局所小圏

同義語:locally small category

概要

局所小圏(locally small category)とは、任意の二対象 $X,Y$ の間の射全体 $\operatorname{Hom}(X,Y)$ が集合になる圏である。対象全体が集合である小圏とは区別され、集合・群・順序集合の圏は局所小だが対象全体は集合にならない。局所小性は反対圏・積圏・圏同値で保たれ、局所小圏では各対象 $X$ が集合値の Hom 関手 $\operatorname{Hom}(X,-)$ を定めるので、Yoneda の補題をそのまま述べられる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 圏, 関手, 集合

局所小圏とは

集合の圏には、すべての集合を対象として考えると集合一つに収まらないほど多くの対象がある。しかし、二つの集合 $A,B$ を固定すれば、$A$ から $B$ への写像全体は集合 $B^A$ になる。この「対象の全体は大きくても、二対象間の射は集合として集められる」という条件を表すのが局所小圏(locally small category)である。圏論の多くの構成では、対象全体を一つの集合にする必要はない一方、各 Hom を集合として扱えることが重要になる(Rie16 Definition 1.1.7)。
この条件を単なる細部として済ませると、$\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(X,Y)$ に集合の操作を施す場面で前提が抜ける。たとえば射を集めた集合から別の集合への写像を作る、Hom を値とする関手を定義する、自然変換を集合として数えるといった議論には大きさの確認が必要である。一方、局所小であることは対象が少ないことを意味せず、Hom の元が有限個という意味でもない。ここでは小圏との区別を明示し、例・保存性・Yoneda の補題へどう接続するかを証明で確かめる。

定義と小圏との違い

圏 $\mathcal C$ の二対象 $X,Y$ の間の射の集まりを $\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(X,Y)$ または $\mathcal C(X,Y)$ と書く。圏の対象や射を集合ではなくクラスとして扱う立場では、この Hom も初めから集合とは限らない。そこで、各組について個別に集合であることを要求する。

局所小圏

圏 $\mathcal C$ が局所小であるとは、任意の二対象 $X,Y$ に対して $\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(X,Y)$ が集合であることをいう。対象全体と射全体が集合である圏を小圏という。

小圏なら、射全体の集合の部分集合として各 Hom が得られるので局所小である。逆は成り立たない。対象の集まりが大きい圏でも、固定した二対象間だけを見れば射を集合にできることがある。「局所」は空間上の近傍を意味しない。各組 $(X,Y)$ ごとの条件であることを示す言葉である。

小圏は局所小圏である

小圏 $\mathcal C$ は局所小である。

射全体から二対象間を切り出す

$\operatorname{Mor}(\mathcal C)$ を射全体の集合とする。$X,Y$ を固定すると $\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(X,Y)$ は、始域が $X$ で終域が $Y$ という条件を満たす射からなる $\operatorname{Mor}(\mathcal C)$ の部分集合である。従って集合である。$X,Y$ が任意なので $\mathcal C$ は局所小である。$\square$

Hom が集合という条件と、その濃度が一様な上限を持つことも異なる。集合の圏では一元集合から集合 $B$ への写像集合は $B$ と同じ濃度であり、$B$ を大きくすれば任意に大きな濃度になる。それでも個々の $B$ に対しては一つの集合であるから局所小性を失わない。「小さい Hom」とは各 Hom が集合だという意味で、すべての Hom が有限、可算、または同じ基数以下だという意味ではない。

集合・群・順序集合の例

集合の圏 $\mathbf{Set}$ で $A,B$ を固定すると、写像全体は
$$ \operatorname{Hom}_{\mathbf{Set}}(A,B) =\{f\subseteq A\times B\mid f\text{ は }A\text{ から }B\text{ への写像}\} $$
である。右辺は冪集合 $\mathcal P(A\times B)$ の部分集合だから集合である。全ての集合を対象とする通常の意味での $\mathbf{Set}$ は小圏ではないが局所小である。対象全体を一つの集合と仮定すると、全ての集合を元に持つ集合があることになり、Russell の背理に至る。定義する宇宙やサイズ規約を固定する必要はあるが、二対象間の射の集合性はこの議論とは別に確かめられる(Rie16 Examples 1.1.3, Definition 1.1.7)。

集合の圏は局所小である

任意の集合 $A,B$ について、集合写像 $A\to B$ 全体は集合である。従って集合の圏は局所小である。

写像を積集合の部分集合として符号化する

写像 $f:A\to B$ のグラフ $\{(a,f(a))\mid a\in A\}$ は $A\times B$ の部分集合である。写像の条件は、各 $a\in A$ に対しちょうど一つの $b\in B$ が $(a,b)$ として含まれることである。グラフの集合は $\mathcal P(A\times B)$ の中でその条件を満たす部分を切り出して得られる。従って $\operatorname{Hom}_{\mathbf{Set}}(A,B)$ は集合である。$\square$

群の圏 $\mathbf{Grp}$ も局所小である。群準同型 $G\to H$ は台集合間の写像のうち、積と単位元を保つものだから、写像集合 $\operatorname{Hom}_{\mathbf{Set}}(UG,UH)$ の部分集合である。加群、環、位相空間についても、対象の台集合が集合で、射が台集合間の写像に条件を課したものである場合は同じ方法が使える。ただし「圏なら必ず台集合がある」と主張しているわけではない。一般の圏の局所小性は、何を射として採用したかに応じて確認する。
順序集合 $(P,\le)$ を圏とみなす場合、$x\to y$ の射は $x\le y$ のとき一つ、それ以外は零個とする。従って各 Hom は一元集合か空集合であり、$P$ が大きなクラスでもこの圏は局所小である。ここでは射が集合写像であることを使っていない。定義の核心は、各二対象間に射を集合個だけ集められることにある。

順序の圏は Hom が高々一元

整数の通常の順序を圏とみなすと $\operatorname{Hom}(m,n)$ は $m\le n$ なら一元集合、そうでなければ空集合である。合成は推移律、恒等射は反射律に対応する。任意の順序類に同じ作り方を用いると、対象の集まりが集合でない場合でも Hom ごとの集合性は変わらない。

Hom が集合でない反例

局所小性は圏の公理だけから出るわけではない。クラスを許す基礎づけのもと、対象を $a,b$ の二つとし、$a$ から $b$ へ向かう相異なる射を真のクラス個だけ置く。ほかの射は二つの恒等射だけとする。$b$ から $a$ への射はない。非恒等射どうしは合成できないので、恒等射との合成を通常どおり定めれば結合律も単位律も満たす。この圏では $\operatorname{Hom}(a,b)$ が真のクラスであり、局所小でない。

二対象でも局所小でない圏

真のクラス $I$ で添字付けた射 $u_i:a\to b$ を置き、$a,b$ の恒等射以外はこれだけにする。$u_i$ の後に非恒等射を合成することも、非恒等射の後に $u_i$ を合成することもできない。従って合成の公理は恒等射を含む場合に帰着する。対象は二つしかないが $\operatorname{Hom}(a,b)=\{u_i\mid i\in I\}$ は集合でない。

この反例は「対象が有限個なら小圏」と思い込む危険も示す。小圏の条件には対象だけでなく射全体が集合であることが要る。もっとも、普通の集合・群・位相空間の圏では上のような巨大な Hom を意図的に用意していない。反例の役割は、局所小という条件が圏の公理から自動的には従わないと明確にすることである。

構成による保存

局所小圏 $\mathcal C$ の反対圏 $\mathcal C^{\mathrm{op}}$ では $\operatorname{Hom}_{\mathcal C^{\mathrm{op}}}(X,Y)=\operatorname{Hom}_{\mathcal C}(Y,X)$ なので、局所小性はそのまま保たれる。$\mathcal C$ の部分圏を作っても、固定した二対象間の射はもとの Hom の部分集合だから局所小である。二つの局所小圏 $\mathcal C,\mathcal D$ の積圏では Hom が $\mathcal C(X,Y)\times\mathcal D(X',Y')$ という二集合の積になり、これも集合である。

反対圏・部分圏・積圏への保存

局所小圏の反対圏と部分圏は局所小である。また二つの局所小圏の積圏は局所小である。

各 Hom を既知の集合から作る

反対圏の $X$ から $Y$ への射は元の $Y$ から $X$ への射そのもので、集合である。部分圏の二対象間の射は元の Hom の部分集合である。積圏の二対象 $(X,X')$ と $(Y,Y')$ の間の射は組 $(f,g)$、ただし $f\in\mathcal C(X,Y)$、$g\in\mathcal D(X',Y')$ であるから二つの集合の直積に一致する。いずれも集合となる。$\square$

圏同値でも局所小性は保たれる。これは、圏同値に伴う充満忠実な関手が Hom の間に全単射を与えるからである。一方、小圏であることは、対象を何個の異なる表示で持つかに左右される。たとえばすべての対象がただ一つの射で互いに同型となる大きな群oidは、一対象一射の小圏と同値でも、対象全体がクラスならそれ自体は小圏でない。小圏と局所小圏を同義語にしてはいけない理由がここにもある。

圏同値による局所小性の保存

$F:\mathcal C\to\mathcal D$ が圏同値で、$\mathcal C$ が局所小なら $\mathcal D$ も局所小である。

対象を同型な像に置き換える

$X,Y\in\mathcal D$ を取る。$F$ は本質的全射なので、ある $A,B\in\mathcal C$ と同型 $X\cong F(A)$、$Y\cong F(B)$ がある。同型との前後合成により $\mathcal D(X,Y)$ は $\mathcal D(F(A),F(B))$ と全単射である。$F$ は充満忠実だから後者は $\mathcal C(A,B)$ と全単射である。$\mathcal C(A,B)$ は集合であり、これと全単射な $\mathcal D(X,Y)$ も集合である。$X,Y$ は任意だから結論が従う。$\square$

関手圏で必要になる条件

小圏 $\mathcal A$ と局所小圏 $\mathcal D$ から、関手 $\mathcal A\to\mathcal D$ と自然変換を集めた関手圏 $[\mathcal A,\mathcal D]$ を考える。二関手 $F,G$ 間の自然変換は、各対象 $a$ に成分 $\eta_a:F(a)\to G(a)$ を選び、自然性の等式を満たすものである。$\mathcal A$ の対象が集合個なら、成分の候補全体は集合個の Hom 集合の積に入る。自然性はその中から条件に合う組を選ぶだけなので、自然変換全体は集合となる。

小さい始域をもつ関手圏は局所小である

$\mathcal A$ が小圏、$\mathcal D$ が局所小圏なら $[\mathcal A,\mathcal D]$ は局所小である。

成分の集合の積に埋め込む

$F,G:\mathcal A\to\mathcal D$ を固定する。自然変換 $\eta:F\Rightarrow G$ は各 $a\in\operatorname{Ob}(\mathcal A)$ の成分 $\eta_a\in\mathcal D(Fa,Ga)$ で一意に決まる。$\operatorname{Ob}(\mathcal A)$ は集合で、各 Hom も集合だから、候補の組全体 $\prod_{a\in\operatorname{Ob}(\mathcal A)}\mathcal D(Fa,Ga)$ は集合である。自然性の等式を満たす組はその部分集合となる。従って二関手間の自然変換全体は集合である。$\square$

始域が大きい場合、集合個の積という前の証明はそのまま使えない。だから「値域が局所小なら関手圏も必ず局所小」とだけ述べるのは危険である。特定の大きな始域では自然変換の数を別の理由で抑えられる場合もあるが、個別の議論が必要になる。この点は、対象を全て集める操作と二対象間の射を集める操作を区別することの応用である(Rie16 Remark 1.7.3)。

Yonedaの補題での役割

$\mathcal C$ が局所小なら、対象 $A$ を固定した対応 $\mathcal C(-,A)$ は集合値の反変関手になる。$X$ へ集合 $\mathcal C(X,A)$ を対応させ、射 $f:Y\to X$ へ前合成 $\mathcal C(X,A)\to\mathcal C(Y,A)$、$g\mapsto gf$ を対応させる。もし Hom が集合でなければ、この表示を通常の $\mathbf{Set}$ を値域とする関手として書けない。局所小性は Yoneda の補題の数式を単に飾る条件ではなく、値域を集合の圏とするための前提である。

Yoneda の評価対応

$\mathcal C$ を局所小圏、$A\in\mathcal C$、$F:\mathcal C^{\mathrm{op}}\to\mathbf{Set}$ を反変関手とする。このとき
$$ \operatorname{Nat}(\mathcal C(-,A),F)\cong F(A) $$
という全単射がある。左辺の自然変換 $\eta$ は $\eta_A(\mathrm{id}_A)$ に対応する(Rie16 Theorem 2.2.4 の双対、Exercise 2.2.i)。

恒等射での値から全成分を復元する

$\eta:\mathcal C(-,A)\Rightarrow F$ とし、$x=\eta_A(\mathrm{id}_A)\in F(A)$ と置く。射 $f:X\to A$ に対する自然性から $\eta_X(f)=F(f)(x)$ が従う。従って $\eta$ は $x$ で一意に決まる。逆に $x\in F(A)$ から、各 $X$ と $f:X\to A$ に $\eta_X(f)=F(f)(x)$ を定める。$u:Y\to X$ について $F(u)(\eta_X(f))=F(u)F(f)(x)=F(fu)(x)=\eta_Y(fu)$ だから自然性が成り立つ。二つの対応は互いに逆である。$\square$

Yoneda の補題は、任意の二対象を結ぶ Hom が集合であるという局所的な条件から、圏の対象を集合値関手によって調べる道を開く。圏全体の対象を先に一つの集合へ押し込む必要はない。ただし、関手圏の自然変換全体が集合になるかは前節のように別途注意が必要である。表現可能関手同士の自然変換は Yoneda の評価対応で一つの Hom と全単射になり、この場合は局所小性から集合だと分かる。
ここからさらに、対象をその表現可能前層へ送る Yoneda 埋め込みを得る。$A\mapsto\mathcal C(-,A)$ とし、$u:A\to B$ に対して、各 $X$ で $f:X\to A$ を $uf:X\to B$ に送る自然変換を対応させる。この対応は恒等射と合成を保つ。見た目には、圏の対象を「その対象へ入る全ての射」を記録した集合値関手へ置き換えている。局所小性がないと各 $X$ で集めた射が集合値にならないため、この通常の前層圏への埋め込みを同じ形で書けない。

表現可能前層への埋め込みは充満忠実

局所小圏 $\mathcal C$ で任意の $A,B$ に対し、射 $u:A\to B$ を後合成による自然変換 $\mathcal C(-,A)\Rightarrow\mathcal C(-,B)$ に送る写像は全単射である。

Yoneda の評価をもう一度用いる

前の命題に $F=\mathcal C(-,B)$ を入れると、自然変換全体は $F(A)=\mathcal C(A,B)$ と全単射になる。射 $u:A\to B$ に対応する自然変換の $A$ における恒等射の像は $u\circ\mathrm{id}_A=u$ である。従ってこの全単射はまさに $u$ を後合成へ送る写像の逆を与え、その写像は単射かつ全射である。$\square$

この命題は、対象だけではなく射まで表現可能前層から復元できるという意味で強い。ただし、$\mathcal C$ が大きいと前層圏の任意の二関手の間の自然変換が集合になるとは限らない。埋め込みの像にある二つの表現可能前層については、その自然変換が $\mathcal C(A,B)$ と全単射になるので集合である。関手圏全体のサイズ問題を、Yoneda 埋め込みが一挙に消すわけではない。この限定を意識すれば、局所小圏と大きな前層圏を混同せずに使える(Rie16 Corollary 2.2.8)。

サイズを読む際の注意

数学書では「集合」「クラス」「宇宙」のどれを基礎に採るかで「小さい」の境界を定める。ある宇宙に属する集合だけを小さい集合とするなら、圏を一段大きな宇宙で見ることもある。そのため、厳密な比較には採用したサイズ規約を固定する必要がある。本記事では通常の集合と真のクラスを区別し、「局所小」は各 Hom がその規約で集合となることを意味する。具体的な構成では、必要な Hom を集合にできる理由を示すのが安全である。
局所小性だけでは、極限・余極限の存在、圏の完備性、射の集合が空でないこと、対象が同型であることは従わない。$\mathbf{Set}$ は局所小だが二つの集合間に写像がない場合があり、一般の局所小圏には指定した図式の極限が存在するとは限らない。逆に Hom が大きい圏でも圏の公理そのものは述べられる。どの定理が局所小性を必要とするかを、証明中で Hom を集合として使う箇所から見分けることが大切である。

参照箇所

Rie16 Examples 1.1.3 と Definition 1.1.7 は圏の例と局所小圏の定義、§1.7(特に Remark 1.7.3)は圏・関手圏のサイズ、Theorem 2.2.4 の双対と Exercise 2.2.i は反変 Yoneda の評価対応、Corollary 2.2.8 は Yoneda 埋め込みを扱う。Mac98 Chapter I は圏・関手と Hom の基礎を述べる。

関連項目

参考文献

[1]
Emily Riehl, Category Theory in Context, Aurora: Dover Modern Math Originals, Dover Publications, 2016, Examples 1.1.3 and Definition 1.1.7; §1.7, especially Remark 1.7.3; dual of Theorem 2.2.4 and Exercise 2.2.i; Corollary 2.2.8.
[2]
Saunders Mac Lane, Categories for the Working Mathematician, Graduate Texts in Mathematics 5, Springer, 1998, Chapter I, Categories, Functors, and Natural Transformations, pp. 7–30.

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