確かめればよい。

詳しい証明を開く

(i):$\iota$ が $\operatorname{Hom}$ 集合に誘導する写像は包含なので単射であり、それが全射であることは $\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(x,y)=\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(x,y)$ と同じである。

(ii):像の射 $Fh$($h\colon x\to y$)は $Fx$ から $Fy$ への射なので、$S$ の対象の間の射である。逆に $c,d\in S$ と射 $u\colon c\to d$ をとる。$c=Fx$、$d=Fy$ となる $x,y$ を $1$ つずつ選ぶと、$F$ は充満なので $u=Fh$ となる $h\colon x\to y$ がある。よって $S$ の対象の間の射はすべて像の射であり、像の射の全体は $\mathcal C_S$ の射の全体に等しい。$\mathcal C_S$ は部分圏なので、像も合成と恒等射で閉じている。

(iii):(ii) により $F$ は関手 $\mathcal B\to\mathcal C_S$ を与え、これは対象の上で全単射(仮定と $S$ の定義)、各 $\operatorname{Hom}$ 集合の上で全単射(充満忠実性と $\operatorname{Hom}_{\mathcal C_S}=\operatorname{Hom}_{\mathcal C}$)である。対象の逆写像と $\operatorname{Hom}$ ごとの逆写像を合わせたものを $G$ とする。$G(v)\circ G(u)$ の $F$ による像は $v\circ u$ なので、$F$ の単射性から $G(v)\circ G(u)=G(v\circ u)$ であり、恒等射についても同様である。したがって $G$ は関手で、$GF$、$FG$ は恒等関手である。$\blacksquare$

(i) は 充満忠実関手 の例「充満部分圏の包含関手」の内容であり、(iii) は「充満忠実で対象の上で単射な関手は、定義域を充満部分圏とみなす」という言い方の根拠である(Rie16 Remark 1.5.8)。
(ii) で「充満」の仮定は外せない。一般の関手の像は、合成で閉じているとは限らない。

像が部分圏にならない関手

$\mathcal B$ を、対象 $a,b,c,d$ と恒等射以外の射 $f\colon a\to b$、$g\colon c\to d$ だけをもつ圏とする。$\mathcal C$ を順序集合 $0<1<2$ を圏とみなしたもの($i\leq j$ のとき $i\to j$ の射がただ $1$ つある圏)とし、$F(a)=0$、$F(b)=F(c)=1$、$F(d)=2$ で関手 $F$ を定める。像の射は恒等射と $Ff\colon0\to1$、$Fg\colon1\to2$ だけで、合成 $Fg\circ Ff\colon0\to2$ は像に入らない。したがって像は部分圏でない。$F$ は充満でない($\operatorname{Hom}_{\mathcal B}(a,d)=\emptyset$ だが $\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(0,2)$ は $1$ 元)ので、prop-full-subcategory-inclusion の条件 (ii) に反しない。

同型の反映と同型で閉じること

充満部分圏は同型を反映する

$\mathcal A$ を $\mathcal C$ の充満部分圏とする。$\mathcal A$ の射 $f\colon x\to y$ について、$f$ が $\mathcal A$ で同型射であることと、$\mathcal C$ で同型射であることは同値である。とくに $x,y\in\operatorname{Ob}\mathcal A$ が $\mathcal C$ で同型なら、$\mathcal A$ でも同型である。

$f$ が $\mathcal A$ で逆射 $g$ をもてば、同じ $g$ が $\mathcal C$ での逆射である。逆に $f$ が $\mathcal C$ で逆射 $g\colon y\to x$ をもつとする。$\mathcal A$ は充満なので $g\in\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(y,x)=\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(y,x)$ であり、$g\circ f=\mathrm{id}_x$、$f\circ g=\mathrm{id}_y$ は $\mathcal A$ の等式でもあるので、$f$ は $\mathcal A$ で同型射である。後半:$\mathcal C$ での同型射 $f\colon x\to y$ は充満性から $\mathcal A$ の射であり、前半により $\mathcal A$ で同型射である。$\blacksquare$

これは 充満忠実関手 の命題「充満忠実関手は同型射を反映する」を包含関手に当てはめた場合でもある。充満でない部分圏では成り立たない。

同型射の逆射を含まない部分圏

$\mathbf{Vect}_K$ の $2$ つの対象 $V\neq W$ と線形同型 $f\colon V\to W$ をとり、対象 $V,W$、射 $\mathrm{id}_V,\mathrm{id}_W,f$ だけからなる部分圏 $\mathcal A$ を考える(合成で閉じていることは、恒等射でない射が $f$ だけであることから分かる)。$f$ は $\mathbf{Vect}_K$ では同型射だが、$\mathcal A$ には $W$ から $V$ への射がないので、$\mathcal A$ では同型射でない。$\mathcal A$ は部分圏の条件を満たすが充満でなく、「$\mathcal C$ で同型なら $\mathcal A$ で同型」という含意が成り立たない。

同型で閉じているかどうかは、対象の選び方の問題である。ex-full-subcategory-kn の $\mathcal K$ は充満だが同型で閉じていない。同型で閉じていない充満部分圏 $\mathcal A$ に対し、$\mathcal A$ のどれかの対象と同型な $\mathcal C$ の対象全体が張る充満部分圏を考えると、$\mathcal A$ を含む最小の同型で閉じた充満部分圏が得られる。これは次の節の本質的像の特別な場合である。

圏同値との関係

代表を含む充満部分圏

充満部分圏の包含が圏同値になるのは、対象が「同型を除いて」すべて足りているときである。

代表を含む充満部分圏の包含は圏同値である

選択公理を仮定する($\mathcal C$ が大きい圏なら、対象のクラスについての選択を仮定する)。$\mathcal A$ を $\mathcal C$ の充満部分圏とし、$\mathcal C$ のどの対象も $\mathcal A$ のある対象と同型であるとする。このとき関手 $R\colon\mathcal C\to\mathcal A$ と自然同型 $\varphi\colon\mathrm{id}_{\mathcal C}\Rightarrow\iota\circ R$ で、$R\circ\iota=\mathrm{id}_{\mathcal A}$ かつ $\mathcal A$ の対象 $a$ で $\varphi_a=\mathrm{id}_a$ となるものがある。とくに包含 $\iota\colon\mathcal A\to\mathcal C$ は圏同値である。

各対象 $c\in\operatorname{Ob}\mathcal C$ に対し、$\mathcal A$ の対象 $Rc$ と $\mathcal C$ の同型射 $\varphi_c\colon c\to Rc$ を選ぶ。ただし $c\in\operatorname{Ob}\mathcal A$ のときは $Rc=c$、$\varphi_c=\mathrm{id}_c$ と選ぶ(仮定から、それ以外の $c$ にも選択肢がある)。射 $f\colon c\to c'$ に対し
$$ Rf=\varphi_{c'}\circ f\circ\varphi_c^{-1}\colon Rc\to Rc' $$
と定める。これは $\mathcal C$ の射で、両端が $\mathcal A$ の対象なので、$\mathcal A$ が充満であることから $\mathcal A$ の射である。
$R$ は関手である:$R(\mathrm{id}_c)=\varphi_c\varphi_c^{-1}=\mathrm{id}_{Rc}$、$f\colon c\to c'$、$g\colon c'\to c''$ に対し $Rg\circ Rf=\varphi_{c''}g\varphi_{c'}^{-1}\varphi_{c'}f\varphi_c^{-1}=\varphi_{c''}(g\circ f)\varphi_c^{-1}=R(g\circ f)$ である。$\mathcal A$ の対象と射については $\varphi$ が恒等射なので $R\circ\iota=\mathrm{id}_{\mathcal A}$ である。$Rf$ の定義式を書き直すと $\varphi_{c'}\circ f=Rf\circ\varphi_c$ となり、これは $\varphi$ が $\mathrm{id}_{\mathcal C}$ から $\iota\circ R$ への自然変換であることを表す。各成分は同型射なので $\varphi$ は自然同型である。
したがって $R$ は $\iota$ の擬逆関手であり、$\mathrm{id}_{\mathcal A}=R\circ\iota$ と $\varphi^{-1}\colon\iota\circ R\Rightarrow\mathrm{id}_{\mathcal C}$ が圏同値の $2$ つの自然同型を与える。$\blacksquare$

証明の中の自然性は、次の図式の可換性である。
$$ \xymatrix{ c \ar[r]^{f} \ar[d]_{\varphi_c}^{\cong} & c' \ar[d]^{\varphi_{c'}}_{\cong} \\ Rc \ar[r]_{Rf} & Rc' } $$
すなわち $\varphi_{c'}\circ f=Rf\circ\varphi_c$ である。$R$ は、同型を使って各対象を代表へ運び、射をそれに合わせて取り替える関手である。ex-full-subcategory-kn の $\mathcal K$ に当てはめると、各有限次元ベクトル空間に基底を $1$ つ選ぶことが同型 $\varphi_V\colon V\to K^{\dim V}$ を選ぶことにあたり、$R$ は線形写像をその基底に関する表現行列へ送る関手になる。こうして行列の圏と有限次元ベクトル空間の圏が同値になる(Rie16 Example 1.5.12)。

骨格

骨格的な圏、骨格

圏 $\mathcal C$ が骨格的(skeletal)であるとは、同型な $2$ つの対象がつねに等しいことをいう。$\mathcal C$ の各同型類から対象をちょうど $1$ つずつ選び、それらの張る充満部分圏を $\mathcal C$ の骨格(skeleton)といい、$\operatorname{sk}\mathcal C$ と書く。

骨格は元の圏と同値である

選択公理を仮定する(大きな圏では対象のクラスについての選択を仮定する)。どの圏 $\mathcal C$ も骨格 $\mathcal S$ をもち、$\mathcal S$ は骨格的で、包含 $\mathcal S\to\mathcal C$ は圏同値である。

各同型類から $1$ つずつ対象を選ぶことが選択公理で可能であり、それらの張る充満部分圏を $\mathcal S$ とする。$\mathcal S$ の $2$ つの対象が $\mathcal S$ で同型なら $\mathcal C$ でも同型なので、同じ同型類から選ばれたものであり、等しい。よって $\mathcal S$ は骨格的である。$\mathcal C$ のどの対象も自分の同型類の代表と同型なので、prop-full-subcategory-representatives により包含は圏同値である。$\blacksquare$

有限集合の圏の骨格は $\{0,1,\ldots,n-1\}$($n\in\mathbb N$)の張る充満部分圏であり(圏同値 の例「有限集合の代表を選ぶ」)、$\mathbf{Vect}_K^{\mathrm{fd}}$ の骨格は $\mathcal K$ である。骨格は代表の選び方によるが、同型を除いて一意である。

骨格的な圏の間の圏同値は同型である

$\mathcal S,\mathcal T$ を骨格的な圏とする。圏同値 $F\colon\mathcal S\to\mathcal T$ は圏の同型である。したがって $2$ つの圏が圏同値であることと、それらの骨格が圏として同型であることは同値である。

要点:圏同値は充満忠実かつ本質的全射であり、骨格的な圏では「同型」が「等しい」に置き換わるので、$F$ は対象の上で全単射になる。対象の上で全単射な充満忠実関手は圏の同型である。

詳しい証明を開く

圏同値 の命題「圏同値の必要条件」により、$F$ は充満忠実かつ本質的全射である。対象の上で単射であること:$Fx=Fy$ なら $Fx\cong Fy$ なので、充満忠実関手 の命題「充満忠実関手は同型類上単射である」により $x\cong y$ であり、$\mathcal S$ が骨格的なので $x=y$ である。対象の上で全射であること:$t\in\operatorname{Ob}\mathcal T$ に対し本質的全射性から $t\cong Fs$ となる $s$ があり、$\mathcal T$ が骨格的なので $t=Fs$ である。よって $F$ は対象の上で全単射な充満忠実関手であり、prop-full-subcategory-inclusion の条件 (iii)($\mathcal C_S=\mathcal T$ の場合)により圏の同型である。

後半:$\mathcal C\simeq\mathcal D$ なら、cor-full-subcategory-skeleton と、圏同値が同値関係であることにより、骨格の間に圏同値 $\operatorname{sk}\mathcal C\simeq\mathcal C\simeq\mathcal D\simeq\operatorname{sk}\mathcal D$ があり、前半によりそれは同型である。逆に骨格が同型なら、同じ連鎖を逆にたどって $\mathcal C\simeq\mathcal D$ である。$\blacksquare$

ここで圏同値の合成が圏同値であること(擬逆関手と自然同型を合成すればよい。Rie16 Lemma 1.5.5)を使った。この命題と「骨格は同型を除いて一意」という結論は Rie16 Remark 1.5.17 の後の段落にある。

本質的像

本質的像

関手 $F\colon\mathcal C\to\mathcal D$ の本質的像(essential image)とは、ある $c\in\operatorname{Ob}\mathcal C$ について $Fc$ と同型な $\mathcal D$ の対象全体の張る充満部分圏である。

本質的像は定義から同型で閉じた充満部分圏である(同型の合成は同型)。prop-full-subcategory-inclusion の (ii) の像(対象 $Fc$ そのものの張る充満部分圏)と違い、同型な対象をすべて含む。

充満忠実関手は本質的像との圏同値を与える

選択公理を仮定する。$F\colon\mathcal C\to\mathcal D$ が充満忠実なら、$F$ は本質的像 $\mathcal E$ への関手 $F'\colon\mathcal C\to\mathcal E$ と包含 $\iota\colon\mathcal E\to\mathcal D$ の合成 $F=\iota\circ F'$ に分解し、$F'$ は圏同値である。

$Fc$ は $\mathcal E$ の対象なので、$F'$ を $F$ と同じ対応で定めれば関手 $\mathcal C\to\mathcal E$ であり、$F=\iota\circ F'$ となる。$\mathcal E$ は充満部分圏なので $\operatorname{Hom}_{\mathcal E}(Fc,Fc')=\operatorname{Hom}_{\mathcal D}(Fc,Fc')$ であり、$F'$ も充満忠実である。$\mathcal E$ の対象はある $Fc$ と同型なので、$F'$ は本質的全射である。充満忠実関手 の命題「圏同値の特徴づけ」により $F'$ は圏同値である。$\blacksquare$

$$ \xymatrix{ \mathcal C \ar[rr]^{F} \ar[dr]_{F'}^{\simeq} & & \mathcal D \\ & \mathcal E \ar@{^{(}->}[ur]_{\iota} & } $$
図式の等式は $F=\iota\circ F'$ であり、充満忠実関手は「本質的像への圏同値」と「同型で閉じた充満部分圏の包含」に分解する。
この命題は Rie16 Example 1.5.11 にあり、「充満忠実関手 $\mathcal C\to\mathcal D$ があれば、$\mathcal C$ を $\mathcal D$ の充満部分圏とみなしてよい」という言い方の正確な意味である。典型例は米田の補題から得られる米田埋め込みで、局所的に小さな圏 $\mathcal C$ は、前層の圏 $[\mathcal C^{\mathrm{op}},\mathbf{Set}]$ の中で表現可能関手 $\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(-,c)$ の張る充満部分圏と同型になる(Rie16 Corollary 2.2.8 の直前の段落)。

極限と余極限

充満部分圏の中で極限(圏論)を考えると、もとの圏の極限との関係は片方向にしか成り立たない。

頂点が部分圏に入る極限

$\mathcal A$ を $\mathcal C$ の充満部分圏、$D\colon I\to\mathcal A$ を図式とする。$\iota\circ D$ の $\mathcal C$ での極限錐 $(L,(\lambda_i\colon L\to Di)_{i})$ があり、頂点 $L$ が $\mathcal A$ の対象なら、同じ $(L,(\lambda_i)_i)$ は $D$ の $\mathcal A$ での極限錐である。余極限についても同様である。

$L$ と $Di$ は $\mathcal A$ の対象なので、充満性から $\lambda_i$ は $\mathcal A$ の射であり、錐の等式 $D(u)\circ\lambda_i=\lambda_j$($u\colon i\to j$)は $\mathcal A$ でも成り立つ。よって $(L,\lambda)$ は $\mathcal A$ の錐である。$\mathcal A$ の任意の錐 $(M,(\mu_i)_i)$ は $\mathcal C$ の錐でもあるので、$\lambda_i\circ v=\mu_i$ となる $\mathcal C$ の射 $v\colon M\to L$ がただ $1$ つある。$v$ は $\mathcal A$ の対象の間の射なので $\mathcal A$ の射であり、同じ条件を満たす $\mathcal A$ の射は $\mathcal C$ の射としても一意なので、$v$ は $\mathcal A$ の中でもただ $1$ つである。余極限は $\mathcal C^{\mathrm{op}}$ に同じ議論を当てはめればよい。$\blacksquare$

逆向き、つまり「$\mathcal A$ での極限は $\mathcal C$ でも極限である」は成り立たない。$\mathcal C$ の極限の頂点が $\mathcal A$ に入らないとき、$\mathcal A$ は別の対象を極限としてもつことも、極限をもたないこともある。

アーベル群の余積と群の余積

$\mathbf{Ab}$ での $\mathbb Z$ と $\mathbb Z$ の余積(圏論)は直和 $\mathbb Z\oplus\mathbb Z$ であり、$\mathbf{Grp}$ での余積は自由積 $\mathbb Z*\mathbb Z$、つまり $2$ 元 $a,b$ 上の自由群である。$\mathbb Z*\mathbb Z$ では $ab\neq ba$ なので可換でなく、$\mathbf{Ab}$ に入らない。$\mathbb Z\oplus\mathbb Z$ は可換なので、$\mathbf{Grp}$ で両者は同型でない。したがって $\mathbf{Ab}$ の余積 $\mathbb Z\oplus\mathbb Z$ は $\mathbf{Grp}$ の余積ではなく、包含 $\mathbf{Ab}\to\mathbf{Grp}$ は余積を保たない。この場合、$\mathbf{Grp}$ の余積の頂点が $\mathbf{Ab}$ に入らないので、prop-full-subcategory-limits の仮定が満たされない。

体の圏には積がない

可換環と単位元を保つ環準同型の圏 $\mathbf{CRing}$ の中で、体の張る充満部分圏を $\mathbf{Field}$ とする。$\mathbf{CRing}$ では $\mathbb F_2$ と $\mathbb F_3$ の積(圏論) $\mathbb F_2\times\mathbb F_3$(成分ごとの演算)があり、中国剰余定理により $\mathbb Z/6\mathbb Z$ と同型だが、$(1,0)(0,1)=0$ なので体でない。$\mathbf{Field}$ では $\mathbb F_2$ と $\mathbb F_3$ の積は存在しない。実際、体 $P$ と準同型 $p_1\colon P\to\mathbb F_2$、$p_2\colon P\to\mathbb F_3$ があったとすると、体からの環準同型は単射である(核は $P$ のイデアルで、$1\mapsto1\neq0$ なので $0$ である)。$p_1(2\cdot1_P)=0$ から $2\cdot1_P=0$、$p_2(3\cdot1_P)=0$ から $3\cdot1_P=0$ となり、$1_P=3\cdot1_P-2\cdot1_P=0$ が体の条件 $1\neq0$ に反する。つまり $\mathbb F_2$ と $\mathbb F_3$ へ同時に射をもつ体がなく、錐すら存在しない。

反例のまとめ

外す条件反例成り立たなくなること
充満であること$\mathbf{Ring}\subset\mathbf{Rng}$包含関手が充満忠実である
充満であること対象 $V,W$ と射 $\mathrm{id}_V,\mathrm{id}_W,f$ だけの部分圏同型射を反映する
関手が充満であること$2$ 本の射の圏から $0<1<2$ への関手像が部分圏になる
同型で閉じること$\{K^n\}$ の張る $\mathcal K\subset\mathbf{Vect}_K^{\mathrm{fd}}$同型な対象も含む
極限の頂点が部分圏に入ること$\mathbf{Ab}\subset\mathbf{Grp}$ の余積部分圏の余極限がもとの圏の余極限である
極限の頂点が部分圏に入ること$\mathbf{Field}\subset\mathbf{CRing}$ の $\mathbb F_2\times\mathbb F_3$部分圏に極限が存在する

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関連項目

参考文献

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